2023年3月29日水曜日

「夢」の旅の始まりは屋根からだった

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

春になりました。日本では桜前線が急上昇中です。
あなたはお花見にお出かけされますか。
陽気な春の暖かさの中、どこかへ旅に出かけて行きたくなられる方も多いのではないでしょうか。\(^o^)/

旅に関するエッセイや小説、或いは壮大な冒険の旅の物語は数多くありますが、凛が今回おススメいたします作品は少々異なります。
恋人ではなく分別ある中高年の男女の大人が、互いの夢の中で自由自在に旅を重ねてゆく物語で、純文学の旅はいかがでしょう。(^o^)
もちろんおどろおどろしい幻想小説とも異なりますので、怖い話が苦手な方も安心して楽しんでいただけますよ。

村田喜代子(むらた きよこ)氏の長編小説『屋根屋』(講談社、2014年、のち中公文庫、2022年)です。

凛からあなたへ二つの質問があります。

一つ目の質問です。
あなたのお住まいは戸建てですか。
建て主の意向によって建物の様相は各々で異なりますよね。
屋根ひとつとっても地域によっての異なりもありますし、その時々の流行であったり、業界の流れという影響もあり、また築年数によっても実に様々です。
最近では屋根にソーラーパネルを付けるなど住宅への話題は尽きません。

凛はマンションの中層階に居住しているためか、住宅の屋根に関しては日頃直接関りがなく暮らしています。
凛の親族宅は築年数の古い戸建てが多く、時折訪ねて行くと、夏は二階がものすごく暑くなったり、冬は一階の床が冷えたりします。
また風雨の音も直に気になりますね。
昨今の新しい戸建ては機能的にできているようなので、そのようなことはないかもしれませんね。(^-^)

二つ目の質問です。
あなたは寝ている時に夢を見ますか。
凛も夢は時々見ますが、起きる時には覚えていないことが多いものです。
たまに見た夢を覚えていても、起きて活動しているうちに忘れてしまうことがほとんどです。
人生を変えるほどの夢のお告げなどは、凛にはこれまでご縁がないですね~ (^-^;

今回の小説は、これら「屋根」と「夢」の二つが重なった物語です。
戸建てに住む専業主婦が屋根の修理を依頼した個人で営んでいる業者との何気ない会話の中から、お互いに見る夢の中で待ち合わせをして共に旅を始める、というお話です。

凛が持っている文庫本は、2022年7月25日発刊の初版本です。
凛は以前から村田喜代子氏の大ファンで、今回は街の中心部の駅ビルにある書店で文庫本を購入しました。

まず、文庫本の帯と表紙からご紹介します。
凛の持っている初版本の帯は赤い地色で、表表紙側には「さあ。飛びますか」と大きな文字で書かれています。
「夢を自在に操る屋根屋の永瀬と『私』は夢の中で落ち合い、共に旅を重ねてゆくが……」(同)
なぬなぬ、これは主婦と屋根の修理業者との恋愛、不倫小説なのか?
とちょっと興味をそそられますが。(*^^*)

帯の裏表紙側には、本文からの抜粋で、「眠るということは水深の深い所へ下りていくことに似ている。」(同)
「奥さんと私と、どっちが先に着くかはわかりまっせんが、向こうの屋根で落ち合いまっしょう。」(同)
「夢のドッキングですたい」(同)と。

カバーの裏表紙の解説文には、雨漏りの修理を依頼された永瀬は妻が亡くなった後、夢日記を付け始めたことが紹介されています。
主婦である「私」は永瀬と夢の中で旅を始め、「現実とのあわいの」(同)中の「場所なき場所」(同)で二人の時間を深めていくことになってゆきます。

カバーの表表紙は、大変格調高い絵で、日本画のようです。
二人の人間が一羽の鳥になって飛んでいる姿のように見えます。
それもそのはず、カバー画が江戸末期の狩野一信(かのう かずのぶ)の「五百羅漢図」で、六道・天(部分)、増上寺蔵であると紹介されています。
ひゃあ、お宝のような表紙ですね!\(^o^)/
カバーデザインは、毛利一枝(もうり かずえ)氏です。

カバーの裏表紙には、黒い鳥の羽が1本描かれています。
何やら意味深ですね……。
読後にはその意味がわかる仕掛けになっています。
是非、あなたが読まれてからのお楽しみに。(^-^)

解説は、芥川賞作家の池澤夏樹(いけざわ なつき)氏です。
文学界の重鎮の解説もなるほどと納得できます!(^_^)v

次に、内容に入ります。
専業主婦の「私」は、築18年になる木造二階建の住宅の雨漏りの修理を専門業者「永瀬工務店」に依頼しました。
業者は数あれど、隣町に住んでいる兄の紹介なので「私」や家族には安心感があったのも当然といえます。
「永瀬屋根屋」(文庫版初版、10頁他)は、50代半ばの大柄で、実直そうな職人さんです。

