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2024年11月8日金曜日

大切なものは、ゆるやかに、愛おしく、切なく、移ろいゆく ~津村記久子『水車小屋のネネ』(毎日出版、2023年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
お休み前のひとときに、ごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

大変ご無沙汰いたしております。南城 凛で~す!(^O^)
あなたはお元気でしたか。
凛も元気にしています。

ブログを5月に更新してから5か月以上もお休みしてしまいました……。(-_-;)
この期間に凛のりんりんらいぶらり~を訪れてきてくださった方々に感謝いたします。m(__)m
凛はしばらくの間、充電していました。

大変お待たせいたしました。
凛のブログ、再開します!!
今後とも何卒よろしくお願いいたします!<m(__)m>

日本列島の夏は暑かったですね!
暑い期間が長くて、夏を引きずっていた凛ですが、気がつけば今年もあと2か月もありません。
書店や雑貨店の売り場では来年のカレンダーや手帳、日記帳などの人気商品が続々と減っています。まだの方はお早めに。
季節商品の売り場から時節を感じる凛です。
いつまでも足踏みしているわけにはいきません。
時は待ってはくれませんから。(^-^)

今回ご紹介いたします本は、40年に及ぶ時の流れの中で、母親と別れて二人で支え合って真摯に生きる理佐(りさ)と律(りつ)の姉妹の成長物語を基軸にした小説です。
姉妹を温かい目で見守る周りの人々のそれぞれの人生を織り込み、人間と会話のできるヨウムのネネとの交流をエッセンスとして描かれています。

読者は彼女らに寄り添い、時には怒り、時には不安を覚え、そして涙します。
読後は、まるで夢を見ていたのではないかと不思議な感じを抱きながら、心が温まる確かな感覚が体感できる物語です。

津村記久子氏(つむら きくこ)氏の長編小説『水車小屋のネネ』(毎日新聞出版、2023年)です。
この作品は現在のところ単行本のみの発刊となっています。

凛が持っている単行本は、2024年4月10日付の第13刷です。
初版が2023年3月4日の刊行です。
初版発刊から約1年過ぎての4月10日で13刷となっていますので、大変人気のある作品であるのがわかりますね。(^O^)

はじめに、凛がこの本を入手したのは、この作品が今年の4月10日に本屋大賞で第2位となったことが決め手となりました。
初刊本の刊行以来、書店で目にしてずっと気にはなっていたものの、485頁と分厚い本ということもあってなかなか購入するには至りませんでした。
やはり本屋大賞第2位で話題になったことは大きかったですね~
凛は30分ほど歩いたところにある全国的な書店で購入しました。

次に、帯や表紙についてです。
一番目は、帯について。
書店によっては凛が持っている本の帯とは異なるデザインになっているものが並べられている所もあるかもしれません。
ここでは凛の持っている本の帯に言及いたしますね。

凛が持っている本、13刷の帯の表表紙側には、「2024年本屋大賞 第2位」の文字が大きく目立ち、下のほうには「第59回谷崎潤一郎賞受賞作」ほか、文学賞の順位などが書かれています。

同帯の裏表紙側には「〝誰かに親切にしなきゃ、人生は長く退屈なものですよ〟」「ネネに見守られ、変転してゆくいくつもの人生──」など、心にささるような言葉が書いてあります。
実際に読んだ後にはいつまでも心に残ってジーンとした訳でありまして……。(^-^)
イラストレーターの北澤平祐(きたざわ へいすけ)氏による二人の姉妹とネネのイラストがとてもほっこりさせてくれます。

二番目の表紙についてです。
表紙の新しい楽しみ方!
あなたがこの本を購入されたら、本から表紙を外してみましょう。(^O^)

表紙は全体にびっしりと細部まで描かれています。
左側から右側へと流れるような描き方は、まるで平安時代の絵巻物のようです。

表表紙側の最も中心部にあたる部分では、水車小屋の前で姉妹らしき二人がネネと一緒にいます。
木の根元には、本を開いている律と、ラジカセを持って音を楽しんでいる友だちが仲良く座っています。
ネネもラジカセの音を聞いているようです。

表表紙側の下部では、蕎麦屋さんの店頭で経営者のご夫婦と理佐らしき女性が働いており、ネネがその様子を見ています。
赤いクルマには赤いベレー帽の女性がハンドルを握っており、後部座席には律と思われる女の子とネネが一緒に座っています。

その右上では、スケッチブックを持った赤いベレー帽の女性と律らしい女の子が立っていて、二人をネネが小枝から見つめています。
スケッチブックにはネネらしき鳥が描かれています。

裏表紙側の上部では、小学校から帰宅する子供たちが笑顔でいます。
それから若い女性が赤い自転車を押しながら男性と話して歩いています。
自転車のかごにはネネがいます。

その右側にはカンバスに向かって絵を描いている赤いベレー帽の女性と、傍らには若い女性がいて、肩にネネがちょこんと乗っています。
その上部では、飛び立つネネを男性と二人の女性が見送っています。満開の桜が綺麗です!

裏表紙側の下部では、柿がたくさんなっている木の下で本を読んでいる女性と男性。
その右側では、雪が降る中、向き合っている男女が真剣な表情で話している様子です。

読む前からストーリー性を感じられる、とても手の込んでいる表紙となっています。
全体的に淡く優しい色合いで、人々の顔の表情が温かく、見ているだけでも優しい気持ちになれそうです。
表紙に物語が詰まっています!

勿論、書店では表紙は外さないでくださいね。
購入後のお楽しみにとっておきましょう!(^O^)

装幀は、中島 香織(なかじま かおり)氏です。
イラストは、北澤 平祐(きたざわ へいすけ)氏です。

作中には北澤氏のイラストが描かれていますよ。
読後も頁を開き、北澤氏の世界に何度も触れてしまいたくなった凛です。(^O^)

それでは、内容に入りますね。
物語は、第一話の1981年から始まります。
そして10年後の1991年が第二話、さらに10年経った2001年が第三話、第四話が2011年、エピローグが2021年と、10年毎に物語が展開してゆきます。

第一話の1981年、18歳の姉の理佐と、8歳で小学校2年生の妹の律が駅のホームに立って特急列車が来るのを待っている場面から物語は始まります。
そこには親の姿はありません。
姉と妹の二人だけで特急列車で地方へと向かうのです。

8頁にはその時の様子を描いた挿絵があります。
理佐が持っているのはボストンバッグ一つ、律はランドセルを背負い、律の両手には本が詰まった布のバッグを持っています。

姉妹は親元から離れて引越し先へ向かっていたのでした。
理佐の胸中は、これから必要に迫られる家電や生活費用などの算段が現実の問題として何度も突き付けられて穏やかではありません。

