2021年8月24日火曜日

「好き」の向こうに見えるものは、、 ~窪 美澄『じっと手を見る』(幻冬舎、2018年、のち幻冬舎文庫、2020年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださりましてありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

本日から東京2020パラリンピック競技大会が始まりました。
各国からの参加選手の皆さま、ファイトです!!\(^o^)/

今夏は猛暑だと思っていましたが、8月は全国的な大雨にみまわれてしまいました。
あなたの周辺では大雨の被害などはありませんでしたか。
気がつけばもうすぐ夏も終わりますねえ。

天候不順のため、最近は夏野菜が高くなっています。
こういうときは冷凍食品の野菜が活躍しそうですよ。
お料理も工夫していきたいですね。 (^o^)

そういえば、今年から郵便局の「かもめ~る」の販売がなくなりましたね。
凛は昨年まで「かもめ~る」で数名の知人や友人たちと夏のご挨拶のやりとりをしていましたが、今年はご無沙汰することにしました。
コロナ禍で今夏も花火大会や地域のお祭りやイベントも減って寂しくなる一方、日常が淡々と過ぎてゆくことに慣れっこになっているのも事実です。

あなたは夏の休暇はいかがお過ごしされましたか。
帰省を避けた方もいらっしゃったのではないでしょうか。
普段から顔を合わせることも少ないが故に、会いたい人たちの顔が思い浮かびませんか。
「会いたいのはやまやまだけど。どうしているだろうか。本当に元気なのだろうか」と思いを馳せながら……。

都会と地方、この境界を越えてしまうことについて、仕事を絡めた恋愛模様を細かい心理描写で描いた小説があります。
今回の本は、窪 美澄(くぼ みすみ)氏の小説『じっと手を見る』(幻冬舎、2018年、のち幻冬舎文庫、2020年)です。

まずは、本の入手についてです。
凛が持っているのは文庫本で、2020年4月10日付けの初版本です。

時々訪れる隣町の全国大手の書店で昨年購入しました。
この書店は芸術関係や旅行などの本が比較的多く、雑貨なども豊富に揃っていてとてもお洒落な雰囲気です。
新刊本の平台の端っこにひっそりと並べられていた文庫本ですが、タイトルに惹かれて購入しました。
凛の書棚で一年間出番を待っていた本です。
出番は案外早いほうかも……。(-_-;)

次に、本の装丁についてです。
凛が持っている文庫本初版の帯には「幻冬舎文庫の春まつり」が印刷されています。

帯には、EXILE/FANTASTICS from EXILE TRIBEの佐藤大樹(さとう だいき)さんの顔写真が掲載されています!(^o^)
一年経ていますので、現在は異なる帯が付いていることでしょう。

帯の表表紙側には、作家の朝井リョウ(あさい りょう)氏が「見知ったハッピーエンドとは違う人生だって、きっと、愛することができる。(省略)」(初版)と。
文庫本の裏表紙側の説明文には、「富士山を望む町で暮らす介護士の(省略)」「ショッピングモールだけが息抜き(省略)」(同)と書いてあります。
恋人たちを引き寄せてしまうショッピングモール。
ショッピングモールは凛も時々利用しますが、あなたもお買い物されますか。
「自分の弱さ、人生の苦さ、すべてが愛しくなる傑作小説。」(同)と紹介されています。

表紙の「じっと手を見る」の文字の下には、若い女性、或いは少女かもしれませんが、両膝を合わせて、左腕を寄せているような姿勢、恐らく座っている写真が掲載されています。
その両膝の間にはレンズがあり、かぼすのような柑橘系の果物を手で絞って画像が写っています。
切なさを求めたい方には期待できそうです。

文庫本表紙のカバーデザインは、アルビレオで、装丁事務所のようです。
カバーフォトは、Zigian Liuさんで、写真家です。

では、内容に入ります。
目次を見ますと、7篇の短編が収録されていますが、連作でひとつの物語になっています。(文庫本初版、5頁)

「そのなかにある、みずうみ」
「森のゼラチン」
「水曜の夜のサバラン」
「暗れ惑う虹彩」
「柘榴のメルクマール」
「じっと手を見る」
「よるべのみず」

車で運転して東京まで片道4時間くらいの富士山が望める町に住み、介護士をしている日奈(ひな)と海斗(かいと)は恋人でしたが、東京のデザイナーの宮澤(みやざわ)が二人の前に現れます。
宮澤に漂う「東京」との距離感を日奈は憧れをもって縮めようとします。

