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2024年1月29日月曜日

今年こそ読破したい!紫式部の人生と並行して読める帚木ワールドの『源氏物語』 ~帚木蓬生『香子(かおるこ)(一)紫式部物語』(PHP研究所、2023年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらりにようこそお越しくださり、ありがとうございます。
お休み前のひとときに、どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

2024年がスタートして早くも一か月が過ぎようとしています。
今年の日本は元日からショッキングな出来事ばかり起きています。

ああ、今日も一日無事に過ごせました。感謝。
という安堵感で眠りに入れる日常の生活が如何にありがたいことでしょう。
平穏で過ごせる日々が最も幸せなのだと実感させられます。

合わせて、非常時のための危機感と水や食料などの備えが大事だということも再認識しないといけませんね。
あなたはいかがお過ごしでしょうか。

世の中はAIなどの新しい技術を導入する時代に既に入っています。
コスパ重視の世の中、スピードは年々早くなってきています。
しかしながら、敢えて古来から受け継がれている普遍的な事柄に注目したい、という欲求がわいてくるのは生身の人間だからでしょうか。

今年のNHKの大河ドラマは『光る君へ』ですね。
凛も毎週楽しんで視聴しています。
あなたはご覧になられてますか。

主演の吉高由里子(よしたか ゆりこ)さんが後の紫式部こと「まひろ」を演じておられます。
まひろさんはどのような経緯で『源氏物語』を執筆するようになるのでしょうか。
彼女の背景でうごめく公家政治の権力とは……。
テレビドラマですので、日本史の教科書で学んだ内容とは若干異なる部分もあるでしょう。
ひとつの娯楽作品として楽しみたいですね~ (^-^)

『源氏物語』全五十四帖。
あなたは読まれましたか。
実のところ凛は最後まで読んでおりません……。(^^;
凛はこれまで谷崎潤一郎(たにざき じゅんいちろう)訳、瀬戸内寂聴(せとうち じゃくちょう)訳、林望(はやし のぞむ)訳に挑戦してきましたが、いずれも途中までの断念組です。
これは現代語に訳された先生方の問題では決してありません。
誤解なきよう、あくまで凛個人の問題なのです。

他にも関連の解説書やガイド本など何冊も蔵書として保管しています。
とは名ばかりで、所謂万年積ん読状態ですね……。(^▽^;)

紫式部はどんなことを考えて人生をおくったのでしょうか。
『源氏物語』はどのようにして書かれたのでしょうか。
作中に出てくる和歌の内容をもう少し知りたいですね。

このような素朴な疑問を解決できるという、まるごとひとつにまとめられた小説があります。
紫式部の人生と『源氏物語』と和歌の解説などが同時に読める大変ありがたい作品が昨年末に出版されました。
帚木蓬生(ははきぎ ほうせい)氏の大長編小説『香子(かおるこ)(一)紫式部物語』(PHP研究所、2023年)です。
書下ろし作品になります。

タイトルに(一)が付いていることからわかるように、この作品は(五)になるまでの五か月の間、毎月連続して出版していくというPHP研究所の一大プロジェクトです。
第一巻は461頁と大変分厚い本ですが、慣れていくうちに気が付けば最後まで一気に読めました。\(^o^)/
漢字にルビがふってありますので読みやすくなっています。

はじめに、凛がこの本を知ったのは某ラジオ番組の本の紹介コーナーを視聴したことによります。
番組に生出演された帚木氏ご本人のお話によりますと、長い間従事されていらした精神科医院のお仕事をご卒業されて、専業の作家になられたとのことでした。

以前にNHKのテレビ番組で帚木氏を拝見した時は落ち着いた話し方の先生といった印象でしたが、ラジオのお声からは非常に明るく快活な方で、この作品への強い情熱が伝わり、新たな帚木ワールドを堪能できるなと思った凛でした。
本は市内の中心街の書店で購入しました。

そもそも「帚木蓬生」というペンネームからもわかることですが、「帚木」は『源氏物語』第二帖の「ははきぎ」、「蓬生」は第十五帖の「よもぎう」から構成されています。
帚木氏『源氏物語』に対する強い意志が伝わりますね!

次に、帯や表紙についてです。
一番目は、帯についてです。
凛が持っている本は、2023年12月26日刊行の初版本です。

表表紙側には、「千年読み継がれる物語は、かくして生まれた」と白地に赤い文字で目立つように書いてあります。
表表紙側の左下には、赤い枠に中に白字で「大河ドラマの主人公・紫式部(香子)の生涯×『源氏物語』」と書いてあり、大河ドラマ放映と同時期の刊行ということで、非常に期待感がわきますね~

帯の裏表紙側には、「五ヵ月連続刊行!」の下に、第一巻から第五巻まで簡単な説明文が紹介されています。
第一巻のところをご紹介いたしましょう。
「香子の物語」では、「父とともに越前へ、そして物語を書き始め……」と黒字で書いてあります。
その右の『源氏物語』では、「桐壺~末摘花の帖」(以上、同書)と赤い字で書いてあり、第一巻は六帖まで読めるのだなと識別できるようになっています。


二番目は、表紙についてです。
表表紙は、紫式部の上半身が描かれています。
裏表紙は、文机の前に座っている紫式部が描かれており、『源氏物語の有名な冒頭文「いづれの御時にか、……(中略)すぐれてときめき給ふ有りけり。」という文字が書いてあります。
表表紙、裏表紙とも格調高い仕上がりになっています。

装丁は、芦澤泰偉(あしざわ たいい)氏です。
装画は、大竹彩奈(おおたけ あやな)氏です。

それでは、内容に入ります。
作品の第一巻は、第一章の「香子(かおるこ)から第十五章の「懸想文(けそうぶみ)」までが収録されています。
凛が注目した四点について挙げます。

一点目は、「香子」という名前についてです。
第一章の始まりで、香子は当初は「きょうし」「きょうこ」と呼ばれていたところが、8歳の春に、父君の藤原為時(ふじわらの ためとき)から今後は「かおるこ」と呼ぶと決めたことを告げられました。
亡き実母が命名した「香子」。
これまで改まった席においては「きょうし」で、身内の間では「きょうこ」と呼ばれていました。

香子は、呼び名を替えることになった理由を父君に尋ねます。
父君は、「そなたの資質は、誰が見ても、他より抜きん出ている。」(第一巻初版本、5頁)と言って、香子の素晴らしい資質を認めています。
その上で、「そして誰もが認める、ひとかどの人物になる。その資質が薫(かお)るからだ。ちょうど、今匂ってくる紅梅(こうばい)のようにな」と。(同、5頁)
香子はまだ8歳なので深い意味はわからない様子でしたが、父君から高い資質を認められたことは彼女の生涯の自信につながったと捉えることができます。

二点目は、血縁と文学についてです。
歌人としては、香子の父方の曽祖父である藤原兼輔(ふじわらの かねすけ)がいます。
兼輔は中納言の位に出世し、醍醐(だいご)天皇の後宮に娘の桑子(くわこ)を入内させ、章明(のりあきら)親王をもうけさせます。
その時の歌が『後撰和歌集』に収められているとして、また、桑子の入内の話が『大和物語』に収められており、さらに歌集の『兼輔集』の存在など、香子はこれらを暗唱するなど繰り返し学んできました。

父方の祖父の藤原雅正(ふじわらの まさただ)や伯父の藤原為頼(ふじわらの ためより)も歌人でした。
香子には幼い頃から、伯父の為頼が所蔵する和書だけでなく、父君が収集していた漢籍など、和漢の多くの書物に触れる機会があったことが第一章に記されています。

第一巻の後の章になりますが、香子が『源氏物語』の執筆の際、父君や母君に読ませて感想を述べてもらいます。
両親が彼女の背中を後押ししてくれたことは創作の自信につながったことでしょう。
特に、母親が積極的に感想を述べてくれることが印象深いです。
このように幼い頃から文学を嗜む家庭環境から、香子の執筆に対する意欲が増したことは大きいですね。

また、『蜻蛉日記』との関係があります。
『蜻蛉日記』の作者は、藤原道綱(ふじわらの みちつな)の母です。
第二章「蔵人(くろうど)」では、香子の祖母から『蜻蛉日記』の作者が、香子の実母の父の藤原為信(ふじわらの ためのぶ)の兄である藤原為雅(ふじわらの ためまさ)の正妻の姉にあたる女性であることを再度言われます。
要は遠い親族が女流文学の先駆者で、日記文学の作者であったことは、香子にとって「書くこと」を意識した存在であったであろうと読者に知らしめています。

三点目は、死生観です。
香子は第一巻目から身内の死に遭遇しています。
生母、姉君の朝子(あさこ)、最初の結婚をした平維敏(たいらの ただとし)との死別があります。
自分を守ってくれ、愛してくれた人との別れは辛いものです。

「誠に人の世は、野分(のわけ)や雲、雨と同じで、人の手ではどうにも動かせない。その摂理(せつり)の下(もと)で、翻弄(ほんろう)され続けるのだ。」(同、230頁)
香子はこの世のはかなさ、無常観を体験し、やるせなさを感じたのではないでしょうか。

四点目は、帚木蓬生訳の『源氏物語』についてです。
まずは、素朴な疑問点をあげましょう。

何故に香子は『源氏物語』を執筆することになったのでしょうか。
香子は何の文学作品を手本にしたのでしょうか。
香子の執筆する過程を知りたいですね。

などの疑問点が読者には持つ方も多いかと思います。
これらについては、第十一章の「起筆」前後で読者は捉えていくことでしょう。
あなたが読まれてからのお楽しみに!(^^)/

帚木蓬生氏の訳の特徴として、気づいた点が二つあります。

一つ目は、主語が明確に書かれていることです。
凛は学生時代に『源氏物語』の長い一文の中で「主語を示しなさい」と設問に出てきたことを思い出しますねえ。
『源氏物語』は主語が省略されている文が多いため、主語が明確であると理解が深まりますね。

二つ目は、和歌の説明が本文中に簡潔にされていることです。
例えば、第十二章「雨夜の品定め」には、『源氏物語』第二帖の「帚木の訳が掲載されていますが、光源氏が小君に託した歌

「帚木(ははきぎ)の心を知らでその原の
   道にあやなくまどいぬるかな」(同、293頁)

の後に、あらかじめ歌の意味を現代語で説明した後で、
『古今和歌六帖』の、園原や伏屋(ふせや)に生(お)うる帚木の ありとてゆけどあわぬ君かな、を下敷きにし、」(同、同293頁)
と、女君が返歌するまでの経緯が丁寧に書いてあります。

このように和歌の一首ずつに説明書きが訳の本文中に書いてありますので、本文に解説書が合体したような感覚で読者は自然な形で読み進むことができるのです。
凛は和歌の嗜みがありませんので、これは大いに助かりますね。(^O^)

