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2024年4月1日月曜日

虚と実の狭間を浮遊する ~小川哲『君が手にするはずだった黄金について』(新潮社、2023年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
お休み前のひとときに、どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

各地で桜の開花宣言が出ています。
桜の開花前線はこれからだんだんと北上していきます。
お花見で春を楽しみたいですね。(^O^)

あなたはどのような春をお過ごしになりますか。
これから温かくなりますので行楽にお出かけする方も多いことでしょう。
季節の変わり目はお天気も変わりやすいようです。
晴れた日ばかりとは限りません。
晴れたり曇ったり、時には雨や突風もある春。
凛は変わらず読書を楽しんでいきたいです。(^-^)

4月10日には2024年の本屋大賞の発表があります。
今年も10作品がノミネート☆彡されています。
どの作品が大賞を受賞されるのでしょうか。
全国の読書家が楽しみに待っていらっしゃることでしょう。
今回はノミネート作品の1冊をご紹介しますね。(^O^)

虚と実との境目が明確でない世界を体験できる小説、小川哲(おがわ さとし)氏の連作短編集『君が手にするはずだった黄金について』(新潮社、2023年)です。
2023年の10月に刊行された単行本です。
凛が持っている本は初版本です。

はじめに、凛がこの本を手にしたのは、昨秋訪れた各書店の新刊コーナーです。
その後、凛の地元のラジオ番組でこの本の紹介と、小川氏ご本人の電話出演もあったことでより強く印象に残りました。
某大手書店で小川氏のサイン本と出合ったことで即買いすることにしました。

サイン本は、凛にはまるで宝物のようにキラキラ輝いて見えてしまいます。
著者、出版社、書店との販売作戦に見事はまってしまう凛なのです。(^^;
小川哲氏のサインは可愛らしい感じで微笑んでしまいます。
作品から硬派のイメージを持っていたのですが、柔らかい印象のサインは意外でした。

次に、帯や表紙についてです。
まずは帯ですが、凛が購入した初版本では画像の帯とは異なっています。
現在は本屋大賞のノミネート作品である帯が付いている本が多いことでしょう。

凛の初版本の帯の表表紙側には、「直木賞受賞第一作」として「認められたくて必死だったあいつを、お前は笑えるの?」という文言が書かれています。
その下に小さな文字で「才能に焦がれる作家が、自身を主人公に描くのは〝承認欲求のなれの果て〟」。(同書)
帯には作家の朝井リョウ(あさい りょう)氏ほか二名の感想が読者を誘います。

初版本の帯の裏表紙側には、「いま最も注目を集める直木賞作家が成功と承認を渇望する人々の虚実を描く」と書いてあり、本のタイトルの「君が手にするはずだった黄金について」の篇のあらすじが出ています。
難しそうに感じるかもしれませんが、本を最後まで読めばこの帯の文言は秀逸であることがよくわかるように考えられているなあ、と感心した凛です。

二番目は表紙についてです。
表表紙は全体が白地の中、中心部には各色のサテンリボンで作られた花束に見える形状のものがデーンと目立っています。
授賞式に作家におくられる花束のようでもありますが、すべてをサテンリボンで覆われた人工的な花束は、何やら意味深でもありますね。
裏表紙側は花束はなく、真っ白です。

カバーは、Art works by takeru amano、あまの たける氏です。
装丁は、新潮社装幀室です。

それでは、内容に入ります。
作品は以下の6篇の連作短編です。
「プロローグ」
「三月十日」
「小説家の鏡」
「君が手にするはずだった黄金について」
「偽物」
「受賞エッセイ」

「プロローグ」では、2010年に「小川」(おがわ、同書22頁)という大学院生の青年が就職活動をするため、出版社の新潮社のエントリーシートを取り寄せた際、その中にある質問に考え込むところから始まります。
質問は「プロローグ」の冒頭に出てきますので、是非お読みいただきたいと思います。

当然ですが、小川青年は出版社を希望するからには数々の文学に触れてきています。
作中には「ジョン・アーヴィング」(7頁)や「スタインベック、ディケンズ、モーム、サリンジャー、カポーティ」(8頁)などの世界の文豪の他、「クレストブックス」(同頁)という新潮社刊行の世界文学を紹介している人気のシリーズ本も好んで読んでいます。

そこまでは順調だったものの、小川青年はある質問に辿り着き、「『怒りの葡萄』、『ガーブの世界』、『夫婦茶碗』」(8~9頁)の三冊で答えようとしますが、ここで逡巡するのです。
彼はこれまでの人生を振り返り、「人生において重要だったもの」(9頁)をあれこれと自身に問いかけてゆきます。
文豪だけでなく、哲学者の「バートランド・ラッセル」(12頁)の理論の他、様々な哲学者の名前を挙げて、小川青年の脳内はエントリーシートから広がっていくのを自認します。

小川青年は当時付き合っていた彼女「美梨」(みり、10頁)を登場させて読者をホッとさせますが、それは一瞬のことで、美梨とも哲学の会話を続けます。
その間、エントリーシートは白紙のままです……。

美梨との交際は続いていますが、果たして美梨の本心はどこにあるのでしょうか。
行間には二人の関係が安定していないことが込められているようにも見えてきます。

このように書きますと、読者には頑なである小川青年の性格についていけなくなる方もいらっしゃるかもしれません。
帯にも描かれているように「承認欲求」の強い自我を見せる小川青年ですから、読者の立ち位置としては彼から適度に距離を置きながら触れていくと全体が見えてくるのではないか、と凛は考えました。

この「プロローグ」で意識したいことは2010年であることです。
次の「三月十日」の篇では、2011年3月11日に起きた東日本大震災から3年を経た年の3月11日、その夜に彼は高校時代の同級生たち4人で飲み会をします。
彼らは「スノボ計画」(47頁)の仲間で、3年前の3月13日に行く予定でしたが、大震災のために中止となっていました。

その話題から、小川は3年前の大震災の前日は何をしていたのか、という疑問を持つことになります。
彼は疑問を解決するために、自身の記憶を頼りにしながらあらゆる手段を用いて辿り着くのです。
その執着ぶりには研究者かと思わせるほどの思考の回路を見せます。
例えば、かつて使用していた携帯に電源を入れるためにどうすべきか、などなどです。

この篇では、彼は既に作家になっています。
作家とはこのように理論が展開していくのかと感心することも多かった凛ですね~ (^.^)

6篇のタイトルを見れば、時系列に作家という職業の小川氏の手の内を見せているかのようでもあり、実は逆かもしれません。
どれが本当で、どれが嘘であるのか。
読者は虚と実との間を浮遊して読んでいるかの如く体験できます。
真偽の境目の線上で掴むことができそうでできない、という読者が体験する知的ジレンマがこの作品の魅力ではないでしょうか。

作者の小川哲氏についてです。
「哲」は「てつ」ではなく、「さとし」です。

2017年、SF小説『ゲームの王国(上・下)』(早川書房、2017年、のちハヤカワ文庫JA、2019年)第38回日本SF大賞を受賞☆彡、第31回山本周五郎賞を受賞☆彡されています。\(^o^)/

2022年、長編小説『地図と拳』(集英社、2022年)第13回山田風太郎賞を受賞☆彡、翌年には第168回直木三十五賞を受賞☆彡☆彡されています。\(^o^)/

2023年、小説『君のクイズ』(朝日新聞出版、2022年)第76回日本推理作家協会長賞長編および連作短編集部門を受賞☆彡されています。\(^o^)/

他にも多くの作品をご執筆されています。
書店では常に目立つ所にあるので、小川氏の人気の高さがわかりますね。
今後ご活躍に目が離せない作家のお一人です。

最後に。
全体に作家という内面を「小川」氏特有の複雑な理路で進んでいきます。
「小川」という作家を構成していく過程、及び彼の周辺の登場人物たちとの絶妙な距離感、それらは緻密に計算されていると思えてなりません。

