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2026年1月31日土曜日

Z世代からα世代、アナログ派も楽しめる、新感覚の謎解き体験はいかが ~森 バジル『探偵小石は恋しない』(小学館、2025年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
お休み前のひとときに、本の話題でごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

寒中お見舞い申しあげます

お久しぶりです。(^-^)
2026年に突入したと思ったら、もう1月も終わります。
本当に月日が経つのは早いものですね。

あなたは新しい年をどのようにお過ごしですか。
凛のりんりんらいぶらり~は昨年10月以来、実に3か月ぶりの更新となりました……。(^^;

晩秋・年末・年始と充電していた凛でございます。
「一体何度目の充電期間なんだ!!」とお叱りを受けそう……。<m(__)m>
懲りずに、今年もりんりんらいぶらり~をよろしくお願いいたします!!

只今、真冬の日本列島です。
寒い季節が苦手な凛は外出も控え気味となっていますが、読書するには最高ですね!
読書は贅沢な時間の贈り物。(^O^)
好きな作家や話題の作品などと共に、時空を超えたアナザーワールドに堪能できる幸福。
或いは現実からの逃避……。

AIがどんどん進化しているネット社会に生きる私たちにとって、時間との闘いはますます激しくなるばかりです。
世の中には楽しめるアイテムが豊富にありますからね。
「時間が溶ける」「時間を溶かす」
情報化社会とはいえ、決して焦る必要はないと凛は考えます。

文字を追って、時間をかけて読み進めていくという「読書」を敢えて楽しむこと。
貴重な時間を費やすわけですから、そこは外せないし、外したくないですよね。
書店やメディアなどからの本のおススメ情報はやはり日ごろからチェックしている凛です。

最近の書店に訪れる度に気づくことがあります。
新しい作家さんたちの作品が目立ってきていると思いませんか?
かつての若手作家と言われていた方々が既にベテランの域に達して、新たに新人作家さんたちの登壇。
世代交代とまでは言えませんが、それだけ時代がどんどん進んでいっていることの証でしょうか。
凛もまた一つ年齢を重ねているということは明らかな事実ですけれど、ね! (^O^)

2026年の最初の一冊、年も新たになったということで、新鮮な感覚を取り入れていきましょう!! \(^o^)/
新人作家さんたちの作品の中で、新しい感覚で謎解きを楽しめる探偵小説をご紹介いたします。

森 バジル(もり ばじる)氏の『探偵小石は恋しない』(小学館、2025年)です。
この作品は、2025年9月23日付で初版第一刷の発行です。
只今、単行本コーナーで絶賛発売中です!
凛が持っている本は、2025年12月15日付の第五刷ですので、いかに人気が高い作品であることがよくわかりますね~

読者は、登場人物たちの会話のやりとりの小気味よいテンポを楽しみながら頁がどんどん進み、気がつけば、旧来の固定観念や既成概念は取り払われています。
アナログ的な部分は根幹から外さず安心感もある上に、王道のミステリー作品名も登場するというミステリーファンにも嬉しいサービスてんこ盛りの作品です。

はじめに、この本の入手についてです。
書店の店頭やネットでも発売当初から注目を浴びていましたので、凛の「次に読む本」のチェックリストには入れていました。

最近書店でよく見かけるのが「購入者限定特典」。
サイン本や栞とか、付録みたいな読物などがついているサービスです。

いつもの近所の書店で、この本には書き下ろしの読物、「ショートストーリーペーパー」の特典がついていることに気がつきました。
しかも、特典を付ける書店は限定とのことでした。
「限定」に弱い凛はすぐさま購入を決めたのでした。

次に、帯や表紙についてです。
一番目は、帯について。
凛が購入した2025年12月15日付の第5刷は、帯が「ホログラム全面帯」となっており、こちらも期間限定のものです。
最近流行っているのか、表紙全体にもう一枚上乗せした形になった帯の本を見かけますが、この本も表紙全体に帯が上乗せされています。
この帯はキラキラ光っていて、特別感のある帯です。

帯の上半分が表紙と同じデザインで、探偵の小石(こいし)が少し斜めな角度からこちらを見て微笑んでおります。
下部がピンク色を下地として、表側も裏側もそれはそれはもう読みたくてたまらなくなる言葉で読者を誘っていますよ!

帯の表表紙側には、「彼女のひと言で、世界が一変する。」「続々大重版の、驚愕体験ミステリ!!」(同帯)
裏表紙側には、「吹き荒れる小石旋風!各種メディアで大反響!!」(同帯)

「絶賛コメントが止まらない!!」として、小説家の法月 綸太郎(のりづき りんたろう)氏ほか多数の著名人からのコメントが紹介されています。
小説家の東川 篤哉(ひがしがわ とくや)氏からのコメントは、「ははん、だいたいわかったぞ!そう思った時には、もうアナタはだいたい作者の術中に嵌っているはず。この僕がそうであったように。」(同帯)と。
本当にそうなんですよ! このコメントどおり、凛も東川氏と同じでした。(^O^)

二番目は、表紙について。
第5刷では、表紙も「リバーシブルカバー」となっています。
表面と裏面が異なるデザインです。
ここでは表面のご紹介をします。

全体が紫がかった濃紺の中で、重厚な額縁の鏡の前に、長い髪の女性がいます。
白いシャツブラウスの襟元を紐状のリボンが結ばれていてアクセントとなっています。
ジャケットを羽織っている姿がとても凛々しいです。

帯のところで前述したように、探偵小石がこちらを見ながら微笑んでおりますが、何といっても眼力が強いのが特徴ですね。
「で、あなたの本心は?」「ホントのこと、わかってるのよ」と、こちらの心の奥底を覗かれているような感覚がいたします。
いえいえ、そんな、とんでもありません。疑われることなど何にもない凛なのですが……。( ;∀;)

装丁は、坂野 公一(さかの こういち)氏です。
装画は、はむメロン(はむ めろん)氏です。

それでは、内容に入ります。
プロローグから始まり、第一章から第五章、そしてエピローグという構成となっています。

探偵小石が活躍する舞台は、九州の福岡市内です。
凛の親戚や知人が多い福岡市とあって、駅名、地名や店名など実在しているので楽しく読むことができました。
もちろん福岡市をご存知でない読者も楽しめるはずです。(^-^)

小石は福岡市内で個人探偵事務所を営んでいます。
第一章の「恋は単純接触効果が九割」(同書、7頁)という冒頭の文からわかりますが、小石が代表と調査員を兼ね務める探偵事務所では、不倫などの調査を主としています。
この探偵事務所のスタッフは、小石のほかには、男性助手の蓮杖(れんじょう)と、バイトで勤務している事務員の女性、雛未(ひなみ)の二人がいます。

事務所には調査を望む依頼者が訪れます。
最初に登場するのが、佐藤 澪(さとう みお)という女子高校生です。
父親の不倫の調査をして欲しいという内容です。
Z世代である小石たちと、α世代の2010年代生まれの女子高校生たちとのやりとりが実に小気味よくて、凛はページがどんどん進みました。

読者は、探偵が実際に行っている様子を知ることができます。
探偵同士の合言葉や、具体的な追跡の仕方、そして見張りの行動など、「へえ、なるほどねえ」と。
もちろん、料金の話題もありますよ。

小石の機転に読者はアッと驚かされることが早くも起こります。
小石はタダモノではないということが!(^▽^;)

章を追うごとにあらゆる依頼者がこの事務所に訪れます。
そして、それに準ずるようにして奇妙な場面が……。
犯人と被害者との息詰まる場面に、読者は、この犯人は誰かしら?被害者は誰かしら?と推理しながら読み進めていくと……。

ミステリー小説なので、ネタバレにつながることは一切書けません。
なので、ここはさらりと軽やかに。
とにかく最初が肝心だけでなく、どの文章にも作者の思惑が込められています。
プロローグから本章まで二度読み必至です!

