2021年5月26日水曜日

人生で最上の一冊はどの本にいたしましょうか ~野村美月『三途の川のおらんだ書房 迷える亡者と極楽への本棚』(文春文庫、2020年)~

こんばんは。
南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださりましてありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

唐突ですが、あなたにとっての人生最後で最上の一冊はどの本になさいますか?
これが今回のテーマです。

凛は医療と生命の大切さに改めて気づかされているこの頃です。
今年の日本は梅雨入りも早く、自粛で、読書を楽しまれていらっしゃる方も多いでしょう。
いつまでも好きな本を読みふけっていたいところですねえ。

いつかは人生で最後の一冊の読書となる時が訪れるかもしれません。
凛は、今回のテーマについては普段はほとんど考えないというか、考えたくないというのが本音でしょうねえ。
なんとなく、或いは敢えて避けてしまいたいテーマに真正面から描いている小説をご紹介しましょう。

「人生最後の本だなんて嫌だな。怖いなあ」などというご心配はいりませんよ。
人は誰でもいつかは最期を迎えます。
一人一人のこれまでの生き方からヒントを得て、誰もが納得して極楽の読書ライフに導いてくれる書店があるとしたら、どれだけ幸福感に満たされることでしょう。
つまり、極楽で永遠に幸せな気持ちで過ごせるという、とっておきの一冊を提供してくれるありがた~い書店の物語なのです。
読後は爽やかで幸せな気分に浸れると思いますよ~ (^-^)

凛が今回ご紹介いたします本は、野村美月(のむら みづき)氏の連作短編小説『三途の川のおらんだ書房 迷える亡者と極楽への本棚』(文春文庫、2020年)です。
この作品は文春文庫への書き下ろしです。
文庫巻末の解説はありません。

まず、今回の本の入手経路ですが、凛とこの本との出合いは書店ではなく、ネット書店からです。
凛は読書の合間に、本の奥付の後に印刷されている他の本の宣伝や、本に挟んである「今月の新刊」などの出版社の宣伝の栞に目を通し、情報を得るのが好きです。
今回は本に挟んである栞から情報を得て、「この本、面白そうだなあ。讀みたいな」と思って、ネット書店から購入いたしました。

凛が購入した文庫本初版の帯の表表紙側には、「人生最後の、天にも昇る一冊をお選びしましょう」と書いてあります。
文庫本の裏表紙の説明文には、「本好きに贈るビブリオ・ファンタジー」と書いてあります。
本好きにはとてもそそられる感じですよ~

次に、表紙のイラストは、月岡月穂(つきおか つきほ)氏です。
おらんだ書房の店主である和柄の派手な着物をゆるやかにまとったイケメンの若い男性が妖しげな表情の横顔で描かれています。

日本にもあらゆる宗教がありますが、この作品は恐らく仏教に基づいた物語でしょう。
尚、ここでは物語に沿うことを主題としていますので、細かな宗教観などは省かせていただきますのでご了承くださいませ。

では、この作品の内容に入ります。
この物語では、死者は此岸から彼岸との境目を一定の期間を過ごし、三途の川を超えて彼岸へと旅立つ設定になっています。
死者たちは此岸と彼岸との境目で六文銭を好きな「もの」や「こと」に費やした後、木の舟で三途の川を渡ります。
一度、彼らは三途の川を渡ってしまうと二度と戻れず、たとえ此岸と彼岸との境目であっても死者たちとは永遠に会えなくなります。

この此岸と彼岸との境目に存在しているのが「おらんだ書房」です。
六文銭で購入する対象は各人の好みになりますので、「おらんだ書房」だけでなく、あらゆるお店が存在します。
書店の他にも衣料品店やレストラン、遊郭などもあります。
六文銭の使い方は強制ではなく、各人の自由意思となっています。
三途の川を渡ってしまえば二度と戻れない世界ですから、人生最後のとっておきの「もの」や「こと」、それに本を選択するのも良しでしょうね。
あなたは六文銭をどの店で費やしますか。

さて、「おらんだ書房」では、派手な和柄の着物を纏ったイケメンの店主が、関西弁で明るく喋ります。(*'▽')
三途の川のほとりで営む「おらんだ書房」は二階建ですが、小さな書店のようです。
バイトの少年の「いばら君」が店主の仕事を手伝っています。
この書店を訪れる「客人」は少なく、あまり流行っている様子ではないですねえ。
ところが、一度訪れた「客人」は店主やいばら君のアドバイスで選ばれた本を手にして、非常にすっきりとした面持ちで舟に乗ります。

一体、どんな「客人」たちが「おらんだ書房」を訪れるのでしょう。
この物語は以下の六つのお話で構成されています。(目次より)
尚、登場人物のルビは省略します。

第一話 「本が大好きな 三田村祐介様(享年三十四)の場合」
第二話 「でんぐり返る本を探してる 越野園絵様(享年八十六)の場合」
第三話 「空っぽのおなかをかかえた、空っぽな目の 初芝泪衣様(享年四)の場合」   
第四話 「呪いの本を求めてやってきた 尾崎純香様(享年三十五)の場合」
第五話 「描けない人気漫画家 司 七彦様(享年四十一)の場合」
第六話 「世界で一番退屈で、つまらなくて、どうでもいい本をご所望の 鈴木藍理様(享年八十六)の場合」

四歳から八十六歳まで、実に様々な死者たちが様々な本を求めてのご来店です。
生き様も、亡くなり方も、本を求める事情も各人各様です。
いずれも店主が各人の事情を鑑みて、解決に導きますし、バイトのいばら君も活躍します。

これらの登場人物の中で、凛が気になったのは、第一話の三田村祐介さんです。
三田村さんは子供の頃から本が好きでたまらないお方。
社会人になっても本好きは変わらず、自宅でも多くの本が積まれており、突然の地震で本の下敷きになって亡くなられました。
果たして三田村さんは「おらんだ書房」でどんな本を選んで舟に乗られたのでしょう。
それはあなたが読まれてからのお楽しみに。(^_-)-☆

作者の野村美月(のむら みづき)氏は、2001年、小説『赤城山卓球場に歌声は響く』(ファミ通文庫、2002年)で、第3回ファミ通エンタテインメント大賞小説部門で最優秀賞☆彡を受賞されました。
2006年、小説『"文学少女"と死にたがりの道化』(ファミ通文庫、2006年)で「"文学少女"」シリーズとして出版されています。
この「"文学少女"」シリーズは、アニメ化されており、2010年には『劇場版"文学少女"』(多田俊介監督)として映画化されています。
他にもたくさんの作品を執筆されていらっしゃいます。