帚木蓬生氏については、凛のりんりんらいぶらり~で2020年7月14日付「日本の文字の始まりを知る」の項で『日御子(ひみこ)上・下巻』(講談社文庫、2014年)(ココ)に掲載していますので、こちらの項では割愛させていただきます。

最後に。
帚木蓬生氏の作品『香子(一)紫式部物語』は、紫式部の生涯を描いた物語と、『源氏物語』の現代語訳と、和歌の解説が合体した大長編小説を一度に読めるという楽しみ方ができます。
PHP研究所から、2023年12月26日発刊の第一巻から第五巻まで、毎月一巻ずつ発刊されるという一大プロジェクトです。
NHKの大河ドラマ『光る君へ』と並行して読むと、歴史文学としても理解が深まるというものでしょう。

『源氏物語』をまだ読まれていないあなた、どうしようかなと迷っているあなた、凛のように途中までのあなた、是非この機会にお気軽にトライしてみませんか。
会話文など現代の話し方と同じように表現されていますので肩こりしませんよ。

第十三章「越前の春」では、香子の弟の惟通(これみち)の名前の一字違いで、『源氏物語』光源氏の従者を惟光(これみつ)と設定した点について、香子の母君から指摘されたことが書いてあります。
「図星だった。書いていて、咄嗟に浮かんだ名前が惟光だった。」(同、354頁)
そうだったのかあと、あらためて紫式部の家族に対する温かい情愛が伝わってほのぼのとしました。
この後に展開する物語もきっと新しい発見があるだろうな、と期待感でいっぱいになった凛でした。

第二巻の刊行ももうすぐです。
大変楽しみにしています!
今年こそ『源氏物語』を読破します!\(^o^)/

今夜もあなたにおすすめの一冊でした。(^-^)

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PHP研究所-2023/12/13帚木蓬生(著)
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2023年5月25日木曜日

いっぱい胸キュンしたいあなたへ ~山本文緒『自転しながら公転する』(新潮社、2020年、のち新潮文庫、2022年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

日本では爽やかな初夏からだんだんと夏が近づいてきています。
地域のお祭りやイベントなどが久しぶりに再開され、賑わいをみせています。
街には楽しみが待っていますねえ。\(^o^)/

ところで、5月の大型連休の後、7月17日の海の日までは祝日がありません……。(^^;
しばらくの間、大半の方々にはお仕事や学校生活など通常通りの日々が続きます。
凛には日々のルーティンが変わらないほうが読書の計画が立てやすくて良いかなあ、とポジティブに捉えています。
あなたはいかがですか。

小説には様々なジャンルがありますが、凛は恋愛小説は好きですね~
こんな恋愛をしてみたいなあ、このような出会いがあると毎日がドキドキして素敵だろうなあ、な~んてね。(^_-)-☆

「うーん、何だかねえ、他人の恋愛なんか気にしてどうするの。パートナーがくっついたり、離れたりしてさ、まどろっこしいことに時間かけていちいち付き合ってられないよぉー」
という方もいらっしゃるでしょう。
いえいえ、文学は疑似体験ができて、自分に置き換えたらどうするかなどと考えることができる最高の脳トレなんですよ~ (^^)v

今回ご紹介いたします小説は、山本文緒(やまもと ふみお)氏の長編小説『自転しながら公転する』(新潮社、2020年、のち新潮文庫、2022年)です。
読後に胸キュンしたいあなたへお贈りいたします。

恋愛小説なので、物語が終わるまでハラハラドキドキするのはもちろんのことです。
それだけでなく、「あら、それって私も同じ境遇なのよ!」と、現代の日本において家庭や職場の問題を抱えながら生きている人々に、直球で共感できることが多い小説といえます。
どなたにも楽しんでいただける小説である、と凛は考えます。

はじめに、凛がこの小説を知ることになったきっかけは、複数の文学系ユーチューバーが「この作品がベストです!」と紹介していたことから、近所の書店で購入しました。

凛はタイトルにとても興味をひかれましたね~
宇宙のお話と恋愛が関係あるのかな?と。
山本文緒氏の作品は以前はよく読んでいましたが、しばらくの間は触れていなかったので、凛には久しぶりの出合いとなりました。

山本氏は2021年10月にご病気のため亡くなられました。
あらためて山本文緒氏のご冥福をお祈りいたします。

次に、帯や表紙についてです。
凛が持っている文庫本は、2022年11月発行の初刊です。

文庫本初版の帯の表表紙側には、「恋愛、仕事、家族のこと。全部がんばるなんて、無理!」と目立つように表記されています。
それだけでも読者に共感を呼ぶ感じがします。

さらに帯には「第16回中央公論文芸賞受賞!」「第27回島清恋愛文学賞受賞!」「2021年本屋大賞ノミネート!」の三つのおめでとう☆彡☆彡☆彡が!!!(同上)\(^o^)/
これだけでものすごい情報量ですね!

表表紙は、写真ですね。
ビルの屋上でしょうか。
茶色い花柄のワンピースらしき姿の女性がフェンスに立っています。
彼女は後ろに沿って顔は空側に向けていますが、目は閉じているようです。
その表情には悩みがあるのか、疲れているように見えます。
彼女がたたずんでいる向こう側にはビルや建物が林立しています。
空には白い雲がありますが、青空も見えています。

表表紙のカバー写真は、コハラタケル氏です。
デザインは、新潮社装幀室です。

裏表紙の説明文によりますと、32歳になる都(みやこ)は母親の看病のために実家に戻り、近くのアウトレットモールでアパレルの契約社員として働いています。
職場ではスタッフとの問題を抱えています。
寿司職人の貫一(かんいち)と付き合いますが、結婚が見えません。

「母の具合は一進一退。正社員になるべき?運命の人は他にいる?」(同書)
なるほど、親の介護、契約社員と正社員、彼女自身の年齢もあり、この先、どうするのか、悩み多き主人公と等身大の方も多いかと察しがつきますね。
「ぐるぐると思い悩む都がたどりついた答えとは──。」(同書)
まだ本文を読んでいない凛も都の答えが知りたくなりました! (^▽^;)

では、内容に入ります。
物語はプロローグから始まります。
文庫本でわずか11ページで、結婚式のシーンが描かれています。(同書、5頁~15頁)

プロローグの「私」(同書、5頁以下多数)は、ベトナム人のパートナーと共に暮らしてゆくという、彼女自身の今後の人生に強い意志を表明しています。
ここでの「私」の強い表明が印象深く読者に刺さります。
これは作者の意図するところでありましょう。
凛は本文を読み進むうちに、何度もプロローグを読み返しました。

当然ですが、本文の最後にエピローグ(同書、635頁~654頁)があります。
凛は読了後にすぐにプロローグに戻り、またエピローグを読み返す行為を数回繰り返しました。
そして、そうだったのか!と大いに納得いたすことになりました。(^O^)

プロローグの後の本文ですが、裏表紙の紹介文で書かれている通り、主人公の与野都(よの みやこ)は郊外のアウトレットモールでアパレルのお店で働いています。
一人娘の都は実家を出て東京のアパレル会社で働いていましたが、母親が重い更年期障害を患ったために、父親からの要請があり、仕事を辞めて実家に戻ってきました。

ある日、同じモール店内にある回転寿司屋さんで働く羽島貫一(はしま かんいち)と出会いました。
「貫一おみやって言ったら金色夜叉じゃん」(同書、72頁)
「金色夜叉ってなんでしたっけ」(同上)
「熱海の海岸を散歩したり、ダイヤモンドに目がくらんだりするアレだよ」(同上)
この時の二人の会話には性格が非常に表れていると思いました。

一見、明治時代に人気を博した尾崎紅葉(おざき こうよう)作の読売新聞連載小説『金色夜叉』(1897年1月1日~1902年5月11日)を素材として扱っているようでもありますが、『金色夜叉』は未完に終わっていることもあり、都と貫一の二人の今後の行方が大変気になる、という伏線が張られているものと考えられます。

この小説には多くの現代の日本人が直面している問題を描いている社会小説としてとらえることができます。
都の前には様々な事柄が立ちはだかります。

第一に、都の家族です。
都は一人娘で、少子高齢化の問題に直面します。
母親の更年期障害、父親の仕事との葛藤など、都と同じ悩みを抱えていらっしゃる方も多いでしょう。
両親の高齢化による介護などの不安な要素が詰まっています。

第二に、都の仕事です。
都はファッションが好きだからこそアパレル会社に携わっています。
東京で活躍を続けていたかったけれども、実家の事情で叶わなかった思いを払拭しなければならない、という気持ちの切り替えが彼女には求められます。
同じ職場に勤務していても、スタッフ各人の立場や立ち位置が異なるため、会社や仕事に対する心構えが違います。
複雑な人間関係にもまれて綻び、彼女には疲れが生じてきます。

第三に、結婚についてです。
都は32歳になるので、自身の今後の人生設計を考えることが求められます。
結婚するのか、否か。
逡巡している彼女には、結論を出さねばならないという時間が迫ってきます。
両親や世間が求める都にふさわしい夫とはどのような男性なのでしょうか。
職業、年収、出自、家族、学歴、年齢、性格……。
貫一は都のことをどのように捉えているのか、いまいち掴めていません。

都の中でこれらの要素が同時にぐるぐると回転してしまうのです。
このような彼女の状態に共感される読者も多いでしょう。
悩める都は優先順位をどのようにつけたらよいのでしょうか。

ある日、ふっと都の前に現れるベトナム人が! 
さて、都はどうなりますか!! (@_@;)

後半は、話がめまぐるしく展開します。
後はあなたが読まれてからのお楽しみに! (^_-)-☆

作者の山本文緒氏は、1999年、小説『恋愛中毒』(角川書店、1998年、のち角川文庫、2002年)で第20回吉川英治文学新人賞を受賞☆彡されました。\(^o^)/
2000年、小説『プラナリア』(文藝春秋、2000年、のち文春文庫、2005年)で第124回直木賞を受賞☆彡☆彡されました。\(^o^)/
多くの作品を刊行されており、多くの読者ファンがいらっしゃいます。

文庫本の解説は、書評家の藤田香織(ふじた かおり)氏です。
解説の最初に書かれていた事柄から、山本文緒氏の作品が久しぶりの刊行だったことに、凛はなるほどと納得しました。
この小説の単行本が発刊されたのが2020年9月なので、前作品から実に7年ぶりの刊行だったということが書かれていました。
そのことから、凛が山本氏の作品を読むのが久しぶりだったのだ、と気づいたわけなのです。

山本氏がすい臓がんで亡くなられたことから、藤田氏山本氏の作品群に対して、冷静に、深く、濃く、見つめていらっしゃいます。
哀切を込めて……。(T_T)

