2024年4月1日月曜日

虚と実の狭間を浮遊する ~小川哲『君が手にするはずだった黄金について』(新潮社、2023年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
お休み前のひとときに、どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

各地で桜の開花宣言が出ています。
桜の開花前線はこれからだんだんと北上していきます。
お花見で春を楽しみたいですね。(^O^)

あなたはどのような春をお過ごしになりますか。
これから温かくなりますので行楽にお出かけする方も多いことでしょう。
季節の変わり目はお天気も変わりやすいようです。
晴れた日ばかりとは限りません。
晴れたり曇ったり、時には雨や突風もある春。
凛は変わらず読書を楽しんでいきたいです。(^-^)

4月10日には2024年の本屋大賞の発表があります。
今年も10作品がノミネート☆彡されています。
どの作品が大賞を受賞されるのでしょうか。
全国の読書家が楽しみに待っていらっしゃることでしょう。
今回はノミネート作品の1冊をご紹介しますね。(^O^)

虚と実との境目が明確でない世界を体験できる小説、小川哲(おがわ さとし)氏の連作短編集『君が手にするはずだった黄金について』(新潮社、2023年)です。
2023年の10月に刊行された単行本です。
凛が持っている本は初版本です。

はじめに、凛がこの本を手にしたのは、昨秋訪れた各書店の新刊コーナーです。
その後、凛の地元のラジオ番組でこの本の紹介と、小川氏ご本人の電話出演もあったことでより強く印象に残りました。
某大手書店で小川氏のサイン本と出合ったことで即買いすることにしました。

サイン本は、凛にはまるで宝物のようにキラキラ輝いて見えてしまいます。
著者、出版社、書店との販売作戦に見事はまってしまう凛なのです。(^^;
小川哲氏のサインは可愛らしい感じで微笑んでしまいます。
作品から硬派のイメージを持っていたのですが、柔らかい印象のサインは意外でした。

次に、帯や表紙についてです。
まずは帯ですが、凛が購入した初版本では画像の帯とは異なっています。
現在は本屋大賞のノミネート作品である帯が付いている本が多いことでしょう。

凛の初版本の帯の表表紙側には、「直木賞受賞第一作」として「認められたくて必死だったあいつを、お前は笑えるの?」という文言が書かれています。
その下に小さな文字で「才能に焦がれる作家が、自身を主人公に描くのは〝承認欲求のなれの果て〟」。(同書)
帯には作家の朝井リョウ(あさい りょう)氏ほか二名の感想が読者を誘います。

初版本の帯の裏表紙側には、「いま最も注目を集める直木賞作家が成功と承認を渇望する人々の虚実を描く」と書いてあり、本のタイトルの「君が手にするはずだった黄金について」の篇のあらすじが出ています。
難しそうに感じるかもしれませんが、本を最後まで読めばこの帯の文言は秀逸であることがよくわかるように考えられているなあ、と感心した凛です。

二番目は表紙についてです。
表表紙は全体が白地の中、中心部には各色のサテンリボンで作られた花束に見える形状のものがデーンと目立っています。
授賞式に作家におくられる花束のようでもありますが、すべてをサテンリボンで覆われた人工的な花束は、何やら意味深でもありますね。
裏表紙側は花束はなく、真っ白です。

カバーは、Art works by takeru amano、あまの たける氏です。
装丁は、新潮社装幀室です。

それでは、内容に入ります。
作品は以下の6篇の連作短編です。
「プロローグ」
「三月十日」
「小説家の鏡」
「君が手にするはずだった黄金について」
「偽物」
「受賞エッセイ」

「プロローグ」では、2010年に「小川」(おがわ、同書22頁)という大学院生の青年が就職活動をするため、出版社の新潮社のエントリーシートを取り寄せた際、その中にある質問に考え込むところから始まります。
質問は「プロローグ」の冒頭に出てきますので、是非お読みいただきたいと思います。

当然ですが、小川青年は出版社を希望するからには数々の文学に触れてきています。
作中には「ジョン・アーヴィング」(7頁)や「スタインベック、ディケンズ、モーム、サリンジャー、カポーティ」(8頁)などの世界の文豪の他、「クレストブックス」(同頁)という新潮社刊行の世界文学を紹介している人気のシリーズ本も好んで読んでいます。

そこまでは順調だったものの、小川青年はある質問に辿り着き、「『怒りの葡萄』、『ガーブの世界』、『夫婦茶碗』」(8~9頁)の三冊で答えようとしますが、ここで逡巡するのです。
彼はこれまでの人生を振り返り、「人生において重要だったもの」(9頁)をあれこれと自身に問いかけてゆきます。
文豪だけでなく、哲学者の「バートランド・ラッセル」(12頁)の理論の他、様々な哲学者の名前を挙げて、小川青年の脳内はエントリーシートから広がっていくのを自認します。

小川青年は当時付き合っていた彼女「美梨」(みり、10頁)を登場させて読者をホッとさせますが、それは一瞬のことで、美梨とも哲学の会話を続けます。
その間、エントリーシートは白紙のままです……。

美梨との交際は続いていますが、果たして美梨の本心はどこにあるのでしょうか。
行間には二人の関係が安定していないことが込められているようにも見えてきます。

このように書きますと、読者には頑なである小川青年の性格についていけなくなる方もいらっしゃるかもしれません。
帯にも描かれているように「承認欲求」の強い自我を見せる小川青年ですから、読者の立ち位置としては彼から適度に距離を置きながら触れていくと全体が見えてくるのではないか、と凛は考えました。

この「プロローグ」で意識したいことは2010年であることです。
次の「三月十日」の篇では、2011年3月11日に起きた東日本大震災から3年を経た年の3月11日、その夜に彼は高校時代の同級生たち4人で飲み会をします。
彼らは「スノボ計画」(47頁)の仲間で、3年前の3月13日に行く予定でしたが、大震災のために中止となっていました。

その話題から、小川は3年前の大震災の前日は何をしていたのか、という疑問を持つことになります。
彼は疑問を解決するために、自身の記憶を頼りにしながらあらゆる手段を用いて辿り着くのです。
その執着ぶりには研究者かと思わせるほどの思考の回路を見せます。
例えば、かつて使用していた携帯に電源を入れるためにどうすべきか、などなどです。

この篇では、彼は既に作家になっています。
作家とはこのように理論が展開していくのかと感心することも多かった凛ですね~ (^.^)

6篇のタイトルを見れば、時系列に作家という職業の小川氏の手の内を見せているかのようでもあり、実は逆かもしれません。
どれが本当で、どれが嘘であるのか。
読者は虚と実との間を浮遊して読んでいるかの如く体験できます。
真偽の境目の線上で掴むことができそうでできない、という読者が体験する知的ジレンマがこの作品の魅力ではないでしょうか。

作者の小川哲氏についてです。
「哲」は「てつ」ではなく、「さとし」です。

2017年、SF小説『ゲームの王国(上・下)』(早川書房、2017年、のちハヤカワ文庫JA、2019年)第38回日本SF大賞を受賞☆彡、第31回山本周五郎賞を受賞☆彡されています。\(^o^)/

2022年、長編小説『地図と拳』(集英社、2022年)第13回山田風太郎賞を受賞☆彡、翌年には第168回直木三十五賞を受賞☆彡☆彡されています。\(^o^)/

2023年、小説『君のクイズ』(朝日新聞出版、2022年)第76回日本推理作家協会長賞長編および連作短編集部門を受賞☆彡されています。\(^o^)/

他にも多くの作品をご執筆されています。
書店では常に目立つ所にあるので、小川氏の人気の高さがわかりますね。
今後ご活躍に目が離せない作家のお一人です。

最後に。
全体に作家という内面を「小川」氏特有の複雑な理路で進んでいきます。
「小川」という作家を構成していく過程、及び彼の周辺の登場人物たちとの絶妙な距離感、それらは緻密に計算されていると思えてなりません。

読者は虚実の狭間をふわふわと浮遊するような感覚で読み解いていく知的体験ができます。
もしかしたら物質文明の地球上ではなく、全く異なる次元での話かもしれません。
まるで異次元の世界を漂っているかの如く、時間、空間、現象、事象、その他諸々のアイテムを駆使したこれらの「小川」氏からの挑戦に対峙してみてはいかがでしょう。

