2022年10月29日土曜日

表情を読み取りながら楽しめるミステリー ~平野啓一郎『ある男』(文藝春秋、2018年、のち文春文庫、2021年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

こんばんは。(^-^)
あなたはお変わりありませんか。
凛はまたもや所用のために、大変ご無沙汰いたしております。m(_ _)m

前回の2作品ご紹介いたしました季節の盛夏はとっくに過ぎ去り、秋も深まっていく今日この頃です。
四季のある日本では三か月毎に季節が変わります。
半袖から長袖へ、朝晩は軽めのコートも必需品となりました。
本当に月日の経つのは早いものですねえ。

秋の夜長にミステリー小説を楽しまれていらっしゃるあなたへおすすめの小説があります。
芥川賞受賞・純文学作家が描くミステリー小説はいかがでしょう。
謎解きはもちろんのことですが、人物像が深く描かれており、登場人物の心理状態を知りたくなる世界に浸ってみませんか。

読者を先へ先へと導いてくれる小説をご紹介いたしましょう。
平野啓一郎(ひらの けいいちろう)氏の長編小説『ある男』(文藝春秋、2018年、のち文春文庫、2021年)です。

凛が持っている文庫本は、2021年10月15日付で第2刷です。
文庫本の第1刷が2021年9月10日付ですので、平野氏が如何に人気作家であることが良くわかりますね。

まずは、文庫本の帯の紹介です。
凛が持っている第2刷の文庫本の帯には、「読売文学賞受賞の感動作 映画化決定!(2022年公開)」と紹介されています。
「愛したはずの夫は全くの別人だった──」
書店でこの文庫本を手にして、ふむふむ、妻にとって夫の正体は一体何者だったのだろう?という素朴な疑問がわくように誘導されますよね!

帯には映画の出演者である安藤サクラさん、妻夫木聡さん、窪田正孝さんの写真が掲載されています。
凛が好きな俳優さんばかりなので映画も楽しみたいなと思いました。

帯の裏には「愛にとって過去とは何か?人間存在の根源と、この世界の真実に触れる文学作品。」
なるほど、純文学の平野啓一郎氏が描くミステリー小説なのだな、という期待感が出ます。

裏表紙の説明文からは、再婚して幸せな家庭を築いていた折、夫がある日突然事故で亡くなるのですが、夫が「全くの別人だったという衝撃の事実が……。」と興味をそそる文言が。
果たして夫は誰だったのか?
残された妻の葛藤が容易に想像できます。

文庫本の表紙は、積み木のように重ねて並べた男性のような人物が腰から折り曲げて佇み、頭を抱えて悩んでいるように思えます。
まるでモザイクのように見えます。
カバー彫刻は、アントニー・ゴームリー氏です。
デザインは、大久保明子(おおくぼ あきこ)氏です。

小説の内容に入る前に、予めひと言述べさせていただきます。
正直に告白いたしますが、凛は平野啓一郎氏の小説が長い間苦手でした。
平野氏が大学在学中の芥川賞受賞作品☆彡☆彡である小説『日触』(新潮社、1998年、のち新潮文庫、20002年)を読了して以来ですから、きっと食わず嫌いだったのかもしれません。
最後まで読まずに途中であきらめたこともしばしばありました。
凛にはなかなか平野氏作品の世界に入れなかったのです。

その理由はわかりませんが、凛とは合わなかったということでしょうか。
悲しいかな、凛の読書能力が平野氏の世界に到達できていなかったのでしょうね。

今回の作品の前の長編小説『マチネの終わりに』(毎日新聞出版、2016年、のち文春文庫、2019年)は最後まで読みましたが、恋愛小説にも関わらずあまり感動もなく、映画も観ておりません。
やはり合わないのかなあ、と……。(-_-;)

ところが、今回の『ある男』は表紙のデザインから入って、何だかとても面白そう、とビビビときたのです!
「凛さ~ん、読んでくださ~い。この作品は必ず楽しませてくれますからね!」と近所の書店の棚に並べられている文庫本が凛を呼んでいるのがわかりました。(^_^)v
凛は文庫本から届いた声を聴き、即座にレジに向かいました。

次に、作品の内容に入ります。
凛は映画出演の俳優さんたちを思い浮かべながら読みました。
苦手と思っていた作家の場合、顔の設定が明確になって読みやすいのではないか、と思ったからなのです。

「序」で、物語の主人公は「城戸さん」であると、「私」が語っています。
城戸(きど)という弁護士が出てきて、「私」との接点を語りますが、そこから怪しさもありますね。
この「序」の項は読了後、また戻って読み返す読者も多いかと思います。
凛は何度も読み返しました。

