2020年9月27日日曜日

昭和歌謡と恋愛模様

こんばんは。
南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

あなたは歌謡曲がお好きですか。
カラオケで思い切り歌うのはお得意ですか。
昨今は新型コロナウィルスの影響で、一時期はカラオケも自粛の対象となり、なかなかカラオケで発散できないとお嘆きでいらした方も多いかと思います。

「歌は世につれ、世は歌につれ」
と申しますが、これはカラオケに行くとよくわかります。
気持ちよさそうに得意な歌を歌っている方の年代が、歌に反映されていることが多いですね。

特に、若い頃に流行した歌はいつまでも忘れられないものだと、往年のカラオケファンから聞いたことがあります。
それらには恋愛を伴った歌が多く、若い頃の苦い思い出、またはとても楽しかった思い出などがしっかりと歌と共に心の深部に刻まれているからでありましょう。

昭和の時代に大流行した歌は世相を反映したものが多いです。
演歌だけでなく、GSの歌、アイドルの歌、フォークソングなど音楽のジャンルはもっと細分化されますが、とてもメロディアスでなじみやすい歌が多いですね。
歌いやすい、覚えやすい、口ずさみやすい。
歌詞が生活に密着しているのか、人々の琴線に触れて心の深部に共鳴するからでしょうか。

中には歌いながら踊れる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
テレビ画面から得た歌手の振り付けをまねて、ポーズを決めたりして!(^_^)v

昭和の戦後の時代は、平成から現在の令和のインターネットの時代と異なり、若者たちの歌が世界的に重要なメッセージの役割を担っていました。
アメリカのロック歌手のエルビス・プレスリー、イギリスで誕生したロック・グループのザ・ビートルズやザ・ローリング・ストーンズ、アメリカのマイケル・ジャクソン、フォーク歌手のジェイムス・テイラー、二人組のサイモン・アンド・ガーファンクルなどなど、それはもう数えきれないくらいの地球規模の大スターたちが、世界中の人々にメッセージを伝えました。
歌には男女の恋愛だけでなく、反戦、東西冷戦、人種などの政治性も込められているものもありました。
メディアの大衆化と共に、歌は大衆に浸透し、世界中に発展していきました。

日本でも多くのスター歌手が誕生しました。
年末大みそか恒例のNHKの紅白歌合戦に出場することは歌手たちにとって大きな目標でありましょう。
テレビやラジオの媒体を通して、常に歌が中心の時代でした。
歌番組が多く、ベスト10などのランキングは、日本全国の世代を超えた多くの老楽男女の関心の的となっていました。

このような昭和の時代に大流行した歌謡曲を基調にして、男女の恋愛模様を描いた短編集があります。
井上荒野(いのうえ あれの)氏の『あなたならどうする』(2020年、文春文庫)です。
この短編集は、2017年6月に、単行本として文藝春秋から刊行されています。

凛が持っている文庫版(2020年7月、第1刷)の目次を見ますと、

「人妻ブルース」
「時の過ぎゆくままに」
「小指の思い出」
「東京砂漠」
「ジョニィへの伝言」
「あなたならどうする」
「古い日記」
「歌いたいの」
「うそ」
「サルビアの花」

冒頭に「人妻ブルース」が掲載されています。
井上荒野氏の作品で、ひとつの歌詞の形態になっています。
初出は、『小説新潮』(2011年1月号、新潮社)です。

この作品の舞台は団地でしょうか。
八号棟、三号棟、四号棟、十一号棟などの奥さまたちが登場します。
井上氏は、人妻であるが故の心の襞の暗部に焦点を充てています。
昭和の時代と重なる表現を取り入れているようでいて、実はしっかりと現代の世相を表わしているものだと凛は思います。

あなたは「時の過ぎゆくままに」以下、9曲の歌のタイトルを見ただけで、すぐに「ああ!知ってる!あの歌手の歌だ!」と、当時の歌手の歌声や姿が甦り、そしてメロディに乗せて歌詞を口ずさむことができる歌が何曲ありますか。