初版本の帯の言葉、作家の「承認欲求の成れの果て」を認めるか、認めないかは読み手であるあなた次第でしょう。(^O^)
つまりは、読者のあなたが中心になって物語は進むのです。

あまり難しく考えずに、是非気軽に読まれてくださいね。 
4月10日の本屋大賞の発表も楽しみです。\(^o^)/

今夜もあなたにおすすめの一冊でした。(^-^)

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2024年3月1日金曜日

人生の無駄遣いではないよ ~町田そのこ『52ヘルツのクジラたち』(中央公論社、2020年、のち中公文庫、2023年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
お休み前のひとときに、どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

3月、春の季節の到来ですね!
暖かくなれば着る服も軽くなります。
優しい色合いの服に包まれて、心も軽~くなりたい凛です。(^O^)

「いえいえ凛さん、花粉症で体調がすぐれず、春のファッションを楽しむどころではないんですよー」
確かに花粉症の季節ですよねえ。(-_-;)
身体と向き合って、体調に気をつけていきましょう。
あなたはいかがお過ごしですか。

この3月に映画が公開されるということでメディアで話題になり、原作の小説を読んでみました。
町田そのこ(まちだ そのこ)氏の小説『52ヘルツのクジラたち』(中央公論社、2020年のち中公文庫、2023年)です。
この作品は2021年、第18回本屋大賞の第1位を受賞☆彡しています。\(^o^)/

はじめに、凛がこの本を知ったのは、2021年の本屋大賞の受賞☆彡からです。
以来ずっと読みたいなと思っておりましたが、町田氏の他の作品を先に読んでいました。
3月からの映画公開を機に、近所の書店で購入いたしました。
凛が購入したのは文庫本で、2023年の12月15日発行の第9刷です。
文庫本の初版が同年5月25日ですから、人気度の高さがわかりますね!

次に、帯や表紙についてです。
一番目は、帯からです。
凛が持っている文庫本の第9刷は、映画公開前ということで帯も映画の宣伝になっています。
「映画化決定!」
「2024年3月全国公開」
表表紙側には、主演の杉咲花(すぎさき はな)さんの写真が掲載されています。
監督の成島出(なるしま いずる)氏のお名前も紹介されています。
ワクワクしますね~!(^O^)

第9刷の帯の裏表紙側には、「2022年本屋大賞 連続ノミネート!」で単行本の小説星を掬う(すくう)』(中央公論新社、2021年)の概要が掲載されています。

二番目は、表紙についてです。
凛の第9刷の文庫本の表表紙は、紺色を地色として動物たちや小物などがたくさん描かれています。
中には生ビールやソフトクリームも!
小説を読めばどこで登場するのかがわかりますよ~
温かみのある可愛いイラストです。
見方によっては、イラストの全体が教会のステンドグラス風にも思えます。

裏表紙側の説明文では、「52ヘルツのクジラとは、」から始まり、その説明が書いてあります。
それが何なのか気になる方は、是非文庫本を手にして読まれてください。
「孤独ゆえ愛を欲し、裏切られてきた彼らが出会い、魂の物語が生まれる。」(同書)で終わっています。

カバーイラストは、福田利之(ふくだ としゆき)氏です。
カバーデザインは、鈴木久美(すずき くみ)氏です。

解説は、ブックジャーナリストの内田剛(うちだ たけし)氏です。
「感動の先を見せてくれる『絶景本』」というタイトルの解説文です。

それでは、内容に入ります。
物語は全8章で成立しています。

第1章の「最果ての街に雨」は、大分県の海の見える町で、主人公の貴湖(きこ)が越してきた古民家の修繕をする場面から始まります。
住宅の修繕業者の村中真帆(むらなか まほろ)は彼女に不躾な質問をします。
驚いている彼女を見て、村中の部下のケンタは申し訳なさそうに上司の村中をけん制しながら村中を擁護します。
地元の住人たちにとっては、突然東京から移住してきた貴湖を謎めいていて訳ありだと思っています。
彼女は東京での辛い過去の体験を秘めていました。

食料品や日用日を買うにしてもお店は「コンドウマート」(文庫本第9刷、9頁他)しかない集落なので、スマホも運転免許も持っていない貴湖にはなかなか不便な所です。
働いていないにも関わらず経済的には余裕のあるように見える彼女にまつわる噂は、コンドウマートに集まる高齢者の間でもちきりとなっていました。
そのことを村中は彼女に直接的に伝えます。
彼女にとって村中は貴重な情報提供者ともいえましょう。

「あんた、人生の無駄遣いやがね」(同書、27頁)
ある日、貴湖がコンドウマートで買い物をすると、その店で売られている派手なムームーを着た高齢の女性から強く言われました。
どうやら若い女性が働かずにしてのんびり過ごしている姿に腹を立てている様子なのです。
移住者に対してよそ者扱いをしているのは見え見えと受け取られても当然です。

ここで凛は疑問をもちました。
「人生の無駄遣い」とは何を根拠にして捉えるのでしょうか?
時間や労働、経済の視点からでは、少しの猶予も与えられないものでしょうか?

貴湖は何故に他人からこのようなことを言われないといけないのかと戸惑ってしまいました。
価値観の違いにおいて、人との距離の難しさがわかる箇所です。
近年は都会から地方への移住を奨励している自治体もあります。
移住を決断するには一時的な滞在の旅行者とは全く異なる覚悟をもたなければいけない、と凛は考えました。

貴湖の記憶の中から度々蘇る「アンさん」(同書、16頁)という人物がいます。
迷ったり、困ることがあると必ず「アンさん」と彼女はアンさんに問いかけて、アンさんからの答えを探ります。
アンさんとは一体何者なのでしょうか。

第2章の「夜空に溶ける声」では、古民家の住人となった貴湖の家に少年が訪れます。
彼女は少年に「キナコ」(同書、61頁他)と自己紹介をします。
少年は喋ることができない模様で、庭の地面に自分の名前を『ムシ』(同書、同頁他)と書きます。
少年ムシはどうも虐待を受けているのではないか、と貴湖は直感します。
何故ならば、彼女にも家族から受けた耐え難い過去の体験があるからです。

ここからキナコと少年の物語が始まるのです!(^O^)

貴湖や少年、そしてアンさんなどの経歴については、読んでいくうちに追い追い読者は知ることとなります。
彼女らにまつわる複雑な事情は、壮絶な辛い過去の鋭利な刃となって読者に突き付けます。
章が進む度に彼女たちの過去と現在が交錯しながら進みます。
貴湖の過去は度々フラッシュバックとなって彼女を苦しめます。

この表現形式は町田氏の小説の特徴である、と凛は考えます。
ある時は、ダイレクトにこれでもかというくらいにドーンと激しい言葉を用いて読者を刺激します。
次々に知ることとなる驚愕な過去と現在進行形の現実に読者はおののくでしょう。
これほどまでに辛い仕打ちを登場人物に体験させないで欲しい、と願ってしまうほどにです。

またある時は、謎めいた形で描き、オブラートに包んだような印象を与えます。
え?登場人物たちは何を秘めているのだろう?
もっと先が知りたい!という欲求が生じます。 
それはそれはじれったいほどに……。(^^;

町田氏は物語の随所に伏線を張り巡らせています。
作者からの強弱のあるメッセージ性を読み取ることは、複雑な伏線があるからこそ成立する技法といえましょう。
伏線は様々なグッズも含まれます。
これらの技法によって、読者は先が気になって頁をめくる手がやまないのがわかりますね。

作者の町田そのこ氏について。
町田氏は、2016年、小説「カメルーンの青い魚」で第15回女による女のためのR-18文学賞の大賞を受賞☆彡されました。\(^o^)/
この作品は『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』(新潮社、2017年、のち新潮文庫、2021年)に収録されています。
今後のご活躍が大いに期待される作家のお一人です。

最後に。
貴湖は東京から大分県の海の見える町に移住した当初は自ら孤独を求めていました。
ある日、彼女の家に少年が現れてから彼女は再生してゆきます。
彼女の友人や地元の人たちなどが仲間となって物語はどんどん進みます。
人とのご縁の大切さがわかる小説です。
読後には、タイトルの「52ヘルツのクジラたち」の意味がわかり、感動となってあなたに迫ってくるでしょう。

「人生の無駄遣い」について、読者の心の在り方によって答えはその人それぞれの胸のうちにあるのではないでしょうか。
コスパ、タイパに絡めとられることなく、その自身にとっての価値観を求めていくことこそ人生における必要な時間ではないか、と凛は考えます。

文庫本の表紙の裏には、もう一つの物語が印刷されていますよ!
爽やかな読後感まちがいありません!!\(^o^)/
とても得した気分になれます。
あなたも文庫本の表紙を外して読まれてくださいね!