最後に。
この小説は、主人公の都だけでなく、周りの登場人物たちの現実のありのままの姿を丁寧に鋭く抉り出して、臨場感をもって読者にリアル感を持たせます。
また、日本における価値観が必ずしも定位置ではないという点で、読者に向けて「俯瞰して見る」という選択を作者はプレゼントしています。
都に寄り添って読み進んでいくうちに、彼女たちと共に時間と空間を自在に飛びまわっていくことに読者は気づかされます。
読後感は、爽やかさの中に切なさもあり、柔らかく温かい気持ちになれます。

あらためて「読む」という楽しみ方を与えていただいた山本文緒氏に感謝でいっぱいになった凛でした。
もう、新作は出ないのですね。 (T_T)
凛は山本氏の作品群を是非とも再読したいと思いました。
読後の胸キュンと山本文緒氏への感謝で胸が熱くなることは言うまでもありません。

今夜も凛からあなたにおススメの一冊でした。 (^-^)

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2023年3月29日水曜日

「夢」の旅の始まりは屋根からだった

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

春になりました。日本では桜前線が急上昇中です。
あなたはお花見にお出かけされますか。
陽気な春の暖かさの中、どこかへ旅に出かけて行きたくなられる方も多いのではないでしょうか。\(^o^)/

旅に関するエッセイや小説、或いは壮大な冒険の旅の物語は数多くありますが、凛が今回おススメいたします作品は少々異なります。
恋人ではなく分別ある中高年の男女の大人が、互いの夢の中で自由自在に旅を重ねてゆく物語で、純文学の旅はいかがでしょう。(^o^)
もちろんおどろおどろしい幻想小説とも異なりますので、怖い話が苦手な方も安心して楽しんでいただけますよ。

村田喜代子(むらた きよこ)氏の長編小説『屋根屋』(講談社、2014年、のち中公文庫、2022年)です。

凛からあなたへ二つの質問があります。

一つ目の質問です。
あなたのお住まいは戸建てですか。
建て主の意向によって建物の様相は各々で異なりますよね。
屋根ひとつとっても地域によっての異なりもありますし、その時々の流行であったり、業界の流れという影響もあり、また築年数によっても実に様々です。
最近では屋根にソーラーパネルを付けるなど住宅への話題は尽きません。

凛はマンションの中層階に居住しているためか、住宅の屋根に関しては日頃直接関りがなく暮らしています。
凛の親族宅は築年数の古い戸建てが多く、時折訪ねて行くと、夏は二階がものすごく暑くなったり、冬は一階の床が冷えたりします。
また風雨の音も直に気になりますね。
昨今の新しい戸建ては機能的にできているようなので、そのようなことはないかもしれませんね。(^-^)

二つ目の質問です。
あなたは寝ている時に夢を見ますか。
凛も夢は時々見ますが、起きる時には覚えていないことが多いものです。
たまに見た夢を覚えていても、起きて活動しているうちに忘れてしまうことがほとんどです。
人生を変えるほどの夢のお告げなどは、凛にはこれまでご縁がないですね~ (^-^;

今回の小説は、これら「屋根」と「夢」の二つが重なった物語です。
戸建てに住む専業主婦が屋根の修理を依頼した個人で営んでいる業者との何気ない会話の中から、お互いに見る夢の中で待ち合わせをして共に旅を始める、というお話です。

凛が持っている文庫本は、2022年7月25日発刊の初版本です。
凛は以前から村田喜代子氏の大ファンで、今回は街の中心部の駅ビルにある書店で文庫本を購入しました。

まず、文庫本の帯と表紙からご紹介します。
凛の持っている初版本の帯は赤い地色で、表表紙側には「さあ。飛びますか」と大きな文字で書かれています。
「夢を自在に操る屋根屋の永瀬と『私』は夢の中で落ち合い、共に旅を重ねてゆくが……」(同)
なぬなぬ、これは主婦と屋根の修理業者との恋愛、不倫小説なのか?
とちょっと興味をそそられますが。(*^^*)

帯の裏表紙側には、本文からの抜粋で、「眠るということは水深の深い所へ下りていくことに似ている。」(同)
「奥さんと私と、どっちが先に着くかはわかりまっせんが、向こうの屋根で落ち合いまっしょう。」(同)
「夢のドッキングですたい」(同)と。

カバーの裏表紙の解説文には、雨漏りの修理を依頼された永瀬は妻が亡くなった後、夢日記を付け始めたことが紹介されています。
主婦である「私」は永瀬と夢の中で旅を始め、「現実とのあわいの」(同)中の「場所なき場所」(同)で二人の時間を深めていくことになってゆきます。

カバーの表表紙は、大変格調高い絵で、日本画のようです。
二人の人間が一羽の鳥になって飛んでいる姿のように見えます。
それもそのはず、カバー画が江戸末期の狩野一信(かのう かずのぶ)の「五百羅漢図」で、六道・天(部分)、増上寺蔵であると紹介されています。
ひゃあ、お宝のような表紙ですね!\(^o^)/
カバーデザインは、毛利一枝(もうり かずえ)氏です。

カバーの裏表紙には、黒い鳥の羽が1本描かれています。
何やら意味深ですね……。
読後にはその意味がわかる仕掛けになっています。
是非、あなたが読まれてからのお楽しみに。(^-^)

解説は、芥川賞作家の池澤夏樹(いけざわ なつき)氏です。
文学界の重鎮の解説もなるほどと納得できます!(^_^)v

次に、内容に入ります。
専業主婦の「私」は、築18年になる木造二階建の住宅の雨漏りの修理を専門業者「永瀬工務店」に依頼しました。
業者は数あれど、隣町に住んでいる兄の紹介なので「私」や家族には安心感があったのも当然といえます。
「永瀬屋根屋」(文庫版初版、10頁他)は、50代半ばの大柄で、実直そうな職人さんです。

「私」はご主人と長男の三人家族で戸建てに住んでいます。
ご主人は仕事で大変忙しく、ゴルフが好きな会社員で不在がち、身長が180cmに成長した長男は塾通いで部活や勉学の日々を送っています。

家事に勤しんでいる専業主婦にとって、ダイニングキッチンは日常の居場所。
突然雨が降ったので、食卓テーブルで職人さんの休憩にお茶を提供するのはよくある光景でしょう。
「私」は永瀬から専門家としての屋根の話題を提供されます。

さらに、永瀬が妻を亡くして10年経つこと、彼が心に不安を抱えたことや、独立した過去の話などを「私」は彼から聞きます。
これまでの専業主婦として生きてきた日常に対して、静寂だった池の中にピシッと小さな石ころが投げ入れられたような、ほんの少しの変化が生じたことに「私」はまだ気づいていません。
しかし、まだここまでは常識の範囲であると凛は思います。

ところが、ここからが村田氏の物語の世界へと読者を誘ってくれるのです!
永瀬は治療の一環として、医者から「夢日記」を勧められ、毎日付けていることを「私」に話し始めます。
「夢日記?」(同、29頁)と「私」が尋ねます。
「どんなことを書くんですか」(同、30頁)
永瀬の提供する話題に「私」の興味は尽きません。

「屋根の上で彼は人形(ひとがた)の影絵になって動いている。」(同、35頁)
屋根の上で働いている永瀬の姿を表していますが、この一文が物語全体を象徴するのだな、と凛は捉えました。

「私」はフランスの町の屋根に上がっていた夢を見ました。
それには「私」が心にひっかかる何かがあったのかもしれません。
そのことを「私」は永瀬に話します。
永瀬は一気に話さず、徐々に「私」が気になるように夢の旅へと誘ってゆきます……。

いよいよ屋根の修理が終わり、支払いをしますが、その時に「私」と永瀬は夢の話を続けます。
二人には名残惜しさがあったのか、夢についての話題は現実味を帯びてきます。

これは決して「同床異夢」の元の意味ではありません。
永瀬と「私」が夢を見る状態は、互いに別々の住居で眠り、夢の向こうで落ち合って共に旅をしましょう、ということなのです。

「私」と永瀬の夢の話はどんどん飛躍していきます。
日本国内の歴史的建造物の屋根の話からフランスの大聖堂まで。
屋根にまつわる話題だけでなく、とんでもない方向へ進んでゆきますが……。

村田氏の力量は素晴らしいの一言です!(^o^)
物語の面白さを読者に直球で投げてくれます。

「私」とは誰なのか。
永瀬はどうなるのか。
二人には友情が芽生えたのか、若しくは大人の恋愛の対象として意識しているのか。
謎の部分もしっかり残してあるので、読後の余韻もあります。

さらに、屋根や建造物に関する蘊蓄的な要素も網羅されていますので、老若男女どなたにも楽しめる物語です。
文庫本の本文の後に、参考資料と村田氏のメッセージが掲載されています。
そこからは、村田氏のこの作品に対する真摯さが出ていることが大変よく伝わります。

作者の村田喜代子氏は、1977年、小説「水中の声」で第7回九州芸術祭文学賞最優秀作を受賞☆彡、本格的に執筆活動に入られました。

1987年、小説「鍋の中」で第97回芥川賞を受賞☆彡☆彡されました。
この作品は、1991年に黒澤明監督、リチャード・ギア主演『八月の狂詩曲』として映画化されています。

「水中の声」と「鍋の中」は、1987年に出版された『鍋の中』(文藝春秋、1987年、のち文春文庫、1990年)に収録されています。

その後のご活躍は大変素晴らしく、女流文学賞、紫式部賞、川端康成文学賞、谷崎潤一郎賞、泉鏡花文学賞他多数の受賞歴をお持ちです。☆彡☆彡☆彡
また、2007年に紫綬褒章、そして2016年には旭日章綬章を受けていらっしゃます。☆彡☆彡☆彡

最後に。
主婦の「私」と自宅の屋根の修理を担った「永瀬屋根屋」(同)との互いの夢の中で国内外を自在に旅をしていく物語です。
二人が飛び立った空間から自在に俯瞰して見るのは、屋根だけでなく、建造物の構造にも及びます。
「私」と永瀬にあるものは大人としての友情なのでしょうか。
または、そこから二人の愛情が芽生えていくのでしょうか。
二人が同時に見る「夢」はどんどん膨らみ、進んでゆきますが……。

そもそも時間と空間が自由自在に繰り広げられる「夢」とは一体何なのでしょうか。
「夢」をずっと見続けることはできないからこそ楽しくもあり、また儚いものです。
もしかしたら、物語全体が「夢」なのかもしれません。
原点に回帰する瞬間、「夢」の余韻をあなたはどのように受けとめるでしょう。

凛は村田喜代子氏の放つ文学世界に酔いしれました。
あなたもお休み前のひととき、村田氏の「夢」の物語を堪能しませんか。(^-^)

今夜も凛からあなたにおススメの一冊でした。 (^-^)

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2023年1月28日土曜日

えぐり、えぐられて ~井上荒野『あちらにいる鬼』(朝日新聞出版、2019年、のち朝日文庫、2022年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださりまして、ありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

「鬼は~外、福は~内」
2月3日は節分ですね。

あなたは節分に豆まきをされますか。
凛は毎年豆まきをしています。
今年も鬼のお面が入った豆を準備していますよ~

「大豆は香ばしくて美味しいなあ」と毎年思っています。
一年経つごとにお口に入れる大豆の数が増えていくことよりも、大豆の美味しさのほうが気になる凛です。(#^^#)
何はともあれ、今年も家内安全、無病息災を願って豆まきをします!

