2020年11月27日金曜日

「家で暮らす」ということ ~長嶋有『三の隣は五号室』(中央公論新社、2016年、のち中公文庫、2019年)~

こんばんは。
南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
と共にどうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

大変ご無沙汰いたしております。
お久しぶりでございま~す。

凛のりんりんらいぶらり~をお休みしておりました。m(_ _)m
凛は今年の4月にブログのりんりんらいぶらり~をたちあげまして、おかげさまで第20弾まで続けてまいりました。
ここ最近、私的なことで忙しくなり、りんりんらいぶらり~はしばらくお休みさせていただいておりました。まことに申し訳ございません。
その期間も多くの方々にご閲覧に訪れていただき、誠に感謝しております。
ありがとうございます。m(_ _)m

おかげさまでしっかり充電させていただきました。
凛も風邪などもひかず、元気ですよ~ 
今後は極力休まず続けていけるように努力いたしたいと思っています。
これからも凛をよろしくお願いいたします。(^o^)

季節は移ろいまして、晩秋から冬を迎えるようになりました。
11月も下旬です。
今年もあと1ヵ月と数日になりました。
時間の経つのは早く、あっという間ですね~ (^-^;

これから街中が忙しくなりますので、どうしても気ぜわしくなりますよね。
新型コロナウィルスの感染者も増えているようです。
体調管理にはくれぐれも注意していかなければと思っています。

あなたはお引越しの経験がおありですか。
凛は数回ありますよ~
中には生まれてからずっと同じ家にお住まいの方もいらっしゃるでしょう。
引越しの有無、賃貸住宅や分譲住宅、戸建てやマンションなどに関係なく、屋内で過ごすことは同じですよね。

今年は新型コロナウィルスの関係で自粛を求められ、お家で過ごす時間が増えた方も多いのではないでしょうか。
「家で暮らす」ということは、起きてから寝るまでのあらゆる場面を「家屋」という形状の中で生活をすることであり、連続して続きます。
それが生きていくことであると凛は考えます。

それは、同居するご家族がいる、いないにせよ、同じです。
つまり、人が屋根の下で過ごすことですね。
その連続性が「家で暮らす」ということであり、「生きていくこと」であります。

「いえ、私は食事はほとんど外で済ませていますので、帰宅したらあとは寝るだけですから、暮らすなどというほどの大げさなことではないんですよ~」
「家屋といってもワンルームマンションなので、部屋が狭いですし~」
という方もいらっしゃることでしょう。
しかし、例え寝るだけのために帰宅しても、家の中での細かい家事は必ずありますし、お部屋の面積などにも関係なく、屋内でやらなければならないことは多々あります。

あなたはお家の中で気になることがありませんか。
凛にはたくさんあります。
具体的に、家の中で暮らすことで気になる点を挙げてみましょう。

水道の蛇口のレバーがゆるくなって使いづらくなってきた。
エアコンの室外機の音が大きくなってきたので、ご近所の迷惑にならないか気になる。
台所の換気扇の汚れが気になる。

電気製品を一度に使い過ぎて、ブレイカーが落ちて停電にならないかと気にする。
大雨の時、屋根や出窓に雨粒が当たる音が気になって落ち着かない。
ドアの開閉時にきしみ音が出てきたので気になっている。

お隣や階上の住人の生活音が気になる。
風呂場のシャワーの出方が気になる。
大型車が通る度に窓ガラスのビリビリと響く音が気になる。

家電品を設置する時、延長コードを使ったほうがよいかどうか迷う。
フローリングの床につけた傷が気になる。
障子や襖の破れが気になっている。

断捨離を考えているが、押入の収納方法が気になって仕方がない。
効率的な動線ではないので疲れやすいのか、間取りがいつも気になっている。
電球の取り換えをしたいけれども面倒だ。

和室の畳のへこみが気になっている。
いつも転びそうになる場所がある。
今後のことを考えてリフォームをしたい気持ちはあるけれど、迷っているところである。

などなど、数えきれないほど気になることが出てくるものですね。(^-^;

