2020年8月24日月曜日

うなぎは真剣にいただこう!

こんばんは。
南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
とともにどうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

あなたはうなぎがお好きですか?
凛からの質問は、生物の分野のうなぎの生態についてではなく、もちろん食べ物としてのうなぎ料理のことです。(^○^)

凛はうなぎ料理が大好きです。
店先の店頭でうなぎをジュージューと焼いている煙と香り!
ああ、今すぐにでもうなぎ屋さんに行きたい!と思う凛であります。

うなぎは土用の丑の日だけでなく、他の日でも食べるものでしょう。
デパ地下やスーパーでも売られていますが、昨今はうなぎも国産のものは随分高騰しています。
なかなか庶民の口には簡単には入らない格別な食材ですね。

しかし何と言っても、うなぎはやはりうなぎ屋さんでいただくのがよいのではないでしょうか。
とっておきのうなぎ料理をいただくのであれば、思い切り奮発して極上のメニューをいただきたいものですね。
今年も残暑厳しき折、夏バテ解消にうなぎをいただいて精をつけたいところですね。

凛が久しぶりに訪れた某商店街の書店で、数冊だけ平積みされていた文庫本の表紙、これがまたうな重のリアルな写真でして……。
凛がその文庫本を手にして、レジに進んだ理由が二つあります。

一つ目の理由は、リアルなうな重の写真が他の文庫本よりもキラリと光彩を放ち、ジュワリと即座に凛の胃袋に反応したことです。
二つ目の理由は、写真があまりにもリアルなため、うなぎのお料理の紹介本なのかと思いきや、さにあらず、うなぎに関連した連作五篇の小説であったから、読んでみたいと思ったことです。

その文庫本とは、加藤 元(かとう げん)氏の小説『うなぎ女子』(光文社文庫、2020年)です。
2017年に光文社から単行本で刊行されています。

凛が購入した文庫本初版の帯には、「八ツ目や にしむら」の店主である松本 清氏のご推薦のお言葉「日々の想いも、おいしくする"うなぎ"。うな重片手に、この一冊!」と掲載されているではありませんか。
うなぎ専門店の人気店店主のご推薦とあらば、これはもう読まなくてはいけません。

連作で五つのお話が掲載されています。
第一章は、「肝焼き」
第二章は、「う巻き」
第三章は、「うざく」
第四章は、「うなぎの刺身」
第五章は、「うな重」
ざっと目次を見ただけで、うなぎが食べたくなる気持ちがさらに膨らみます。

これらの五つのお話は、ある日のうなぎ屋『まつむら』に訪れる五人の女性たちの物語です。
彼女らに共通するのが某男性でして、彼をめぐっての愛憎劇、憧憬、友情など、彼女らの様々な場面にその男性が関わります。
『まつむら』の中で、客として時間差で進んでいく物語でありますが、それぞれの人生における過去が描かれています。

読みやすい文体で、会話も現実的で入りやすいですが、内容は相当深く、中には刺激的なえぐいお話もあります。
登場人物の日常的な背景に、等身大に思われる方もいらっしゃるでしょう。
しかし、かなりシュールな設定の章では、「ええ?まさか!そんなことがあるの?」と驚かされる場面もありますよ。

第四章まで読み進むうちに、なるほど、そうなのかと、作者がかけた罠を想定していくのですが、これが読書の醍醐味でもあります。
読者は、作品を読解しながら、登場人物の背景に存在する作者と対峙しているのです。

最後の章で、連作小説の全体像がわかります。
タイトルの『うなぎ女子』の意味も納得できるという構図になります。
そして、また最初の第一章を読み返すと、全てが円環となってつながります。

この作品は、東京のうなぎ屋さんで展開しうるお話だと凛は思います。
つまり、作中の女性たちは東京で一生懸命にそれぞれの人生を重ねている人たちです。
そして、彼女らに関わっている某男性もまた東京で自己を模索しながら生きているといえましょう。
なかなかどうして、男女ともにそれぞれの登場人物が魅力的でもあり、また蠱惑的でもあります。

この作品には、随所に或る有名な文学作品が出てきますが、もうひとつの根幹を成していると凛は思いました。
その文学作品に対する敬愛が作品全体にこめられています。
その文学作品に関する女性についても、続編として書いて欲しいなと凛は思いました。

