2020年10月20日火曜日

京都の絶品!究極のグルメ小説です

こんばんは。
南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

秋も深まってまいりましたね。
暑かった夏も過ぎ去り、温かさを求めたくなる季節になりました。
過ごしやくなった秋を満喫したいですね。
勉強、スポーツ、旅行、映画、美術、音楽、書道、もちろん読書、そしてグルメ!
あなたはこの秋に何に夢中になりたいですか。

実りの秋です。
美味しい食べ物がたくさんあなたを待っています。
凛も秋になると、ますます美味しい食べ物をいただきたくなりま~す!(^-^;

今年は新型コロナウィルスの関係で、ホテル、街のレストランや食堂、専門店など多くの外食産業の営業に多大な影響が及びました。
中には老舗の有名店が閉店となった事態も報じられています。
Go To イートなどの政策も行なわれております。
これまでの外食の概念が変わってきそうな感じもいたします。

自粛やリモートワーク、オンライン授業などにより、ご自宅で調理する機会が増えた方も大勢いらっしゃるでしょう。
あなたはお料理に興味がありますか。
凛は最近、炊飯器を新しく買い換えました。
只今美味しいお米の炊き方を研究中です。
自宅で調理して食事を摂るのは生活の上で基本であろうと思います。

しかし、何と言ってもプロの料理人の手による味を堪能するのは気分が違いますよね。
またはお仕事で外食をご利用されたり、お昼ご飯をお店でいただいたりする方も多いでしょう。
或いは夕飯をお店でお酒と共に楽しんだり、なじみのお店を予約したり、ガイドブックで美味しそうなお店を探したりする方もいらっしゃることでしょう。

ぶらりと歩きながら、一度も利用したことがなかったけれど、雰囲気がよさそうなお店だなと外から眺めて、思い切って「えいっ!」と気合を入れてお店のドアを開けて入ることもあるでしょう。
「いらっしゃいませ!」
ワクワク!これから新しい世界を体験するという期待感がありますよね!

それから旅に出て、ホテルや旅館はもとより、地元のお店で解放感に浸りながら、地元の食材を堪能するのは最高の贅沢ですね!

自炊と異なり、外食は、立地、看板、店構え、店内の雰囲気、価格、味、食材、食器類、人材、接客など、いくつもの要素をクリアして、そのお店とご縁をもつことの不思議さがあります。
お気に入りとなれば、リピーターとなって何度も足を運ぶことになるでしょう。
それにはやはりお料理の味が最も重要ではないかと凛は思います。
ご家庭では絶対に創り出せないプロのレシピがあってこその外食の楽しみでありましょう。

食欲の秋でもあることですし、美味しいグルメ小説を読んで楽しみたい!
凛はそのようなことを考えながら、近所の書店の新刊文庫本の棚で出合った本が今回のグルメ小説です。

柏井壽(かしわい ひさし)氏の短編集『祇園白川 小堀商店 いのちのレシピ』(新潮文庫、2020年)です。
この作品は、全部で六話で構成されています。
このうちの第二話から第五話までは、新潮社刊行の文芸誌『yomyom』vol.56(2019年6月号)~vol.58(2019年12月号)に連載されています。
第一話は、同社刊行の文芸誌『小説新潮』2019年3月号に掲載された短編1篇です。
第六話は、書き下ろし作品です。
単行本の刊行はなくて、文庫本の刊行となっています。

凛が書店で手にした2020年9月発行の文庫本初版の帯には、今やメディアで大活躍の放送作家、小山薫堂氏の推薦の言葉が掲載されています。
「京都通も唸る絶品のグルメ小説!(以下、省略)」(同書)とあり、なるほど京都が舞台のグルメに関する小説だということがわかります。
いやはや、これはプロの料理人にまつわる物語が読める期待感が大です!