今回は、「家で暮らす」ということをテーマにした小説をご紹介いたしましょう。
長嶋有氏の小説『三の隣は五号室』(中公文庫、2019年)です。
2016年、中央公論新社から単行本として刊行されています。
2016年、第52回谷崎潤一郎賞☆彡受賞作品です。

この小説は、賃貸アパート、第一藤岡荘の五号室に、半世紀の間に居住した初代から十三代までの各々の時代の住人たちと家屋や部屋や生活用品などとの関わりが描かれています。
五号室に焦点を充て、その部屋で暮らす人々の生活の様子が断片的に読者に伝わるように構成されています。

第一藤岡荘五号室は、二階建てアパートの二階の真ん中にあります。
一階は二部屋ですが、二階は三部屋となっています。

五号室の間取りは少し変わっているようです。
玄関のところに「玄関の間」があり、六畳と四畳半の和室、各和室には一間と半間の押入があります。
あとは台所、風呂、トイレがあります。
奥の六畳の和室には窓がついています。
玄関から入って、最も奥の六畳の和室に行くための動線が四通りあるのが、変わった間取りとして扱われています。

凛が持っている2019年12月刊行の文庫本の初版の帯には、「アパート小説の金字塔!」と紹介されています。
これまで人と人との関わりを描いた小説がほとんどの中において、「家で暮らす」ことに対する着眼点が異色といってよい小説でしょう。

長嶋有氏の着眼点が異色な点について、凛は三点、興味をもちました。

一点目は、第一藤岡荘五号室の半世紀にわたる歴代の住人の名前が数字で表されているので、読者に居住者の順番がわかりやすいことです。
しかも各居住者の居住年も示されているので、時代がわかり、内容が理解しやすくなっています。

居住者の初代は、藤岡一平(1966年~1970年居住)で、両親がこの第一藤岡荘の持ち主です。
二代目は、二瓶敏雄・文子夫妻(1970年~1982年居住)のご夫婦で、翌年、長男の瑛太が誕生します。瑛太はこの部屋で育ち、最も長く居住しました。
三代目は、三輪蜜人(1982年~1983年居住)。
・(省略)
九代目は、九重久美子(1995年~1999年居住)で、彼女が出た後で、リフォームされます。
十代目は、十畑保(1999年~2003年居住)はリフォーム後に居住しました。
・(省略)
最後の住人である十三代目は、諸木十三(2012年~2016年居住)です。

まるで半世紀分の年表が作成できそうです。(^-^)
凛は居住者たちの名前と居住年をメモをとりながら読みました。
決して居住者の名前及び居住年の順番に出てくるわけではありませんので、メモをとったり、付箋紙を貼りながら読むと理解しやすくなるかと思います。

居住者たちは、学生、夫婦、社会人、無職、職業不詳、外国人留学生など様々で、中には亡くなった方も数名います。

二点目は、文庫本の目次が最初に構成されていないことです。
文庫本では、本文はいきなり第一話から始まります。
第二話の最初に作品名と作者名を紹介した「扉」があり、第一藤岡荘五号室の「間取り図」の次に「目次」が入っています。

一般的には本編に入る前に目次などが構成されていますが、この作品では第一話が終わってから、第二話の前にこれらが挿入されています。
非常に珍しい構成ですね~
作品は全十話で構成されています。

三点目は、第一藤岡荘五号室に居住者が残した跡と、その後の居住者との見えない関わり方が楽しめたことです。
例を挙げますと、第六話の「ザ・テレビジョン!」(文庫本初版、113頁~138頁)のテレビとアンテナについてです。
作品は半世紀にわたっての話ですから、テレビの技術が進むにつれ、テレビやアンテナ線も変わっていきます。

初代の藤岡一平(1966年~1970年居住)は、アンテナ内臓の10インチの白黒ポータブルテレビを奥の六畳間で視聴します。
二代目の二瓶敏雄・文子夫妻(1970年~1982年居住)は、14インチダイヤル式テレビを六畳間で視聴します。
三代目の三輪蜜人(1982年~1983年居住)は、奥の間の六畳に引き込まれていたアンテナ線の銅線にケーブルを足して延長して、14インチのテレビとビデオデッキで映画放送を録画して、台所で視聴します。
四代目の四元志郎(1983年~1984年居住)は、アンテナ線を奥の六畳間に戻して、18インチテレビをリモコンで視聴します。