しかし、いちばんの主役は何と言っても「うなぎ」ですね!
うなぎは滅多に食べられない高級な食材で、とっておきのおご馳走であるからして、だからこそ、彼女らはうなぎ料理に真剣に向き合います。
それも『まつむら』のうなぎでないといけないと、彼女らは言うのです。

ああ、凛も読んでいる間中からうなぎ屋さんに行きたくなりました!(^o^)
そういえば、凛の親戚がいる九州の福岡県には、筑後地方の「うなぎのせいろ蒸し」といううなぎ料理が有名で、柳川市には多くのうなぎ料理店が集中しています。
凛は親戚の家を訪問した折、柳川市のうなぎ屋さんでせいろ蒸しをいただきました。
うな重とはまた違った食感で、大変美味しかったことを覚えています。

作者の加藤 元氏は、2009年、小説『山姫抄』(講談社、2009年、講談社文庫、2013年)で第4回小説現代長編新人賞☆彡を受賞されて、小説家デビューを果たされました。
多くの作品を執筆されています。

加藤氏はさまざまな職業を体験されたことが、今回の『うなぎ女子』で活かされていると凛は思いました。
下積み、貧困、親の離婚、再婚、親の蒸発、転職、起業、突然死、そして、犯罪……。
この作品には、現代日本社会の断片がリアルな表現で描かれています。

濃厚なうなぎ料理に対して、これらの暗いテーマをあっさりと描く作者の力量はお見事です。
その過程は、巻末のあとがき」加藤氏が説明されています。
ふっくら、ほこほこし過ぎず、ときにはほろ苦くもあり、甘辛いタレがまったりとあなたの舌を刺激します。

また、文庫本巻末の「解説」には書評家の吉田伸子氏が担当されていて、凛と同じく「うなぎが食べたくなる!」と述べておられますよ~
吉田氏の書き出しに注目してくださいね。
きっとあなたも同感でしょう。

今夜は、うなぎ料理がお好きなあなたへの贈り物です。
読了した後は、あなたも「うなぎ屋さんへ直行!」となること間違いなしです!

うなぎ屋さんで他のテーブルに座っているお客さんをきょろきょろと観察しないようにしたいものですね。
うなぎの生命をいただくことに感謝をして、あなたも真剣にうなぎ料理と向き合っていただければ、胃袋だけでなく、必ずやあなたの心を満たしてくれましょう。
そして精をつけて、明日への糧にいたしましょう。(^_^)v

今夜もあなたにおすすめの一冊でした。(^O^)/

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2020年8月14日金曜日

隠れ家夜食カフェに行きたい!(その1)

こんばんは。
南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
とともにどうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

あなたには大切にしたい本がありますか。
何度も読み返しては、その本の世界に浸っていたい。
それは小説だけでなく、How To本だったり、専門書であったりといろいろでしょう。
傍らにいつもその本があれば安心できる、あなたの心の見守りグッズのような役割を担っている友人のような本。

凛にも大切にしている本があります。
絶対に手放したくない本は何冊もあります。

例えば、小説ですと、主人公にまた会える楽しみがあります。
その本を手放したら、とても大切にしている親友と別れてしまう寂しさがまとうのではないかと。
その寂しさには耐えられず、いつも読まなくても、凛と同じ空間にいてくれるという存在に対する安心感には代えられないのではないかと、凛は思うのです。

紙の本は保管場所が必要ですし、重くて嵩張るので、収納の点で考えてしまいますよね。
特に、単行本や専門書ですとそれは顕著です。
しかしながら、手放せない、手放したくない、いつまでも大切にしていたい本は、その本が放っている価値感という点で別格です。

凛がよく利用している大型書店の単行本の小説のコーナーに、長い期間、並べられている本があります。
その本はシリーズになっていて、全部で4巻、仲良く横に並べられています。
まるで書架の指定席のような、同じ棚に並べられています。
指定席になっているのは、売れないからその場所から本を動かさないということではないのです。
売れているから、或いは、書店員さんがおすすめしたいから、または出版社の意向もあるのでしょうか。
とにかく目立つところに「皆さん、私の世界を楽しんでね」というように本たちが主張しているのが窺えます。

それらの本たちは、シリーズの第1巻の刊行から既に5年も経過しているのに、文庫化されずにずっと単行本のままなのです。
出版不況と言われて久しい出版界において、単行本で増刷されている本たちです。
出版社の事情もあるのかもしれませんが、このシリーズ本が多くの読者に愛されていることがわかります。

その第1巻の本が、古内一絵氏の小説『マカン・マラン 二十三時の夜食カフェ』(中央公論新社、2015年)です。
凛が持っている本は、2020年の2月発行の12版です。