あとはあなたが読まれてからのお楽しみに! (*^^)v

作品の特徴として、三点挙げます。
一点目は、会話のテンポの速さです。
小気味よい会話の数々。

例えば、第一章12頁での小石と蓮杖との会話に、「僕、恋愛するときは中身に惹かれるタイプなんで、マジで大丈夫です」
「え、それロジックつながってなくない?」
(省略)
「なおさら危ないじゃん、ラブたけのこがにょきにょきしちゃう」
「〝内省〟って辞書で引いて十回音読してください」など。(同書)

尚、「なおさら」には、「、」が付いていて強調されています。
以下、随所に「、」の強調箇所があります。お見逃しなく!

二点目は、アナログな一面も大事にしていることです。
探偵の調査ですから最先端の技術を用いているのかと思えば、個人としての小石はさにあらず。
しかし、蓮杖が小石の特質を上手くフォローしています。

三点目は、ミステリー作品へのリスペクトがあることです。
京極夏彦(きょうごく なつひこ)氏の『魍魎の匣』(もうりょうのはこ)(10頁)などのほかにもたくさんのミステリー小説が登場します。

次に、作者である森 バジル氏について。
2018年に、「モノクロボーイと月嫌いの少女」第23回スニーカー大賞《秋》を受賞。☆彡 \(^o^)/
後に改題・改稿して、『1/2─デュアル─死にすら値しない紅』(角川スニーカー文庫、2019年)で出版。

2023年に、『ノウイットオール あなただけが知っている』第30回松本清張賞を受賞されています。☆彡 \(^o^)/
同年、文藝春秋から単行本で発刊、2025年には文庫化されて文春文庫から出版されています。
今後、期待できる作家さんのお一人です! \(^o^)/

最後に。
新しい謎解きの感覚が堪能できる森 バジル氏のこの作品には、随所に伏線が張り巡らされています。
テンポよい会話、アナログな一面を持つ小石の特質、ミステリー作品へのリスペクトの三点の特徴が挙げられます。
読後は、多くの読者に備わっているであろう固定観念や既成概念の払拭という新たな概念が生じる作品です。

探偵小石さんや蓮杖くんに会いたいと思う読者も多いのでは。
凛も会ってみたいですね! (^O^)

今年もよろしくお願いいたします! <m(__)m>

今夜もあなたにおすすめの一冊でした。(^O^)/

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森バジル(著)小学館(2025/09発売)
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2024年1月29日月曜日

今年こそ読破したい!紫式部の人生と並行して読める帚木ワールドの『源氏物語』 ~帚木蓬生『香子(かおるこ)(一)紫式部物語』(PHP研究所、2023年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらりにようこそお越しくださり、ありがとうございます。
お休み前のひとときに、どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

2024年がスタートして早くも一か月が過ぎようとしています。
今年の日本は元日からショッキングな出来事ばかり起きています。

ああ、今日も一日無事に過ごせました。感謝。
という安堵感で眠りに入れる日常の生活が如何にありがたいことでしょう。
平穏で過ごせる日々が最も幸せなのだと実感させられます。

合わせて、非常時のための危機感と水や食料などの備えが大事だということも再認識しないといけませんね。
あなたはいかがお過ごしでしょうか。

世の中はAIなどの新しい技術を導入する時代に既に入っています。
コスパ重視の世の中、スピードは年々早くなってきています。
しかしながら、敢えて古来から受け継がれている普遍的な事柄に注目したい、という欲求がわいてくるのは生身の人間だからでしょうか。

今年のNHKの大河ドラマは『光る君へ』ですね。
凛も毎週楽しんで視聴しています。
あなたはご覧になられてますか。

主演の吉高由里子(よしたか ゆりこ)さんが後の紫式部こと「まひろ」を演じておられます。
まひろさんはどのような経緯で『源氏物語』を執筆するようになるのでしょうか。
彼女の背景でうごめく公家政治の権力とは……。
テレビドラマですので、日本史の教科書で学んだ内容とは若干異なる部分もあるでしょう。
ひとつの娯楽作品として楽しみたいですね~ (^-^)

『源氏物語』全五十四帖。
あなたは読まれましたか。
実のところ凛は最後まで読んでおりません……。(^^;
凛はこれまで谷崎潤一郎(たにざき じゅんいちろう)訳、瀬戸内寂聴(せとうち じゃくちょう)訳、林望(はやし のぞむ)訳に挑戦してきましたが、いずれも途中までの断念組です。
これは現代語に訳された先生方の問題では決してありません。
誤解なきよう、あくまで凛個人の問題なのです。

他にも関連の解説書やガイド本など何冊も蔵書として保管しています。
とは名ばかりで、所謂万年積ん読状態ですね……。(^▽^;)

紫式部はどんなことを考えて人生をおくったのでしょうか。
『源氏物語』はどのようにして書かれたのでしょうか。
作中に出てくる和歌の内容をもう少し知りたいですね。

このような素朴な疑問を解決できるという、まるごとひとつにまとめられた小説があります。
紫式部の人生と『源氏物語』と和歌の解説などが同時に読める大変ありがたい作品が昨年末に出版されました。
帚木蓬生(ははきぎ ほうせい)氏の大長編小説『香子(かおるこ)(一)紫式部物語』(PHP研究所、2023年)です。
書下ろし作品になります。

タイトルに(一)が付いていることからわかるように、この作品は(五)になるまでの五か月の間、毎月連続して出版していくというPHP研究所の一大プロジェクトです。
第一巻は461頁と大変分厚い本ですが、慣れていくうちに気が付けば最後まで一気に読めました。\(^o^)/
漢字にルビがふってありますので読みやすくなっています。

はじめに、凛がこの本を知ったのは某ラジオ番組の本の紹介コーナーを視聴したことによります。
番組に生出演された帚木氏ご本人のお話によりますと、長い間従事されていらした精神科医院のお仕事をご卒業されて、専業の作家になられたとのことでした。

以前にNHKのテレビ番組で帚木氏を拝見した時は落ち着いた話し方の先生といった印象でしたが、ラジオのお声からは非常に明るく快活な方で、この作品への強い情熱が伝わり、新たな帚木ワールドを堪能できるなと思った凛でした。
本は市内の中心街の書店で購入しました。

そもそも「帚木蓬生」というペンネームからもわかることですが、「帚木」は『源氏物語』第二帖の「ははきぎ」、「蓬生」は第十五帖の「よもぎう」から構成されています。
帚木氏『源氏物語』に対する強い意志が伝わりますね!

