2024年1月29日月曜日

今年こそ読破したい!紫式部の人生と並行して読める帚木ワールドの『源氏物語』 ~帚木蓬生『香子(かおるこ)(一)紫式部物語』(PHP研究所、2023年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらりにようこそお越しくださり、ありがとうございます。
お休み前のひとときに、どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

2024年がスタートして早くも一か月が過ぎようとしています。
今年の日本は元日からショッキングな出来事ばかり起きています。

ああ、今日も一日無事に過ごせました。感謝。
という安堵感で眠りに入れる日常の生活が如何にありがたいことでしょう。
平穏で過ごせる日々が最も幸せなのだと実感させられます。

合わせて、非常時のための危機感と水や食料などの備えが大事だということも再認識しないといけませんね。
あなたはいかがお過ごしでしょうか。

世の中はAIなどの新しい技術を導入する時代に既に入っています。
コスパ重視の世の中、スピードは年々早くなってきています。
しかしながら、敢えて古来から受け継がれている普遍的な事柄に注目したい、という欲求がわいてくるのは生身の人間だからでしょうか。

今年のNHKの大河ドラマは『光る君へ』ですね。
凛も毎週楽しんで視聴しています。
あなたはご覧になられてますか。

主演の吉高由里子(よしたか ゆりこ)さんが後の紫式部こと「まひろ」を演じておられます。
まひろさんはどのような経緯で『源氏物語』を執筆するようになるのでしょうか。
彼女の背景でうごめく公家政治の権力とは……。
テレビドラマですので、日本史の教科書で学んだ内容とは若干異なる部分もあるでしょう。
ひとつの娯楽作品として楽しみたいですね~ (^-^)

『源氏物語』全五十四帖。
あなたは読まれましたか。
実のところ凛は最後まで読んでおりません……。(^^;
凛はこれまで谷崎潤一郎(たにざき じゅんいちろう)訳、瀬戸内寂聴(せとうち じゃくちょう)訳、林望(はやし のぞむ)訳に挑戦してきましたが、いずれも途中までの断念組です。
これは現代語に訳された先生方の問題では決してありません。
誤解なきよう、あくまで凛個人の問題なのです。

他にも関連の解説書やガイド本など何冊も蔵書として保管しています。
とは名ばかりで、所謂万年積ん読状態ですね……。(^▽^;)

紫式部はどんなことを考えて人生をおくったのでしょうか。
『源氏物語』はどのようにして書かれたのでしょうか。
作中に出てくる和歌の内容をもう少し知りたいですね。

このような素朴な疑問を解決できるという、まるごとひとつにまとめられた小説があります。
紫式部の人生と『源氏物語』と和歌の解説などが同時に読める大変ありがたい作品が昨年末に出版されました。
帚木蓬生(ははきぎ ほうせい)氏の大長編小説『香子(かおるこ)(一)紫式部物語』(PHP研究所、2023年)です。
書下ろし作品になります。

タイトルに(一)が付いていることからわかるように、この作品は(五)になるまでの五か月の間、毎月連続して出版していくというPHP研究所の一大プロジェクトです。
第一巻は461頁と大変分厚い本ですが、慣れていくうちに気が付けば最後まで一気に読めました。\(^o^)/
漢字にルビがふってありますので読みやすくなっています。

はじめに、凛がこの本を知ったのは某ラジオ番組の本の紹介コーナーを視聴したことによります。
番組に生出演された帚木氏ご本人のお話によりますと、長い間従事されていらした精神科医院のお仕事をご卒業されて、専業の作家になられたとのことでした。

以前にNHKのテレビ番組で帚木氏を拝見した時は落ち着いた話し方の先生といった印象でしたが、ラジオのお声からは非常に明るく快活な方で、この作品への強い情熱が伝わり、新たな帚木ワールドを堪能できるなと思った凛でした。
本は市内の中心街の書店で購入しました。

そもそも「帚木蓬生」というペンネームからもわかることですが、「帚木」は『源氏物語』第二帖の「ははきぎ」、「蓬生」は第十五帖の「よもぎう」から構成されています。
帚木氏『源氏物語』に対する強い意志が伝わりますね!