このように居住者各人の暮らし方や好みもありますが、時代とともにテレビ設置もそれぞれに変遷します。
加えて、その当時のテレビ番組も紹介されていますので、昭和から平成のテレビ番組史ともいえる一面があります。
このあたりがさすがにサブカルチャーの長嶋有氏ですね~

地デジ対応のアンテナ工事がされないままの物件となった第一藤岡荘の最後の住人である諸木十三(2012年~2016年居住)がどんなテレビで視聴したのかは、あなたが読まれてからのお楽しみにとっておきましょう。

文庫本の解説は、作家の村田沙耶香氏です。
村田氏は、『コンビニ人間』(文藝春秋、2016年、のち文春文庫、2018年)で2016年、第155回芥川龍之介賞☆彡☆彡を受賞されました。
彼女の解説文は、ご自身が納得しながら読者にわかりやすく表現されていますので、是非お楽しみに!(^o^)

作者の長嶋有氏は、2001年、小説「サイドカーに犬」(『文學界』2001年6月号〔文藝春秋〕)で第92回文學界新人賞☆彡を受賞後、作家デビューされました。
この作品は、第125回芥川龍之介賞の候補となっています。

翌2002年の小説「猛スピードで母は」(『文學界』2001年11月号〔文藝春秋〕で、2002年、第126回芥川龍之介賞☆彡☆彡を受賞されました。
この二作品は『猛スピードで母は』(文藝春秋、2002年、のち文春文庫、2005年)として刊行されています。

小説『夕子ちゃんの近道』(新潮社、2006年、のち講談社文庫、2009年)は、2007年、第1回大江健三郎賞☆彡の受賞作品です。
文庫本の解説は、1994年にノーベル文学賞☆彡☆彡☆彡を受賞された大江健三郎氏が担当されています。

長嶋氏の小説には映画化された作品もあります。
先に挙げた『サイドカーに犬』は2007年、根岸吉太郎氏監督作品で、竹内結子さん主演です。
また、2008年、『ジャージの二人』(集英社、2003年、のち集英社文庫、2007年)は、中村義洋氏監督作品、堺雅人さんと鮎川誠さん主演の映画で、父親と息子の役が評判となりました。

さらに、長嶋有氏は、ブルボン小林氏として漫画評論活動もされており、また俳人としても幅広くご活躍されています。

「家で暮らす」ことは、決して間取りの問題だけではありません。
台所のガス管のホース、ベランダに設置しているエアコンの室外機の位置、タンスの置き場所、シンクの下の整理、トイレの掃除、風呂の水漏れなどというように、物や建具などに細かな愛着を持つことでもありますね。
賃貸住宅の場合は、人が住んでいた痕跡を見つけると、居住者の直前に住んでいた「幻の人」として意識しますが、実は案外それ以前の居住者のことでもあったりして、長嶋有氏の繊細な視点に納得させられました。

凛は、この作品は、電気・ガス・水道のライフラインに携わる方の他、不動産業、建築や設備などの関係の方、引越し業者、ホームセンターに関わる方、そして家電に関わる方などにもおすすめしたいですね。
「住まうこと」に対して、半世紀に及ぶ技術革新が人々の暮らし方に大変影響を及ぼしていく様子がわかりました。

「家で暮らす」ということは、すなわち生活することに直結しています。
天井や壁、柱、また生活用品などの物との関わりについても、ひとつひとつに愛着を持って大切にしていきたいなと思いました。
それらの積み重ねが人生をつかさどっていくものなのだなと凛は考えました。
時代による生活スタイルの変遷も楽しめますよ~

今夜も凛からのおすすめの一冊でした。(^-^)

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(日本語)文庫-2019/12/19長嶋有(著)
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