2021年11月2日火曜日

相手を思いやる気持ちが故に ~長岡弘樹『夏の終わりの時間割』(『救済 SAVE』講談社、2018年、のち改題して講談社文庫、2021年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

長らくの間、ご無沙汰いたしております。

前回からの更新がすっかり遅くなってしまいました。(>_<)
既に一ヵ月以上……。
10月の更新は全くゼロ状態です……。(T_T)
私的な所用があって、なかなかブログ更新にまでたどり着くことができずにいました。

凛の焦ることといったら……。 (-_-;)
この期間、とてもとても気になって落ち着きませんでした。
お休みしている間にりんりんらいぶらり~を訪れてくださったあなたには感謝の気持ちでいっぱいです!
ありがとうございました! m(_ _)m

あなたはいかがお過ごしですか。
11月!気がつけば季節は進み、紅葉の季節。
朝晩はすっかり冷えてきましたね~

凛も忙しいときこそ意識して体調管理に気をつけていきたいです。( ;∀;)
絶対風邪ひけませんから!!

さて、今回の作品は、長さは短くても中身は濃い人間ドラマが描かれている秀作ぞろいのミステリー短編集です。

長岡弘樹氏のミステリー短編小説集『夏の終わりの時間割』(講談社文庫、2021年)です。
この作品は、2018年に講談社から『救済 SAVE』という題で発刊されました。
のちに文庫化にあたり『夏の終わりの時間割』に改題して、2021年に発刊されました。

「夏の終わり」というくらいですから、凛は10月の更新時に掲載する予定でしたが、秋が深まってきた11月の掲載になってしまいました。
日本の移り変わる四季から季節感がずれてしまいました。
しかし、内容はあなたがいつでも読まれても構わない作品です。

はじめに、本の入手についてです。
凛が持っている本は文庫本の初版です。
いつもの近所の書店で出合いました。

文庫本の帯の表表紙側には、「「困難の今こそ、『救い』の物語を。」と紹介されています。(文庫本初版)
それから「サプライズと人間ドラマが溢れる」とも描いてあります。

文庫本の帯の裏表紙側には「読み始めたら止まらない」「極上ドラマ」として、6編の説明文が掲載されています。
例えば、表題の「夏の終わりの時間割」では、「放火容疑のかかった友人に小6男子が迫る」と出ています。(同)

また、裏表紙側の紹介文では、「ほろ苦くも優しく温かなミステリ集」と描かれてあります。(同)
犯人捜しだけではなく、奥に秘められた人間ドラマが堪能できそうな感じがしますね。
なかなか興味が出そうなミステリー6編です。

次に、本の装丁についてです。
樹木が鬱蒼と生い茂った森の入り口でしょうか。
正面に、黄色いフード付きのパーカを着ている少年が背中を見せて立っています。
両手をきちんと両足の太腿につけて、まるで「気をつけ」をしているかのようです。

少年の顔は読者にはわかりませんが、彼の視線は樹木の生えている暗い向こうを見つめているのでしょうか。
それとも樹木たちの上の青い空を見ているのかもしれません。
姿勢を正している彼の背中からは、何か事情がありそうですね。

文庫本の表紙のカバー装画は、宮坂 猛(みやさか たけし)氏です。
文庫本の表紙のカバーデザインは、大岡喜直(おおおか よしなお?、next door design)氏です。

では、内容に入ります。
文庫本初版3頁の「目次」を見ますと、全部で6編のミステリー小説が収録されています。
文庫本の最後の「解説」まで含めても218頁ですので、さほど厚くなく、あっという間に読破できるのではないでしょうか。

「三色の貌(かたち)」
「最期の晩餐(ばんさん)」
「ガラスの向こう側」
「空目虫(そらめむし}」
「焦げた食パン」
「夏の終わりの時間割」(同、目次3頁)

これらの6編の中で、凛は4番目の「空目虫」を取り上げてみます。
「空目(そらめ」」とは、見えていないものを見えているように思ったり、逆に見えているけれども見てみないふりをしたり、見誤ったりすることですが、この「空目」という言葉は重要なキーワードになっています。
「空目」に「虫」が付くと、果たして何を意味しているのでしょうか?