次に、帯や表紙についてです。
一番目は、帯についてです。
凛が持っている本は、2023年12月26日刊行の初版本です。

表表紙側には、「千年読み継がれる物語は、かくして生まれた」と白地に赤い文字で目立つように書いてあります。
表表紙側の左下には、赤い枠に中に白字で「大河ドラマの主人公・紫式部(香子)の生涯×『源氏物語』」と書いてあり、大河ドラマ放映と同時期の刊行ということで、非常に期待感がわきますね~

帯の裏表紙側には、「五ヵ月連続刊行!」の下に、第一巻から第五巻まで簡単な説明文が紹介されています。
第一巻のところをご紹介いたしましょう。
「香子の物語」では、「父とともに越前へ、そして物語を書き始め……」と黒字で書いてあります。
その右の『源氏物語』では、「桐壺~末摘花の帖」(以上、同書)と赤い字で書いてあり、第一巻は六帖まで読めるのだなと識別できるようになっています。


二番目は、表紙についてです。
表表紙は、紫式部の上半身が描かれています。
裏表紙は、文机の前に座っている紫式部が描かれており、『源氏物語の有名な冒頭文「いづれの御時にか、……(中略)すぐれてときめき給ふ有りけり。」という文字が書いてあります。
表表紙、裏表紙とも格調高い仕上がりになっています。

装丁は、芦澤泰偉(あしざわ たいい)氏です。
装画は、大竹彩奈(おおたけ あやな)氏です。

それでは、内容に入ります。
作品の第一巻は、第一章の「香子(かおるこ)から第十五章の「懸想文(けそうぶみ)」までが収録されています。
凛が注目した四点について挙げます。

一点目は、「香子」という名前についてです。
第一章の始まりで、香子は当初は「きょうし」「きょうこ」と呼ばれていたところが、8歳の春に、父君の藤原為時(ふじわらの ためとき)から今後は「かおるこ」と呼ぶと決めたことを告げられました。
亡き実母が命名した「香子」。
これまで改まった席においては「きょうし」で、身内の間では「きょうこ」と呼ばれていました。

香子は、呼び名を替えることになった理由を父君に尋ねます。
父君は、「そなたの資質は、誰が見ても、他より抜きん出ている。」(第一巻初版本、5頁)と言って、香子の素晴らしい資質を認めています。
その上で、「そして誰もが認める、ひとかどの人物になる。その資質が薫(かお)るからだ。ちょうど、今匂ってくる紅梅(こうばい)のようにな」と。(同、5頁)
香子はまだ8歳なので深い意味はわからない様子でしたが、父君から高い資質を認められたことは彼女の生涯の自信につながったと捉えることができます。

二点目は、血縁と文学についてです。
歌人としては、香子の父方の曽祖父である藤原兼輔(ふじわらの かねすけ)がいます。
兼輔は中納言の位に出世し、醍醐(だいご)天皇の後宮に娘の桑子(くわこ)を入内させ、章明(のりあきら)親王をもうけさせます。
その時の歌が『後撰和歌集』に収められているとして、また、桑子の入内の話が『大和物語』に収められており、さらに歌集の『兼輔集』の存在など、香子はこれらを暗唱するなど繰り返し学んできました。

父方の祖父の藤原雅正(ふじわらの まさただ)や伯父の藤原為頼(ふじわらの ためより)も歌人でした。
香子には幼い頃から、伯父の為頼が所蔵する和書だけでなく、父君が収集していた漢籍など、和漢の多くの書物に触れる機会があったことが第一章に記されています。

第一巻の後の章になりますが、香子が『源氏物語』の執筆の際、父君や母君に読ませて感想を述べてもらいます。
両親が彼女の背中を後押ししてくれたことは創作の自信につながったことでしょう。
特に、母親が積極的に感想を述べてくれることが印象深いです。
このように幼い頃から文学を嗜む家庭環境から、香子の執筆に対する意欲が増したことは大きいですね。

また、『蜻蛉日記』との関係があります。
『蜻蛉日記』の作者は、藤原道綱(ふじわらの みちつな)の母です。
第二章「蔵人(くろうど)」では、香子の祖母から『蜻蛉日記』の作者が、香子の実母の父の藤原為信(ふじわらの ためのぶ)の兄である藤原為雅(ふじわらの ためまさ)の正妻の姉にあたる女性であることを再度言われます。
要は遠い親族が女流文学の先駆者で、日記文学の作者であったことは、香子にとって「書くこと」を意識した存在であったであろうと読者に知らしめています。