宮崎県のS市に在する老舗の文房具屋を営む実家に、離婚して一人息子の悠人(ゆうと)を連れて出戻りしてきた里枝(りえ)は、移住して林業に従事した谷口大祐(たにぐち だいすけ)と再婚しました。
里枝は横浜の大学に進学、就職し、建築家の卵と結婚していましたが、次男の遼(りょう)を病気で亡くしたことで夫と意見が合わずに離婚していましたので再婚になります。

里枝の実家の父親が急逝したこともあり、彼女は宮崎県の実家に戻ってくることを決意しました。
再婚した谷口大祐との間には花(はな)という女の子も生まれています。
里枝は実家の母親と同居し、文房具店を切り盛りしながら一家五人で暮らしていました。

谷口大祐の出自は群馬県の伊香保温泉にある旅館の次男坊ということでした。
彼は兄と折り合いが合わず、実家を出ました。
里枝と結婚した大祐は、真面目に働き、林業の社長さんにも気に入られていましたが、山で事故に遭い、突然亡くなってしまいました。

連絡を受けた大祐の兄の谷口恭一(たにぐち きょういち)が里枝の家を訪れてみると、弟であったはずの大祐の遺影が違うことに気がつきます。
では、亡くなった夫は誰なのでしょうか?
里枝と暮らしていた夫は「"X"」となっていました……。(文庫本、87頁以降)

横浜市在住の弁護士・城戸章良(きど あきら)は里枝の離婚調停の代理人を受けていた関係で、相談を受けたのでした。
そこから城戸の活躍が始まります。
城戸自身も出自と家庭内の問題を抱えながら、多忙な中、各地を飛び回って調べてゆきますが……。

予想だにしなかった事実が次々と明らかになっていく中で、里枝にも城戸にも疲労が溜まってゆきます。
さらに里枝の息子の悠人も育ちざかりな故、問題が出てきます。
過去と現在が複雑に絡まり、進んでは立ち止まり、また進んでゆきます。
凛も読みながら、先がとても気になり、頁をめくる動きが早くなりました。(^○^)

「序」では城戸が主人公として扱っていますが、凛は、城戸だけでなく里枝や大祐もこの物語の主人公であると思いました。
三人の登場人物の顔を、里枝役は安藤サクラさん、谷口大祐役は窪田正孝さん、城戸役は妻夫木聡さんという俳優さんたちに想定して読むと、表情など具体性があって内容が理解しやすかったです。
映画の俳優さんたちはどのような演技をするのかな、と映像を予想しながら読むという楽しみもありました。

例えば、文庫本97頁で、里枝は名無しの夫"X"となった遺影の目を見つめていますが、そのときの里枝の表情はどんなものであったでしょうか。
演じていらっしゃる安藤サクラさんの表情を想像すると、原作と映画との二重の楽しみが増えますね~ (^o^)

後はあなたが読まれてのお楽しみに。

作者の平野啓一郎氏は、前出しました小説『日触』を初めとして多くの作品を世に出されています。
お若い頃から作家として大活躍されていらっしゃいます!

今回の小説『ある男』は、2018年第70回読売文学賞☆彡を受賞されています。\(^o^)/
前年の2017年、小説『マチネの終わりに』で第2回渡辺淳一文学賞☆彡を受賞されています。

平野氏は「分人(ぶんじん)主義という独自の考え方をもたれており、上記の二作品もその中で存在を示されています。
これら二作品の先には小説『本心』(文藝春秋、2021年)があります。
一人の人間に備えもった様々な多面性を平野氏の視点で追求されていらっしゃるのでしょう。

凛は昨年、講演会で平野氏を直に拝見いたしました。
とても穏やかな表情でしたが、明確にご自分の意見をわかりやすく伝えていらっしゃいました。
今年47歳になられた平野啓一郎という大人の作家の作品を、過去の作品と共に読んでみようと思っています。
新たな発見を見出すのもまた読書の楽しみの一つですね。(^-^)

小説と同名作品の映画は、石川慶(いしかわ けい)監督、脚本は向井康介(むかい こうすけ)氏です。
11月18日(金)全国ロードショウです。
映画の公式サイトは、こちらです。
公開がとても楽しみですね~!
最近書店に並べられている文庫本の帯も映画の紹介のデザインに変わっていました。

今夜も凛からあなたへおすすめの一冊でした。(^-^)

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2022年7月2日土曜日

「老後のマネー小説」2作品を読んでみた(その2) ~松村美香『老後マネー戦略家族!』(中公文庫、2017年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