そして、映画も楽しみです!
是非劇場で観たいですね。(^O^)

今夜もあなたにおすすめの一冊でした。(^-^)

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2024年1月29日月曜日

今年こそ読破したい!紫式部の人生と並行して読める帚木ワールドの『源氏物語』 ~帚木蓬生『香子(かおるこ)(一)紫式部物語』(PHP研究所、2023年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらりにようこそお越しくださり、ありがとうございます。
お休み前のひとときに、どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

2024年がスタートして早くも一か月が過ぎようとしています。
今年の日本は元日からショッキングな出来事ばかり起きています。

ああ、今日も一日無事に過ごせました。感謝。
という安堵感で眠りに入れる日常の生活が如何にありがたいことでしょう。
平穏で過ごせる日々が最も幸せなのだと実感させられます。

合わせて、非常時のための危機感と水や食料などの備えが大事だということも再認識しないといけませんね。
あなたはいかがお過ごしでしょうか。

世の中はAIなどの新しい技術を導入する時代に既に入っています。
コスパ重視の世の中、スピードは年々早くなってきています。
しかしながら、敢えて古来から受け継がれている普遍的な事柄に注目したい、という欲求がわいてくるのは生身の人間だからでしょうか。

今年のNHKの大河ドラマは『光る君へ』ですね。
凛も毎週楽しんで視聴しています。
あなたはご覧になられてますか。

主演の吉高由里子(よしたか ゆりこ)さんが後の紫式部こと「まひろ」を演じておられます。
まひろさんはどのような経緯で『源氏物語』を執筆するようになるのでしょうか。
彼女の背景でうごめく公家政治の権力とは……。
テレビドラマですので、日本史の教科書で学んだ内容とは若干異なる部分もあるでしょう。
ひとつの娯楽作品として楽しみたいですね~ (^-^)

『源氏物語』全五十四帖。
あなたは読まれましたか。
実のところ凛は最後まで読んでおりません……。(^^;
凛はこれまで谷崎潤一郎(たにざき じゅんいちろう)訳、瀬戸内寂聴(せとうち じゃくちょう)訳、林望(はやし のぞむ)訳に挑戦してきましたが、いずれも途中までの断念組です。
これは現代語に訳された先生方の問題では決してありません。
誤解なきよう、あくまで凛個人の問題なのです。

他にも関連の解説書やガイド本など何冊も蔵書として保管しています。
とは名ばかりで、所謂万年積ん読状態ですね……。(^▽^;)

紫式部はどんなことを考えて人生をおくったのでしょうか。
『源氏物語』はどのようにして書かれたのでしょうか。
作中に出てくる和歌の内容をもう少し知りたいですね。

このような素朴な疑問を解決できるという、まるごとひとつにまとめられた小説があります。
紫式部の人生と『源氏物語』と和歌の解説などが同時に読める大変ありがたい作品が昨年末に出版されました。
帚木蓬生(ははきぎ ほうせい)氏の大長編小説『香子(かおるこ)(一)紫式部物語』(PHP研究所、2023年)です。
書下ろし作品になります。

タイトルに(一)が付いていることからわかるように、この作品は(五)になるまでの五か月の間、毎月連続して出版していくというPHP研究所の一大プロジェクトです。
第一巻は461頁と大変分厚い本ですが、慣れていくうちに気が付けば最後まで一気に読めました。\(^o^)/
漢字にルビがふってありますので読みやすくなっています。

はじめに、凛がこの本を知ったのは某ラジオ番組の本の紹介コーナーを視聴したことによります。
番組に生出演された帚木氏ご本人のお話によりますと、長い間従事されていらした精神科医院のお仕事をご卒業されて、専業の作家になられたとのことでした。

以前にNHKのテレビ番組で帚木氏を拝見した時は落ち着いた話し方の先生といった印象でしたが、ラジオのお声からは非常に明るく快活な方で、この作品への強い情熱が伝わり、新たな帚木ワールドを堪能できるなと思った凛でした。
本は市内の中心街の書店で購入しました。

そもそも「帚木蓬生」というペンネームからもわかることですが、「帚木」は『源氏物語』第二帖の「ははきぎ」、「蓬生」は第十五帖の「よもぎう」から構成されています。
帚木氏『源氏物語』に対する強い意志が伝わりますね!

次に、帯や表紙についてです。
一番目は、帯についてです。
凛が持っている本は、2023年12月26日刊行の初版本です。

表表紙側には、「千年読み継がれる物語は、かくして生まれた」と白地に赤い文字で目立つように書いてあります。
表表紙側の左下には、赤い枠に中に白字で「大河ドラマの主人公・紫式部(香子)の生涯×『源氏物語』」と書いてあり、大河ドラマ放映と同時期の刊行ということで、非常に期待感がわきますね~

帯の裏表紙側には、「五ヵ月連続刊行!」の下に、第一巻から第五巻まで簡単な説明文が紹介されています。
第一巻のところをご紹介いたしましょう。
「香子の物語」では、「父とともに越前へ、そして物語を書き始め……」と黒字で書いてあります。
その右の『源氏物語』では、「桐壺~末摘花の帖」(以上、同書)と赤い字で書いてあり、第一巻は六帖まで読めるのだなと識別できるようになっています。


二番目は、表紙についてです。
表表紙は、紫式部の上半身が描かれています。
裏表紙は、文机の前に座っている紫式部が描かれており、『源氏物語の有名な冒頭文「いづれの御時にか、……(中略)すぐれてときめき給ふ有りけり。」という文字が書いてあります。
表表紙、裏表紙とも格調高い仕上がりになっています。

装丁は、芦澤泰偉(あしざわ たいい)氏です。
装画は、大竹彩奈(おおたけ あやな)氏です。

それでは、内容に入ります。
作品の第一巻は、第一章の「香子(かおるこ)から第十五章の「懸想文(けそうぶみ)」までが収録されています。
凛が注目した四点について挙げます。

一点目は、「香子」という名前についてです。
第一章の始まりで、香子は当初は「きょうし」「きょうこ」と呼ばれていたところが、8歳の春に、父君の藤原為時(ふじわらの ためとき)から今後は「かおるこ」と呼ぶと決めたことを告げられました。
亡き実母が命名した「香子」。
これまで改まった席においては「きょうし」で、身内の間では「きょうこ」と呼ばれていました。

香子は、呼び名を替えることになった理由を父君に尋ねます。
父君は、「そなたの資質は、誰が見ても、他より抜きん出ている。」(第一巻初版本、5頁)と言って、香子の素晴らしい資質を認めています。
その上で、「そして誰もが認める、ひとかどの人物になる。その資質が薫(かお)るからだ。ちょうど、今匂ってくる紅梅(こうばい)のようにな」と。(同、5頁)
香子はまだ8歳なので深い意味はわからない様子でしたが、父君から高い資質を認められたことは彼女の生涯の自信につながったと捉えることができます。

二点目は、血縁と文学についてです。
歌人としては、香子の父方の曽祖父である藤原兼輔(ふじわらの かねすけ)がいます。
兼輔は中納言の位に出世し、醍醐(だいご)天皇の後宮に娘の桑子(くわこ)を入内させ、章明(のりあきら)親王をもうけさせます。
その時の歌が『後撰和歌集』に収められているとして、また、桑子の入内の話が『大和物語』に収められており、さらに歌集の『兼輔集』の存在など、香子はこれらを暗唱するなど繰り返し学んできました。

父方の祖父の藤原雅正(ふじわらの まさただ)や伯父の藤原為頼(ふじわらの ためより)も歌人でした。
香子には幼い頃から、伯父の為頼が所蔵する和書だけでなく、父君が収集していた漢籍など、和漢の多くの書物に触れる機会があったことが第一章に記されています。