あなたは当時の歌手の衣装や髪型、サビの部分の特徴、マイクの持ち方など事細かく覚えていて、「とても懐かしいなあ~」と目にうっすら涙が出たりしませんか。
平成生まれのお若い方ですと「聴いたことがあるけど、よくわからないなあ」と仰る方もいらっしゃるでしょうねえ。
凛にはすぐにわからなかった歌が2曲ありました。

凛が所有する文庫本初版の帯には「昭和歌謡曲の歌詞ににインスパイアされた9つの物語」と紹介されています。
音楽に詳しい方からみると、厳密にジャンル分けをするならば、9曲の全てを「歌謡曲」に当てはめることに難色を示される方もいらっしゃるかもしれませんが、この作品集では「昭和歌謡曲」として括られています。

短編集の各章には、最初に各歌の歌詞の一部が掲載されています。
歌い出しの部分であったり、サビの部分であったり、各歌ごとに異なります。
井上氏はこれらの歌詞の特徴を捉えて、男女の恋愛の機微を井上流の視点で的確に表現されています。
この手法については、恋愛小説を描かせたら間違いなく安心して読ませてくれる「大人の作家」である井上荒野氏だからこそできるのであろう、と凛は位置付けます。
平成の終わりに近い2017年に単行本が発刊されていますから、描かれている小説の時代は平成でありましょう。

しかしながら、登場人物や環境にその歌詞と密着できる舞台設定が施されており、昭和時代に創作された歌詞と現代の時代のずれもほとんど感じられません。
ですから、歌が大流行した時をご存じない方でも、違和感なく恋愛物語に入れますよ。

勿論お若い方には、昔の歌、或いはご両親や祖父母の世代が好きな歌として、「なるほど、今でいうとこんな設定になるんだなあ」などと、歌を先行になさって読まれるのも構いません。
それから、小説が先にあって、「この歌はそんな意味だったのかあ」など歌を後付けする読み方など、どうぞあなたのお好きなように、ご自由に読まれてください。

各章には、様々な登場人物とあらゆる環境設定に、趣向を凝らしてあります。
主人公は、各章ごとに男性もいますし、女性の場合もあります。
井上氏独特の鋭い視点で、彼らの心理をあぶりだして、ほんのちょっとした極小のずれに亀裂が生じていく瞬間と、そこから壊れていく過程を見事に描き出されています。
伏線もあって、最後には広げた風呂敷を畳んでいますが、それが無造作であったり、裂けたり、或いはほどけそうなほどに結び目が緩かったりと、畳み方の細部にも拘りがみられます。

「時の過ぎゆくままに」は、妻が癌治療で入院中の夫が主人公です。
彼は癌患者である妻の闘病を支えながらも、病院の喫煙所で夫が入院中の若い人妻と出逢ってしまい、二人は逢瀬を重ねていくのです。
退院した妻が、実にさりげなく夫に、自身のことを何と言ったのでしょうか。
それはほんの一瞬のことでしたが。
その瞬間の夫の心理状態に鋭いメスを入れる井上氏の視点は見事といえましょう。

当然ですが、相手の人妻にも過酷な現実がずっしりと背中を覆っています。
二人の目の前に迫ってくる壁が高くて険しいほど、それを乗り越えようと思うのでしょうか。
痴情におぼれた二人はこれからどうなっていくのでしょうか。
最後まで読むと、凛にはジュリーこと沢田研二さんの透き通った歌声が実に切なく聴こえてきました。

「ジョニィへの伝言」は、某地方で行なわれた歌の地区予選の選抜で選ばれ、東京決戦に出場した女性と、地元で鍼灸院を営む男性の話です。
プロダクションのマネージャーから声をかけられた女性は、「東京に住んでこれから歌で生きていく」と夢の実現が叶う転機を迎えたのですが。
女性が、目の前の現実を認めなければならない、決して後戻りはできない、前に進むしかないと悟る瞬間。