鬼は怖いもの。
凛は極力鬼とは関わり合いたくないですねえ。(>_<)
中には怖いもの見たさで、鬼と出合いたいもいらっしゃるかもしれません。
あなたはいかがですか。

今回は、題名に「鬼」がつく小説をご紹介します。
井上荒野氏の長編小説『あちらにいる鬼』(朝日新聞出版、2019年、のち朝日文庫、2021年)です。

この作品は、朝日新聞出版の季刊誌『小説トリッパー』の2016年冬号~2018年秋号まで連載された後に単行本化、さらに文庫化されました。
映画化されて2022年11月11日より公開されています。

井上荒野(いのうえ あれの)氏の父親である井上光晴(いのうえ みつはる)氏と、瀬戸内寂聴(せとうち じゃくちょう)氏得度する前の瀬戸内晴美(せとうち はるみ)氏時代からの不倫関係が基になって創作された小説です。

小説家同士の不倫を、井上光晴氏の妻の視点、瀬戸内氏の視点で描くという形をとっていますが、井上氏の娘である荒野氏の目線で描いているという、幾重にも絡んだ複雑な構造に読者が対峙することになります。

鬼は鬼でも、日本の昔話に出てくるような鬼さんとは違います。
「えーい、悪い子は食ってしまうぞ!」というような鬼さんではありません。
人の心の奥底の誰も踏み入れることのできない深いところに潜んでいるもの……。
ある意味において、最も怖~い鬼ではないでしょうか。ひゃあ……。(-_-;)

凛が持っている文庫本は、2022年5月20日付の第6刷です。
近所の書店で購入しました。

まずは、文庫本の帯と表紙からご紹介いたします。
凛が持っている第6刷では、裾まで長い黒い服をまとった女性が背中をこちらに向けて跪いて、両手をあげて踊るようなポーズをとっている絵になっています。

カバーの装幀は、芥 陽子(あくた ようこ)氏です。
カバーの装画は、Nikoleta Sekulovic氏です。


文庫本の帯の表紙側は、廣木隆一(ひろき りゅういち)監督による映画化の紹介になっています。
出演者の寺島しのぶ(てらしま しのぶ)さん、豊川悦司(とよかわ えつし)さん、広末涼子(ひろすえ りょうこ)さんの三人の顔写真が載っています。

また、瀬戸内寂聴氏からのメッセージ、「作者の父 井上光晴と、私の不倫が始まった時、作者は五歳だった。」(同帯)と明記されています。
不倫関係は事実だった、と瀬戸内氏ご本人が証言されているのですね。

帯の裏表紙側には、作家・川上弘美(かわかみ ひろみ)氏による文庫本の解説から抜粋されて掲載されています。
「本書は、『井上光晴の妻』『瀬戸内寂聴』という二人の内面のみを描くことを目的にした小説ではない。」(同帯)
読者にとって最も気になる部分をずばり指摘されて、なるほどなあと納得できます。

つまりどういうことかというと、父親と不倫を重ねた女性作家との関係と、二人を見つめる母親の愛憎と葛藤を描くにあたり、作家である井上荒野氏自身と、両親との娘としての視点をどのように絡めて小説に表したのだろうか、という疑問が読者に容赦なく迫ってくるのです。
要するに、小説家であるけれど、実の娘として父親の不倫を描くことは苦しくないのだろうか、と一般読者として凛は率直に思うわけなのですよ。(-_-;)
荒野氏は作家としてどのように乗り越えて作品に仕上げたのでしょう。

帯には川上氏の解説の続きが載っており、「実際の父母とはことなるかれらを描くことは、実際の父母と重なってみえる誰かを描くことよりも、『本物』のかれらを表現することになるのだろうし、(以下、省略)。」(同帯)

文庫本の裏表紙には、「至高の情愛に終わりはあるのか?」と掲載されています。
映画化に伴って最新販売の文庫本の表紙や帯が変わっているようですので何卒ご了承くださいませ。

次に、内容に入ります。
作品は、帯による瀬戸内寂聴氏の言葉で示されているように、実在の作家たちの実際の不倫を基にした愛憎劇です。

井上光晴氏と想定できる白木篤郎(しらき あつろう)という男性と、瀬戸内晴美氏と想定できる長内みはる(おさない みはる)という女性との出会いが「Chaputer1 1966 春」という章に、「みはる」の視点で描かれています。
白木の徳島での講演旅行に随行するみはるの着物姿を、阿波浄瑠璃の二体の人形はどのような面持ちで見下ろしていたのでしょうか。

二人の出逢いには、白木の切り札ともいえる「トランプ」が出てきます。
白木によるみはるの今後の仕事についてのトランプ占いの結果は……。
このときの占いの結果について、当時暮らしていた真二(しんじ)に聞かれたとき、みはるは「本当のことは言わなかった。」(文庫本、21頁)という表現から、明らかにみはるの心は既に決まっていることがわかります。
白木とみはる、二人の関係は長年にわたります。

同じ「Chaputer1 1966 春」には、白木の妻の笙子(しょうこ)の視点で描かれてもいます。
幼稚園に通う海里(かいり)ちゃんの子育て中で、お手伝いのヤエさんも交えながら、作家の妻として家庭を守る主婦を務めています。
この海里ちゃんが後の井上荒野氏になります。
 
笙子には二人目の子どもができ、白木との出会いから結婚に至るまでを振り返っています。
文机で白木の助手を担いながら、創作もします。
作家という目線で、笙子の内面はどのように膨らんでいくのでしょうか。

白木にはみはるとの関係だけではなく、様々な女性たちとの関係が消えては現われます。
それらのことが豪快であるのか、逆に繊細なのかは凛にはわかりませんが、白木という一人の男の生き様が重くもあり、哀しくはかなげな印象すらいたします。

そして、長内みはるは得度して、長内寂光(おさない じゃくこう)になり、誰もが知る著名人となりました。
彼女が得度するに至るには、深い理由がありました。

やがて海里は成長し、小説の新人賞を受賞します。
寂光は優しいまなざしで海里を見つめます。
白木は病に侵されることになりますが……。

文庫本の解説は「訣別」という題名で、川上弘美氏が綴っています。
作家の視点から読者の疑問について、丁寧に解説されていますので、是非お読みくださいね。
同名の映画は凛はまだ観ていませんが、必ず観たいですね~ (^○^)

作者の井上荒野氏については、「昭和歌謡と恋愛模様」(ココ)の項でご紹介していますので、今回は省略させていただきますね。
彼女の作品にふれる度に素晴らしい作家であることを認識させられる凛です。

まとめ。
白木篤郎と長内みはるの不倫から生じた白木の妻の笙子との複雑な関係を、白木の娘の海里が成長して作家・井上荒野として小説に描いていることを読者は認識させられます。
生身をえぐられるほどの鋭利な現実と、長い時間の経過がタテ・ヨコ・ナナメに何重にも絡み合い、終いにはぐるぐると廻ります。
糸が決して緩むことなく、常にピンと張り詰めた状態で「生」を必死で営んでいる登場人物たち。
作中では「生」と隣り合わせである「死」についても言及しています。
荒野氏が編んだリアルとバーチャルの間を、読者は幾度となく往復しながら向き合っていかなければなりません。

読後は何かがふっきれるほどの清々しい晴天になるのか、或いは荒天になるのか、それは読み手であるあなたの受けとめ方次第でありましょう。
「鬼」の底知れぬ恐ろしさを知りたいあなたに、是非読書の醍醐味を味わっていただきたいです。

節分には豆まきをして邪気を払いたいですね~(^O^)/
今夜も凛からあなたにおススメの一冊でした。(^-^)

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2023年1月9日月曜日

ホテルマンと薬剤師が大活躍しますよ! ~塔山 郁『薬も過ぎれば毒となる 薬剤師・毒島花織の名推理』(宝島社文庫、2019年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださりまして、ありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

新年おめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
2023年がスタートしました。
新たな気持ちで臨みますので、今年も凛のりんりんらいぶらり~をよろしくお願いいたしますね。m(_ _)m

あなたはどのような新年を迎えていらっしゃいますか。
凛は特に体調の変化などもなく、変わりなく過ごしています。

この世界には様々な病気が存在しますね。
極力病気とは関わらずにいたいものですが、なかなかそうも言っていられません。
うがい、手洗いなどで予防しているつもりでも、気づかないうちに病に侵されていることもあります。
病気や怪我などは「ある日、突然に」身の周りに起こるということがほとんどではないでしょうか。

あなたは調剤薬局にお世話になったことがおありでしょうか。
調剤薬局には薬剤師の方が働いていらっしゃいます。
或いは、市販薬を販売している薬局にも薬剤師の方がいらっしゃいますね。
中には、生まれてこのかた一度も薬剤師からお薬をいただいたことがありません、という方もいらっしゃるかもしれませんが、そのような方は凛の周囲には皆無ですねえ。(^-^;

日本では、基本的に医薬分業というシステムになっています。
診察後に医者から処方箋をいただき、調剤薬局に処方箋を提出してお薬を受け取ることになっています。
その際、薬剤師から丁寧な説明を受けますよね。
帰り道では安堵感が広がると共に、健康の大切さを痛感することが多い凛です。

あなたは調剤薬局や薬剤師にまつわる話に関心がありますか。
凛が今回おすすめする小説は、主人公のホテルマンの男性が、調剤薬局勤務の薬剤師の女性と共に身近に起きた事件に挑んでいきながら、薬や薬剤師に関する情報も得ていくというミステリー小説です。
日常に起こりそうな事件を通して、ホテルマンの職場の実情と合わせて、薬剤師の活躍を知ることができます。
思わず二人を応援したくなる4篇の謎解きに夢中になれますよ~

塔山 郁(とうやま かおる)氏のミステリー小説『薬も過ぎれば毒となる 薬剤師・毒島花織の名推理』(宝島社文庫、2019年)です。
毒島花織には、「ぶすじま かおり」とルビが書かれています。
この作品は、4篇の中で、第1話と第2話は宝島社から刊行されている雑誌『『このミステリーがすごい!』大賞作家書き下ろしBOOK Vol.21』と同誌のVol.23、2誌とも2018年の初出で、のち改題、第3話と第4話は文庫本書き下ろしとなっています。