第一巻の後の章になりますが、香子が『源氏物語』の執筆の際、父君や母君に読ませて感想を述べてもらいます。
両親が彼女の背中を後押ししてくれたことは創作の自信につながったことでしょう。
特に、母親が積極的に感想を述べてくれることが印象深いです。
このように幼い頃から文学を嗜む家庭環境から、香子の執筆に対する意欲が増したことは大きいですね。

また、『蜻蛉日記』との関係があります。
『蜻蛉日記』の作者は、藤原道綱(ふじわらの みちつな)の母です。
第二章「蔵人(くろうど)」では、香子の祖母から『蜻蛉日記』の作者が、香子の実母の父の藤原為信(ふじわらの ためのぶ)の兄である藤原為雅(ふじわらの ためまさ)の正妻の姉にあたる女性であることを再度言われます。
要は遠い親族が女流文学の先駆者で、日記文学の作者であったことは、香子にとって「書くこと」を意識した存在であったであろうと読者に知らしめています。

三点目は、死生観です。
香子は第一巻目から身内の死に遭遇しています。
生母、姉君の朝子(あさこ)、最初の結婚をした平維敏(たいらの ただとし)との死別があります。
自分を守ってくれ、愛してくれた人との別れは辛いものです。

「誠に人の世は、野分(のわけ)や雲、雨と同じで、人の手ではどうにも動かせない。その摂理(せつり)の下(もと)で、翻弄(ほんろう)され続けるのだ。」(同、230頁)
香子はこの世のはかなさ、無常観を体験し、やるせなさを感じたのではないでしょうか。

四点目は、帚木蓬生訳の『源氏物語』についてです。
まずは、素朴な疑問点をあげましょう。

何故に香子は『源氏物語』を執筆することになったのでしょうか。
香子は何の文学作品を手本にしたのでしょうか。
香子の執筆する過程を知りたいですね。

などの疑問点が読者には持つ方も多いかと思います。
これらについては、第十一章の「起筆」前後で読者は捉えていくことでしょう。
あなたが読まれてからのお楽しみに!(^^)/

帚木蓬生氏の訳の特徴として、気づいた点が二つあります。

一つ目は、主語が明確に書かれていることです。
凛は学生時代に『源氏物語』の長い一文の中で「主語を示しなさい」と設問に出てきたことを思い出しますねえ。
『源氏物語』は主語が省略されている文が多いため、主語が明確であると理解が深まりますね。

二つ目は、和歌の説明が本文中に簡潔にされていることです。
例えば、第十二章「雨夜の品定め」には、『源氏物語』第二帖の「帚木の訳が掲載されていますが、光源氏が小君に託した歌

「帚木(ははきぎ)の心を知らでその原の
   道にあやなくまどいぬるかな」(同、293頁)

の後に、あらかじめ歌の意味を現代語で説明した後で、
『古今和歌六帖』の、園原や伏屋(ふせや)に生(お)うる帚木の ありとてゆけどあわぬ君かな、を下敷きにし、」(同、同293頁)
と、女君が返歌するまでの経緯が丁寧に書いてあります。

このように和歌の一首ずつに説明書きが訳の本文中に書いてありますので、本文に解説書が合体したような感覚で読者は自然な形で読み進むことができるのです。
凛は和歌の嗜みがありませんので、これは大いに助かりますね。(^O^)

帚木蓬生氏については、凛のりんりんらいぶらり~で2020年7月14日付「日本の文字の始まりを知る」の項で『日御子(ひみこ)上・下巻』(講談社文庫、2014年)(ココ)に掲載していますので、こちらの項では割愛させていただきます。

最後に。
帚木蓬生氏の作品『香子(一)紫式部物語』は、紫式部の生涯を描いた物語と、『源氏物語』の現代語訳と、和歌の解説が合体した大長編小説を一度に読めるという楽しみ方ができます。
PHP研究所から、2023年12月26日発刊の第一巻から第五巻まで、毎月一巻ずつ発刊されるという一大プロジェクトです。
NHKの大河ドラマ『光る君へ』と並行して読むと、歴史文学としても理解が深まるというものでしょう。

『源氏物語』をまだ読まれていないあなた、どうしようかなと迷っているあなた、凛のように途中までのあなた、是非この機会にお気軽にトライしてみませんか。
会話文など現代の話し方と同じように表現されていますので肩こりしませんよ。

第十三章「越前の春」では、香子の弟の惟通(これみち)の名前の一字違いで、『源氏物語』光源氏の従者を惟光(これみつ)と設定した点について、香子の母君から指摘されたことが書いてあります。
「図星だった。書いていて、咄嗟に浮かんだ名前が惟光だった。」(同、354頁)
そうだったのかあと、あらためて紫式部の家族に対する温かい情愛が伝わってほのぼのとしました。
この後に展開する物語もきっと新しい発見があるだろうな、と期待感でいっぱいになった凛でした。

第二巻の刊行ももうすぐです。
大変楽しみにしています!
今年こそ『源氏物語』を読破します!\(^o^)/

今夜もあなたにおすすめの一冊でした。(^-^)

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PHP研究所-2023/12/13帚木蓬生(著)
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2023年12月6日水曜日

うわっ!究極の選択!どうするあなた? ~荒木あかね『此の世の果ての殺人』(講談社、2022年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
お休み前のひとときに、どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

師走になりました。
世の中が日に日に慌ただしくなり、「急ぎなさい!」と追い立てられるような空気感でいっぱいになる時期です。
このような時こそ慌てず落ち着いて臨みたいところですね。
年内にしなければいけないことはなるべく早めに着手して、ゆとりを持ちたいと思う凛です。

まあ何とかなるだろう、その時になって対処すればいいじゃないの、という方も多くいらっしゃるかと思います。
凛は「時」に迫られて慌てるのが嫌なので、年末はなるだけ早めに行動したいと考えるタイプですねえ。(^^;
あなたは歳末をいかがお過ごしですか。

今を生きている世界が安泰な時には一日が穏やかに過ぎてゆくものです。
それを「平穏」と表現いたしましょう。

ところが、各人の性格や考え方など全く及ばず、真の選択を迫られた世界で生きなければならなくなったとしたら……。
この地球上で突然に平穏な日々を営むことができなくなった時、人々はどのように生を捉えるのでしょうか。
恐怖、絶望、悲観、諦め、閉塞感、開き直り、無の心境……。
これらは極力避けたいことばかりですが、近いうちに訪れるという負の予測がほぼ確実であるならば、あなたはどのように思考し、行動しますか。

Xdayに向かって、地球人として絶対に体験しなければならない尋常ではない日々。
これまでは非日常と漠然と捉えていたことが、突然確実な負の日常に変わった時、いわゆる最悪の状況設定の中で、日本の福岡県で連続殺人が起こる小説があります。
極限の状態で起こる連続殺人事件に、果敢にも挑む女性二人の物語です。

今回ご紹介いたします作品は、荒木(あらき)あかね氏の長編小説『此の世の果ての殺人』(講談社、2022年)です。
今のところ単行本のみで、文庫化はされていません。
この小説は、2022年、第68回江戸川乱歩賞を受賞☆彡作品で、著者の荒木あかね氏は史上最年少の受賞者として各メディアで話題になりました。\(^o^)/

はじめに、この本との出合いについてです。
凛がこの本を知ったのは一作目が各メディアで話題になった時でした。
「とっくに読んでますよ~」というミステリーファンも多いかと思います。

何故今頃、紹介するの?という疑問をもたれたあなたへ。
凛はベストセラー作品は話題になっている期間ではなく、少し落ち着いてから読むことが多いです。
話題性というメディアの発信の枠内から出たところで、じっくりと味わいたいという気持ちがあるからです。
文庫化されるのを待つことも本音ではありますねえ。(^^;
ということで、この作品の単行本の購入を控えておりました。

今夏の8月に、荒木氏の二作目『ちぎれた鎖と光の切れ端』(講談社、2023年)が出版されました。
しばらくして秋に某ラジオ番組で著者について高評価していたことから、少し離れた大型書店に様子を見に行ってみました。
一作目はその大型書店にはなかったこともあり、ネット書店で購入しました。
ああ、一作目を入手するまで何ともどかしい凛ですこと……。 (^^;

凛が購入した一作目の本は、2022年12月1日付の第4刷発行のものです。
初版が2022年8月22日付なので、相当話題になったことがわかりますね~ (^^)v

次に、帯や表紙についてです。
一番目は、帯について。
凛が購入した第7刷の帯の表表紙側には、赤い帯の地色に「読書メーター注目本ランキング 単行本部門2022年10月 第1位」と目立っておりますよ。
他には「第68回 江戸川乱歩賞受賞 史上最年少、満場一致」
「大重版、新人なのに5万部突破!」など、期待感がモリモリです!