理佐は18年の人生において大きな選択を決断したのでした。
これから律と二人で暮らしてゆく。
これから律を自分が育ててゆく。

え?理佐にそんなことができるの?
ほっこり系の物語と違うの?
「はい」「いいえ」と、どちらの要素も含まれる物語です。
何故ならば、厳しい現実と、ほっこりと心温まる世界が交錯している作品だと凛は考えます。

具体的に触れてみましょう。
まず、厳しい現実のほうからです。(-_-)
「入学金が振り込まれておりませんが、」(同書、15頁)から始まる理佐と律に迫るただならぬ現実が具体的に示されています。
母親とパートナーの男性の姉妹に対する辛辣な言動と行為がこれでもかというくらいに執拗に続きます。
理佐は短大に進めず、アルバイトに行かなければならなくなりました。

ある夜、アルバイト先から帰宅途中の理佐は、児童公園のベンチにたった一人で座っている律を発見して驚きます。
「『だめじゃないの!なんで夜にこんなとこにいるの!』」(同書、23頁)
「お姉ちゃん?と怯えてベンチから飛び退いて走り去ろうという体勢を取っていた律は、突然走り寄ってきて目の前で止まった理佐を見上げて目を見張った。」(同書、23頁)

この時、本が大好きな律は理佐から声をかけられて驚き、ベンチで読んでいた本を地面に落としてしまいました。
その本が何だったのかは伏せておきますね。
この後も律の読んでいる本がたくさん出てきます。
律には本が友だちのような存在だったのでしょう。

この時の様子は、22頁の挿絵でわかります。
姉妹の置かれた環境に対する怒りや、耐え忍ぶしかなかった二人の悲しみが凛を覆いました。(T_T)
律が家に入れない状態だったことがわかり、理佐は大変衝撃を受けました。
姉妹にとって辛いことがまだまだ続きます。

姉妹の母親は毒親なのか……。
作者は悪人を明確にして、読者にわかりやすく投げかけます。
受ける側の読者は、理佐と律に感情移入をしやすくなるでしょう。
時には激しい痛みを感じ、傷つき、えぐられるほどの衝撃もあります。(-_-;)
それらに耐えられる読者の修養となるこれからの40年の重みを感じつつ、頁は進んでゆきます。

では、ほっこりするほうにいきましょう。(^O^)
姉妹が乗った特急電車の行き着く先は、地方のそば屋でした。
理佐は律を連れて、働く目的でそば屋に面接に行ったのですが、「思ったより山深い場所だったけれども、自然に恵まれている、という意味では本当にいいところだった。」(同書、33頁)というのが理佐の第一印象でした。
「特急を降りると、そこにあるわけでもないのに川が流れる音が聞こえたことを、理佐はその後もずっと覚えていた。」(同書、同頁)

このそば屋で働くには「『鳥の世話じゃっかん』(同書、32頁)という業務があります。
「鳥」とは、後に出てくるヨウムのネネです。
ここから理佐と律、喋るネネとの物語が始まります。

姉妹にはそば屋の店主のご夫婦、地域の人々、学校の先生などとの触れ合いがあります。
登場人物たちの背景にある悲喜こもごもに寄り添いながら、読者もリアルタイムで彼らと共に進んでいきます。(^-^)

生きていくための厳しい現実の数々と、それらの対極にある夢物語のような温かい世界が幾重にも織り成してゆきます。
こんなことあるの?
こんな展開があるの?
決して読者を飽きさせることがなく、気がつけば40年の月日が流れてゆきます。

10年毎に描かれる時代背景には、こういう音楽が流行ったなあ、このような小説を読んだものだったなあ、などと読者が大いに共感できる部分が盛り込まれています。
変わりゆくもの、変わらないもの、変わって欲しくないもの……。

凛もあなたも同じ時間を生きています。
人生の機微を感じつつ、あっという間に時は過ぎゆくものだ、ということに気づかされる物語でもあります。
1981年の10年後から40年後の2021年までの40年間の壮大な物語。
読後のあなたは、本から外した表紙を何度も眺めたくなることでしょう!(^-^)

作者の津村記久子氏は、2009年、小説「ポトスライムの舟」(『ポトスライム』(講談社、2009年、のち講談社文庫、2011年))第140回芥川賞を受賞☆彡☆彡された他、太宰治賞、川端康成賞、織田作之助賞、芸術選奨賞など多くの受賞歴があります。☆彡☆彡☆彡 \(^o^)/

津村氏「水車小屋のネネ」でも2023年、第59回谷崎潤一郎賞を受賞されています。☆彡☆彡 \(^o^)/
注目度が非常に高い作家です。

まとめ。
理佐と律の姉妹は母親との軋轢から非常に厳しい環境に置かれていましたが、新しい環境に身を置き、強く逞しく生きてゆきます。
一方では、現代の誰もが抱えている悩みや苦しみが述べられているものの、他方では、溢れんばかりの幸福度満点のお話が織りなされている物語です。
理佐と律の姉妹とヨウムのネネだけでなく、作中の登場人物を通して読者はあらゆる感情をもって彼女らの一人一人と寄り添うことになるでしょう。

帯の「〝誰かに親切にしなきゃ、人生は長く退屈なものですよ〟(同書帯)という文面が読後に染みわたります。
40年もの間に、大切なものを育み、真摯に生きていく人々からあなたは何を受け取るでしょうか。

最後に、帯の説明についてひと言。
帯は出版社の宣伝なのだから帯の説明は不要、というご意見もあります。
凛は、帯には読者に伝えたい言葉が凝縮されている、と考えます。

帯の説明のところでもふれましたが、書店によっては『水車小屋のネネ』の表紙とは別に、もう一枚の表紙がまるごと重ねられている単行本が並べられているかもしれません。
表紙とは異なるイラストの表紙サイズの帯です。
「帯の豪華版」「とっておきの一枚の絵」と言っても過言ではないでしょう。
北澤氏のファンにはたまらない本となりますね!\(^o^)/

本に対する思いは帯だけではありません。
凛は一冊の本に携わる関係者の方々の熱意を感じます。
凛のりんりんらいぶらり~を訪れてくださったあなたに少しでも関心をもっていただけたらいいですねえ。 (^-^)

今夜もあなたにおすすめの一冊でした。(^O^)/

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津村記久子(著)毎日新聞出版(2023/03発売)
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2024年5月15日水曜日

あなたもクルマに乗って人生の冒険をしてみます? ~篠田節子『田舎のポルシェ』(文藝春秋、2021年、のち文春文庫、2023年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りんです。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
お休み前のひとときに、どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

あなたはGWはいかがお過ごしされましたか。
連休が長かった方には生活のリズムが乱れて、却って疲れがたまっている方もいらっしゃるのでは。
5月も後半に入りますねえ。
初夏から夏への移行期間で爽やかな季節を迎えています。
7月15日の海の日まで祭日がありませんので平坦な日々を送ることになりますが、乗り切っていきましょう!\(^o^)/