文庫本の裏表紙の紹介文では、「絶品グルメ小説集」(同書)と書いてあります。
帯の裏には、「小堀商店が集めた、唯一無二のメニュー(以下、省略)」(同書)と書いてあります。
「京都」「祇園」「絶品グルメ」とまさに美味を追求するキーワードが連なって、これは面白い小説に違いないぞと思い、書店のレジに向かった凛でした。

先にご紹介いたしましたように、この作品は全六話から構成されています。
帯の裏表紙にメニューが紹介されています。
「うどんカレー」「鯖飯茶漬け」「明石焼」「まる(すっぽん)蕎麦」「もみじ揚げ」「南蛮利久鍋」(同書)

どうやら家庭ではなかなかできそうにないプロのメニューで、メニューを見ただけでも美味しそう!
これらのメニューを見ただけで「美味しそうだな!食べてみたいな!」とつぶやく凛でした。

読み始めますと、第一話が花街(かがい)の芸妓さんの京都弁で始まりますので、気分はすぐに京都への旅人になります。
芸妓さんのふく梅さんの言葉がとても柔らかくて、はんなりとした気分にさせてくれますよ。
京都の春から冬までを舞台に、四季折々の芸妓さんのしきたりなどについての説明もあります。
お料理を享受する側の目線だけでなく、プロの料理人の視点に立って描かれており、その世界の厳しさが綴られています。

「小堀商店」というのは、様々な事情を抱える料理人たちから、後世に遺したい遺産としてひとつのレシピを買い取るというシステムを掲げている非営利の組織です。
メンバーは、「洛陽百貨店」の元経営者である小堀善次郎がボスとなり、彼の元部下であり、現在は京都市役所の「なんでも相談室」に勤務する木原裕二、宮川町の芸妓さんのふく梅、「和食ZEN」の料理人である森下淳の三人で運営を担っています。
加えて、「和食ZEN」のスタッフの山下理恵が準構成員となっています。

料理店を営むには相当なエネルギーが必要なものなのですね。
今年は自粛もあって、新型コロナウィルスで外食に携わる方々の悩める問題が大きくクローズアップされました。

プロの料理人の方々には日頃から営業継続を疎外する様々な要因が伴います。
この要因とは、交通事故、病気、店舗の移転問題、後継者問題に加えて、昨今のグルメ通やメディアの取り上げ方に対する店主の考え方の違いや、次世代に愛されるため新メニューを考慮したい老舗旅館などの諸難問です。
各篇の中で、それぞれの難問が彼らの前に大きくたちはだかります。

さらに、小堀善次郎の百貨店時代における全国の物産展にまつわる事件が絡む話も出てきます。
高級店や老舗店だけではなく、低価格の大衆食堂も登場し、美味しいとお客さんに評判の人気店ばかりです。
凛は、どのお店にも行って食べてみたい!と強く思いました。

小堀善次郎を中心とするメンバーで、これらの悩める料理人たちの話を聞き、レシピを買い取るのですが、その前に料理人たちはメンバーの前で調理をしなければなりません。
彼ら全員から「美味しい!」という満足感と、遺産として充分価値のあるレシピであるというお墨付きを得なければ、レシピ買取の契約は成立しません。

決定を下すのは小堀善次郎です。
まるで大岡裁きのようであり、実に「お見事!」という判定には唸らせてくれます。
人生を賭けた難問を前にして、料理人たちと「小堀商店」のメンバーとの対峙する場面の緊張感が読者にぴりぴりと伝わります。

様々なメニューのレシピについて、非常に細かく説明がされています。
読んでいて、明らかに家庭料理とは一線を画していると思われますが、美味しい秘訣が随所に込められていますので、お料理にご興味のある方には参考になる部分も大いにあるでしょう。

言えることは、プロの美味しいお料理には下準備に余念なく手も心もこめられており、料理に対する愛情が非常に繊細であるということです。
お店に足を運んで、「美味しい!」と思ってお金を出して喜んで食べてくださるお客様のお顔を思って、料理に愛情を注ぐプロの料理人たちのレシピを遺して欲しいと願わずにはいられません。(^-^)

作者の柏井壽氏は、京都市内で歯科医院を営んでいらっしゃる傍ら、小説やエッセイも執筆されています。
文庫の巻末の澤木政輝(さわき まさてる)氏(毎日新聞記者、京都芸術大学非常勤講師)の解説によりますと、柏井氏の小説には実在する名店が登場することもあるし、または仮名の場合もあると説明されています。

