2024年4月1日月曜日

虚と実の狭間を浮遊する ~小川哲『君が手にするはずだった黄金について』(新潮社、2023年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
お休み前のひとときに、どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

各地で桜の開花宣言が出ています。
桜の開花前線はこれからだんだんと北上していきます。
お花見で春を楽しみたいですね。(^O^)

あなたはどのような春をお過ごしになりますか。
これから温かくなりますので行楽にお出かけする方も多いことでしょう。
季節の変わり目はお天気も変わりやすいようです。
晴れた日ばかりとは限りません。
晴れたり曇ったり、時には雨や突風もある春。
凛は変わらず読書を楽しんでいきたいです。(^-^)

4月10日には2024年の本屋大賞の発表があります。
今年も10作品がノミネート☆彡されています。
どの作品が大賞を受賞されるのでしょうか。
全国の読書家が楽しみに待っていらっしゃることでしょう。
今回はノミネート作品の1冊をご紹介しますね。(^O^)

虚と実との境目が明確でない世界を体験できる小説、小川哲(おがわ さとし)氏の連作短編集『君が手にするはずだった黄金について』(新潮社、2023年)です。
2023年の10月に刊行された単行本です。
凛が持っている本は初版本です。

はじめに、凛がこの本を手にしたのは、昨秋訪れた各書店の新刊コーナーです。
その後、凛の地元のラジオ番組でこの本の紹介と、小川氏ご本人の電話出演もあったことでより強く印象に残りました。
某大手書店で小川氏のサイン本と出合ったことで即買いすることにしました。

サイン本は、凛にはまるで宝物のようにキラキラ輝いて見えてしまいます。
著者、出版社、書店との販売作戦に見事はまってしまう凛なのです。(^^;
小川哲氏のサインは可愛らしい感じで微笑んでしまいます。
作品から硬派のイメージを持っていたのですが、柔らかい印象のサインは意外でした。

次に、帯や表紙についてです。
まずは帯ですが、凛が購入した初版本では画像の帯とは異なっています。
現在は本屋大賞のノミネート作品である帯が付いている本が多いことでしょう。

凛の初版本の帯の表表紙側には、「直木賞受賞第一作」として「認められたくて必死だったあいつを、お前は笑えるの?」という文言が書かれています。
その下に小さな文字で「才能に焦がれる作家が、自身を主人公に描くのは〝承認欲求のなれの果て〟」。(同書)
帯には作家の朝井リョウ(あさい りょう)氏ほか二名の感想が読者を誘います。

初版本の帯の裏表紙側には、「いま最も注目を集める直木賞作家が成功と承認を渇望する人々の虚実を描く」と書いてあり、本のタイトルの「君が手にするはずだった黄金について」の篇のあらすじが出ています。
難しそうに感じるかもしれませんが、本を最後まで読めばこの帯の文言は秀逸であることがよくわかるように考えられているなあ、と感心した凛です。

二番目は表紙についてです。
表表紙は全体が白地の中、中心部には各色のサテンリボンで作られた花束に見える形状のものがデーンと目立っています。
授賞式に作家におくられる花束のようでもありますが、すべてをサテンリボンで覆われた人工的な花束は、何やら意味深でもありますね。
裏表紙側は花束はなく、真っ白です。

カバーは、Art works by takeru amano、あまの たける氏です。
装丁は、新潮社装幀室です。

それでは、内容に入ります。
作品は以下の6篇の連作短編です。
「プロローグ」
「三月十日」
「小説家の鏡」
「君が手にするはずだった黄金について」
「偽物」
「受賞エッセイ」

「プロローグ」では、2010年に「小川」(おがわ、同書22頁)という大学院生の青年が就職活動をするため、出版社の新潮社のエントリーシートを取り寄せた際、その中にある質問に考え込むところから始まります。
質問は「プロローグ」の冒頭に出てきますので、是非お読みいただきたいと思います。

当然ですが、小川青年は出版社を希望するからには数々の文学に触れてきています。
作中には「ジョン・アーヴィング」(7頁)や「スタインベック、ディケンズ、モーム、サリンジャー、カポーティ」(8頁)などの世界の文豪の他、「クレストブックス」(同頁)という新潮社刊行の世界文学を紹介している人気のシリーズ本も好んで読んでいます。