この作中には多くの文学作品の名前が出てきます。
本好きにはたまらない作品ですね~

ところで、この作品には凛には謎があるように思えてなりません。
登場人物の中で「おらんだ書房」の店主だけが死者ではないようですが、「境目」での暮らし方といい、一体どういうことでしょう。
バイトのいばら君のおかれている事情もよくわかりません。
それに、「おらんだ書房」の店舗の建物自体も擬人化の様相で、凛には生きている感じがぬぐえません……。
もしかしたら今後に続編があるのかなあと、期待している凛です。

人生最後の極上の一冊。
あなたはどのような本を選びますか。
凛はどの本にするのかなあ。
まだ答えは出ませんねえ。(^o^)

今夜もあなたにおすすめの一冊でした。(^-^)

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(文春文庫)(日本語)文庫-2020/12/8野村美月(著)
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2021年5月13日木曜日

百年前と変わらないようですね ~菊池 寛『マスク スペイン風邪をめぐる小説集』(文春文庫、2020年)~

こんばんは。
南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

最近、また新型コロナウィルスの感染者が増加傾向にあり、緊急事態宣言下での生活を送られていらっしゃる方も多いですね。
あなたの暮らしに変化はありますか。

凛が居住している地域にも緊急事態宣言が発令されました。
凛の一日の生活はこれまでとさほど変わりはありません。
外出する機会も減りましたし、自粛する状況に慣れてしまったような昨今です。

凛はインドア派ですので、部屋に山のように積まれている本たちと触れる機会だなと思ってはいるのですが、凛の読書のスピードには変化はありませんねえ。
本たちも「凛さ~ん、出番を待っていますよ~、読んでくださいねえ」と呼び掛けているのがわかります。
「あなたたちの気持ちはよ~くわかっていますよ。でも、もう少しだけ待っていてくださいねえ」と申し訳ない気持ちで本たちに応えている次第です。
「もう少しだけって、一体いつまで待っていればいいの?」と反論されそうですが。(^-^;

いつも利用している近所の書店だけでなく、どこの書店の店頭でも一時期文庫本の新刊コーナーで目立っていた文庫本がありました。
その文庫本の赤い表紙には、大きな男性の顔のアップで、緑色の帯には白いマスクをつけています。
かなり大胆なデザインで、他の文庫本の中でもひときわ目立ちました。

凛が今回ご紹介いたします文庫本は、菊池 寛(きくち かん)氏の短編小説集『マスク スペイン風邪をめぐる小説集』(文春文庫、2020年)です。
この文庫本は繁華街の老舗の書店にて購入いたしました。

まずは、表紙のビジュアルな面から気になって文庫本を手にしました。
帯の表表紙側には、菊池寛氏とみられる丸い眼鏡をかけた中高年の男性が白いマスクをつけています。
そのマスクには、「私も、新型ウィルスが怖い。」と書いてあります。
そして、「マスク」「うがい」「外出せず」の三原則が書かれています。
現在の新型コロナウィルス対策で注意されていることと同じですよね。

文庫本の帯を外すと、男性はマスクをしていません。
マスクを外した菊池寛氏にそっくりな男性がこちらを見ています。
面白い仕掛けだなと思いますね。(^o^)

表紙のイラストは、茂狩 恵(もがり けい)氏です。
茂狩氏のイラストは、以前に凛がご紹介しております、堀川アサコ氏の小説『ある晴れた日に、墓じまい』(角川文庫、2020年)でおなじみですね~
表紙のデザインは、木村弥世(きむら みよ)氏です。

文庫本の表紙をめくると、菊池 寛氏の白黒写真が3枚掲載されています。
特に2枚目の写真には驚きました!
菊池氏が黒いと思われるマスクを着用しています。
昭和14年1月、新聞連載のため、中国を訪問している51歳頃の写真です。

このマスク姿の菊池氏ご本人を見て、凛は大変衝撃を受けました!
現在の凛たちとどこが違うのでしょう。
中国の大地に佇んでいる黒いマスク姿の男性。
凛が生まれるずっと前のことなのに、まるで今、凛の目の前に菊池氏が現れているような錯覚に陥りました。

内容は、9編の短編が収録されています。
「マスク」
「神の如く弱し」
「簡単な死去」
「船医の立場」
「身投げ救助業」
「島原心中」
「忠直卿行状記」
「仇討禁止令」
「私の日常道徳」

スペイン風邪は約百年前に世界中に猛威をふるった恐ろしいウィルスです。
そのスペイン風邪禍にあり、菊池寛氏の描く日本の状況と市井の人たちの姿が描かれています。

「マスク」
凛は、やはり第一篇目に収められている文庫本のタイトルにもなっている「マスク」が気になって読みました。
菊池寛氏の体格の良さそうなどっしりとした風貌ですが、実はとても神経が細やかな方のようで、日々の健康増進に事細かく気を遣っている様子が伝わりました。
医者との会話や、患者としての考えが読者には客観的に見られて、思わず「そうなんです。凛も同じです!」と共感したくなる箇所もあります。

手洗い、うがい、外出を避ける、マスクをする。
これらは現在の私たちをめぐる状況と全く変わりませんよね。(^-^)

後半に、黒いマスク姿の青年が登場します。
当初は菊池氏はこの青年を不快に思いましたが、その理由は是非読まれてみてください。
あなたも菊池氏の感情描写が実に繊細であることがおわかりになることでしょう。

昨年、マスクは一時期は品不足になりましたね。
しかし、今では様々なデザインのマスクが市場に出ており、洋服とコーディネートを楽しんでいる方たちもいますね。
「見なれる」とは不思議なもので、女性が黒いマスクを着用していても何も気にならずになり、むしろかっこいいなと思うこの頃。
これは、マスク姿が日常化している時代を私たちが生きている証拠でしょうね。
文庫本で9頁の作品ですが、コロナ禍の時代を生きている私たちの状況と変わらない描写に驚かれることでしょう。

「簡単な死去」
こちらの作品も秀逸です。
年の瀬の押し迫る或る新聞社で、社員の一人が亡くなったことを知った主人公や仲間たちの複雑な心理状態が見事に描かれています。
主人公は、やれやれと忙しかった一年を振り返りながら、残りの仕事の整理をしつつ、正月休みはどうしようかと、いわば一年の区切りを迎える安堵感ともいえる状況下で、突然仲間の訃報を知ります。
そこで持ち上がるのが、お通夜や葬儀の係をどうするかについての問題です。
生前はあまり好意的でなかった故人に対する複雑な思いがよぎったり、時間の経過とともに目の前の実務に対する胸中は、現在、組織の一員に所属している読者だけでなく、多くの読者にも、百年前とほとんど変わらぬ思いで共感を得られるのではありますまいか。