この章で凛が注目したのは、最後の四行(文庫版)です。
そして、最後の一文がキーワード。
凛には、高橋真梨子さんの情感をこめた歌声が胸にずうんと響いてなりませんでした。
それと同時に、この歌詞の全容を再確認せずにはいられませんでした。

「うそ」は、薬剤師の男性が主人公で、冷酷に次々と付き合う女性を変えていきます。
新しい獲物を捕らえるために、自分に都合のよい自己中心の考えで嘘を重ねます。
彼は付き合っている女性に対する興味は持続せず、すぐに飽きてしまうのです。

このような嘘を重ねていく男性は、新しい女性を獲得する過程が楽しいのではないでしょうか。
相手の女性への愛ではなく、欲望だけが全てであるような生き方を続けてきたのでしょう。
彼は実に行動的で、相手のことを冷静に観察しています。
一人でいる時間も必要なのではと凛は思いますが。
マイケル・ジャクソンの「スリラー」の洋楽が出てくるのも何かのメッセージかも……。
読み進んでいるうちに、中条きよしさんのソフトに歌う声が凛の耳元で聴こえてきました。

以上の三曲の他にも、某団体の一員として集団生活をしている男性のもとへ、ある日突然夫や子供のいる家庭を捨てて飛び込んだ主婦の話の「あなたならどうする」、振り込め詐欺の受け子と思われる若い男女を描いた「古い日記」など、現代社会の問題もえぐりながら、恋愛を成就しようと必死でもがいている人たちの話が出てきます。
どの登場人物も危うい立ち位置で、哀切極まる情感をもって、あなたにずっしりと重く恋愛の情景を突きつけます。

井上荒野氏は、1989年、短編小説「わたしのヌレエフ」で、第1回フェミナ賞を受賞☆彡されて、デビューされました。
この作品は、『季刊フェミナ』創刊号(1989年、学習研究社)に掲載されたのち、1991年に『グラジオラスの耳』の書名で福武書店より単行本として所収されており、2003年、光文社文庫から単行本と同じ書名で文庫化、所収されています。

2004年には小説『潤一』(2003年、マガジンハウス、2006年、新潮文庫)で、第11回島清恋愛文学賞を受賞☆彡されました。
そして、2008年、小説『切羽へ』(2008年、新潮社、2010年、新潮文庫)で、第139回直木賞を受賞☆彡☆彡されました。
その後も数多くの小説を受賞されていらっしゃいます。

小説家の井上光晴(1926~1992、いのうえ みつはる)氏のご長女で、小説、エッセイ、児童書などの翻訳も手がけるなど大変ご活躍されています。
本格的な大人の小説が描ける、まさに恋愛小説の名手としての地位を確保されていらっしゃいます。

文庫本の解説が、直木賞作家の江國香織氏と大変豪華です!
江國氏は、2004年、短編小説『号泣する準備はできていた』(2003年、新潮社、2006年、新潮文庫)にて、第130回直木賞を受賞☆彡☆彡されました。
お父さまが演芸評論家でエッセイストの江國滋氏(1934~1997)で、幼少期の頃から本に囲まれていたであろう井上荒野氏と似た環境のようですね。
お二人はとても仲良しなのでしょう。

江國香織氏も恋愛小説の女王として、多くのファンがいらっしゃいます。
同じ恋愛小説を描く女性作家の細部にわたる視点に、ああ、なるほど~とあなたも頷けるでしょう。
是非、文庫本の解説をお読みになられてくださいませ。

黄金の歌謡曲全盛の昭和という時代は、何て人々が歌と共に生きていたのだろうかと思わずにはいられません。
どろどろとした感情、どこまでも貫きたい欲望。
この作品で紹介された9曲は、メロディアスな曲調も加わって、カラオケで愛され続ける歌ばかりです。

井上荒野氏は、歌詞を見つめ、歌詞に触発されて、ご自身の才能をもってこれらの歌の世界に憑依されたのでしょうか。
どの恋愛も、表題の『あなたならどうする』につながるのです。
時代を超えて、小説と歌との融合を読者は体験できるのだと凛は思います。

これから秋が深まってゆきます。
読書の秋です。
秋の夜長に、井上荒野氏が提供する様々な恋愛模様を、昭和の歌謡曲と共にあなたもしっとりとご堪能されてみてはいかがでしょう。

今夜も凛からあなたにおすすめの一冊でした。(^-^)

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(日本語)文庫-2020/7/8井上荒野(著)
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2020年9月14日月曜日

仕事が単調だとお悩みのあなたへ、ミラクル・ワールド!

