2022年7月2日土曜日

「老後のマネー小説」2作品を読んでみた(その2) ~松村美香『老後マネー戦略家族!』(中公文庫、2017年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

前回の(その1)(ブログはこちらからの続きです。

凛は、「老後のマネー小説」2作品を読みました。
前回の(その1)からの説明が重複しますが、読んだ小説は以下の2作品です。
1作品目は、垣谷美雨(かきや みう)氏の小説『老後の資金がありません』(中央公論新社、2015年、のち中公文庫、2018年)です。
2作品目は、松村美香(まつむら みか)氏の小説『老後マネー戦略家族!』(中公文庫、2017年)です。

(その2)では、2作品目の松村美香氏の小説『老後マネー戦略家族!』(中公文庫、2017年)をご紹介いたします。

凛はネット書店で購入しました。
タイトルの「家族」には「ファミリー」とルビがふってあります。
文庫本書き下ろしで、凛が持っている初版の文庫本には帯はついていません。

裏表紙の説明文からは、「崖っぷち」山田(やまだ)家の「財テクワールド」3,000万円!の奮闘劇が描かれているということがわかります。
なるほど、不安ばかりに覆われてはいけませんよね。
資産運用の話なのかなと期待できそうです。(^_^)v

文庫本の表紙は、全体が黄色の中、山田家の4人家族が机に横に並んで座っており、各人が腕を組んだり、ノートPCとにらめっこしたりなどして、金策を練っている様子がうかがえます。
机上には、ブタの貯金箱や電卓、筆記用具などいろいろな物がたくさん置かれてあります。
この四人の頭上をお札や硬貨がたくさん舞っています。

表紙のカバーイラストは、北極まぐ(ほっきょく まぐ)氏です。
カバーデザインは、bookwallです。

山田家のご主人は、メーカー勤務の技術畑で実直な50代の会社員です。
ご主人は会社の同僚の早期退職を知り、これまでの自身の生き方について考えさせられることになります。
何故ならば、計画的な資産運用で退職後の生活の目途をつけていた同僚の表情が実にさばさばしていて明るかったからです。

山田家の奥さんは45歳の専業主婦です。
長女は大学生で自宅から通学しています。
銀行員の長男が社会人となって家族も安心していた矢先、唐突に退職して実家にこもってしまったことから、山田家の人たちに様々な目覚めが生まれます。

さらに、ご主人は意図しない方向で転勤を命じられます。
ご主人はベトナムへ出張した折り、現地に派遣されていた先輩や後輩との出会いから、入社以来頑なだった会社や仕事に対する価値観に変化が生じてきます。

長男と図書館で出会った少年とその妹、そして少年らの母親との出会いが山田家には新たな発見が生まれます。
奥さんがパートで働き始めたコンビニでの青年スタッフとの出会いなど、様々な人々との交流から、凝り固まっていた価値観と心理状態がほぐれていく過程がわかります。

また、ご主人の実家の問題が生じますが、親族との軋轢はどこのご家庭にもありそうな会話が飛びかいます。
都内で美容室を多角経営しているご主人の姉の存在が光ります。

松村氏がこの小説で読者に伝えたい事柄は、作品の前半に集中して太字で描かれていることが特徴です。
全編において数字が具体的に出てくるので、投資への期待感があります。
「前へ、前へ」と背中を押される感じがあります。(^o^)
つまり、データが古いため、円安が進んでいる現在に適用できるかどうか決して定かではないということです。
やはり財テクを行なうには、個人の学びと責任が必要だと考えます。

この山田家の現在はどうなっているのでしょうか。
経済に詳しい読者には、逆に2017年当時の山田家の財テクが正しかったかどうか、検証できるという読み方もあるでしょう。

作者の松村美香氏は、国際開発コンサルタントとして、ビジネスの最前線で実践に研鑽を積まれていらっしゃる方です。
2008年に、小説『ロロ・ジョングランの歌声』(ダイヤモンド社、2009年)第1回城山三郎経済小説大賞を受賞☆彡されています。
この作品は改題して『利権聖域─ロロ・ジョングランの歌声』で2012年、角川文庫から出版されています。

大変な状況である中、目標を設定して、前向きに捉えて進む家族の姿に逞しさを覚えます。
様々な人々との出会いも「ご縁」ということで良い方向に進む山田家の各人の明るさには共感を覚える読者が大勢いらっしゃることでしょう。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

以上、(その1)と(その2)の2作品をご紹介いたしました。

最後に、(その1)と(その2)について、まとめます。
社会人となり、結婚して子供2人をもうけ、車と住宅を取得し、住宅ローンを払い続けながら定年まで勤めあげるという「中流意識」は、どこかの段階で崩壊するかもしれないということですね。
もしかしたら最初から「中流意識」など幻想に過ぎなかったのかもしれません。

まして、老親の問題が突然生じ、それに伴って親族との確執も乗り越えてゆかなければなりません。
成長した子供たちは不安定な時代を生きています。
加えて、家族の健康の問題もあります。
雇用の安定さえままならない現代群像劇の展開により、決して他人事ではない状況で両作品とも読者に迫ってきます。

「風の時代」の訪れとともに、これまで抱いてきた「安定」「中流」という価値観について、読者に問うている小説であると凛は考えます。
果たしてお金だけに価値を置いてよいものでしょうか。
しかしながら「老後のマネー」は現実の問題として老いとセットで確実に迫ってきます。
現代の日本人には決して避けては通れない道でしょう。

あなたはどのように受け入れていかれますか。

凛は、やはり宝くじは買い続けていこうと思いました! ( ;∀;)
宝くじの制度がなくなったら、あら、どうしましょう。

今夜も凛からあなたへおすすめの小説、2作品でした。
今回はいつもの2倍、ちょっと長かったでしょうか~
次回もまたよろしくお願いいたしますね。 (^-^)

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「老後のマネー小説」2作品を読んでみた(その1) ~垣谷美雨『老後の資金がありません』(中央公論新社、2015年、のち中公文庫、2018年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

お元気でいらっしゃいますか。
はて、梅雨はあったのかしら、と思ってしまうくらいにあっという間に6月が過ぎ去り、日本はすっかり真夏となりました。
アイスが食べた~い!
アイスコーヒーが飲みた~い!
あまり冷たいものばかりをいただくと体が冷えてしまいますね……。(^-^;