現在のコロナ禍で、人と人との関わり方に対して意識改革を求められているように思えてなりません。
ソーシャル・ディスタンスとは、どこまで距離感を保てばよいのか、なかなか難しい問題だと思います。
入院中や施設に入っているご家族への面会もままならない状況の方も多いです。
葬儀も家族葬だけでなく、直葬も増えているようですね。
故人を偲ぶとは……。
作品のタイトルにはとても考えさせられます。

「島原心中」
小説家として新聞小説を構想している主人公が、元検事を務めていた旧友を訪ねて、旧友の語る検事時代の体験談をじっくりと聞きます。
その体験談とは、旧友がまだ検事になってさほどない頃に、初めて島原を訪れて、或る楼閣で起きた遊女と若い男性との心中事件の調査に立ち合った時のことです。
悲惨な現場で見た光景に旧友は「名状しがたい浅ましさ」(文庫版、101頁)を感じます。
事情があって遊郭に身を置かなければならなかった一人の女性の生涯について、旧友は様々なことを感じます。

また、命が救われた男性のほうには、検事の腕の見せ所として、いろいろと考察しながら質問をしてゆきます。
そして、遊郭の「お主婦(かみ)」(文庫版、120頁)の言動や行動に表れた態度に対して、旧友は或る行動をするのです。
小説の材料として提供してくれた旧友の体験談は、法治国家としての期待を込められているような思いがいたします。

「私の日常道徳」
文庫本でわずか4頁の箇条書きです。
大正15年1月、菊池寛氏が39歳のときの作品。
「なるほど~」と納得できそうです。(^-^)

文庫本の解説は、作家の辻仁成(つじ ひとなり)氏で、解説「百年の黙示」が掲載されています。
辻氏は、1997年、小説『海峡の光』(新潮社、1997年、のち新潮文庫、2000年)で、第116回芥川賞を受賞☆彡☆彡されています。
フランス在住の辻氏ならではのコロナ禍における考えが示されています。

文豪、菊池寛氏については、ご存知の方が大半でしょうから、簡単なご紹介だけにさせていただきますね。
1919年(大正8年)に、雑誌『中央公論』に小説「恩讐の彼方に」を発表しました。
1923年(大正12年)1月、雑誌『文藝春秋』を創刊し、のち1926年(大正15年、昭和元年)に文藝春秋社として独立しました。
同年、日本文藝家協会を設立し、初代会長となりました。
1935年(昭和10年)には、芥川龍之介賞や直木三十五賞を創設するほか、1938年(昭和13年)には菊池寛賞の創設もしました。☆彡☆彡☆彡

以上のように、近代日本文学に多大な貢献を果たした菊池寛氏の小説を久々に読んでみますと、凛は背筋がピンと張り、文学に対してまっすぐな気持ちに向き合えるような気持ちになりました。
作品によっては一見難しそうな時代小説も含まれていますが、ルビがふってありますし、文章も心理描写が中心で、読みやすいと思います。
登場人物の一人一人に、作者の菊池寛氏による非常に細かい愛情が注がれていることが読者は読みとれるでしょう。

「マスク」というタイトルと、マスク姿の菊池寛氏であろう男性の顔のアップの斬新なデザインの表紙に導かれて読んだ小説から、凛は百年前のスペイン風邪の状況を知ることができました。
ウィルスと人間との共存について、対策の原点は例えどんなに時代が進んでも清潔にすることで同じではないかという点に辿り着くように思います。
コロナ禍を生きている私たちへの菊池寛氏からのメッセージとして対峙するのも新たな発見があるのではないでしょうか。

個々人としての基本的な対策は百年前と変わらないようです。(^o^)
もちろん医学や薬学の発達により、素晴らしい治療薬ができることに期待したいですね。

今夜も凛からお勧めの一冊でした。(^-^)

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2021年4月28日水曜日

元気印の迷老探偵コンビ ~中山七里『静おばあちゃんと要介護探偵』(文藝春秋、2018年、のち文春文庫、2021年)~

こんばんは。
南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださりましてありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

あなたの周辺に元気なご高齢者はいらっしゃいますか。

恐らく「はい!」が多いのでは。
この日本は少子高齢化社会の真っ只中を進んでいますからね。
元気溌剌なご高齢者は多いと思います。

凛の周囲にも「超」がつくほど元気な100歳を超えた方がいますよ~
凛の知人のベトナムから来ている留学生が「日本ノお年寄リハトッテモ元気デスネ!」と驚いていました。

凛が今回ご紹介いたします小説は、80歳の元判事の女性と、名古屋市在住の経済界の重鎮である70歳の男性の迷老探偵コンビが大活躍するミステリー小説です。
中山七里(なかやま しちり)氏の連作ミステリー短編集『静おばあちゃんと要介護探偵』(文藝春秋、2018年、のち文春文庫、2021年)で、全五話が収録されている連作短編集です。
まあ!兎に角全編にわたってこのお二人が大活躍されています。
事件の解決後は「お見事!天晴れ!」と称賛ものです。

凛が相変わらずいつも利用しています近所の書店の文庫本の新刊本コーナーでこの本をみつけました。
表紙は、柴田純与(しばた すみよ)氏のイラストで、野中深雪(のなか みゆき)氏のデザインです。

文庫本初版の帯の表表紙側には「80歳の元女性判事」と「70歳の経済界のドン」の「老老コンビ」と紹介されています。
凛は「老老コンビ」と呼ぶのは、主役のお二人に失礼ではないかと思うほど、お二人とも大変若々しいですよ。
特に、お二人とも気概が半端ありません!!(^○^)

主役の一人目は、80歳になる高遠寺静(こうえんじ しずか)さん。
元東京高裁の判事を退官して16年になります。
静さんは、日本で20番目の女性裁判官としてご活躍されたとのことです。
そして今回、名古屋市の名古屋法科大学の客員教授に就任するため、名古屋市の賃貸マンションに単身で住むことになりました。
ご主人は既に他界されています。

二人目は、70歳の香月玄太郎(こうづき げんたろう)さん。
不動産会社〈香月地所〉の代表取締役並びに商工会議所の会頭、町内会の会長ほかたくさんの肩書をお持ちの名古屋圏の経済界の重鎮で、所謂「地元の名士」なのです。
玄太郎さんは脳梗塞で倒れたため車椅子で、介護士の綴喜みち子(つづき みちこ)さんと共に行動することが多いです。