前回の(その1)(ブログはこちらからの続きです。

凛は、「老後のマネー小説」2作品を読みました。
前回の(その1)からの説明が重複しますが、読んだ小説は以下の2作品です。
1作品目は、垣谷美雨(かきや みう)氏の小説『老後の資金がありません』(中央公論新社、2015年、のち中公文庫、2018年)です。
2作品目は、松村美香(まつむら みか)氏の小説『老後マネー戦略家族!』(中公文庫、2017年)です。

(その2)では、2作品目の松村美香氏の小説『老後マネー戦略家族!』(中公文庫、2017年)をご紹介いたします。

凛はネット書店で購入しました。
タイトルの「家族」には「ファミリー」とルビがふってあります。
文庫本書き下ろしで、凛が持っている初版の文庫本には帯はついていません。

裏表紙の説明文からは、「崖っぷち」山田(やまだ)家の「財テクワールド」3,000万円!の奮闘劇が描かれているということがわかります。
なるほど、不安ばかりに覆われてはいけませんよね。
資産運用の話なのかなと期待できそうです。(^_^)v

文庫本の表紙は、全体が黄色の中、山田家の4人家族が机に横に並んで座っており、各人が腕を組んだり、ノートPCとにらめっこしたりなどして、金策を練っている様子がうかがえます。
机上には、ブタの貯金箱や電卓、筆記用具などいろいろな物がたくさん置かれてあります。
この四人の頭上をお札や硬貨がたくさん舞っています。

表紙のカバーイラストは、北極まぐ(ほっきょく まぐ)氏です。
カバーデザインは、bookwallです。

山田家のご主人は、メーカー勤務の技術畑で実直な50代の会社員です。
ご主人は会社の同僚の早期退職を知り、これまでの自身の生き方について考えさせられることになります。
何故ならば、計画的な資産運用で退職後の生活の目途をつけていた同僚の表情が実にさばさばしていて明るかったからです。

山田家の奥さんは45歳の専業主婦です。
長女は大学生で自宅から通学しています。
銀行員の長男が社会人となって家族も安心していた矢先、唐突に退職して実家にこもってしまったことから、山田家の人たちに様々な目覚めが生まれます。

さらに、ご主人は意図しない方向で転勤を命じられます。
ご主人はベトナムへ出張した折り、現地に派遣されていた先輩や後輩との出会いから、入社以来頑なだった会社や仕事に対する価値観に変化が生じてきます。

長男と図書館で出会った少年とその妹、そして少年らの母親との出会いが山田家には新たな発見が生まれます。
奥さんがパートで働き始めたコンビニでの青年スタッフとの出会いなど、様々な人々との交流から、凝り固まっていた価値観と心理状態がほぐれていく過程がわかります。

また、ご主人の実家の問題が生じますが、親族との軋轢はどこのご家庭にもありそうな会話が飛びかいます。
都内で美容室を多角経営しているご主人の姉の存在が光ります。

松村氏がこの小説で読者に伝えたい事柄は、作品の前半に集中して太字で描かれていることが特徴です。
全編において数字が具体的に出てくるので、投資への期待感があります。
「前へ、前へ」と背中を押される感じがあります。(^o^)
つまり、データが古いため、円安が進んでいる現在に適用できるかどうか決して定かではないということです。
やはり財テクを行なうには、個人の学びと責任が必要だと考えます。

この山田家の現在はどうなっているのでしょうか。
経済に詳しい読者には、逆に2017年当時の山田家の財テクが正しかったかどうか、検証できるという読み方もあるでしょう。

作者の松村美香氏は、国際開発コンサルタントとして、ビジネスの最前線で実践に研鑽を積まれていらっしゃる方です。
2008年に、小説『ロロ・ジョングランの歌声』(ダイヤモンド社、2009年)第1回城山三郎経済小説大賞を受賞☆彡されています。
この作品は改題して『利権聖域─ロロ・ジョングランの歌声』で2012年、角川文庫から出版されています。

大変な状況である中、目標を設定して、前向きに捉えて進む家族の姿に逞しさを覚えます。
様々な人々との出会いも「ご縁」ということで良い方向に進む山田家の各人の明るさには共感を覚える読者が大勢いらっしゃることでしょう。

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以上、(その1)と(その2)の2作品をご紹介いたしました。

最後に、(その1)と(その2)について、まとめます。
社会人となり、結婚して子供2人をもうけ、車と住宅を取得し、住宅ローンを払い続けながら定年まで勤めあげるという「中流意識」は、どこかの段階で崩壊するかもしれないということですね。
もしかしたら最初から「中流意識」など幻想に過ぎなかったのかもしれません。