読者は虚実の狭間をふわふわと浮遊するような感覚で読み解いていく知的体験ができます。
もしかしたら物質文明の地球上ではなく、全く異なる次元での話かもしれません。
まるで異次元の世界を漂っているかの如く、時間、空間、現象、事象、その他諸々のアイテムを駆使したこれらの「小川」氏からの挑戦に対峙してみてはいかがでしょう。

初版本の帯の言葉、作家の「承認欲求の成れの果て」を認めるか、認めないかは読み手であるあなた次第でしょう。(^O^)
つまりは、読者のあなたが中心になって物語は進むのです。

あまり難しく考えずに、是非気軽に読まれてくださいね。 
4月10日の本屋大賞の発表も楽しみです。\(^o^)/

今夜もあなたにおすすめの一冊でした。(^-^)

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2024年3月1日金曜日

人生の無駄遣いではないよ ~町田そのこ『52ヘルツのクジラたち』(中央公論社、2020年、のち中公文庫、2023年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
お休み前のひとときに、どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

3月、春の季節の到来ですね!
暖かくなれば着る服も軽くなります。
優しい色合いの服に包まれて、心も軽~くなりたい凛です。(^O^)

「いえいえ凛さん、花粉症で体調がすぐれず、春のファッションを楽しむどころではないんですよー」
確かに花粉症の季節ですよねえ。(-_-;)
身体と向き合って、体調に気をつけていきましょう。
あなたはいかがお過ごしですか。

この3月に映画が公開されるということでメディアで話題になり、原作の小説を読んでみました。
町田そのこ(まちだ そのこ)氏の小説『52ヘルツのクジラたち』(中央公論社、2020年のち中公文庫、2023年)です。
この作品は2021年、第18回本屋大賞の第1位を受賞☆彡しています。\(^o^)/

はじめに、凛がこの本を知ったのは、2021年の本屋大賞の受賞☆彡からです。
以来ずっと読みたいなと思っておりましたが、町田氏の他の作品を先に読んでいました。
3月からの映画公開を機に、近所の書店で購入いたしました。
凛が購入したのは文庫本で、2023年の12月15日発行の第9刷です。
文庫本の初版が同年5月25日ですから、人気度の高さがわかりますね!

次に、帯や表紙についてです。
一番目は、帯からです。
凛が持っている文庫本の第9刷は、映画公開前ということで帯も映画の宣伝になっています。
「映画化決定!」
「2024年3月全国公開」
表表紙側には、主演の杉咲花(すぎさき はな)さんの写真が掲載されています。
監督の成島出(なるしま いずる)氏のお名前も紹介されています。
ワクワクしますね~!(^O^)

第9刷の帯の裏表紙側には、「2022年本屋大賞 連続ノミネート!」で単行本の小説星を掬う(すくう)』(中央公論新社、2021年)の概要が掲載されています。

二番目は、表紙についてです。
凛の第9刷の文庫本の表表紙は、紺色を地色として動物たちや小物などがたくさん描かれています。
中には生ビールやソフトクリームも!
小説を読めばどこで登場するのかがわかりますよ~
温かみのある可愛いイラストです。
見方によっては、イラストの全体が教会のステンドグラス風にも思えます。

裏表紙側の説明文では、「52ヘルツのクジラとは、」から始まり、その説明が書いてあります。
それが何なのか気になる方は、是非文庫本を手にして読まれてください。
「孤独ゆえ愛を欲し、裏切られてきた彼らが出会い、魂の物語が生まれる。」(同書)で終わっています。

カバーイラストは、福田利之(ふくだ としゆき)氏です。
カバーデザインは、鈴木久美(すずき くみ)氏です。

解説は、ブックジャーナリストの内田剛(うちだ たけし)氏です。
「感動の先を見せてくれる『絶景本』」というタイトルの解説文です。

それでは、内容に入ります。
物語は全8章で成立しています。

第1章の「最果ての街に雨」は、大分県の海の見える町で、主人公の貴湖(きこ)が越してきた古民家の修繕をする場面から始まります。
住宅の修繕業者の村中真帆(むらなか まほろ)は彼女に不躾な質問をします。
驚いている彼女を見て、村中の部下のケンタは申し訳なさそうに上司の村中をけん制しながら村中を擁護します。
地元の住人たちにとっては、突然東京から移住してきた貴湖を謎めいていて訳ありだと思っています。
彼女は東京での辛い過去の体験を秘めていました。

食料品や日用日を買うにしてもお店は「コンドウマート」(文庫本第9刷、9頁他)しかない集落なので、スマホも運転免許も持っていない貴湖にはなかなか不便な所です。
働いていないにも関わらず経済的には余裕のあるように見える彼女にまつわる噂は、コンドウマートに集まる高齢者の間でもちきりとなっていました。
そのことを村中は彼女に直接的に伝えます。
彼女にとって村中は貴重な情報提供者ともいえましょう。

「あんた、人生の無駄遣いやがね」(同書、27頁)
ある日、貴湖がコンドウマートで買い物をすると、その店で売られている派手なムームーを着た高齢の女性から強く言われました。
どうやら若い女性が働かずにしてのんびり過ごしている姿に腹を立てている様子なのです。
移住者に対してよそ者扱いをしているのは見え見えと受け取られても当然です。

ここで凛は疑問をもちました。
「人生の無駄遣い」とは何を根拠にして捉えるのでしょうか?
時間や労働、経済の視点からでは、少しの猶予も与えられないものでしょうか?

貴湖は何故に他人からこのようなことを言われないといけないのかと戸惑ってしまいました。
価値観の違いにおいて、人との距離の難しさがわかる箇所です。
近年は都会から地方への移住を奨励している自治体もあります。
移住を決断するには一時的な滞在の旅行者とは全く異なる覚悟をもたなければいけない、と凛は考えました。

貴湖の記憶の中から度々蘇る「アンさん」(同書、16頁)という人物がいます。
迷ったり、困ることがあると必ず「アンさん」と彼女はアンさんに問いかけて、アンさんからの答えを探ります。
アンさんとは一体何者なのでしょうか。

第2章の「夜空に溶ける声」では、古民家の住人となった貴湖の家に少年が訪れます。
彼女は少年に「キナコ」(同書、61頁他)と自己紹介をします。
少年は喋ることができない模様で、庭の地面に自分の名前を『ムシ』(同書、同頁他)と書きます。
少年ムシはどうも虐待を受けているのではないか、と貴湖は直感します。
何故ならば、彼女にも家族から受けた耐え難い過去の体験があるからです。

ここからキナコと少年の物語が始まるのです!(^O^)

貴湖や少年、そしてアンさんなどの経歴については、読んでいくうちに追い追い読者は知ることとなります。
彼女らにまつわる複雑な事情は、壮絶な辛い過去の鋭利な刃となって読者に突き付けます。
章が進む度に彼女たちの過去と現在が交錯しながら進みます。
貴湖の過去は度々フラッシュバックとなって彼女を苦しめます。

この表現形式は町田氏の小説の特徴である、と凛は考えます。
ある時は、ダイレクトにこれでもかというくらいにドーンと激しい言葉を用いて読者を刺激します。
次々に知ることとなる驚愕な過去と現在進行形の現実に読者はおののくでしょう。
これほどまでに辛い仕打ちを登場人物に体験させないで欲しい、と願ってしまうほどにです。

またある時は、謎めいた形で描き、オブラートに包んだような印象を与えます。
え?登場人物たちは何を秘めているのだろう?
もっと先が知りたい!という欲求が生じます。 
それはそれはじれったいほどに……。(^^;

町田氏は物語の随所に伏線を張り巡らせています。
作者からの強弱のあるメッセージ性を読み取ることは、複雑な伏線があるからこそ成立する技法といえましょう。
伏線は様々なグッズも含まれます。
これらの技法によって、読者は先が気になって頁をめくる手がやまないのがわかりますね。

作者の町田そのこ氏について。
町田氏は、2016年、小説「カメルーンの青い魚」で第15回女による女のためのR-18文学賞の大賞を受賞☆彡されました。\(^o^)/
この作品は『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』(新潮社、2017年、のち新潮文庫、2021年)に収録されています。
今後のご活躍が大いに期待される作家のお一人です。

最後に。
貴湖は東京から大分県の海の見える町に移住した当初は自ら孤独を求めていました。
ある日、彼女の家に少年が現れてから彼女は再生してゆきます。
彼女の友人や地元の人たちなどが仲間となって物語はどんどん進みます。
人とのご縁の大切さがわかる小説です。
読後には、タイトルの「52ヘルツのクジラたち」の意味がわかり、感動となってあなたに迫ってくるでしょう。

「人生の無駄遣い」について、読者の心の在り方によって答えはその人それぞれの胸のうちにあるのではないでしょうか。
コスパ、タイパに絡めとられることなく、その自身にとっての価値観を求めていくことこそ人生における必要な時間ではないか、と凛は考えます。

文庫本の表紙の裏には、もう一つの物語が印刷されていますよ!
爽やかな読後感まちがいありません!!\(^o^)/
とても得した気分になれます。
あなたも文庫本の表紙を外して読まれてくださいね!