収録作品は、全五話です。
第一話 「二人で探偵を」
第二話 「鳩の中の猫」
第三話 「邪悪の家」
第四話 「菅田荘の怪事件」
第五話 「白昼の悪童」

ミステリー短編小説ということもあり、各篇お話の中身はあなたが読まれてからのお楽しみにとっておきましょう。
殺人、万引、親子の断絶、詐欺、老々介護、外国人就労、地元開発に伴う闇……
現代日本の諸問題が浮き彫りに描かれています。
合わせて、名古屋圏の経済、言葉や習慣、文化についても描かれています。

「ええーーっ!まさか!この人が犯人??」
「あらまあ、こんなトリックが!!」
と各篇で驚かされますよ~ (◎_◎;)

全編を通しての凛の印象は、登場人物の「静」と「動」の対照です。
「静」の静さんと「動」の玄太郎さんの微妙な関係が、行間から読みとれて面白いです。

名前でわかるように、静さんは普段は物静かですが、法曹界に在籍された方だからなのか、生来の性格なのか、とても思慮が深く、すぐには言葉には発しません。
ところが講演の壇上では、日本社会の問題をわかりやすく理路整然と説き、力説します。
凛は矍鑠とした静さんがとても素敵だなと思います。

対して、玄太郎さんは口が悪くて、がんがん怒鳴ります。
地元のドンということもあり、警察にも顔がきき、警察の上層部からまだ若い警察官まで呼び捨てで階級による差別をいたしません。
つまり、誰に対しても言いたいことを言い、真剣に怒り、どなる人です。
読者は彼の言質になるほどと唸ります。

玄太郎さんはストレートに発しますので一見口が悪い人に見えますが、彼独特の愛情が込められていることが読者には伝わります。
行動力もあり、素早く、まさに「動」の玄太郎さんです。
彼は介護士のみち子さんや神楽坂美代(かぐらざか みよ)さんにはとても優しく接するところから、男心の切なさが見られます。

静さんは玄太郎さんの性格や言動をよく理解しているように凛は思います。
彼女は玄太郎さんをうまく前面に出して、決して自分が目立たないようにしながら、二人で事件を解決に導きます。

この作品が文藝春秋から単行本が発刊されたのが、2018年11月ですから、執筆はそれ以前になります。
初出は、小説誌『オール讀物』2017年2月号、5月号、6月号、8月号、9月号、12月号、2018年3月号、4月号です。
文庫本として今年の2月に刊行されたので、静さんと玄太郎さんはもう少し加齢されていらっしゃるでしょうか。
いいえ、お二人はとても若々しいので、実年齢などは気にせずに、読者も接しましょう。

文庫本の解説は、瀧井朝世(たきい あさよ)氏です。
解説でわかることは、このお二人は既に刊行された作品で登場していることです。
二人の過去がわかり、読書の幅が広がりますよね~

高円寺静さんは、連作短編集『静おばあちゃんにおまかせ』(文藝春秋、2012年、のち文春文庫、2014年)で登場済みです。

香月玄太郎さんは、『さよならドビュッシー前奏曲(プレリュード) 要介護探偵の事件簿』(宝島社文庫、2012年)で登場済みです。
この作品は、『要介護探偵の事件簿』として、2011年、宝島社から単行本で刊行後、改題・加筆修正して文庫化されています。

さらに二人には続編があり、2020年、文藝春秋から『銀嶺探偵社 静おばあちゃんと要介護探偵2』が単行本で刊行されています。
二人の周辺にはどれだけの事件が発生するのかわかりませんが、お二人のご活躍が続いていますね。

作者の中山七里氏は、2009年、小説『さよならドビュッシー』(宝島社、2010年、のち宝島社文庫、2011年)で第8回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞☆彡されています。
2013年には、利重剛氏監督、橋本愛さんの主演で同名で映画化されましたので、ファンも多いでしょう。
他に多数のミステリー作品をご執筆、複数の作品が映画化やテレビドラマ化されています。

主役のお二人にはいつまでもこのまま元気でいて欲しい。
若者たちから老害と呼ばれないためにも、元気印の迷老探偵を続けて欲しいと願う凛です。
二人の過去とその後も読めるなんて、作品展開が楽しめますね。(^○^)

ズバズバ容赦なく言葉に出す玄太郎さんと、思慮深く判断力を発揮する静さん。
二人のキャラクターがますますパワーアップされますように。

今夜も凛からのおすすめの一冊でした。(^-^)

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(文春文庫な71-4)(日本語)文庫-2021/2/9中山七里(著)
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2021年4月11日日曜日

隠れ家夜食カフェに行きたい!(その2) ~古内一絵『女王さまの夜食カフェ ─マカン・マラン ふたたび』(中央公論新社、2016年)~

こんばんは。
南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
とともにどうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

春ですね~
あなたはいかがお過ごしでしょうか。
そろそろ気分も変えていきたいところですね。
ウィルスから狙われませんように、免疫力を高めていきましょう。

おかげさまでこの4月で凛のりんりんらいぶらり~は2年目に入りました。
凛は昨年の4月にこのブログを立ち上げました。
訪れてくださった皆様には大変感謝いたしております。
ご閲覧ありがとうございます!
あっという間の1年間でした!
本当に月日の経つのは早いものですね。

この1年間に凛のブログでご紹介いたしました本は30作品になります。
いろいろなジャンルの本もご紹介したいですね。
これからも凛のりんりんらいぶらり~を何卒よろしくお願いいたします!m(_ _)m

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

あなたには大切にしたい本がありますか。

昨年2020年の8月14日配信の「隠れ家夜食カフェに行きたい!(その1)」で、凛からあなたにこの質問をいたしました。
あなたは覚えていらっしゃいますでしょうか。

今回、初めて凛のブログを訪れていただいた方は、「隠れ家夜食カフェに行きたい!(その1)をご覧になられていただけると幸いです。
凛が大切にしている本について書いています。
その本は、古内一絵氏の小説『マカン・マラン 二十三時の夜食カフェ』(中央公論新社、2015年)でした。
単行本で4巻シリーズとなっているうちの第1巻で、今でも4巻とも文庫化されていません。
多くのファンから長く愛されている本ですね~ (^-^)

書店に足を運び、日本の小説の単行本の棚の前に立ちますと、あらあら不思議!
古内一絵氏の小説『マカン・マラン』シリーズ第1巻~第4巻までの4冊から、ほんわかとした光が放たれているのがわかりますよ~ (^o^)
多くの書店の棚には4巻がきちんと揃って並んでいます。
4巻たちは、あなたから手にとっていただくのを待っているかのように。