メディアを通して電力逼迫による節電を毎日呼び掛けられて、余計に暑さを感じてしまうのは凛だけでしょうか。
家電量販店ではエアコンの品不足だとか。
熱中症の対策も然り、部屋の換気不足によるコロナ対策も然り、運動不足による体力問題と、次々に不安材料が増している現状ですねえ。

おまけに円安も加わって、食料品や日用品の値上げが次々と発表されています。
買物に行って、少しずつの値上がりを感じますねえ。
いずれも生活必需品ですので、日々の積み重ねによって、やがては生活に支障を来すことに!
なんてことにもなりかねない漠然とした不安感で覆われる昨今……。(-_-;)

かつて老後2,000万円問題も報じられましたね。
凛にはまだまだ先の話かとも思っておりましたが、「光陰矢の如し」と時の経つのは早いですから、必ず凛にも老後が訪れるのは明らかですものね。
それ故に、文学作品を通して「老後のマネー」について考えてみようと、「老後のマネー小説」2作品を読んでみました。

1作品目は、垣谷美雨(かきや みう)氏の小説『老後の資金がありません』(中央公論新社、2015年、のち中公文庫、2018年)です。
2作品目は、松村美香(まつむら みか)氏の小説『老後マネー戦略家族!』(中公文庫、2017年)です。
後者は文庫本書き下ろしで、タイトルの「家族」には「ファミリー」とルビがふってあります。

凛が何故「老後のマネー」という同じテーマを扱った2作品を連続して読んだのかと申しますと、両作品には共通点が多く、一見似たような家族の設定ですが、書き手によってどのような「老後のマネー」問題を迎えて対策をとるのかについて興味をもったからです。
世間では両作品と似た構造のご家族が多くいらっしゃると思いますが、中に入ってみるとそれぞれに事情があるかもしれません。
世間様に容易には話せない現状を赤裸々に描いているという点で、読者が「我が家もそうです!」「どこも同じようなものですな」と共感を呼ぶ作品といえるでしょう。

2作品の家族設定は、4人家族で夫は50代の会社員、60歳の定年まであと数年というところが共通しています。
妻はパート勤務と、専業主婦です。
両家とも長男と長女がいて、社会人と大学生。
両家とも都会に持ち家があり、戸建てとマンションの違いはありますが、住宅ローンの返済ももうすぐ終わるという設定です。
一見老後はまずまず安泰とも思える設定なのですが、物語はここからジェットコースターのように激しく乱高下していくのです。
さて、両家にはどのような展開が待っているでしょうか。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

まずは1作品目です。
垣谷美雨(かきや みう)氏の小説『老後の資金がありません』(中央公論新社、2015年、のち中公文庫、2018年)です。
垣谷氏については、「断捨離」編で(ブログはこちら)でご紹介しておりますので、割愛させていただきますね。

凛が持っている本は文庫本の初版です。
街の書店の新刊コーナーで発見して購入しました。

凛の初版本の黄色い帯の表表紙側には、「お金がない!」と太くて大きな文字で目立つように描かれています。
「頑張る家計応援小説」ということで、単行本化された2015年当時では珍しいテーマだったのかもしれませんね。
また、この文庫本の解説文を書いている室井佑月(むろい ゆづき)氏が帯で「熱く推薦!」されています。

文庫本の表表紙の絵には、一家の奥さんが中心にいて悩みを抱えている様子がうかがえます。
奥さんの周りに背広姿のご主人、伴侶と仲良く並んだ娘の結婚式と立派なウェディングケーキ、舅の遺影と香典、そして椅子にデンと座ってお茶を飲んでいる姑が描かれていて、何枚ものお札がひらひらと空中を舞っているのがわかります。

文庫本のカバーイラストは、高寄尚子(たかより なおこ)氏です。
カバーデザインは、田中久子(たなか ひさこ)氏です。

あらすじとしては、後藤(ごとう)家は都心部のマンション暮らしで、当初1,200万円の貯蓄がありました。
ご主人の定年まで残り数年ですし、ご主人の退職金も出る予定ということで、「安泰な老後」がご夫婦には予測されていました。

しかし、さにあらず!
ここからが一家には人生の急展開となるのです!!(@_@)

安定しているものと信じていたご主人と奥さんの仕事がなくなります。
暫くの期間に失業保険があるとはいえ、それが切れた後は無収入となるのです。
長女の豪華な結婚式、舅の葬儀と墓の建立で多額の出費が重なり、貯蓄は減り続けるばかりです。
大学生の長男の学費もあります。

姑は浅草の家を処分して得た2億円の資金で高級な老人施設に舅と入居して贅沢な暮らしを続けていましたが、舅の死により施設を退去して、後藤家の四人が暮らすマンションに同居することになりました。
ご主人の妹夫婦との軋轢もあり、てんやわんやの忙しい日々を送ります。
さあ急に家計が逼迫した後藤家はどうなりますか……。

物語の後半からの展開が「え?まさか!そちらの方向にいっちゃうの?」と読者の予想を見事に裏切るかもしれません。
姑の行動や長女の婚姻後の暮らしに対して、奥さんと長年交際している友人や、明朗快活な長男の存在が光を放つことになりますか。

文庫本の解説は、作家の室井佑月氏です。
解説のタイトルは「こういう本が読みたかった」です。
室井氏が再婚される前の解説文でしょうか。

垣谷氏の作品のタイトルやテーマにはセンセーショナルな題材が多く、いつもドキッとさせられます。
この作品も一般的な主婦目線で描かれており、後藤家の奥さんを等身大と感じる女性の読者も多いのではありますまいか。

作品は「老後のマネー」がテーマですから、当然「お金」は家族を構成するための要となります。
後藤家の奥さんはいつも「お金がない」ことを意識して暮らしています。
凛が後藤家の奥さんだとしたら、どのような対策をとるかしら……。 ((+_+))

しかし、視点を変えてみると、「お金」だけでは得られない新しい価値観が生まれてくるのではないかなとも考えたりしました。
この作品を10年後に再読してみると、また違った感覚になるのではないかと、新しい時代の到来という期待感ももちました。
ひゃあ、実際はもっと大変だったりして……。(@_@。

この作品は、2021年に同名のタイトルで映画化されていますね。
前田哲(まえだ てつ)監督、天海祐希(あまみ ゆき)さんの主演です。
凛はまだ観てませんが、あなたはご覧になられましたか。

(その2)へつづく。

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2022年5月30日月曜日

この地球に生まれて何を思う ~三島由紀夫『美しい星』(新潮社、1962年、のち新潮文庫、1967年、42刷改訂版、2003年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださりまして、ありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