帯の裏表紙側には、「正義の消えた街で、悪意の暴走が始まった。」と。
その文字の下に細かい文字で説明文が4行書いてあり、実に衝撃的な内容です! (@_@)

「小惑星『テロス』が日本に衝突することが発表され、世界は大混乱に陥った。」
「そんなパニックをよそに、小春は淡々とひとり大宰府で自動車の教習受け続けている。」
(省略)
「年末、ある教習車のトランクを開けると、滅多刺しにされた女性の死体を発見した。」
「教官で元刑事のイサガワとともに、地球最後の謎解きを始める──。」(以上、同書)

裏表紙側には、京極夏彦(きょうごく なつひこ)氏を含めて5名の著名な作家の感想が一文ずつ紹介されています。

二番目は表紙について。
水たまりのある荒廃した土地に女性が二人、遠くの空を見つめています。
一人はコンクリートらしき建造物に座り、もう一人は立っています。
青い空に、赤く染まった雲や灰色の雲が見られます。
女性たちの周囲には電柱や信号機が斜めになっているものもあり、道路は壊滅しています。

この光景は裏表紙側に続いており、裏表紙の右端の下側には、大宰府自動車学校の教習車が半分ほど描かれています。
空には白く発光した帯状の「物体」が地上に向かっており、かなりのスピードであることがわかります。

装画は、風海(かざみ)氏です。
装丁は、bookwallです。

それでは、内容に入ります。
通常は内容に少しだけ触れているのですが、今回は先に述べました帯の裏表紙側の説明文だけで十分ではないかと思います。m(__)m

読者は、小春とイサガワ先生の二人の周辺が尋常ではない環境下に置かれていることに気づきます。
小春の家族と自宅、自動車教習所、警察、個人医院など、様々な伏線が張られています。
二人は福岡県内を大胆に動き回ります。
移動には自動車教習車を使って。

ミステリー小説なので、後はあなたが読まれてからのお楽しみに~ (^O^)

凛の感想といたしまして、四点挙げます。
一点目は、舞台が福岡県という限定的な地域密着型であること。
これは、著者の荒木あかね氏が福岡県在住であることが大きいでしょう。
例えば、6頁では宝満山(ほうまんざん)や英彦山(ひこさん)に触れるなど、地元の読者が喜ぶであろう場所が多々描かれています。

二点目は、天体に関してリアリティに迫っていることです。
作品の前半25頁から通称『テロス』」について詳しい説明が入ります。
既に帯の説明文で挙げていますが、地球に小惑星が衝突することが発表されます。
人々のパニックが!
頁をめくる度に様々な登場人物とエピソードで絡み合って進んでゆきます。

三点目は、イサガワ先生の言動の切れ味がユーモラスで小気味よいことです。
地球が終わるかもしれないという極限の時に起こる残忍な連続殺人事件を追って、イサガワ先生はこう言い放ちます。
例えば、「まだ地球は終わってないんでね」(同、112頁)

要はタイトルの「此の世の果て」とはどういう状態なのかということが重要かと凛は考えした。
極限の状態でこのようなセリフが言えるなんて!
現実にはこの言葉を言う機会が訪れないことを祈るばかりですが……。(-_-;)

四点目は、巻末に江戸川乱歩賞の沿革並びに選考経過、選評が掲載されていることです。
プロの作家の見解を知ることで、読者には受賞作品の重厚感が増すでしょう。
第1回(昭和30年)からの受賞リストを見て、歴史感を凛は認識しました。

著者の荒木あかね氏に関しては、先に述べました通りです。
荒木氏は1998年生まれのZ世代。

最後に。
小惑星が衝突して地球が滅亡するかもしれないという極限状態の中で、福岡県を舞台にした連続殺人事件を追う小春とイサガワ先生の行動力が基軸となっている作品です。
また、解決を追うことで出会う人たちの個々の物語でもあります。
もう後がないことがほぼ確実であるという超極限状態の中で、人の心理と行動がわかってしまう、いわば最も恐ろしい話です。

二人は「此の世の果て」から逃れられるのでしょうか?
それとも逃げずに向かっていくのでしょうか?
では、あなたはどうしますか?

凛は、物語の最後の数行、小春とイサガワ先生の会話を何度も読み返し、表紙の絵をじっと見つめました。
映像作品にできそうですねえ。

荒木氏の二作目の本が出版されて、凛が向かった大型書店では目立つように二作目が売り場のど真ん中にデーンと難十冊も平積みされていました。
「Z世代のアガサ・クリスティー」とPOPが添えられていました。
書店の対応もお見事ですね!

凛は一作目の時と違って、二作目は即買いしました。(^_-)-☆
荒木あかね氏の今後のご活躍に大いに期待します!(^O^)

今夜もあなたにおすすめの一冊でした。(^-^)

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講談社2022/8/24荒木あかね(著)
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2023年11月3日金曜日

日本茶と占いでまったりと ~標野 凪『占い日本茶カフェ「迷い猫」』(PHP文庫、2021年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
お休み前のひとときに、どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

11月になりましたね。
早くも今年もあと2か月となりました。
来年のカレンダーや手帳などの売れ行きも早くなっているようです。
夏から販売しているお店で、早めにお求めになるお客さんを結構見かけました。
凛も概ね揃えました。
もう気分は来年に。(^^)v
あなたはもうご準備されましたか。

秋は紅葉が綺麗な季節ですね~
あなたのお住まいの地域によっても異なりますが、暑い日中も日が暮れると冷えてきます。
身体を冷やさないように心がけたいものです。

ところで、あなたは日本茶はお好きですか。
凛は日本茶を飲むと心身とも落ち着きます。
昨今は手軽なペットボトル派も多いですね。
多忙な時代ではありますが、やはり急須で淹れた日本茶は香りも味も抜群で、疲れがとれるように思います。
中にはお茶殻の片づけが面倒という方もいらっしゃるでしょう。
毎日ではなくとも、お湯のみで日本茶をたしなむ時間をとるのもよいですよね~ (^-^)

今回ご紹介いたします本は、日本全国を巡り、その地方に合った日本茶の出張カフェを営み、訪れたお客さまの占いも行うという主人公の小説です。
日本茶の周辺にまつわる歴史や文化を学び、さらに落語なども楽しめるという歴史好きにはたまらない話題てんこ盛りの作品です。

標野 凪(しめの なぎ)氏の小説『占い日本茶カフェ「迷い猫」』(PHP文芸文庫、2021年)です。
この作品は文庫本書下ろしですので、単行本はありません。

はじめに、凛がこの文庫本を手にしたのは、数か月前のことです。
凛の自宅から少しだけ離れた書店にて、カフェをテーマにした小説ばかりを集めたフェアで出合いました。
最近はカフェや食に関する小説も多いですよね~

この本の帯には「出張カフェ」と書いてあります。
帯の裏表紙側には「福岡、仙台、東京、米子、奈良、静岡……。」と出張カフェで訪れた都市が書いてあります。
何とまあ、凛が暮らしている都市が出ているではありませんか!(^O^)
一体どんなことが書かれているのだろうと気になり、レジに直行しました。

凛が購入した文庫本は、2023年5月5日付の第5刷です。
初版が2021年3月18日付ですので、評判が良いことがわかりますね~
第5刷の帯の表表紙側には、「コツコツ重版、じわじわヒット中。」と紹介されています。

同じく帯の表表紙側に書いてある「疲れた心に温かいお茶を一杯いかがですか?」と、黄緑色の帯に書かれた緑色の文字が日本茶を飲みたくなるように読者を誘ってくれます。
帯の裏表紙には、「出張カフェは呼ばれたところへ参ります。」と。

「福岡、仙台、東京、米子、奈良、静岡……。」(同)の六ケ所の土地で淹れた日本茶に関することが書かれています。
「氷茶」「ほうじ茶」「新茶」「お抹茶」「茶の木」「出張カフェ」(同)と各地で淹れた日本茶に関する気になるキーワードばかりですねえ。