凛は部屋の模様替えをするため、蔵書の整理に追われました。
今回は文庫本を中心に多くの本を整理しました。
400冊以上です……。 
木製の文庫本ラックの1架を思い切って処分しました。

本の整理はまだ完全に終わってはいないので、部屋には段ボール箱が何箱も積み重なっていますが……。(-_-;)
どの本にも思い出が詰まっていて、泣く泣く手放すのはそれはもう辛いものがありますが、、(T_T)
保管するスペースには限りがありますので、気持ちを切り替えて前向きに捉えていきますね。(^O^)

このような重い本を運搬していただくのも運送会社と配達員の方々のおかげですね!m(__)m
流通を担っているのはクルマがあってこそです。

GW中にはクルマでドライブを楽しまれた方も多かったことでしょう。
今や自動運転など今やハイテクマシーンと化したクルマです。
最新の技術が私たちの安全を守ってくれています。
私たちの暮らしにとってクルマは絶対に欠かせない存在ですね。(^-^)
今回ご紹介します本は、ある非日常における時点で、クルマがあって良かった!と思った人々の物語です。
人生の分岐点に立つ主人公にとってクルマが重要なアイテムとなります。
クルマとの忘れられない思い出となっていることでしょう。

篠田節子(しのだ せつこ)氏の中編小説3篇が収められている作品集『田舎のポルシェ』(文藝春秋、2021年、のち文春文庫、2023年)です。
凛が持っているのは文庫本で、2023年10月10日付の初版本です。
単行本は、2021年4月に刊行されています。

はじめに、凛がこの本を入手したのは、おなじみ近所の書店の文庫本新刊の棚でした。
『田舎のポルシェ』
変わったタイトルだなあと思ったのが第一印象でしたね~

次に、帯や表紙についてです。
一番目は、帯について。
凛の文庫本の初版本の帯には、表表紙側に黒色の太字で「日常は冒険に変わる」と目立って書かれています。
その前に「ひとたびアクセルを踏み込めば」と。
おやおや穏やかではありませんね~
安全運転でお願いしますよ~

小さく黒色で「人生の岐路に立ち 秘めた思いを抱いて 一歩踏み出す人々を描く 3篇のロードノベル」
青色で「笑って、泣いて、ハラハラして 現代人へ送るエール」(以上、文庫本新刊帯)
なるほど~ これは読後に爽快感が得られそうです!

二番目は、表紙について。
表表紙は、全体に青色がかっている中で、中心部に白い軽トラがデーンと横断歩道の真ん中に鎮座しています。
その軽トラの荷台には、紫色の作業着を着た男性が白いヘルメットをかぶって立っています。
助手席には女性が座っており、窓からこちらを見ているか、あるいは他のことを考えているかのようにも見えます。
全体が青みがかっており、交差点付近の人影もまばらなので、早朝、夜明け間近かもしれませんね。

裏表紙側の説明文では、表題作の「田舎のポルシェ」についての概要が紹介されています。
主人公の翠(みどり)は「実家の米を引き取るため、助っ人の車で岐阜から東京へ向かうことになった(以後省略)」と。
彼女の前に現れたのは「軽トラに乗った強面ヤンキー!」
「さらには大型台風が迫り──。」
「往復1000キロ、波乱だらけの強行軍を描いた表題作」(以上、文庫本初刊)

Oh!これは篠田氏独特の世界。
まさしくハラハラドキドキのジェットコースターに乗っているかのごとく読者を飽きさせないロードムービーの小説ですね。

文庫本のイラストは、太田侑子(おおた ゆうこ)氏です。
デザインは、城井文平(きい ぶんぺい)氏です。

では、内容に入ります。
以下の中編3篇が収められています。
「田舎のポルシェ」
「ボルボ」
「ロケバスアリア」

文庫本の解説は、細貝さやか(ほそがい さやか)氏です。

第1話「田舎のポルシェ」
文庫本の裏表紙の説明文で概要はつかめると思います。
会社員の増島翠(ますじま みどり)は、東京郊外の実家の米農家の娘です。
事情があり、台風が迫る中、大量の米を岐阜まで運ばなければならなくなりました。
知人の紹介で瀬沼(せぬま)と名乗るヤンキーの恰好の男性と軽トラで移動するのです。

米農家や自営業の苦悩、家庭の事情など個々に事情を抱えており、クルマの走行距離が延びるうちにだんだんと明らかになってゆきます。
二人は悪天候の中で米を無事に運んでいけるのでしょうか……。
背景に台風という制限を課して、そこから脱出する術の見事さ。
篠田氏の真骨頂ともいえる作品です。

第2話「ボルボ」
共に定年組である斎藤克英(さいとう かつひで)と伊能剛男(いのう たけお)はそれぞれ異なる元大手企業の会社員でした。
二人は妻の趣味がご縁となり、定年後に知り合いました。
両者の定年後の暮らし向きは一見余裕があるように見えますが、両家の事情と懐具合が微妙に交差しています。

斎藤は伊能が長年運転してきたボルボで北海道まで同乗することになります。
旅先で思わぬ事件が発生します……。
互いの腹の探り合いがだんだんと顕著になっていく様が絶妙です。

第3話「ロケバスアリア」
畔上春江(あぜがみ はるえ)は、孫の藤森大輝(ふじもり だいき)が運転するロケバスに乗って東京から浜松市の湖月堂(こげつどう)ホールまで向かいます。
春江が趣味とするオペラをホールで歌い、画像をDVDに収録するためで、DVD制作専門家の神宮寺(じんぐうじ)も同乗しました。
ロケバスには化粧やドレスの着替えなどできるようにしつらえてあります。
ちょうどコロナが流行していた時期で、ホール並びに移動にも制約が伴いました。

ホールでは雨が降り、悪天候に見舞われました……。
そこから物語が発展してゆきます。
人生模様を語り合い、理解し、受容していく過程が読者には心地よく響きます。
物語の最後はこんなオチがあったのかと驚き、読者は感動で胸がいっぱいになること間違いありません!