そこまでは順調だったものの、小川青年はある質問に辿り着き、「『怒りの葡萄』、『ガーブの世界』、『夫婦茶碗』」(8~9頁)の三冊で答えようとしますが、ここで逡巡するのです。
彼はこれまでの人生を振り返り、「人生において重要だったもの」(9頁)をあれこれと自身に問いかけてゆきます。
文豪だけでなく、哲学者の「バートランド・ラッセル」(12頁)の理論の他、様々な哲学者の名前を挙げて、小川青年の脳内はエントリーシートから広がっていくのを自認します。

小川青年は当時付き合っていた彼女「美梨」(みり、10頁)を登場させて読者をホッとさせますが、それは一瞬のことで、美梨とも哲学の会話を続けます。
その間、エントリーシートは白紙のままです……。

美梨との交際は続いていますが、果たして美梨の本心はどこにあるのでしょうか。
行間には二人の関係が安定していないことが込められているようにも見えてきます。

このように書きますと、読者には頑なである小川青年の性格についていけなくなる方もいらっしゃるかもしれません。
帯にも描かれているように「承認欲求」の強い自我を見せる小川青年ですから、読者の立ち位置としては彼から適度に距離を置きながら触れていくと全体が見えてくるのではないか、と凛は考えました。

この「プロローグ」で意識したいことは2010年であることです。
次の「三月十日」の篇では、2011年3月11日に起きた東日本大震災から3年を経た年の3月11日、その夜に彼は高校時代の同級生たち4人で飲み会をします。
彼らは「スノボ計画」(47頁)の仲間で、3年前の3月13日に行く予定でしたが、大震災のために中止となっていました。

その話題から、小川は3年前の大震災の前日は何をしていたのか、という疑問を持つことになります。
彼は疑問を解決するために、自身の記憶を頼りにしながらあらゆる手段を用いて辿り着くのです。
その執着ぶりには研究者かと思わせるほどの思考の回路を見せます。
例えば、かつて使用していた携帯に電源を入れるためにどうすべきか、などなどです。

この篇では、彼は既に作家になっています。
作家とはこのように理論が展開していくのかと感心することも多かった凛ですね~ (^.^)

6篇のタイトルを見れば、時系列に作家という職業の小川氏の手の内を見せているかのようでもあり、実は逆かもしれません。
どれが本当で、どれが嘘であるのか。
読者は虚と実との間を浮遊して読んでいるかの如く体験できます。
真偽の境目の線上で掴むことができそうでできない、という読者が体験する知的ジレンマがこの作品の魅力ではないでしょうか。

作者の小川哲氏についてです。
「哲」は「てつ」ではなく、「さとし」です。

2017年、SF小説『ゲームの王国(上・下)』(早川書房、2017年、のちハヤカワ文庫JA、2019年)第38回日本SF大賞を受賞☆彡、第31回山本周五郎賞を受賞☆彡されています。\(^o^)/

2022年、長編小説『地図と拳』(集英社、2022年)第13回山田風太郎賞を受賞☆彡、翌年には第168回直木三十五賞を受賞☆彡☆彡されています。\(^o^)/

2023年、小説『君のクイズ』(朝日新聞出版、2022年)第76回日本推理作家協会長賞長編および連作短編集部門を受賞☆彡されています。\(^o^)/

他にも多くの作品をご執筆されています。
書店では常に目立つ所にあるので、小川氏の人気の高さがわかりますね。
今後ご活躍に目が離せない作家のお一人です。

最後に。
全体に作家という内面を「小川」氏特有の複雑な理路で進んでいきます。
「小川」という作家を構成していく過程、及び彼の周辺の登場人物たちとの絶妙な距離感、それらは緻密に計算されていると思えてなりません。

読者は虚実の狭間をふわふわと浮遊するような感覚で読み解いていく知的体験ができます。
もしかしたら物質文明の地球上ではなく、全く異なる次元での話かもしれません。
まるで異次元の世界を漂っているかの如く、時間、空間、現象、事象、その他諸々のアイテムを駆使したこれらの「小川」氏からの挑戦に対峙してみてはいかがでしょう。

初版本の帯の言葉、作家の「承認欲求の成れの果て」を認めるか、認めないかは読み手であるあなた次第でしょう。(^O^)
つまりは、読者のあなたが中心になって物語は進むのです。