こんばんは。
南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださりまして、ありがとうございます。
と共にどうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

あなたはお仕事に従事されていらっしゃいますか。
毎日の労働の中で、ルーティン・ワークで繰り返される業務、職場と自宅の往復ばかりで何にも新しい感動や出会いなどないなあ、楽しいことがないなあと思われることはありませんか。
日々の仕事に対する思いが少しずつ鬱積して、思い悩まれることはありませんか。

最近は新型コロナウィルスの関係から、新しいワーキング・スタイルとしてリモート・ワークを採用している企業もあります。
しかし、職場と自宅の往復の通勤の疲れは免れていても、今度は自宅で一日を過ごすことの新たな問題も報じられています。
そのため、郊外の広い住宅が新たな不動産の市場として注目されてきています。
それに伴い、快適なリモート・ワークに適した間取りや衣類なども人気が出ています。

このような労働環境の変化が新たな時代への転換期となるのか、否か。
果たして数年後には、就労者にとってどのような形態を成しているでしょうか。

ここで少し想像してみましょう。
もし、あなたのお仕事の一日が終わるまで、ことあるごとに非日常の世界が繰り広げられるとしたら。
一日のぞれぞれの時間帯で、奇想天外でミラクルな世界があなたを待ち受けていたとしたら。
あなたは楽しめることができますか?
それとも、どんな反応を示されるでしょうか?

まさにそのようなお仕事小説があります。
お仕事小説とはいっても、具体的な業務遂行の物語ではありません。
主人公がある瞬間から全く異質な世界へと転じる物語で、それはまさに「想定外」な世界が繰り広げられます。
純粋に創作物語であるフィクションとして、あなたにミラクル・ワールドを存分に楽しみいただきたいと思います。

今回の作品は、青山七恵氏の連作短編集『踊る星座』(中公文庫、2020年)です。
2017年に中央公論新社から単行本として刊行されています。
作品は13の短編小説で連作となっています。

主人公の「わたし」はダンス用品の会社でセールスレディとして外営業を担当している女性です。
この「わたし」の子供の頃のエピソードから始まり、通勤電車の中や、社内での様子、地下鉄構内、顧客の家やダンススクール、取引先の倉庫、移動中のタクシー、会社主催の会食のレストラン、夜の公園などこれだけを挙げますと、営業職の業務として納得できる状況であると頷ける方も多いでしょう。

「わたし」は真摯に仕事に向き合う真面目な女性です。
ところが、ふとした瞬間から、日常の場面から非日常への場面へと状況がいきなり変化するのです。
それは主として、「わたし」の周囲の人々の変化にあります。
一般常識では理解不能な人たちが「わたし」に向かってきます。
瞬間的に突如眼の前の事象が想定外の事象へと変化したことに気づきながらも、「わたし」はその変化にすら真摯に向き合うのです。
つまり、「わたし」は非日常を受け入れ、咀嚼し、消化していこうとするのです。

眼の前に生じた急激な変化とは実に様々です。
不可思議だと思える人たちがいきなり目の前に現われて、「わたし」に近づいてきます。
これらの人たちの言動や行動は「わたし」及び読者がこれまで常識的だと思っていたことを悉く破壊します。
彼らは、読者や「わたし」が抱いた「え?そんなはずはないだろう?」という驚きや疑問すら簡単に打ち消されてしまうほど、強く非常識な事柄を押し通します。
言い換えれば、今「わたし」が生きている世界における非常識の価値観を、常識的な価値観へと転化していく過程が描かれているといえます。

