2024年3月1日金曜日

人生の無駄遣いではないよ ~町田そのこ『52ヘルツのクジラたち』(中央公論社、2020年、のち中公文庫、2023年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
お休み前のひとときに、どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

3月、春の季節の到来ですね!
暖かくなれば着る服も軽くなります。
優しい色合いの服に包まれて、心も軽~くなりたい凛です。(^O^)

「いえいえ凛さん、花粉症で体調がすぐれず、春のファッションを楽しむどころではないんですよー」
確かに花粉症の季節ですよねえ。(-_-;)
身体と向き合って、体調に気をつけていきましょう。
あなたはいかがお過ごしですか。

この3月に映画が公開されるということでメディアで話題になり、原作の小説を読んでみました。
町田そのこ(まちだ そのこ)氏の小説『52ヘルツのクジラたち』(中央公論社、2020年のち中公文庫、2023年)です。
この作品は2021年、第18回本屋大賞の第1位を受賞☆彡しています。\(^o^)/

はじめに、凛がこの本を知ったのは、2021年の本屋大賞の受賞☆彡からです。
以来ずっと読みたいなと思っておりましたが、町田氏の他の作品を先に読んでいました。
3月からの映画公開を機に、近所の書店で購入いたしました。
凛が購入したのは文庫本で、2023年の12月15日発行の第9刷です。
文庫本の初版が同年5月25日ですから、人気度の高さがわかりますね!

次に、帯や表紙についてです。
一番目は、帯からです。
凛が持っている文庫本の第9刷は、映画公開前ということで帯も映画の宣伝になっています。
「映画化決定!」
「2024年3月全国公開」
表表紙側には、主演の杉咲花(すぎさき はな)さんの写真が掲載されています。
監督の成島出(なるしま いずる)氏のお名前も紹介されています。
ワクワクしますね~!(^O^)

第9刷の帯の裏表紙側には、「2022年本屋大賞 連続ノミネート!」で単行本の小説星を掬う(すくう)』(中央公論新社、2021年)の概要が掲載されています。

二番目は、表紙についてです。
凛の第9刷の文庫本の表表紙は、紺色を地色として動物たちや小物などがたくさん描かれています。
中には生ビールやソフトクリームも!
小説を読めばどこで登場するのかがわかりますよ~
温かみのある可愛いイラストです。
見方によっては、イラストの全体が教会のステンドグラス風にも思えます。

裏表紙側の説明文では、「52ヘルツのクジラとは、」から始まり、その説明が書いてあります。
それが何なのか気になる方は、是非文庫本を手にして読まれてください。
「孤独ゆえ愛を欲し、裏切られてきた彼らが出会い、魂の物語が生まれる。」(同書)で終わっています。

カバーイラストは、福田利之(ふくだ としゆき)氏です。
カバーデザインは、鈴木久美(すずき くみ)氏です。

解説は、ブックジャーナリストの内田剛(うちだ たけし)氏です。
「感動の先を見せてくれる『絶景本』」というタイトルの解説文です。

それでは、内容に入ります。
物語は全8章で成立しています。

第1章の「最果ての街に雨」は、大分県の海の見える町で、主人公の貴湖(きこ)が越してきた古民家の修繕をする場面から始まります。
住宅の修繕業者の村中真帆(むらなか まほろ)は彼女に不躾な質問をします。
驚いている彼女を見て、村中の部下のケンタは申し訳なさそうに上司の村中をけん制しながら村中を擁護します。
地元の住人たちにとっては、突然東京から移住してきた貴湖を謎めいていて訳ありだと思っています。
彼女は東京での辛い過去の体験を秘めていました。

食料品や日用日を買うにしてもお店は「コンドウマート」(文庫本第9刷、9頁他)しかない集落なので、スマホも運転免許も持っていない貴湖にはなかなか不便な所です。
働いていないにも関わらず経済的には余裕のあるように見える彼女にまつわる噂は、コンドウマートに集まる高齢者の間でもちきりとなっていました。
そのことを村中は彼女に直接的に伝えます。
彼女にとって村中は貴重な情報提供者ともいえましょう。

「あんた、人生の無駄遣いやがね」(同書、27頁)
ある日、貴湖がコンドウマートで買い物をすると、その店で売られている派手なムームーを着た高齢の女性から強く言われました。
どうやら若い女性が働かずにしてのんびり過ごしている姿に腹を立てている様子なのです。
移住者に対してよそ者扱いをしているのは見え見えと受け取られても当然です。

ここで凛は疑問をもちました。
「人生の無駄遣い」とは何を根拠にして捉えるのでしょうか?
時間や労働、経済の視点からでは、少しの猶予も与えられないものでしょうか?