あまり難しく考えずに、是非気軽に読まれてくださいね。 
4月10日の本屋大賞の発表も楽しみです。\(^o^)/

今夜もあなたにおすすめの一冊でした。(^-^)

************
************

2024年3月1日金曜日

人生の無駄遣いではないよ ~町田そのこ『52ヘルツのクジラたち』(中央公論社、2020年、のち中公文庫、2023年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
お休み前のひとときに、どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

3月、春の季節の到来ですね!
暖かくなれば着る服も軽くなります。
優しい色合いの服に包まれて、心も軽~くなりたい凛です。(^O^)

「いえいえ凛さん、花粉症で体調がすぐれず、春のファッションを楽しむどころではないんですよー」
確かに花粉症の季節ですよねえ。(-_-;)
身体と向き合って、体調に気をつけていきましょう。
あなたはいかがお過ごしですか。

この3月に映画が公開されるということでメディアで話題になり、原作の小説を読んでみました。
町田そのこ(まちだ そのこ)氏の小説『52ヘルツのクジラたち』(中央公論社、2020年のち中公文庫、2023年)です。
この作品は2021年、第18回本屋大賞の第1位を受賞☆彡しています。\(^o^)/

はじめに、凛がこの本を知ったのは、2021年の本屋大賞の受賞☆彡からです。
以来ずっと読みたいなと思っておりましたが、町田氏の他の作品を先に読んでいました。
3月からの映画公開を機に、近所の書店で購入いたしました。
凛が購入したのは文庫本で、2023年の12月15日発行の第9刷です。
文庫本の初版が同年5月25日ですから、人気度の高さがわかりますね!

次に、帯や表紙についてです。
一番目は、帯からです。
凛が持っている文庫本の第9刷は、映画公開前ということで帯も映画の宣伝になっています。
「映画化決定!」
「2024年3月全国公開」
表表紙側には、主演の杉咲花(すぎさき はな)さんの写真が掲載されています。
監督の成島出(なるしま いずる)氏のお名前も紹介されています。
ワクワクしますね~!(^O^)

第9刷の帯の裏表紙側には、「2022年本屋大賞 連続ノミネート!」で単行本の小説星を掬う(すくう)』(中央公論新社、2021年)の概要が掲載されています。

二番目は、表紙についてです。
凛の第9刷の文庫本の表表紙は、紺色を地色として動物たちや小物などがたくさん描かれています。
中には生ビールやソフトクリームも!
小説を読めばどこで登場するのかがわかりますよ~
温かみのある可愛いイラストです。
見方によっては、イラストの全体が教会のステンドグラス風にも思えます。

裏表紙側の説明文では、「52ヘルツのクジラとは、」から始まり、その説明が書いてあります。
それが何なのか気になる方は、是非文庫本を手にして読まれてください。
「孤独ゆえ愛を欲し、裏切られてきた彼らが出会い、魂の物語が生まれる。」(同書)で終わっています。

カバーイラストは、福田利之(ふくだ としゆき)氏です。
カバーデザインは、鈴木久美(すずき くみ)氏です。

解説は、ブックジャーナリストの内田剛(うちだ たけし)氏です。
「感動の先を見せてくれる『絶景本』」というタイトルの解説文です。

それでは、内容に入ります。
物語は全8章で成立しています。

第1章の「最果ての街に雨」は、大分県の海の見える町で、主人公の貴湖(きこ)が越してきた古民家の修繕をする場面から始まります。
住宅の修繕業者の村中真帆(むらなか まほろ)は彼女に不躾な質問をします。
驚いている彼女を見て、村中の部下のケンタは申し訳なさそうに上司の村中をけん制しながら村中を擁護します。
地元の住人たちにとっては、突然東京から移住してきた貴湖を謎めいていて訳ありだと思っています。
彼女は東京での辛い過去の体験を秘めていました。

食料品や日用日を買うにしてもお店は「コンドウマート」(文庫本第9刷、9頁他)しかない集落なので、スマホも運転免許も持っていない貴湖にはなかなか不便な所です。
働いていないにも関わらず経済的には余裕のあるように見える彼女にまつわる噂は、コンドウマートに集まる高齢者の間でもちきりとなっていました。
そのことを村中は彼女に直接的に伝えます。
彼女にとって村中は貴重な情報提供者ともいえましょう。

「あんた、人生の無駄遣いやがね」(同書、27頁)
ある日、貴湖がコンドウマートで買い物をすると、その店で売られている派手なムームーを着た高齢の女性から強く言われました。
どうやら若い女性が働かずにしてのんびり過ごしている姿に腹を立てている様子なのです。
移住者に対してよそ者扱いをしているのは見え見えと受け取られても当然です。

ここで凛は疑問をもちました。
「人生の無駄遣い」とは何を根拠にして捉えるのでしょうか?
時間や労働、経済の視点からでは、少しの猶予も与えられないものでしょうか?