凛が持っている文庫本は、2019年8月刊行の第3刷です。
初版が同年5月ですから、ファンが多いことがわかりますね。(^-^)

まずは、文庫本の帯と表紙の紹介からいたします。
第3刷では、オレンジ色の帯の表表紙側に「その薬にはウラがある」と大きな文字で描かれています。
右上の丸い枠の中に、「病院・薬剤師・薬との付き合い方もわかります」なるほど、まるで健康雑誌の棚が合いそうなメッセージですね。
「「このミス」大賞シリーズ累計3100万部突破!」ということは、現在ではさらに増えていることが予想できます。

文庫本の裏表紙の説明文には、ホテルマンの水尾は薬剤師の毒島とともに、「薬にまつわる様々な事件に挑む!」と書かれています。

文庫本の表紙には、毒島花織と思われる白衣姿で、長い髪をひとつにまとめ、黒縁の眼鏡をかけた女性が両手を組んで、とても真剣な顔で立っています。
手には錠剤を包んだPTP包装シートを持っています。
彼女の後ろには、薬品が入っている茶色や灰色の瓶がたくさん並んでいます。

表紙のカバーイラストは、遠藤拓人(えんどう たくと)氏です。
カバーデザインは、鈴木大輔(すずき だいすけ、ソウルデザイン)氏です。

次に、内容に入ります。
第1話に入る前に、短いストーリーがあります。
神楽坂にあるホテル・ミネルヴァに勤務する水尾爽太(みずお そうた)は、昼休みにナポリタンを食べに入った喫茶店「〈風花〉(かぜはな)」(文庫本、7頁)で黒縁眼鏡の女性を初めて見ます。
二人の女性が会話していますが、黒縁眼鏡の女性が突然会話に割り込んできて……。

第一話は、「笑わない薬剤師の健康診断」(同、17頁)です。
水尾爽太は足の痒みに襲われて我慢できなかったため、勤務先のホテルの休み時間を利用してクリニックに行きます。
彼はクリニックから出された処方箋を持って、「〈どうめき薬局・どちらの処方箋でも受け付けます〉」(26頁)の看板を見つけて、薬を受け取ることにしました。
クリニックの院長の診断に疑問をもった薬剤師の毒島さんの説明が大変にお見事でして、そこから思わぬ展開があります。

第二話は、「お節介な薬剤師の受診勧奨」(同、71頁)です。
フロント係を担当している水尾は、娘と二人で宿泊している母親のほうからクレームを受けました。
二人で外出している間に、部屋に置いていたアトピー性皮膚炎の塗り薬が紛失しているということです。
外出から戻ったのが土曜日の午後3時過ぎだったので、病院や調剤薬局はほとんど閉まっているところが多いので、さてどうしたらよいでしょう。

第三話は、「不安な薬剤師の処方解析」(同、133頁)です。
水尾は、喫茶店風花でどうめき薬局に勤務する薬剤師の刑部(おさかべ)さんから毒島さんの私的な部分を聞きます。
刑部さんは薬局のご常連さんの70代の女性から「薬が足りないのですぐに来て欲しい」という緊急の電話を受けたので、その方の自宅まで説明しに行くことになったというのです。
水尾は刑部さんと一緒に電話の主の女性の自宅まで行くことにしました。
玄関のインターホンを鳴らして、やっと出てきたのは電話した女性ではなく、こわもての男性でした。

第四話は、「怒れる薬剤師の疑義照会」(同、177頁)です。
水尾が第一話で受診したクリニックには或る疑惑があり、水尾と毒島さんは銀座まで行くことになりますが……。

ミステリー小説なのでこのくらいにします。
うーん、もっと先が読みたい!(^-^;
と思われたあなたは是非文庫本でお読みくださいね。

作者の塔山 郁氏は、ミステリー小説『毒殺魔の教室』(宝島社、2009年、のち宝島社文庫、上下巻、2010年)で、第7回『このミステリーがすごい!』大賞・優秀賞☆彡を受賞されています。
第3刷の帯の裏表紙側には、受賞作の『毒殺魔の教室』が大きな文字で描いてあります。
ミステリー作家としてご活躍されています。

今回の作品は「薬剤師・毒島花織の名推理」シリーズ化されていて、全5巻中の第1巻目です。
5巻とも全て文庫本です。
最新刊は、同社から2022年12月に刊行されたばかりの『薬は毒ほど効かぬ 薬剤師・毒島花織の名推理』です。
第1巻で水尾は毒島さんと友人となりましたが、この後の展開が気になりますね。

一般的に意外と知られていない薬剤師の担う役割の多いことに凛は驚きました。
お薬を受け取る待ち時間ばかり気にせずに、調剤薬局の見方が少し変わるかもしれませんよ。
「あら、そうだったのかぁ」と薬に関する基礎的な知識も得られます。

また、薬剤師と並行して、主人公水尾のホテルマンとしての責務の大変さに彼を応援したくなります。
ホテルに勤務する他のスタッフとの人間関係も描かれています。
つまり、この作品は調剤薬局に勤務する薬剤師と、ホテルに勤務するホテルマンのお仕事小説ともいえますね。(^○^)

水尾と毒島さんとの関係も気になるところです。
シリーズ化されているので、凛も続きを読みたいです。

今夜も凛からあなたへおすすめの一冊でした。(^-^)

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2021年9月21日火曜日

行間にこめられた思いを読む ~山崎ナオコーラ『美しい距離』(文藝春秋、2016年、のち文春文庫、2020年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださりまして、ありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

過ごしやすくなってきた秋の季節、あなたはいかがお過ごしですか。
夕暮れもすっかり早くなりましたねえ。
おうち時間が増えた秋の夜長、眠る前のひとときは最高のくつろぎタイムですね!(^○^)

体調を整えて、免疫力をつけたいというのは誰しも考えるでしょう。
しかし、いくら健康に気をつけてはいても病にふせることはあります。
好きで病になる方はいませんものね。

日本人の二人に一人ががんになると言われています。
あなたのご家族、特に配偶者ががんに侵されていて、しかも末期がんであったとしたら、あなたはどのように受け止め、対応するでしょうか。

今回の本は、山崎ナオコーラ(やまざき なおこーら)氏の小説『美しい距離』(文藝春秋、2016年、のち文春文庫、2020年)です。

40代の妻が末期がんで入院しているため、働き盛りの夫は生命保険会社の仕事をしながら病院に通い詰めて妻を看護しています。
静かに流れる二人の時間の中で、夫の視点から彼の葛藤や心の機微を見事に描き切っている小説です。

しかも、行間に熱い思いがこめられています。
それは夫の言葉だけでなく、妻の言葉でもあります。
この小説の主人公は、末期がんの妻を看護する夫になります。

あなたがお読みになる前に、凛からご注意していただきたいことが2点あります。(-_-)

1点目は、今回の小説はずばり内容が重いです。
「末期がん」がキーワードになり、「介護」がテーマの物語と同様、あなたのご家族にご病気の方がいらっしゃったり、或いはあなたご自身がご入院されていらっしゃる場合などはかなり重いかもしれません。

2点目は、新型コロナ以前の小説であることです。
初出は、文芸誌『文學界』2016年3月号ですので、それ以前に描かれた作品です。
コロナ禍の現在は入院されているご家族の面会などはできない場合も多いでしょう。
ご家族でなくても、親戚・知人・友人など病室にお見舞いに行けていた頃とは一線を画していることを考慮して読んでいただければと思います。

まずは、本の入手についてです。
凛が持っている本は文庫本の初版です。
昨年、街の中心の地元の書店で購入して「いつか必ず読む本」として出番を待っていた本です。(^-^;

帯の表表紙側には、「芥川賞候補作」「島清恋愛文学賞受賞作」と描かれています。
帯からの情報で、しっとりとした夫婦の時間が流れている作品であることがわかりますね。

本の裏表紙の紹介文では、「がん患者が最期まで社会人でいられるのかを問う、新しい病院小説。」(文庫版、初版)と描かれています。
「病院小説」という表現は、医者と患者と家族の物語なのでしょうか。

次に、本の装丁についてです。
凛の文庫本初版の表紙は、黄色い菜の花が大きく描かれています。
「菜の花」のデザインは作品の中で重要な位置を占めています。

文庫本の表紙のイラストは、中上あゆみ(なかうえ あゆみ)氏です。
文庫本の表紙のデザインは、大久保明子(おおくぼ あきこ)氏です。

では、内容に入ります。
文庫本で195頁、巻末の解説まで含めても205頁とさほど厚くはありません。
しかも文庫版では文字が大きめで読みやすいです。
しかし、行間を読むと倍の厚さくらいになるのではというのが凛の印象です。

物語は、夫がカフェで食事を済ませ、バスに揺られて妻が入院している病院に向かうところから始まっています。
季節は春。
穏やかな陽気の中、カフェでのんびり過ごしたいところですが、時間は容赦せず病院行きのバスが待っています。

夫は生命保険会社に勤務しながら、妻の看護のため週に数回、妻の病室を訪れます。
初めは輪郭がぼやけていますが、読んでいるうちに読者にはこの夫婦がおかれている現実がだんだんと見えてきます。

時間軸は常に夫の視点にあり、妻と出逢った頃に戻ったと思えば、また妻がいる病室に戻ったりします。
働き盛りの夫の会社での仕事のやりくりや、労働条件である制度を利用しての病院通いなど、身につまされる読者もいらっしゃることでしょう。

妻は夫の上司の娘さんです。
夫からみると義母にあたる「妻の母」(文庫版初版、39頁他)と交代で病室を訪れています。
夫の義父にあたる妻の父親のことを、夫は常に「元上司」(同、15頁他)と表現しているところなど、夫の微妙な感情であると推測できます。

「来たよ」
「来たか」(同、17頁他)

夫が病室を訪れたときのたったこれだけの会話の中には、二人だけにしかわからないどれだけの思いがぎゅうっと詰まっているのでしょう。
それを思うと、凛は胸が締め付けられてなりません。
この夫婦には子供はいません。
病室では二人だけの時間が静かにゆっくりと流れてゆきます。

妻は結婚後にサンドウィッチ屋さんの経営を始めたことがわかってきます。
そして妻の仕事関係の方たちが各々病室を訪れます。
病室で彼らとの交流を目にして、妻には社会とのつながりが必要なことを夫は悟ります。
時には夫は見舞客にやきもちをやくこともありますが、もちろん彼の心の中での波です。