三点目は、死生観です。
香子は第一巻目から身内の死に遭遇しています。
生母、姉君の朝子(あさこ)、最初の結婚をした平維敏(たいらの ただとし)との死別があります。
自分を守ってくれ、愛してくれた人との別れは辛いものです。

「誠に人の世は、野分(のわけ)や雲、雨と同じで、人の手ではどうにも動かせない。その摂理(せつり)の下(もと)で、翻弄(ほんろう)され続けるのだ。」(同、230頁)
香子はこの世のはかなさ、無常観を体験し、やるせなさを感じたのではないでしょうか。

四点目は、帚木蓬生訳の『源氏物語』についてです。
まずは、素朴な疑問点をあげましょう。

何故に香子は『源氏物語』を執筆することになったのでしょうか。
香子は何の文学作品を手本にしたのでしょうか。
香子の執筆する過程を知りたいですね。

などの疑問点が読者には持つ方も多いかと思います。
これらについては、第十一章の「起筆」前後で読者は捉えていくことでしょう。
あなたが読まれてからのお楽しみに!(^^)/

帚木蓬生氏の訳の特徴として、気づいた点が二つあります。

一つ目は、主語が明確に書かれていることです。
凛は学生時代に『源氏物語』の長い一文の中で「主語を示しなさい」と設問に出てきたことを思い出しますねえ。
『源氏物語』は主語が省略されている文が多いため、主語が明確であると理解が深まりますね。

二つ目は、和歌の説明が本文中に簡潔にされていることです。
例えば、第十二章「雨夜の品定め」には、『源氏物語』第二帖の「帚木の訳が掲載されていますが、光源氏が小君に託した歌

「帚木(ははきぎ)の心を知らでその原の
   道にあやなくまどいぬるかな」(同、293頁)

の後に、あらかじめ歌の意味を現代語で説明した後で、
『古今和歌六帖』の、園原や伏屋(ふせや)に生(お)うる帚木の ありとてゆけどあわぬ君かな、を下敷きにし、」(同、同293頁)
と、女君が返歌するまでの経緯が丁寧に書いてあります。

このように和歌の一首ずつに説明書きが訳の本文中に書いてありますので、本文に解説書が合体したような感覚で読者は自然な形で読み進むことができるのです。
凛は和歌の嗜みがありませんので、これは大いに助かりますね。(^O^)

帚木蓬生氏については、凛のりんりんらいぶらり~で2020年7月14日付「日本の文字の始まりを知る」の項で『日御子(ひみこ)上・下巻』(講談社文庫、2014年)(ココ)に掲載していますので、こちらの項では割愛させていただきます。

最後に。
帚木蓬生氏の作品『香子(一)紫式部物語』は、紫式部の生涯を描いた物語と、『源氏物語』の現代語訳と、和歌の解説が合体した大長編小説を一度に読めるという楽しみ方ができます。
PHP研究所から、2023年12月26日発刊の第一巻から第五巻まで、毎月一巻ずつ発刊されるという一大プロジェクトです。
NHKの大河ドラマ『光る君へ』と並行して読むと、歴史文学としても理解が深まるというものでしょう。

『源氏物語』をまだ読まれていないあなた、どうしようかなと迷っているあなた、凛のように途中までのあなた、是非この機会にお気軽にトライしてみませんか。
会話文など現代の話し方と同じように表現されていますので肩こりしませんよ。

第十三章「越前の春」では、香子の弟の惟通(これみち)の名前の一字違いで、『源氏物語』光源氏の従者を惟光(これみつ)と設定した点について、香子の母君から指摘されたことが書いてあります。
「図星だった。書いていて、咄嗟に浮かんだ名前が惟光だった。」(同、354頁)
そうだったのかあと、あらためて紫式部の家族に対する温かい情愛が伝わってほのぼのとしました。
この後に展開する物語もきっと新しい発見があるだろうな、と期待感でいっぱいになった凛でした。

第二巻の刊行ももうすぐです。
大変楽しみにしています!
今年こそ『源氏物語』を読破します!\(^o^)/

今夜もあなたにおすすめの一冊でした。(^-^)

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PHP研究所-2023/12/13帚木蓬生(著)
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