貴湖は何故に他人からこのようなことを言われないといけないのかと戸惑ってしまいました。
価値観の違いにおいて、人との距離の難しさがわかる箇所です。
近年は都会から地方への移住を奨励している自治体もあります。
移住を決断するには一時的な滞在の旅行者とは全く異なる覚悟をもたなければいけない、と凛は考えました。

貴湖の記憶の中から度々蘇る「アンさん」(同書、16頁)という人物がいます。
迷ったり、困ることがあると必ず「アンさん」と彼女はアンさんに問いかけて、アンさんからの答えを探ります。
アンさんとは一体何者なのでしょうか。

第2章の「夜空に溶ける声」では、古民家の住人となった貴湖の家に少年が訪れます。
彼女は少年に「キナコ」(同書、61頁他)と自己紹介をします。
少年は喋ることができない模様で、庭の地面に自分の名前を『ムシ』(同書、同頁他)と書きます。
少年ムシはどうも虐待を受けているのではないか、と貴湖は直感します。
何故ならば、彼女にも家族から受けた耐え難い過去の体験があるからです。

ここからキナコと少年の物語が始まるのです!(^O^)

貴湖や少年、そしてアンさんなどの経歴については、読んでいくうちに追い追い読者は知ることとなります。
彼女らにまつわる複雑な事情は、壮絶な辛い過去の鋭利な刃となって読者に突き付けます。
章が進む度に彼女たちの過去と現在が交錯しながら進みます。
貴湖の過去は度々フラッシュバックとなって彼女を苦しめます。

この表現形式は町田氏の小説の特徴である、と凛は考えます。
ある時は、ダイレクトにこれでもかというくらいにドーンと激しい言葉を用いて読者を刺激します。
次々に知ることとなる驚愕な過去と現在進行形の現実に読者はおののくでしょう。
これほどまでに辛い仕打ちを登場人物に体験させないで欲しい、と願ってしまうほどにです。

またある時は、謎めいた形で描き、オブラートに包んだような印象を与えます。
え?登場人物たちは何を秘めているのだろう?
もっと先が知りたい!という欲求が生じます。 
それはそれはじれったいほどに……。(^^;

町田氏は物語の随所に伏線を張り巡らせています。
作者からの強弱のあるメッセージ性を読み取ることは、複雑な伏線があるからこそ成立する技法といえましょう。
伏線は様々なグッズも含まれます。
これらの技法によって、読者は先が気になって頁をめくる手がやまないのがわかりますね。

作者の町田そのこ氏について。
町田氏は、2016年、小説「カメルーンの青い魚」で第15回女による女のためのR-18文学賞の大賞を受賞☆彡されました。\(^o^)/
この作品は『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』(新潮社、2017年、のち新潮文庫、2021年)に収録されています。
今後のご活躍が大いに期待される作家のお一人です。

最後に。
貴湖は東京から大分県の海の見える町に移住した当初は自ら孤独を求めていました。
ある日、彼女の家に少年が現れてから彼女は再生してゆきます。
彼女の友人や地元の人たちなどが仲間となって物語はどんどん進みます。
人とのご縁の大切さがわかる小説です。
読後には、タイトルの「52ヘルツのクジラたち」の意味がわかり、感動となってあなたに迫ってくるでしょう。

「人生の無駄遣い」について、読者の心の在り方によって答えはその人それぞれの胸のうちにあるのではないでしょうか。
コスパ、タイパに絡めとられることなく、その自身にとっての価値観を求めていくことこそ人生における必要な時間ではないか、と凛は考えます。

文庫本の表紙の裏には、もう一つの物語が印刷されていますよ!
爽やかな読後感まちがいありません!!\(^o^)/
とても得した気分になれます。
あなたも文庫本の表紙を外して読まれてくださいね!