まして、老親の問題が突然生じ、それに伴って親族との確執も乗り越えてゆかなければなりません。
成長した子供たちは不安定な時代を生きています。
加えて、家族の健康の問題もあります。
雇用の安定さえままならない現代群像劇の展開により、決して他人事ではない状況で両作品とも読者に迫ってきます。

「風の時代」の訪れとともに、これまで抱いてきた「安定」「中流」という価値観について、読者に問うている小説であると凛は考えます。
果たしてお金だけに価値を置いてよいものでしょうか。
しかしながら「老後のマネー」は現実の問題として老いとセットで確実に迫ってきます。
現代の日本人には決して避けては通れない道でしょう。

あなたはどのように受け入れていかれますか。

凛は、やはり宝くじは買い続けていこうと思いました! ( ;∀;)
宝くじの制度がなくなったら、あら、どうしましょう。

今夜も凛からあなたへおすすめの小説、2作品でした。
今回はいつもの2倍、ちょっと長かったでしょうか~
次回もまたよろしくお願いいたしますね。 (^-^)

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「老後のマネー小説」2作品を読んでみた(その1) ~垣谷美雨『老後の資金がありません』(中央公論新社、2015年、のち中公文庫、2018年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

お元気でいらっしゃいますか。
はて、梅雨はあったのかしら、と思ってしまうくらいにあっという間に6月が過ぎ去り、日本はすっかり真夏となりました。
アイスが食べた~い!
アイスコーヒーが飲みた~い!
あまり冷たいものばかりをいただくと体が冷えてしまいますね……。(^-^;

メディアを通して電力逼迫による節電を毎日呼び掛けられて、余計に暑さを感じてしまうのは凛だけでしょうか。
家電量販店ではエアコンの品不足だとか。
熱中症の対策も然り、部屋の換気不足によるコロナ対策も然り、運動不足による体力問題と、次々に不安材料が増している現状ですねえ。

おまけに円安も加わって、食料品や日用品の値上げが次々と発表されています。
買物に行って、少しずつの値上がりを感じますねえ。
いずれも生活必需品ですので、日々の積み重ねによって、やがては生活に支障を来すことに!
なんてことにもなりかねない漠然とした不安感で覆われる昨今……。(-_-;)

かつて老後2,000万円問題も報じられましたね。
凛にはまだまだ先の話かとも思っておりましたが、「光陰矢の如し」と時の経つのは早いですから、必ず凛にも老後が訪れるのは明らかですものね。
それ故に、文学作品を通して「老後のマネー」について考えてみようと、「老後のマネー小説」2作品を読んでみました。

1作品目は、垣谷美雨(かきや みう)氏の小説『老後の資金がありません』(中央公論新社、2015年、のち中公文庫、2018年)です。
2作品目は、松村美香(まつむら みか)氏の小説『老後マネー戦略家族!』(中公文庫、2017年)です。
後者は文庫本書き下ろしで、タイトルの「家族」には「ファミリー」とルビがふってあります。

凛が何故「老後のマネー」という同じテーマを扱った2作品を連続して読んだのかと申しますと、両作品には共通点が多く、一見似たような家族の設定ですが、書き手によってどのような「老後のマネー」問題を迎えて対策をとるのかについて興味をもったからです。
世間では両作品と似た構造のご家族が多くいらっしゃると思いますが、中に入ってみるとそれぞれに事情があるかもしれません。
世間様に容易には話せない現状を赤裸々に描いているという点で、読者が「我が家もそうです!」「どこも同じようなものですな」と共感を呼ぶ作品といえるでしょう。

2作品の家族設定は、4人家族で夫は50代の会社員、60歳の定年まであと数年というところが共通しています。
妻はパート勤務と、専業主婦です。
両家とも長男と長女がいて、社会人と大学生。
両家とも都会に持ち家があり、戸建てとマンションの違いはありますが、住宅ローンの返済ももうすぐ終わるという設定です。
一見老後はまずまず安泰とも思える設定なのですが、物語はここからジェットコースターのように激しく乱高下していくのです。
さて、両家にはどのような展開が待っているでしょうか。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

まずは1作品目です。
垣谷美雨(かきや みう)氏の小説『老後の資金がありません』(中央公論新社、2015年、のち中公文庫、2018年)です。
垣谷氏については、「断捨離」編で(ブログはこちら)でご紹介しておりますので、割愛させていただきますね。