以下で、凛が「わたし」の前に現れる不思議な人たちを少しだけご紹介しましょう。

例えば、第3章の「スーパースター」では、図書館から借りた図書を各駅停車の電車内で読んでいる「わたし」が、眼鏡の女性が隣に座っていることに気づきます。
その女性との会話が実に奇妙で、本当は本の世界を楽しみたいところだけれども、仕方なく女生徒の会話にお付き合いしなければならない「わたし」がいます。

第6章の「ハトロール」では、取引先の衣料問屋の倉庫を訪問すると、高齢の女性が倉庫番と称して登場し、何かと上から目線で「わたし」を叱りつけます。

第8章の「妖精たち」では、顧客先であるフラメンコスクールを訪問すると、いきなりダンス講師の男女の激しい恋の終焉を見せつけられる「わたし」がいます。

この章までになると、「わたし」の行く先々に「次は何が出てくるのか。どんなミラクルな世界がきても驚かないぞ!」というような期待感を読者にもたせてきます。
突如として現れる「想定外」の出来事も、またそれに瞬時に対応する「わたし」にも感心しながら、どんどん先が気になった凛でした。
凛が持っている文庫本の初版の帯には、「キレてますけど、元気です!」と紹介されています。
なるほど「わたし」は常に元気に対応しており、凛は実に誠実で爽やかなセールスレディの姿を思い浮かぶことができました。

第9章の「テルオとルイーズ」では、移動中のタクシーの車内で、時間がないと焦る「わたし」に、急にある提案を告げるタクシー運転手に驚きながらも、「わたし」の心は揺れながら、しかし運転手に素直に反応していくのです。
その時の「わたし」の思考回路が実に切なく感じてしまうのは、凛だけではないかもしれません。

「わたし」には家族がいて、仕事だけでなく、家族の悩みにも付き合わなければなりません。
それは第10章の「お姉ちゃんがんばれ」というタイトルからも想像できます。
何事も真面目で真摯に取り組む「わたし」としては、休日までも頑張らなければならないという家族構成になっています。

そして、作品の終わりに近づく第12章「ジャスミン」で、「わたし」は二体の生物と出合い、自己の運命に天を仰ぎ見ます。
圧巻は、ここで「わたし」の仕事や人生に対する本音が描かれているのだなと凛は捉えました。
凛は、作者が「わたし」の仕事や人生に対する本音を最もここで主張したいがために、これまでの奇想天外な世界を創造して、読者に突きつけていったのではあるまいかと考えました。
この章で、タイトルの『踊る星座』が理解できる構図になっているのではないでしょうか。

最終章の「いつまでもだよ」には「わたし」の子供時代が描かれており、第1章の「ちゃぼ」に戻れば、さらにこの作品のタイトルにも納得できましょう。

文庫本の巻末には、2014年、小説「穴」(『穴』〔新潮社、2014年、2016年、新潮文庫〕)で、第150回芥川龍之介賞☆彡☆彡を受賞された作家の小山田浩子氏の解説が掲載されています。
「解説 星座はどうして踊るのか」を読まれて、「わたし」たる「わたし」の存在が、あなたにはどう伝わるでしょうか。

作者の青山七恵氏は、大学在学中の2005年、小説「窓の灯」で第42回文藝賞☆彡を受賞されて作家デビューされました。
この作品は『窓の灯』(河出書房新社、2005年、河出文庫、2007年)に所収されています。

そして、2007年、小説「ひとり日和」で、第136回芥川龍之介賞☆彡☆彡を受賞されています。
この作品は、単行本として2007年、『ひとり日和』で河出書房新社から刊行され、のち2010年、河出文庫から文庫本として出版されています。

また、2009年には、小説「かけら」で第35回川端康成文学賞☆彡を受賞されています。
この作品は、単行本として2009年、『かけら』で新潮社から刊行されて、のち2012年新潮文庫から文庫本として出版されています。
他にも多数の作品が刊行されており、若くして大変ご活躍されている作家です。

青山七恵氏は、何という創造力の塊なのでしょうか!
何故に日常であるお仕事小説を、非日常なミラクル・ワールドに転換できるのでしょうか!