そして、映画も楽しみです!
是非劇場で観たいですね。(^O^)

今夜もあなたにおすすめの一冊でした。(^-^)

************
************


2024年1月29日月曜日

今年こそ読破したい!紫式部の人生と並行して読める帚木ワールドの『源氏物語』 ~帚木蓬生『香子(かおるこ)(一)紫式部物語』(PHP研究所、2023年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらりにようこそお越しくださり、ありがとうございます。
お休み前のひとときに、どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

2024年がスタートして早くも一か月が過ぎようとしています。
今年の日本は元日からショッキングな出来事ばかり起きています。

ああ、今日も一日無事に過ごせました。感謝。
という安堵感で眠りに入れる日常の生活が如何にありがたいことでしょう。
平穏で過ごせる日々が最も幸せなのだと実感させられます。

合わせて、非常時のための危機感と水や食料などの備えが大事だということも再認識しないといけませんね。
あなたはいかがお過ごしでしょうか。

世の中はAIなどの新しい技術を導入する時代に既に入っています。
コスパ重視の世の中、スピードは年々早くなってきています。
しかしながら、敢えて古来から受け継がれている普遍的な事柄に注目したい、という欲求がわいてくるのは生身の人間だからでしょうか。

今年のNHKの大河ドラマは『光る君へ』ですね。
凛も毎週楽しんで視聴しています。
あなたはご覧になられてますか。

主演の吉高由里子(よしたか ゆりこ)さんが後の紫式部こと「まひろ」を演じておられます。
まひろさんはどのような経緯で『源氏物語』を執筆するようになるのでしょうか。
彼女の背景でうごめく公家政治の権力とは……。
テレビドラマですので、日本史の教科書で学んだ内容とは若干異なる部分もあるでしょう。
ひとつの娯楽作品として楽しみたいですね~ (^-^)

『源氏物語』全五十四帖。
あなたは読まれましたか。
実のところ凛は最後まで読んでおりません……。(^^;
凛はこれまで谷崎潤一郎(たにざき じゅんいちろう)訳、瀬戸内寂聴(せとうち じゃくちょう)訳、林望(はやし のぞむ)訳に挑戦してきましたが、いずれも途中までの断念組です。
これは現代語に訳された先生方の問題では決してありません。
誤解なきよう、あくまで凛個人の問題なのです。

他にも関連の解説書やガイド本など何冊も蔵書として保管しています。
とは名ばかりで、所謂万年積ん読状態ですね……。(^▽^;)

紫式部はどんなことを考えて人生をおくったのでしょうか。
『源氏物語』はどのようにして書かれたのでしょうか。
作中に出てくる和歌の内容をもう少し知りたいですね。

このような素朴な疑問を解決できるという、まるごとひとつにまとめられた小説があります。
紫式部の人生と『源氏物語』と和歌の解説などが同時に読める大変ありがたい作品が昨年末に出版されました。
帚木蓬生(ははきぎ ほうせい)氏の大長編小説『香子(かおるこ)(一)紫式部物語』(PHP研究所、2023年)です。
書下ろし作品になります。

タイトルに(一)が付いていることからわかるように、この作品は(五)になるまでの五か月の間、毎月連続して出版していくというPHP研究所の一大プロジェクトです。
第一巻は461頁と大変分厚い本ですが、慣れていくうちに気が付けば最後まで一気に読めました。\(^o^)/
漢字にルビがふってありますので読みやすくなっています。

はじめに、凛がこの本を知ったのは某ラジオ番組の本の紹介コーナーを視聴したことによります。
番組に生出演された帚木氏ご本人のお話によりますと、長い間従事されていらした精神科医院のお仕事をご卒業されて、専業の作家になられたとのことでした。

以前にNHKのテレビ番組で帚木氏を拝見した時は落ち着いた話し方の先生といった印象でしたが、ラジオのお声からは非常に明るく快活な方で、この作品への強い情熱が伝わり、新たな帚木ワールドを堪能できるなと思った凛でした。
本は市内の中心街の書店で購入しました。

そもそも「帚木蓬生」というペンネームからもわかることですが、「帚木」は『源氏物語』第二帖の「ははきぎ」、「蓬生」は第十五帖の「よもぎう」から構成されています。
帚木氏『源氏物語』に対する強い意志が伝わりますね!