そして、映画も楽しみです!
是非劇場で観たいですね。(^O^)

今夜もあなたにおすすめの一冊でした。(^-^)

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2023年3月29日水曜日

「夢」の旅の始まりは屋根からだった

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

春になりました。日本では桜前線が急上昇中です。
あなたはお花見にお出かけされますか。
陽気な春の暖かさの中、どこかへ旅に出かけて行きたくなられる方も多いのではないでしょうか。\(^o^)/

旅に関するエッセイや小説、或いは壮大な冒険の旅の物語は数多くありますが、凛が今回おススメいたします作品は少々異なります。
恋人ではなく分別ある中高年の男女の大人が、互いの夢の中で自由自在に旅を重ねてゆく物語で、純文学の旅はいかがでしょう。(^o^)
もちろんおどろおどろしい幻想小説とも異なりますので、怖い話が苦手な方も安心して楽しんでいただけますよ。

村田喜代子(むらた きよこ)氏の長編小説『屋根屋』(講談社、2014年、のち中公文庫、2022年)です。

凛からあなたへ二つの質問があります。

一つ目の質問です。
あなたのお住まいは戸建てですか。
建て主の意向によって建物の様相は各々で異なりますよね。
屋根ひとつとっても地域によっての異なりもありますし、その時々の流行であったり、業界の流れという影響もあり、また築年数によっても実に様々です。
最近では屋根にソーラーパネルを付けるなど住宅への話題は尽きません。

凛はマンションの中層階に居住しているためか、住宅の屋根に関しては日頃直接関りがなく暮らしています。
凛の親族宅は築年数の古い戸建てが多く、時折訪ねて行くと、夏は二階がものすごく暑くなったり、冬は一階の床が冷えたりします。
また風雨の音も直に気になりますね。
昨今の新しい戸建ては機能的にできているようなので、そのようなことはないかもしれませんね。(^-^)

二つ目の質問です。
あなたは寝ている時に夢を見ますか。
凛も夢は時々見ますが、起きる時には覚えていないことが多いものです。
たまに見た夢を覚えていても、起きて活動しているうちに忘れてしまうことがほとんどです。
人生を変えるほどの夢のお告げなどは、凛にはこれまでご縁がないですね~ (^-^;

今回の小説は、これら「屋根」と「夢」の二つが重なった物語です。
戸建てに住む専業主婦が屋根の修理を依頼した個人で営んでいる業者との何気ない会話の中から、お互いに見る夢の中で待ち合わせをして共に旅を始める、というお話です。

凛が持っている文庫本は、2022年7月25日発刊の初版本です。
凛は以前から村田喜代子氏の大ファンで、今回は街の中心部の駅ビルにある書店で文庫本を購入しました。

まず、文庫本の帯と表紙からご紹介します。
凛の持っている初版本の帯は赤い地色で、表表紙側には「さあ。飛びますか」と大きな文字で書かれています。
「夢を自在に操る屋根屋の永瀬と『私』は夢の中で落ち合い、共に旅を重ねてゆくが……」(同)
なぬなぬ、これは主婦と屋根の修理業者との恋愛、不倫小説なのか?
とちょっと興味をそそられますが。(*^^*)

帯の裏表紙側には、本文からの抜粋で、「眠るということは水深の深い所へ下りていくことに似ている。」(同)
「奥さんと私と、どっちが先に着くかはわかりまっせんが、向こうの屋根で落ち合いまっしょう。」(同)
「夢のドッキングですたい」(同)と。

カバーの裏表紙の解説文には、雨漏りの修理を依頼された永瀬は妻が亡くなった後、夢日記を付け始めたことが紹介されています。
主婦である「私」は永瀬と夢の中で旅を始め、「現実とのあわいの」(同)中の「場所なき場所」(同)で二人の時間を深めていくことになってゆきます。

カバーの表表紙は、大変格調高い絵で、日本画のようです。
二人の人間が一羽の鳥になって飛んでいる姿のように見えます。
それもそのはず、カバー画が江戸末期の狩野一信(かのう かずのぶ)の「五百羅漢図」で、六道・天(部分)、増上寺蔵であると紹介されています。
ひゃあ、お宝のような表紙ですね!\(^o^)/
カバーデザインは、毛利一枝(もうり かずえ)氏です。

カバーの裏表紙には、黒い鳥の羽が1本描かれています。
何やら意味深ですね……。
読後にはその意味がわかる仕掛けになっています。
是非、あなたが読まれてからのお楽しみに。(^-^)

解説は、芥川賞作家の池澤夏樹(いけざわ なつき)氏です。
文学界の重鎮の解説もなるほどと納得できます!(^_^)v

次に、内容に入ります。
専業主婦の「私」は、築18年になる木造二階建の住宅の雨漏りの修理を専門業者「永瀬工務店」に依頼しました。
業者は数あれど、隣町に住んでいる兄の紹介なので「私」や家族には安心感があったのも当然といえます。
「永瀬屋根屋」(文庫版初版、10頁他)は、50代半ばの大柄で、実直そうな職人さんです。

「私」はご主人と長男の三人家族で戸建てに住んでいます。
ご主人は仕事で大変忙しく、ゴルフが好きな会社員で不在がち、身長が180cmに成長した長男は塾通いで部活や勉学の日々を送っています。

家事に勤しんでいる専業主婦にとって、ダイニングキッチンは日常の居場所。
突然雨が降ったので、食卓テーブルで職人さんの休憩にお茶を提供するのはよくある光景でしょう。
「私」は永瀬から専門家としての屋根の話題を提供されます。

さらに、永瀬が妻を亡くして10年経つこと、彼が心に不安を抱えたことや、独立した過去の話などを「私」は彼から聞きます。
これまでの専業主婦として生きてきた日常に対して、静寂だった池の中にピシッと小さな石ころが投げ入れられたような、ほんの少しの変化が生じたことに「私」はまだ気づいていません。
しかし、まだここまでは常識の範囲であると凛は思います。

ところが、ここからが村田氏の物語の世界へと読者を誘ってくれるのです!
永瀬は治療の一環として、医者から「夢日記」を勧められ、毎日付けていることを「私」に話し始めます。
「夢日記?」(同、29頁)と「私」が尋ねます。
「どんなことを書くんですか」(同、30頁)
永瀬の提供する話題に「私」の興味は尽きません。

「屋根の上で彼は人形(ひとがた)の影絵になって動いている。」(同、35頁)
屋根の上で働いている永瀬の姿を表していますが、この一文が物語全体を象徴するのだな、と凛は捉えました。

「私」はフランスの町の屋根に上がっていた夢を見ました。
それには「私」が心にひっかかる何かがあったのかもしれません。
そのことを「私」は永瀬に話します。
永瀬は一気に話さず、徐々に「私」が気になるように夢の旅へと誘ってゆきます……。