凛は、まるでロシア文学のミハイル・ブルガーコフ氏の長編小説『巨匠とマルガリータ』(水野忠夫訳、河出書房新社、2012年、同訳、岩波文庫〔上・下〕、2015年)を読んだときの如く、青山氏の想像力の素晴らしさに圧倒されました。
ブルガーコフ氏のこの作品は『池澤夏樹=個人編集 世界文学全集1-5』(同訳、河出書房新社、2008年)からも刊行されています。
一体次に何が出てくるのか全く想像もできないくらいに、それはそれは自由自在に作中の登場人物たちが生き生きと輝いているのです。(^o^)
ブルガーコフ氏のこの作品によって、文学とは自由な世界を創造できるものである、という体験を凛はしました。

これに匹敵できるような世界を青山七恵氏は創出されています。
青山七恵氏によるどこまでも続く奇想天外な物語は、読者の想像力の修練が求められる格調高い文学作品であると凛は考えます。

自宅と職場の往復、単調な仕事の日々だとお悩みのあなたには、ジェットコースター並みの「想定外」が繰り広げられる世界を堪能できますよ。
何も恐れることはありません。
初版の文庫本の裏表紙には「笑劇」と紹介されています。
どうぞご安心されて、青山七恵氏の傑作なる世界に身を委ねてみるのはいかがでしょう。
読後は、もしかしたらあなたのお仕事に対する気持ちに変化が生じるかもしれません。

今夜も凛からあなたにおすめの一冊でした。(^-^)

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(日本語)文庫-2020/7/22青山七恵(著)
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2020年9月4日金曜日

老境とは

こんばんは。
南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださりまして、ありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

凛からあなたに二つの質問があります。

まず、一つ目の質問です。
あなたは年齢を感じたことがありますか。

当たり前ですが、人は誰でも年齢を重ねます。
「最近、疲れやすいなあ。目もかすんできて、小さい文字が見えにくいよ。髪も白くなってきたし、肩こりや腰痛もあるし、膝だって最近痛みだした。もう年だな……」
などと思うことはありませんか。

あなたは、ご自分の老後をどのように過ごそうとお考えでしょうか。
「どうせ自分は長生きしないよ」
などと口癖になっていらっしゃるあなたは、今の医学は日進月歩で進化していますので、案外そのようにはならないものなのです。

次に、二つ目の質問です。
あなたは一日の時間をどのようにお使いですか。

凛は、朝起きて、夜に眠るという一般的な生活時間帯の概念とは若干異なる過ごし方をしています。
凛のりんりんらいぶらり~は、夜の時間帯、あなたの眠る前のひとときに、おくつろぎいただけるようにとつとめています。
凛がどのような一日を過ごしているのかは、あなたのご想像にお任せいたしますね。

さて、人は老境に入ると、どのような心境で動き、一日をどのように過ごしているのでしょうか。
特に、日本人のご高齢の男性のご老人ですが、凛には少しわかりづらい世代であります。
現代のご高齢の男性は、随筆である鴨長明著の『方丈記』や吉田兼好著の『徒然草』に通じるものがあるのでしょうか。

凛が街で見かけるご高齢の男性方も、大抵お一人で行動されていらっしゃるようです。
無口な方が多いですし、苦虫を噛みつぶしたようなお顔を拝見すると、あら、怒っていらっしゃるのかなと、気軽に話しかけにくいようなイメージがあります。
時代劇に出てくるような武将を想像して、何だか近寄りがたくて、話しかけると説教されそうだというような、とっても気難しい印象を凛が勝手にもっているのかもしれません。

時には、ぶつぶつと何やら独り言を言いながら、ふらふらと歩いていらっしゃる方も見かけます。
駅前の居酒屋などでは、まだ陽があるうちから、お一人でほろ酔いの御仁もいらっしゃいますね。