お久しぶりです。
日本は春から初夏の爽やかな季節を経て、これから梅雨、やがて猛暑が予想できる夏を迎えようとしています。
あなたはお元気でお過ごしでしょうか。
凛は充電期間……、おっと前回から結構長~く充電しておりますねえ。(^-^;

この間、地球はまさに揺れ動いている状況です。
戦争、流行病、政治、経済不安、株価、半導体、労働、飢餓、貧困、格差、気候変動、地震、大規模火災、火山噴火、海底火山噴火、食糧不足、水問題、洪水、脱炭素、民族問題、宗教、メディア、多様性……。
多くの人々を不安にし、暮らしの営みを窮地に陥れる項目を挙げればきりがありません。

混沌としているこの地球に生まれて、あなたは何を思われますか。
凛はこの先も健康で日々を平穏無事に暮らしてゆきたいと願っています。
恐らくはほとんどの人々が凛と同じ思いを抱いているのではないでしょうか。

凛はよく空を見上げます。
特に夜空の星々を眺めるのが好きです。
星の光の具合の変化を楽しみながら……。(^_-)-☆

あの星の向こうには何があるのだろう。
天体に浮かび上がる星々から地球はどのように見えているのだろう。
宇宙人はいるのかな。

凛はSF的なアニメや物語が好きです。
『スター・ウォーズ』などのSF映画も楽しんでますね~

さて、今回の本は、三島由紀夫(みしま ゆきお)著の小説『美しい星』(新潮社、1962年、のち新潮文庫、1967年、42刷改訂版、2003年)です。
初出は雑誌『新潮』の1962年1月号~11月号に掲載され、同年に新潮社から単行本で出版されました。
その後、文庫化されて、改訂版の後も増刷されています。

凛が持っている文庫本は、この春に整理した凛の書棚からタイトルに惹かれて手にしました。
「美しい星」とは地球のことなのかな。
今、読みたい!
「凛さ~ん、どうぞ読んでくださ~い!」
「は~い!わかりました!あなたの出番ですよ~」
本からおすすめの声が聞こえてきましたよ~ (^_^)v

凛が持っている文庫本は、2013年(平成25年)53刷です。
街の中心部にある全国大手書店の一角で時折催される古書祭りで入手したものです。

表表紙には、男性2名と女性2名の上半身の絵が描かれており、彼らの上空には3機の円盤らしき謎の物体が飛行しています。
装画は、牧野伊三夫(まきの いさお)氏です。

帯の表表紙側には、「没後45年── 新しい三島を体験する。」
「(省略)に怯える日本をミシマは予見していた!」(文庫版53刷)

帯の裏表紙側には長い文章が書かれています。
「今や人類は自ら築き上げた高度の文明との対決を迫られており、(省略)二つに一つの決断を迫られている」(同上)

裏表紙の紹介文には、「宇宙人であるという意識に目覚めた一家を中心に、(省略)人類の滅亡をめぐる現代的な不安を」描き、「大きな反響を呼んだ作品。」と書かれています。(同上)

何やら難しそう……。
今から9年前の文庫本ですので、現在の表紙は装丁が若干変わっていますが、絵は同じですね。
帯も変わっているかもしれません。
以上に掲げた(省略)の部分がとても重要になっていると凛は考えています。
これらの重要な部分は、あなたが作品を読まれてから、改めてお考えいただくことをおすすめいたします。

では、内容に入ります。
埼玉県飯能市在住の大杉家の家族四人は各人別々の星から来た宇宙人だと信じています。
父の大杉重一郎は火星、母の伊余子(いよこ)は木星、長男の一雄は水星、長女の暁子(あきこ)は金星から、この地球に飛来してきたと家族間で信じています。

自分たち家族四人は地球の人間ではなく、地球の滅亡の危機から救うために動き始めます。
周囲からは変人扱いされている一家ですが、父の重一郎は世間からの評判など一切気にせず、自分の主義を曲げません。
彼は「宇宙友朋会」(うちゅうゆうほうかい)(同上、126頁他)を立ち上げて世界平和のために活動します。

長女の暁子は美しい娘で、彼女と同じ金星人という竹宮青年と文通で知り合い、金沢まで会いに行きます。
後に妊娠がわかり、彼女は処女懐胎であると主張します。

大学生の長男の一雄は、衆議院議員・黒木の私設秘書になります。
一雄は、黒木との関係から、仙台市の羽黒助教授、銀行員の栗田、理髪師の曽根という三人が上京した際に、彼らの東京案内をします。

羽黒ら三人は、一雄の父の重一郎を敵視しており、そこからの展開が圧巻です!
政治、経済、社会、文化、宗教……。
三人と重一郎との激しい応酬を、三島は作品の後半で多くの頁を割いています。
欲望にうごめく人間の醜さを抉り出しています。

以上、あらすじとして説明するには不透明すぎてわかりにくいかもしれませんね。

作品の内容が硬くて、当時の政治や世界情勢が絡み、難解な部分もありますが、結構ユーモラスな箇所も多々あります。
例えば、第二章で、長男の一雄が女性とデートしているところに妹の暁子が表れて女性に嫉妬している場面はとても愉快で笑えます。

人間の普遍的であろうと思われる点もたくさんあります。
例えば、同じ第二章で、「地球人の病的傾向」(同上、60頁)として、「民衆というものは、どこの国でも、まことに健全で、適度に新しがりで適度に古めかしく吝嗇(けち)で情(じょう)に脆(もろ)く、危険や激情を警戒し、しんそこ生ぬるい空気が好きで、……しかもこれらの特質をのこらず保ちながら、そのまま狂気に陥るのだった。」(同上、60頁)
という考えを重一郎に語らせています。
さすが、三島による鋭い洞察力です。

果たして、この地球上に人間がいなくなったら……。
宇宙人から見た地球は「美しい星」なのでしょうか。

文庫本53刷巻末の解説、奥野健男(おくの たけお)氏によると、作品発表時37歳の三島由紀夫は、「地球の外に、地球を動かす梃子(てこ)の支店を設定」(同、367頁)したことにより、結果、宇宙人の視点によって、客観的に地球を眺めることができると説明しています。

作者の三島由紀夫に関しては、世に出された多々の作品が幅広い年代層に支持され、また論じられてきました。
ここでの説明は省略させていただきます。

最後に、45歳で亡くなった三島由紀夫がもしも現代に蘇っているならば、2022年のこの地球上に起きている様々なことを見て何と思うのでしょうか。
「当時と全く変わっていないじゃないか」
それとも「人間力が弱くなってはいないか」