他方、海斗は職場の後輩である畑中(はたなか)と付き合うようになります。
彼女にも複雑な事情を抱えています。

そこから始まる登場人物たちの関係のもつれと複雑な心情に、作者はそっと寄り添いながらも、次第に深く切り込んでいきます。
どこまでも深く、抜け出すことができない底なし沼のように、容赦なく……。
彼女らや彼らの家庭環境から抉り出し、ほどけないまでに交錯して、時には苦しいことも思い切り吐き出させます。
「ええーっ、ここまで書いていいの?」と。

ところが読者はそれらの暗部にしっかりついていけるのです。
それらは決して暴走ではありません。
作者の登場人物たちへの優しいまなざしがあるからで、読者が納得できる形に収まるようになっているのは窪 美澄氏の技量であると凛は思います。

凛はこれらの連作短編について、五つの特徴を考えました。

一つ目は、短編の一つ一つのタイトルがとても凝っていて印象的な点です。
それぞれの物語には、タイトルにつながる箇所が出ていますので、それを見つけながら読むのも楽しいですね。

二つ目は、それぞれの短編の主人公が異なる点です。
最初の主人公は日奈から始まり、彼女の視点で描かれています。
次は、海斗の視点で描かれていて、同じ事象についても日奈とは異なる心理を読者は体験できます。
その次は、畑中が主人公になります。

という風に、各短編で主人公が異なるため、視点にずれが生じます。
では、タイトルの「じっと手を見る」のは、一体誰が誰の手を見るのでしょうか。
これはあなたが読まれてからのお楽しみに。

三つ目は、介護士という職業について詳細に描かれている点です。
介護士が日頃どのような気持ちで仕事に臨んでいるのかなどがわかります。
また、介護福祉士など資格取得についてもふれています。
それから、利用者側の家庭問題なども抉られています。

四つ目は、地方のショッピングモールの位置付けについて考えさせられる点です。
地方においてショッピングモールはその町の核となる重要な所でしょう。
そこに来れば食料品の他、日用の品々が何でも揃います。
さらに都会との接点を求める人たちのために、ブランドショップがキラキラと輝いています。
その輝きをもって恋人たちを引きつけていますが、会いたくない人まで視界に入る危険な場所でもあります。

五つ目は、富士山です。
この作品は毎日富士山を見ながら暮らしている方々の心情と、日帰りができる東京との距離感が絶妙に綴られています。
富士山を筆頭に持って行かないというのは、凛が富士山のお膝元に住んでいないからです。
富士山を見ると、凛は「わあ、富士山だあー。すごく高いなあ。美しいなあ」と思い、特別感がありますねえ。

以上、五つの特徴をあげました。

文庫版の解説は、直木賞作家の朝井リョウ氏です。
窪 美澄氏とは同年デビュー作家だということを初めて知りました。
解説を読んで、作家は同業者として意識するのだなあと思いました。(^-^)

作者の窪 美澄氏は、多くの作品を受賞されています。
2009年、小説「ミクマリ」(新潮社、2011年、電子書籍版)で、第8回R-18文学賞を受賞☆彡、作家デビューされました。

2011年、小説『ふがいない僕は空を見た』(新潮社、2010年、のち新潮文庫、2012年)で、第24回山本周五郎賞を受賞☆彡されました。
尚、この本に「ミクマリ」も収録されています。
この作品は映画化されており、2012年、タナダユキ監督、永山絢斗(ながやま けんと)さん、田畑智子(たばた ともこ)さん主演で、第37回トロント国際映画祭に出品☆彡されました。

尚、今回の小説『じっと手を見る』は、第159回直木賞候補作となっています。

他にも多くの受賞歴があり、大変ご活躍の作家ですが、とても長くなりますので省略させていただきます。(^-^;

最後に。
この作品は読後に切なさがこみあげてくる恋愛小説であり、介護に携わる方たちのお仕事小説でもあると凛は考えます。
人を好きになることと、仕事をして暮らしていくことの狭間で、「時間」という現実が目の前にたちはだかります。
それを超越したところにある「好き」の感情。
ただひたすらに切ないのです……。