貴湖は何故に他人からこのようなことを言われないといけないのかと戸惑ってしまいました。
価値観の違いにおいて、人との距離の難しさがわかる箇所です。
近年は都会から地方への移住を奨励している自治体もあります。
移住を決断するには一時的な滞在の旅行者とは全く異なる覚悟をもたなければいけない、と凛は考えました。

貴湖の記憶の中から度々蘇る「アンさん」(同書、16頁)という人物がいます。
迷ったり、困ることがあると必ず「アンさん」と彼女はアンさんに問いかけて、アンさんからの答えを探ります。
アンさんとは一体何者なのでしょうか。

第2章の「夜空に溶ける声」では、古民家の住人となった貴湖の家に少年が訪れます。
彼女は少年に「キナコ」(同書、61頁他)と自己紹介をします。
少年は喋ることができない模様で、庭の地面に自分の名前を『ムシ』(同書、同頁他)と書きます。
少年ムシはどうも虐待を受けているのではないか、と貴湖は直感します。
何故ならば、彼女にも家族から受けた耐え難い過去の体験があるからです。

ここからキナコと少年の物語が始まるのです!(^O^)

貴湖や少年、そしてアンさんなどの経歴については、読んでいくうちに追い追い読者は知ることとなります。
彼女らにまつわる複雑な事情は、壮絶な辛い過去の鋭利な刃となって読者に突き付けます。
章が進む度に彼女たちの過去と現在が交錯しながら進みます。
貴湖の過去は度々フラッシュバックとなって彼女を苦しめます。

この表現形式は町田氏の小説の特徴である、と凛は考えます。
ある時は、ダイレクトにこれでもかというくらいにドーンと激しい言葉を用いて読者を刺激します。
次々に知ることとなる驚愕な過去と現在進行形の現実に読者はおののくでしょう。
これほどまでに辛い仕打ちを登場人物に体験させないで欲しい、と願ってしまうほどにです。

またある時は、謎めいた形で描き、オブラートに包んだような印象を与えます。
え?登場人物たちは何を秘めているのだろう?
もっと先が知りたい!という欲求が生じます。 
それはそれはじれったいほどに……。(^^;

町田氏は物語の随所に伏線を張り巡らせています。
作者からの強弱のあるメッセージ性を読み取ることは、複雑な伏線があるからこそ成立する技法といえましょう。
伏線は様々なグッズも含まれます。
これらの技法によって、読者は先が気になって頁をめくる手がやまないのがわかりますね。

作者の町田そのこ氏について。
町田氏は、2016年、小説「カメルーンの青い魚」で第15回女による女のためのR-18文学賞の大賞を受賞☆彡されました。\(^o^)/
この作品は『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』(新潮社、2017年、のち新潮文庫、2021年)に収録されています。
今後のご活躍が大いに期待される作家のお一人です。

最後に。
貴湖は東京から大分県の海の見える町に移住した当初は自ら孤独を求めていました。
ある日、彼女の家に少年が現れてから彼女は再生してゆきます。
彼女の友人や地元の人たちなどが仲間となって物語はどんどん進みます。
人とのご縁の大切さがわかる小説です。
読後には、タイトルの「52ヘルツのクジラたち」の意味がわかり、感動となってあなたに迫ってくるでしょう。

「人生の無駄遣い」について、読者の心の在り方によって答えはその人それぞれの胸のうちにあるのではないでしょうか。
コスパ、タイパに絡めとられることなく、その自身にとっての価値観を求めていくことこそ人生における必要な時間ではないか、と凛は考えます。

文庫本の表紙の裏には、もう一つの物語が印刷されていますよ!
爽やかな読後感まちがいありません!!\(^o^)/
とても得した気分になれます。
あなたも文庫本の表紙を外して読まれてくださいね!

そして、映画も楽しみです!
是非劇場で観たいですね。(^O^)

今夜もあなたにおすすめの一冊でした。(^-^)

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