凛はその大型書店を訪れる度に、この本がずっと気になっていました。
正直言いますと、いつかは文庫本になるのだろうと思っていたのです。
それがある日、いつものように大型書店のそれらの本の指定席を訪れて、第1巻を手に取ると、限定数の特製のポストカードが特別に封入されているのがわかり、得した気分になったことが購入の決め手となりました。

限定……。
この言葉にとっても弱い凛です。(^-^;
表紙と同じ絵のポストカード。
何て美味しそうな野菜のお料理の絵でしょう!
見ただけで心も身体もほっこりしてくる感じがいたします。

この作品は、書き下ろしとなっています。
初版は2015年の11月25日の刊行となっていますので、著者の古内一絵氏がご執筆されたのはその年か、少し前になるでしょう。
このことを念頭におきますと、読み進んでいくうちに、なるほどと見えてくるものがありました。

時を少し遡ってみましょう。
2020東京オリンピック開催が決定したのが、2013年の9月7日でした。
国際オリンピック委員会がブエノスアイレスで、2020年の夏のオリンピック・パラリンピックに東京の開催地を発表しました。
1964年から56年ぶり、東京での開催は2度目とあって、ビックなニュースでした!
そこから東京都の再開発が進みます。
生憎、今年は新型コロナウィルスの関係で、開催は来年に延期となり、57年ぶりになりますが……。

元エリートサラリーマン、今はドラァグクイーンのシャールさんが営んでいる、東京の某駅の改札口から商店街を歩き、路地裏に入った某場所の隠れ家夜食カフェ「マカン・マラン」。
昼間はダンス用のドレスを受注、縫製して販売しているお店ですが、夜になると夜食カフェに変わります。
「マカン・マラン」の開店は不定期ですので、まずは、この場所との出あいにご縁があればご常連さんになること間違いなしでしょう。
しかし、ご縁がなければ、ただの路地裏の迷い人で終わってしまいます。

悩めるお客さんのために、シャールさんの手作りで提供してくれるメニューは天下一品!
とっても美味しそうで、胃やお腹だけでなく、心も満腹にしてくれるお料理に、凛も訪れてみたいなあと思わずにはいられませんでした。
ご縁は大事にしたいものですね。

第1巻には、四つのお話が描かれています。
第1話は、「春のキャセロール」
悩める40代キャリア女性の早期退職の肩たたきにあうかもしれないという不安は、如何にして解消されますでしょうか。

第2話は、「金のお米パン」
中学生男子の突然の食生活の変化と、生徒が通学する学年主任の男性の先生とのふれあいにほろりとします。

第3話は、「世界で一番女王なサラダ」
20代の女性の下請けライターの仕事に対する悲哀と本音が交錯していきます。

第4話は、「大晦日のアドベントスープ」
みんな、シャールさんが大好きなのです。
兎にも角にも、シャールさんに元気になってもらわないといけないのです。

凛が持っている12版の帯には、「思いきり泣きたい夜にいらしてください」と書いてあります。
「ここは"運命が変わる"夜食カフェ」とも書いてありますよ~
「マカン・マラン」のシャールさんに出会えて、シャールさんの手作りの夜食メニューをいただけたら、あなたや凛の運命はどのように変わるのでしょうか。
作中には、食材、レシピの説明も丁寧に書いてあります。

古内一絵氏は、2010年、『銀色のマーメイド』(中公文庫、2018年)で、第五回ポプラ社小説大賞特別賞を受賞☆彡されて、翌年、作家デビューをされました。
この作品は、『快晴フライング』(ポプラ社、2011年、ポプラ文庫、2013年)で刊行された後、改題、加筆・改稿されています。
2017年、『フラダン』(小峰書店、2016年、小学館文庫、2020年)で、第6回JBBY賞(文学作品部門)を受賞☆彡されています。
作家デビューされる前は、映画会社に勤務、退職後、中国語の翻訳家としてご活躍されるという経歴をお持ちです。

文体は大変読みやすく、登場人物に親しみがわく設定になっています。
また、主要な漢字にルビがふってあるので大変読みやすく、幅広い年代の読者層への配慮が窺えます。
しかし、内容は大変深く、人生の悲喜こもごもが丁寧に描かれていて、どの世代にも心にズキンと響いてくるのではないかと凛は思います。