次に、帯や表紙についてです。
一番目は、帯についてです。
凛が持っている本は、2023年12月26日刊行の初版本です。

表表紙側には、「千年読み継がれる物語は、かくして生まれた」と白地に赤い文字で目立つように書いてあります。
表表紙側の左下には、赤い枠に中に白字で「大河ドラマの主人公・紫式部(香子)の生涯×『源氏物語』」と書いてあり、大河ドラマ放映と同時期の刊行ということで、非常に期待感がわきますね~

帯の裏表紙側には、「五ヵ月連続刊行!」の下に、第一巻から第五巻まで簡単な説明文が紹介されています。
第一巻のところをご紹介いたしましょう。
「香子の物語」では、「父とともに越前へ、そして物語を書き始め……」と黒字で書いてあります。
その右の『源氏物語』では、「桐壺~末摘花の帖」(以上、同書)と赤い字で書いてあり、第一巻は六帖まで読めるのだなと識別できるようになっています。


二番目は、表紙についてです。
表表紙は、紫式部の上半身が描かれています。
裏表紙は、文机の前に座っている紫式部が描かれており、『源氏物語の有名な冒頭文「いづれの御時にか、……(中略)すぐれてときめき給ふ有りけり。」という文字が書いてあります。
表表紙、裏表紙とも格調高い仕上がりになっています。

装丁は、芦澤泰偉(あしざわ たいい)氏です。
装画は、大竹彩奈(おおたけ あやな)氏です。

それでは、内容に入ります。
作品の第一巻は、第一章の「香子(かおるこ)から第十五章の「懸想文(けそうぶみ)」までが収録されています。
凛が注目した四点について挙げます。

一点目は、「香子」という名前についてです。
第一章の始まりで、香子は当初は「きょうし」「きょうこ」と呼ばれていたところが、8歳の春に、父君の藤原為時(ふじわらの ためとき)から今後は「かおるこ」と呼ぶと決めたことを告げられました。
亡き実母が命名した「香子」。
これまで改まった席においては「きょうし」で、身内の間では「きょうこ」と呼ばれていました。

香子は、呼び名を替えることになった理由を父君に尋ねます。
父君は、「そなたの資質は、誰が見ても、他より抜きん出ている。」(第一巻初版本、5頁)と言って、香子の素晴らしい資質を認めています。
その上で、「そして誰もが認める、ひとかどの人物になる。その資質が薫(かお)るからだ。ちょうど、今匂ってくる紅梅(こうばい)のようにな」と。(同、5頁)
香子はまだ8歳なので深い意味はわからない様子でしたが、父君から高い資質を認められたことは彼女の生涯の自信につながったと捉えることができます。

二点目は、血縁と文学についてです。
歌人としては、香子の父方の曽祖父である藤原兼輔(ふじわらの かねすけ)がいます。
兼輔は中納言の位に出世し、醍醐(だいご)天皇の後宮に娘の桑子(くわこ)を入内させ、章明(のりあきら)親王をもうけさせます。
その時の歌が『後撰和歌集』に収められているとして、また、桑子の入内の話が『大和物語』に収められており、さらに歌集の『兼輔集』の存在など、香子はこれらを暗唱するなど繰り返し学んできました。

父方の祖父の藤原雅正(ふじわらの まさただ)や伯父の藤原為頼(ふじわらの ためより)も歌人でした。
香子には幼い頃から、伯父の為頼が所蔵する和書だけでなく、父君が収集していた漢籍など、和漢の多くの書物に触れる機会があったことが第一章に記されています。

第一巻の後の章になりますが、香子が『源氏物語』の執筆の際、父君や母君に読ませて感想を述べてもらいます。
両親が彼女の背中を後押ししてくれたことは創作の自信につながったことでしょう。
特に、母親が積極的に感想を述べてくれることが印象深いです。
このように幼い頃から文学を嗜む家庭環境から、香子の執筆に対する意欲が増したことは大きいですね。

また、『蜻蛉日記』との関係があります。
『蜻蛉日記』の作者は、藤原道綱(ふじわらの みちつな)の母です。
第二章「蔵人(くろうど)」では、香子の祖母から『蜻蛉日記』の作者が、香子の実母の父の藤原為信(ふじわらの ためのぶ)の兄である藤原為雅(ふじわらの ためまさ)の正妻の姉にあたる女性であることを再度言われます。
要は遠い親族が女流文学の先駆者で、日記文学の作者であったことは、香子にとって「書くこと」を意識した存在であったであろうと読者に知らしめています。

三点目は、死生観です。
香子は第一巻目から身内の死に遭遇しています。
生母、姉君の朝子(あさこ)、最初の結婚をした平維敏(たいらの ただとし)との死別があります。
自分を守ってくれ、愛してくれた人との別れは辛いものです。

「誠に人の世は、野分(のわけ)や雲、雨と同じで、人の手ではどうにも動かせない。その摂理(せつり)の下(もと)で、翻弄(ほんろう)され続けるのだ。」(同、230頁)
香子はこの世のはかなさ、無常観を体験し、やるせなさを感じたのではないでしょうか。

四点目は、帚木蓬生訳の『源氏物語』についてです。
まずは、素朴な疑問点をあげましょう。

何故に香子は『源氏物語』を執筆することになったのでしょうか。
香子は何の文学作品を手本にしたのでしょうか。
香子の執筆する過程を知りたいですね。

などの疑問点が読者には持つ方も多いかと思います。
これらについては、第十一章の「起筆」前後で読者は捉えていくことでしょう。
あなたが読まれてからのお楽しみに!(^^)/

帚木蓬生氏の訳の特徴として、気づいた点が二つあります。

一つ目は、主語が明確に書かれていることです。
凛は学生時代に『源氏物語』の長い一文の中で「主語を示しなさい」と設問に出てきたことを思い出しますねえ。
『源氏物語』は主語が省略されている文が多いため、主語が明確であると理解が深まりますね。

二つ目は、和歌の説明が本文中に簡潔にされていることです。
例えば、第十二章「雨夜の品定め」には、『源氏物語』第二帖の「帚木の訳が掲載されていますが、光源氏が小君に託した歌

「帚木(ははきぎ)の心を知らでその原の
   道にあやなくまどいぬるかな」(同、293頁)

の後に、あらかじめ歌の意味を現代語で説明した後で、
『古今和歌六帖』の、園原や伏屋(ふせや)に生(お)うる帚木の ありとてゆけどあわぬ君かな、を下敷きにし、」(同、同293頁)
と、女君が返歌するまでの経緯が丁寧に書いてあります。

このように和歌の一首ずつに説明書きが訳の本文中に書いてありますので、本文に解説書が合体したような感覚で読者は自然な形で読み進むことができるのです。
凛は和歌の嗜みがありませんので、これは大いに助かりますね。(^O^)

帚木蓬生氏については、凛のりんりんらいぶらり~で2020年7月14日付「日本の文字の始まりを知る」の項で『日御子(ひみこ)上・下巻』(講談社文庫、2014年)(ココ)に掲載していますので、こちらの項では割愛させていただきます。

最後に。
帚木蓬生氏の作品『香子(一)紫式部物語』は、紫式部の生涯を描いた物語と、『源氏物語』の現代語訳と、和歌の解説が合体した大長編小説を一度に読めるという楽しみ方ができます。
PHP研究所から、2023年12月26日発刊の第一巻から第五巻まで、毎月一巻ずつ発刊されるという一大プロジェクトです。
NHKの大河ドラマ『光る君へ』と並行して読むと、歴史文学としても理解が深まるというものでしょう。