それから「妻の母」との接点から、妻は娘であることも悟ります。
夫は妻や義母にも理解を示します。

しかし、夫の本音がちらりと表れている箇所がいくつかあります。
そこで行間が活きてくるのです。
常にジレンマに陥っている夫の苦悩と妻への思いが交錯しているのです。

夫の意見が最も強く描かれている場面は主治医との会話でしょう。(*_*)
余命宣告、延命治療など……。
医療従事者である主治医と、「対話」(同、131頁)を望む患者の家族である夫の立ち位置のずれが大きく、夫の葛藤は続きます。
これは、文庫本の「著者紹介」のところで、「2014年に父親をがんで亡くし、(省略)」(同)とあることから、作者の体験からきていると考えることができます。

文庫版の157頁からか、或いは158頁からは、妻との関係が別の次元に移動します。(T_T)
ここで凛が案内する「曖昧な頁の境目」については、体験された作者ならではの時間軸の捉え方によるものであると考えます。
夫は妻の容体が急変する場面に遭遇します。
夫には予期することのなかった、あまりにも突然の出来事なのです。
作者は、愛する人の最期を迎えた方だけにしかわからない「その場面」を適格に捉えています。

しかし、小説はここで終わりません。
それは妻との関係が終わっていないことを意味しています。

「その後」の淡々と流れてゆく時間。
まるでベルトコンベアーに乗ったような色彩のない感覚。
これは多くの方が体験されていることと思います。

夫は旅立った妻との関係をどのように捉えて過ごすのでしょうか。
後はあなたの読書体験にお任せいたしましょう。

文庫版解説は、書評家の豊崎由美(とよざき ゆみ)氏です。
「解説 固有の物語を丁寧に紡ぐ小説」(同、198頁~205頁)というタイトルです。
病と死、仕事、人との距離について、書評家として長くご活躍されている豊崎氏の文章はとても心温まります。(^-^)

作者の山崎ナオコーラ氏は、2004年、小説『人のセックスを笑うな』(河出書房新社、2004年、のち河出文庫、2006年)で第41回文藝賞を受賞☆彡されました。(^_^)v
同作品で、第132回芥川賞候補となっています。
この作品は、2008年、井口奈巳(いぐち なみ)監督、松山ケンイチ(まつやま けんいち)さん、永作博美(ながさく ひろみ)さん主演で映画化されています。

山崎氏は、多くの作品をご執筆されており、これまで5回の芥川賞の候補となっています。

今回ご紹介した『美しい距離』は、2016年、第155回芥川賞の候補作となっています。
さらに2017年、第23回島清恋愛文学賞を受賞☆彡されています。(^_^)v

今後も山崎ナオコーラ氏のご活躍を期待したいですね!(^o^)

最後に。
末期がんである妻との時間を大切に守りながら、彼女を巡る社会を尊重している夫の心理的葛藤は、妻の死後にどのように変化していくのでしょうか。
タイトルの「美しい距離」に込められた作者の思いを、行間で読み取れる秀逸な文学作品です。
最後の一文に至るまで読者は目が離せません。

今夜も凛からあなたにおすすめの一冊でした。(^-^)

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2021年8月24日火曜日

「好き」の向こうに見えるものは、、 ~窪 美澄『じっと手を見る』(幻冬舎、2018年、のち幻冬舎文庫、2020年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださりましてありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

本日から東京2020パラリンピック競技大会が始まりました。
各国からの参加選手の皆さま、ファイトです!!\(^o^)/

今夏は猛暑だと思っていましたが、8月は全国的な大雨にみまわれてしまいました。
あなたの周辺では大雨の被害などはありませんでしたか。
気がつけばもうすぐ夏も終わりますねえ。

天候不順のため、最近は夏野菜が高くなっています。
こういうときは冷凍食品の野菜が活躍しそうですよ。
お料理も工夫していきたいですね。 (^o^)

そういえば、今年から郵便局の「かもめ~る」の販売がなくなりましたね。
凛は昨年まで「かもめ~る」で数名の知人や友人たちと夏のご挨拶のやりとりをしていましたが、今年はご無沙汰することにしました。
コロナ禍で今夏も花火大会や地域のお祭りやイベントも減って寂しくなる一方、日常が淡々と過ぎてゆくことに慣れっこになっているのも事実です。

あなたは夏の休暇はいかがお過ごしされましたか。
帰省を避けた方もいらっしゃったのではないでしょうか。
普段から顔を合わせることも少ないが故に、会いたい人たちの顔が思い浮かびませんか。
「会いたいのはやまやまだけど。どうしているだろうか。本当に元気なのだろうか」と思いを馳せながら……。

都会と地方、この境界を越えてしまうことについて、仕事を絡めた恋愛模様を細かい心理描写で描いた小説があります。
今回の本は、窪 美澄(くぼ みすみ)氏の小説『じっと手を見る』(幻冬舎、2018年、のち幻冬舎文庫、2020年)です。

まずは、本の入手についてです。
凛が持っているのは文庫本で、2020年4月10日付けの初版本です。

時々訪れる隣町の全国大手の書店で昨年購入しました。
この書店は芸術関係や旅行などの本が比較的多く、雑貨なども豊富に揃っていてとてもお洒落な雰囲気です。
新刊本の平台の端っこにひっそりと並べられていた文庫本ですが、タイトルに惹かれて購入しました。
凛の書棚で一年間出番を待っていた本です。
出番は案外早いほうかも……。(-_-;)

次に、本の装丁についてです。
凛が持っている文庫本初版の帯には「幻冬舎文庫の春まつり」が印刷されています。

帯には、EXILE/FANTASTICS from EXILE TRIBEの佐藤大樹(さとう だいき)さんの顔写真が掲載されています!(^o^)
一年経ていますので、現在は異なる帯が付いていることでしょう。

帯の表表紙側には、作家の朝井リョウ(あさい りょう)氏が「見知ったハッピーエンドとは違う人生だって、きっと、愛することができる。(省略)」(初版)と。
文庫本の裏表紙側の説明文には、「富士山を望む町で暮らす介護士の(省略)」「ショッピングモールだけが息抜き(省略)」(同)と書いてあります。
恋人たちを引き寄せてしまうショッピングモール。
ショッピングモールは凛も時々利用しますが、あなたもお買い物されますか。
「自分の弱さ、人生の苦さ、すべてが愛しくなる傑作小説。」(同)と紹介されています。

表紙の「じっと手を見る」の文字の下には、若い女性、或いは少女かもしれませんが、両膝を合わせて、左腕を寄せているような姿勢、恐らく座っている写真が掲載されています。
その両膝の間にはレンズがあり、かぼすのような柑橘系の果物を手で絞って画像が写っています。
切なさを求めたい方には期待できそうです。

文庫本表紙のカバーデザインは、アルビレオで、装丁事務所のようです。
カバーフォトは、Zigian Liuさんで、写真家です。

では、内容に入ります。
目次を見ますと、7篇の短編が収録されていますが、連作でひとつの物語になっています。(文庫本初版、5頁)

「そのなかにある、みずうみ」
「森のゼラチン」
「水曜の夜のサバラン」
「暗れ惑う虹彩」
「柘榴のメルクマール」
「じっと手を見る」
「よるべのみず」

車で運転して東京まで片道4時間くらいの富士山が望める町に住み、介護士をしている日奈(ひな)と海斗(かいと)は恋人でしたが、東京のデザイナーの宮澤(みやざわ)が二人の前に現れます。
宮澤に漂う「東京」との距離感を日奈は憧れをもって縮めようとします。

他方、海斗は職場の後輩である畑中(はたなか)と付き合うようになります。
彼女にも複雑な事情を抱えています。

そこから始まる登場人物たちの関係のもつれと複雑な心情に、作者はそっと寄り添いながらも、次第に深く切り込んでいきます。
どこまでも深く、抜け出すことができない底なし沼のように、容赦なく……。
彼女らや彼らの家庭環境から抉り出し、ほどけないまでに交錯して、時には苦しいことも思い切り吐き出させます。
「ええーっ、ここまで書いていいの?」と。

ところが読者はそれらの暗部にしっかりついていけるのです。
それらは決して暴走ではありません。
作者の登場人物たちへの優しいまなざしがあるからで、読者が納得できる形に収まるようになっているのは窪 美澄氏の技量であると凛は思います。

凛はこれらの連作短編について、五つの特徴を考えました。

一つ目は、短編の一つ一つのタイトルがとても凝っていて印象的な点です。
それぞれの物語には、タイトルにつながる箇所が出ていますので、それを見つけながら読むのも楽しいですね。

二つ目は、それぞれの短編の主人公が異なる点です。
最初の主人公は日奈から始まり、彼女の視点で描かれています。
次は、海斗の視点で描かれていて、同じ事象についても日奈とは異なる心理を読者は体験できます。
その次は、畑中が主人公になります。

という風に、各短編で主人公が異なるため、視点にずれが生じます。
では、タイトルの「じっと手を見る」のは、一体誰が誰の手を見るのでしょうか。
これはあなたが読まれてからのお楽しみに。

三つ目は、介護士という職業について詳細に描かれている点です。
介護士が日頃どのような気持ちで仕事に臨んでいるのかなどがわかります。
また、介護福祉士など資格取得についてもふれています。
それから、利用者側の家庭問題なども抉られています。

四つ目は、地方のショッピングモールの位置付けについて考えさせられる点です。
地方においてショッピングモールはその町の核となる重要な所でしょう。
そこに来れば食料品の他、日用の品々が何でも揃います。
さらに都会との接点を求める人たちのために、ブランドショップがキラキラと輝いています。
その輝きをもって恋人たちを引きつけていますが、会いたくない人まで視界に入る危険な場所でもあります。

五つ目は、富士山です。
この作品は毎日富士山を見ながら暮らしている方々の心情と、日帰りができる東京との距離感が絶妙に綴られています。
富士山を筆頭に持って行かないというのは、凛が富士山のお膝元に住んでいないからです。
富士山を見ると、凛は「わあ、富士山だあー。すごく高いなあ。美しいなあ」と思い、特別感がありますねえ。

以上、五つの特徴をあげました。

文庫版の解説は、直木賞作家の朝井リョウ氏です。
窪 美澄氏とは同年デビュー作家だということを初めて知りました。
解説を読んで、作家は同業者として意識するのだなあと思いました。(^-^)

作者の窪 美澄氏は、多くの作品を受賞されています。
2009年、小説「ミクマリ」(新潮社、2011年、電子書籍版)で、第8回R-18文学賞を受賞☆彡、作家デビューされました。

2011年、小説『ふがいない僕は空を見た』(新潮社、2010年、のち新潮文庫、2012年)で、第24回山本周五郎賞を受賞☆彡されました。
尚、この本に「ミクマリ」も収録されています。
この作品は映画化されており、2012年、タナダユキ監督、永山絢斗(ながやま けんと)さん、田畑智子(たばた ともこ)さん主演で、第37回トロント国際映画祭に出品☆彡されました。