いよいよ屋根の修理が終わり、支払いをしますが、その時に「私」と永瀬は夢の話を続けます。
二人には名残惜しさがあったのか、夢についての話題は現実味を帯びてきます。

これは決して「同床異夢」の元の意味ではありません。
永瀬と「私」が夢を見る状態は、互いに別々の住居で眠り、夢の向こうで落ち合って共に旅をしましょう、ということなのです。

「私」と永瀬の夢の話はどんどん飛躍していきます。
日本国内の歴史的建造物の屋根の話からフランスの大聖堂まで。
屋根にまつわる話題だけでなく、とんでもない方向へ進んでゆきますが……。

村田氏の力量は素晴らしいの一言です!(^o^)
物語の面白さを読者に直球で投げてくれます。

「私」とは誰なのか。
永瀬はどうなるのか。
二人には友情が芽生えたのか、若しくは大人の恋愛の対象として意識しているのか。
謎の部分もしっかり残してあるので、読後の余韻もあります。

さらに、屋根や建造物に関する蘊蓄的な要素も網羅されていますので、老若男女どなたにも楽しめる物語です。
文庫本の本文の後に、参考資料と村田氏のメッセージが掲載されています。
そこからは、村田氏のこの作品に対する真摯さが出ていることが大変よく伝わります。

作者の村田喜代子氏は、1977年、小説「水中の声」で第7回九州芸術祭文学賞最優秀作を受賞☆彡、本格的に執筆活動に入られました。

1987年、小説「鍋の中」で第97回芥川賞を受賞☆彡☆彡されました。
この作品は、1991年に黒澤明監督、リチャード・ギア主演『八月の狂詩曲』として映画化されています。

「水中の声」と「鍋の中」は、1987年に出版された『鍋の中』(文藝春秋、1987年、のち文春文庫、1990年)に収録されています。

その後のご活躍は大変素晴らしく、女流文学賞、紫式部賞、川端康成文学賞、谷崎潤一郎賞、泉鏡花文学賞他多数の受賞歴をお持ちです。☆彡☆彡☆彡
また、2007年に紫綬褒章、そして2016年には旭日章綬章を受けていらっしゃます。☆彡☆彡☆彡

最後に。
主婦の「私」と自宅の屋根の修理を担った「永瀬屋根屋」(同)との互いの夢の中で国内外を自在に旅をしていく物語です。
二人が飛び立った空間から自在に俯瞰して見るのは、屋根だけでなく、建造物の構造にも及びます。
「私」と永瀬にあるものは大人としての友情なのでしょうか。
または、そこから二人の愛情が芽生えていくのでしょうか。
二人が同時に見る「夢」はどんどん膨らみ、進んでゆきますが……。

そもそも時間と空間が自由自在に繰り広げられる「夢」とは一体何なのでしょうか。
「夢」をずっと見続けることはできないからこそ楽しくもあり、また儚いものです。
もしかしたら、物語全体が「夢」なのかもしれません。
原点に回帰する瞬間、「夢」の余韻をあなたはどのように受けとめるでしょう。

凛は村田喜代子氏の放つ文学世界に酔いしれました。
あなたもお休み前のひととき、村田氏の「夢」の物語を堪能しませんか。(^-^)

今夜も凛からあなたにおススメの一冊でした。 (^-^)

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2023年1月28日土曜日

えぐり、えぐられて ~井上荒野『あちらにいる鬼』(朝日新聞出版、2019年、のち朝日文庫、2022年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださりまして、ありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

「鬼は~外、福は~内」
2月3日は節分ですね。

あなたは節分に豆まきをされますか。
凛は毎年豆まきをしています。
今年も鬼のお面が入った豆を準備していますよ~

「大豆は香ばしくて美味しいなあ」と毎年思っています。
一年経つごとにお口に入れる大豆の数が増えていくことよりも、大豆の美味しさのほうが気になる凛です。(#^^#)
何はともあれ、今年も家内安全、無病息災を願って豆まきをします!

鬼は怖いもの。
凛は極力鬼とは関わり合いたくないですねえ。(>_<)
中には怖いもの見たさで、鬼と出合いたいもいらっしゃるかもしれません。
あなたはいかがですか。

今回は、題名に「鬼」がつく小説をご紹介します。
井上荒野氏の長編小説『あちらにいる鬼』(朝日新聞出版、2019年、のち朝日文庫、2021年)です。

この作品は、朝日新聞出版の季刊誌『小説トリッパー』の2016年冬号~2018年秋号まで連載された後に単行本化、さらに文庫化されました。
映画化されて2022年11月11日より公開されています。

井上荒野(いのうえ あれの)氏の父親である井上光晴(いのうえ みつはる)氏と、瀬戸内寂聴(せとうち じゃくちょう)氏得度する前の瀬戸内晴美(せとうち はるみ)氏時代からの不倫関係が基になって創作された小説です。

小説家同士の不倫を、井上光晴氏の妻の視点、瀬戸内氏の視点で描くという形をとっていますが、井上氏の娘である荒野氏の目線で描いているという、幾重にも絡んだ複雑な構造に読者が対峙することになります。

鬼は鬼でも、日本の昔話に出てくるような鬼さんとは違います。
「えーい、悪い子は食ってしまうぞ!」というような鬼さんではありません。
人の心の奥底の誰も踏み入れることのできない深いところに潜んでいるもの……。
ある意味において、最も怖~い鬼ではないでしょうか。ひゃあ……。(-_-;)

凛が持っている文庫本は、2022年5月20日付の第6刷です。
近所の書店で購入しました。

まずは、文庫本の帯と表紙からご紹介いたします。
凛が持っている第6刷では、裾まで長い黒い服をまとった女性が背中をこちらに向けて跪いて、両手をあげて踊るようなポーズをとっている絵になっています。

カバーの装幀は、芥 陽子(あくた ようこ)氏です。
カバーの装画は、Nikoleta Sekulovic氏です。


文庫本の帯の表紙側は、廣木隆一(ひろき りゅういち)監督による映画化の紹介になっています。
出演者の寺島しのぶ(てらしま しのぶ)さん、豊川悦司(とよかわ えつし)さん、広末涼子(ひろすえ りょうこ)さんの三人の顔写真が載っています。

また、瀬戸内寂聴氏からのメッセージ、「作者の父 井上光晴と、私の不倫が始まった時、作者は五歳だった。」(同帯)と明記されています。
不倫関係は事実だった、と瀬戸内氏ご本人が証言されているのですね。

帯の裏表紙側には、作家・川上弘美(かわかみ ひろみ)氏による文庫本の解説から抜粋されて掲載されています。
「本書は、『井上光晴の妻』『瀬戸内寂聴』という二人の内面のみを描くことを目的にした小説ではない。」(同帯)
読者にとって最も気になる部分をずばり指摘されて、なるほどなあと納得できます。

つまりどういうことかというと、父親と不倫を重ねた女性作家との関係と、二人を見つめる母親の愛憎と葛藤を描くにあたり、作家である井上荒野氏自身と、両親との娘としての視点をどのように絡めて小説に表したのだろうか、という疑問が読者に容赦なく迫ってくるのです。
要するに、小説家であるけれど、実の娘として父親の不倫を描くことは苦しくないのだろうか、と一般読者として凛は率直に思うわけなのですよ。(-_-;)
荒野氏は作家としてどのように乗り越えて作品に仕上げたのでしょう。

帯には川上氏の解説の続きが載っており、「実際の父母とはことなるかれらを描くことは、実際の父母と重なってみえる誰かを描くことよりも、『本物』のかれらを表現することになるのだろうし、(以下、省略)。」(同帯)

文庫本の裏表紙には、「至高の情愛に終わりはあるのか?」と掲載されています。
映画化に伴って最新販売の文庫本の表紙や帯が変わっているようですので何卒ご了承くださいませ。