『源氏物語』をまだ読まれていないあなた、どうしようかなと迷っているあなた、凛のように途中までのあなた、是非この機会にお気軽にトライしてみませんか。
会話文など現代の話し方と同じように表現されていますので肩こりしませんよ。

第十三章「越前の春」では、香子の弟の惟通(これみち)の名前の一字違いで、『源氏物語』光源氏の従者を惟光(これみつ)と設定した点について、香子の母君から指摘されたことが書いてあります。
「図星だった。書いていて、咄嗟に浮かんだ名前が惟光だった。」(同、354頁)
そうだったのかあと、あらためて紫式部の家族に対する温かい情愛が伝わってほのぼのとしました。
この後に展開する物語もきっと新しい発見があるだろうな、と期待感でいっぱいになった凛でした。

第二巻の刊行ももうすぐです。
大変楽しみにしています!
今年こそ『源氏物語』を読破します!\(^o^)/

今夜もあなたにおすすめの一冊でした。(^-^)

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PHP研究所-2023/12/13帚木蓬生(著)
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2021年9月7日火曜日

好きなものの羅列で読書好きにはたまりません! ~柳瀬みちる『神保町・喫茶ソウセキ 文豪カレーの謎解きレシピ』(宝島社文庫、2021年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

秋になりましたね~
これから毎日秋が深まってゆきます。
あなたはどのような秋をお過ごしされますか。
夏の疲れが出やすい時期ですね。
凛は読書の秋はもちろんのこと、食事や運動に気をつけて、さらに免疫力をつけたいところです。

凛は書店巡りが好きで、書店にいるとつい時間が経つのを忘れてしまいがちです。
毎日たくさんの新刊本が出ている中、書店員さんのお仕事は大変なんだろうなあと思いながら、店頭に並べられている本の乱れをそっと直してほんの少しだけお手伝いした気分でいます。

書店の街といえば、東京の神田神保町ですよね。
地方在住の凛は東京に出向いたときは必ず神保町を訪れます。
どうしてこんなに書店が必要なのかしらと思うくらいに様々な書店がありますよね。

神保町で可能な限り時間をかけて書店を見て廻り、お気に入りの本を購入した後は、喫茶店でブレイクタイム。
購入した本を開いて、カレーやパスタ、食後のコーヒーとデザートをいただく至福のひとときは最高です!\(^o^)/

今はコロナ禍でもあるため、凛は行けてません……。
また訪れたいな~といつも思っています。

そんな中、先日、三省堂書店が神田神保町にある本社ビルの建て替えのため、来年の3月で現在の営業を終了するというニュースが流れました。
(三省堂書店のHPより)

ひゃあ、これは大変だあ! ((+_+))
しばらくの期間、失われてゆく寂しさと新しいビルへの期待感とが交錯しそうですね。
三省堂書店の本社の神田神保町一丁目1番という住所には重みを感じます。

今回の本は、柳瀬みちる氏の小説『神保町・喫茶ソウセキ 文豪カレーの謎解きレシピ』(宝島社文庫、2021年)です。
タイトルでズバリわかると思いますが、本好きとカレー好きにはたまらない世界で、さらにミステリーのエッセンスが込められています。
この作品は書き下ろしですので、単行本はありません。

本好きが集まる神田神保町にて、喫茶店を営業し、文豪の名前をつけたカレーをお客様に提供している女性が奮闘する小説です。
カレーが大好きな作家が登場し、彼女と共に文豪の古書をめぐり謎解きを始めることになります。
さらに、二人の謎解きは彼女の出自にまつわるところまで発展します。

まずは、本の入手についてです。
今回は全国大手新聞の広告から偶然にこの本を知りました。
新聞の片隅に載っている小さな広告でしたが、偶然凛の目に留まり、「わあ!面白そう!すぐに読みた~い!」と凛のアンテナがピピピと反応しました。
本当に偶然としか言いようがなく、これもひとつのご縁といえましょう。
凛は新聞広告の切り抜きを持って街の書店に出向き、この文庫本を購入しました。

次に、本の装丁についてです。
凛が持っている文庫本初版の帯の表表紙側には、印度カリー子(いんど かりーこ)さんの笑顔の画像と「新感覚!カレー×ミステリーの共鳴」というメッセージが掲載されています。

帯の裏表紙側には、「喫茶ソウセキのカレーメニュー」として、「漱石カレー」「百閒カレー」「思ひ出カレー」の説明されています。
時代がかっているカレーが美味しそう!
「文豪カレー」にワクワクしてきますね~ (^○^)

表紙には、喫茶ソウセキの店主こと緒川千晴(おがわ ちはる)がカウンターの向こうでカレーを温めている様子と、イケメン作家の葉山トモキ(はやま ともき)がテーブル席で古書らしき本を読んでいる姿が描かれています。
もちろん彼が座っているテーブルには美味しそうなカレーが置かれています。
千晴は、真剣に本を読んでいる葉山を優しそうなまなざしで見つめています。
この二人の距離感がいいですね~

表紙のカバーイラストは、前田ミック(まえだ みっく)氏です。
カバー・本文デザインは、菊池 祐(きくち ゆう?)氏です。

では、内容に入ります。
目次を見ますと、四つの話とエピローグがあります。(以下、文庫本初版3頁)
第1話は、「三四郎はライスカレーの夢を見る」
第2話は、「冥途に咲くや、鬱金の花」
第3話は、「銀の皿に仰臥漫録」
第4話は、「神の灯が照らす石油カレー」
最後に、「エピローグ」となっています。

目次を見るだけで、カレーと文豪がつながっている感じがしますね。
はて、「石油カレー」とはどんなカレーなのでしょう?
まさか石油を食べるのではないでしょうね?

イラストを見る限り、緒川千晴が経営する喫茶ソウセキは、カレーなどをいただきながら読書ができるくつろぎのある印象がします。
しかし、千晴が出店した店は閑古鳥が鳴く有り様で、現実は厳しいところから物語は始まります。
確かに神田神保町は書店だけでなく、カフェや食事のお店の競争が激しい街だと考えられるので、27歳で出店した千晴は相当な努力家であることが想定できます。

読者は、千晴の成長とともに、古書や文豪、カレーの知識を得ることができます。
つまり、千晴の成長物語に読者は寄り添って読み進むことができるのです。

喫茶ソウセキには毎日カレーをいただきに訪れる男性、小説家の葉山トモキの存在が大きいです。
彼が店の看板メニューの「漱石カレー」を酷評したことから、千晴の文豪の旅が始まります。

作品には、夏目漱石だけでなく、内田百閒などの文豪の作品が多く出てきます。
千晴は葉山トモキの自宅を訪問して、彼の夥しい蔵書や無類の本の知識に驚きます。
読者は文豪の作品を再読したくなります。

さらに或る女性が千晴の店に置き忘れた古書を紐解く楽しみが芽生えます。
この古書は作品の重要なアイテムになりますが、あなたが読まれてからのお楽しみに。

また、千晴のカレーの新作メニュー開発に基づき、スパイスなどの知識も読者は知ることができます。
読みながら、スパイスの香りがし、カレーが無性に食べたくなります!!
凛の頭の中は、「ああ、カレーが食べたい!!」でいっぱいになりました!!(^○^)」を発見できるかどうかは、あなたが読まれてからのお楽しみに!