次に、帯や表紙についてです。
一番目は、帯についてです。
凛が持っている本は、2023年12月26日刊行の初版本です。

表表紙側には、「千年読み継がれる物語は、かくして生まれた」と白地に赤い文字で目立つように書いてあります。
表表紙側の左下には、赤い枠に中に白字で「大河ドラマの主人公・紫式部(香子)の生涯×『源氏物語』」と書いてあり、大河ドラマ放映と同時期の刊行ということで、非常に期待感がわきますね~

帯の裏表紙側には、「五ヵ月連続刊行!」の下に、第一巻から第五巻まで簡単な説明文が紹介されています。
第一巻のところをご紹介いたしましょう。
「香子の物語」では、「父とともに越前へ、そして物語を書き始め……」と黒字で書いてあります。
その右の『源氏物語』では、「桐壺~末摘花の帖」(以上、同書)と赤い字で書いてあり、第一巻は六帖まで読めるのだなと識別できるようになっています。


二番目は、表紙についてです。
表表紙は、紫式部の上半身が描かれています。
裏表紙は、文机の前に座っている紫式部が描かれており、『源氏物語の有名な冒頭文「いづれの御時にか、……(中略)すぐれてときめき給ふ有りけり。」という文字が書いてあります。
表表紙、裏表紙とも格調高い仕上がりになっています。

装丁は、芦澤泰偉(あしざわ たいい)氏です。
装画は、大竹彩奈(おおたけ あやな)氏です。

それでは、内容に入ります。
作品の第一巻は、第一章の「香子(かおるこ)から第十五章の「懸想文(けそうぶみ)」までが収録されています。
凛が注目した四点について挙げます。

一点目は、「香子」という名前についてです。
第一章の始まりで、香子は当初は「きょうし」「きょうこ」と呼ばれていたところが、8歳の春に、父君の藤原為時(ふじわらの ためとき)から今後は「かおるこ」と呼ぶと決めたことを告げられました。
亡き実母が命名した「香子」。
これまで改まった席においては「きょうし」で、身内の間では「きょうこ」と呼ばれていました。

香子は、呼び名を替えることになった理由を父君に尋ねます。
父君は、「そなたの資質は、誰が見ても、他より抜きん出ている。」(第一巻初版本、5頁)と言って、香子の素晴らしい資質を認めています。
その上で、「そして誰もが認める、ひとかどの人物になる。その資質が薫(かお)るからだ。ちょうど、今匂ってくる紅梅(こうばい)のようにな」と。(同、5頁)
香子はまだ8歳なので深い意味はわからない様子でしたが、父君から高い資質を認められたことは彼女の生涯の自信につながったと捉えることができます。

二点目は、血縁と文学についてです。
歌人としては、香子の父方の曽祖父である藤原兼輔(ふじわらの かねすけ)がいます。
兼輔は中納言の位に出世し、醍醐(だいご)天皇の後宮に娘の桑子(くわこ)を入内させ、章明(のりあきら)親王をもうけさせます。
その時の歌が『後撰和歌集』に収められているとして、また、桑子の入内の話が『大和物語』に収められており、さらに歌集の『兼輔集』の存在など、香子はこれらを暗唱するなど繰り返し学んできました。

父方の祖父の藤原雅正(ふじわらの まさただ)や伯父の藤原為頼(ふじわらの ためより)も歌人でした。
香子には幼い頃から、伯父の為頼が所蔵する和書だけでなく、父君が収集していた漢籍など、和漢の多くの書物に触れる機会があったことが第一章に記されています。

第一巻の後の章になりますが、香子が『源氏物語』の執筆の際、父君や母君に読ませて感想を述べてもらいます。
両親が彼女の背中を後押ししてくれたことは創作の自信につながったことでしょう。
特に、母親が積極的に感想を述べてくれることが印象深いです。
このように幼い頃から文学を嗜む家庭環境から、香子の執筆に対する意欲が増したことは大きいですね。

また、『蜻蛉日記』との関係があります。
『蜻蛉日記』の作者は、藤原道綱(ふじわらの みちつな)の母です。
第二章「蔵人(くろうど)」では、香子の祖母から『蜻蛉日記』の作者が、香子の実母の父の藤原為信(ふじわらの ためのぶ)の兄である藤原為雅(ふじわらの ためまさ)の正妻の姉にあたる女性であることを再度言われます。
要は遠い親族が女流文学の先駆者で、日記文学の作者であったことは、香子にとって「書くこと」を意識した存在であったであろうと読者に知らしめています。