次に、内容に入ります。
作品は、帯による瀬戸内寂聴氏の言葉で示されているように、実在の作家たちの実際の不倫を基にした愛憎劇です。

井上光晴氏と想定できる白木篤郎(しらき あつろう)という男性と、瀬戸内晴美氏と想定できる長内みはる(おさない みはる)という女性との出会いが「Chaputer1 1966 春」という章に、「みはる」の視点で描かれています。
白木の徳島での講演旅行に随行するみはるの着物姿を、阿波浄瑠璃の二体の人形はどのような面持ちで見下ろしていたのでしょうか。

二人の出逢いには、白木の切り札ともいえる「トランプ」が出てきます。
白木によるみはるの今後の仕事についてのトランプ占いの結果は……。
このときの占いの結果について、当時暮らしていた真二(しんじ)に聞かれたとき、みはるは「本当のことは言わなかった。」(文庫本、21頁)という表現から、明らかにみはるの心は既に決まっていることがわかります。
白木とみはる、二人の関係は長年にわたります。

同じ「Chaputer1 1966 春」には、白木の妻の笙子(しょうこ)の視点で描かれてもいます。
幼稚園に通う海里(かいり)ちゃんの子育て中で、お手伝いのヤエさんも交えながら、作家の妻として家庭を守る主婦を務めています。
この海里ちゃんが後の井上荒野氏になります。
 
笙子には二人目の子どもができ、白木との出会いから結婚に至るまでを振り返っています。
文机で白木の助手を担いながら、創作もします。
作家という目線で、笙子の内面はどのように膨らんでいくのでしょうか。

白木にはみはるとの関係だけではなく、様々な女性たちとの関係が消えては現われます。
それらのことが豪快であるのか、逆に繊細なのかは凛にはわかりませんが、白木という一人の男の生き様が重くもあり、哀しくはかなげな印象すらいたします。

そして、長内みはるは得度して、長内寂光(おさない じゃくこう)になり、誰もが知る著名人となりました。
彼女が得度するに至るには、深い理由がありました。

やがて海里は成長し、小説の新人賞を受賞します。
寂光は優しいまなざしで海里を見つめます。
白木は病に侵されることになりますが……。

文庫本の解説は「訣別」という題名で、川上弘美氏が綴っています。
作家の視点から読者の疑問について、丁寧に解説されていますので、是非お読みくださいね。
同名の映画は凛はまだ観ていませんが、必ず観たいですね~ (^○^)

作者の井上荒野氏については、「昭和歌謡と恋愛模様」(ココ)の項でご紹介していますので、今回は省略させていただきますね。
彼女の作品にふれる度に素晴らしい作家であることを認識させられる凛です。

まとめ。
白木篤郎と長内みはるの不倫から生じた白木の妻の笙子との複雑な関係を、白木の娘の海里が成長して作家・井上荒野として小説に描いていることを読者は認識させられます。
生身をえぐられるほどの鋭利な現実と、長い時間の経過がタテ・ヨコ・ナナメに何重にも絡み合い、終いにはぐるぐると廻ります。
糸が決して緩むことなく、常にピンと張り詰めた状態で「生」を必死で営んでいる登場人物たち。
作中では「生」と隣り合わせである「死」についても言及しています。
荒野氏が編んだリアルとバーチャルの間を、読者は幾度となく往復しながら向き合っていかなければなりません。

読後は何かがふっきれるほどの清々しい晴天になるのか、或いは荒天になるのか、それは読み手であるあなたの受けとめ方次第でありましょう。
「鬼」の底知れぬ恐ろしさを知りたいあなたに、是非読書の醍醐味を味わっていただきたいです。

節分には豆まきをして邪気を払いたいですね~(^O^)/
今夜も凛からあなたにおススメの一冊でした。(^-^)

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2022年10月29日土曜日

表情を読み取りながら楽しめるミステリー ~平野啓一郎『ある男』(文藝春秋、2018年、のち文春文庫、2021年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

こんばんは。(^-^)
あなたはお変わりありませんか。
凛はまたもや所用のために、大変ご無沙汰いたしております。m(_ _)m

前回の2作品ご紹介いたしました季節の盛夏はとっくに過ぎ去り、秋も深まっていく今日この頃です。
四季のある日本では三か月毎に季節が変わります。
半袖から長袖へ、朝晩は軽めのコートも必需品となりました。
本当に月日の経つのは早いものですねえ。

秋の夜長にミステリー小説を楽しまれていらっしゃるあなたへおすすめの小説があります。
芥川賞受賞・純文学作家が描くミステリー小説はいかがでしょう。
謎解きはもちろんのことですが、人物像が深く描かれており、登場人物の心理状態を知りたくなる世界に浸ってみませんか。

読者を先へ先へと導いてくれる小説をご紹介いたしましょう。
平野啓一郎(ひらの けいいちろう)氏の長編小説『ある男』(文藝春秋、2018年、のち文春文庫、2021年)です。

凛が持っている文庫本は、2021年10月15日付で第2刷です。
文庫本の第1刷が2021年9月10日付ですので、平野氏が如何に人気作家であることが良くわかりますね。

まずは、文庫本の帯の紹介です。
凛が持っている第2刷の文庫本の帯には、「読売文学賞受賞の感動作 映画化決定!(2022年公開)」と紹介されています。
「愛したはずの夫は全くの別人だった──」
書店でこの文庫本を手にして、ふむふむ、妻にとって夫の正体は一体何者だったのだろう?という素朴な疑問がわくように誘導されますよね!

帯には映画の出演者である安藤サクラさん、妻夫木聡さん、窪田正孝さんの写真が掲載されています。
凛が好きな俳優さんばかりなので映画も楽しみたいなと思いました。

帯の裏には「愛にとって過去とは何か?人間存在の根源と、この世界の真実に触れる文学作品。」
なるほど、純文学の平野啓一郎氏が描くミステリー小説なのだな、という期待感が出ます。

裏表紙の説明文からは、再婚して幸せな家庭を築いていた折、夫がある日突然事故で亡くなるのですが、夫が「全くの別人だったという衝撃の事実が……。」と興味をそそる文言が。
果たして夫は誰だったのか?
残された妻の葛藤が容易に想像できます。

文庫本の表紙は、積み木のように重ねて並べた男性のような人物が腰から折り曲げて佇み、頭を抱えて悩んでいるように思えます。
まるでモザイクのように見えます。
カバー彫刻は、アントニー・ゴームリー氏です。
デザインは、大久保明子(おおくぼ あきこ)氏です。

小説の内容に入る前に、予めひと言述べさせていただきます。
正直に告白いたしますが、凛は平野啓一郎氏の小説が長い間苦手でした。
平野氏が大学在学中の芥川賞受賞作品☆彡☆彡である小説『日触』(新潮社、1998年、のち新潮文庫、20002年)を読了して以来ですから、きっと食わず嫌いだったのかもしれません。
最後まで読まずに途中であきらめたこともしばしばありました。
凛にはなかなか平野氏作品の世界に入れなかったのです。

その理由はわかりませんが、凛とは合わなかったということでしょうか。
悲しいかな、凛の読書能力が平野氏の世界に到達できていなかったのでしょうね。

今回の作品の前の長編小説『マチネの終わりに』(毎日新聞出版、2016年、のち文春文庫、2019年)は最後まで読みましたが、恋愛小説にも関わらずあまり感動もなく、映画も観ておりません。
やはり合わないのかなあ、と……。(-_-;)

ところが、今回の『ある男』は表紙のデザインから入って、何だかとても面白そう、とビビビときたのです!
「凛さ~ん、読んでくださ~い。この作品は必ず楽しませてくれますからね!」と近所の書店の棚に並べられている文庫本が凛を呼んでいるのがわかりました。(^_^)v
凛は文庫本から届いた声を聴き、即座にレジに向かいました。

次に、作品の内容に入ります。
凛は映画出演の俳優さんたちを思い浮かべながら読みました。
苦手と思っていた作家の場合、顔の設定が明確になって読みやすいのではないか、と思ったからなのです。