次に、表紙についてです。
最初は、表表紙の絵からご紹介します。
向かって正面に木製のテーブルがあり、椅子に頬杖をつきながら座っている女性は主人公の如月(きさらぎ)たんぽぽさんでしょう。
テーブルには、急須やお茶のお道具、明るいデザインの敷布の上にはタロット占いのカードが並べられています。
そのすぐそばには、愛猫の「つづみ」が丸くなっており、お客さまをお待ちしているように見えます。

出張カフェ「お茶と占い 迷い猫」の小さな看板がテーブルの上に置かれています。
椅子の背が見えるこちら側にはお客さま用の湯のみが茶托と共に。
全体的に温かい雰囲気が漂っています。
たんぽぽさんから出されたお茶とお菓子をいただきながら、悩んでいることを良い方向に導いてくれそうです。(^_-)-☆

カバーの装丁は、岡本歌織(おかもと かおり)氏(next door design)です。
カバーの装画は、あわい氏です。
 
二番目は、裏表紙の説明文です。
主人公の如月たんぽぽさんは全国各地のギャラリーやイベント会場の一角で招かれ、愛猫の「つづみ」と共に出張カフェ「迷い猫」を営んでいます。
また彼女は、占い師としての顔も持ち、出張カフェに訪れたお客さまの悩みを聞いて少しでも明るい方向へと導いていきます。
頁をめくる度に読者の心も温かくなっていくという連作短編集です。

そして、彼女は各地で「『あるもの』の行方を捜していた……。」(同書)と大変気になることが書かれているではありませんか!
どうやら癒し系のお話だけではなさそうですよ。

それでは、内容に入ります。
目次の前に、いきなり夏目漱石(なつめ そうせき)の俳句「売茶翁花に隠るゝ身なりけり」(文庫本、3頁)が出てきます。
「売茶翁(ばいさおう)」
これは本作品の重要なキーワードとなります。

本表紙のデザインとロゴは、川上茂夫(かわかみ しげお)氏です。
目次・章扉デザインは、岡本歌織氏(next door design)です。

本作品は、全6話の連作短編です。
第1話のタイトルは、「氷茶ができるまで三十分お待ちください」(同、9頁)
たんぽぽさんが訪れたのは福岡市です。

9頁には、「『茶』玉露 福岡県八女市星野村産 氷茶」
「『水』不老水 福岡県福岡市 香椎宮」
「『菓』鶏卵素麺(たばね) 松岡利右衛門」
「『器』白と黒の器 ギャラリー下川提供」
と福岡市の出張カフェで用いたお茶、水、お菓子、器が紹介されています。

うわあ、とても美味しそう!
如月たんぽぽさんというプロが淹れた日本茶を飲みたくなります!(^^)v
凛は氷茶は飲んだことがないですねえ。

福岡市の「ギャラリー下川(しもかわ)」(同、13頁他)で行われた出張カフェはお客さまで賑わっています。
読者は、お茶の葉、水、お菓子についての学びができます。

お客さまの悩みを聞きながら、たんぽぽさんはタロット占いをしました。
氷茶の説明に加え、読者にはタロットカードの説明もあります。
たんぽぽさんは、「迷い猫カード」(同、61頁他)を悩めるおお客さまにお渡しします。
そのカードは「ま」「よ」「い」「ね」「こ」(同、62頁)の頭文字になっていて、相談する各人の悩みに合うように適切な言葉が続いています。

また、たんぽぽさんの父親の趣味だったことから、落語の話題も豊富に出ます。
第1話では、『猫の皿』(同、41頁他)についての説明もあります。

たんぽぽさんは出張カフェの翌日に有田焼で有名な佐賀県の有田(ありた)を訪れ、骨董屋の店主から「売茶翁」という僧侶の「月海元昭(げっかい げんしょう」(同、67頁)について教えられました。
「伊藤若冲(いとう じゃくちゅう)」(同、68頁)の描いた「売茶翁」の日本画の説明から、本格的な日本文化の話題に発展していきます。
骨董やお宝の話題がお好きな方には、この作品が癒しカフェの話題だけではないのが伝わるでしょう。

お茶所で有名な静岡県の浜松市の出身であるたんぽぽさん。
母方の祖母は、かつて茶園を営んでいました。
たんぽぽさんは移動を伴う出張カフェというお茶と関わる仕事について、「売茶翁」との運命的なつながりに気づきます。
彼女は「売茶翁」の軌跡をたどりながら、全国各地を巡り、お茶の文化と心を追求してゆきます。
第6話に至るまで、読者はあらゆる日本文化の奥深さを知ることとなるでしょう。

果たしてたんぽぽさんが各地で探していた、裏表紙の説明文に出てきた「あるもの」の行方については如何に……。
一体どんなことが彼女を待ち受けているでしょうか。
後はあなたが読まれてからのお楽しみに。 (^O^)/

著者の標野 凪氏は、浜松市のご出身で、東京、福岡、札幌などに転居されています。
実際に福岡でカフェを開業した後、東京都内で現役のカフェの店主をされています。

2018年、「第1回おいしい文学賞」で最終候補になり、2019年に終電車のちょいごはん 薬院文月のみかづきレシピ』(ポプラ文庫ピュアフル)でデビューされました。(本書より)
近年では、『今宵も喫茶ドードーのキッチンで』(双葉文庫、2022年)が好評で、書店でご覧になられた方も多いでしょう。

最後に。
日本茶を提供する出張カフェで全国各地を訪れている如月たんぽぽさんは、「売茶翁」の軌跡をたどりながら、日本文化の奥深さを知ります。
またタロット占いでお客さまとの交流を得て、自身の生き様を認識し、日本茶とのつながりを深めてゆきます。
合わせて、落語の話題など日本文化を堪能できるように読者を導いてくれます。
彼女の傍らには常に愛猫のつづみがいて、彼女を見守ってくれています。

11月3日は文化の日。
一冊の文庫本に、日本文化の話題がぎゅうっとてんこ盛りとなっています。
老若男女の読者に読んでいただきたい作品です。

それにしても猫のつづみは飼い主を困らせることもなく、たんぽぽさんに寄り添っていますねえ。
たんぽぽさんの気持ちがわかるのかなあ。(^.^)

凛は季節に関係なく、熱めの日本茶が好きです。
標野 凪氏の営んでいらっしゃる東京都内のカフェを訪れてみたいです!
あなたもご一緒にいかがですか。

今夜もあなたにおすすめの一冊でした。(^-^)

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2023年10月2日月曜日

紙の本、好きです! ~杉井 光『世界でいちばん透きとおった物語』(新潮文庫、2023年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
お休み前のひとときに、どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

10月に入りました。
日本では本格的な秋の到来です!
今年の夏は暑さが非常に厳しかったですね。
暑さもそろそろ落ち着いて欲しいこの頃です。
昼と夜の気温の変化がありますので、あなたも体調管理にはくれぐれもご注意くださいませ。

さて、あなたはどのような秋をお過ごしされますか。
凛は、やはり秋の夜長に読書ですね~
凛の読書は一年中、ほとんど変わりないですが……。 (^^;

さて、読書といえば「本」ですが、近年は機器の発達で電子書籍が台頭してきています。
略して「電書」。

最近、紙の本は何かと肩身が狭いようです。
重い、場所を取るので保管に困る、汚れる、破れる、ほこりがたまる、他人が触れたものを間接的に触るのがイヤだ、紙自体の価格が高くなっている、などなど……。(-_-;)

この頃は書店も売れ行きが減って、閉店に追い込まれるところも多くなっています。
書店の閉店の理由は他にもいろいろあると思いますが。 (T_T)

確かに、電子書籍はクリックひとつで瞬時に入手することができて、読みたいときにすぐに読めるので大変便利です。
また、文字の拡大のほか、さまざまな便利な機能を駆使して、利用者にとって快適な読書生活を堪能できますものね。 (^-^)

あなたは紙の本派ですか? 
それとも、電子書籍派でしょうか?
凛はどちらかといえば紙の本が好きです。 (^^)v

紙の本は「家づくり」に似ている、と凛は考えています。
一冊の本を製作し、販売するためには多くの専門家の方々が携わっていらっしゃいます。
著者、翻訳家、担当編集者は元より、表紙や帯、裏表紙の担当者、コピーライター、校正、校閲、カバーなどの装画、装幀、デザイナー、出版社、紙販売業者、印刷会社、取次会社、配送業者、書店。
もちろん電子書籍に携わる専門家も多くいらっしゃるでしょう。

