2022年10月29日土曜日

表情を読み取りながら楽しめるミステリー ~平野啓一郎『ある男』(文藝春秋、2018年、のち文春文庫、2021年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

こんばんは。(^-^)
あなたはお変わりありませんか。
凛はまたもや所用のために、大変ご無沙汰いたしております。m(_ _)m

前回の2作品ご紹介いたしました季節の盛夏はとっくに過ぎ去り、秋も深まっていく今日この頃です。
四季のある日本では三か月毎に季節が変わります。
半袖から長袖へ、朝晩は軽めのコートも必需品となりました。
本当に月日の経つのは早いものですねえ。

秋の夜長にミステリー小説を楽しまれていらっしゃるあなたへおすすめの小説があります。
芥川賞受賞・純文学作家が描くミステリー小説はいかがでしょう。
謎解きはもちろんのことですが、人物像が深く描かれており、登場人物の心理状態を知りたくなる世界に浸ってみませんか。

読者を先へ先へと導いてくれる小説をご紹介いたしましょう。
平野啓一郎(ひらの けいいちろう)氏の長編小説『ある男』(文藝春秋、2018年、のち文春文庫、2021年)です。

凛が持っている文庫本は、2021年10月15日付で第2刷です。
文庫本の第1刷が2021年9月10日付ですので、平野氏が如何に人気作家であることが良くわかりますね。

まずは、文庫本の帯の紹介です。
凛が持っている第2刷の文庫本の帯には、「読売文学賞受賞の感動作 映画化決定!(2022年公開)」と紹介されています。
「愛したはずの夫は全くの別人だった──」
書店でこの文庫本を手にして、ふむふむ、妻にとって夫の正体は一体何者だったのだろう?という素朴な疑問がわくように誘導されますよね!

帯には映画の出演者である安藤サクラさん、妻夫木聡さん、窪田正孝さんの写真が掲載されています。
凛が好きな俳優さんばかりなので映画も楽しみたいなと思いました。

帯の裏には「愛にとって過去とは何か?人間存在の根源と、この世界の真実に触れる文学作品。」
なるほど、純文学の平野啓一郎氏が描くミステリー小説なのだな、という期待感が出ます。

裏表紙の説明文からは、再婚して幸せな家庭を築いていた折、夫がある日突然事故で亡くなるのですが、夫が「全くの別人だったという衝撃の事実が……。」と興味をそそる文言が。
果たして夫は誰だったのか?
残された妻の葛藤が容易に想像できます。

文庫本の表紙は、積み木のように重ねて並べた男性のような人物が腰から折り曲げて佇み、頭を抱えて悩んでいるように思えます。
まるでモザイクのように見えます。
カバー彫刻は、アントニー・ゴームリー氏です。
デザインは、大久保明子(おおくぼ あきこ)氏です。

小説の内容に入る前に、予めひと言述べさせていただきます。
正直に告白いたしますが、凛は平野啓一郎氏の小説が長い間苦手でした。
平野氏が大学在学中の芥川賞受賞作品☆彡☆彡である小説『日触』(新潮社、1998年、のち新潮文庫、20002年)を読了して以来ですから、きっと食わず嫌いだったのかもしれません。
最後まで読まずに途中であきらめたこともしばしばありました。
凛にはなかなか平野氏作品の世界に入れなかったのです。

その理由はわかりませんが、凛とは合わなかったということでしょうか。
悲しいかな、凛の読書能力が平野氏の世界に到達できていなかったのでしょうね。

今回の作品の前の長編小説『マチネの終わりに』(毎日新聞出版、2016年、のち文春文庫、2019年)は最後まで読みましたが、恋愛小説にも関わらずあまり感動もなく、映画も観ておりません。
やはり合わないのかなあ、と……。(-_-;)

ところが、今回の『ある男』は表紙のデザインから入って、何だかとても面白そう、とビビビときたのです!
「凛さ~ん、読んでくださ~い。この作品は必ず楽しませてくれますからね!」と近所の書店の棚に並べられている文庫本が凛を呼んでいるのがわかりました。(^_^)v
凛は文庫本から届いた声を聴き、即座にレジに向かいました。

次に、作品の内容に入ります。
凛は映画出演の俳優さんたちを思い浮かべながら読みました。
苦手と思っていた作家の場合、顔の設定が明確になって読みやすいのではないか、と思ったからなのです。

