2023年5月25日木曜日

いっぱい胸キュンしたいあなたへ ~山本文緒『自転しながら公転する』(新潮社、2020年、のち新潮文庫、2022年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

日本では爽やかな初夏からだんだんと夏が近づいてきています。
地域のお祭りやイベントなどが久しぶりに再開され、賑わいをみせています。
街には楽しみが待っていますねえ。\(^o^)/

ところで、5月の大型連休の後、7月17日の海の日までは祝日がありません……。(^^;
しばらくの間、大半の方々にはお仕事や学校生活など通常通りの日々が続きます。
凛には日々のルーティンが変わらないほうが読書の計画が立てやすくて良いかなあ、とポジティブに捉えています。
あなたはいかがですか。

小説には様々なジャンルがありますが、凛は恋愛小説は好きですね~
こんな恋愛をしてみたいなあ、このような出会いがあると毎日がドキドキして素敵だろうなあ、な~んてね。(^_-)-☆

「うーん、何だかねえ、他人の恋愛なんか気にしてどうするの。パートナーがくっついたり、離れたりしてさ、まどろっこしいことに時間かけていちいち付き合ってられないよぉー」
という方もいらっしゃるでしょう。
いえいえ、文学は疑似体験ができて、自分に置き換えたらどうするかなどと考えることができる最高の脳トレなんですよ~ (^^)v

今回ご紹介いたします小説は、山本文緒(やまもと ふみお)氏の長編小説『自転しながら公転する』(新潮社、2020年、のち新潮文庫、2022年)です。
読後に胸キュンしたいあなたへお贈りいたします。

恋愛小説なので、物語が終わるまでハラハラドキドキするのはもちろんのことです。
それだけでなく、「あら、それって私も同じ境遇なのよ!」と、現代の日本において家庭や職場の問題を抱えながら生きている人々に、直球で共感できることが多い小説といえます。
どなたにも楽しんでいただける小説である、と凛は考えます。

はじめに、凛がこの小説を知ることになったきっかけは、複数の文学系ユーチューバーが「この作品がベストです!」と紹介していたことから、近所の書店で購入しました。

凛はタイトルにとても興味をひかれましたね~
宇宙のお話と恋愛が関係あるのかな?と。
山本文緒氏の作品は以前はよく読んでいましたが、しばらくの間は触れていなかったので、凛には久しぶりの出合いとなりました。

山本氏は2021年10月にご病気のため亡くなられました。
あらためて山本文緒氏のご冥福をお祈りいたします。

次に、帯や表紙についてです。
凛が持っている文庫本は、2022年11月発行の初刊です。

文庫本初版の帯の表表紙側には、「恋愛、仕事、家族のこと。全部がんばるなんて、無理!」と目立つように表記されています。
それだけでも読者に共感を呼ぶ感じがします。

さらに帯には「第16回中央公論文芸賞受賞!」「第27回島清恋愛文学賞受賞!」「2021年本屋大賞ノミネート!」の三つのおめでとう☆彡☆彡☆彡が!!!(同上)\(^o^)/
これだけでものすごい情報量ですね!

表表紙は、写真ですね。
ビルの屋上でしょうか。
茶色い花柄のワンピースらしき姿の女性がフェンスに立っています。
彼女は後ろに沿って顔は空側に向けていますが、目は閉じているようです。
その表情には悩みがあるのか、疲れているように見えます。
彼女がたたずんでいる向こう側にはビルや建物が林立しています。
空には白い雲がありますが、青空も見えています。

表表紙のカバー写真は、コハラタケル氏です。
デザインは、新潮社装幀室です。

裏表紙の説明文によりますと、32歳になる都(みやこ)は母親の看病のために実家に戻り、近くのアウトレットモールでアパレルの契約社員として働いています。
職場ではスタッフとの問題を抱えています。
寿司職人の貫一(かんいち)と付き合いますが、結婚が見えません。

「母の具合は一進一退。正社員になるべき?運命の人は他にいる?」(同書)
なるほど、親の介護、契約社員と正社員、彼女自身の年齢もあり、この先、どうするのか、悩み多き主人公と等身大の方も多いかと察しがつきますね。
「ぐるぐると思い悩む都がたどりついた答えとは──。」(同書)
まだ本文を読んでいない凛も都の答えが知りたくなりました! (^▽^;)

では、内容に入ります。
物語はプロローグから始まります。
文庫本でわずか11ページで、結婚式のシーンが描かれています。(同書、5頁~15頁)

プロローグの「私」(同書、5頁以下多数)は、ベトナム人のパートナーと共に暮らしてゆくという、彼女自身の今後の人生に強い意志を表明しています。
ここでの「私」の強い表明が印象深く読者に刺さります。
これは作者の意図するところでありましょう。
凛は本文を読み進むうちに、何度もプロローグを読み返しました。

当然ですが、本文の最後にエピローグ(同書、635頁~654頁)があります。
凛は読了後にすぐにプロローグに戻り、またエピローグを読み返す行為を数回繰り返しました。
そして、そうだったのか!と大いに納得いたすことになりました。(^O^)