各々のプロの専門家によって作られた本たち。
「さあ、どうぞ。ぜひお読みくださいませ!」
書店であなたが手にする一冊の本は、多くの方々とのご縁の賜物といえるでしょう。\(^o^)/

さて今回ご紹介いたします本は、紙の本のすばらしさ再発見!となる物語です。
杉井光(すぎい ひかる)氏のミステリー小説『世界でいちばん透きとおった物語』(新潮文庫、2023年)です。

この作品は単行本の出版はありません。
文庫本の参考文献後の文章のさらに後、奥付の前になる最後の頁に「本書は新潮文庫のために書下ろしされた。」(239頁)と書かれています。
通常の書下ろし作品とは若干表現が異なりますね。

はじめに、凛がこの本を手にしたのは、自宅から30分ほど歩いた街にある書店です。
ネタばれしないようになのか、本全体を丸ごと透明の袋で覆われていました。
この作品は既にネットやTV番組などで話題になっていたのでご存知の読者も多いでしょう。

凛は書店で実際に現本を眺めて「凛さ~ん、この本面白いですよ~」と本からのメッセージがビビビと伝わったので購入しました。
「面白そう。読んでみよう!」
これは子供のころから変わらない凛の習性ですね~ (^-^)

次に、帯や表紙についてです。
凛が持っている文庫本は、2023年の6月30日の第7刷です。
初版が同年の5月1日発行なので、わずか2か月で第7刷になっています。
この作品の人気度がいかにすごいかがわかりますね!

帯についてです。
凛が持っている第7刷の帯は通常の文庫本の帯とは若干異なる紙質になっています。
帯の表表紙側には「小説紹介クリエイター けんご氏絶賛!」「ネタバレ厳禁!予測不能の衝撃のラスト」。
確かに、ネタバレは絶対にいけません!!

帯の裏表紙側には「絶対に予測不能な衝撃のラスト──あなたの見る世界は『透きとおる』」(同書)
とても読書欲をそそります。

表紙についてです。
ベンチから立っている一人の若い男性が、空を仰ぎ見ながら何か考えているようです。
空は全体的にうすぼんやりとしており、ピンク色の様々な大きさの文字がうっすらと浮かんでいます。
男性が立っているベンチの周りにはたくさんの花が咲いています。

裏表紙の説明文には、目立つ大きな太文字で「衝撃のラストにあなたの見る世界は『透きとおる』。」(同書)と紹介されています。
帯と同じような紹介文ですね。
ラストが衝撃なのか!これは読まなくては!と、大変気になった凛でした。

カバーの装画は、ふすま氏です。
カバーデザインは、川谷 康久(川谷デザイン、かわたに やすひさ)氏です。

それでは、内容に入ります。
主人公の藤阪 燈真(ふじさか とうま)は、本の校正をしている母親と二人暮らしで育ちました。
彼が18歳の時に、突然母親が亡くなったため独り暮らしをすることになり、書店でアルバイトをしながら生計を立てておりました。

燈真は、10歳の時に患った病気で一時的に視力を失っています。
その後、視力は回復していますが、以来、彼は電子書籍派として読書を楽しんでいます。

ある日、大御所のミステリー作家の宮内 彰吾(みやうち しょうご)氏が病気で亡くなり、燈真の父親だと知らされることになりました。
燈真と生前の父親との接点はなかったので、驚くべき事実が次々と彼の目の前に迫ります。
宮内 彰吾の遺稿といわれている「世界でいちばん透きとった物語」を探すことになり、燈真の異母兄である本妻の長男、松方 朋晃(まつかた ともあき)氏や出版社の深町 霧子(ふかまち きりこ)さんたちと行動を共にすることになりますが……。

燈真の性格がとてもシャイで、朋晃の激しい性格に翻弄される姿が何とも痛々しいです。
霧子さんへの思いを素直に表に出せない燈真の心境がとてもよく読者に伝わります。

また、実在のミステリー小説の人気作家のお名前も登場します。
ミステリーファンには嬉しい作品です!

本編の最後で終わらずに、必ず奥付の前まで、素直に頁をめくって読んでくださいね!
最後に本を閉じるとき、なるほど、そうだったのか!とすぐに納得できます!
読後のあなたは、杉井 光という作家のことをもっと知りたくなるでしょう。

ミステリー作品なので、あとはあなたが読まれてからのお楽しみに。

著者の杉井 光氏は、2006年、デビュー作の電撃文庫『火目の巫女』全3巻(メディアワークス、2006年)で、第12回電撃小説大賞の銀賞を受賞☆彡されています。
シリーズものの電撃文庫『神様のメモ帳』全9巻(メディアワークス、アスキー・メディアワークス・KADOKAWA、2007年~2014年)などの他、多数の作品が出版されています。
今後、大いにご活躍が期待される作家のお一人です。

最後に。
優しかった母親が突然亡くなり、独り暮らしを始めた藤阪 燈真に対して、突如として父親の存在を突き付けられることになった現実とは、「世界でいちばん透きとった物語」という父親の遺構作品探しです。
その過程で出会うさまざまな人たちを通して、彼は亡き両親についての理解を深め、自己の内面を再認識してゆきます。
彼の成長物語である、と凛は考えます。

合わせて、杉井 光氏の今後のご活躍に期待します。(^^)v

あらためて紙の本の特徴が伝わる作品です。
出版と販売に携わるたくさんのプロの方々にエールを送りたいですね!\(^o^)/

今回はミステリー作品のため、詳しい内容は敢えて避けました。
ご了承くださいませ。 m(__)m 
秋の夜長に、あなたも良質のミステリー作品をいかがでしょう。

今夜もあなたにおすすめの一冊でした。(^-^)

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2023年8月30日水曜日

文房具のことが大好きになれる老舗の専門店です! ~上田健次『銀座「四宝堂」文房具店』(小学館文庫、2022年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
お休み前のひとときに、どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

日本ではまだ残暑厳しいですが、夕暮れの時間が早くなってきました。
今年の夏は全国的に灼熱列島のようでしたね。
夏バテが出やすい時期です。
あなたはいかがお過ごしですか。

子供たちの夏休みも終わって、既に二学期が始まっている小中学校がほとんどでしょう。
新学期を迎えるにあたって文房具店で学用品を購入する親子連れも多かったかと思います。

あなたは文房具並びに文房具の専門店がお好きですか。
凛は好きですねえ。 (^-^)

学習向けの文房具、シンプルな事務用品、大人向けの高級筆記具、大人の人生を満喫できそうな本革製品。
プレゼント用の可愛いキャラクター商品も多々あります。
文房具店には日常的に用いるグッズや雑貨類、珍しい商品まで多方面にわたって展示されていますね~

書籍と文房具コーナーが併設されている書店も多いので、本が好きな方は文房具も好きという方も多いでしょう。
凛にとっては書籍と同様に、文具を扱っている店内を見てまわる時間は格別です。
特に、文房具の専門店では取り扱っている専門メーカーの品揃えが豊富です。

季節を感じる便箋やカードを見つけたり、新しいデザインののし袋などを見ると、凛は大切な人のことを思います。
デジタル全盛の時代ですが、目的によって工夫されているノートや新しい筆記具を見ると、手書きもいいなと思いますね。
本にかぶせるブックカバーなどを見るとワクワクします。
凛はこのような時間を何よりも愛おしく思います。 (^O^)

さて、今回ご紹介いたします小説は、文房具専門店を訪れるお客様お一人お一人の事情や用途に応じて、専門メーカーの文房具を店主が丁寧に説明しながら紹介してくれるという物語です。
上田健次(うえだ けんじ)氏の長編小説『銀座「四宝堂」文房具店』(小学館文庫、2022年)です。
この作品は小学館文庫の書下ろしです。

はじめに、凛がこの本を知ったのは、前回(ココ)ご紹介いたしました岩井圭也(いわい けいや)氏のサイン本を購入した時に、同時に書店で見つけました。
凛が上田健次氏の小説を読むのは初めてです。