作者の柳瀬みちる氏は、2015年、小説「美大探偵(仮)─《カジヤ部》部長の小推理─」第1回角川文庫キャラクター小説大賞を受賞☆彡されました。
この作品は、改題して『樫乃木美大の奇妙な住人 長原あざみ、最初の事件』(角川文庫、2016年)で刊行され、作家デビューされました。

シリーズ化されて、小説『樫乃木美大の奇妙な住人 白の名画は家出する』(角川文庫、2017年)があります。

他には小説『横浜元町 コレクターズ・カフェ』(角川文庫、2017年)など活躍されています。

最後に、この小説は、文豪とカレー、古書、神田神保町、小説家の五点セットで読者を大いに楽しませてくれる作品です。
読書好きにはたまらない作品です!! \(^o^)/

文学好きなあなた、文豪の作品がたくさん出てきますよ~
また、カレー好きなあなた、スパイスの勉強ができますよ~
古書がお好きなあなた、東京都千代田区の神田神保町という日本最大の書店の街で繰り広げられる謎解きを大いに楽しみましょう!
小説家に興味があるあなた、作家である葉山の暮らしぶりを覗いてどのように感じるでしょうか。

戦争の時代を生きた祖父母からの繋がり、千晴を育てた両親の時代、そして現代を生きる千晴の世界を応援したくなる作品です。
小説家の葉山との関係や、千晴の喫茶ソウセキの今後がとても気になり、続編を期待したいです。
喫茶ソウセキはカレーの専門店ではないらしいので、他のメニューも紹介していただきたいですね。 (^o^)

今夜も凛からあなたにおすすめの一冊でした。(^-^)

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2021年5月13日木曜日

百年前と変わらないようですね ~菊池 寛『マスク スペイン風邪をめぐる小説集』(文春文庫、2020年)~

こんばんは。
南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

最近、また新型コロナウィルスの感染者が増加傾向にあり、緊急事態宣言下での生活を送られていらっしゃる方も多いですね。
あなたの暮らしに変化はありますか。

凛が居住している地域にも緊急事態宣言が発令されました。
凛の一日の生活はこれまでとさほど変わりはありません。
外出する機会も減りましたし、自粛する状況に慣れてしまったような昨今です。

凛はインドア派ですので、部屋に山のように積まれている本たちと触れる機会だなと思ってはいるのですが、凛の読書のスピードには変化はありませんねえ。
本たちも「凛さ~ん、出番を待っていますよ~、読んでくださいねえ」と呼び掛けているのがわかります。
「あなたたちの気持ちはよ~くわかっていますよ。でも、もう少しだけ待っていてくださいねえ」と申し訳ない気持ちで本たちに応えている次第です。
「もう少しだけって、一体いつまで待っていればいいの?」と反論されそうですが。(^-^;

いつも利用している近所の書店だけでなく、どこの書店の店頭でも一時期文庫本の新刊コーナーで目立っていた文庫本がありました。
その文庫本の赤い表紙には、大きな男性の顔のアップで、緑色の帯には白いマスクをつけています。
かなり大胆なデザインで、他の文庫本の中でもひときわ目立ちました。

凛が今回ご紹介いたします文庫本は、菊池 寛(きくち かん)氏の短編小説集『マスク スペイン風邪をめぐる小説集』(文春文庫、2020年)です。
この文庫本は繁華街の老舗の書店にて購入いたしました。

まずは、表紙のビジュアルな面から気になって文庫本を手にしました。
帯の表表紙側には、菊池寛氏とみられる丸い眼鏡をかけた中高年の男性が白いマスクをつけています。
そのマスクには、「私も、新型ウィルスが怖い。」と書いてあります。
そして、「マスク」「うがい」「外出せず」の三原則が書かれています。
現在の新型コロナウィルス対策で注意されていることと同じですよね。

文庫本の帯を外すと、男性はマスクをしていません。
マスクを外した菊池寛氏にそっくりな男性がこちらを見ています。
面白い仕掛けだなと思いますね。(^o^)

表紙のイラストは、茂狩 恵(もがり けい)氏です。
茂狩氏のイラストは、以前に凛がご紹介しております、堀川アサコ氏の小説『ある晴れた日に、墓じまい』(角川文庫、2020年)でおなじみですね~
表紙のデザインは、木村弥世(きむら みよ)氏です。

文庫本の表紙をめくると、菊池 寛氏の白黒写真が3枚掲載されています。
特に2枚目の写真には驚きました!
菊池氏が黒いと思われるマスクを着用しています。
昭和14年1月、新聞連載のため、中国を訪問している51歳頃の写真です。

このマスク姿の菊池氏ご本人を見て、凛は大変衝撃を受けました!
現在の凛たちとどこが違うのでしょう。
中国の大地に佇んでいる黒いマスク姿の男性。
凛が生まれるずっと前のことなのに、まるで今、凛の目の前に菊池氏が現れているような錯覚に陥りました。

内容は、9編の短編が収録されています。
「マスク」
「神の如く弱し」
「簡単な死去」
「船医の立場」
「身投げ救助業」
「島原心中」
「忠直卿行状記」
「仇討禁止令」
「私の日常道徳」

スペイン風邪は約百年前に世界中に猛威をふるった恐ろしいウィルスです。
そのスペイン風邪禍にあり、菊池寛氏の描く日本の状況と市井の人たちの姿が描かれています。

「マスク」
凛は、やはり第一篇目に収められている文庫本のタイトルにもなっている「マスク」が気になって読みました。
菊池寛氏の体格の良さそうなどっしりとした風貌ですが、実はとても神経が細やかな方のようで、日々の健康増進に事細かく気を遣っている様子が伝わりました。
医者との会話や、患者としての考えが読者には客観的に見られて、思わず「そうなんです。凛も同じです!」と共感したくなる箇所もあります。

手洗い、うがい、外出を避ける、マスクをする。
これらは現在の私たちをめぐる状況と全く変わりませんよね。(^-^)

後半に、黒いマスク姿の青年が登場します。
当初は菊池氏はこの青年を不快に思いましたが、その理由は是非読まれてみてください。
あなたも菊池氏の感情描写が実に繊細であることがおわかりになることでしょう。

昨年、マスクは一時期は品不足になりましたね。
しかし、今では様々なデザインのマスクが市場に出ており、洋服とコーディネートを楽しんでいる方たちもいますね。
「見なれる」とは不思議なもので、女性が黒いマスクを着用していても何も気にならずになり、むしろかっこいいなと思うこの頃。
これは、マスク姿が日常化している時代を私たちが生きている証拠でしょうね。
文庫本で9頁の作品ですが、コロナ禍の時代を生きている私たちの状況と変わらない描写に驚かれることでしょう。

「簡単な死去」
こちらの作品も秀逸です。
年の瀬の押し迫る或る新聞社で、社員の一人が亡くなったことを知った主人公や仲間たちの複雑な心理状態が見事に描かれています。
主人公は、やれやれと忙しかった一年を振り返りながら、残りの仕事の整理をしつつ、正月休みはどうしようかと、いわば一年の区切りを迎える安堵感ともいえる状況下で、突然仲間の訃報を知ります。
そこで持ち上がるのが、お通夜や葬儀の係をどうするかについての問題です。
生前はあまり好意的でなかった故人に対する複雑な思いがよぎったり、時間の経過とともに目の前の実務に対する胸中は、現在、組織の一員に所属している読者だけでなく、多くの読者にも、百年前とほとんど変わらぬ思いで共感を得られるのではありますまいか。