「私」はご主人と長男の三人家族で戸建てに住んでいます。
ご主人は仕事で大変忙しく、ゴルフが好きな会社員で不在がち、身長が180cmに成長した長男は塾通いで部活や勉学の日々を送っています。

家事に勤しんでいる専業主婦にとって、ダイニングキッチンは日常の居場所。
突然雨が降ったので、食卓テーブルで職人さんの休憩にお茶を提供するのはよくある光景でしょう。
「私」は永瀬から専門家としての屋根の話題を提供されます。

さらに、永瀬が妻を亡くして10年経つこと、彼が心に不安を抱えたことや、独立した過去の話などを「私」は彼から聞きます。
これまでの専業主婦として生きてきた日常に対して、静寂だった池の中にピシッと小さな石ころが投げ入れられたような、ほんの少しの変化が生じたことに「私」はまだ気づいていません。
しかし、まだここまでは常識の範囲であると凛は思います。

ところが、ここからが村田氏の物語の世界へと読者を誘ってくれるのです!
永瀬は治療の一環として、医者から「夢日記」を勧められ、毎日付けていることを「私」に話し始めます。
「夢日記?」(同、29頁)と「私」が尋ねます。
「どんなことを書くんですか」(同、30頁)
永瀬の提供する話題に「私」の興味は尽きません。

「屋根の上で彼は人形(ひとがた)の影絵になって動いている。」(同、35頁)
屋根の上で働いている永瀬の姿を表していますが、この一文が物語全体を象徴するのだな、と凛は捉えました。

「私」はフランスの町の屋根に上がっていた夢を見ました。
それには「私」が心にひっかかる何かがあったのかもしれません。
そのことを「私」は永瀬に話します。
永瀬は一気に話さず、徐々に「私」が気になるように夢の旅へと誘ってゆきます……。

いよいよ屋根の修理が終わり、支払いをしますが、その時に「私」と永瀬は夢の話を続けます。
二人には名残惜しさがあったのか、夢についての話題は現実味を帯びてきます。

これは決して「同床異夢」の元の意味ではありません。
永瀬と「私」が夢を見る状態は、互いに別々の住居で眠り、夢の向こうで落ち合って共に旅をしましょう、ということなのです。

「私」と永瀬の夢の話はどんどん飛躍していきます。
日本国内の歴史的建造物の屋根の話からフランスの大聖堂まで。
屋根にまつわる話題だけでなく、とんでもない方向へ進んでゆきますが……。

村田氏の力量は素晴らしいの一言です!(^o^)
物語の面白さを読者に直球で投げてくれます。

「私」とは誰なのか。
永瀬はどうなるのか。
二人には友情が芽生えたのか、若しくは大人の恋愛の対象として意識しているのか。
謎の部分もしっかり残してあるので、読後の余韻もあります。

さらに、屋根や建造物に関する蘊蓄的な要素も網羅されていますので、老若男女どなたにも楽しめる物語です。
文庫本の本文の後に、参考資料と村田氏のメッセージが掲載されています。
そこからは、村田氏のこの作品に対する真摯さが出ていることが大変よく伝わります。

作者の村田喜代子氏は、1977年、小説「水中の声」で第7回九州芸術祭文学賞最優秀作を受賞☆彡、本格的に執筆活動に入られました。

1987年、小説「鍋の中」で第97回芥川賞を受賞☆彡☆彡されました。
この作品は、1991年に黒澤明監督、リチャード・ギア主演『八月の狂詩曲』として映画化されています。

「水中の声」と「鍋の中」は、1987年に出版された『鍋の中』(文藝春秋、1987年、のち文春文庫、1990年)に収録されています。

その後のご活躍は大変素晴らしく、女流文学賞、紫式部賞、川端康成文学賞、谷崎潤一郎賞、泉鏡花文学賞他多数の受賞歴をお持ちです。☆彡☆彡☆彡
また、2007年に紫綬褒章、そして2016年には旭日章綬章を受けていらっしゃます。☆彡☆彡☆彡

最後に。
主婦の「私」と自宅の屋根の修理を担った「永瀬屋根屋」(同)との互いの夢の中で国内外を自在に旅をしていく物語です。
二人が飛び立った空間から自在に俯瞰して見るのは、屋根だけでなく、建造物の構造にも及びます。
「私」と永瀬にあるものは大人としての友情なのでしょうか。
または、そこから二人の愛情が芽生えていくのでしょうか。
二人が同時に見る「夢」はどんどん膨らみ、進んでゆきますが……。

そもそも時間と空間が自由自在に繰り広げられる「夢」とは一体何なのでしょうか。
「夢」をずっと見続けることはできないからこそ楽しくもあり、また儚いものです。
もしかしたら、物語全体が「夢」なのかもしれません。
原点に回帰する瞬間、「夢」の余韻をあなたはどのように受けとめるでしょう。

凛は村田喜代子氏の放つ文学世界に酔いしれました。
あなたもお休み前のひととき、村田氏の「夢」の物語を堪能しませんか。(^-^)

今夜も凛からあなたにおススメの一冊でした。 (^-^)

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