読後、凛はあらためて帯の説明文に納得しました。
再読すると、また違った発見があるように思えてなりません。

余談ですが、この作品は同じタイトルの『美しい星』で2017年に映画化されています。
吉田大八(よしだ だいはち)監督、リリー・フランキーさんの主演です。
作品のHPはここ!です。
原作とは異なり、地球の危機を「地球温暖化」として脚色されています。

凛は映画はまだ観てませんが、この機会に是非観たいなと思います。
映画鑑賞も読書ができることも地球が平和であることが大前提ですね。

本日も凛からおすすめの一冊でした。(^-^)

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2022年4月9日土曜日

自分軸でいいんだね  ~群ようこ『老いと収納』(角川文庫、2017年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

大変長らくの間、ご無沙汰いたしました。
私的な事情により、凛のりんりんらいぶらり~を5ヵ月以上もお休みさせていただきました。
この期間に訪れてくださった皆さま、ありがとうございました!
凛は感謝の念でいっぱいです!! (T_T)
これからも細々と続けていきますので、何卒よろしくお願いいたします。m(_ _)m

2022年も4月半ば。
日本では春の桜前線も北上しています。
世界情勢にも変化が表れております。
あなたはいかがお過ごしでしょうか。

凛は昨秋から年末年始、年明け後も続けて忙しく過ごしておりました。
凛の身辺に様々な変化が起こりまして、環境を整えるために遠方との往復の移動、移動先での片づけなどがあったからです。
そのため、この数か月の間、読書の機会はほとんどありませんでした。

最初は義務感で動いていましたが、移動先で片づけをしていたある日のこと、凛はハッと自身とモノとの関係を問う衝動にかられました。
モノを捨てずに増やし続けることへの疑問。
モノとは何のためにあるのだろう?
暮らしにおけるモノとの向き合い方とは?

そこで、収納に関する本や雑誌を読んだり、YouTubeで配信されている整理収納のプロのアドバイザーさんたちだけでなく、一般の配信者の方々の動画を集中して観ました。
ルームツアーやデスクツアーなどの動画を拝見し、「綺麗だなあ!すっきりしているなあ!」とうっとりと眺めておりました。

一日に1個を捨てる。
1個買ったら2個捨てる「1in2out」などなど。

さらに、収納グッズを扱っているお店を何軒も見て廻りました。
ネットでも様々な収納グッズを見て、メジャーでサイズを測りながら、あれこれと考える時間をもちました。

ブログでは以前にも「断捨離」(ブログはこちらから!)のタイトルでご紹介いたしておりますように、凛も当時に片づけはしていたのですが、やはりモノは増えていくものなのですよね…… (-_-;)

今回は、暮らしとモノとの関係をより深く考えました。
凛は、モノに支配されずにシンプルに暮らしたいな、と自身の持ち物の取捨選択を徹底的に行いました。
家具などの粗大ごみを数点処分しました。
衣類、靴、バッグ、傘だけでなく、不要な家電品、文具や小物類なども大幅に処分しました。
収納を変えて、部屋全体をシンプルに整えました。

本棚も大幅に見直しました。
単行本・文庫本・雑誌など未読も含めて630冊以上、3段階に分けて、ネット買取にて処分いたしました。
DVDやCDも数十点もネット買取業者に出しました。
必要とされる方々のために、次のステージで活かされますように、という願いを込めて。

モノを処分し、片づけを行なって、凛の気持ちに変化が生じました。
以下5点の視点から、切り替えができました。 (^o^)

1.部屋に空間ができて、空気の流れがよくなったこと。
2.全体の量がわかるため、俯瞰してモノの管理ができるようになったこと。
3.どんよりした空気感に覆われていたモノからの重圧がストンと抜けて、カラダもココロも軽くなったこと。
4.「買わなければ!」「買い物に行かなければ!」という脅迫観念や欲望から解放され、まずはひと呼吸して、落ち着いて行動するようになったこと。
5.モノに支配されず、自分軸で考えるようになったこと。

漸く落ち着きを取り戻し、さて何を読もうかと凛の本棚から選んだ本をご紹介します。
群(むれ)ようこ氏のエッセイ『老いと収納』(角川文庫、2017年)です。
この作品は書き下ろしです。

厳選して残した本たちの中から、この本のタイトルが目に飛び込んできました。
「これだ!」とビビビと読書脳のアンテナが反応しました。
片づけした後なので、おさらい篇として位置付けるのもいいし、また新たな発見があるかもね、と思ったのです。

5年前に出版された文庫本です。
初版が2017年の1月25日発行で、凛が持っている本は第3刷で初版と同年の3月10日発行ですから、当時如何にこの本が人気があったのかがわかりますよね~

凛の文庫本、第3刷の帯の表表紙には「不要品は思いきって捨てた。」と表記されています。
表表紙には、群氏と思われる女性が箱(部屋かも?)の中心にいて、電気スタンドや洋服、バケツにバッグなどの彼女の周囲に溢れているモノたちに対して、さてさてこれからどのように処分しようか、と思いあぐねている様子がうかがえます。

表紙のカバーイラストは、古谷充子(ふるたに みちこ)氏です。
カバーデザインは、坂詰佳苗(さかづめ かなえ?)氏です。

このエッセイは、マンションの大規模修繕工事を機に、必然的にモノを捨てることから始まります。
60代になられた群氏が、これまで所有してきたモノたちと丁寧に向き合い、処分することに目覚めていく心理と、実行の過程が描かれています。

目次は、処分するアイテム別になっていて、「衣類」や「キッチン」などあなたの気になる箇所から読まれてもよろしいかとも思います。

不要品を処分してきた身としても、同じ女性としても共感できるところが多々ありますね。
例えば、肌着や靴下などは具体性があって興味深く読みました。
これまで所持していた肌着の枚数を種類別に明記されていて、非常に具体性があります。(81頁他)

群氏が処分された品物リストが最初のほうにずらりと出ています。(30頁~33頁)
「こんなに!」と驚く数の品々。
さすが、売れっ子作家!結構お高いモノもありそうですよ~

凛との生活レベルが決定的に異なるなと思ったのは、着物ですね。
群氏のお召しになられるお着物はいかほどなのかなと。
凛も着物は持ってはいますが(ほんの少しですが)、普段に着ることはほとんどないですものねえ。(^-^;