作者の篠田節子氏については、2020年5月2日付の「新鮮で美味しいサラダを求めて」のタイトル(ココにてご紹介していますので割愛させていただきます。

最後に。
安定感のある篠田節子氏のクルマに関するロードノベル中編小説3篇は篠田氏の世界が堪能できます。
まずは、篠田氏特有のハラハラドキドキする設定があります。
加えて、登場人物たちが抱えている様々な事情が決して特殊なわけではなく、誰にでもあてはまりそうな部分もあるので、共感を得る読者も多いでしょう。

作中人物たちは目の前の問題をどうやって突破していくのでしょうか。
彼ら、彼女らがとった思考と行動は一見無謀かもしれませんが、成就された時の爽快感が何ともすがすがしいものです!\(^o^)/
登場人物たちにエールを送りたくなる作品です。

文庫本の巻末286頁の「謝辞」を是非お読みくださることをお勧めいたします!(^-^)
篠田氏のご執筆にあたる誠意が読者に真摯に伝わり、再度感動をもたらすのではないかと凛は考えました。

クルマとの付き合い方を大切にしたいですね。
人生の冒険とまではいかなくても、クルマがあって良かったと思うことは多いものです。
勿論、安全運転でいきましょう! (^^)v

今夜もあなたにおすすめの一冊でした。(^-^)

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2024年1月29日月曜日

今年こそ読破したい!紫式部の人生と並行して読める帚木ワールドの『源氏物語』 ~帚木蓬生『香子(かおるこ)(一)紫式部物語』(PHP研究所、2023年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらりにようこそお越しくださり、ありがとうございます。
お休み前のひとときに、どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

2024年がスタートして早くも一か月が過ぎようとしています。
今年の日本は元日からショッキングな出来事ばかり起きています。

ああ、今日も一日無事に過ごせました。感謝。
という安堵感で眠りに入れる日常の生活が如何にありがたいことでしょう。
平穏で過ごせる日々が最も幸せなのだと実感させられます。

合わせて、非常時のための危機感と水や食料などの備えが大事だということも再認識しないといけませんね。
あなたはいかがお過ごしでしょうか。

世の中はAIなどの新しい技術を導入する時代に既に入っています。
コスパ重視の世の中、スピードは年々早くなってきています。
しかしながら、敢えて古来から受け継がれている普遍的な事柄に注目したい、という欲求がわいてくるのは生身の人間だからでしょうか。

今年のNHKの大河ドラマは『光る君へ』ですね。
凛も毎週楽しんで視聴しています。
あなたはご覧になられてますか。

主演の吉高由里子(よしたか ゆりこ)さんが後の紫式部こと「まひろ」を演じておられます。
まひろさんはどのような経緯で『源氏物語』を執筆するようになるのでしょうか。
彼女の背景でうごめく公家政治の権力とは……。
テレビドラマですので、日本史の教科書で学んだ内容とは若干異なる部分もあるでしょう。
ひとつの娯楽作品として楽しみたいですね~ (^-^)

『源氏物語』全五十四帖。
あなたは読まれましたか。
実のところ凛は最後まで読んでおりません……。(^^;
凛はこれまで谷崎潤一郎(たにざき じゅんいちろう)訳、瀬戸内寂聴(せとうち じゃくちょう)訳、林望(はやし のぞむ)訳に挑戦してきましたが、いずれも途中までの断念組です。
これは現代語に訳された先生方の問題では決してありません。
誤解なきよう、あくまで凛個人の問題なのです。

他にも関連の解説書やガイド本など何冊も蔵書として保管しています。
とは名ばかりで、所謂万年積ん読状態ですね……。(^▽^;)

紫式部はどんなことを考えて人生をおくったのでしょうか。
『源氏物語』はどのようにして書かれたのでしょうか。
作中に出てくる和歌の内容をもう少し知りたいですね。

このような素朴な疑問を解決できるという、まるごとひとつにまとめられた小説があります。
紫式部の人生と『源氏物語』と和歌の解説などが同時に読める大変ありがたい作品が昨年末に出版されました。
帚木蓬生(ははきぎ ほうせい)氏の大長編小説『香子(かおるこ)(一)紫式部物語』(PHP研究所、2023年)です。
書下ろし作品になります。

タイトルに(一)が付いていることからわかるように、この作品は(五)になるまでの五か月の間、毎月連続して出版していくというPHP研究所の一大プロジェクトです。
第一巻は461頁と大変分厚い本ですが、慣れていくうちに気が付けば最後まで一気に読めました。\(^o^)/
漢字にルビがふってありますので読みやすくなっています。

はじめに、凛がこの本を知ったのは某ラジオ番組の本の紹介コーナーを視聴したことによります。
番組に生出演された帚木氏ご本人のお話によりますと、長い間従事されていらした精神科医院のお仕事をご卒業されて、専業の作家になられたとのことでした。

以前にNHKのテレビ番組で帚木氏を拝見した時は落ち着いた話し方の先生といった印象でしたが、ラジオのお声からは非常に明るく快活な方で、この作品への強い情熱が伝わり、新たな帚木ワールドを堪能できるなと思った凛でした。
本は市内の中心街の書店で購入しました。

そもそも「帚木蓬生」というペンネームからもわかることですが、「帚木」は『源氏物語』第二帖の「ははきぎ」、「蓬生」は第十五帖の「よもぎう」から構成されています。
帚木氏『源氏物語』に対する強い意志が伝わりますね!

次に、帯や表紙についてです。
一番目は、帯についてです。
凛が持っている本は、2023年12月26日刊行の初版本です。

表表紙側には、「千年読み継がれる物語は、かくして生まれた」と白地に赤い文字で目立つように書いてあります。
表表紙側の左下には、赤い枠に中に白字で「大河ドラマの主人公・紫式部(香子)の生涯×『源氏物語』」と書いてあり、大河ドラマ放映と同時期の刊行ということで、非常に期待感がわきますね~

帯の裏表紙側には、「五ヵ月連続刊行!」の下に、第一巻から第五巻まで簡単な説明文が紹介されています。
第一巻のところをご紹介いたしましょう。
「香子の物語」では、「父とともに越前へ、そして物語を書き始め……」と黒字で書いてあります。
その右の『源氏物語』では、「桐壺~末摘花の帖」(以上、同書)と赤い字で書いてあり、第一巻は六帖まで読めるのだなと識別できるようになっています。


二番目は、表紙についてです。
表表紙は、紫式部の上半身が描かれています。
裏表紙は、文机の前に座っている紫式部が描かれており、『源氏物語の有名な冒頭文「いづれの御時にか、……(中略)すぐれてときめき給ふ有りけり。」という文字が書いてあります。
表表紙、裏表紙とも格調高い仕上がりになっています。

装丁は、芦澤泰偉(あしざわ たいい)氏です。
装画は、大竹彩奈(おおたけ あやな)氏です。

それでは、内容に入ります。
作品の第一巻は、第一章の「香子(かおるこ)から第十五章の「懸想文(けそうぶみ)」までが収録されています。
凛が注目した四点について挙げます。

一点目は、「香子」という名前についてです。
第一章の始まりで、香子は当初は「きょうし」「きょうこ」と呼ばれていたところが、8歳の春に、父君の藤原為時(ふじわらの ためとき)から今後は「かおるこ」と呼ぶと決めたことを告げられました。
亡き実母が命名した「香子」。
これまで改まった席においては「きょうし」で、身内の間では「きょうこ」と呼ばれていました。