帯には、「第1位 読書メーター OF THE YEAR シリーズランキング」と出ています。
読者にずっと大切にされている幸せな本というのがわかりますねえ。

『マカン・マラン』シリーズは、第4巻まで続きます。
凛のりんりんらいぶらり~では、今後、1巻ずつご紹介していく予定です。
しかし、この企画はシャールさんの隠れ家夜食カフェの「マカン・マラン」と同様に不定期ですので、いつ続編のご紹介が出てくるかは、今後のお楽しみにということで、末永くご愛顧よろしくお願いいたします!(^_-)-☆

あなたも泣きたい夜には「マカン・マラン」へ。
個性的なシャールさんが、あなたの話をとことん聞いてくれて、あなたに合ったとっておきのメニューを提供してくれるでしょう。
思い切り悩みを吐き出した後は、もう、泣きません。

それに、食事の大切さがわかります。
身体に優しい食事はあなたを笑顔に導いてくれます。
そして、あなたも凛も、この本で元気になりましょう!

今夜もあなたにおすすめの一冊でした。(^o^)

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2020年8月4日火曜日

これが現実になったら

こんばんは。
南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にお越しくださり、ありがとうございます。
とともにどうぞおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

あなたが暮らしている日々は平和でしょうか。
少なくとも文学と親しんでいるのは平和な証拠だといえましょう。
誰しもが平穏に暮らしていきたいと願うのは当然のことでしょう。
しかしながら、この地球上のどこかで争いごとが起きているのが現実でしょう。

今夜も凛のりんりんらいぶらり~を楽しんでくださっているあなたのおうちの内外は静寂でしょうか。
忙しかった一日を終えて、ほっとしていたい夜、これから眠りに入り、どんな夢をみましょうか。
明日は今日よりももっと快適な一日を過ごせるようになっていこうという願いをこめて、眠りに入るのではないでしょうか。
そして、ぐっすりと眠った朝は、心地よく朝日を浴びて、これまでと同じような一日がまた始まるという期待感でいっぱいになることでしょう。

一日24時間のうちの3分の1は睡眠にあります。
凛も平和な一日を過ごしたいと思っています。
確実な明日の幸福を目指して眠りたいですね。
快適な眠りは明日への糧となり、希望をもって明日へとつないでゆきます。(^o^)

ところが、そうではない世界を描いた小説があります。
朝、目覚めたら、とんでもないことが起きていて、あなたが住んでいる国家に戦争が始まっていたというお話です。
つまり、本人が知らない間に、昨夜とは全く違う世の中になっていたのです。
もしあなたが眠っている間に、国家で戦争が始まっていたとしたら……。

今回は、そんな誰も体験したくないであろう小説をご紹介しましょう。
それは不可思議な小説ともいえましょう。

中村文則氏の小説『R帝国』(中公文庫、2020年)はまさに近未来のSF小説、そして戦争を描いた小説です。
2017年に中央公論新社から単行本で発刊されています。

この作品は、第一部と第二部から構成されています。
小説では書き出しが大切であると言われます。
第一部の冒頭は、まさに文豪、川端康成氏の『雪国』(岩波文庫、2003年、新潮文庫、2006年、角川文庫、2013年など)級のものだろうと凛は思いました。
凛は最初の一行でその世界に引き寄せられてしまいました。

R帝国という架空の島国の国家の最北端のコーマ市に住む青年の矢崎は、ある朝、目覚めたら、国民としてR帝国に戦争が始まったことを知ります。
隣国のB国に宣戦布告をしていて、彼が目覚めたときには既にB国の核兵器発射準備を察したR帝国が空爆をしていました。
HP(ヒューマン・フォーン)という、現在のスマホをもっと進化させた人工知能搭載の機械から映し出された国営放送で、彼はそのことを知ります。
"党"からの広報が真実なのか、否か。

矢崎が住むコーマ市は、あれよと言う間もなく、Y宗国からの攻撃を受けます。
コーマ市民が入り乱れ、逃げまどう姿が画面に映し出され、R帝国の国民たちを震撼させますが、国民には自分たちのために一部の国民が犠牲になるのは仕方がないという気持ちが生じます。
「抵抗」という言葉は、R帝国では既に死語と化していることを悟る場面に、矢崎は遭遇します。

かつて存在していたGY国という国家から分裂したG宗国とY宗国が戦争をしていました。
そのY宗国の女性兵士となったアルファの壮絶な過去の体験が綴られます。
YP-Dという人工知能の兵器が容赦なくコーマ市の建物や市民たちを襲います。
「抵抗」ができない状態で、矢崎はどのように動いていくのでしょうか。