凛が持っている本は文庫本の初版です。
街の書店の新刊コーナーで発見して購入しました。

凛の初版本の黄色い帯の表表紙側には、「お金がない!」と太くて大きな文字で目立つように描かれています。
「頑張る家計応援小説」ということで、単行本化された2015年当時では珍しいテーマだったのかもしれませんね。
また、この文庫本の解説文を書いている室井佑月(むろい ゆづき)氏が帯で「熱く推薦!」されています。

文庫本の表表紙の絵には、一家の奥さんが中心にいて悩みを抱えている様子がうかがえます。
奥さんの周りに背広姿のご主人、伴侶と仲良く並んだ娘の結婚式と立派なウェディングケーキ、舅の遺影と香典、そして椅子にデンと座ってお茶を飲んでいる姑が描かれていて、何枚ものお札がひらひらと空中を舞っているのがわかります。

文庫本のカバーイラストは、高寄尚子(たかより なおこ)氏です。
カバーデザインは、田中久子(たなか ひさこ)氏です。

あらすじとしては、後藤(ごとう)家は都心部のマンション暮らしで、当初1,200万円の貯蓄がありました。
ご主人の定年まで残り数年ですし、ご主人の退職金も出る予定ということで、「安泰な老後」がご夫婦には予測されていました。

しかし、さにあらず!
ここからが一家には人生の急展開となるのです!!(@_@)

安定しているものと信じていたご主人と奥さんの仕事がなくなります。
暫くの期間に失業保険があるとはいえ、それが切れた後は無収入となるのです。
長女の豪華な結婚式、舅の葬儀と墓の建立で多額の出費が重なり、貯蓄は減り続けるばかりです。
大学生の長男の学費もあります。

姑は浅草の家を処分して得た2億円の資金で高級な老人施設に舅と入居して贅沢な暮らしを続けていましたが、舅の死により施設を退去して、後藤家の四人が暮らすマンションに同居することになりました。
ご主人の妹夫婦との軋轢もあり、てんやわんやの忙しい日々を送ります。
さあ急に家計が逼迫した後藤家はどうなりますか……。

物語の後半からの展開が「え?まさか!そちらの方向にいっちゃうの?」と読者の予想を見事に裏切るかもしれません。
姑の行動や長女の婚姻後の暮らしに対して、奥さんと長年交際している友人や、明朗快活な長男の存在が光を放つことになりますか。

文庫本の解説は、作家の室井佑月氏です。
解説のタイトルは「こういう本が読みたかった」です。
室井氏が再婚される前の解説文でしょうか。

垣谷氏の作品のタイトルやテーマにはセンセーショナルな題材が多く、いつもドキッとさせられます。
この作品も一般的な主婦目線で描かれており、後藤家の奥さんを等身大と感じる女性の読者も多いのではありますまいか。

作品は「老後のマネー」がテーマですから、当然「お金」は家族を構成するための要となります。
後藤家の奥さんはいつも「お金がない」ことを意識して暮らしています。
凛が後藤家の奥さんだとしたら、どのような対策をとるかしら……。 ((+_+))

しかし、視点を変えてみると、「お金」だけでは得られない新しい価値観が生まれてくるのではないかなとも考えたりしました。
この作品を10年後に再読してみると、また違った感覚になるのではないかと、新しい時代の到来という期待感ももちました。
ひゃあ、実際はもっと大変だったりして……。(@_@。

この作品は、2021年に同名のタイトルで映画化されていますね。
前田哲(まえだ てつ)監督、天海祐希(あまみ ゆき)さんの主演です。
凛はまだ観てませんが、あなたはご覧になられましたか。

(その2)へつづく。

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2022年5月30日月曜日

この地球に生まれて何を思う ~三島由紀夫『美しい星』(新潮社、1962年、のち新潮文庫、1967年、42刷改訂版、2003年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださりまして、ありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

お久しぶりです。
日本は春から初夏の爽やかな季節を経て、これから梅雨、やがて猛暑が予想できる夏を迎えようとしています。
あなたはお元気でお過ごしでしょうか。
凛は充電期間……、おっと前回から結構長~く充電しておりますねえ。(^-^;

この間、地球はまさに揺れ動いている状況です。
戦争、流行病、政治、経済不安、株価、半導体、労働、飢餓、貧困、格差、気候変動、地震、大規模火災、火山噴火、海底火山噴火、食糧不足、水問題、洪水、脱炭素、民族問題、宗教、メディア、多様性……。
多くの人々を不安にし、暮らしの営みを窮地に陥れる項目を挙げればきりがありません。

混沌としているこの地球に生まれて、あなたは何を思われますか。
凛はこの先も健康で日々を平穏無事に暮らしてゆきたいと願っています。
恐らくはほとんどの人々が凛と同じ思いを抱いているのではないでしょうか。

