2023年6月26日月曜日

「たら」「れば」が実現したら、、 ~内館牧子『今度生まれたら』(講談社、2020年、のち講談社文庫、2023年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

日本は梅雨明けが始まり、本格的な夏を迎えようとしています。
それにしても蒸し暑い日々です。
毎年のことではありますが、今年もまた暑くなるのでしょうね……。 (^▽^;)
電気代を気にしつつも、エアコン無しではなかなか過ごすことができない凛です。

日本ではコロナが5類に移行してからは、人々の往来が盛んになっています。
各地で行われる夏のお祭りにも期待が高まっています。
凛が暮らしている街でも外国人の観光客を多く見かけますよ。

外食産業も復活して、街に賑わいを見せています。
街に活気が戻ったのは良いですね!\(^o^)/
これまで屋内で過ごしていた人たちの暮らし方も変わってきたようですね。
あなたはいかがお過ごしですか。

さて、コロナ禍の約3年間を経た現在、新しい生き方を考える方も多くいらっしゃることでしょう。
「自分はこのような生き方で良いのか」「今後どのように生きていくべきか」などと自己の意識を内的に思考しているのは、決して若者だけの領域ではないでしょう。
「もし、別の人生があるとしたら」
今を生きている現実社会とは全く異なる次元で自分の生をおくることができたら……。

いつだったか、誰から聞いたのかは定かではありませんが、人生は自動販売機と同じで、自ら選択していくものである、と凛の中に記憶されています。
炭酸が効いた清涼飲料水にするのか、苦みのあるブラックコーヒーを選ぶのか、マイルドな甘さのカフェラテにするのかはあなた次第ということですよね。(^O^)

70代に入り、人生の大半を生きてきて、残り少なくなった今後の人生をどのように生きていくのか、と立ち止まって考える時のことを描いた作品があります。

内館牧子氏(うちだて まきこ)氏の長編小説『今度生まれたら』(講談社、2020年、のち講談社文庫、2023年)です。
主人公の70歳の専業主婦、佐川夏江(さがわ なつえ)さんが、小説のタイトル通りに「今度生まれたら」今の夫ともう一度結婚生活をおくるかどうか、他の人生があったのではないか、と何かある度に深く考えてゆきます。

はじめに、凛がこの本を知ったのは、内館牧子氏長編小説『すぐ死ぬんだから』(講談社、2018年、のち講談社文庫、2021年)を読んだからなのです。
その作品の主人公の78歳の女性の生きざまが非常にアクティブで痛快だったものですから、「終活小説」としてまた楽しみたいなと思っていたところ、街の書店で『今度生まれたら』が新刊の文庫本の棚に並んでいたので購入しました。

次に、本の帯や表紙についてです。
凛が持っているのは、文庫本の2023年4月14日発刊の初版本です。

文庫本の帯は、赤ワインに近い赤色で、表表紙側には、「70代では人生やり直せない?」と大きな文字でくっきりと目立つように描かれています。
帯の右上に「人間に年齢は関係ない、なんてウソ。人生100年はキレイごと。」と。(同書)

「え?そうなの?」と凛は即座に疑問に思いました。(^^;
確かに、近年は100歳過ぎまで日本人の寿命は延びており、メディアでも元気な100歳の方々がたくさんご紹介されています。
しかし、健康で経済的にも安定していればこその100年なのですよね。
まずは、元気溌剌で過ごすことが大前提であると凛は考えます。

文庫本の表紙は、眼鏡をかけた70歳くらいの女性が薔薇の花一輪を持って立っています。
女性の背後には、夫らしき男性がベストを着て両腕を組んで立っており、女性のほうを気にしています。
女性が背後の男性の様子をうかがっていることがわかります。
二人の表情には笑みはなく、少し訝し気な感じが互いの目に表れています。
二人は一体何を思っているのでしょうか。

文庫本のカバー装画は、中島陽子(なかじま ようこ)氏です。
カバーデザインは、大岡喜直(おおおか よしなお?、next door design)氏です。

裏表紙の説明文から、「今度生まれたら、この人とは結婚しない」(同書)ときっぱりと断定している主人公の佐川夏江さんは、70歳はやり直しのきかない年齢であると痛感していることがわかります。
「進学は、仕事は、結婚は。」(同書)
夏江さんは「やりたいことを始めようとあがく。」(同書)のです。

文庫版には、著者の内館牧子氏のあとがきと、作家で歴史家である井沢元彦(いざわ もとひこ)氏の解説が掲載されています。
どちらもなるほどと納得します。
是非読まれてください。

では、内容に入ります。
主人公の佐川夏江さんは、現役時代に大手家電メーカーに勤務していたご主人の和幸(かずゆき)さんの妻です。
二人は社内結婚で、ご主人は将来の出世を期待されていたエリートサラリーマンでした。
彼女は結婚と同時に寿退社をし、48年間専業主婦ひとすじで生きてきました。
都内の戸建ての持ち家で、息子二人を育て上げ、現在はご主人と二人暮らしです。
所謂団塊世代の「幸せ組」「勝ち組」として描かれています。