現在のコロナ禍で、人と人との関わり方に対して意識改革を求められているように思えてなりません。
ソーシャル・ディスタンスとは、どこまで距離感を保てばよいのか、なかなか難しい問題だと思います。
入院中や施設に入っているご家族への面会もままならない状況の方も多いです。
葬儀も家族葬だけでなく、直葬も増えているようですね。
故人を偲ぶとは……。
作品のタイトルにはとても考えさせられます。

「島原心中」
小説家として新聞小説を構想している主人公が、元検事を務めていた旧友を訪ねて、旧友の語る検事時代の体験談をじっくりと聞きます。
その体験談とは、旧友がまだ検事になってさほどない頃に、初めて島原を訪れて、或る楼閣で起きた遊女と若い男性との心中事件の調査に立ち合った時のことです。
悲惨な現場で見た光景に旧友は「名状しがたい浅ましさ」(文庫版、101頁)を感じます。
事情があって遊郭に身を置かなければならなかった一人の女性の生涯について、旧友は様々なことを感じます。

また、命が救われた男性のほうには、検事の腕の見せ所として、いろいろと考察しながら質問をしてゆきます。
そして、遊郭の「お主婦(かみ)」(文庫版、120頁)の言動や行動に表れた態度に対して、旧友は或る行動をするのです。
小説の材料として提供してくれた旧友の体験談は、法治国家としての期待を込められているような思いがいたします。

「私の日常道徳」
文庫本でわずか4頁の箇条書きです。
大正15年1月、菊池寛氏が39歳のときの作品。
「なるほど~」と納得できそうです。(^-^)

文庫本の解説は、作家の辻仁成(つじ ひとなり)氏で、解説「百年の黙示」が掲載されています。
辻氏は、1997年、小説『海峡の光』(新潮社、1997年、のち新潮文庫、2000年)で、第116回芥川賞を受賞☆彡☆彡されています。
フランス在住の辻氏ならではのコロナ禍における考えが示されています。

文豪、菊池寛氏については、ご存知の方が大半でしょうから、簡単なご紹介だけにさせていただきますね。
1919年(大正8年)に、雑誌『中央公論』に小説「恩讐の彼方に」を発表しました。
1923年(大正12年)1月、雑誌『文藝春秋』を創刊し、のち1926年(大正15年、昭和元年)に文藝春秋社として独立しました。
同年、日本文藝家協会を設立し、初代会長となりました。
1935年(昭和10年)には、芥川龍之介賞や直木三十五賞を創設するほか、1938年(昭和13年)には菊池寛賞の創設もしました。☆彡☆彡☆彡

以上のように、近代日本文学に多大な貢献を果たした菊池寛氏の小説を久々に読んでみますと、凛は背筋がピンと張り、文学に対してまっすぐな気持ちに向き合えるような気持ちになりました。
作品によっては一見難しそうな時代小説も含まれていますが、ルビがふってありますし、文章も心理描写が中心で、読みやすいと思います。
登場人物の一人一人に、作者の菊池寛氏による非常に細かい愛情が注がれていることが読者は読みとれるでしょう。

「マスク」というタイトルと、マスク姿の菊池寛氏であろう男性の顔のアップの斬新なデザインの表紙に導かれて読んだ小説から、凛は百年前のスペイン風邪の状況を知ることができました。
ウィルスと人間との共存について、対策の原点は例えどんなに時代が進んでも清潔にすることで同じではないかという点に辿り着くように思います。
コロナ禍を生きている私たちへの菊池寛氏からのメッセージとして対峙するのも新たな発見があるのではないでしょうか。

個々人としての基本的な対策は百年前と変わらないようです。(^o^)
もちろん医学や薬学の発達により、素晴らしい治療薬ができることに期待したいですね。

今夜も凛からお勧めの一冊でした。(^-^)

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2021年3月5日金曜日

奪われてしまうことの大きさに気づくか ~桐野夏生『日没』(岩波書店、2020年)~

こんばんは。
南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
本の話題でどうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

あなたは自由気ままな生き方を望んでいらっしゃいますか。
誰にも束縛されずに、誰からも咎められることもなく、我が道を思う如く生きていく。
ああ、自分の思うままに生きていけたらなあ。
などと、ロマンを感じる方も多いでしょう。

「自由」……とても深くて、簡単には説明ができないものですね。
この「自由」が、あるとき一瞬で奪われるとしたら!
あなたも日常における様々な「不自由」なことを想像してみましょう。

施設での一時滞在とはいえ、社会との接触を強制的に遮断されて、徹底的に管理された生活を強いられたとしたら、どうしましょう。

また、食事、睡眠、行動、言動など、これまでの生き方や考え方などを管理体制側の考えるうに方向転換させられるとしたら、窮屈なところではありません。
学校の部活の合宿や、新入社員の研修などとは違うのです。
そのようなディストピア的な体験を読者に知らしめてくれる小説があります。

今回、凛がご紹介いたします本は、桐野夏生(きりの なつお)氏の小説『日没』(岩波書店、2020年)です。

主人公の小説家であるマッツ夢井(ゆめい)は、ある時、国家の総務省文化局の文化文芸倫理向上委員会」(10頁)から召喚状が届き、施設に向かいます。
一時的な滞在であるということでしたが、そこは厳格な徹底管理主義の施設でした。
B98号という名前で、作家として、管理体制側の思考に合致する小説を書かされることになり、彼女は理解に苦しみながら、もがいていきます。

りんりんらいぶらり~では、前回に続き、今回も単行本のご紹介となりました。
今回もいつもの近所の書店の単行本の新刊コーナーで見つけました。
既に新刊ではなくなる時期だったようで、残り2冊が端っこにひっそりと佇んでいました。
「凛さ~ん、面白いですよ。買ってくださ~い」と本が自己主張しているのがわかりました。

手にとってみると、初版でした。
初版の帯の表表紙側には、「断崖に聳える収容所を舞台に(省略)戦慄の警世小説」と描いてあります。
ひゃああ、怖そう!でも、面白そう!( ;∀;)

裏表紙側には、「終わりの見えない軟禁の悪夢。」と描いてあります。
ますます怖そうで面白そう!!( ;∀;)

そして、裏表紙側の帯の上のほうに大きな文字で、「あなたの書いたものは、良い小説ですか、悪い小説ですか。」と目立つように描かれています。

そもそも小説の良し悪しとは、誰が判断するのでしょう。
出版社の編集者?
文学賞の審査員の先生方?
作家自身?
それとも読者?
ひとつの作品は、時代の変遷によっても評価は異なっていくものでしょう。

作家が主人公となる物語で、収容所に強制収監されて、いろいろと体験する物語です。
お気に入りの桐野夏生氏の作品でしたし、内容がとても気になり、凛はすぐに読んでみたくなりました。
文庫本になるまで待てません。
単行本でしたが、エイッ!と思い切ってレジに行きました。(^-^)

表紙は、大河原愛氏の油彩画「深窓の森」(2016年)で、白黒で表現された人の上半身の後ろ姿が描かれています。
その人物の周りを黒い墨のような絵の具で塗られているように見えます。