香子は、呼び名を替えることになった理由を父君に尋ねます。
父君は、「そなたの資質は、誰が見ても、他より抜きん出ている。」(第一巻初版本、5頁)と言って、香子の素晴らしい資質を認めています。
その上で、「そして誰もが認める、ひとかどの人物になる。その資質が薫(かお)るからだ。ちょうど、今匂ってくる紅梅(こうばい)のようにな」と。(同、5頁)
香子はまだ8歳なので深い意味はわからない様子でしたが、父君から高い資質を認められたことは彼女の生涯の自信につながったと捉えることができます。

二点目は、血縁と文学についてです。
歌人としては、香子の父方の曽祖父である藤原兼輔(ふじわらの かねすけ)がいます。
兼輔は中納言の位に出世し、醍醐(だいご)天皇の後宮に娘の桑子(くわこ)を入内させ、章明(のりあきら)親王をもうけさせます。
その時の歌が『後撰和歌集』に収められているとして、また、桑子の入内の話が『大和物語』に収められており、さらに歌集の『兼輔集』の存在など、香子はこれらを暗唱するなど繰り返し学んできました。

父方の祖父の藤原雅正(ふじわらの まさただ)や伯父の藤原為頼(ふじわらの ためより)も歌人でした。
香子には幼い頃から、伯父の為頼が所蔵する和書だけでなく、父君が収集していた漢籍など、和漢の多くの書物に触れる機会があったことが第一章に記されています。

第一巻の後の章になりますが、香子が『源氏物語』の執筆の際、父君や母君に読ませて感想を述べてもらいます。
両親が彼女の背中を後押ししてくれたことは創作の自信につながったことでしょう。
特に、母親が積極的に感想を述べてくれることが印象深いです。
このように幼い頃から文学を嗜む家庭環境から、香子の執筆に対する意欲が増したことは大きいですね。

また、『蜻蛉日記』との関係があります。
『蜻蛉日記』の作者は、藤原道綱(ふじわらの みちつな)の母です。
第二章「蔵人(くろうど)」では、香子の祖母から『蜻蛉日記』の作者が、香子の実母の父の藤原為信(ふじわらの ためのぶ)の兄である藤原為雅(ふじわらの ためまさ)の正妻の姉にあたる女性であることを再度言われます。
要は遠い親族が女流文学の先駆者で、日記文学の作者であったことは、香子にとって「書くこと」を意識した存在であったであろうと読者に知らしめています。

三点目は、死生観です。
香子は第一巻目から身内の死に遭遇しています。
生母、姉君の朝子(あさこ)、最初の結婚をした平維敏(たいらの ただとし)との死別があります。
自分を守ってくれ、愛してくれた人との別れは辛いものです。

「誠に人の世は、野分(のわけ)や雲、雨と同じで、人の手ではどうにも動かせない。その摂理(せつり)の下(もと)で、翻弄(ほんろう)され続けるのだ。」(同、230頁)
香子はこの世のはかなさ、無常観を体験し、やるせなさを感じたのではないでしょうか。

四点目は、帚木蓬生訳の『源氏物語』についてです。
まずは、素朴な疑問点をあげましょう。

何故に香子は『源氏物語』を執筆することになったのでしょうか。
香子は何の文学作品を手本にしたのでしょうか。
香子の執筆する過程を知りたいですね。

などの疑問点が読者には持つ方も多いかと思います。
これらについては、第十一章の「起筆」前後で読者は捉えていくことでしょう。
あなたが読まれてからのお楽しみに!(^^)/

帚木蓬生氏の訳の特徴として、気づいた点が二つあります。

一つ目は、主語が明確に書かれていることです。
凛は学生時代に『源氏物語』の長い一文の中で「主語を示しなさい」と設問に出てきたことを思い出しますねえ。
『源氏物語』は主語が省略されている文が多いため、主語が明確であると理解が深まりますね。

二つ目は、和歌の説明が本文中に簡潔にされていることです。
例えば、第十二章「雨夜の品定め」には、『源氏物語』第二帖の「帚木の訳が掲載されていますが、光源氏が小君に託した歌

「帚木(ははきぎ)の心を知らでその原の
   道にあやなくまどいぬるかな」(同、293頁)

の後に、あらかじめ歌の意味を現代語で説明した後で、
『古今和歌六帖』の、園原や伏屋(ふせや)に生(お)うる帚木の ありとてゆけどあわぬ君かな、を下敷きにし、」(同、同293頁)
と、女君が返歌するまでの経緯が丁寧に書いてあります。

このように和歌の一首ずつに説明書きが訳の本文中に書いてありますので、本文に解説書が合体したような感覚で読者は自然な形で読み進むことができるのです。
凛は和歌の嗜みがありませんので、これは大いに助かりますね。(^O^)

帚木蓬生氏については、凛のりんりんらいぶらり~で2020年7月14日付「日本の文字の始まりを知る」の項で『日御子(ひみこ)上・下巻』(講談社文庫、2014年)(ココ)に掲載していますので、こちらの項では割愛させていただきます。

最後に。
帚木蓬生氏の作品『香子(一)紫式部物語』は、紫式部の生涯を描いた物語と、『源氏物語』の現代語訳と、和歌の解説が合体した大長編小説を一度に読めるという楽しみ方ができます。
PHP研究所から、2023年12月26日発刊の第一巻から第五巻まで、毎月一巻ずつ発刊されるという一大プロジェクトです。
NHKの大河ドラマ『光る君へ』と並行して読むと、歴史文学としても理解が深まるというものでしょう。

『源氏物語』をまだ読まれていないあなた、どうしようかなと迷っているあなた、凛のように途中までのあなた、是非この機会にお気軽にトライしてみませんか。
会話文など現代の話し方と同じように表現されていますので肩こりしませんよ。

第十三章「越前の春」では、香子の弟の惟通(これみち)の名前の一字違いで、『源氏物語』光源氏の従者を惟光(これみつ)と設定した点について、香子の母君から指摘されたことが書いてあります。
「図星だった。書いていて、咄嗟に浮かんだ名前が惟光だった。」(同、354頁)
そうだったのかあと、あらためて紫式部の家族に対する温かい情愛が伝わってほのぼのとしました。
この後に展開する物語もきっと新しい発見があるだろうな、と期待感でいっぱいになった凛でした。

第二巻の刊行ももうすぐです。
大変楽しみにしています!
今年こそ『源氏物語』を読破します!\(^o^)/

今夜もあなたにおすすめの一冊でした。(^-^)

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PHP研究所-2023/12/13帚木蓬生(著)
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2021年3月29日月曜日

ビールと料理と謎解きの三点セット ~北森 鴻『花の下にて春死なむ 香菜里屋シリーズ1〈新装版〉』(講談社文庫、2021年)~

こんばんは。
南城 凛(みじょう りん)です
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださいましてありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

春になりましたね~ (^o^)
桜前線も北上。
自粛緩和での花見ですが、あなたはどのように楽しまれましたか。
凛は混雑している場所には行かず、ご近所を散策しながら桜見物をしました。

早いもので、満開の桜も春の嵐であっという間に葉桜になりそうです。
満開を迎えるまでのワクワク感も良いけれど、散り際の桜も風情がありますね。
見事に咲ききった満開の桜!
ああ、何て美しいのでしょう!
いつまでもこのまま咲き続けて欲しい!