三点目は、死生観です。
香子は第一巻目から身内の死に遭遇しています。
生母、姉君の朝子(あさこ)、最初の結婚をした平維敏(たいらの ただとし)との死別があります。
自分を守ってくれ、愛してくれた人との別れは辛いものです。

「誠に人の世は、野分(のわけ)や雲、雨と同じで、人の手ではどうにも動かせない。その摂理(せつり)の下(もと)で、翻弄(ほんろう)され続けるのだ。」(同、230頁)
香子はこの世のはかなさ、無常観を体験し、やるせなさを感じたのではないでしょうか。

四点目は、帚木蓬生訳の『源氏物語』についてです。
まずは、素朴な疑問点をあげましょう。

何故に香子は『源氏物語』を執筆することになったのでしょうか。
香子は何の文学作品を手本にしたのでしょうか。
香子の執筆する過程を知りたいですね。

などの疑問点が読者には持つ方も多いかと思います。
これらについては、第十一章の「起筆」前後で読者は捉えていくことでしょう。
あなたが読まれてからのお楽しみに!(^^)/

帚木蓬生氏の訳の特徴として、気づいた点が二つあります。

一つ目は、主語が明確に書かれていることです。
凛は学生時代に『源氏物語』の長い一文の中で「主語を示しなさい」と設問に出てきたことを思い出しますねえ。
『源氏物語』は主語が省略されている文が多いため、主語が明確であると理解が深まりますね。

二つ目は、和歌の説明が本文中に簡潔にされていることです。
例えば、第十二章「雨夜の品定め」には、『源氏物語』第二帖の「帚木の訳が掲載されていますが、光源氏が小君に託した歌

「帚木(ははきぎ)の心を知らでその原の
   道にあやなくまどいぬるかな」(同、293頁)

の後に、あらかじめ歌の意味を現代語で説明した後で、
『古今和歌六帖』の、園原や伏屋(ふせや)に生(お)うる帚木の ありとてゆけどあわぬ君かな、を下敷きにし、」(同、同293頁)
と、女君が返歌するまでの経緯が丁寧に書いてあります。

このように和歌の一首ずつに説明書きが訳の本文中に書いてありますので、本文に解説書が合体したような感覚で読者は自然な形で読み進むことができるのです。
凛は和歌の嗜みがありませんので、これは大いに助かりますね。(^O^)

帚木蓬生氏については、凛のりんりんらいぶらり~で2020年7月14日付「日本の文字の始まりを知る」の項で『日御子(ひみこ)上・下巻』(講談社文庫、2014年)(ココ)に掲載していますので、こちらの項では割愛させていただきます。

最後に。
帚木蓬生氏の作品『香子(一)紫式部物語』は、紫式部の生涯を描いた物語と、『源氏物語』の現代語訳と、和歌の解説が合体した大長編小説を一度に読めるという楽しみ方ができます。
PHP研究所から、2023年12月26日発刊の第一巻から第五巻まで、毎月一巻ずつ発刊されるという一大プロジェクトです。
NHKの大河ドラマ『光る君へ』と並行して読むと、歴史文学としても理解が深まるというものでしょう。

『源氏物語』をまだ読まれていないあなた、どうしようかなと迷っているあなた、凛のように途中までのあなた、是非この機会にお気軽にトライしてみませんか。
会話文など現代の話し方と同じように表現されていますので肩こりしませんよ。

第十三章「越前の春」では、香子の弟の惟通(これみち)の名前の一字違いで、『源氏物語』光源氏の従者を惟光(これみつ)と設定した点について、香子の母君から指摘されたことが書いてあります。
「図星だった。書いていて、咄嗟に浮かんだ名前が惟光だった。」(同、354頁)
そうだったのかあと、あらためて紫式部の家族に対する温かい情愛が伝わってほのぼのとしました。
この後に展開する物語もきっと新しい発見があるだろうな、と期待感でいっぱいになった凛でした。

第二巻の刊行ももうすぐです。
大変楽しみにしています!
今年こそ『源氏物語』を読破します!\(^o^)/

今夜もあなたにおすすめの一冊でした。(^-^)

************
PHP研究所-2023/12/13帚木蓬生(著)
************