是非映画化して欲しいなと思いますねえ。
俳優さんたちの顔を思いうかべながら読みました。

介護士たち、恋愛、青春、家庭環境、家、富士山と東京、ショッピングモール、結婚と離婚、子育て、老人、利用者たち、引きこもりなど、多くの「今」を生きている人たちの生の声が聞こえてくるような読書体験ができますよ。

タイトルの『じっと手を見る』が読後、あなたにはどのように伝わるでしょうか。
凛は思わず自分の両掌を見てしまいました。(^○^)

今夜も凛からあなたにおすすめの一冊でした。(^-^)

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2021年8月10日火曜日

みんな、悩んでる ~群 ようこ『ついに、来た?』(幻冬舎、2017年、のち幻冬舎文庫、2020年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
凛と共にどうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

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残暑お見舞いもうしあげます。

東京2020オリンピック競技大会が閉幕しました。
日本では今夏の祝日が変更になり、夏季休暇も各職場やご家庭により分散されているようです。
地域により旧暦や新暦の関係でお盆のとりかたも異なりますね。
いずれにしても今の時期は、ご家族とのつながりがいつもより濃くなる方が多いのではないでしょうか。

あなたはこの夏、ご家族やご親戚とどのようにお過ごしになられますか。
コロナ禍で今年も家族集って直接会うことはないという方もいらっしゃるでしょう。
昨年は会えなかったけれど、今年は顔見せはしたいという方もいらっしゃるでしょう。
それぞれの思いが交錯する夏。(^-^)
暦の上では既に立秋ですが、現実は最も暑い時期に、あなたのハートに熱いものがあるのでは。(^-^)

ご家族、特に親の老いについては避けられませんよね。
何故なら、人は時の流れに抗えることはできないからです。
父も母もいつまでも元気!と安心しきっていると、ある日突然、「えーーっ!まさか、何故?」ということに……。
それは誰しもわかってはいても、今はまだ考えたくない、と先送りにしてしまいがちですよね。

もしあなたのお父さんやお母さんに痴呆症が表れたとしたら、あなたはどう対処されますか。
今回の本は、親の突然の脳の老化現象に驚き、あたふたしている子世代の話です。
群 ようこ(むれ ようこ)氏の短編小説集『ついに、来た?』(幻冬舎、2017年、のち幻冬舎文庫、2020年)です。

この本に関して凛がおすすめします読者は、現在、老親の介護などで向き合っていらっしゃる方ではなく、充分にお元気な親御さんの子世代である方ですね。
今現在、老親のことで介護され、悩んでいらっしゃる方には、「そんなはずないだろう」とか「そんなに簡単ではないよ」など、この作品に反発力が出てくるかもしれないと思ったからです。

この短編小説集では、老親の痴呆の症状の出方に種類はあるものの、全体に軽くてまだ初期症状の頃の話です。
それにはもしかしたら、深刻な状態は避けたいという作者の思いがあるのかもしれません。
あなたにまだご家族の悩みがない時期に、「そういうこともあるのね」と老親の変化や対処の仕方などについての情報として、ある程度の距離感を保ちながら読まれることを凛はおすすめしたいです。
或いは「昔は親のことで随分悩んだものだったね」と過ぎ去った時をふと思い出す方もいらっしゃるかもしれません。

読者にとって作品とふれあう機会は各人で異なりますので、あなたの意志にお任せいたしたいと思います。
この本は、痴呆症の老親を抱える読者に対して解決を導くものではありません。
世の中にはいろいろな家族があり、実に様々な考え方があって、その断片が描かれている短編小説です。
「このケースの場合、あなたならどう対処しますか?」という問題提起の小説である、と凛は捉えました。
前置きが大変長くなりましたね。

まずは、本の入手についてです。
昨年、街の中心部の書店にて購入しました。
「凛さ~ん、早く読んでくださ~い!」と出番を待っている本たちの一冊でした。(^-^;

次に、本の装丁です。
凛が持っている文庫本は、2020年2月10日付けの初版本です。
幻冬舎文庫「女性作家フェア」の帯が付いています。
今は異なる帯が付いているかもしれませんねえ。