やはり、桐野作品は読みだしたら止まりません!
ミステリー仕立てですので、先が気になり、一気に読めますよ!
ストーリーはあなたが読まれてからのお楽しみになさってください。

この作品で、凛が気になった点を四つあげますね。

一点目は、主人公の生き抜いていく力強さと脆さが気になりました。
彼女は強く反抗したり、時には従順であったり、試行錯誤しながら時が過ぎていく間に、様々なことを発見し、理解していきます。
瞬間的な判断能力が研ぎ澄まされていく過程がよくわかります。

二点目は、主人公が収容所内で書かされる小説の内容が興味深いです。
架空の家族関係を書いていますが、内面を鋭くえぐっています。

三点目は、施設での人間関係の不気味なことです。
収容所の所長との対峙だけでなく、職員たちとの接触がピリピリとしており、一触即発で瞬間的にトラブルが起こるような緊張感があります。
また、仲間であるはずの者が敵か味方かも不明です。

四点目は、食事の大切さですね。
貧弱な食事内容に適合していく彼女の身体の変化がみられます。
食べることに対して、全神経が研ぎ澄まされていく主人公の変貌ぶりが激しいです。
やはり栄養摂取は大切だなと気づかされます。

以上の点から、突然自由を奪われ、軟禁状態に置かれた環境下にある閉塞感の中で、人の心身がどのように変化していくのかを執拗に読者に提示しているのだと凛は考えました。

「作家」という職業に籍をおく桐野夏生氏の筆力が、息苦しくなるほどの圧倒感をもって読者にぐんと迫ってきます。
そして、自由を失うことの意味や、あらゆるものを奪われることの不条理さに、凛は慄然となりました。

お休み前のひとときですが、あなた自身を別のシチュエーションに置き換えて考えてみるのも読者の「自由」ですよね。
例えば、もしも病院で一時的に入院することがあるとしたら、などと身近なことに考えてみるのもよいかもしれません。

時代はどんどん先へ進んでいきますので、いろいろなことに気づきを与えてくれる小説です。
作家だけでなく、読者に対しても、「大切なもの」を奪われてしまうことの大きさについて、桐野氏からの問いかけが込められています。
最後に、この作品のタイトルの意味について、痛烈に考えさせられた凛でした。

桐野夏生氏は、非常に多くの賞を受賞された人気作家です。
1998年、小説『OUT』(講談社、1997年、のち講談社文庫(上下巻)、2002年)で、第51回日本推理作家協会賞(長編部門)を受賞☆彡されています。
この作品は、2004年、エドガー賞最優秀賞作品賞にノミネートされています。
2002年に映画化され、平山秀幸監督、原田三枝子さん主演でご覧になられた方も多いしょう。

1999年、小説『柔らかな頬』(講談社、1999年、のち文春文庫(上下巻)、2004年)で、第121回直木三十五賞を受賞☆彡☆彡されています。

桐野氏は以上のほか、ここでは書ききれないくらい受賞歴があります。
また、2015年には紫綬褒章を受章☆彡☆彡☆彡されています。

常に時代の先端に視点を置き、鋭い感性で問題提起をされて、小説として読者に提供されている桐野氏は、女性のファンが多いです。
いつだったか忘れましたが、凛は桐野氏のサイン会で握手を求めたことがありました。
「ファンです!」とご挨拶すると、桐野氏は聞こえないくらいの小さな声で笑顔でお答えになられて、とってもシャイな方なんだなと思いました。
握手していただいた手の感触がとても柔らかでした。(^-^)

桐野氏の作家としての目線が力強く主張されている作品であると凛は捉えました。
作家・桐野夏生氏からの強力なメッセージをがっしりと受け止める体力を備えて、この本と向き合いましょう。
読み始めたら、ラストまで直行です!
あっという間に時間が経ちます。

今夜も凛からあなたにおすすめの一冊でした。(^-^)

桐野夏生氏のHPの-BUBBLONIA-は、こちらです。

岩波書店『日没』特設サイトは、こちらです。
https://www.iwanami.co.jp/sunset/

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(日本語)単行本-2020/9/30桐野夏生(著)
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2020年10月8日木曜日

名作と医療小説が同時に楽しめます

こんばんは。
南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださいましてありがとうございます。
と共にどうぞおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

秋も深まってきましたね。
朝晩はだいぶ涼しくなってきました。
あなたはお風邪などひかれていらっしゃいませんか。

今年は新型コロナウィルスの影響で、例年よりもさらに健康に留意されていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。
入店時などアルコール消毒や体温チェックをする機会も随分増えました。
相変わらずマスクは必需品です。
普段の暮らし方も昨年とは様変わりしましたね。

あなたも日常的に健康に気をつけていらっしゃることでしょう。
学校や職場での健康診断や人間ドックなどで判明した数値とにらめっこしながら、気をつけるべき点をかかりつけ医とご相談されていらっしゃいませんか。

まずは毎日の食事の面から、栄養を考えることは必須でしょう。
また、サプリメントをとりいれたり、運動などで日頃から健康を意識していらっしゃることでしょう。
次に、気持ちを明るくして、ポジティブに考えることも必要です。
さらに、計算をしたり、記憶力を高めるための努力も求められましょう。

しかし、いくら健康に気をつけてはいても、様々な病に罹患することがあります。
伝染性の疾患だけでなく、日々の暮らし方による生活習慣病もありますし、遺伝的な要素を含めての病気もありましょう。
意図しない癌などがそろりそろりと知らないうちにしのびよってくることもあります。
或いは、不慮の事故などによる怪我もあります。
目や歯科の検査や治療も大事ですね。

加えて、高齢化社会が進んでいる社会では、認知症などの問題もあります。
ご自分の健康だけでなく、近年は高齢者の介護も深刻です。
介護難民や介護離職、老々介護なども社会問題化しています。
若い世代の人口減により、高齢者を支えていく社会において考えるべき課題が多々あります。
我が身が高齢になってどこでどのように過ごすのか、日頃から考えておかないといけないとは頭の中で理解はしていても、なかなか簡単には結論を出せずに迷いが生じて、逡巡しながら時だけが経っていくようにも思えます。
これらの問題のひとつひとつをクリアすることが、安心して暮らせる社会をつくることになります。
なかなか難しいものですね。

実際に医療従事者の視点ではどう考えていらっしゃるのでしょうか。
現実に日々患者さんやそのご家族とどのように応対されていらっしゃるのでしょう。
果たして、医者としての本音は?
医者個人としての考え方と、病院という組織や、医学界という大きな枠組みの中での考え方には違いがあるのでしょうか。
などと凛はしばしば疑問に思うのですが、あなたはいかがでしょうか?