このエッセイの中で度々登場する「とにかく所有物を少なくする運動」(78頁他)をお一人で続けていらっしゃるという群氏のお友だちの言動がとても爽快です!
群氏もご愛用のモノを処分することに逡巡されますが、このお友だちの言葉ではたと迷いがとれたりすることがあるのです。
なるほど、これだけの数でいいのか、と凛も納得できました。
特に、冠婚葬祭などで着用するストッキングのストックに関(@_@。しては、「ええっー!」と目から鱗の状態でした。(@_@。

群氏のプロフィールについては、二度目の登場ですので、省略させていただきます。
前回の説明は、ここ!です。

あなたも群氏と一緒にモノと向き合ってみませんか。
名立たる作家の暮らしをちょいと覗いてみるのも楽しいでしょう。
もちろん手放さずに残されるご愛用のモノたちもありますよ~

若いうちはカラダも元気なのでモノを処分するのにキビキビと動けると思いますが、この先、老いることを考えると次世代に多くのモノは残せませんね……。
処分するモノと残すモノの基準も年々変わっていくと思います。
捨てる、処分することに対しての後ろめたさや罪悪感、申し訳なさをきっぱりと捨てましょう。
モノに対する「執着」という概念を捨てて、「欲望」と闘い、自身の今に必要なモノを取り入れる「自分軸」でいきましょう!! (^_^)v

悲しいかな、放っておくとどんどんモノは増え続けてゆきます。
既に新たな本が欲しくなってきている凛です……。(*'▽')
「わ~い!部屋に空間ができた!」と安心せずに、これからもチェックしていかなければ、と凛も新たに決意した次第です。

今夜もあなたにおすすめの一冊でした。(^-^)

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2021年11月2日火曜日

相手を思いやる気持ちが故に ~長岡弘樹『夏の終わりの時間割』(『救済 SAVE』講談社、2018年、のち改題して講談社文庫、2021年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

長らくの間、ご無沙汰いたしております。

前回からの更新がすっかり遅くなってしまいました。(>_<)
既に一ヵ月以上……。
10月の更新は全くゼロ状態です……。(T_T)
私的な所用があって、なかなかブログ更新にまでたどり着くことができずにいました。

凛の焦ることといったら……。 (-_-;)
この期間、とてもとても気になって落ち着きませんでした。
お休みしている間にりんりんらいぶらり~を訪れてくださったあなたには感謝の気持ちでいっぱいです!
ありがとうございました! m(_ _)m

あなたはいかがお過ごしですか。
11月!気がつけば季節は進み、紅葉の季節。
朝晩はすっかり冷えてきましたね~

凛も忙しいときこそ意識して体調管理に気をつけていきたいです。( ;∀;)
絶対風邪ひけませんから!!

さて、今回の作品は、長さは短くても中身は濃い人間ドラマが描かれている秀作ぞろいのミステリー短編集です。

長岡弘樹氏のミステリー短編小説集『夏の終わりの時間割』(講談社文庫、2021年)です。
この作品は、2018年に講談社から『救済 SAVE』という題で発刊されました。
のちに文庫化にあたり『夏の終わりの時間割』に改題して、2021年に発刊されました。

「夏の終わり」というくらいですから、凛は10月の更新時に掲載する予定でしたが、秋が深まってきた11月の掲載になってしまいました。
日本の移り変わる四季から季節感がずれてしまいました。
しかし、内容はあなたがいつでも読まれても構わない作品です。

はじめに、本の入手についてです。
凛が持っている本は文庫本の初版です。
いつもの近所の書店で出合いました。

文庫本の帯の表表紙側には、「「困難の今こそ、『救い』の物語を。」と紹介されています。(文庫本初版)
それから「サプライズと人間ドラマが溢れる」とも描いてあります。

文庫本の帯の裏表紙側には「読み始めたら止まらない」「極上ドラマ」として、6編の説明文が掲載されています。
例えば、表題の「夏の終わりの時間割」では、「放火容疑のかかった友人に小6男子が迫る」と出ています。(同)

また、裏表紙側の紹介文では、「ほろ苦くも優しく温かなミステリ集」と描かれてあります。(同)
犯人捜しだけではなく、奥に秘められた人間ドラマが堪能できそうな感じがしますね。
なかなか興味が出そうなミステリー6編です。

次に、本の装丁についてです。
樹木が鬱蒼と生い茂った森の入り口でしょうか。
正面に、黄色いフード付きのパーカを着ている少年が背中を見せて立っています。
両手をきちんと両足の太腿につけて、まるで「気をつけ」をしているかのようです。

少年の顔は読者にはわかりませんが、彼の視線は樹木の生えている暗い向こうを見つめているのでしょうか。
それとも樹木たちの上の青い空を見ているのかもしれません。
姿勢を正している彼の背中からは、何か事情がありそうですね。

文庫本の表紙のカバー装画は、宮坂 猛(みやさか たけし)氏です。
文庫本の表紙のカバーデザインは、大岡喜直(おおおか よしなお?、next door design)氏です。

では、内容に入ります。
文庫本初版3頁の「目次」を見ますと、全部で6編のミステリー小説が収録されています。
文庫本の最後の「解説」まで含めても218頁ですので、さほど厚くなく、あっという間に読破できるのではないでしょうか。

「三色の貌(かたち)」
「最期の晩餐(ばんさん)」
「ガラスの向こう側」
「空目虫(そらめむし}」
「焦げた食パン」
「夏の終わりの時間割」(同、目次3頁)

これらの6編の中で、凛は4番目の「空目虫」を取り上げてみます。
「空目(そらめ」」とは、見えていないものを見えているように思ったり、逆に見えているけれども見てみないふりをしたり、見誤ったりすることですが、この「空目」という言葉は重要なキーワードになっています。
「空目」に「虫」が付くと、果たして何を意味しているのでしょうか?