元エリートサラリーマンで、今はドラァグクイーンのシャールさんが営んでいる「マカン・マラン」という夜食カフェ。
スタッフのダジャさんやお客さまたちとの温もりのある会話に、いつしかお客さまは個々の悩みを吐露し、シャールさんの心のこもった手作りの料理の数々に、すっかりこのカフェの虜となってゆきます。
ここでは昼間はダンスのドレスの受注と販売をしています。
スタッフのダジャさんは頼もしい役割を担っています。

今回凛がご紹介いたします本は、続く第2巻で、古内一絵氏の小説『女王様の夜食カフェ ─マカン・マラン ふたたび』(中央公論新社、2016年)です。

シャールさんのカフェ「マカン・マラン」の不定期な開店と同様、凛からもこの本のシリーズは不定期な間隔にての配信としています。
凛は決して忘れていたわけではありませんので、ご了承くださいませ。
面白くて既に全巻読んでしまわれた方もいらっしゃるかもしれませんね。

凛が持っている第2巻は2020年6月の第9刷です。
こちらの本はデパート内にあった書店で購入しました。

表紙は、イラストレーターの西淑氏の絵です。
美味しそうなトルコライス!
凛の胃袋にスイッチが入りそうです。(^○^)

帯は赤い色で、表表紙側には、「自分のことを"つまらない"とか言っちゃ駄目。」と書いてあります。
今回も悩みを抱えたお客さまたちのご登場のようです。
帯の裏表紙側には、4種類のメニューが紹介されています。

第2巻も、4話の構成で、4人の悩める人たちが登場します。
第1巻でシャールさんは病気になりますが、第2巻では元気になって戻ってきます!
よかった!!
読み進んでいくうちに、シャールさんの過去や現在が少しずつわかってきます。

第一話 「蒸しケーキのトライフル」
派遣社員として働いている女性が、職場での曖昧な立場に自信を失くしています。
彼女は憂鬱な社内ランチをどのようにして乗り越えていくのでしょうか。

第二話 「梅雨の晴れ間の竜田揚げ」
東京で漫画家になる夢に向かって、漫画家アシスタントとして働いている男性がいます。
ある日突然、地方で旅館業を営んでいる実家の兄が亡くなったという知らせがありました。
夢と現実との間で、彼がとった行動は……。

第三話 「秋の夜長のトルコライス」
タワーマンションに居住し、一人息子の子育てに悩む専業主婦にはあらゆるしがらみがありました。
一時はシャールさんの店「マカン・マラン」の敵側となってシャールさんたちを糾弾します。
彼女はどのようにしてしがらみからの呪縛を解いていくのでしょう。

第四話 「冬至の七種うどん」
シャールさんの旧友である柳田先生は、高校生の娘さんの大学進学について悩みます。
彼はシャールさんから「冬至の七種(ななくさ)」(262頁)についての意味を教えられます。

第二話から第四話まで、「親子のありかたについて」が隠れたテーマであると凛は考えました。
作者から「あなたならどうしますか?」と読者に問いかけていくのが伝わります。

悩める四人の登場人物だけでなく、シャールさんにも自身の病気やご家族との軋轢など深刻な悩みがあります。
彼らの悩める姿勢が等身大のように読者の心の鏡に映し出されて、「うん、ある、ある!わかる!」と共感できる方も多いのではないでしょうか。
だからこそ多くのファンから支持されているのでしょう。

タイトルに「ふたたび」とついているのが納得できます。
「つまらない」なんて言わずに、自信をもって生きていこう!

それにしても、今回の第2巻全編に登場する「マカン・マラン」の様々なメニューも、どれも美味しそうですよ~!!(^o^)
上記の四つのメニュー以外にもいただきたいメニューばかりです。

シャールさんは言います。
「私の賄いは一応、マクロビオティックを基本にしてるけど、それだっていい加減なものなのよ。」(209頁)
彼の料理に対するスタンスから美味しさと心地よさが上手く調和されて、程よい味わいを作り出しているのでしょう。
隠れ家夜食カフェの「マカン・マラン」のファンが増えるはずですね!

以上、第2巻のご紹介でした。
次回の第3巻もお楽しみに~(不定期ですが……。)(^-^;

今夜も凛からのおすすめの一冊でした。(^-^)

「マカン・マラン」の特設ページは、こちらです。

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中央公論新社(日本語)単行本-2016/11/16古内一絵(著)
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2021年3月29日月曜日

ビールと料理と謎解きの三点セット ~北森 鴻『花の下にて春死なむ 香菜里屋シリーズ1〈新装版〉』(講談社文庫、2021年)~

こんばんは。
南城 凛(みじょう りん)です
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださいましてありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

春になりましたね~ (^o^)
桜前線も北上。
自粛緩和での花見ですが、あなたはどのように楽しまれましたか。
凛は混雑している場所には行かず、ご近所を散策しながら桜見物をしました。

早いもので、満開の桜も春の嵐であっという間に葉桜になりそうです。
満開を迎えるまでのワクワク感も良いけれど、散り際の桜も風情がありますね。
見事に咲ききった満開の桜!
ああ、何て美しいのでしょう!
いつまでもこのまま咲き続けて欲しい!

満開の桜の花々はあっという間に過ぎてゆきます。
桜の花びらがひらひらと風になびいて散ってゆく姿に、日本人は自分の人生を折り重ねて思いにふけるのでしょう。
来年もまた美しい桜の開花が楽しめますように。(^-^)

日本には四季のうつろいがあります。
春の「木の芽時」の頃には体調にも変化がみられがちです。
このような季節の変わり目には気分転換が必要ですね~

美味しいお料理の一品にビールを添えて、上質な大人のミステリー小説を堪能するのはいかがでしょう。
凛が今回ご紹介いたします本は、北森 鴻(きたもり こう)氏の連作短編小説『花の下にて春死なむ 香菜里屋シリーズ1〈新装版〉』(講談社文庫、2021年)です。
(はなのもとにてはるしなむ かなりやシリーズ1 しんそうばん)
この作品は、1998年11月に講談社から単行本で刊行、のち2006年4月に講談社文庫で文庫化されたものを、2021年2月に新装版として刊行されました。

凛はいつもの近所の書店の文庫本の新刊コーナーで発見しました。
満開を過ぎた桜の花の下で、ベンチに座って花を眺めている若い女性の表紙の絵に魅入ってしまいました。
イラストレーターのtoi8(といはち)氏の装画で、桜色の優しさの中に切なさが込められていて、散っている桜の花びらが印象的です。

文庫本の帯の表表紙側には、「人生に必要なのは、(省略)料理とビール、それから、ひとつまみの謎。」と紹介されています。
わーお!凛が大好きな三点セットで~す!\(^o^)/
料理とビールに謎解きですって!!
なるほど、この三点セットは人生に必要なアイテムなのかあ!