尚、今回の小説『じっと手を見る』は、第159回直木賞候補作となっています。

他にも多くの受賞歴があり、大変ご活躍の作家ですが、とても長くなりますので省略させていただきます。(^-^;

最後に。
この作品は読後に切なさがこみあげてくる恋愛小説であり、介護に携わる方たちのお仕事小説でもあると凛は考えます。
人を好きになることと、仕事をして暮らしていくことの狭間で、「時間」という現実が目の前にたちはだかります。
それを超越したところにある「好き」の感情。
ただひたすらに切ないのです……。

是非映画化して欲しいなと思いますねえ。
俳優さんたちの顔を思いうかべながら読みました。

介護士たち、恋愛、青春、家庭環境、家、富士山と東京、ショッピングモール、結婚と離婚、子育て、老人、利用者たち、引きこもりなど、多くの「今」を生きている人たちの生の声が聞こえてくるような読書体験ができますよ。

タイトルの『じっと手を見る』が読後、あなたにはどのように伝わるでしょうか。
凛は思わず自分の両掌を見てしまいました。(^○^)

今夜も凛からあなたにおすすめの一冊でした。(^-^)

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2021年7月27日火曜日

ドローンと名探偵が大活躍します ~早坂 吝『ドローン探偵と世界の終わりの館』(文藝春秋、2017年、のち文春文庫、2020年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださりまして、ありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

東京2020オリンピック競技大会が始まりましたね。
7月23日夜の開会式では1800機以上ものドローンが夜空を舞い、大変話題になりましたね~
あなたはその場面をTVなどでご覧になられましたか。
ドローンたちはキラキラと輝いていてとても綺麗でした!\(^o^)/

凛はちょうどドローンが活躍するミステリー小説を読み終えたばかりでしたので、これは奇遇だなととても驚きました。(^o^)
早速その小説をご紹介いたしましょう。

今回の本は、早坂 吝(はやさか やぶさか)氏のミステリー小説『ドローン探偵と世界の終わりの館』(文藝春秋、2017年、のち文春文庫、2020年)です。
大学の探検部の部員たちが訪れた廃墟で、迷宮ともいえる中で起こる殺人事件に、探偵がドローンを駆使して犯人に挑むミステリー小説です。

まずは、本の入手についてです。
凛が持っている本は、2020年7月10日付の文庫版の初版です。
この文庫本は、ちょうど一年前の夏、いつもの近所の書店の文庫本新刊コーナーで見つけて購入しました。
書店で手にして「ドローンと探偵」、ミステリー小説は数あれど、最新の技術のドローンを用いた小説を凛はこれまで読んだことがなかったので珍しいなと思ったものです。

この文庫本も出番を待っている本たちの仲間でした。
一年待たせてしまいました。
でも、まだ早いほうで、何年も待ち続けている本たちがいっぱいです……。(^-^;

次に、本の装丁です。
文庫本の表紙に描かれているアイドルっぽい若い男性の横顔がとってもキュートです。
主人公の飛鷹六騎(ひだか ろっき)でしょう。
彼を空から見守っているように見えるドローンがいます。

イラストは、焦茶(こげちゃ)氏です。
昨年、25歳の若さで亡くなられています。
デザインは、山本翠(やまもと みどり)氏です。

凛が持っている文庫本初版では、帯の表表紙側に「ドローン×名探偵」と書かれています。

同じく文庫本の帯の裏表紙側には著者の早坂 吝氏の読者へのメッセージが書かれています。
「今回諸君らに取り組んでいただくのは、そのトリックが何かを当てるということである。」(帯の裏表紙側)
その文章の次の行に、「騙されたくなければ、あなたも飛ぶしかない。」と。(同上)
早坂氏からの挑戦的な言葉に、それならば、飛んでやろうじゃありませんか!と思った凛でした。(^o^)

それでは内容に入ります。
文庫本の目次より、本作品は第5章で構成されていることがわかります。

目次の次の頁には、「ヴァルハラ周辺図」(文庫版4~5頁)が掲載されています。
2頁の見開きにわたる図には、事件の舞台である廃墟の館の内部と周辺が表されています。

次の頁では、「主な登場人物」(同6頁)が紹介されています。
東京都立北神(ほくしん)大学の探検部員として7名。
最初に紹介されている主人公のドローン探偵こと飛鷹六騎のところに《黒羽(くろばね)を継ぐ者》(同6頁)と書いてあります。
彼は北神大学の学生ではありませんが、迷宮の館を探検する探検部の一員として仲間になります。

他の部員が六名紹介されていますが、どの部員も名前に凝っています。
例えば、兵務足彦(へいむ たるひこ)は、二年生で副部長、ヴァルハラの館がある三豆ヶ村(みずがむら)の出身です。

部員の他には、三名の男性の名前が出ています。
この人たちも名前と職業が少々凝っていますよ。
御出院(おでいん)氏はヴァルハラを建てた資産家で、残りの二人は内閣官房長官と俳優です。

本編に入っていきなり、著者の早坂氏から「読者への挑戦状」が文庫版2頁にわたり掲載されています。
まずドローンの説明がなされ、次に読者に対するトリックの挑戦について、二つの理由を書いてあります。
先に紹介しました帯の部分でもわかりますように、この挑戦状には作者の編み出したトリックに対する自信がとても強く込められているというのが凛の印象ですね。

第一章から読み進むにつれて、だんだんと主人公の飛鷹六機の生い立ちと、ドローン探偵と呼ばれるようになったのかがわかってきます。
彼は「黒羽」を継ぐことをとても意識しています。
それから、テレビに出るほどの有名人になっていることも。

小説では、ドローンと人間は会話ができるんですって!
「Hel(ヘル)」(同20頁他)と名付けられた「彼女」はとても六騎のことを思ってくれる心優しいドローンさんです。
他にも2機のドローンたちが登場します。

部員の国府玲亜(こくふ れいあ)は、二年生です。
彼女の父親が政府の内閣官房長官であるため、お嬢様として他の部員たちから一目置かれています。
彼女は「ノブレス・オブリージュ」(同26頁他)というフランス語を用いて、富裕層としての責務ということで、他の部員よりも多くの支出をしますが、主人公の六騎を除いた部員一人一人に彼女に対する複雑な思いがあります。

物語は「北欧神話」がキーワードになって進行します。
三豆ヶ村にある高台の明日ヶ台(あすがだい)に資産家の御出院氏が、やがて来る「最終戦争(ラグナロク)」(同47頁)に備えて「核シェルター(ギムレー)付きの洋館(ヴァルハラ)」(同48頁)を建てます。

探検部員たちはその館を探検することになります。
彼らが訪れると、いきなり天候も荒れてきました。
もう館の外には出られません。
いかにもミステリー小説らしい怪しい設定ができました。
これからは読者が作者からの挑戦に向かっていかなければなりません。

探検部の部員たちが、一人殺され、また次に殺され……。
一体何人が殺されていくのでしょうか……。
犯人は誰?
犯人は何のために殺人を犯すのでしょう?

部員の一人一人に動機がありそう……。
他にも館に誰かが隠れていそう……。
もちろん六騎とドローンは大活躍します。

怖いけれど、先に読み進みたいのは読者の心理ですね~
ミステリー小説ですから、詳しくはあなたが読まれてからのお楽しみに。(^_-)-☆

ところで帯や本編の最初に書かれている作者からのトリックに対する挑戦の言葉を思い出してみましょう。
作者はあらゆるところに伏線をはっています。
それを見つけることができるでしょうか。
読者は自ら物語の主人公になった感覚で作者に挑みましょう。

うーん、凛は予想したトリックは見事にはずしてしまいました……。(T_T)
ええーーーっ、そうだったのぉーーー?? (◎_◎;)

最近は映像化できそうな文学作品が多いですよね。
しかし、この小説はトリックを考えると、果たして映像化できるか、どうか……。
映像化はかなり難しいのでは。
つまり、唯一小説だけで楽しめるミステリーであると凛は考えました。
おっと、いけない、いけない、これ、大きなヒントに繋がってしまいそう……。(-_-;)

文庫本の解説は、文芸評論家の細谷正充(ほそや まさみつ)氏です。

作者の早坂 吝氏は、2014年、ミステリー小説『○○○○○○○○殺人事件』(講談社ノベルス、2014年、のち講談社文庫、2017年)で第50回メフィスト賞を受賞☆彡されてデビューされました。
同作で、2015年版「ミステリが読みたい!」新人賞を受賞☆彡されています。
ノベルス版と文庫版では殺人事件の数が異なっているとか。
他にも本格ミステリーなど多くの作品を発表されています。

最後に、まとめです。
冒頭の作者からの読者への挑戦状には天晴れです!(^○^)
探検場所の設定や、荒天、北欧神話との絡みも含み、登場人物の誰もが怪しく、読者を大いに惑わせてくれます。
最新技術を用いたドローンを駆使して殺人事件に挑む主人公飛鷹六騎の生き様と、ドローンとの友情ともいえる交流がとても和やかで新鮮でした。

トリックは作者にしてやられましたが、頁を戻してはられた伏線を辿ると、なるほど~と思える箇所がいくつもありました。
自由な発想ができることが求められますね。
凛はあっという間の読書時間で、退屈することなく楽しめましたよ~
あなたも早坂 吝氏からの挑戦状に挑んでみられてはいかがでしょう。

今夜も凛からあなたにおすすめの一冊でした。(^-^)

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(文春文庫)文庫-2020/7/8早坂吝(著)
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2020年9月27日日曜日

昭和歌謡と恋愛模様

こんばんは。
南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

あなたは歌謡曲がお好きですか。
カラオケで思い切り歌うのはお得意ですか。
昨今は新型コロナウィルスの影響で、一時期はカラオケも自粛の対象となり、なかなかカラオケで発散できないとお嘆きでいらした方も多いかと思います。

「歌は世につれ、世は歌につれ」
と申しますが、これはカラオケに行くとよくわかります。
気持ちよさそうに得意な歌を歌っている方の年代が、歌に反映されていることが多いですね。

特に、若い頃に流行した歌はいつまでも忘れられないものだと、往年のカラオケファンから聞いたことがあります。
それらには恋愛を伴った歌が多く、若い頃の苦い思い出、またはとても楽しかった思い出などがしっかりと歌と共に心の深部に刻まれているからでありましょう。

昭和の時代に大流行した歌は世相を反映したものが多いです。
演歌だけでなく、GSの歌、アイドルの歌、フォークソングなど音楽のジャンルはもっと細分化されますが、とてもメロディアスでなじみやすい歌が多いですね。
歌いやすい、覚えやすい、口ずさみやすい。
歌詞が生活に密着しているのか、人々の琴線に触れて心の深部に共鳴するからでしょうか。

中には歌いながら踊れる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
テレビ画面から得た歌手の振り付けをまねて、ポーズを決めたりして!(^_^)v