文庫本の帯の裏表紙側の紹介文では、「介護福祉士が認知症患者たちを笑顔にしようと奮闘する」(同)と掲載されています。

グループホームの介護福祉士である「高橋脩平(たかはし しゅうへい)」は、腰痛を持病とするほど仕事熱心で、入居者たちの様子をよく観察しています。
四十歳を目前にした脩平は、入居者である高齢の認知症患者たちをどのように改善していけばよいのかを常に考えています。

例えば、笑わない入居者にどうすれば笑顔が出るかなど。
脩平は丁寧に認知症患者と接しており、凛も「ああ、そうすればよいのか」「介護のプロからこんなに寄り添って見ていただくといいなあ」など、読みながら参考になりました。

施設長の「坂東阿佐美(ばんどう あさみ)」は脩平にカメムシが一匹入っているジャムの瓶を見せます。
彼女の発する言葉が意味深でなかなか怪しげです。
上司として、近すぎず、遠すぎずという距離感をもって部下の彼と接していることが伝わってきます。
脩平を褒めることも務めています。

施設長である彼女は、「高橋寿郎(たかはし としろう)」という70代後半の高齢者の男性についての業務を脩平に指示します。
脩平はこの男性についても丁寧に接します。
「高橋」という同じ姓で脩平は何かを感じつつ、この高齢者を笑わせようとしますが……。

全体に漂う輪郭がはっきりとしない灰色の空気感の中で、瓶のカメムシを登場させて、読者は最後に「ええーーっ!まさか!」という結末を迎えることになります……。
あとはあなたが読まれてからのお楽しみに。 (^-^)

短編ミステリーですので、どの作品もあっという間に読めます。
作品のタイトルだけでなく、本編の文章や登場人物の会話、アイテムなど、伏線が敷かれています。

読後に登場人物たちの関係性がよくわかり、まさに作者は彼らから「救い」を求められたのだということで、熟考されたドラマが提供されているものであると凛は考えます。

文庫本の「解説」は、文芸評論家の大矢博子(おおや ひろこ)氏です。
大矢氏、ミステリーのジャンル分けとして、「フーダニット(犯人探し)」と「ホワイダニット(動機探し)」があると説明されています。(同、215頁)
大矢氏が説かれたように、このミステリー集は後者の方であろうと凛も思いました。
詳細は「解説」を読まれてくださいね。

作者の長岡弘樹氏は、2003年、小説「真夏の車輪」で、第25回小説推理新人賞を受賞☆彡されました。

2008年、小説『傍聞き』(双葉社、2008年、のち双葉文庫、2011年)で、第61回日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞☆彡されました。

また、警察小説の『教場』(小学館、2013年、のち小学館文庫、2015年)は、2013年、「週刊文春ミステリーベスト10」の国内部門で第1位☆彡を獲得しました。
翌年、「このミステリーがすごい!」で第2位☆彡に、同年の第11回本屋大賞では第6位☆彡になりました。
「教場シリーズ」として続々刊行され、テレビドラマ化もされています。

長岡氏は他にもミステリー作品を多く刊行されており、短編ミステリーの名手としてご活躍されています。(^_^)v
今後も注目したい作家です。

最後に。
ミステリーというジャンルにとらわれずに、人間同士の関係性を問うたドラマが展開されている短編集です。
どの作品も読後には登場人物の気持ちが伝わり、胸が迫ってくるものがあります。
再度最初の頁に戻りたくなります。
作者の彼らに対する優しいまなざしが込められているのがわかります。 (^o^)

また、読後に伏線を確認することも楽しみのひとつです。
再読すると、「あ、ここがそうか!」「なるほど、そうだったのか!」と新たな発見がありました。
このような作者との対峙も読者の愉楽となりましょう。 (^○^)
短編ですから、気軽に繰り返し読めますよ~

今夜もあなたにおすすめの一冊でした。(^-^)

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2021年9月21日火曜日

行間にこめられた思いを読む ~山崎ナオコーラ『美しい距離』(文藝春秋、2016年、のち文春文庫、2020年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださりまして、ありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

過ごしやすくなってきた秋の季節、あなたはいかがお過ごしですか。
夕暮れもすっかり早くなりましたねえ。
おうち時間が増えた秋の夜長、眠る前のひとときは最高のくつろぎタイムですね!(^○^)

体調を整えて、免疫力をつけたいというのは誰しも考えるでしょう。
しかし、いくら健康に気をつけてはいても病にふせることはあります。
好きで病になる方はいませんものね。

日本人の二人に一人ががんになると言われています。
あなたのご家族、特に配偶者ががんに侵されていて、しかも末期がんであったとしたら、あなたはどのように受け止め、対応するでしょうか。

今回の本は、山崎ナオコーラ(やまざき なおこーら)氏の小説『美しい距離』(文藝春秋、2016年、のち文春文庫、2020年)です。

40代の妻が末期がんで入院しているため、働き盛りの夫は生命保険会社の仕事をしながら病院に通い詰めて妻を看護しています。
静かに流れる二人の時間の中で、夫の視点から彼の葛藤や心の機微を見事に描き切っている小説です。

しかも、行間に熱い思いがこめられています。
それは夫の言葉だけでなく、妻の言葉でもあります。
この小説の主人公は、末期がんの妻を看護する夫になります。

あなたがお読みになる前に、凛からご注意していただきたいことが2点あります。(-_-)

1点目は、今回の小説はずばり内容が重いです。
「末期がん」がキーワードになり、「介護」がテーマの物語と同様、あなたのご家族にご病気の方がいらっしゃったり、或いはあなたご自身がご入院されていらっしゃる場合などはかなり重いかもしれません。

2点目は、新型コロナ以前の小説であることです。
初出は、文芸誌『文學界』2016年3月号ですので、それ以前に描かれた作品です。
コロナ禍の現在は入院されているご家族の面会などはできない場合も多いでしょう。
ご家族でなくても、親戚・知人・友人など病室にお見舞いに行けていた頃とは一線を画していることを考慮して読んでいただければと思います。

まずは、本の入手についてです。
凛が持っている本は文庫本の初版です。
昨年、街の中心の地元の書店で購入して「いつか必ず読む本」として出番を待っていた本です。(^-^;

帯の表表紙側には、「芥川賞候補作」「島清恋愛文学賞受賞作」と描かれています。
帯からの情報で、しっとりとした夫婦の時間が流れている作品であることがわかりますね。

本の裏表紙の紹介文では、「がん患者が最期まで社会人でいられるのかを問う、新しい病院小説。」(文庫版、初版)と描かれています。
「病院小説」という表現は、医者と患者と家族の物語なのでしょうか。

次に、本の装丁についてです。
凛の文庫本初版の表紙は、黄色い菜の花が大きく描かれています。
「菜の花」のデザインは作品の中で重要な位置を占めています。

文庫本の表紙のイラストは、中上あゆみ(なかうえ あゆみ)氏です。
文庫本の表紙のデザインは、大久保明子(おおくぼ あきこ)氏です。

では、内容に入ります。
文庫本で195頁、巻末の解説まで含めても205頁とさほど厚くはありません。
しかも文庫版では文字が大きめで読みやすいです。
しかし、行間を読むと倍の厚さくらいになるのではというのが凛の印象です。