「序」で、物語の主人公は「城戸さん」であると、「私」が語っています。
城戸(きど)という弁護士が出てきて、「私」との接点を語りますが、そこから怪しさもありますね。
この「序」の項は読了後、また戻って読み返す読者も多いかと思います。
凛は何度も読み返しました。

宮崎県のS市に在する老舗の文房具屋を営む実家に、離婚して一人息子の悠人(ゆうと)を連れて出戻りしてきた里枝(りえ)は、移住して林業に従事した谷口大祐(たにぐち だいすけ)と再婚しました。
里枝は横浜の大学に進学、就職し、建築家の卵と結婚していましたが、次男の遼(りょう)を病気で亡くしたことで夫と意見が合わずに離婚していましたので再婚になります。

里枝の実家の父親が急逝したこともあり、彼女は宮崎県の実家に戻ってくることを決意しました。
再婚した谷口大祐との間には花(はな)という女の子も生まれています。
里枝は実家の母親と同居し、文房具店を切り盛りしながら一家五人で暮らしていました。

谷口大祐の出自は群馬県の伊香保温泉にある旅館の次男坊ということでした。
彼は兄と折り合いが合わず、実家を出ました。
里枝と結婚した大祐は、真面目に働き、林業の社長さんにも気に入られていましたが、山で事故に遭い、突然亡くなってしまいました。

連絡を受けた大祐の兄の谷口恭一(たにぐち きょういち)が里枝の家を訪れてみると、弟であったはずの大祐の遺影が違うことに気がつきます。
では、亡くなった夫は誰なのでしょうか?
里枝と暮らしていた夫は「"X"」となっていました……。(文庫本、87頁以降)

横浜市在住の弁護士・城戸章良(きど あきら)は里枝の離婚調停の代理人を受けていた関係で、相談を受けたのでした。
そこから城戸の活躍が始まります。
城戸自身も出自と家庭内の問題を抱えながら、多忙な中、各地を飛び回って調べてゆきますが……。

予想だにしなかった事実が次々と明らかになっていく中で、里枝にも城戸にも疲労が溜まってゆきます。
さらに里枝の息子の悠人も育ちざかりな故、問題が出てきます。
過去と現在が複雑に絡まり、進んでは立ち止まり、また進んでゆきます。
凛も読みながら、先がとても気になり、頁をめくる動きが早くなりました。(^○^)

「序」では城戸が主人公として扱っていますが、凛は、城戸だけでなく里枝や大祐もこの物語の主人公であると思いました。
三人の登場人物の顔を、里枝役は安藤サクラさん、谷口大祐役は窪田正孝さん、城戸役は妻夫木聡さんという俳優さんたちに想定して読むと、表情など具体性があって内容が理解しやすかったです。
映画の俳優さんたちはどのような演技をするのかな、と映像を予想しながら読むという楽しみもありました。

例えば、文庫本97頁で、里枝は名無しの夫"X"となった遺影の目を見つめていますが、そのときの里枝の表情はどんなものであったでしょうか。
演じていらっしゃる安藤サクラさんの表情を想像すると、原作と映画との二重の楽しみが増えますね~ (^o^)

後はあなたが読まれてのお楽しみに。

作者の平野啓一郎氏は、前出しました小説『日触』を初めとして多くの作品を世に出されています。
お若い頃から作家として大活躍されていらっしゃいます!

今回の小説『ある男』は、2018年第70回読売文学賞☆彡を受賞されています。\(^o^)/
前年の2017年、小説『マチネの終わりに』で第2回渡辺淳一文学賞☆彡を受賞されています。

平野氏は「分人(ぶんじん)主義という独自の考え方をもたれており、上記の二作品もその中で存在を示されています。
これら二作品の先には小説『本心』(文藝春秋、2021年)があります。
一人の人間に備えもった様々な多面性を平野氏の視点で追求されていらっしゃるのでしょう。

凛は昨年、講演会で平野氏を直に拝見いたしました。
とても穏やかな表情でしたが、明確にご自分の意見をわかりやすく伝えていらっしゃいました。
今年47歳になられた平野啓一郎という大人の作家の作品を、過去の作品と共に読んでみようと思っています。
新たな発見を見出すのもまた読書の楽しみの一つですね。(^-^)

小説と同名作品の映画は、石川慶(いしかわ けい)監督、脚本は向井康介(むかい こうすけ)氏です。
11月18日(金)全国ロードショウです。
映画の公式サイトは、こちらです。
公開がとても楽しみですね~!
最近書店に並べられている文庫本の帯も映画の紹介のデザインに変わっていました。

今夜も凛からあなたへおすすめの一冊でした。(^-^)

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