これに比較して、ご高齢の女性陣は、お一人さまだけでなく、団体で行動されていらっしゃる方々もよく見かけます。
女性は年齢に関係なくお喋りが好きですし、話し出すと止まらない方が多いですね。
皆さん、とても華やかにお洒落して、元気にお買い物を楽しんでいらっしゃいます。

「老境」という言葉が合うのは、男性のご高齢者のように凛は思います。
高齢化社会の日本において、異なる世代が老境に入った方の心境や心理状態を知ることは、今後の日本を支えるためにも、また個人においても、大切なことであろうと凛は考えます。
世代間の断絶を無くして理解できることは、日本や個人にとって有益なことではないでしょうか。
決して難しく考えずに、読んでいて、ああ、とっても楽しいなあと、気軽に読めてしまう「老境」を綴った小説があります。

京極夏彦氏の『文庫版 オジいサン』(角川文庫、2019年)です。
この小説は、2011年に中央公論新社から『オジいサン』のタイトルで単行本で刊行されました。
2015年、中公文庫から同じ『オジいサン』のタイトルで文庫本が刊行されています。
それを京極氏が加筆・修正し、『文庫版 オジいサン』にタイトルを変えて、出版社も変わり、KADOKAWAからの刊行となっています。

京極夏彦氏は百鬼夜行シリーズの第一作である小説『姑獲鳥の夏』(講談社ノベルス、1994年、講談社文庫、1998年)がデビュー作で、映画や漫画にもなっています。
あなたも妖怪や魑魅魍魎のおどろおどろしい表紙が書店で平積みされているのをご覧になられていらっしゃるのではないでしょうか。

恐ろしくて怖いイメージの京極氏の作品とは全くかけはなれた現代のご高齢の男性が、一人でベンチに座っている表紙の文庫本を近所の書店で見たときには、凛は思わぬ発見をしたような心境に至りました。
ご高齢とはいっても、ジーンズかと思われるズボンを履き、若さも感じられます。
その男性は、どこか遠くを見つめているようでもありますし、何か思いにふけっているかのようでもあります。

そして、文庫本の帯には、解説が宮部みゆき氏であると紹介されているではありませんか。
「すごく面白い。続きが読みたい!」と。
そして帯には「なにも起きない老後。でも、それがいい。」
「一番好きな京極作品の声、多数!」

凛はすぐに文庫を手に取り、表紙をめくりました。
「老境」と筆で書かれた文字が目に入り、今度はベンチに二人のご高齢の男性が座って、それぞれ違う方向に顔を向けています。
京極夏彦氏の書字で書かれたお名前と篆刻印もあります。

奥付を見ると、令和元年(2019年)12月に初版が発行されて、令和2年(2020年)2月にはすでに3版となっていました。
やはり京極作品は人気があるのがわかります。
勿論、凛はそのままレジに進みました。

さて、ベンチに座っている表紙の主人公の72歳の益子徳一さんは、定年退職後、公団で単身世帯で暮らしています。
未婚ですから、お子さんやお孫さんはいらっしゃいません。
現役時代のお仕事の職種などもよくわかりませんが、真面目に定年まで勤めあげられたことはわかります。
この徳一さんは、非常に真摯にものごとを突き詰めて考えるお方でして、その思考の過程がとても長く、詳しく描かれており、非常に秀逸です。
京極氏の想像力を駆使されての徳一さんでありましょう。

目次を開きますと、
七十二年六箇月と1日 午前5時47分~6時35分
七十二年六箇月と2日 午前10時26分~53分
七十二年六箇月と3日 午前9時50分~10時42分
七十二年六箇月と4日 午後4時38分~5時16分
七十二年六箇月と5日 午前11時2分~午後0時27分
七十二年六箇月と6日 午後1時14分~45分
七十二年六箇月と7日 午後2時2分~58分
解説 宮部みゆき
となっていることから、徳一さんの72歳と半年過ぎた一週間の出来事が、あらゆる時間帯で描かれていることがわかります。
時間の指定が分単位で細かいのは、帯にも書いてあるように、徳一さんの日常が非常にまったりとしていることを示していると考えられます。