物語は、夫がカフェで食事を済ませ、バスに揺られて妻が入院している病院に向かうところから始まっています。
季節は春。
穏やかな陽気の中、カフェでのんびり過ごしたいところですが、時間は容赦せず病院行きのバスが待っています。

夫は生命保険会社に勤務しながら、妻の看護のため週に数回、妻の病室を訪れます。
初めは輪郭がぼやけていますが、読んでいるうちに読者にはこの夫婦がおかれている現実がだんだんと見えてきます。

時間軸は常に夫の視点にあり、妻と出逢った頃に戻ったと思えば、また妻がいる病室に戻ったりします。
働き盛りの夫の会社での仕事のやりくりや、労働条件である制度を利用しての病院通いなど、身につまされる読者もいらっしゃることでしょう。

妻は夫の上司の娘さんです。
夫からみると義母にあたる「妻の母」(文庫版初版、39頁他)と交代で病室を訪れています。
夫の義父にあたる妻の父親のことを、夫は常に「元上司」(同、15頁他)と表現しているところなど、夫の微妙な感情であると推測できます。

「来たよ」
「来たか」(同、17頁他)

夫が病室を訪れたときのたったこれだけの会話の中には、二人だけにしかわからないどれだけの思いがぎゅうっと詰まっているのでしょう。
それを思うと、凛は胸が締め付けられてなりません。
この夫婦には子供はいません。
病室では二人だけの時間が静かにゆっくりと流れてゆきます。

妻は結婚後にサンドウィッチ屋さんの経営を始めたことがわかってきます。
そして妻の仕事関係の方たちが各々病室を訪れます。
病室で彼らとの交流を目にして、妻には社会とのつながりが必要なことを夫は悟ります。
時には夫は見舞客にやきもちをやくこともありますが、もちろん彼の心の中での波です。

それから「妻の母」との接点から、妻は娘であることも悟ります。
夫は妻や義母にも理解を示します。

しかし、夫の本音がちらりと表れている箇所がいくつかあります。
そこで行間が活きてくるのです。
常にジレンマに陥っている夫の苦悩と妻への思いが交錯しているのです。

夫の意見が最も強く描かれている場面は主治医との会話でしょう。(*_*)
余命宣告、延命治療など……。
医療従事者である主治医と、「対話」(同、131頁)を望む患者の家族である夫の立ち位置のずれが大きく、夫の葛藤は続きます。
これは、文庫本の「著者紹介」のところで、「2014年に父親をがんで亡くし、(省略)」(同)とあることから、作者の体験からきていると考えることができます。

文庫版の157頁からか、或いは158頁からは、妻との関係が別の次元に移動します。(T_T)
ここで凛が案内する「曖昧な頁の境目」については、体験された作者ならではの時間軸の捉え方によるものであると考えます。
夫は妻の容体が急変する場面に遭遇します。
夫には予期することのなかった、あまりにも突然の出来事なのです。
作者は、愛する人の最期を迎えた方だけにしかわからない「その場面」を適格に捉えています。

しかし、小説はここで終わりません。
それは妻との関係が終わっていないことを意味しています。

「その後」の淡々と流れてゆく時間。
まるでベルトコンベアーに乗ったような色彩のない感覚。
これは多くの方が体験されていることと思います。

夫は旅立った妻との関係をどのように捉えて過ごすのでしょうか。
後はあなたの読書体験にお任せいたしましょう。

文庫版解説は、書評家の豊崎由美(とよざき ゆみ)氏です。
「解説 固有の物語を丁寧に紡ぐ小説」(同、198頁~205頁)というタイトルです。
病と死、仕事、人との距離について、書評家として長くご活躍されている豊崎氏の文章はとても心温まります。(^-^)

作者の山崎ナオコーラ氏は、2004年、小説『人のセックスを笑うな』(河出書房新社、2004年、のち河出文庫、2006年)で第41回文藝賞を受賞☆彡されました。(^_^)v
同作品で、第132回芥川賞候補となっています。
この作品は、2008年、井口奈巳(いぐち なみ)監督、松山ケンイチ(まつやま けんいち)さん、永作博美(ながさく ひろみ)さん主演で映画化されています。

山崎氏は、多くの作品をご執筆されており、これまで5回の芥川賞の候補となっています。

今回ご紹介した『美しい距離』は、2016年、第155回芥川賞の候補作となっています。
さらに2017年、第23回島清恋愛文学賞を受賞☆彡されています。(^_^)v

今後も山崎ナオコーラ氏のご活躍を期待したいですね!(^o^)

最後に。
末期がんである妻との時間を大切に守りながら、彼女を巡る社会を尊重している夫の心理的葛藤は、妻の死後にどのように変化していくのでしょうか。
タイトルの「美しい距離」に込められた作者の思いを、行間で読み取れる秀逸な文学作品です。
最後の一文に至るまで読者は目が離せません。

今夜も凛からあなたにおすすめの一冊でした。(^-^)

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2021年9月7日火曜日

好きなものの羅列で読書好きにはたまりません! ~柳瀬みちる『神保町・喫茶ソウセキ 文豪カレーの謎解きレシピ』(宝島社文庫、2021年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

秋になりましたね~
これから毎日秋が深まってゆきます。
あなたはどのような秋をお過ごしされますか。
夏の疲れが出やすい時期ですね。
凛は読書の秋はもちろんのこと、食事や運動に気をつけて、さらに免疫力をつけたいところです。

凛は書店巡りが好きで、書店にいるとつい時間が経つのを忘れてしまいがちです。
毎日たくさんの新刊本が出ている中、書店員さんのお仕事は大変なんだろうなあと思いながら、店頭に並べられている本の乱れをそっと直してほんの少しだけお手伝いした気分でいます。

書店の街といえば、東京の神田神保町ですよね。
地方在住の凛は東京に出向いたときは必ず神保町を訪れます。
どうしてこんなに書店が必要なのかしらと思うくらいに様々な書店がありますよね。

神保町で可能な限り時間をかけて書店を見て廻り、お気に入りの本を購入した後は、喫茶店でブレイクタイム。
購入した本を開いて、カレーやパスタ、食後のコーヒーとデザートをいただく至福のひとときは最高です!\(^o^)/

今はコロナ禍でもあるため、凛は行けてません……。
また訪れたいな~といつも思っています。

そんな中、先日、三省堂書店が神田神保町にある本社ビルの建て替えのため、来年の3月で現在の営業を終了するというニュースが流れました。
(三省堂書店のHPより)

