2021年4月28日水曜日

元気印の迷老探偵コンビ ~中山七里『静おばあちゃんと要介護探偵』(文藝春秋、2018年、のち文春文庫、2021年)~

こんばんは。
南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださりましてありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

あなたの周辺に元気なご高齢者はいらっしゃいますか。

恐らく「はい!」が多いのでは。
この日本は少子高齢化社会の真っ只中を進んでいますからね。
元気溌剌なご高齢者は多いと思います。

凛の周囲にも「超」がつくほど元気な100歳を超えた方がいますよ~
凛の知人のベトナムから来ている留学生が「日本ノお年寄リハトッテモ元気デスネ!」と驚いていました。

凛が今回ご紹介いたします小説は、80歳の元判事の女性と、名古屋市在住の経済界の重鎮である70歳の男性の迷老探偵コンビが大活躍するミステリー小説です。
中山七里(なかやま しちり)氏の連作ミステリー短編集『静おばあちゃんと要介護探偵』(文藝春秋、2018年、のち文春文庫、2021年)で、全五話が収録されている連作短編集です。
まあ!兎に角全編にわたってこのお二人が大活躍されています。
事件の解決後は「お見事!天晴れ!」と称賛ものです。

凛が相変わらずいつも利用しています近所の書店の文庫本の新刊本コーナーでこの本をみつけました。
表紙は、柴田純与(しばた すみよ)氏のイラストで、野中深雪(のなか みゆき)氏のデザインです。

文庫本初版の帯の表表紙側には「80歳の元女性判事」と「70歳の経済界のドン」の「老老コンビ」と紹介されています。
凛は「老老コンビ」と呼ぶのは、主役のお二人に失礼ではないかと思うほど、お二人とも大変若々しいですよ。
特に、お二人とも気概が半端ありません!!(^○^)

主役の一人目は、80歳になる高遠寺静(こうえんじ しずか)さん。
元東京高裁の判事を退官して16年になります。
静さんは、日本で20番目の女性裁判官としてご活躍されたとのことです。
そして今回、名古屋市の名古屋法科大学の客員教授に就任するため、名古屋市の賃貸マンションに単身で住むことになりました。
ご主人は既に他界されています。

二人目は、70歳の香月玄太郎(こうづき げんたろう)さん。
不動産会社〈香月地所〉の代表取締役並びに商工会議所の会頭、町内会の会長ほかたくさんの肩書をお持ちの名古屋圏の経済界の重鎮で、所謂「地元の名士」なのです。
玄太郎さんは脳梗塞で倒れたため車椅子で、介護士の綴喜みち子(つづき みちこ)さんと共に行動することが多いです。

収録作品は、全五話です。
第一話 「二人で探偵を」
第二話 「鳩の中の猫」
第三話 「邪悪の家」
第四話 「菅田荘の怪事件」
第五話 「白昼の悪童」

ミステリー短編小説ということもあり、各篇お話の中身はあなたが読まれてからのお楽しみにとっておきましょう。
殺人、万引、親子の断絶、詐欺、老々介護、外国人就労、地元開発に伴う闇……
現代日本の諸問題が浮き彫りに描かれています。
合わせて、名古屋圏の経済、言葉や習慣、文化についても描かれています。

「ええーーっ!まさか!この人が犯人??」
「あらまあ、こんなトリックが!!」
と各篇で驚かされますよ~ (◎_◎;)

全編を通しての凛の印象は、登場人物の「静」と「動」の対照です。
「静」の静さんと「動」の玄太郎さんの微妙な関係が、行間から読みとれて面白いです。

名前でわかるように、静さんは普段は物静かですが、法曹界に在籍された方だからなのか、生来の性格なのか、とても思慮が深く、すぐには言葉には発しません。
ところが講演の壇上では、日本社会の問題をわかりやすく理路整然と説き、力説します。
凛は矍鑠とした静さんがとても素敵だなと思います。

対して、玄太郎さんは口が悪くて、がんがん怒鳴ります。
地元のドンということもあり、警察にも顔がきき、警察の上層部からまだ若い警察官まで呼び捨てで階級による差別をいたしません。
つまり、誰に対しても言いたいことを言い、真剣に怒り、どなる人です。
読者は彼の言質になるほどと唸ります。

玄太郎さんはストレートに発しますので一見口が悪い人に見えますが、彼独特の愛情が込められていることが読者には伝わります。
行動力もあり、素早く、まさに「動」の玄太郎さんです。
彼は介護士のみち子さんや神楽坂美代(かぐらざか みよ)さんにはとても優しく接するところから、男心の切なさが見られます。