満開の桜の花々はあっという間に過ぎてゆきます。
桜の花びらがひらひらと風になびいて散ってゆく姿に、日本人は自分の人生を折り重ねて思いにふけるのでしょう。
来年もまた美しい桜の開花が楽しめますように。(^-^)

日本には四季のうつろいがあります。
春の「木の芽時」の頃には体調にも変化がみられがちです。
このような季節の変わり目には気分転換が必要ですね~

美味しいお料理の一品にビールを添えて、上質な大人のミステリー小説を堪能するのはいかがでしょう。
凛が今回ご紹介いたします本は、北森 鴻(きたもり こう)氏の連作短編小説『花の下にて春死なむ 香菜里屋シリーズ1〈新装版〉』(講談社文庫、2021年)です。
(はなのもとにてはるしなむ かなりやシリーズ1 しんそうばん)
この作品は、1998年11月に講談社から単行本で刊行、のち2006年4月に講談社文庫で文庫化されたものを、2021年2月に新装版として刊行されました。

凛はいつもの近所の書店の文庫本の新刊コーナーで発見しました。
満開を過ぎた桜の花の下で、ベンチに座って花を眺めている若い女性の表紙の絵に魅入ってしまいました。
イラストレーターのtoi8(といはち)氏の装画で、桜色の優しさの中に切なさが込められていて、散っている桜の花びらが印象的です。

文庫本の帯の表表紙側には、「人生に必要なのは、(省略)料理とビール、それから、ひとつまみの謎。」と紹介されています。
わーお!凛が大好きな三点セットで~す!\(^o^)/
料理とビールに謎解きですって!!
なるほど、この三点セットは人生に必要なアイテムなのかあ!

帯の裏表紙側には、香菜里屋(かなりや)シリーズとして、今年の2月から5月まで毎月4ヵ月連続で講談社文庫から刊行するとのこと。
「♯北森 鴻を忘れない」と書いてあります。
え?どういうことでしょう?

後に知りましたが、北森 鴻氏は2010年に48歳でお亡くなりになられています。
凛はこれまで北森氏の作品を全く読んだことがなく、今回初めて読むことになりました。
近年、出版不況と言われる状況下において、きっと良い作品だからこそ、北森氏の没後10年以上経過しても、出版社は新たに新装版として刊行するのでしょうね。
これもひとつの出合いですね。

この本は、以下6篇の連作短編集となっています。
「花の下にて春死なむ」
「家族写真」
「終の棲み家」
「殺人者の赤い手」
「七皿は多すぎる」
「魚の交わり」

東京の三軒茶屋にあるビヤバー「香菜里屋(かなりや)」のマスター・工藤が提供するビールと美味しそうな一皿に舌鼓をうちながら、店に集う人々との会話の中から謎解きの面白さを満喫できる設定になっています。

作中の謎には様々な種類があります。
常連客同士の共通の知人の死にまつわる謎、客同士の会話の中から生じる間接的な謎、客が過去に出会った人物に対する謎、現在発生している事件にまつわる謎、葬られたはずの過去の謎解きなど、様々な謎が出てきます。
謎ときの中心人物は常連客で、マスターの工藤は実にさりげなく、目立たない存在で、対比となっています。

しかし、工藤の推理の思考回路は瞬時に働いており、彼の時間軸の中において、彼が打ち出した結論の確認が大半であると捉えることができます。
謎解きの結論にたどり着くまでの客同士や工藤との会話がとても面白く、読者はまるでその場に同席しているかのように時間の共有を楽しめます。
工藤が導き出した結論が見事な論理展開を示してくれ、客だけでなく、最後には必ず読者を唸らせてくれますよ。

凛は以下の四点に注目しました。

まずは、三段階のアルコール度数のビールです。
工藤は客の様子を把握して、適切な度数のビールを提供しています。
凛も工藤が選んでくれたビールをいただきたいものです!
決して酔い過ぎず、心地よくほろ酔わせてくれそうです。(#^^#)

二点目は、お料理です。
工藤が提供する料理のピリリとしたエッセンスが、謎解きの小道具のようにも思えて、実にピタリと合うのです。

例えば、合鴨の脂身でつくられたお吸い物。
白髪葱を添えているため、とてもさっぱりしているとのこと。(文庫本新装版、110頁参照)
濃い味付けだけれども、アルコールの疲れを適度に流してくれて、謎解きを巡る余地を充分に残してくれる、そんな工藤の配慮が何よりも有難いです。(*'▽')

三点目は、文化の香りです。
表題作の「花の下にて春死なむ」を例に挙げますと、この表題はある歴史上の歌人が詠んだ短歌がベースとなっています。

俳句の自由律句の同人仲間である片岡草魚(かたおか そうぎょ)の死に関しての謎解きが始まります。
身元引受人がおらずに、しかも本籍地も不明という故人をめぐり、「彼は一体何者であったのか?」という疑問に対して、フリーライターの飯島七緒が故人の過去を丹念に調べてゆきます。
故人が残した日記に綴られた俳句を基に、出身地であろう某地方の図書館での調査など実に地道に細かく調べていく過程が素晴らしいです。
この他、各篇の随所に文化の香りが込められています。

四点目は、時間の流れです。
この作品が単行本で刊行されたのが、1998年11月。
ということは、北森氏が作品をご執筆されたのは刊行年の前ですから、現在から遡って二十数年前の物語世界が展開しています。

新装版の巻末の文庫版解説で、ライターの瀧井朝世(たきい あさよ)氏が述べていらっしゃいますが、当時の「新玉川線」の呼称で、田園都市線に組み込まれる2000年以前の話です。(同書、306頁参照)

第六篇目の「魚の交わり」にも手書きのノートが重要アイテムとなっていて、緩やかな時間の推移を基軸にして推理を突き進めてゆきます。
そして、表題作である第一篇目の「花の下にて春死なむ」とリンクしていきます。