ひゃあ、これは大変だあ! ((+_+))
しばらくの期間、失われてゆく寂しさと新しいビルへの期待感とが交錯しそうですね。
三省堂書店の本社の神田神保町一丁目1番という住所には重みを感じます。

今回の本は、柳瀬みちる氏の小説『神保町・喫茶ソウセキ 文豪カレーの謎解きレシピ』(宝島社文庫、2021年)です。
タイトルでズバリわかると思いますが、本好きとカレー好きにはたまらない世界で、さらにミステリーのエッセンスが込められています。
この作品は書き下ろしですので、単行本はありません。

本好きが集まる神田神保町にて、喫茶店を営業し、文豪の名前をつけたカレーをお客様に提供している女性が奮闘する小説です。
カレーが大好きな作家が登場し、彼女と共に文豪の古書をめぐり謎解きを始めることになります。
さらに、二人の謎解きは彼女の出自にまつわるところまで発展します。

まずは、本の入手についてです。
今回は全国大手新聞の広告から偶然にこの本を知りました。
新聞の片隅に載っている小さな広告でしたが、偶然凛の目に留まり、「わあ!面白そう!すぐに読みた~い!」と凛のアンテナがピピピと反応しました。
本当に偶然としか言いようがなく、これもひとつのご縁といえましょう。
凛は新聞広告の切り抜きを持って街の書店に出向き、この文庫本を購入しました。

次に、本の装丁についてです。
凛が持っている文庫本初版の帯の表表紙側には、印度カリー子(いんど かりーこ)さんの笑顔の画像と「新感覚!カレー×ミステリーの共鳴」というメッセージが掲載されています。

帯の裏表紙側には、「喫茶ソウセキのカレーメニュー」として、「漱石カレー」「百閒カレー」「思ひ出カレー」の説明されています。
時代がかっているカレーが美味しそう!
「文豪カレー」にワクワクしてきますね~ (^○^)

表紙には、喫茶ソウセキの店主こと緒川千晴(おがわ ちはる)がカウンターの向こうでカレーを温めている様子と、イケメン作家の葉山トモキ(はやま ともき)がテーブル席で古書らしき本を読んでいる姿が描かれています。
もちろん彼が座っているテーブルには美味しそうなカレーが置かれています。
千晴は、真剣に本を読んでいる葉山を優しそうなまなざしで見つめています。
この二人の距離感がいいですね~

表紙のカバーイラストは、前田ミック(まえだ みっく)氏です。
カバー・本文デザインは、菊池 祐(きくち ゆう?)氏です。

では、内容に入ります。
目次を見ますと、四つの話とエピローグがあります。(以下、文庫本初版3頁)
第1話は、「三四郎はライスカレーの夢を見る」
第2話は、「冥途に咲くや、鬱金の花」
第3話は、「銀の皿に仰臥漫録」
第4話は、「神の灯が照らす石油カレー」
最後に、「エピローグ」となっています。

目次を見るだけで、カレーと文豪がつながっている感じがしますね。
はて、「石油カレー」とはどんなカレーなのでしょう?
まさか石油を食べるのではないでしょうね?

イラストを見る限り、緒川千晴が経営する喫茶ソウセキは、カレーなどをいただきながら読書ができるくつろぎのある印象がします。
しかし、千晴が出店した店は閑古鳥が鳴く有り様で、現実は厳しいところから物語は始まります。
確かに神田神保町は書店だけでなく、カフェや食事のお店の競争が激しい街だと考えられるので、27歳で出店した千晴は相当な努力家であることが想定できます。

読者は、千晴の成長とともに、古書や文豪、カレーの知識を得ることができます。
つまり、千晴の成長物語に読者は寄り添って読み進むことができるのです。

喫茶ソウセキには毎日カレーをいただきに訪れる男性、小説家の葉山トモキの存在が大きいです。
彼が店の看板メニューの「漱石カレー」を酷評したことから、千晴の文豪の旅が始まります。

作品には、夏目漱石だけでなく、内田百閒などの文豪の作品が多く出てきます。
千晴は葉山トモキの自宅を訪問して、彼の夥しい蔵書や無類の本の知識に驚きます。
読者は文豪の作品を再読したくなります。

さらに或る女性が千晴の店に置き忘れた古書を紐解く楽しみが芽生えます。
この古書は作品の重要なアイテムになりますが、あなたが読まれてからのお楽しみに。

また、千晴のカレーの新作メニュー開発に基づき、スパイスなどの知識も読者は知ることができます。
読みながら、スパイスの香りがし、カレーが無性に食べたくなります!!
凛の頭の中は、「ああ、カレーが食べたい!!」でいっぱいになりました!!(^○^)」を発見できるかどうかは、あなたが読まれてからのお楽しみに!

作者の柳瀬みちる氏は、2015年、小説「美大探偵(仮)─《カジヤ部》部長の小推理─」第1回角川文庫キャラクター小説大賞を受賞☆彡されました。
この作品は、改題して『樫乃木美大の奇妙な住人 長原あざみ、最初の事件』(角川文庫、2016年)で刊行され、作家デビューされました。

シリーズ化されて、小説『樫乃木美大の奇妙な住人 白の名画は家出する』(角川文庫、2017年)があります。

他には小説『横浜元町 コレクターズ・カフェ』(角川文庫、2017年)など活躍されています。

最後に、この小説は、文豪とカレー、古書、神田神保町、小説家の五点セットで読者を大いに楽しませてくれる作品です。
読書好きにはたまらない作品です!! \(^o^)/

文学好きなあなた、文豪の作品がたくさん出てきますよ~
また、カレー好きなあなた、スパイスの勉強ができますよ~
古書がお好きなあなた、東京都千代田区の神田神保町という日本最大の書店の街で繰り広げられる謎解きを大いに楽しみましょう!
小説家に興味があるあなた、作家である葉山の暮らしぶりを覗いてどのように感じるでしょうか。

戦争の時代を生きた祖父母からの繋がり、千晴を育てた両親の時代、そして現代を生きる千晴の世界を応援したくなる作品です。
小説家の葉山との関係や、千晴の喫茶ソウセキの今後がとても気になり、続編を期待したいです。
喫茶ソウセキはカレーの専門店ではないらしいので、他のメニューも紹介していただきたいですね。 (^o^)

今夜も凛からあなたにおすすめの一冊でした。(^-^)

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