凛はよく空を見上げます。
特に夜空の星々を眺めるのが好きです。
星の光の具合の変化を楽しみながら……。(^_-)-☆

あの星の向こうには何があるのだろう。
天体に浮かび上がる星々から地球はどのように見えているのだろう。
宇宙人はいるのかな。

凛はSF的なアニメや物語が好きです。
『スター・ウォーズ』などのSF映画も楽しんでますね~

さて、今回の本は、三島由紀夫(みしま ゆきお)著の小説『美しい星』(新潮社、1962年、のち新潮文庫、1967年、42刷改訂版、2003年)です。
初出は雑誌『新潮』の1962年1月号~11月号に掲載され、同年に新潮社から単行本で出版されました。
その後、文庫化されて、改訂版の後も増刷されています。

凛が持っている文庫本は、この春に整理した凛の書棚からタイトルに惹かれて手にしました。
「美しい星」とは地球のことなのかな。
今、読みたい!
「凛さ~ん、どうぞ読んでくださ~い!」
「は~い!わかりました!あなたの出番ですよ~」
本からおすすめの声が聞こえてきましたよ~ (^_^)v

凛が持っている文庫本は、2013年(平成25年)53刷です。
街の中心部にある全国大手書店の一角で時折催される古書祭りで入手したものです。

表表紙には、男性2名と女性2名の上半身の絵が描かれており、彼らの上空には3機の円盤らしき謎の物体が飛行しています。
装画は、牧野伊三夫(まきの いさお)氏です。

帯の表表紙側には、「没後45年── 新しい三島を体験する。」
「(省略)に怯える日本をミシマは予見していた!」(文庫版53刷)

帯の裏表紙側には長い文章が書かれています。
「今や人類は自ら築き上げた高度の文明との対決を迫られており、(省略)二つに一つの決断を迫られている」(同上)

裏表紙の紹介文には、「宇宙人であるという意識に目覚めた一家を中心に、(省略)人類の滅亡をめぐる現代的な不安を」描き、「大きな反響を呼んだ作品。」と書かれています。(同上)

何やら難しそう……。
今から9年前の文庫本ですので、現在の表紙は装丁が若干変わっていますが、絵は同じですね。
帯も変わっているかもしれません。
以上に掲げた(省略)の部分がとても重要になっていると凛は考えています。
これらの重要な部分は、あなたが作品を読まれてから、改めてお考えいただくことをおすすめいたします。

では、内容に入ります。
埼玉県飯能市在住の大杉家の家族四人は各人別々の星から来た宇宙人だと信じています。
父の大杉重一郎は火星、母の伊余子(いよこ)は木星、長男の一雄は水星、長女の暁子(あきこ)は金星から、この地球に飛来してきたと家族間で信じています。

自分たち家族四人は地球の人間ではなく、地球の滅亡の危機から救うために動き始めます。
周囲からは変人扱いされている一家ですが、父の重一郎は世間からの評判など一切気にせず、自分の主義を曲げません。
彼は「宇宙友朋会」(うちゅうゆうほうかい)(同上、126頁他)を立ち上げて世界平和のために活動します。

長女の暁子は美しい娘で、彼女と同じ金星人という竹宮青年と文通で知り合い、金沢まで会いに行きます。
後に妊娠がわかり、彼女は処女懐胎であると主張します。

大学生の長男の一雄は、衆議院議員・黒木の私設秘書になります。
一雄は、黒木との関係から、仙台市の羽黒助教授、銀行員の栗田、理髪師の曽根という三人が上京した際に、彼らの東京案内をします。

羽黒ら三人は、一雄の父の重一郎を敵視しており、そこからの展開が圧巻です!
政治、経済、社会、文化、宗教……。
三人と重一郎との激しい応酬を、三島は作品の後半で多くの頁を割いています。
欲望にうごめく人間の醜さを抉り出しています。

以上、あらすじとして説明するには不透明すぎてわかりにくいかもしれませんね。

作品の内容が硬くて、当時の政治や世界情勢が絡み、難解な部分もありますが、結構ユーモラスな箇所も多々あります。
例えば、第二章で、長男の一雄が女性とデートしているところに妹の暁子が表れて女性に嫉妬している場面はとても愉快で笑えます。

人間の普遍的であろうと思われる点もたくさんあります。
例えば、同じ第二章で、「地球人の病的傾向」(同上、60頁)として、「民衆というものは、どこの国でも、まことに健全で、適度に新しがりで適度に古めかしく吝嗇(けち)で情(じょう)に脆(もろ)く、危険や激情を警戒し、しんそこ生ぬるい空気が好きで、……しかもこれらの特質をのこらず保ちながら、そのまま狂気に陥るのだった。」(同上、60頁)
という考えを重一郎に語らせています。
さすが、三島による鋭い洞察力です。