静さんは玄太郎さんの性格や言動をよく理解しているように凛は思います。
彼女は玄太郎さんをうまく前面に出して、決して自分が目立たないようにしながら、二人で事件を解決に導きます。

この作品が文藝春秋から単行本が発刊されたのが、2018年11月ですから、執筆はそれ以前になります。
初出は、小説誌『オール讀物』2017年2月号、5月号、6月号、8月号、9月号、12月号、2018年3月号、4月号です。
文庫本として今年の2月に刊行されたので、静さんと玄太郎さんはもう少し加齢されていらっしゃるでしょうか。
いいえ、お二人はとても若々しいので、実年齢などは気にせずに、読者も接しましょう。

文庫本の解説は、瀧井朝世(たきい あさよ)氏です。
解説でわかることは、このお二人は既に刊行された作品で登場していることです。
二人の過去がわかり、読書の幅が広がりますよね~

高円寺静さんは、連作短編集『静おばあちゃんにおまかせ』(文藝春秋、2012年、のち文春文庫、2014年)で登場済みです。

香月玄太郎さんは、『さよならドビュッシー前奏曲(プレリュード) 要介護探偵の事件簿』(宝島社文庫、2012年)で登場済みです。
この作品は、『要介護探偵の事件簿』として、2011年、宝島社から単行本で刊行後、改題・加筆修正して文庫化されています。

さらに二人には続編があり、2020年、文藝春秋から『銀嶺探偵社 静おばあちゃんと要介護探偵2』が単行本で刊行されています。
二人の周辺にはどれだけの事件が発生するのかわかりませんが、お二人のご活躍が続いていますね。

作者の中山七里氏は、2009年、小説『さよならドビュッシー』(宝島社、2010年、のち宝島社文庫、2011年)で第8回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞☆彡されています。
2013年には、利重剛氏監督、橋本愛さんの主演で同名で映画化されましたので、ファンも多いでしょう。
他に多数のミステリー作品をご執筆、複数の作品が映画化やテレビドラマ化されています。

主役のお二人にはいつまでもこのまま元気でいて欲しい。
若者たちから老害と呼ばれないためにも、元気印の迷老探偵を続けて欲しいと願う凛です。
二人の過去とその後も読めるなんて、作品展開が楽しめますね。(^○^)

ズバズバ容赦なく言葉に出す玄太郎さんと、思慮深く判断力を発揮する静さん。
二人のキャラクターがますますパワーアップされますように。

今夜も凛からのおすすめの一冊でした。(^-^)

************
(文春文庫な71-4)(日本語)文庫-2021/2/9中山七里(著)
************

2021年4月11日日曜日

隠れ家夜食カフェに行きたい!(その2) ~古内一絵『女王さまの夜食カフェ ─マカン・マラン ふたたび』(中央公論新社、2016年)~

こんばんは。
南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
とともにどうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

春ですね~
あなたはいかがお過ごしでしょうか。
そろそろ気分も変えていきたいところですね。
ウィルスから狙われませんように、免疫力を高めていきましょう。

おかげさまでこの4月で凛のりんりんらいぶらり~は2年目に入りました。
凛は昨年の4月にこのブログを立ち上げました。
訪れてくださった皆様には大変感謝いたしております。
ご閲覧ありがとうございます!
あっという間の1年間でした!
本当に月日の経つのは早いものですね。

この1年間に凛のブログでご紹介いたしました本は30作品になります。
いろいろなジャンルの本もご紹介したいですね。
これからも凛のりんりんらいぶらり~を何卒よろしくお願いいたします!m(_ _)m

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

あなたには大切にしたい本がありますか。

昨年2020年の8月14日配信の「隠れ家夜食カフェに行きたい!(その1)」で、凛からあなたにこの質問をいたしました。
あなたは覚えていらっしゃいますでしょうか。

今回、初めて凛のブログを訪れていただいた方は、「隠れ家夜食カフェに行きたい!(その1)をご覧になられていただけると幸いです。
凛が大切にしている本について書いています。
その本は、古内一絵氏の小説『マカン・マラン 二十三時の夜食カフェ』(中央公論新社、2015年)でした。
単行本で4巻シリーズとなっているうちの第1巻で、今でも4巻とも文庫化されていません。
多くのファンから長く愛されている本ですね~ (^-^)

書店に足を運び、日本の小説の単行本の棚の前に立ちますと、あらあら不思議!
古内一絵氏の小説『マカン・マラン』シリーズ第1巻~第4巻までの4冊から、ほんわかとした光が放たれているのがわかりますよ~ (^o^)
多くの書店の棚には4巻がきちんと揃って並んでいます。
4巻たちは、あなたから手にとっていただくのを待っているかのように。