作品全体に流れる緩やかな時間は、ネットなどで直ぐに検索できる現代社会との違いを認識せざるを得ません。
これが読者には心地よく、読書の楽しみといえるでしょう。

以上、凛の四つの注目点でした。

北森 鴻氏は、1995年、小説『狂乱廿四考』(東京創元社、1995年、のち角川文庫、2001年)で、第6回鮎川哲也賞☆彡を受賞して作家デビューされました。
今回ご紹介しました『花の下にて春死なむ』で、1999年、第52回日本推理作家協会賞短編および連作短編集部門を受賞☆彡されました。
他にも多くの作品を遺していらっしゃいます。

ご存命であるならば、計り知れないほどの小説の楽しさを読者にご提供してくださっていることでしょう。
凛にはとても残念でなりません。
ご活躍当時の北森氏との時間の共有はできませんでしたが、今に至り良い出合いがあったことを節に嬉しく思います。

いつの間にか過ぎ去ってしまい、どこかに置き忘れてきたかのような時間の流れにふと気づかせてくれるビアバーの「香菜里屋」で、工藤がそっと差しだしてくれるビールとお料理と謎解きの愉楽をこの後も続けていきたいと思う凛です。
上質な大人のミステリーとして楽しめます。

ビールと料理と謎解き、人生に必要な三点セット、あなたもいかがですか。
5月までの4ヵ月連続刊行が楽しみです!

今夜も凛からのおすすめの一冊でした。(^-^)

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2020年9月27日日曜日

昭和歌謡と恋愛模様

こんばんは。
南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

あなたは歌謡曲がお好きですか。
カラオケで思い切り歌うのはお得意ですか。
昨今は新型コロナウィルスの影響で、一時期はカラオケも自粛の対象となり、なかなかカラオケで発散できないとお嘆きでいらした方も多いかと思います。

「歌は世につれ、世は歌につれ」
と申しますが、これはカラオケに行くとよくわかります。
気持ちよさそうに得意な歌を歌っている方の年代が、歌に反映されていることが多いですね。

特に、若い頃に流行した歌はいつまでも忘れられないものだと、往年のカラオケファンから聞いたことがあります。
それらには恋愛を伴った歌が多く、若い頃の苦い思い出、またはとても楽しかった思い出などがしっかりと歌と共に心の深部に刻まれているからでありましょう。

昭和の時代に大流行した歌は世相を反映したものが多いです。
演歌だけでなく、GSの歌、アイドルの歌、フォークソングなど音楽のジャンルはもっと細分化されますが、とてもメロディアスでなじみやすい歌が多いですね。
歌いやすい、覚えやすい、口ずさみやすい。
歌詞が生活に密着しているのか、人々の琴線に触れて心の深部に共鳴するからでしょうか。

中には歌いながら踊れる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
テレビ画面から得た歌手の振り付けをまねて、ポーズを決めたりして!(^_^)v

昭和の戦後の時代は、平成から現在の令和のインターネットの時代と異なり、若者たちの歌が世界的に重要なメッセージの役割を担っていました。
アメリカのロック歌手のエルビス・プレスリー、イギリスで誕生したロック・グループのザ・ビートルズやザ・ローリング・ストーンズ、アメリカのマイケル・ジャクソン、フォーク歌手のジェイムス・テイラー、二人組のサイモン・アンド・ガーファンクルなどなど、それはもう数えきれないくらいの地球規模の大スターたちが、世界中の人々にメッセージを伝えました。
歌には男女の恋愛だけでなく、反戦、東西冷戦、人種などの政治性も込められているものもありました。
メディアの大衆化と共に、歌は大衆に浸透し、世界中に発展していきました。

日本でも多くのスター歌手が誕生しました。
年末大みそか恒例のNHKの紅白歌合戦に出場することは歌手たちにとって大きな目標でありましょう。
テレビやラジオの媒体を通して、常に歌が中心の時代でした。
歌番組が多く、ベスト10などのランキングは、日本全国の世代を超えた多くの老楽男女の関心の的となっていました。

このような昭和の時代に大流行した歌謡曲を基調にして、男女の恋愛模様を描いた短編集があります。
井上荒野(いのうえ あれの)氏の『あなたならどうする』(2020年、文春文庫)です。
この短編集は、2017年6月に、単行本として文藝春秋から刊行されています。

凛が持っている文庫版(2020年7月、第1刷)の目次を見ますと、

「人妻ブルース」
「時の過ぎゆくままに」
「小指の思い出」
「東京砂漠」
「ジョニィへの伝言」
「あなたならどうする」
「古い日記」
「歌いたいの」
「うそ」
「サルビアの花」

冒頭に「人妻ブルース」が掲載されています。
井上荒野氏の作品で、ひとつの歌詞の形態になっています。
初出は、『小説新潮』(2011年1月号、新潮社)です。

この作品の舞台は団地でしょうか。
八号棟、三号棟、四号棟、十一号棟などの奥さまたちが登場します。
井上氏は、人妻であるが故の心の襞の暗部に焦点を充てています。
昭和の時代と重なる表現を取り入れているようでいて、実はしっかりと現代の世相を表わしているものだと凛は思います。

あなたは「時の過ぎゆくままに」以下、9曲の歌のタイトルを見ただけで、すぐに「ああ!知ってる!あの歌手の歌だ!」と、当時の歌手の歌声や姿が甦り、そしてメロディに乗せて歌詞を口ずさむことができる歌が何曲ありますか。

あなたは当時の歌手の衣装や髪型、サビの部分の特徴、マイクの持ち方など事細かく覚えていて、「とても懐かしいなあ~」と目にうっすら涙が出たりしませんか。
平成生まれのお若い方ですと「聴いたことがあるけど、よくわからないなあ」と仰る方もいらっしゃるでしょうねえ。
凛にはすぐにわからなかった歌が2曲ありました。

凛が所有する文庫本初版の帯には「昭和歌謡曲の歌詞ににインスパイアされた9つの物語」と紹介されています。
音楽に詳しい方からみると、厳密にジャンル分けをするならば、9曲の全てを「歌謡曲」に当てはめることに難色を示される方もいらっしゃるかもしれませんが、この作品集では「昭和歌謡曲」として括られています。

短編集の各章には、最初に各歌の歌詞の一部が掲載されています。
歌い出しの部分であったり、サビの部分であったり、各歌ごとに異なります。
井上氏はこれらの歌詞の特徴を捉えて、男女の恋愛の機微を井上流の視点で的確に表現されています。
この手法については、恋愛小説を描かせたら間違いなく安心して読ませてくれる「大人の作家」である井上荒野氏だからこそできるのであろう、と凛は位置付けます。
平成の終わりに近い2017年に単行本が発刊されていますから、描かれている小説の時代は平成でありましょう。

しかしながら、登場人物や環境にその歌詞と密着できる舞台設定が施されており、昭和時代に創作された歌詞と現代の時代のずれもほとんど感じられません。
ですから、歌が大流行した時をご存じない方でも、違和感なく恋愛物語に入れますよ。