果たして、この地球上に人間がいなくなったら……。
宇宙人から見た地球は「美しい星」なのでしょうか。

文庫本53刷巻末の解説、奥野健男(おくの たけお)氏によると、作品発表時37歳の三島由紀夫は、「地球の外に、地球を動かす梃子(てこ)の支店を設定」(同、367頁)したことにより、結果、宇宙人の視点によって、客観的に地球を眺めることができると説明しています。

作者の三島由紀夫に関しては、世に出された多々の作品が幅広い年代層に支持され、また論じられてきました。
ここでの説明は省略させていただきます。

最後に、45歳で亡くなった三島由紀夫がもしも現代に蘇っているならば、2022年のこの地球上に起きている様々なことを見て何と思うのでしょうか。
「当時と全く変わっていないじゃないか」
それとも「人間力が弱くなってはいないか」

読後、凛はあらためて帯の説明文に納得しました。
再読すると、また違った発見があるように思えてなりません。

余談ですが、この作品は同じタイトルの『美しい星』で2017年に映画化されています。
吉田大八(よしだ だいはち)監督、リリー・フランキーさんの主演です。
作品のHPはここ!です。
原作とは異なり、地球の危機を「地球温暖化」として脚色されています。

凛は映画はまだ観てませんが、この機会に是非観たいなと思います。
映画鑑賞も読書ができることも地球が平和であることが大前提ですね。

本日も凛からおすすめの一冊でした。(^-^)

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2022年4月9日土曜日

自分軸でいいんだね  ~群ようこ『老いと収納』(角川文庫、2017年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

大変長らくの間、ご無沙汰いたしました。
私的な事情により、凛のりんりんらいぶらり~を5ヵ月以上もお休みさせていただきました。
この期間に訪れてくださった皆さま、ありがとうございました!
凛は感謝の念でいっぱいです!! (T_T)
これからも細々と続けていきますので、何卒よろしくお願いいたします。m(_ _)m

2022年も4月半ば。
日本では春の桜前線も北上しています。
世界情勢にも変化が表れております。
あなたはいかがお過ごしでしょうか。

凛は昨秋から年末年始、年明け後も続けて忙しく過ごしておりました。
凛の身辺に様々な変化が起こりまして、環境を整えるために遠方との往復の移動、移動先での片づけなどがあったからです。
そのため、この数か月の間、読書の機会はほとんどありませんでした。

最初は義務感で動いていましたが、移動先で片づけをしていたある日のこと、凛はハッと自身とモノとの関係を問う衝動にかられました。
モノを捨てずに増やし続けることへの疑問。
モノとは何のためにあるのだろう?
暮らしにおけるモノとの向き合い方とは?

そこで、収納に関する本や雑誌を読んだり、YouTubeで配信されている整理収納のプロのアドバイザーさんたちだけでなく、一般の配信者の方々の動画を集中して観ました。
ルームツアーやデスクツアーなどの動画を拝見し、「綺麗だなあ!すっきりしているなあ!」とうっとりと眺めておりました。

一日に1個を捨てる。
1個買ったら2個捨てる「1in2out」などなど。

さらに、収納グッズを扱っているお店を何軒も見て廻りました。
ネットでも様々な収納グッズを見て、メジャーでサイズを測りながら、あれこれと考える時間をもちました。

ブログでは以前にも「断捨離」(ブログはこちらから!)のタイトルでご紹介いたしておりますように、凛も当時に片づけはしていたのですが、やはりモノは増えていくものなのですよね…… (-_-;)

今回は、暮らしとモノとの関係をより深く考えました。
凛は、モノに支配されずにシンプルに暮らしたいな、と自身の持ち物の取捨選択を徹底的に行いました。
家具などの粗大ごみを数点処分しました。
衣類、靴、バッグ、傘だけでなく、不要な家電品、文具や小物類なども大幅に処分しました。
収納を変えて、部屋全体をシンプルに整えました。

本棚も大幅に見直しました。
単行本・文庫本・雑誌など未読も含めて630冊以上、3段階に分けて、ネット買取にて処分いたしました。
DVDやCDも数十点もネット買取業者に出しました。
必要とされる方々のために、次のステージで活かされますように、という願いを込めて。

モノを処分し、片づけを行なって、凛の気持ちに変化が生じました。
以下5点の視点から、切り替えができました。 (^o^)