元エリートサラリーマンで、今はドラァグクイーンのシャールさんが営んでいる「マカン・マラン」という夜食カフェ。
スタッフのダジャさんやお客さまたちとの温もりのある会話に、いつしかお客さまは個々の悩みを吐露し、シャールさんの心のこもった手作りの料理の数々に、すっかりこのカフェの虜となってゆきます。
ここでは昼間はダンスのドレスの受注と販売をしています。
スタッフのダジャさんは頼もしい役割を担っています。

今回凛がご紹介いたします本は、続く第2巻で、古内一絵氏の小説『女王様の夜食カフェ ─マカン・マラン ふたたび』(中央公論新社、2016年)です。

シャールさんのカフェ「マカン・マラン」の不定期な開店と同様、凛からもこの本のシリーズは不定期な間隔にての配信としています。
凛は決して忘れていたわけではありませんので、ご了承くださいませ。
面白くて既に全巻読んでしまわれた方もいらっしゃるかもしれませんね。

凛が持っている第2巻は2020年6月の第9刷です。
こちらの本はデパート内にあった書店で購入しました。

表紙は、イラストレーターの西淑氏の絵です。
美味しそうなトルコライス!
凛の胃袋にスイッチが入りそうです。(^○^)

帯は赤い色で、表表紙側には、「自分のことを"つまらない"とか言っちゃ駄目。」と書いてあります。
今回も悩みを抱えたお客さまたちのご登場のようです。
帯の裏表紙側には、4種類のメニューが紹介されています。

第2巻も、4話の構成で、4人の悩める人たちが登場します。
第1巻でシャールさんは病気になりますが、第2巻では元気になって戻ってきます!
よかった!!
読み進んでいくうちに、シャールさんの過去や現在が少しずつわかってきます。

第一話 「蒸しケーキのトライフル」
派遣社員として働いている女性が、職場での曖昧な立場に自信を失くしています。
彼女は憂鬱な社内ランチをどのようにして乗り越えていくのでしょうか。

第二話 「梅雨の晴れ間の竜田揚げ」
東京で漫画家になる夢に向かって、漫画家アシスタントとして働いている男性がいます。
ある日突然、地方で旅館業を営んでいる実家の兄が亡くなったという知らせがありました。
夢と現実との間で、彼がとった行動は……。

第三話 「秋の夜長のトルコライス」
タワーマンションに居住し、一人息子の子育てに悩む専業主婦にはあらゆるしがらみがありました。
一時はシャールさんの店「マカン・マラン」の敵側となってシャールさんたちを糾弾します。
彼女はどのようにしてしがらみからの呪縛を解いていくのでしょう。

第四話 「冬至の七種うどん」
シャールさんの旧友である柳田先生は、高校生の娘さんの大学進学について悩みます。
彼はシャールさんから「冬至の七種(ななくさ)」(262頁)についての意味を教えられます。

第二話から第四話まで、「親子のありかたについて」が隠れたテーマであると凛は考えました。
作者から「あなたならどうしますか?」と読者に問いかけていくのが伝わります。

悩める四人の登場人物だけでなく、シャールさんにも自身の病気やご家族との軋轢など深刻な悩みがあります。
彼らの悩める姿勢が等身大のように読者の心の鏡に映し出されて、「うん、ある、ある!わかる!」と共感できる方も多いのではないでしょうか。
だからこそ多くのファンから支持されているのでしょう。

タイトルに「ふたたび」とついているのが納得できます。
「つまらない」なんて言わずに、自信をもって生きていこう!

それにしても、今回の第2巻全編に登場する「マカン・マラン」の様々なメニューも、どれも美味しそうですよ~!!(^o^)
上記の四つのメニュー以外にもいただきたいメニューばかりです。

シャールさんは言います。
「私の賄いは一応、マクロビオティックを基本にしてるけど、それだっていい加減なものなのよ。」(209頁)
彼の料理に対するスタンスから美味しさと心地よさが上手く調和されて、程よい味わいを作り出しているのでしょう。
隠れ家夜食カフェの「マカン・マラン」のファンが増えるはずですね!

以上、第2巻のご紹介でした。
次回の第3巻もお楽しみに~(不定期ですが……。)(^-^;

今夜も凛からのおすすめの一冊でした。(^-^)

「マカン・マラン」の特設ページは、こちらです。

************
中央公論新社(日本語)単行本-2016/11/16古内一絵(著)
************