もう一人、栗原という男性が"L"という地下組織のサキという女性と出会います。
彼は、R帝国でただ一人の野党議員である片岡の秘書を務めています。
栗原の周囲に不穏な動きが始まります。

第二部では、R帝国の国民の肉声に迫ります。
一般男性、兵士の男性、一般女性の各人の本音が吐き出されています。
情報、フェイクニュース、SNS、欺瞞、自己防衛、他人への攻撃、真実、虚構、複雑な人間関係、子育て……。
凛は、厳重に管理されたR帝国において、彼らの肉声のどこまでが本音なのだろうかと思いました。
そもそも肉声を誰が聞き出しているのでしょう。

栗原と矢崎の過去から、彼らの運命は如何に……。
そして、R帝国はどうなるのでしょうか。

凛は、三点について着眼しました。
第一点目は、人間が生死がかかる極限の状況におかれたとき、その人の本来もつ本性が表れることです。
エゴ、嘘偽り、裏切り、諦め、優越感、敗北感、自己陶酔など……。
上辺や綺麗ごとだけでは済まされない人間の深層の部分、中村氏はこれを見事に描き切っています。

第二点目は、技術の革新的な進歩です。
現在よりもさほど遠くかけ離れた未来の話ではないものが出てきます。
その中で、凛は三つの技術に注目しました。

一つ目は、ヒューマン・フォーンと呼ばれるHPです。
HPは所有者の性格を判断して、自ら考えます。
状況を判断して、自ら電源をオン・オフすることができます。
所有者に指示することも頻繁にあり、助ける面だけでなく、逆にやっかいな面も持ち合わせています。
必ずしも所有者に従順でないところが、人間的であるともいえます。

二つ目は、無人タクシーです。
勿論、画像で記録され、通信されています。
利用者が有人タクシーとの共用をしているところが、数年先には実現しているかもしれないと思った凛です。

三つ目は、YP-Dのような人工知能搭載の兵器です。
これに関しては、凛には小説を通して想像するしかありません。

第三点目は、個人としての幸福についてです。
国家と国民との関係において、幸福を追求していくには各人がどうしたらよいのでしょうか。
人間が生きていくためには何が必要なのでしょうか。

凛が持っている文庫本の初版の帯には、「キノベス!2018 第1位」「アメトーーク!『読書芸人』で紹介」「読売新聞、毎日新聞等で紹介」と掲載されており、太字で「各メディア大絶賛」と書いてあります。
文庫の巻末には、中村文則氏の解説「文庫解説にかえて──『R帝国』について」が掲載されており、読者に向けて、より考えさせられる内容となっています。

以上、まとめますと、さほど遠くはない近未来社会において、人間の幸福と尊厳を追求するためには、「今」をどのように考えて生きていけばよいのかということを、中村氏がこの作品を通して提案しているのではないかと、凛は考えました。

作者の中村文則氏は、2002年、小説『銃』(新潮社、2003年、新潮文庫、2006年、河出文庫、2012年)で、第34回新潮新人賞☆彡を受賞され、作家デビューされました。
2004年、小説『遮光』(新潮社、2004年、新潮文庫、2010年)で、第26回野間文芸新人賞☆彡を受賞されました。
2005年、小説『土の中の子供』(新潮社、2005年、新潮文庫、2007年)で、第133回芥川賞☆彡☆彡の受賞に輝きました。
2010年、小説『掏摸<スリ>』(河出書房新社、2009年、河出文庫、2013年)で、第4回大江健三郎賞☆彡を受賞され、英訳『The Thief』はアメリカの『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙の2012年同ベスト10小説☆彡に選ばれました。
ほか多数の受賞歴があり、また、多くの作品が翻訳されています。

今回の作品は、凛がこれまでりんりんらいぶらり~でご紹介いたしました作品とは読後感が少々異なるかもしれません。
人は誰しも幸せに生きることを願っているものと思います。
今夜もぐっすり眠れて、目覚めのよい明日を迎えるためには、毎日が幸福でないといけませんね。
幸福とは何でしょうか。
あなたも凛も、そのことをしっかりと考える必要があるのではないでしょうか。
そのようなことをこの小説を通して考えてみるのもよいのではないかと、あなたに凛からの一案です。

今夜もあなたにおすすめの一冊でした。(^-^)

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(日本語)文庫-2020/5/21中村文則(著)
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