「序」で、物語の主人公は「城戸さん」であると、「私」が語っています。
城戸(きど)という弁護士が出てきて、「私」との接点を語りますが、そこから怪しさもありますね。
この「序」の項は読了後、また戻って読み返す読者も多いかと思います。
凛は何度も読み返しました。

宮崎県のS市に在する老舗の文房具屋を営む実家に、離婚して一人息子の悠人(ゆうと)を連れて出戻りしてきた里枝(りえ)は、移住して林業に従事した谷口大祐(たにぐち だいすけ)と再婚しました。
里枝は横浜の大学に進学、就職し、建築家の卵と結婚していましたが、次男の遼(りょう)を病気で亡くしたことで夫と意見が合わずに離婚していましたので再婚になります。

里枝の実家の父親が急逝したこともあり、彼女は宮崎県の実家に戻ってくることを決意しました。
再婚した谷口大祐との間には花(はな)という女の子も生まれています。
里枝は実家の母親と同居し、文房具店を切り盛りしながら一家五人で暮らしていました。

谷口大祐の出自は群馬県の伊香保温泉にある旅館の次男坊ということでした。
彼は兄と折り合いが合わず、実家を出ました。
里枝と結婚した大祐は、真面目に働き、林業の社長さんにも気に入られていましたが、山で事故に遭い、突然亡くなってしまいました。

連絡を受けた大祐の兄の谷口恭一(たにぐち きょういち)が里枝の家を訪れてみると、弟であったはずの大祐の遺影が違うことに気がつきます。
では、亡くなった夫は誰なのでしょうか?
里枝と暮らしていた夫は「"X"」となっていました……。(文庫本、87頁以降)

横浜市在住の弁護士・城戸章良(きど あきら)は里枝の離婚調停の代理人を受けていた関係で、相談を受けたのでした。
そこから城戸の活躍が始まります。
城戸自身も出自と家庭内の問題を抱えながら、多忙な中、各地を飛び回って調べてゆきますが……。

予想だにしなかった事実が次々と明らかになっていく中で、里枝にも城戸にも疲労が溜まってゆきます。
さらに里枝の息子の悠人も育ちざかりな故、問題が出てきます。
過去と現在が複雑に絡まり、進んでは立ち止まり、また進んでゆきます。
凛も読みながら、先がとても気になり、頁をめくる動きが早くなりました。(^○^)

「序」では城戸が主人公として扱っていますが、凛は、城戸だけでなく里枝や大祐もこの物語の主人公であると思いました。
三人の登場人物の顔を、里枝役は安藤サクラさん、谷口大祐役は窪田正孝さん、城戸役は妻夫木聡さんという俳優さんたちに想定して読むと、表情など具体性があって内容が理解しやすかったです。
映画の俳優さんたちはどのような演技をするのかな、と映像を予想しながら読むという楽しみもありました。

例えば、文庫本97頁で、里枝は名無しの夫"X"となった遺影の目を見つめていますが、そのときの里枝の表情はどんなものであったでしょうか。
演じていらっしゃる安藤サクラさんの表情を想像すると、原作と映画との二重の楽しみが増えますね~ (^o^)

後はあなたが読まれてのお楽しみに。

作者の平野啓一郎氏は、前出しました小説『日触』を初めとして多くの作品を世に出されています。
お若い頃から作家として大活躍されていらっしゃいます!

今回の小説『ある男』は、2018年第70回読売文学賞☆彡を受賞されています。\(^o^)/
前年の2017年、小説『マチネの終わりに』で第2回渡辺淳一文学賞☆彡を受賞されています。

平野氏は「分人(ぶんじん)主義という独自の考え方をもたれており、上記の二作品もその中で存在を示されています。
これら二作品の先には小説『本心』(文藝春秋、2021年)があります。
一人の人間に備えもった様々な多面性を平野氏の視点で追求されていらっしゃるのでしょう。

凛は昨年、講演会で平野氏を直に拝見いたしました。
とても穏やかな表情でしたが、明確にご自分の意見をわかりやすく伝えていらっしゃいました。
今年47歳になられた平野啓一郎という大人の作家の作品を、過去の作品と共に読んでみようと思っています。
新たな発見を見出すのもまた読書の楽しみの一つですね。(^-^)

小説と同名作品の映画は、石川慶(いしかわ けい)監督、脚本は向井康介(むかい こうすけ)氏です。
11月18日(金)全国ロードショウです。
映画の公式サイトは、こちらです。
公開がとても楽しみですね~!
最近書店に並べられている文庫本の帯も映画の紹介のデザインに変わっていました。

今夜も凛からあなたへおすすめの一冊でした。(^-^)

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2021年6月28日月曜日

SF古典名作を愉しみました ~アーサー・C・クラーク『幼年期の終わり』(池田真紀子訳、光文社古典新訳文庫、2007年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださいましてありがとうございます。
凛とともにどうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

お久しぶりです。
お変わりありませんか。
凛はいろいろと野暮用が続いたため、ブログの更新がとっても気になりつつも、すっかりご無沙汰してしまいました。(^-^;
この期間にりんりんらいぶらり~を訪れてくださったあなたには感謝の気持ちでいっぱいです。(^-^)

夏至も過ぎ、本格的な夏になりましたね。
今年も暑い日々が続きそうですねえ。
これからの季節は感染対策はもちろんのこと、熱中症にも気をつけていかなければと思っている凛です。

では、本題に入りましょう。

あなたは異星人の存在を信じますか。
宇宙船らしき謎の物体を見たことがありますか。

凛は二度、夜空をふわふわと飛んでいる宇宙船らしき謎の物体を見たことがあります。

今から5・6年ほど前になるでしょうか。
春の訪れが待ち遠しい季節、夜のウォーキングをしていたときに、そこは街中の公園で、ふと夜空を見上げたら、数色の光を帯びてふわふわと飛んでいる宇宙船みたいな何だかよくわからない物体X(凛がここで勝手に名付けています)がいたのです!
SF映画に出てくるような丸くて平べったい円盤型で、お煎餅のようにところどころふっくらと膨らんだ部分が上下にいくつかあって、底から数色の光を地上に向けて発しているのです。

謎のお煎餅型物体Xは空間に数秒停まっているかと思いきや、ふわりふわりと上下にゆっくり浮遊しながら、するすると音もたてずにビル群の向こうへと飛んで行ってしまいました。
とっても不思議な時間でしたねえ。
X……あれはドローンだったのかなあ。

その時間帯は夜にも関わらず結構公園に人がいて、各々ウォーキングをしていたり、走っていたりしていたので、凛の周囲は一人ではありませんでした。
誰か他の人たちも気づいていたかもしれませんが、どうなのでしょう。
こういうときに凛は想像力をいっぱいに膨らませて、Xが見えているのは凛だけかもしれない……と物語をつくったりするのです。(^-^;

それから約一か月後、すっかり桜の季節の春真っ盛りになった頃、やはり同じ公園ですが、夜空から数色の光で地上を照らしている謎の飛行物体らしき大きなお煎餅型Y(こちらも凛が勝手に名付けています)が数分間空中に浮かんでいるのを発見しました!
前回のお煎餅型Xを見たときよりも地上からもう少し近い高さだったからなのか、Yはとても大きく見えました。

謎の飛行物体らしきお煎餅型Yをその真下に近い所から見上げると、本当に映画の撮影ではないかと思うくらいに丸くて広くて、異星人が乗っているのではという気がしてなりませんでした。

凛の周囲の人々も「あれは何だ?」と言いながら大きなお煎餅型Yを見上げていましたが、Yはとりたてて変わった様子もなくじっと浮いたままだったので、撮影用のドローンかと思ったのか、人々はまた「現在」の意識に移っていきました。

凛は、お煎餅型Yから「特別の時間」を与えられたような感覚がしてなりませんでした。
しばらくの間、じーっと見上げていましたが、だんだん首が疲れてきて、他の人々と同じように「現在」の意識に戻りました。