柏井氏は、桂木圭一郎(かつらぎ けいいちろう)のペンネームでも小説を執筆されています。
『名探偵・星井裕の事件簿』はシリーズ化されており、『京都大文字送り火 恩讐の殺意』(小学館文庫、2008年)をはじめとするミステリー小説が多く刊行されています。

また、本名である柏井壽(かしわい ひさし)の名義では、エッセイやガイド本を執筆されており、京都の観光案内に寄与されています。
『京都の通りを歩いて愉しむ〈通〉が愛する美味・路地・古刹まで』(PHP新書、2019年)など多く刊行されており、京都のカリスマ的案内人としてご活躍されています。
柏井壽名義での小説『鴨川食堂』(小学館、2014年、小学館文庫、2015年)シリーズ化されています。

「小堀商店」については、前作の短編集『祇園白川 小堀商店 レシピ買います』(新潮文庫、2018年)も合わせて読みたいですね。
とびきりのレシピに、あなたも読者審査員となって対峙するのも楽しいでしょう。

読了後は、帯の小山薫堂氏の推薦の言葉が納得できます。
きっとあなたも「うどんカレー」と「カレーうどん」の違いがわかるようになりますよ。

それにしても、芸妓さんのふく梅さんの実に細やかな心遣いには感服いたします。
ふく梅さんはきっとお着物が似あって所作も優雅で、お綺麗なのでしょうね。
凛もふく梅さんにお会いしたくなりました。(^o^)
一見さんは無理なのでしょうけれど。

凛も京都を旅して、はんなりとした味、上品な味を堪能してみたくなりました。
それから、京都から近場の旅の他に、佐賀県唐津市までの旅もあり、観光案内もしっかりと込められてますよ。
グルメに、旅、京都案内も合わせて、究極の絶品!グルメ小説を、秋の夜長にあなたも楽しまれてはいかがでしょう。

今夜も凛からのおすすめの一冊でした。(^-^)

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2020年10月8日木曜日

名作と医療小説が同時に楽しめます

こんばんは。
南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださいましてありがとうございます。
と共にどうぞおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

秋も深まってきましたね。
朝晩はだいぶ涼しくなってきました。
あなたはお風邪などひかれていらっしゃいませんか。

今年は新型コロナウィルスの影響で、例年よりもさらに健康に留意されていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。
入店時などアルコール消毒や体温チェックをする機会も随分増えました。
相変わらずマスクは必需品です。
普段の暮らし方も昨年とは様変わりしましたね。

あなたも日常的に健康に気をつけていらっしゃることでしょう。
学校や職場での健康診断や人間ドックなどで判明した数値とにらめっこしながら、気をつけるべき点をかかりつけ医とご相談されていらっしゃいませんか。

まずは毎日の食事の面から、栄養を考えることは必須でしょう。
また、サプリメントをとりいれたり、運動などで日頃から健康を意識していらっしゃることでしょう。
次に、気持ちを明るくして、ポジティブに考えることも必要です。
さらに、計算をしたり、記憶力を高めるための努力も求められましょう。

しかし、いくら健康に気をつけてはいても、様々な病に罹患することがあります。
伝染性の疾患だけでなく、日々の暮らし方による生活習慣病もありますし、遺伝的な要素を含めての病気もありましょう。
意図しない癌などがそろりそろりと知らないうちにしのびよってくることもあります。
或いは、不慮の事故などによる怪我もあります。
目や歯科の検査や治療も大事ですね。

加えて、高齢化社会が進んでいる社会では、認知症などの問題もあります。
ご自分の健康だけでなく、近年は高齢者の介護も深刻です。
介護難民や介護離職、老々介護なども社会問題化しています。
若い世代の人口減により、高齢者を支えていく社会において考えるべき課題が多々あります。
我が身が高齢になってどこでどのように過ごすのか、日頃から考えておかないといけないとは頭の中で理解はしていても、なかなか簡単には結論を出せずに迷いが生じて、逡巡しながら時だけが経っていくようにも思えます。
これらの問題のひとつひとつをクリアすることが、安心して暮らせる社会をつくることになります。
なかなか難しいものですね。

実際に医療従事者の視点ではどう考えていらっしゃるのでしょうか。
現実に日々患者さんやそのご家族とどのように応対されていらっしゃるのでしょう。
果たして、医者としての本音は?
医者個人としての考え方と、病院という組織や、医学界という大きな枠組みの中での考え方には違いがあるのでしょうか。
などと凛はしばしば疑問に思うのですが、あなたはいかがでしょうか?