1.部屋に空間ができて、空気の流れがよくなったこと。
2.全体の量がわかるため、俯瞰してモノの管理ができるようになったこと。
3.どんよりした空気感に覆われていたモノからの重圧がストンと抜けて、カラダもココロも軽くなったこと。
4.「買わなければ!」「買い物に行かなければ!」という脅迫観念や欲望から解放され、まずはひと呼吸して、落ち着いて行動するようになったこと。
5.モノに支配されず、自分軸で考えるようになったこと。

漸く落ち着きを取り戻し、さて何を読もうかと凛の本棚から選んだ本をご紹介します。
群(むれ)ようこ氏のエッセイ『老いと収納』(角川文庫、2017年)です。
この作品は書き下ろしです。

厳選して残した本たちの中から、この本のタイトルが目に飛び込んできました。
「これだ!」とビビビと読書脳のアンテナが反応しました。
片づけした後なので、おさらい篇として位置付けるのもいいし、また新たな発見があるかもね、と思ったのです。

5年前に出版された文庫本です。
初版が2017年の1月25日発行で、凛が持っている本は第3刷で初版と同年の3月10日発行ですから、当時如何にこの本が人気があったのかがわかりますよね~

凛の文庫本、第3刷の帯の表表紙には「不要品は思いきって捨てた。」と表記されています。
表表紙には、群氏と思われる女性が箱(部屋かも?)の中心にいて、電気スタンドや洋服、バケツにバッグなどの彼女の周囲に溢れているモノたちに対して、さてさてこれからどのように処分しようか、と思いあぐねている様子がうかがえます。

表紙のカバーイラストは、古谷充子(ふるたに みちこ)氏です。
カバーデザインは、坂詰佳苗(さかづめ かなえ?)氏です。

このエッセイは、マンションの大規模修繕工事を機に、必然的にモノを捨てることから始まります。
60代になられた群氏が、これまで所有してきたモノたちと丁寧に向き合い、処分することに目覚めていく心理と、実行の過程が描かれています。

目次は、処分するアイテム別になっていて、「衣類」や「キッチン」などあなたの気になる箇所から読まれてもよろしいかとも思います。

不要品を処分してきた身としても、同じ女性としても共感できるところが多々ありますね。
例えば、肌着や靴下などは具体性があって興味深く読みました。
これまで所持していた肌着の枚数を種類別に明記されていて、非常に具体性があります。(81頁他)

群氏が処分された品物リストが最初のほうにずらりと出ています。(30頁~33頁)
「こんなに!」と驚く数の品々。
さすが、売れっ子作家!結構お高いモノもありそうですよ~

凛との生活レベルが決定的に異なるなと思ったのは、着物ですね。
群氏のお召しになられるお着物はいかほどなのかなと。
凛も着物は持ってはいますが(ほんの少しですが)、普段に着ることはほとんどないですものねえ。(^-^;

このエッセイの中で度々登場する「とにかく所有物を少なくする運動」(78頁他)をお一人で続けていらっしゃるという群氏のお友だちの言動がとても爽快です!
群氏もご愛用のモノを処分することに逡巡されますが、このお友だちの言葉ではたと迷いがとれたりすることがあるのです。
なるほど、これだけの数でいいのか、と凛も納得できました。
特に、冠婚葬祭などで着用するストッキングのストックに関(@_@。しては、「ええっー!」と目から鱗の状態でした。(@_@。

群氏のプロフィールについては、二度目の登場ですので、省略させていただきます。
前回の説明は、ここ!です。

あなたも群氏と一緒にモノと向き合ってみませんか。
名立たる作家の暮らしをちょいと覗いてみるのも楽しいでしょう。
もちろん手放さずに残されるご愛用のモノたちもありますよ~

若いうちはカラダも元気なのでモノを処分するのにキビキビと動けると思いますが、この先、老いることを考えると次世代に多くのモノは残せませんね……。
処分するモノと残すモノの基準も年々変わっていくと思います。
捨てる、処分することに対しての後ろめたさや罪悪感、申し訳なさをきっぱりと捨てましょう。
モノに対する「執着」という概念を捨てて、「欲望」と闘い、自身の今に必要なモノを取り入れる「自分軸」でいきましょう!! (^_^)v

悲しいかな、放っておくとどんどんモノは増え続けてゆきます。
既に新たな本が欲しくなってきている凛です……。(*'▽')
「わ~い!部屋に空間ができた!」と安心せずに、これからもチェックしていかなければ、と凛も新たに決意した次第です。

今夜もあなたにおすすめの一冊でした。(^-^)

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