2021年8月10日火曜日

みんな、悩んでる ~群 ようこ『ついに、来た?』(幻冬舎、2017年、のち幻冬舎文庫、2020年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
凛と共にどうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

残暑お見舞いもうしあげます。

東京2020オリンピック競技大会が閉幕しました。
日本では今夏の祝日が変更になり、夏季休暇も各職場やご家庭により分散されているようです。
地域により旧暦や新暦の関係でお盆のとりかたも異なりますね。
いずれにしても今の時期は、ご家族とのつながりがいつもより濃くなる方が多いのではないでしょうか。

あなたはこの夏、ご家族やご親戚とどのようにお過ごしになられますか。
コロナ禍で今年も家族集って直接会うことはないという方もいらっしゃるでしょう。
昨年は会えなかったけれど、今年は顔見せはしたいという方もいらっしゃるでしょう。
それぞれの思いが交錯する夏。(^-^)
暦の上では既に立秋ですが、現実は最も暑い時期に、あなたのハートに熱いものがあるのでは。(^-^)

ご家族、特に親の老いについては避けられませんよね。
何故なら、人は時の流れに抗えることはできないからです。
父も母もいつまでも元気!と安心しきっていると、ある日突然、「えーーっ!まさか、何故?」ということに……。
それは誰しもわかってはいても、今はまだ考えたくない、と先送りにしてしまいがちですよね。

もしあなたのお父さんやお母さんに痴呆症が表れたとしたら、あなたはどう対処されますか。
今回の本は、親の突然の脳の老化現象に驚き、あたふたしている子世代の話です。
群 ようこ(むれ ようこ)氏の短編小説集『ついに、来た?』(幻冬舎、2017年、のち幻冬舎文庫、2020年)です。

この本に関して凛がおすすめします読者は、現在、老親の介護などで向き合っていらっしゃる方ではなく、充分にお元気な親御さんの子世代である方ですね。
今現在、老親のことで介護され、悩んでいらっしゃる方には、「そんなはずないだろう」とか「そんなに簡単ではないよ」など、この作品に反発力が出てくるかもしれないと思ったからです。

この短編小説集では、老親の痴呆の症状の出方に種類はあるものの、全体に軽くてまだ初期症状の頃の話です。
それにはもしかしたら、深刻な状態は避けたいという作者の思いがあるのかもしれません。
あなたにまだご家族の悩みがない時期に、「そういうこともあるのね」と老親の変化や対処の仕方などについての情報として、ある程度の距離感を保ちながら読まれることを凛はおすすめしたいです。
或いは「昔は親のことで随分悩んだものだったね」と過ぎ去った時をふと思い出す方もいらっしゃるかもしれません。

読者にとって作品とふれあう機会は各人で異なりますので、あなたの意志にお任せいたしたいと思います。
この本は、痴呆症の老親を抱える読者に対して解決を導くものではありません。
世の中にはいろいろな家族があり、実に様々な考え方があって、その断片が描かれている短編小説です。
「このケースの場合、あなたならどう対処しますか?」という問題提起の小説である、と凛は捉えました。
前置きが大変長くなりましたね。

まずは、本の入手についてです。
昨年、街の中心部の書店にて購入しました。
「凛さ~ん、早く読んでくださ~い!」と出番を待っている本たちの一冊でした。(^-^;

次に、本の装丁です。
凛が持っている文庫本は、2020年2月10日付けの初版本です。
幻冬舎文庫「女性作家フェア」の帯が付いています。
今は異なる帯が付いているかもしれませんねえ。

文庫本の帯の表表紙側には、「覚悟はしていた、つもりだけど。」(初版)と書いてあります。
確かに、それはある日突然、起きることなのでしょうね。
親の言動や態度に、これまでの常識とは異なる、大変に驚くことが起きてしまうんですよね。
前兆があるのかもしれませんが、家族が気づいたときに驚き、自らに言い聞かせて納得しなければならないことがあるんですよね。
悲しいかな、それが「現実」ということでしょう。

表表紙にはお母さんの態度を見ながら、頬に右手をあてて、食卓テーブルに右の肘をついている娘さんらしき女性がいます。
お母さんの頭の周りには音符が3個踊っているので、彼女はきっと上機嫌なのでしょう。
お母さんは目を閉じて微笑んでいるので、別の世界を楽しんでいらっしゃるのかな。
娘さんは怪訝な表情をして、お母さんを眺めています。

食卓テーブルには、籠に盛られた蜜柑と、二人の湯飲み茶わんが置かれています。
如何にも家庭的な団欒の場所である食卓テーブルですが、二人の表情は対比的ですねえ。

カバーのデザインは、芥 陽子(あくた ようこ)氏です。
カバーのイラストは、牛久保雅美(うしくぼ まさみ)氏です。

では、内容に入りましょう。
目次には、8篇のタイトルが紹介されています。(文庫本初版、4~5頁)
「母、出戻る?」
「義父、探す?」
「母、歌う?」
「長兄、威張る?」
「母、危うし?」
「伯母たち、仲よく?」
「母、見える?」
「父、行きつ戻りつ?」
全てのタイトルの最後に「?」マークが付いていますね!
目次の下に描かれているお父さんやお母さんたちのイラストが実に愛らしいです。

実に様々な高齢の親たちや親戚が登場します。
おかれた環境も家族の在り方も異なります。

男と出奔した母親が老いて独りで家に戻ってきた場合。
同居の義父に異常が出ても全く関与しない夫に悩む妻。
夫の両親との軋轢と、実母の痴呆症との間で葛藤する妻。
五人兄弟の長兄夫婦と弟たち夫婦との間の、母親の介護に対する意見の相違。
資産家の母親の危険な現在。
伯母たちと母親と娘の関係性は。
一人娘の婚姻後の行き着く先は。
母亡き後の父親と娘たちの現状と将来。

先にも書きましたが、いずれも老親が必ず登場してきます。
どこのご家庭にも悩みはつきものですよね。
どの登場人物の描き方にも、読者が安心して向き合える筆力が群ようこ氏に備わっているのがわかります。

読者は主人公たちの出した結論には必ずしも納得されるとは限らないのではと思います。
一人一人の考え方は異なって当然ですから。
これらのケースに対して、あなたはどのように考えますか。
また、この文庫本(初版)には、解説はありません。

作者の群 ようこ氏は、本の雑誌社に在社中に、エッセイ『午前零時の玄米パン』(本の雑誌社、1984年、のち角川文庫、2003年)で作家デビューされました。
以来、多くのエッセイや小説が出版されていますので、女性ファンが多いのではないでしょうか。

小説『かもめ食堂』(幻冬舎、2006年、のち幻冬舎文庫、2008年)は、同名の映画で大ヒットしましたね!\(^o^)/
2006年公開、荻上直子(おぎがみ なおこ)監督・脚本で、小林聡美(こばやし さとみ)さん・片桐はいり(かたぎり はいり)さん・もたいまさこさんの主演で、フィンランドのヘルシンキで日本食のレストランを営む物語です。

最後に。
親が年老いていくのは理解できても、実際に「まさか!そうなの?うちの親が?」と認めたくない葛藤が子世代にはあります。
今後、痴呆症の解明が進んでいけば違った未来が開けるでしょう。
しかし、現代は薬や手術で簡単に治せるものではありません。

「現実」として親の老化を認めて、それを「受け入れる」覚悟を持たねばならないという自分との闘いではないでしょうか。
そして、それはみんなの悩みです。
今は老親に関しての悩みのないあなたも、この小説で体験されてはいかがでしょうか。
悩みのない今のうちに。

今夜も凛からあなたへおすすめの一冊でした。(^-^)

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