帯の裏表紙側には、香菜里屋(かなりや)シリーズとして、今年の2月から5月まで毎月4ヵ月連続で講談社文庫から刊行するとのこと。
「♯北森 鴻を忘れない」と書いてあります。
え?どういうことでしょう?

後に知りましたが、北森 鴻氏は2010年に48歳でお亡くなりになられています。
凛はこれまで北森氏の作品を全く読んだことがなく、今回初めて読むことになりました。
近年、出版不況と言われる状況下において、きっと良い作品だからこそ、北森氏の没後10年以上経過しても、出版社は新たに新装版として刊行するのでしょうね。
これもひとつの出合いですね。

この本は、以下6篇の連作短編集となっています。
「花の下にて春死なむ」
「家族写真」
「終の棲み家」
「殺人者の赤い手」
「七皿は多すぎる」
「魚の交わり」

東京の三軒茶屋にあるビヤバー「香菜里屋(かなりや)」のマスター・工藤が提供するビールと美味しそうな一皿に舌鼓をうちながら、店に集う人々との会話の中から謎解きの面白さを満喫できる設定になっています。

作中の謎には様々な種類があります。
常連客同士の共通の知人の死にまつわる謎、客同士の会話の中から生じる間接的な謎、客が過去に出会った人物に対する謎、現在発生している事件にまつわる謎、葬られたはずの過去の謎解きなど、様々な謎が出てきます。
謎ときの中心人物は常連客で、マスターの工藤は実にさりげなく、目立たない存在で、対比となっています。

しかし、工藤の推理の思考回路は瞬時に働いており、彼の時間軸の中において、彼が打ち出した結論の確認が大半であると捉えることができます。
謎解きの結論にたどり着くまでの客同士や工藤との会話がとても面白く、読者はまるでその場に同席しているかのように時間の共有を楽しめます。
工藤が導き出した結論が見事な論理展開を示してくれ、客だけでなく、最後には必ず読者を唸らせてくれますよ。

凛は以下の四点に注目しました。

まずは、三段階のアルコール度数のビールです。
工藤は客の様子を把握して、適切な度数のビールを提供しています。
凛も工藤が選んでくれたビールをいただきたいものです!
決して酔い過ぎず、心地よくほろ酔わせてくれそうです。(#^^#)

二点目は、お料理です。
工藤が提供する料理のピリリとしたエッセンスが、謎解きの小道具のようにも思えて、実にピタリと合うのです。

例えば、合鴨の脂身でつくられたお吸い物。
白髪葱を添えているため、とてもさっぱりしているとのこと。(文庫本新装版、110頁参照)
濃い味付けだけれども、アルコールの疲れを適度に流してくれて、謎解きを巡る余地を充分に残してくれる、そんな工藤の配慮が何よりも有難いです。(*'▽')

三点目は、文化の香りです。
表題作の「花の下にて春死なむ」を例に挙げますと、この表題はある歴史上の歌人が詠んだ短歌がベースとなっています。

俳句の自由律句の同人仲間である片岡草魚(かたおか そうぎょ)の死に関しての謎解きが始まります。
身元引受人がおらずに、しかも本籍地も不明という故人をめぐり、「彼は一体何者であったのか?」という疑問に対して、フリーライターの飯島七緒が故人の過去を丹念に調べてゆきます。
故人が残した日記に綴られた俳句を基に、出身地であろう某地方の図書館での調査など実に地道に細かく調べていく過程が素晴らしいです。
この他、各篇の随所に文化の香りが込められています。

四点目は、時間の流れです。
この作品が単行本で刊行されたのが、1998年11月。
ということは、北森氏が作品をご執筆されたのは刊行年の前ですから、現在から遡って二十数年前の物語世界が展開しています。

新装版の巻末の文庫版解説で、ライターの瀧井朝世(たきい あさよ)氏が述べていらっしゃいますが、当時の「新玉川線」の呼称で、田園都市線に組み込まれる2000年以前の話です。(同書、306頁参照)

第六篇目の「魚の交わり」にも手書きのノートが重要アイテムとなっていて、緩やかな時間の推移を基軸にして推理を突き進めてゆきます。
そして、表題作である第一篇目の「花の下にて春死なむ」とリンクしていきます。

作品全体に流れる緩やかな時間は、ネットなどで直ぐに検索できる現代社会との違いを認識せざるを得ません。
これが読者には心地よく、読書の楽しみといえるでしょう。

以上、凛の四つの注目点でした。

北森 鴻氏は、1995年、小説『狂乱廿四考』(東京創元社、1995年、のち角川文庫、2001年)で、第6回鮎川哲也賞☆彡を受賞して作家デビューされました。
今回ご紹介しました『花の下にて春死なむ』で、1999年、第52回日本推理作家協会賞短編および連作短編集部門を受賞☆彡されました。
他にも多くの作品を遺していらっしゃいます。

ご存命であるならば、計り知れないほどの小説の楽しさを読者にご提供してくださっていることでしょう。
凛にはとても残念でなりません。
ご活躍当時の北森氏との時間の共有はできませんでしたが、今に至り良い出合いがあったことを節に嬉しく思います。

いつの間にか過ぎ去ってしまい、どこかに置き忘れてきたかのような時間の流れにふと気づかせてくれるビアバーの「香菜里屋」で、工藤がそっと差しだしてくれるビールとお料理と謎解きの愉楽をこの後も続けていきたいと思う凛です。
上質な大人のミステリーとして楽しめます。

ビールと料理と謎解き、人生に必要な三点セット、あなたもいかがですか。
5月までの4ヵ月連続刊行が楽しみです!