文庫本の帯の裏表紙側の紹介文では、「介護福祉士が認知症患者たちを笑顔にしようと奮闘する」(同)と掲載されています。

グループホームの介護福祉士である「高橋脩平(たかはし しゅうへい)」は、腰痛を持病とするほど仕事熱心で、入居者たちの様子をよく観察しています。
四十歳を目前にした脩平は、入居者である高齢の認知症患者たちをどのように改善していけばよいのかを常に考えています。

例えば、笑わない入居者にどうすれば笑顔が出るかなど。
脩平は丁寧に認知症患者と接しており、凛も「ああ、そうすればよいのか」「介護のプロからこんなに寄り添って見ていただくといいなあ」など、読みながら参考になりました。

施設長の「坂東阿佐美(ばんどう あさみ)」は脩平にカメムシが一匹入っているジャムの瓶を見せます。
彼女の発する言葉が意味深でなかなか怪しげです。
上司として、近すぎず、遠すぎずという距離感をもって部下の彼と接していることが伝わってきます。
脩平を褒めることも務めています。

施設長である彼女は、「高橋寿郎(たかはし としろう)」という70代後半の高齢者の男性についての業務を脩平に指示します。
脩平はこの男性についても丁寧に接します。
「高橋」という同じ姓で脩平は何かを感じつつ、この高齢者を笑わせようとしますが……。

全体に漂う輪郭がはっきりとしない灰色の空気感の中で、瓶のカメムシを登場させて、読者は最後に「ええーーっ!まさか!」という結末を迎えることになります……。
あとはあなたが読まれてからのお楽しみに。 (^-^)

短編ミステリーですので、どの作品もあっという間に読めます。
作品のタイトルだけでなく、本編の文章や登場人物の会話、アイテムなど、伏線が敷かれています。

読後に登場人物たちの関係性がよくわかり、まさに作者は彼らから「救い」を求められたのだということで、熟考されたドラマが提供されているものであると凛は考えます。

文庫本の「解説」は、文芸評論家の大矢博子(おおや ひろこ)氏です。
大矢氏、ミステリーのジャンル分けとして、「フーダニット(犯人探し)」と「ホワイダニット(動機探し)」があると説明されています。(同、215頁)
大矢氏が説かれたように、このミステリー集は後者の方であろうと凛も思いました。
詳細は「解説」を読まれてくださいね。

作者の長岡弘樹氏は、2003年、小説「真夏の車輪」で、第25回小説推理新人賞を受賞☆彡されました。

2008年、小説『傍聞き』(双葉社、2008年、のち双葉文庫、2011年)で、第61回日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞☆彡されました。

また、警察小説の『教場』(小学館、2013年、のち小学館文庫、2015年)は、2013年、「週刊文春ミステリーベスト10」の国内部門で第1位☆彡を獲得しました。
翌年、「このミステリーがすごい!」で第2位☆彡に、同年の第11回本屋大賞では第6位☆彡になりました。
「教場シリーズ」として続々刊行され、テレビドラマ化もされています。

長岡氏は他にもミステリー作品を多く刊行されており、短編ミステリーの名手としてご活躍されています。(^_^)v
今後も注目したい作家です。

最後に。
ミステリーというジャンルにとらわれずに、人間同士の関係性を問うたドラマが展開されている短編集です。
どの作品も読後には登場人物の気持ちが伝わり、胸が迫ってくるものがあります。
再度最初の頁に戻りたくなります。
作者の彼らに対する優しいまなざしが込められているのがわかります。 (^o^)

また、読後に伏線を確認することも楽しみのひとつです。
再読すると、「あ、ここがそうか!」「なるほど、そうだったのか!」と新たな発見がありました。
このような作者との対峙も読者の愉楽となりましょう。 (^○^)
短編ですから、気軽に繰り返し読めますよ~

今夜もあなたにおすすめの一冊でした。(^-^)

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