ところで、「オジいサン」と、片仮名の間の「い」だけが何故に平仮名なのかは、あなたが読まれてからのお楽しみにとっておきましょう。

ここで作品について、着目した点があります。
作中の益子徳一さんは72歳ですが、現在の2020年の72歳とは明らかに世代が異なる点です。
この作品は2011年に単行本で刊行されました。
ということは、その前にご執筆されたことになりますから、益子徳一さんは現在は81歳前後になっていらっしゃいます。
したがって、徳一さんは戦後生まれの団塊の世代よりも年上となりますので、現在の72歳の方々とは、テレビや新聞、電話などの情報収集や伝達に関する認識などにはギャップがあるだろうと凛は考えます。

作中には、田中電気の2代目が折々に顔を出してきます。
日本のテレビ放送が、アナログから地上デジタルテレビ放送に切り替わったのが2011年7月24日ですから、作品はその前の出来事が描かれています。
2代目は、徳一さんにテレビの買い替えを進めますが、徳一さんはなかなか首を縦にふりません。
この二人のやりとりが面白くて楽しめますよ~ (^○^)

徳一さんの日常の中で、凛が特に興味をもったのが、お昼ご飯に卵料理をする場面です。
そのときの徳一さんの心理状態が事細かく描かれています。
うん、これって、あるある、もしかしたら京極氏もそうなのかしらと、凛は勝手に想像しながら読みました。
徳一さんの老境について、当時40代だった京極氏の想像力の結集がこの作品に表れているのでしょうか。

京極夏彦氏は、1996年、小説『魍魎の匣』(講談社ノベルス、1995年、講談社、2004年、講談社文庫、2005年)で第49回日本推理作家協会賞(長編部門)☆彡を受賞されました。
また翌年の1997年には小説『嗤う伊右衛門』(中央公論社、1997年、中公文庫、2004年)で第25回泉鏡花文学賞☆彡を受賞されました。
2002年、小説『覗き小平治』(中央公論新社、2002年、角川文庫、2008年)では、第16回山本周五郎賞☆彡を受賞され、第118回直木賞候補となっています。
そして、2003年には、小説『後巷説百物語』(角川書店、2003年、角川文庫、2007年)で第130回直木賞☆彡☆彡を受賞されました。
さらに、2011年、小説『西巷説百物語』(角川書店、2010年、角川文庫、2013年)で第24回柴田錬三郎賞☆彡を受賞されています。
他にも多くの作品を受賞されており、ここでは書ききれないほどのご活躍をされてます。
また、映画化やコミックにもなっており、コアな京極ファンが多いです。

京極氏は、読者への配慮が素晴らしく、一文が頁をまたぐことがないように、必ず改行して構成されています。
この作品でも加筆修正されておりますが、一文が必ず頁内に収まっています。
書店や図書館で、是非京極氏のこだわりをお確かめくださると納得できるかと思います。
そのため、お豆腐のようにま四角で分厚い本でも、読者に優しい京極氏を堪能できるようになっているのだろうと凛は思います。
電車の中で、ころころとしたま四角の分厚い本を読んでいる若い女性を見かけたとき、カバーをかけていても、すぐに京極氏の作品だとわかるくらいです。

そして、巻末の宮部みゆき氏の解説が、また素晴らしいのです!
宮部氏がどんな状態のときに、この作品を読まれたのかが丁寧に書かれています。
これを読むと、ますます益子徳一さんのことが気になってたまらなくなります。
当代の売れっ子作家である大沢在昌氏、京極夏彦氏、宮部みゆき氏の三人で「大極宮」を結成されていらっしゃいますが、本当に仲がおよろしいようですね。(^o^)

熱心な京極ファンをはじめ、多くの読者に愛されている益子徳一さんには、どうかこのままお元気でいらして欲しいと願ってやみません。
徳一さんは凛の心の中のオジいサンです。
徳一さんの律儀で真摯に暮らしを営まれている姿には、あなたも感動ものですよ~

今夜も凛からあなたにおすすめする一冊でした。(^o^)

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