今夜も凛からのおすすめの一冊でした。(^-^)

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2021年3月16日火曜日

お墓について考えてみる ~堀川アサコ『ある晴れた日に、墓じまい』(角川文庫、2020年)~

こんばんは。
南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださりありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

唐突ですが、今回はお墓についてのテーマです。

あなたは人生の終着駅をどうしたいのか決めていらっしゃいますか。
あなたが現在健康そのもので、何ら先行きに不安がなければ、あれこれと考える機会は少ないかもしれません。
ところが、あなたご自身が健康を害されたときや、ご家族などに変化が生じた場合、これまでの安定した関係性が崩れる可能性が起こり得ることが考えられます。

凛の周辺には、最近は家族葬や直葬のお葬式が増えているようです。
それから、親戚が集まる法事も少人数で簡素化される傾向になっています。
少子・高齢化の影響で空き家が増えていますし、お墓の管理も大変になってきました。
お墓が遠方にありますと、なかなかお参りに行けないという話も耳にします。

最近は「終活」が盛んになってきましたね。
葬儀だけでなく、お墓も本人やご家族が元気に生きている間に納得いくような形で進めたいと願う方が増えています。
宗教観や倫理観、土地やご親族の慣習などがありますので、皆が納得できるようにまとめるにはさまざまなことを克服しなければならないのが現状でしょう。
これは中高年以上の方々の課題だけではなく、若い方にも当てはまることに普段はなかなか気づきません。

昨年、凛はとっても大切な友人を病気で失いました。(T_T)
今まで彼女の存在が当たり前のように思っていただけに、喪失感がとても大きいです。

凛は今のところ不自由なく動けていますが、いつ、どこで、どうなるかは誰にもわかりませんよね。
それだけに健康でいるときにこそ、人生の終着駅をどのようにするのかを考えてみるのは必要なことではないでしょうか。
それが大人としての必須条件ではないかと思う今日この頃です。

後のことは残った人が自由に決めればよい、ということではないでしょう。
このようなとても大切なことを、亡くなった友人が教えてくれているのだなと思っています。

決して今すぐに結論を求めなくてもよく、漠然とした輪郭だけでもよいと思います。
時が過ぎてゆく中で、凛を巡る環境も、自身の気持ちにも変化が生じて、価値感も変わることも考えられます。
納得できる候補としていくつかあげて、条件を満たすものを選択するという方法もありますよね。

人生の終着駅に対して、具体的には、お墓をどうするのかについて、まだ考えていらっしゃらない方や、これから考えたい方、また、現在悩んでいらっしゃる方におすすめの小説があります。

凛が今回ご紹介いたします本は、堀川アサコ(ほりかわ あさこ)氏の小説『ある晴れた日に、墓じまい』(角川文庫、2020年)です。
この小説は、書き下ろし作品です。

とてもわかりやすいタイトルですね。
バツイチの44歳の古書店を経営する女性が、乳癌の摘出手術後に、実家のお墓を整理するというお話です。

この本とは、いつもの近所の書店で、昨秋頃、文庫本の新刊コーナーで出合いました。
凛はこの本を購入してからすぐには読まずにいましたが、春のお彼岸を前にしたからなのか、急に読みたくなりました。

文庫本新刊の帯に「イマドキの家族小説!」と描かれていますように、いろいろな難題が彼女の前に立ちはだかります。
カバーのイラストは、茂刈 恵(もがり けい)氏で、主人公の正美(まさみ)さんを中心にして、彼女の周囲に5人と犬が1匹描かれています。
黒いワンピースを着ている正美の頭の上には「和」と刻まれているお墓が乗っているではありませんか!( ゚Д゚)
きゃああ~~!これ、まじでシビアだわ!(@_@。

ご安心ください。(^o^)
ホラー小説ではありませんよ~
正美の柔和な性格があるからか、全体的に穏やかでほっこりできる世界となっています。

正美さんの実家は小児科の医院ですが、頑固で気難しい父親が院長のためか、患者さんが非常に少ないです。
兄夫婦は父親と喧嘩して家を出て別の事業を営んでいますし、姉は障害者の施設に入居しています。
正美さんも兄夫婦と同様、実家の父親とは疎遠になっています。
ですから実家の医院の跡継ぎはいません。
ある日突然、この厳格な父親が急逝し、弁護士から父親からの遺言内容が言い渡されるのですが……。

タイトルや表紙のイラストからも想像できますように、現代日本のお墓を巡る事情を読者に伝えてくれます。
家族間のもめごとや、故人を巡る他者との関係があからさまに噴出します。
ご先祖様代々のお墓の移転に伴う様々な手続きなど、読者はやんわりした小説世界に浸りながら、情報として知ることができます。

作者の堀川アサコ氏は、深刻で暗くなりがちなお墓の話題を、ユーモアを交えた文体で、あっという間に読者をラストに導いてくれます。
読後は、爽やかな気持ちになり、正美さんの営む古書店の続編を願う凛でした。(^-^)
もちろん、正美さんの健康を願ってやみません。

堀川アサコ氏は、2006年、小説『闇鏡』(新潮社、2006年)で、第18回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞☆彡を受賞され、デビューされました。
小説『幻想郵便局』(講談社、2011年、のち講談社文庫、2013年)などの「幻想シリーズ」で人気があります。
他にも多数の作品をご執筆されています。

凛には亡くなった友人との思い出があります。
「私たち、これからが本当の人生よね。長くお付きあいしていこうね。ずっとお友だちでいようね」
と握手して、某駅の新幹線の改札口で見送ってくれた彼女の優しい笑顔が忘れられません。
彼女と一緒に温泉旅行に行きたかったなあ。
旅先で温泉に入って、美味しいものを頂いて、ひと晩じゅうお喋りしてみたかったなあ。

ちょうど日本は春のお彼岸入りを迎える時期でもあります。
ご先祖様に感謝して、「今」を元気でいられることが何よりもありがたく思います。

岐路に立たされたときにうろたえる前に、元気な間に終着駅をどうしたいのかを考えておくのもよいなあ、と思うこの頃の凛です。
そのうちに、いつか、な~んて言ってる間にあっという間に時間が経ちますものね。

今夜も凛からのおすすめの一冊でした。(^-^)

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(角川文庫)文庫2020/8/25堀川アサコ(著)
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2021年3月5日金曜日

奪われてしまうことの大きさに気づくか ~桐野夏生『日没』(岩波書店、2020年)~

こんばんは。
南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
本の話題でどうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

あなたは自由気ままな生き方を望んでいらっしゃいますか。
誰にも束縛されずに、誰からも咎められることもなく、我が道を思う如く生きていく。
ああ、自分の思うままに生きていけたらなあ。
などと、ロマンを感じる方も多いでしょう。

「自由」……とても深くて、簡単には説明ができないものですね。
この「自由」が、あるとき一瞬で奪われるとしたら!
あなたも日常における様々な「不自由」なことを想像してみましょう。