やはり何かの撮影用のドローンだったのかもしれませんねえ。
一体誰がYを操作していたのでしょう。
周りを見渡しても、撮影している人たちの姿が見られませんでした。
どこか別の場所からの遠隔操作だったのでしょうか。

何だかわからない謎の飛行物体みたいなお煎餅型のXやYには異星人がいたのかもしれないと想像するだけでスケールの大きな話になり、凛はワクワクします。
今から考えると、吸い込まれることもなく、攻撃もされずに良かったと思います。

前置きが長くなってしまいました。

今回の本は、アーサー・C・クラーク氏のSF小説『幼年期の終わり』(池田真紀子訳、光文社古典新訳文庫、2007年)です。
SF小説の古典と言われている名作で、SF好きな方には大変人気の高い作品です。

この作品は、1953年にアメリカで初版が刊行されて以来、世界中のファンに魅了され続けています。
日本では、1964年、早川書房から『幼年期の終り』(福島正実訳、ハヤカワ・SF・シリーズ)として刊行され、その後、複数の出版社から刊行されています。

まず、この本の入手についてです。
凛が入手したのは光文社古典新訳文庫版で、街の書店で新訳版のほうを購入しました。
この新訳版では、第1部の第1章の改稿された作品が収録されています。
凛の文庫本は、2020年10月20日発行の第10刷です。

次に、本の装丁などについてです。
光文社の古典新訳文庫はシリーズ化されていて、装画は、全て望月道陽(もちづき みちあき)氏によるものです。
線画で描かれているのは、地球の人間なのでしょうか。

古典新訳文庫の装丁は、言語圏によって青・赤・緑・茶・桃色の5色に分類されています。
この文庫本は緑色なので英語圏で、装丁家の木佐塔一郎(きさ とういちろう)氏によります。

凛の文庫本の第10刷の帯の表表紙側には、「初版から36年後に書き直された第1章(以下、省略)」「哲学小説」と書いてあります。
帯の裏表紙側には、「黙示録的文学の古典」とも書いてあります。

実は、凛はSF小説は初めての体験なのです。(-_-;)
SF映画はとても好きなのですが、これまでSF小説は難しそうだなあと敬遠してきました。
何故だかわかりませんが、ある日突然、SF小説を読んでみたい!と思って、今回SF小説の初体験となりました。
まさか、異星人からのメッセージ?( ;∀;)

本編の前に、著者のクラーク氏による「まえがき」が掲載されています。

本編は、以下の通り、三部に分かれています。
第1部 「地球とオーヴァーロードたち」
第2部 「黄金期」
第3部 「最後の世代」

海外文学の場合、登場人物の名前がわかりづらく、しっくりこない場合がありませんか。
目次の次に「おもな登場人物」の一覧が掲載されています。
本に添付されている栞には主な登場人物の名前が書いてあります。
栞で確認しながら読むと、登場人物の名前がすんなりと頭に入りやすくなると思うので、この栞は大変便利ですよ~

第1部の第1章は、21世紀のロシア系と思われる宇宙飛行士たちが登場します。
書き直す前の東西冷戦を背景にしたものから、改稿によって約30年ほど時代が進んでいます。

第1部の第2章からは筆者による書き直しは一切ないとのことです。
国連事務総長のストルムグレン氏の登場から、これは地球規模の話なのだということがわかります。
最高君主であるオーヴァーロードと称される地球総督の異星人カレランとの接点が何より興味深いですね。

地球は彼らオーヴァーロードに支配されているのだろうという設定ですが、まだ地球人には支配されている側の意識にゆとりがあるような印象を凛はもちました。
第3章で、「懐中電灯」(60頁他)というグッズが出てきたのが、時代を感じさせるなと思いました。
カレランたちの容姿や思考などはまだ不透明です。

第2部では、第1部から50年経た地球。
時代も世代も変わり、人々の生活も高度な技術によるものに進化しています。
オーヴァーロードのラシャベラクが登場して、容姿が明らかになります。

第3部では、コミュニティに住む一部の人たちとその子供たちとオーヴァーロードとの接点は如何に。
ジャンという青年が重要な役割を果たします。
オーヴァーロードと地球の運命は……。
有名な作品ですが、凛のSF小説初体験のようにまだ未読な方もいらっしゃるでしょうから、あとは読まれてからのお楽しみに。

巻末の解説は、慶應義塾大学文学部教授・アメリカ文学専攻(2007年当時、現在は慶應義塾大学名誉教授)の巽 孝之(たつみ たかゆき)氏す。
「──人類の未来と平和」という題目で、非常に熱く詳しく述べていらっしゃいます。
詳細に解説されており、凛のようなSF小説入門者にもわかりやすく、また読んでみよう!という気持ちになりました。
巽教授による丁寧な講義を聴講している学生のような面持ちで大変勉強になりました。

この後に、クラーク氏の「年譜」が続きます。
最後は訳者の池田真紀子氏による「訳者あとがき」で作品についてまとめられています。

著者のアーサー・C・クラーク氏については、映画『2001年宇宙の旅』(スタンリー・キューブリック監督、1968年公開)でキューブリック監督と共に1968年のアカデミー賞脚本賞☆彡☆彡にノミネートされ、アカデミー賞特殊視覚効果賞☆彡☆彡☆彡を受賞しました。
また、同映画は1969年、ヒューゴー賞☆彡☆彡を受賞しました。
小説『2001年宇宙の旅』は映画公開後、1968年発表されました。
他にも多数ありますが、ここでは省略させていただきます。

20世紀を代表するSF小説の大家、クラーク氏の作品に触れて、凛は地球人としての自己について考えてみました。
人類は進化していくのでしょうか。
それから地球の運命についても……。
壮大な宇宙からのメッセージがクラーク氏を通して作品に込められているような印象をもちました。

ところで、書き直す前の第1部第1章も是非読んでみます。
21世紀を生きている読者には作品の印象が変わるでしょうか。

時空を超えた不思議な旅ができる!
これこそ文学の愉しみですね。\(^o^)/

またいつもの公園で夜空を見上げてみよう。
昼間にも何か見えるかな。

今夜も凛からあなたにおすすめの一冊でした。(^-^)

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文庫-2007/11/8クラーク(著)池田真紀子(翻訳)
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2020年12月29日火曜日

シネコンのバックヤード・ツアーです! ~畑野智美『シネマコンプレックス』(光文社、2017年、のち光文社文庫、2020年)~

こんばんは。
南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださりまして、ありがとうございます。
凛とともにどうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

2020年も残すところ二日と数時間になりました。
あなたの2020年はどのような一年でしたか。

凛はおかげさまで4月に、ブログの南城 凛のりんりんらいぶらり~を立ち上げまして、8ヵ月続けることができました。
凛のりんりんらいぶらり~を訪れてくださるあなたのおかげで、励みとなって続けています。

凛は本が好きです!
街の書店巡りが好きな凛にとっては大変有益な一年でした。(^o^)

凛がご紹介させていただきました作品には、ベストセラーの有名な作家のものもあります。
またこれからきっとご活躍をされであろう期待感がある作家の作品もご紹介しています。
とても面白かった作品ばかりで、是非あなたにも読書の感動を共有していただけると嬉しく思います。

今年は新型コロナウィルスの影響で、全世界中の人々が巻き込まれ、未だ解決が見いだせておりません。
来年も引き続き、これまでの価値感など変化を求められる年になりそうですね。

ところで、あなたは映画はお好きですか。
今年は自粛の影響で、人々の生活に変化がみられました。
そのため、映画をお家で観られる方も増えたことでしょう。
レンタルショップだけでなく、ネット配信が増えてきている昨今です。

しかし、やはり、映画は映画館で観るのが最も楽しいですね!
まずは座席を予約するところから始まり、映画館に足を運ぶ時間から、映画の世界への旅は既に始まっているのです。

映画は巨大なスクリーンに映し出される映像と、ダイナミックな音声との融合がひとつの作品世界となっています。
映画に集中している約2時間前後は非日常の空間です。
映画館でご覧になられるあなたご自身の時間と空間、そして作中の時間と空間、この二重の融和があなたを映画の虜とさせてくれるでしょう。