このような深刻になりがちな医療の諸問題を、医者の観点から描いた医療小説があります。
今回、凛がおすすめするのは、一般的な医療小説ではなく、有名な文学作品をパロディ化した小説で、基になる文学作品と二重に楽しめる作品です。
久坂部羊(くさかべ よう)氏の短編小説集『カネと共に去りぬ』(新潮文庫、2020年)です。
この作品は、2017年に新潮社より単行本として刊行されています。

まずは表題の『カネと共に去りぬ』には、1939年に公開されたアメリカ映画の『風と共に去りぬ』(ヴィクター・フレミング監督)をすぐに思い浮かべる方がほとんどでしょう。
映画は日本では1952年に公開されました。
原作は、マーガレット・ミッチェル氏の長編小説で、1936年に出版され、翌年の1937年にピューリッツァー賞小説部門の受賞☆彡☆彡☆となっています。

最近、よく利用するようになった老舗書店の文庫本新刊の棚でこの文庫本を発見したとき、凛は思わず微笑んでしまいました。(^-^)

その理由は、表紙に興味をひかれたからです。
2020年8月に刊行された文庫版初版のカバー装画は浅賀行雄氏のものです。
表紙が映画のポスターのようになっています。

表紙は、レッド・バトラーに似たようなご高齢の男性が、ケイティ・スカーレット・オハラに似たような深紅のドレスをまとったご高齢の女性を抱えている絵です。
表紙の下の方には、「列戸馬虎」「小原紅子」の他に、「入楠明日礼」「入楠女良」「玉井安子」と書かれてあります。
「原作 久坂部羊」で、「配給 新潮文庫」と書いてあります。
まさに映画のポスターのようで、小説のファンのみならず、映画ファンにもなじみやすいように工夫を凝らしてあるのがわかります。

また、帯の表には「劇薬医療エンターテインメント!」と凛のアンテナをピピピと刺激してくれる紹介がなされていましたので、そのまま書店のレジに直行いたしました。

この短編集には、7編の短編小説が収められています。
「医呆人」
「地下室のカルテ」
「予告された安楽死の記録」
「アルジャーノンにギロチンを」
「吾輩はイヌである」
「変心」
「カネと共に去りぬ」
以上の7篇です。

この中で、あなたはいくつの名作がおわかりになられましたか。
文庫本の最後に、書評家の大矢博子氏の解説が掲載されています。
その解説の中にも、各短編の元になった名作の7人の作家の名前が紹介されていますので、ご一読ください。

凛がこの短編集を読んで、久坂部羊氏という作家の、医療と文学に対して真摯に向き合っている姿勢に感心した点が二点あります。

第一は、医療の点です。
凛は、どの短編にも「あらまあ、なるほどそうだったのか!」と医者の本音が率直に描かれていることに感心しました。
もちろん医療従事者としての久坂部氏個人のお考えであって、全ての医者がこのように考えていることではないと考えられます。
しかしながら、社会では本音と建て前がある中で、患者の生命に対する尊厳というものが大前提にありますから、医療現場ではなかなか聞くことができない話でしょう。

第一篇目の「医呆人」は、1942年に刊行されたアルベール・カミュ氏の『異邦人』(窪田啓作訳、新潮社、1951年のち新潮文庫、1954年、改版、2014年他多数)が元になっています。
亡くなられた患者の真万(ママン)さんの死について、主人公の村荘(むらそう)医師はご遺族の息子さんに向けて、真万さんの死を肯定する言葉を放ちます。
上司である外科部長や医長が激怒するのは当然でしょうね。
それは、今後の病院運営が絡むことが理由で、医師の評価や出世、世間の評判、ご遺族からの訴訟など複雑な問題が根底に流れています。
しかし、村荘医師は彼らにも実にそっけない態度を貫きます。

ここでは村荘医師の医者としての本音と、上司たちの建て前との対比がよく描かれています。
医師が患者に寄り添うこと、患者とご家族の立場を理解すること、患者が苦しまないこと、患者やご家族の不安を払拭すること、検査と治療を繰り返すことなどについての課題が挙げられています。
それらの課題に対して、医師としての久坂部氏の意思が反映されているものであると、凛は考えます。

1957年にノーベル文学賞を受賞☆彡☆彡☆彡されたカミュ氏の不条理小説と呼ばれる代表的な小説『異邦人』のムラソーと同様に、この村荘医師は周囲に対して常に温もりに欠ける態度をとります。
そして、ショッキングな結末を読者に提供します。

第二に、文学に対する視点です。
凛は、これらの7篇の短編が、各文学作品ごとに原作を重視して、描き方もそれぞれに細部にわたり変えていることで、七つの違う小説として充分楽しむことができました。

例を挙げますと、第5篇目の「吾輩はイヌである」は、夏目漱石氏の長編小説『吾輩は猫である』が基盤になっていることはおわかりの方も多いことと思います。
この作品は、夏目漱石氏にとって処女小説であり、俳句雑誌の『ホトトギス』に、1905年(明治38年)の1月から翌年の8月まで連載されました。
のち1905年、夏目金之助『吾輩ハ猫デアル』上巻が大倉書店より刊行され、1906年に同書店から中巻、1907年に同書店から下巻だけでなく、他多数刊行されています。

久坂部氏の「吾輩はイヌである」のほうですが、ビーグル犬の「マダナイ」(文庫版、198頁他)という名前が主人公になっています。
書きだしが夏目の小説と非常によく似ています。
そして、夏目氏の猫のほうの小説が第十一話で終わるのと同様に、久坂部氏のイヌの小説も十一で終わっています。

ビーグル犬の「マダナイ」は動物実験用として生を受けています。
大学病院の循環器内科の医局に売られてきて、収容施設で同じビーグル犬の先輩から自分たち実験用動物の行く末を教えられます。

「マダナイ」は「幸運の星」(同書、205頁)と呼ばれ、新しいゲージに移されて、何やら怪しげな実験を受けるのです。
「マダナイ」は実験で具合が悪くなっても、治すのが目的なのだからと希望をもち続けています。
この研究室に出入りする医師たちの名前も非常にユニークです。

そして、彼らの日頃の会話から垣間見える医療現場の実態について、「マダナイ」はゲージの中で見聞きし、理解していきます。
ある時は彼らに共感し、またある時は彼らの関係生を皮肉に思いながら、「マダナイ」は医学界における様々な側面に対して冷静に受け止めていきます。

最後の十一では、、
凛はこれが実に切なくなって、胸にジーンときてしまいました。

作者の久坂部羊氏は、医者であり、作家です。
外科医、麻酔科医を経て、外務省に入省、在外公館で医務官を務められました。
のちに作家になられ、2014年、長編小説『悪医』(朝日新聞出版、2013年、朝日文庫、2017年)で、第3回日本医療小説大賞を受賞☆彡されました。
医師として務めながら、多くの小説を創作されていらっしゃいます。
長編小説『神の手』(上・下)(日本放送出版協会、2010年、幻冬舎文庫、2012年)など、のちに映像化された作品もあります。

久坂部氏は短編集『芥川症』(新潮社、2014年、新潮文庫、2017年)でも文学作品を基にしてパロディ化した医療小説を創作されていらっしゃいます。
医療業界の闇と光を、大衆にわかりやすくそれらの実態を医師としての視点から訴えていらっしゃる姿勢に、文学作品としても決してエピゴーネンではないことがいえましょう。

また、久坂部氏は本名の久家義之氏として、『大使館なんかいらない』(幻冬舎、2001年、幻冬舎文庫、2002年)などのエッセイも出版されていらっしゃいます。

誰しも健康を大切にと願うのは同じでしょう。
この短編集を読んで、凛も生命の尊厳とは何かなど、様々なことを考えされられました。
医療小説として、また文学作品として二重に楽しめる短編集です。

今夜もあなたにおすすめの一冊でした。(^-^)

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(日本語)文庫-2020/7/29久坂部羊(著)
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