勿論お若い方には、昔の歌、或いはご両親や祖父母の世代が好きな歌として、「なるほど、今でいうとこんな設定になるんだなあ」などと、歌を先行になさって読まれるのも構いません。
それから、小説が先にあって、「この歌はそんな意味だったのかあ」など歌を後付けする読み方など、どうぞあなたのお好きなように、ご自由に読まれてください。

各章には、様々な登場人物とあらゆる環境設定に、趣向を凝らしてあります。
主人公は、各章ごとに男性もいますし、女性の場合もあります。
井上氏独特の鋭い視点で、彼らの心理をあぶりだして、ほんのちょっとした極小のずれに亀裂が生じていく瞬間と、そこから壊れていく過程を見事に描き出されています。
伏線もあって、最後には広げた風呂敷を畳んでいますが、それが無造作であったり、裂けたり、或いはほどけそうなほどに結び目が緩かったりと、畳み方の細部にも拘りがみられます。

「時の過ぎゆくままに」は、妻が癌治療で入院中の夫が主人公です。
彼は癌患者である妻の闘病を支えながらも、病院の喫煙所で夫が入院中の若い人妻と出逢ってしまい、二人は逢瀬を重ねていくのです。
退院した妻が、実にさりげなく夫に、自身のことを何と言ったのでしょうか。
それはほんの一瞬のことでしたが。
その瞬間の夫の心理状態に鋭いメスを入れる井上氏の視点は見事といえましょう。

当然ですが、相手の人妻にも過酷な現実がずっしりと背中を覆っています。
二人の目の前に迫ってくる壁が高くて険しいほど、それを乗り越えようと思うのでしょうか。
痴情におぼれた二人はこれからどうなっていくのでしょうか。
最後まで読むと、凛にはジュリーこと沢田研二さんの透き通った歌声が実に切なく聴こえてきました。

「ジョニィへの伝言」は、某地方で行なわれた歌の地区予選の選抜で選ばれ、東京決戦に出場した女性と、地元で鍼灸院を営む男性の話です。
プロダクションのマネージャーから声をかけられた女性は、「東京に住んでこれから歌で生きていく」と夢の実現が叶う転機を迎えたのですが。
女性が、目の前の現実を認めなければならない、決して後戻りはできない、前に進むしかないと悟る瞬間。

この章で凛が注目したのは、最後の四行(文庫版)です。
そして、最後の一文がキーワード。
凛には、高橋真梨子さんの情感をこめた歌声が胸にずうんと響いてなりませんでした。
それと同時に、この歌詞の全容を再確認せずにはいられませんでした。

「うそ」は、薬剤師の男性が主人公で、冷酷に次々と付き合う女性を変えていきます。
新しい獲物を捕らえるために、自分に都合のよい自己中心の考えで嘘を重ねます。
彼は付き合っている女性に対する興味は持続せず、すぐに飽きてしまうのです。

このような嘘を重ねていく男性は、新しい女性を獲得する過程が楽しいのではないでしょうか。
相手の女性への愛ではなく、欲望だけが全てであるような生き方を続けてきたのでしょう。
彼は実に行動的で、相手のことを冷静に観察しています。
一人でいる時間も必要なのではと凛は思いますが。
マイケル・ジャクソンの「スリラー」の洋楽が出てくるのも何かのメッセージかも……。
読み進んでいるうちに、中条きよしさんのソフトに歌う声が凛の耳元で聴こえてきました。

以上の三曲の他にも、某団体の一員として集団生活をしている男性のもとへ、ある日突然夫や子供のいる家庭を捨てて飛び込んだ主婦の話の「あなたならどうする」、振り込め詐欺の受け子と思われる若い男女を描いた「古い日記」など、現代社会の問題もえぐりながら、恋愛を成就しようと必死でもがいている人たちの話が出てきます。
どの登場人物も危うい立ち位置で、哀切極まる情感をもって、あなたにずっしりと重く恋愛の情景を突きつけます。

井上荒野氏は、1989年、短編小説「わたしのヌレエフ」で、第1回フェミナ賞を受賞☆彡されて、デビューされました。
この作品は、『季刊フェミナ』創刊号(1989年、学習研究社)に掲載されたのち、1991年に『グラジオラスの耳』の書名で福武書店より単行本として所収されており、2003年、光文社文庫から単行本と同じ書名で文庫化、所収されています。

2004年には小説『潤一』(2003年、マガジンハウス、2006年、新潮文庫)で、第11回島清恋愛文学賞を受賞☆彡されました。
そして、2008年、小説『切羽へ』(2008年、新潮社、2010年、新潮文庫)で、第139回直木賞を受賞☆彡☆彡されました。
その後も数多くの小説を受賞されていらっしゃいます。

小説家の井上光晴(1926~1992、いのうえ みつはる)氏のご長女で、小説、エッセイ、児童書などの翻訳も手がけるなど大変ご活躍されています。
本格的な大人の小説が描ける、まさに恋愛小説の名手としての地位を確保されていらっしゃいます。

文庫本の解説が、直木賞作家の江國香織氏と大変豪華です!
江國氏は、2004年、短編小説『号泣する準備はできていた』(2003年、新潮社、2006年、新潮文庫)にて、第130回直木賞を受賞☆彡☆彡されました。
お父さまが演芸評論家でエッセイストの江國滋氏(1934~1997)で、幼少期の頃から本に囲まれていたであろう井上荒野氏と似た環境のようですね。
お二人はとても仲良しなのでしょう。

江國香織氏も恋愛小説の女王として、多くのファンがいらっしゃいます。
同じ恋愛小説を描く女性作家の細部にわたる視点に、ああ、なるほど~とあなたも頷けるでしょう。
是非、文庫本の解説をお読みになられてくださいませ。

黄金の歌謡曲全盛の昭和という時代は、何て人々が歌と共に生きていたのだろうかと思わずにはいられません。
どろどろとした感情、どこまでも貫きたい欲望。
この作品で紹介された9曲は、メロディアスな曲調も加わって、カラオケで愛され続ける歌ばかりです。

井上荒野氏は、歌詞を見つめ、歌詞に触発されて、ご自身の才能をもってこれらの歌の世界に憑依されたのでしょうか。
どの恋愛も、表題の『あなたならどうする』につながるのです。
時代を超えて、小説と歌との融合を読者は体験できるのだと凛は思います。

これから秋が深まってゆきます。
読書の秋です。
秋の夜長に、井上荒野氏が提供する様々な恋愛模様を、昭和の歌謡曲と共にあなたもしっとりとご堪能されてみてはいかがでしょう。

今夜も凛からあなたにおすすめの一冊でした。(^-^)

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(日本語)文庫-2020/7/8井上荒野(著)
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