このような深刻になりがちな医療の諸問題を、医者の観点から描いた医療小説があります。
今回、凛がおすすめするのは、一般的な医療小説ではなく、有名な文学作品をパロディ化した小説で、基になる文学作品と二重に楽しめる作品です。
久坂部羊(くさかべ よう)氏の短編小説集『カネと共に去りぬ』(新潮文庫、2020年)です。
この作品は、2017年に新潮社より単行本として刊行されています。

まずは表題の『カネと共に去りぬ』には、1939年に公開されたアメリカ映画の『風と共に去りぬ』(ヴィクター・フレミング監督)をすぐに思い浮かべる方がほとんどでしょう。
映画は日本では1952年に公開されました。
原作は、マーガレット・ミッチェル氏の長編小説で、1936年に出版され、翌年の1937年にピューリッツァー賞小説部門の受賞☆彡☆彡☆となっています。

最近、よく利用するようになった老舗書店の文庫本新刊の棚でこの文庫本を発見したとき、凛は思わず微笑んでしまいました。(^-^)

その理由は、表紙に興味をひかれたからです。
2020年8月に刊行された文庫版初版のカバー装画は浅賀行雄氏のものです。
表紙が映画のポスターのようになっています。

表紙は、レッド・バトラーに似たようなご高齢の男性が、ケイティ・スカーレット・オハラに似たような深紅のドレスをまとったご高齢の女性を抱えている絵です。
表紙の下の方には、「列戸馬虎」「小原紅子」の他に、「入楠明日礼」「入楠女良」「玉井安子」と書かれてあります。
「原作 久坂部羊」で、「配給 新潮文庫」と書いてあります。
まさに映画のポスターのようで、小説のファンのみならず、映画ファンにもなじみやすいように工夫を凝らしてあるのがわかります。

また、帯の表には「劇薬医療エンターテインメント!」と凛のアンテナをピピピと刺激してくれる紹介がなされていましたので、そのまま書店のレジに直行いたしました。

この短編集には、7編の短編小説が収められています。
「医呆人」
「地下室のカルテ」
「予告された安楽死の記録」
「アルジャーノンにギロチンを」
「吾輩はイヌである」
「変心」
「カネと共に去りぬ」
以上の7篇です。

この中で、あなたはいくつの名作がおわかりになられましたか。
文庫本の最後に、書評家の大矢博子氏の解説が掲載されています。
その解説の中にも、各短編の元になった名作の7人の作家の名前が紹介されていますので、ご一読ください。

凛がこの短編集を読んで、久坂部羊氏という作家の、医療と文学に対して真摯に向き合っている姿勢に感心した点が二点あります。

第一は、医療の点です。
凛は、どの短編にも「あらまあ、なるほどそうだったのか!」と医者の本音が率直に描かれていることに感心しました。
もちろん医療従事者としての久坂部氏個人のお考えであって、全ての医者がこのように考えていることではないと考えられます。
しかしながら、社会では本音と建て前がある中で、患者の生命に対する尊厳というものが大前提にありますから、医療現場ではなかなか聞くことができない話でしょう。

第一篇目の「医呆人」は、1942年に刊行されたアルベール・カミュ氏の『異邦人』(窪田啓作訳、新潮社、1951年のち新潮文庫、1954年、改版、2014年他多数)が元になっています。
亡くなられた患者の真万(ママン)さんの死について、主人公の村荘(むらそう)医師はご遺族の息子さんに向けて、真万さんの死を肯定する言葉を放ちます。
上司である外科部長や医長が激怒するのは当然でしょうね。
それは、今後の病院運営が絡むことが理由で、医師の評価や出世、世間の評判、ご遺族からの訴訟など複雑な問題が根底に流れています。
しかし、村荘医師は彼らにも実にそっけない態度を貫きます。