広い店内の大型書店には数えきれないほどの書籍が展示されていますが、その中で、今すぐ買って読みたいな~と思う本にどれだけ出合えるかは未知数です。
書店で一冊の本を手に取ることの確率はいかばかりか。
一瞬の邂逅が次の読書につながることも多いですね。

次に、帯や表紙についてです。
凛が購入した文庫本は、2023年5月30日付の第六刷です。
文庫本書下ろしで、初版が前年2022年10月11日ですので、わずか7か月で第六刷になるとは相当人気が高い作品であることがわかりますよね~

気になる帯です。
凛の持っている文庫本の第六刷の帯の表表紙側には、「いつまでも涙がとまらない」と書いてあります。
同じ面には「文房具に秘められた大切な人との思い出に」とも書き添えてあります。

帯の裏表紙側には、「早くも反響の声ぞくぞく!」ということで、三人の読者の方々の声が紹介されています。
長くなりますので、ここでは太字の部分だけご紹介しますね。
「文房具が好きな人にぜひ読んで欲しい」
「文房具ならではの良さ」
「誰かが大切に使うことで、かけがえのない宝物」(以上、同書)

文庫本の表表紙ですが、歴史がありそうな建物に「四宝堂」と書かれた文房具店があり、そのお店の前の道に一人のセーラー服を着た女子学生が立っています。
女子学生の右手にはメモを持っています。
彼女はこれから店内に入ろうとしているように見えます。
歴史がありそうな建物というのは、お店の入り口に四段の階段があり、建物全体にどっしりとした風格がある感じがするからです。

カバーデザインは、寺田鷹樹(てらだ たかき)氏です。
カバーイラストは、KOPAKU(こぱく)氏です。

裏表紙の説明文から、東京の銀座の路地から入ったところに佇んでいる四宝堂(しほうどう)という文房具店は天保五年の創業で、建物の地下には古い活版印刷機もあるという老舗の文房具店であることがわかります。
さぞかし頑固な店主がいるのかと思いきや、さにあらず。
四宝堂の店主は、宝田硯(たからだ けん)という若い青年で、店を一人で切り盛りしていて、少しミステリアスなところがありそうだということです。

「困りごとを抱えた人々の心が、思い出の文房具と店主の言葉でじんわり解きほぐされていく。」
「心あたたまる物語」(以上、同書)
これだけでも十分に期待できそうですね。

それでは、内容に入って、銀座の四宝堂に入店いたしましょう!\(^o^)/
表紙を見ますと、五つのCONTENTSがあります。
「万年筆」
「システム手帳」
「大学ノート」
「絵葉書」
「メモパッド」

これらはほとんどの文房具の専門店で販売していますよね~
それぞれに専門メーカーが何社もあって、拘りのある商品が店内に綺麗に並べられている光景が想像できます。
一番最初の章の「万年筆」を見てみましょう。

大学を卒業して、某企業に4月1日に就職したばかりの青年が新入社員の研修を終えて銀座を歩いています。
彼は一定期間の研修中に、初任給の使い道について、会社の先輩社員から聞いた言葉があります。
「できたら、お世話になった人に何か贈り物をすると、とっても喜んでもらえるよ。私のお勧め」(同書、6頁)と。

そこで彼は、お世話になった女性に贈り物をしようと考えます。
大切な物を添えて。

彼は地方出身で東京のことはあまり知りません。
「やっぱり東京と言えば銀座だろうか。」(同書、7頁)
ネットでいくらでも検索できる時代にありながら、彼は親切に紹介してくれた方からの手書きの地図を見ながら、漸く四宝堂にたどり着きます。

店内に入ると、お香の香りがして、優しく包んでくれるように彼は感じました。
「いらっしゃいませ」という男性の声がしました。
青年は「こんなにも気持ちの良い『いらっしゃいませ』を初めて聞いた。」(同書、9頁)と感心しました。

お客様を迎える時の「いらっしゃいませ」が非常に大切であることが書かれています。
凛も接客業をしている知人から聞いたことがありますが、「いらっしゃいませ」の声掛けは大変に難しいものだそうです。
あまりにも甲高い声は鬱陶しく感じることもありますし、不愛想な声ではもっと嫌な思いをします。
逆に声掛けがないと、このお店に入るんじゃなかったなあ、と思ってしまいます。 (-_-)

店内で四宝堂の宝田店長から便箋と封筒の説明を受けるのですが、ひとつひとつ丁寧に説明をしていただきます。
宝田店長は言葉遣いだけでなく、商品の説明が実に丁寧です。
紙の種類、和洋各種類、罫線、色、縦書き、横書き……。
さすがに専門店で、便箋とお揃いの封筒が二百種類くらいあるとは驚きです!

話はモンブランの万年筆に及びます。
宝田店長による「モンブランのマイスターシュテュック クラシック」「ル・グラン146」(同書、22頁)という商品説明を読んで、凛はネットで検索してみました。
一社の万年筆でも実に多くの商品があるものだなと感心しました。

専用のインクも「ミステリーブラック」「ミッドナイトブルー」「ロイヤルブルー」(同書、25頁)の他にもたくさんあるんですね!
メーカーの歴史から種類、使い方まで実に勉強になりました。

宝田店長が案内する四宝堂の二階の奥には机と椅子があります。
店長は来店した青年にあることを勧めます……。
こんな文房具店があったらいいなあ。\(^o^)/

青年の子供時代から大人になるまでの挿話が綴られており、読者の心に響いてやみません。
心温まる話が実に自然体で描かれています。
文章が全く技巧的ではないのです。
この後はあなたが読まれてからのお楽しみにとっておきましょう。 (^O^)

この後の物語もそれぞれに違った楽しみ方ができます。
銀座の老舗文房具店ではありますが、決して高級品の話題ばかりとは限りません。

例えば、三番目の「大学ノート」の章では、表紙の絵と思われる女子学生が登場します。
彼女は、部活で用いている大学ノートについて悩みを抱えて四宝堂を訪れました。
そして彼女は店内の大学ノートの種類の多さに驚きました。

「コクヨのキャンパスシリーズ」で「B5サイズのB罫はもちろん、罫線だけでもA、B、C、U、ULと五種類もある。その他にも方眼や縦罫、無地、それにドット入りなど。」(同書、158頁)
「こんなに種類があるんだ……」(同書、158頁)
この章の女子学生だけでなく、凛も読後に文房具の専門店に足を運びましたよ~

ところで、四宝堂の店主こと宝田硯の個人的な事柄については、ミステリアスに抑えています。
店長の時は言葉遣いが非常に丁寧で、嫌みも全くありません。

宝田店長と幼馴染の銀座の喫茶店『ほゝづゑ』の良子(りょうこ)さんとは大の仲良しで、ごく一般的な話し方をしています。
読者はこの二人の行方が気になることでしょう。 (^O^)

著者の上田健次氏は、2019年に第1回日本おいしい小説大賞に小説「テッパン」を投稿されています。
「テッパン」は2021年3月に小学館文庫から出版されました。

上田氏は、専業作家ではなく、某大手の衛生用品の会社の執行役員をされています。
現役バリバリのビジネスマンなのです! (^^)v
銀座四宝堂を訪れる登場人物たちの個人的な物語が秀逸なのは、上田氏個人のお人柄とお仕事の影響も大きいのでは、と凛は考えました。

最後に。
東京・銀座の老舗文房具店「四宝堂」を訪れるお客様の人生模様に丁寧に対応する宝田硯店長との触れ合いに心癒される物語です。
文房具に対する愛情が全編にわたって溢れています。
人生の様々な時点における文房具との関わりが如何に大切かが読者にジーンと伝わります。

また、文房具のメーカーについても詳細な情報や背景がよく吟味されています。
このような文房具の専門店があったらいいなあと思いますね~

読後には、文房具と文房具の専門店を愛してやまない方はもちろんのこと、これからご興味を持たれる方が増えること間違いありません!(^O^)

良いお知らせがあります!
何とこの小説の続編が出版されることがわかりました。\(^o^)/
『銀座「四宝堂」文房具店(2)』が小学館文庫から、2023年9月6日に出版予定です。
続編ではどのような文房具が紹介されているのか楽しみです!
そして宝田店長と良子さんとの今後がどうなっていくのかが気になります。

今夜もあなたにおすすめの一冊でした。(^-^)

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