文庫本の帯の表表紙側には、「覚悟はしていた、つもりだけど。」(初版)と書いてあります。
確かに、それはある日突然、起きることなのでしょうね。
親の言動や態度に、これまでの常識とは異なる、大変に驚くことが起きてしまうんですよね。
前兆があるのかもしれませんが、家族が気づいたときに驚き、自らに言い聞かせて納得しなければならないことがあるんですよね。
悲しいかな、それが「現実」ということでしょう。

表表紙にはお母さんの態度を見ながら、頬に右手をあてて、食卓テーブルに右の肘をついている娘さんらしき女性がいます。
お母さんの頭の周りには音符が3個踊っているので、彼女はきっと上機嫌なのでしょう。
お母さんは目を閉じて微笑んでいるので、別の世界を楽しんでいらっしゃるのかな。
娘さんは怪訝な表情をして、お母さんを眺めています。

食卓テーブルには、籠に盛られた蜜柑と、二人の湯飲み茶わんが置かれています。
如何にも家庭的な団欒の場所である食卓テーブルですが、二人の表情は対比的ですねえ。

カバーのデザインは、芥 陽子(あくた ようこ)氏です。
カバーのイラストは、牛久保雅美(うしくぼ まさみ)氏です。

では、内容に入りましょう。
目次には、8篇のタイトルが紹介されています。(文庫本初版、4~5頁)
「母、出戻る?」
「義父、探す?」
「母、歌う?」
「長兄、威張る?」
「母、危うし?」
「伯母たち、仲よく?」
「母、見える?」
「父、行きつ戻りつ?」
全てのタイトルの最後に「?」マークが付いていますね!
目次の下に描かれているお父さんやお母さんたちのイラストが実に愛らしいです。

実に様々な高齢の親たちや親戚が登場します。
おかれた環境も家族の在り方も異なります。

男と出奔した母親が老いて独りで家に戻ってきた場合。
同居の義父に異常が出ても全く関与しない夫に悩む妻。
夫の両親との軋轢と、実母の痴呆症との間で葛藤する妻。
五人兄弟の長兄夫婦と弟たち夫婦との間の、母親の介護に対する意見の相違。
資産家の母親の危険な現在。
伯母たちと母親と娘の関係性は。
一人娘の婚姻後の行き着く先は。
母亡き後の父親と娘たちの現状と将来。

先にも書きましたが、いずれも老親が必ず登場してきます。
どこのご家庭にも悩みはつきものですよね。
どの登場人物の描き方にも、読者が安心して向き合える筆力が群ようこ氏に備わっているのがわかります。

読者は主人公たちの出した結論には必ずしも納得されるとは限らないのではと思います。
一人一人の考え方は異なって当然ですから。
これらのケースに対して、あなたはどのように考えますか。
また、この文庫本(初版)には、解説はありません。

作者の群 ようこ氏は、本の雑誌社に在社中に、エッセイ『午前零時の玄米パン』(本の雑誌社、1984年、のち角川文庫、2003年)で作家デビューされました。
以来、多くのエッセイや小説が出版されていますので、女性ファンが多いのではないでしょうか。

小説『かもめ食堂』(幻冬舎、2006年、のち幻冬舎文庫、2008年)は、同名の映画で大ヒットしましたね!\(^o^)/
2006年公開、荻上直子(おぎがみ なおこ)監督・脚本で、小林聡美(こばやし さとみ)さん・片桐はいり(かたぎり はいり)さん・もたいまさこさんの主演で、フィンランドのヘルシンキで日本食のレストランを営む物語です。

最後に。
親が年老いていくのは理解できても、実際に「まさか!そうなの?うちの親が?」と認めたくない葛藤が子世代にはあります。
今後、痴呆症の解明が進んでいけば違った未来が開けるでしょう。
しかし、現代は薬や手術で簡単に治せるものではありません。

「現実」として親の老化を認めて、それを「受け入れる」覚悟を持たねばならないという自分との闘いではないでしょうか。
そして、それはみんなの悩みです。
今は老親に関しての悩みのないあなたも、この小説で体験されてはいかがでしょうか。
悩みのない今のうちに。

今夜も凛からあなたへおすすめの一冊でした。(^-^)

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