一方、夏江さんより1歳年上の姉の島田信子(しまだ のぶこ)さんとご主人の芳彦(よしひこ)さんとは商業高校の同級生同士で結婚し、賃貸マンション暮らしで、身近にいながら常に夏江さんと対比する存在です。
信子さんは現在も仕事をしています。
二人の姉妹は生き方も考え方も異なりますが、大変仲が良くて、結構何でも言い合える関係を保っています。

夏江さんは70歳になった時、69歳とは印象が違うことに気づきました。
彼女は「(70)という数字は老人の表情をしている」と憂い、「7という数字の重み」を感じます。(同書、12頁)

そんな折、夏江さんは弁護士の高梨公子(たかなし きみこ)さんのインタビュー記事を読んで愕然とします。
その原因は、高梨さんはメディアで大活躍中の弁護士ですが、高梨さんの出身高校が偏差値が低い高校であることによります。

夏江さんは名門と呼ばれていた難関校の進学高校を卒業しています。
夏江さんは深く考え込んでしまいます。
どうして当時偏差値が相当低い高校を卒業した人が現在は知名度の高い弁護士をしていて、「超」とつく難関校の卒業生である私は何の肩書もないただの専業主婦なのだろう……、と。

そこから夏江さんの結婚に至るまでの策略とも呼べる若かりし頃の思考と行動が細密に描かれてゆきます。
「ええ?そこまでするの?」と実に驚かされることばかりですよ。
当時持てる全ての情熱を注いで得た「結婚」という人生のカテゴリーの中で人生をいとなんできた結果が、現在の夏江さんを「葛藤」という迷路に迷い込ませるのです。

誰もが羨むほどの絵に描いたエリートサラリーマンのご主人との結婚生活も「とある時点で」事件が起きます。
そこからは想定外という人生が……。(@_@)

あとはあなたが読まれてからのお楽しみに。

この作品を読んで、凛が気づいたことが二点あります。

一点目は、夏江さんたちは団塊の世代であることです。(^O^)
第二次世界大戦の終戦直後に生まれた団塊の世代は人数が圧倒的に多いです。
常に他人と比較し、子供の頃から大人数の中で競争を強いられ、高度経済成長の中で生き方の処世術を身につけている方が多いように思います。

夏江さんも他人と比較して考えます。
彼女の思考のひとつひとつが実に詳細に描かれており、明らかに本音と建て前が異なることが特徴です。
「人は人」「私は私」ではどうも具合が悪いようです。

二点目は、夏江さんはじめ登場人物が十分に健康であることです。(^^)v
身体は正直と言いますが、確かに若い頃の健康状態とは異なるものの、夏江さんたちは自分の足で歩き、行動できています。
70代は十分に若いのです!(^O^)

既に人生100年と言われる時代に入っている日本です。
しかし、今後寝たきりになるのか、ずっと元気なままでいられるのか、その分岐点がいつ訪れるのか、それがわかれば誰も苦労しないでしょうね。

作者の内館牧子氏は、大変な著名人で、ご存じでない方のほうが少ないのではないでしょうか。
特に、大相撲の元横綱審議委員会の委員をなさっておられたので、よくテレビのインタビューなど出ておられました。
NHKの朝の連続テレビ小説『ひらり』(1992年~1993年)他テレビ脚本家としてご活躍されていらっしゃいます。

著書も多数出版されていますが、エッセイが大半で、小説は意外に少ないものの大変面白いですよ。
2019年には、旭日双光章☆彡☆彡☆彡を受賞されていらっしゃいます。\(^o^)/
内館氏の今後ますますのご活躍を期待しております!

最後に。
専業主婦として生きてきた佐川夏江さんは70代に入り、ふと現在の自分を見つめることになりました。
「今度生まれたら」今とは全く別の人生をおくり、今よりもずっと幸せに暮らしていたかもしれないのではないか、と。
これからの人生を趣味で生きるのか。
それとも誰かのためにボランティアをするのか。
やり直しがきくのかどうか。
「たら」「れば」を多く用いて、夏江さんは逡巡します。

幸せの条件とは人それぞれでしょう。
隣の芝生は青いものです。
他人が良く見えます。
人生100年時代に突入した日本ですが、まだその基盤は確立されておらず、揺らいでいるのが現状です。

人生は山あり谷ありです。
誰もが絵に描いたような幸せを求め、日々を暮らしています。
幸せの基準とは一体何なのでしょうか。
足元に幸せがあることに気づくのはその時ではなく、後になってからでしょうか。

とは言うものの、凛が70歳になった時には、夏江さんと同じように「たら」「れば」と考えるのではないか、と想像いたします。
やはりその年齢に達しないとわからないことがあるのかもしれませんね。(^-^)
あなたはいかがお考えでしょうか。

この作品はあらゆる世代の方々に読んでいただきたいですね。
何故なら、夏江さんだけでなく、二人の息子さんや姉の信子さんたちに様々な試練を与えて壁として立ちはだかりますが、彼らがどのように解決していくかという過程が描かれているからです。
決して読者を飽きさせることなく、あっという間にラストを迎えます!(^^)v

合わせて、内館牧子氏長編小説『すぐ死ぬんだから』(講談社、2018年、のち講談社文庫、2021年)のほうもおすすめです。
元気になれますよ~ (^O^)

今夜もあなたにおすすめの二冊でした。(^-^)

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