ここでは村荘医師の医者としての本音と、上司たちの建て前との対比がよく描かれています。
医師が患者に寄り添うこと、患者とご家族の立場を理解すること、患者が苦しまないこと、患者やご家族の不安を払拭すること、検査と治療を繰り返すことなどについての課題が挙げられています。
それらの課題に対して、医師としての久坂部氏の意思が反映されているものであると、凛は考えます。

1957年にノーベル文学賞を受賞☆彡☆彡☆彡されたカミュ氏の不条理小説と呼ばれる代表的な小説『異邦人』のムラソーと同様に、この村荘医師は周囲に対して常に温もりに欠ける態度をとります。
そして、ショッキングな結末を読者に提供します。

第二に、文学に対する視点です。
凛は、これらの7篇の短編が、各文学作品ごとに原作を重視して、描き方もそれぞれに細部にわたり変えていることで、七つの違う小説として充分楽しむことができました。

例を挙げますと、第5篇目の「吾輩はイヌである」は、夏目漱石氏の長編小説『吾輩は猫である』が基盤になっていることはおわかりの方も多いことと思います。
この作品は、夏目漱石氏にとって処女小説であり、俳句雑誌の『ホトトギス』に、1905年(明治38年)の1月から翌年の8月まで連載されました。
のち1905年、夏目金之助『吾輩ハ猫デアル』上巻が大倉書店より刊行され、1906年に同書店から中巻、1907年に同書店から下巻だけでなく、他多数刊行されています。

久坂部氏の「吾輩はイヌである」のほうですが、ビーグル犬の「マダナイ」(文庫版、198頁他)という名前が主人公になっています。
書きだしが夏目の小説と非常によく似ています。
そして、夏目氏の猫のほうの小説が第十一話で終わるのと同様に、久坂部氏のイヌの小説も十一で終わっています。

ビーグル犬の「マダナイ」は動物実験用として生を受けています。
大学病院の循環器内科の医局に売られてきて、収容施設で同じビーグル犬の先輩から自分たち実験用動物の行く末を教えられます。

「マダナイ」は「幸運の星」(同書、205頁)と呼ばれ、新しいゲージに移されて、何やら怪しげな実験を受けるのです。
「マダナイ」は実験で具合が悪くなっても、治すのが目的なのだからと希望をもち続けています。
この研究室に出入りする医師たちの名前も非常にユニークです。

そして、彼らの日頃の会話から垣間見える医療現場の実態について、「マダナイ」はゲージの中で見聞きし、理解していきます。
ある時は彼らに共感し、またある時は彼らの関係生を皮肉に思いながら、「マダナイ」は医学界における様々な側面に対して冷静に受け止めていきます。

最後の十一では、、
凛はこれが実に切なくなって、胸にジーンときてしまいました。

作者の久坂部羊氏は、医者であり、作家です。
外科医、麻酔科医を経て、外務省に入省、在外公館で医務官を務められました。
のちに作家になられ、2014年、長編小説『悪医』(朝日新聞出版、2013年、朝日文庫、2017年)で、第3回日本医療小説大賞を受賞☆彡されました。
医師として務めながら、多くの小説を創作されていらっしゃいます。
長編小説『神の手』(上・下)(日本放送出版協会、2010年、幻冬舎文庫、2012年)など、のちに映像化された作品もあります。

久坂部氏は短編集『芥川症』(新潮社、2014年、新潮文庫、2017年)でも文学作品を基にしてパロディ化した医療小説を創作されていらっしゃいます。
医療業界の闇と光を、大衆にわかりやすくそれらの実態を医師としての視点から訴えていらっしゃる姿勢に、文学作品としても決してエピゴーネンではないことがいえましょう。

また、久坂部氏は本名の久家義之氏として、『大使館なんかいらない』(幻冬舎、2001年、幻冬舎文庫、2002年)などのエッセイも出版されていらっしゃいます。

誰しも健康を大切にと願うのは同じでしょう。
この短編集を読んで、凛も生命の尊厳とは何かなど、様々なことを考えされられました。
医療小説として、また文学作品として二重に楽しめる短編集です。

今夜もあなたにおすすめの一冊でした。(^-^)

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(日本語)文庫-2020/7/29久坂部羊(著)
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