2022年7月2日土曜日

「老後のマネー小説」2作品を読んでみた(その2) ~松村美香『老後マネー戦略家族!』(中公文庫、2017年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

前回の(その1)(ブログはこちらからの続きです。

凛は、「老後のマネー小説」2作品を読みました。
前回の(その1)からの説明が重複しますが、読んだ小説は以下の2作品です。
1作品目は、垣谷美雨(かきや みう)氏の小説『老後の資金がありません』(中央公論新社、2015年、のち中公文庫、2018年)です。
2作品目は、松村美香(まつむら みか)氏の小説『老後マネー戦略家族!』(中公文庫、2017年)です。

(その2)では、2作品目の松村美香氏の小説『老後マネー戦略家族!』(中公文庫、2017年)をご紹介いたします。

凛はネット書店で購入しました。
タイトルの「家族」には「ファミリー」とルビがふってあります。
文庫本書き下ろしで、凛が持っている初版の文庫本には帯はついていません。

裏表紙の説明文からは、「崖っぷち」山田(やまだ)家の「財テクワールド」3,000万円!の奮闘劇が描かれているということがわかります。
なるほど、不安ばかりに覆われてはいけませんよね。
資産運用の話なのかなと期待できそうです。(^_^)v

文庫本の表紙は、全体が黄色の中、山田家の4人家族が机に横に並んで座っており、各人が腕を組んだり、ノートPCとにらめっこしたりなどして、金策を練っている様子がうかがえます。
机上には、ブタの貯金箱や電卓、筆記用具などいろいろな物がたくさん置かれてあります。
この四人の頭上をお札や硬貨がたくさん舞っています。

表紙のカバーイラストは、北極まぐ(ほっきょく まぐ)氏です。
カバーデザインは、bookwallです。

山田家のご主人は、メーカー勤務の技術畑で実直な50代の会社員です。
ご主人は会社の同僚の早期退職を知り、これまでの自身の生き方について考えさせられることになります。
何故ならば、計画的な資産運用で退職後の生活の目途をつけていた同僚の表情が実にさばさばしていて明るかったからです。

山田家の奥さんは45歳の専業主婦です。
長女は大学生で自宅から通学しています。
銀行員の長男が社会人となって家族も安心していた矢先、唐突に退職して実家にこもってしまったことから、山田家の人たちに様々な目覚めが生まれます。

さらに、ご主人は意図しない方向で転勤を命じられます。
ご主人はベトナムへ出張した折り、現地に派遣されていた先輩や後輩との出会いから、入社以来頑なだった会社や仕事に対する価値観に変化が生じてきます。

長男と図書館で出会った少年とその妹、そして少年らの母親との出会いが山田家には新たな発見が生まれます。
奥さんがパートで働き始めたコンビニでの青年スタッフとの出会いなど、様々な人々との交流から、凝り固まっていた価値観と心理状態がほぐれていく過程がわかります。

また、ご主人の実家の問題が生じますが、親族との軋轢はどこのご家庭にもありそうな会話が飛びかいます。
都内で美容室を多角経営しているご主人の姉の存在が光ります。

松村氏がこの小説で読者に伝えたい事柄は、作品の前半に集中して太字で描かれていることが特徴です。
全編において数字が具体的に出てくるので、投資への期待感があります。
「前へ、前へ」と背中を押される感じがあります。(^o^)
つまり、データが古いため、円安が進んでいる現在に適用できるかどうか決して定かではないということです。
やはり財テクを行なうには、個人の学びと責任が必要だと考えます。

この山田家の現在はどうなっているのでしょうか。
経済に詳しい読者には、逆に2017年当時の山田家の財テクが正しかったかどうか、検証できるという読み方もあるでしょう。

作者の松村美香氏は、国際開発コンサルタントとして、ビジネスの最前線で実践に研鑽を積まれていらっしゃる方です。
2008年に、小説『ロロ・ジョングランの歌声』(ダイヤモンド社、2009年)第1回城山三郎経済小説大賞を受賞☆彡されています。
この作品は改題して『利権聖域─ロロ・ジョングランの歌声』で2012年、角川文庫から出版されています。

大変な状況である中、目標を設定して、前向きに捉えて進む家族の姿に逞しさを覚えます。
様々な人々との出会いも「ご縁」ということで良い方向に進む山田家の各人の明るさには共感を覚える読者が大勢いらっしゃることでしょう。