昭和の戦後の時代は、平成から現在の令和のインターネットの時代と異なり、若者たちの歌が世界的に重要なメッセージの役割を担っていました。
アメリカのロック歌手のエルビス・プレスリー、イギリスで誕生したロック・グループのザ・ビートルズやザ・ローリング・ストーンズ、アメリカのマイケル・ジャクソン、フォーク歌手のジェイムス・テイラー、二人組のサイモン・アンド・ガーファンクルなどなど、それはもう数えきれないくらいの地球規模の大スターたちが、世界中の人々にメッセージを伝えました。
歌には男女の恋愛だけでなく、反戦、東西冷戦、人種などの政治性も込められているものもありました。
メディアの大衆化と共に、歌は大衆に浸透し、世界中に発展していきました。

日本でも多くのスター歌手が誕生しました。
年末大みそか恒例のNHKの紅白歌合戦に出場することは歌手たちにとって大きな目標でありましょう。
テレビやラジオの媒体を通して、常に歌が中心の時代でした。
歌番組が多く、ベスト10などのランキングは、日本全国の世代を超えた多くの老楽男女の関心の的となっていました。

このような昭和の時代に大流行した歌謡曲を基調にして、男女の恋愛模様を描いた短編集があります。
井上荒野(いのうえ あれの)氏の『あなたならどうする』(2020年、文春文庫)です。
この短編集は、2017年6月に、単行本として文藝春秋から刊行されています。

凛が持っている文庫版(2020年7月、第1刷)の目次を見ますと、

「人妻ブルース」
「時の過ぎゆくままに」
「小指の思い出」
「東京砂漠」
「ジョニィへの伝言」
「あなたならどうする」
「古い日記」
「歌いたいの」
「うそ」
「サルビアの花」

冒頭に「人妻ブルース」が掲載されています。
井上荒野氏の作品で、ひとつの歌詞の形態になっています。
初出は、『小説新潮』(2011年1月号、新潮社)です。

この作品の舞台は団地でしょうか。
八号棟、三号棟、四号棟、十一号棟などの奥さまたちが登場します。
井上氏は、人妻であるが故の心の襞の暗部に焦点を充てています。
昭和の時代と重なる表現を取り入れているようでいて、実はしっかりと現代の世相を表わしているものだと凛は思います。

あなたは「時の過ぎゆくままに」以下、9曲の歌のタイトルを見ただけで、すぐに「ああ!知ってる!あの歌手の歌だ!」と、当時の歌手の歌声や姿が甦り、そしてメロディに乗せて歌詞を口ずさむことができる歌が何曲ありますか。

あなたは当時の歌手の衣装や髪型、サビの部分の特徴、マイクの持ち方など事細かく覚えていて、「とても懐かしいなあ~」と目にうっすら涙が出たりしませんか。
平成生まれのお若い方ですと「聴いたことがあるけど、よくわからないなあ」と仰る方もいらっしゃるでしょうねえ。
凛にはすぐにわからなかった歌が2曲ありました。

凛が所有する文庫本初版の帯には「昭和歌謡曲の歌詞ににインスパイアされた9つの物語」と紹介されています。
音楽に詳しい方からみると、厳密にジャンル分けをするならば、9曲の全てを「歌謡曲」に当てはめることに難色を示される方もいらっしゃるかもしれませんが、この作品集では「昭和歌謡曲」として括られています。

短編集の各章には、最初に各歌の歌詞の一部が掲載されています。
歌い出しの部分であったり、サビの部分であったり、各歌ごとに異なります。
井上氏はこれらの歌詞の特徴を捉えて、男女の恋愛の機微を井上流の視点で的確に表現されています。
この手法については、恋愛小説を描かせたら間違いなく安心して読ませてくれる「大人の作家」である井上荒野氏だからこそできるのであろう、と凛は位置付けます。
平成の終わりに近い2017年に単行本が発刊されていますから、描かれている小説の時代は平成でありましょう。

しかしながら、登場人物や環境にその歌詞と密着できる舞台設定が施されており、昭和時代に創作された歌詞と現代の時代のずれもほとんど感じられません。
ですから、歌が大流行した時をご存じない方でも、違和感なく恋愛物語に入れますよ。

勿論お若い方には、昔の歌、或いはご両親や祖父母の世代が好きな歌として、「なるほど、今でいうとこんな設定になるんだなあ」などと、歌を先行になさって読まれるのも構いません。
それから、小説が先にあって、「この歌はそんな意味だったのかあ」など歌を後付けする読み方など、どうぞあなたのお好きなように、ご自由に読まれてください。

各章には、様々な登場人物とあらゆる環境設定に、趣向を凝らしてあります。
主人公は、各章ごとに男性もいますし、女性の場合もあります。
井上氏独特の鋭い視点で、彼らの心理をあぶりだして、ほんのちょっとした極小のずれに亀裂が生じていく瞬間と、そこから壊れていく過程を見事に描き出されています。
伏線もあって、最後には広げた風呂敷を畳んでいますが、それが無造作であったり、裂けたり、或いはほどけそうなほどに結び目が緩かったりと、畳み方の細部にも拘りがみられます。

「時の過ぎゆくままに」は、妻が癌治療で入院中の夫が主人公です。
彼は癌患者である妻の闘病を支えながらも、病院の喫煙所で夫が入院中の若い人妻と出逢ってしまい、二人は逢瀬を重ねていくのです。
退院した妻が、実にさりげなく夫に、自身のことを何と言ったのでしょうか。
それはほんの一瞬のことでしたが。
その瞬間の夫の心理状態に鋭いメスを入れる井上氏の視点は見事といえましょう。

当然ですが、相手の人妻にも過酷な現実がずっしりと背中を覆っています。
二人の目の前に迫ってくる壁が高くて険しいほど、それを乗り越えようと思うのでしょうか。
痴情におぼれた二人はこれからどうなっていくのでしょうか。
最後まで読むと、凛にはジュリーこと沢田研二さんの透き通った歌声が実に切なく聴こえてきました。

「ジョニィへの伝言」は、某地方で行なわれた歌の地区予選の選抜で選ばれ、東京決戦に出場した女性と、地元で鍼灸院を営む男性の話です。
プロダクションのマネージャーから声をかけられた女性は、「東京に住んでこれから歌で生きていく」と夢の実現が叶う転機を迎えたのですが。
女性が、目の前の現実を認めなければならない、決して後戻りはできない、前に進むしかないと悟る瞬間。

この章で凛が注目したのは、最後の四行(文庫版)です。
そして、最後の一文がキーワード。
凛には、高橋真梨子さんの情感をこめた歌声が胸にずうんと響いてなりませんでした。
それと同時に、この歌詞の全容を再確認せずにはいられませんでした。

「うそ」は、薬剤師の男性が主人公で、冷酷に次々と付き合う女性を変えていきます。
新しい獲物を捕らえるために、自分に都合のよい自己中心の考えで嘘を重ねます。
彼は付き合っている女性に対する興味は持続せず、すぐに飽きてしまうのです。

このような嘘を重ねていく男性は、新しい女性を獲得する過程が楽しいのではないでしょうか。
相手の女性への愛ではなく、欲望だけが全てであるような生き方を続けてきたのでしょう。
彼は実に行動的で、相手のことを冷静に観察しています。
一人でいる時間も必要なのではと凛は思いますが。
マイケル・ジャクソンの「スリラー」の洋楽が出てくるのも何かのメッセージかも……。
読み進んでいるうちに、中条きよしさんのソフトに歌う声が凛の耳元で聴こえてきました。

以上の三曲の他にも、某団体の一員として集団生活をしている男性のもとへ、ある日突然夫や子供のいる家庭を捨てて飛び込んだ主婦の話の「あなたならどうする」、振り込め詐欺の受け子と思われる若い男女を描いた「古い日記」など、現代社会の問題もえぐりながら、恋愛を成就しようと必死でもがいている人たちの話が出てきます。
どの登場人物も危うい立ち位置で、哀切極まる情感をもって、あなたにずっしりと重く恋愛の情景を突きつけます。

井上荒野氏は、1989年、短編小説「わたしのヌレエフ」で、第1回フェミナ賞を受賞☆彡されて、デビューされました。
この作品は、『季刊フェミナ』創刊号(1989年、学習研究社)に掲載されたのち、1991年に『グラジオラスの耳』の書名で福武書店より単行本として所収されており、2003年、光文社文庫から単行本と同じ書名で文庫化、所収されています。

2004年には小説『潤一』(2003年、マガジンハウス、2006年、新潮文庫)で、第11回島清恋愛文学賞を受賞☆彡されました。
そして、2008年、小説『切羽へ』(2008年、新潮社、2010年、新潮文庫)で、第139回直木賞を受賞☆彡☆彡されました。
その後も数多くの小説を受賞されていらっしゃいます。

小説家の井上光晴(1926~1992、いのうえ みつはる)氏のご長女で、小説、エッセイ、児童書などの翻訳も手がけるなど大変ご活躍されています。
本格的な大人の小説が描ける、まさに恋愛小説の名手としての地位を確保されていらっしゃいます。

文庫本の解説が、直木賞作家の江國香織氏と大変豪華です!
江國氏は、2004年、短編小説『号泣する準備はできていた』(2003年、新潮社、2006年、新潮文庫)にて、第130回直木賞を受賞☆彡☆彡されました。
お父さまが演芸評論家でエッセイストの江國滋氏(1934~1997)で、幼少期の頃から本に囲まれていたであろう井上荒野氏と似た環境のようですね。
お二人はとても仲良しなのでしょう。

江國香織氏も恋愛小説の女王として、多くのファンがいらっしゃいます。
同じ恋愛小説を描く女性作家の細部にわたる視点に、ああ、なるほど~とあなたも頷けるでしょう。
是非、文庫本の解説をお読みになられてくださいませ。

黄金の歌謡曲全盛の昭和という時代は、何て人々が歌と共に生きていたのだろうかと思わずにはいられません。
どろどろとした感情、どこまでも貫きたい欲望。
この作品で紹介された9曲は、メロディアスな曲調も加わって、カラオケで愛され続ける歌ばかりです。

井上荒野氏は、歌詞を見つめ、歌詞に触発されて、ご自身の才能をもってこれらの歌の世界に憑依されたのでしょうか。
どの恋愛も、表題の『あなたならどうする』につながるのです。
時代を超えて、小説と歌との融合を読者は体験できるのだと凛は思います。

これから秋が深まってゆきます。
読書の秋です。
秋の夜長に、井上荒野氏が提供する様々な恋愛模様を、昭和の歌謡曲と共にあなたもしっとりとご堪能されてみてはいかがでしょう。

今夜も凛からあなたにおすすめの一冊でした。(^-^)

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(日本語)文庫-2020/7/8井上荒野(著)
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