プロローグの後の本文ですが、裏表紙の紹介文で書かれている通り、主人公の与野都(よの みやこ)は郊外のアウトレットモールでアパレルのお店で働いています。
一人娘の都は実家を出て東京のアパレル会社で働いていましたが、母親が重い更年期障害を患ったために、父親からの要請があり、仕事を辞めて実家に戻ってきました。

ある日、同じモール店内にある回転寿司屋さんで働く羽島貫一(はしま かんいち)と出会いました。
「貫一おみやって言ったら金色夜叉じゃん」(同書、72頁)
「金色夜叉ってなんでしたっけ」(同上)
「熱海の海岸を散歩したり、ダイヤモンドに目がくらんだりするアレだよ」(同上)
この時の二人の会話には性格が非常に表れていると思いました。

一見、明治時代に人気を博した尾崎紅葉(おざき こうよう)作の読売新聞連載小説『金色夜叉』(1897年1月1日~1902年5月11日)を素材として扱っているようでもありますが、『金色夜叉』は未完に終わっていることもあり、都と貫一の二人の今後の行方が大変気になる、という伏線が張られているものと考えられます。

この小説には多くの現代の日本人が直面している問題を描いている社会小説としてとらえることができます。
都の前には様々な事柄が立ちはだかります。

第一に、都の家族です。
都は一人娘で、少子高齢化の問題に直面します。
母親の更年期障害、父親の仕事との葛藤など、都と同じ悩みを抱えていらっしゃる方も多いでしょう。
両親の高齢化による介護などの不安な要素が詰まっています。

第二に、都の仕事です。
都はファッションが好きだからこそアパレル会社に携わっています。
東京で活躍を続けていたかったけれども、実家の事情で叶わなかった思いを払拭しなければならない、という気持ちの切り替えが彼女には求められます。
同じ職場に勤務していても、スタッフ各人の立場や立ち位置が異なるため、会社や仕事に対する心構えが違います。
複雑な人間関係にもまれて綻び、彼女には疲れが生じてきます。

第三に、結婚についてです。
都は32歳になるので、自身の今後の人生設計を考えることが求められます。
結婚するのか、否か。
逡巡している彼女には、結論を出さねばならないという時間が迫ってきます。
両親や世間が求める都にふさわしい夫とはどのような男性なのでしょうか。
職業、年収、出自、家族、学歴、年齢、性格……。
貫一は都のことをどのように捉えているのか、いまいち掴めていません。

都の中でこれらの要素が同時にぐるぐると回転してしまうのです。
このような彼女の状態に共感される読者も多いでしょう。
悩める都は優先順位をどのようにつけたらよいのでしょうか。

ある日、ふっと都の前に現れるベトナム人が! 
さて、都はどうなりますか!! (@_@;)

後半は、話がめまぐるしく展開します。
後はあなたが読まれてからのお楽しみに! (^_-)-☆

作者の山本文緒氏は、1999年、小説『恋愛中毒』(角川書店、1998年、のち角川文庫、2002年)で第20回吉川英治文学新人賞を受賞☆彡されました。\(^o^)/
2000年、小説『プラナリア』(文藝春秋、2000年、のち文春文庫、2005年)で第124回直木賞を受賞☆彡☆彡されました。\(^o^)/
多くの作品を刊行されており、多くの読者ファンがいらっしゃいます。

文庫本の解説は、書評家の藤田香織(ふじた かおり)氏です。
解説の最初に書かれていた事柄から、山本文緒氏の作品が久しぶりの刊行だったことに、凛はなるほどと納得しました。
この小説の単行本が発刊されたのが2020年9月なので、前作品から実に7年ぶりの刊行だったということが書かれていました。
そのことから、凛が山本氏の作品を読むのが久しぶりだったのだ、と気づいたわけなのです。

山本氏がすい臓がんで亡くなられたことから、藤田氏山本氏の作品群に対して、冷静に、深く、濃く、見つめていらっしゃいます。
哀切を込めて……。(T_T)

最後に。
この小説は、主人公の都だけでなく、周りの登場人物たちの現実のありのままの姿を丁寧に鋭く抉り出して、臨場感をもって読者にリアル感を持たせます。
また、日本における価値観が必ずしも定位置ではないという点で、読者に向けて「俯瞰して見る」という選択を作者はプレゼントしています。
都に寄り添って読み進んでいくうちに、彼女たちと共に時間と空間を自在に飛びまわっていくことに読者は気づかされます。
読後感は、爽やかさの中に切なさもあり、柔らかく温かい気持ちになれます。

あらためて「読む」という楽しみ方を与えていただいた山本文緒氏に感謝でいっぱいになった凛でした。
もう、新作は出ないのですね。 (T_T)
凛は山本氏の作品群を是非とも再読したいと思いました。
読後の胸キュンと山本文緒氏への感謝で胸が熱くなることは言うまでもありません。

今夜も凛からあなたにおススメの一冊でした。 (^-^)

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