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以上、(その1)と(その2)の2作品をご紹介いたしました。

最後に、(その1)と(その2)について、まとめます。
社会人となり、結婚して子供2人をもうけ、車と住宅を取得し、住宅ローンを払い続けながら定年まで勤めあげるという「中流意識」は、どこかの段階で崩壊するかもしれないということですね。
もしかしたら最初から「中流意識」など幻想に過ぎなかったのかもしれません。

まして、老親の問題が突然生じ、それに伴って親族との確執も乗り越えてゆかなければなりません。
成長した子供たちは不安定な時代を生きています。
加えて、家族の健康の問題もあります。
雇用の安定さえままならない現代群像劇の展開により、決して他人事ではない状況で両作品とも読者に迫ってきます。

「風の時代」の訪れとともに、これまで抱いてきた「安定」「中流」という価値観について、読者に問うている小説であると凛は考えます。
果たしてお金だけに価値を置いてよいものでしょうか。
しかしながら「老後のマネー」は現実の問題として老いとセットで確実に迫ってきます。
現代の日本人には決して避けては通れない道でしょう。

あなたはどのように受け入れていかれますか。

凛は、やはり宝くじは買い続けていこうと思いました! ( ;∀;)
宝くじの制度がなくなったら、あら、どうしましょう。

今夜も凛からあなたへおすすめの小説、2作品でした。
今回はいつもの2倍、ちょっと長かったでしょうか~
次回もまたよろしくお願いいたしますね。 (^-^)

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「老後のマネー小説」2作品を読んでみた(その1) ~垣谷美雨『老後の資金がありません』(中央公論新社、2015年、のち中公文庫、2018年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

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お元気でいらっしゃいますか。
はて、梅雨はあったのかしら、と思ってしまうくらいにあっという間に6月が過ぎ去り、日本はすっかり真夏となりました。
アイスが食べた~い!
アイスコーヒーが飲みた~い!
あまり冷たいものばかりをいただくと体が冷えてしまいますね……。(^-^;

メディアを通して電力逼迫による節電を毎日呼び掛けられて、余計に暑さを感じてしまうのは凛だけでしょうか。
家電量販店ではエアコンの品不足だとか。
熱中症の対策も然り、部屋の換気不足によるコロナ対策も然り、運動不足による体力問題と、次々に不安材料が増している現状ですねえ。

おまけに円安も加わって、食料品や日用品の値上げが次々と発表されています。
買物に行って、少しずつの値上がりを感じますねえ。
いずれも生活必需品ですので、日々の積み重ねによって、やがては生活に支障を来すことに!
なんてことにもなりかねない漠然とした不安感で覆われる昨今……。(-_-;)

かつて老後2,000万円問題も報じられましたね。
凛にはまだまだ先の話かとも思っておりましたが、「光陰矢の如し」と時の経つのは早いですから、必ず凛にも老後が訪れるのは明らかですものね。
それ故に、文学作品を通して「老後のマネー」について考えてみようと、「老後のマネー小説」2作品を読んでみました。

1作品目は、垣谷美雨(かきや みう)氏の小説『老後の資金がありません』(中央公論新社、2015年、のち中公文庫、2018年)です。
2作品目は、松村美香(まつむら みか)氏の小説『老後マネー戦略家族!』(中公文庫、2017年)です。
後者は文庫本書き下ろしで、タイトルの「家族」には「ファミリー」とルビがふってあります。

凛が何故「老後のマネー」という同じテーマを扱った2作品を連続して読んだのかと申しますと、両作品には共通点が多く、一見似たような家族の設定ですが、書き手によってどのような「老後のマネー」問題を迎えて対策をとるのかについて興味をもったからです。
世間では両作品と似た構造のご家族が多くいらっしゃると思いますが、中に入ってみるとそれぞれに事情があるかもしれません。
世間様に容易には話せない現状を赤裸々に描いているという点で、読者が「我が家もそうです!」「どこも同じようなものですな」と共感を呼ぶ作品といえるでしょう。