施設での一時滞在とはいえ、社会との接触を強制的に遮断されて、徹底的に管理された生活を強いられたとしたら、どうしましょう。

また、食事、睡眠、行動、言動など、これまでの生き方や考え方などを管理体制側の考えるうに方向転換させられるとしたら、窮屈なところではありません。
学校の部活の合宿や、新入社員の研修などとは違うのです。
そのようなディストピア的な体験を読者に知らしめてくれる小説があります。

今回、凛がご紹介いたします本は、桐野夏生(きりの なつお)氏の小説『日没』(岩波書店、2020年)です。

主人公の小説家であるマッツ夢井(ゆめい)は、ある時、国家の総務省文化局の文化文芸倫理向上委員会」(10頁)から召喚状が届き、施設に向かいます。
一時的な滞在であるということでしたが、そこは厳格な徹底管理主義の施設でした。
B98号という名前で、作家として、管理体制側の思考に合致する小説を書かされることになり、彼女は理解に苦しみながら、もがいていきます。

りんりんらいぶらり~では、前回に続き、今回も単行本のご紹介となりました。
今回もいつもの近所の書店の単行本の新刊コーナーで見つけました。
既に新刊ではなくなる時期だったようで、残り2冊が端っこにひっそりと佇んでいました。
「凛さ~ん、面白いですよ。買ってくださ~い」と本が自己主張しているのがわかりました。

手にとってみると、初版でした。
初版の帯の表表紙側には、「断崖に聳える収容所を舞台に(省略)戦慄の警世小説」と描いてあります。
ひゃああ、怖そう!でも、面白そう!( ;∀;)

裏表紙側には、「終わりの見えない軟禁の悪夢。」と描いてあります。
ますます怖そうで面白そう!!( ;∀;)

そして、裏表紙側の帯の上のほうに大きな文字で、「あなたの書いたものは、良い小説ですか、悪い小説ですか。」と目立つように描かれています。

そもそも小説の良し悪しとは、誰が判断するのでしょう。
出版社の編集者?
文学賞の審査員の先生方?
作家自身?
それとも読者?
ひとつの作品は、時代の変遷によっても評価は異なっていくものでしょう。

作家が主人公となる物語で、収容所に強制収監されて、いろいろと体験する物語です。
お気に入りの桐野夏生氏の作品でしたし、内容がとても気になり、凛はすぐに読んでみたくなりました。
文庫本になるまで待てません。
単行本でしたが、エイッ!と思い切ってレジに行きました。(^-^)

表紙は、大河原愛氏の油彩画「深窓の森」(2016年)で、白黒で表現された人の上半身の後ろ姿が描かれています。
その人物の周りを黒い墨のような絵の具で塗られているように見えます。

やはり、桐野作品は読みだしたら止まりません!
ミステリー仕立てですので、先が気になり、一気に読めますよ!
ストーリーはあなたが読まれてからのお楽しみになさってください。

この作品で、凛が気になった点を四つあげますね。

一点目は、主人公の生き抜いていく力強さと脆さが気になりました。
彼女は強く反抗したり、時には従順であったり、試行錯誤しながら時が過ぎていく間に、様々なことを発見し、理解していきます。
瞬間的な判断能力が研ぎ澄まされていく過程がよくわかります。

二点目は、主人公が収容所内で書かされる小説の内容が興味深いです。
架空の家族関係を書いていますが、内面を鋭くえぐっています。

三点目は、施設での人間関係の不気味なことです。
収容所の所長との対峙だけでなく、職員たちとの接触がピリピリとしており、一触即発で瞬間的にトラブルが起こるような緊張感があります。
また、仲間であるはずの者が敵か味方かも不明です。

四点目は、食事の大切さですね。
貧弱な食事内容に適合していく彼女の身体の変化がみられます。
食べることに対して、全神経が研ぎ澄まされていく主人公の変貌ぶりが激しいです。
やはり栄養摂取は大切だなと気づかされます。

以上の点から、突然自由を奪われ、軟禁状態に置かれた環境下にある閉塞感の中で、人の心身がどのように変化していくのかを執拗に読者に提示しているのだと凛は考えました。

「作家」という職業に籍をおく桐野夏生氏の筆力が、息苦しくなるほどの圧倒感をもって読者にぐんと迫ってきます。
そして、自由を失うことの意味や、あらゆるものを奪われることの不条理さに、凛は慄然となりました。

お休み前のひとときですが、あなた自身を別のシチュエーションに置き換えて考えてみるのも読者の「自由」ですよね。
例えば、もしも病院で一時的に入院することがあるとしたら、などと身近なことに考えてみるのもよいかもしれません。

時代はどんどん先へ進んでいきますので、いろいろなことに気づきを与えてくれる小説です。
作家だけでなく、読者に対しても、「大切なもの」を奪われてしまうことの大きさについて、桐野氏からの問いかけが込められています。
最後に、この作品のタイトルの意味について、痛烈に考えさせられた凛でした。

桐野夏生氏は、非常に多くの賞を受賞された人気作家です。
1998年、小説『OUT』(講談社、1997年、のち講談社文庫(上下巻)、2002年)で、第51回日本推理作家協会賞(長編部門)を受賞☆彡されています。
この作品は、2004年、エドガー賞最優秀賞作品賞にノミネートされています。
2002年に映画化され、平山秀幸監督、原田三枝子さん主演でご覧になられた方も多いしょう。

1999年、小説『柔らかな頬』(講談社、1999年、のち文春文庫(上下巻)、2004年)で、第121回直木三十五賞を受賞☆彡☆彡されています。

桐野氏は以上のほか、ここでは書ききれないくらい受賞歴があります。
また、2015年には紫綬褒章を受章☆彡☆彡☆彡されています。

常に時代の先端に視点を置き、鋭い感性で問題提起をされて、小説として読者に提供されている桐野氏は、女性のファンが多いです。
いつだったか忘れましたが、凛は桐野氏のサイン会で握手を求めたことがありました。
「ファンです!」とご挨拶すると、桐野氏は聞こえないくらいの小さな声で笑顔でお答えになられて、とってもシャイな方なんだなと思いました。
握手していただいた手の感触がとても柔らかでした。(^-^)

桐野氏の作家としての目線が力強く主張されている作品であると凛は捉えました。
作家・桐野夏生氏からの強力なメッセージをがっしりと受け止める体力を備えて、この本と向き合いましょう。
読み始めたら、ラストまで直行です!
あっという間に時間が経ちます。

今夜も凛からあなたにおすすめの一冊でした。(^-^)

桐野夏生氏のHPの-BUBBLONIA-は、こちらです。

岩波書店『日没』特設サイトは、こちらです。
https://www.iwanami.co.jp/sunset/

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(日本語)単行本-2020/9/30桐野夏生(著)
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