今年は吾峠呼世晴原作、外崎春雄監督の『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』の大ヒットで、全国の映画館が大盛況でしたね!
映画館の興行収入が大幅に増えたことは明るい話題となりました。
あなたはご覧になられましたか。
凛の友人は上映されると即座に映画館に行き、とても感動してきたと話していました。
まだまだこの映画の人気は続きそうです。

今回、凛がご紹介いたします小説は、シネマコンプレックスこと「シネコン」と呼ばれている映画館の仕事に従事している人たちのお話です。
多くの映画ファンに親しまれているシネコンでバイトをしている人たちに光をあてた作品です。

畑野智美(はたの ともみ)氏の連作短編集『シネマコンプレックス』(光文社、2017年、のち光文社文庫、2020年)です。
この作品は、作者の畑野智美氏がシネコンでバイトをしていた経験から描かれている小説です。

映画がお好きなあなたは、シネマコンプレックスをご利用されることもあるのではないでしょうか。
全国にあるシネコンは、単館やミニシアターとはまた違ったアミューズメントの楽しみがあるといった感じでしょう。

メディアなどの宣伝との連動で、主演俳優の舞台挨拶、ネットでの予約から、関連グッズの買い物、飲み物や食べ物の販売など、すべてがシステム化されているシネコン。
今回の作品は、このシネコンという広い空間と厳格なシステムの中で、真摯に取り組んで働く人たちのお仕事小説です。

凛は、いつもの近くの書店の文庫本の新刊コーナーでこの作品を見つけて、光文社文庫の2020年10月20日付の初版1刷を購入しました。
文庫版の表紙は、めばち氏のイラストで、映画フィルムを背景に、シネコンの制服を着た一組の男女が手を取り合っています。
女性の頭には赤いとんがり帽子が可愛らしくのっています。
二人は互いに見つめ合って、ダンスをしているようにも見えて、温もりのある雰囲気が漂っています。

文庫本初版の帯の表表紙側からは、仕事や恋、夢について一歩踏み出すことを躊躇している読者に対して勇気をもらえる小説であることがわかります。
物語は、クリスマス・イブの郊外のシネコンの舞台裏に焦点をあて、働く者たちの「等身大」(文庫本帯の表表紙側)として描かれているお仕事小説です。

帯の裏表紙には、シネコンが六つのセクションから成り立っていることが紹介されています。
「フロア」は、チケットのもぎり、案内、清掃など。
「コンセッション」は、飲食の売店。
「ボックス」は、チケット販売担当。
「ストア」は、パンフレット、関連グッズの販売。
「プロジェクション」は、映写機の操作担当。
「オフィス」は、備品管理、電話応対などをする事務所。

お客さまがシネコンで映画作品を楽しむためには、これだけのセクションがあり、様々な人たちの働きの中で「映画を楽しむ」という行為が成立しているのだということがわかります。
それらのどのセクションも重要であり、ひとつでも欠けるとお客さまが「映画を楽しむ」という行為が成り立たないということに繋がります。

文庫版の裏表紙からわかることは、この小説の舞台となっている郊外のシネコンには100人近い人たちが関わっていることに凛は大変驚きました。
実際、映画館に足を運んでも、上映される作品の時間帯の前後のスクリーンに関わる関係者しか普段は見えません。
シネコンではそれほど多くの人たちが働いているのかとあらためて思い知らされました。

映画ファンのための映画作品そのものや監督、俳優陣などに関する情報は多くありますが、シネコンの仕事に携わっている人たちの小説は、この作品で凛にとっては初めてでしたので、大変興味がわきました。
この作品は、或る年の日曜日のクリスマス・イブの日という特別な一日の舞台裏を描いています。
したがって、日常の業務に加えて、一年のうちの格段に忙しい一日であると容易に想像できます。
しかも、当日は舞台挨拶もあり、特別なイベント上映もあるという「大忙し」(文庫版、裏表紙)の日です。

物語は、七篇からなります。
六つの各セクションの細部にわたるバイトの規則が丁寧に描かれています。
シネコンでの就業規則をバイトの視点で具体的に紹介していますので、バイトのための活きた就業マニュアルのようでもあります。

バイトは学生だけでなく、主婦もいます。
各人が個々人の悩みを抱えながら、人間関係の問題ををくぐり抜けて、シネコンという職場の立ち位置に居場所を求めています。
その誰もが映画が好きであることが描かれており、彼らのシネコンに対する「映画愛」がこめられていることが伝わります。
映画がお好きな方でしたら、各人の「映画愛」に関するエピソードが楽しめるしかけが楽しめます。

シネコンにはもちろん社員もいますので、社員とバイトの間に流れている溝がみられます。
また、バイト同士の微妙な関係もあり、いろいろと考えさせられます。
郊外のシネコンですから、本社のある東京からきた社員との確執なども事細かく描かれています。
長く勤めているバイトの人たちと、新人との軋轢もあります。
実際にシネコンでバイトを体験した作者ならではの視点が活かされています。

物語には、数年前に起きたクリスマス・イブでの職場での或る出来事がミステリーの要素となって全体に流れています。
この出来事の謎の部分が最後にあかされる仕組みになっていますので、お楽しみに。

それぞれの人生をシネコンという共同の職場で、悩みながら映画に携わっている人々の生の声がよく伝わります。
各篇の最後は、なるほど、そのような道があったのか!ということも。

映画ファンにとりましては、シネコンの知られざるバックヤードがわかりますよ。
さらに、映画フィルムなどの技術変遷の歴史もわかります。
映画だけでなく、お仕事小説として捉えることができます。
映画ファンのみならず、これからシネコンでバイトする方や、映画関係で働く方には必読の書となりそうな小説だと凛は考えます。

作者の畑野智美氏は、映画館や出版社のバイトなどを体験されていらっしゃいます。
2010年、小説『国道沿いのファミレス』(集英社、2011年、のち集英社文庫、2013年)で、第23回小説すばる新人賞☆彡を受賞されて、翌年の2011年に作家デビューされました。
2013年、連作中編集『海の見える街』(講談社、2012年、のち講談社文庫、2015年)で、第34回吉川英治文学新人賞の候補となりました。
また、翌年2014年にも、連作短編集『南部芸能事務所』(講談社、2013年、のち講談社文庫、2016年)で、第35回吉川英治文学新人賞の候補となっていて、シリーズ化されています。
2018年、文藝春秋刊行の小説『神さまを待っている』は、読書メーター OF THE YEAR 2019にランクインしています。

あなたの今年のクリスマス・イブはいかがでしたか。
これからお正月を迎えて、お休みの方には映画を観る機会も増えそうですね。

凛は、これからは映画の旅を楽しむときに、影の力となってくださっている映画館のスタッフに優しく接していきたいと考えました。
決して、観たばかりの映画の最後について「あーあ、つまらなかった」などと言いながら、ポップコーンをポイと投げるようにスタッフに手渡すことだけはしたくないなと思います。
席でポップコーンを落とさないように注意したいですね。

この作品でシネコンのバックヤードも知ることができ、館内のスタッフに感謝しながら、これからも映画がますます好きになっていくことでしょう。

今夜も凛からあなたにおすすめの一冊でした。(^-^)

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晩秋からブログの掲載が若干遅くなっておりまして、申し訳ございません。
今回が今年最後の更新となりました。
4月に立ち上げまして8ヵ月の間、凛にお付き合いくださり、誠にありがとうございました!
来年も続けてまいりたいと思っておりますので、今後も凛のりんりんらいぶらり~をよろしくお願いいたします!m(_ _)m

あなたもよいお年をお迎えくださいませ。\(^o^)/
お身体にはくれぐれもご自愛くださいませ。
あなたにとって、来年もよい年でありますように。
では2021年も南城 凛(みじょう りん)のりんりんらいぶらり~であなたとお会いしましょう。(^O^)/

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