2作品の家族設定は、4人家族で夫は50代の会社員、60歳の定年まであと数年というところが共通しています。
妻はパート勤務と、専業主婦です。
両家とも長男と長女がいて、社会人と大学生。
両家とも都会に持ち家があり、戸建てとマンションの違いはありますが、住宅ローンの返済ももうすぐ終わるという設定です。
一見老後はまずまず安泰とも思える設定なのですが、物語はここからジェットコースターのように激しく乱高下していくのです。
さて、両家にはどのような展開が待っているでしょうか。

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まずは1作品目です。
垣谷美雨(かきや みう)氏の小説『老後の資金がありません』(中央公論新社、2015年、のち中公文庫、2018年)です。
垣谷氏については、「断捨離」編で(ブログはこちら)でご紹介しておりますので、割愛させていただきますね。

凛が持っている本は文庫本の初版です。
街の書店の新刊コーナーで発見して購入しました。

凛の初版本の黄色い帯の表表紙側には、「お金がない!」と太くて大きな文字で目立つように描かれています。
「頑張る家計応援小説」ということで、単行本化された2015年当時では珍しいテーマだったのかもしれませんね。
また、この文庫本の解説文を書いている室井佑月(むろい ゆづき)氏が帯で「熱く推薦!」されています。

文庫本の表表紙の絵には、一家の奥さんが中心にいて悩みを抱えている様子がうかがえます。
奥さんの周りに背広姿のご主人、伴侶と仲良く並んだ娘の結婚式と立派なウェディングケーキ、舅の遺影と香典、そして椅子にデンと座ってお茶を飲んでいる姑が描かれていて、何枚ものお札がひらひらと空中を舞っているのがわかります。

文庫本のカバーイラストは、高寄尚子(たかより なおこ)氏です。
カバーデザインは、田中久子(たなか ひさこ)氏です。

あらすじとしては、後藤(ごとう)家は都心部のマンション暮らしで、当初1,200万円の貯蓄がありました。
ご主人の定年まで残り数年ですし、ご主人の退職金も出る予定ということで、「安泰な老後」がご夫婦には予測されていました。

しかし、さにあらず!
ここからが一家には人生の急展開となるのです!!(@_@)

安定しているものと信じていたご主人と奥さんの仕事がなくなります。
暫くの期間に失業保険があるとはいえ、それが切れた後は無収入となるのです。
長女の豪華な結婚式、舅の葬儀と墓の建立で多額の出費が重なり、貯蓄は減り続けるばかりです。
大学生の長男の学費もあります。

姑は浅草の家を処分して得た2億円の資金で高級な老人施設に舅と入居して贅沢な暮らしを続けていましたが、舅の死により施設を退去して、後藤家の四人が暮らすマンションに同居することになりました。
ご主人の妹夫婦との軋轢もあり、てんやわんやの忙しい日々を送ります。
さあ急に家計が逼迫した後藤家はどうなりますか……。

物語の後半からの展開が「え?まさか!そちらの方向にいっちゃうの?」と読者の予想を見事に裏切るかもしれません。
姑の行動や長女の婚姻後の暮らしに対して、奥さんと長年交際している友人や、明朗快活な長男の存在が光を放つことになりますか。

文庫本の解説は、作家の室井佑月氏です。
解説のタイトルは「こういう本が読みたかった」です。
室井氏が再婚される前の解説文でしょうか。

垣谷氏の作品のタイトルやテーマにはセンセーショナルな題材が多く、いつもドキッとさせられます。
この作品も一般的な主婦目線で描かれており、後藤家の奥さんを等身大と感じる女性の読者も多いのではありますまいか。

作品は「老後のマネー」がテーマですから、当然「お金」は家族を構成するための要となります。
後藤家の奥さんはいつも「お金がない」ことを意識して暮らしています。
凛が後藤家の奥さんだとしたら、どのような対策をとるかしら……。 ((+_+))

しかし、視点を変えてみると、「お金」だけでは得られない新しい価値観が生まれてくるのではないかなとも考えたりしました。
この作品を10年後に再読してみると、また違った感覚になるのではないかと、新しい時代の到来という期待感ももちました。
ひゃあ、実際はもっと大変だったりして……。(@_@。

この作品は、2021年に同名のタイトルで映画化されていますね。
前田哲(まえだ てつ)監督、天海祐希(あまみ ゆき)さんの主演です。
凛はまだ観てませんが、あなたはご覧になられましたか。

(その2)へつづく。

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