2021年3月29日月曜日

ビールと料理と謎解きの三点セット ~北森 鴻『花の下にて春死なむ 香菜里屋シリーズ1〈新装版〉』(講談社文庫、2021年)~

こんばんは。
南城 凛(みじょう りん)です
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださいましてありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

春になりましたね~ (^o^)
桜前線も北上。
自粛緩和での花見ですが、あなたはどのように楽しまれましたか。
凛は混雑している場所には行かず、ご近所を散策しながら桜見物をしました。

早いもので、満開の桜も春の嵐であっという間に葉桜になりそうです。
満開を迎えるまでのワクワク感も良いけれど、散り際の桜も風情がありますね。
見事に咲ききった満開の桜!
ああ、何て美しいのでしょう!
いつまでもこのまま咲き続けて欲しい!

満開の桜の花々はあっという間に過ぎてゆきます。
桜の花びらがひらひらと風になびいて散ってゆく姿に、日本人は自分の人生を折り重ねて思いにふけるのでしょう。
来年もまた美しい桜の開花が楽しめますように。(^-^)

日本には四季のうつろいがあります。
春の「木の芽時」の頃には体調にも変化がみられがちです。
このような季節の変わり目には気分転換が必要ですね~

美味しいお料理の一品にビールを添えて、上質な大人のミステリー小説を堪能するのはいかがでしょう。
凛が今回ご紹介いたします本は、北森 鴻(きたもり こう)氏の連作短編小説『花の下にて春死なむ 香菜里屋シリーズ1〈新装版〉』(講談社文庫、2021年)です。
(はなのもとにてはるしなむ かなりやシリーズ1 しんそうばん)
この作品は、1998年11月に講談社から単行本で刊行、のち2006年4月に講談社文庫で文庫化されたものを、2021年2月に新装版として刊行されました。

凛はいつもの近所の書店の文庫本の新刊コーナーで発見しました。
満開を過ぎた桜の花の下で、ベンチに座って花を眺めている若い女性の表紙の絵に魅入ってしまいました。
イラストレーターのtoi8(といはち)氏の装画で、桜色の優しさの中に切なさが込められていて、散っている桜の花びらが印象的です。

文庫本の帯の表表紙側には、「人生に必要なのは、(省略)料理とビール、それから、ひとつまみの謎。」と紹介されています。
わーお!凛が大好きな三点セットで~す!\(^o^)/
料理とビールに謎解きですって!!
なるほど、この三点セットは人生に必要なアイテムなのかあ!

帯の裏表紙側には、香菜里屋(かなりや)シリーズとして、今年の2月から5月まで毎月4ヵ月連続で講談社文庫から刊行するとのこと。
「♯北森 鴻を忘れない」と書いてあります。
え?どういうことでしょう?

後に知りましたが、北森 鴻氏は2010年に48歳でお亡くなりになられています。
凛はこれまで北森氏の作品を全く読んだことがなく、今回初めて読むことになりました。
近年、出版不況と言われる状況下において、きっと良い作品だからこそ、北森氏の没後10年以上経過しても、出版社は新たに新装版として刊行するのでしょうね。
これもひとつの出合いですね。

この本は、以下6篇の連作短編集となっています。
「花の下にて春死なむ」
「家族写真」
「終の棲み家」
「殺人者の赤い手」
「七皿は多すぎる」
「魚の交わり」

東京の三軒茶屋にあるビヤバー「香菜里屋(かなりや)」のマスター・工藤が提供するビールと美味しそうな一皿に舌鼓をうちながら、店に集う人々との会話の中から謎解きの面白さを満喫できる設定になっています。

作中の謎には様々な種類があります。
常連客同士の共通の知人の死にまつわる謎、客同士の会話の中から生じる間接的な謎、客が過去に出会った人物に対する謎、現在発生している事件にまつわる謎、葬られたはずの過去の謎解きなど、様々な謎が出てきます。
謎ときの中心人物は常連客で、マスターの工藤は実にさりげなく、目立たない存在で、対比となっています。

しかし、工藤の推理の思考回路は瞬時に働いており、彼の時間軸の中において、彼が打ち出した結論の確認が大半であると捉えることができます。
謎解きの結論にたどり着くまでの客同士や工藤との会話がとても面白く、読者はまるでその場に同席しているかのように時間の共有を楽しめます。
工藤が導き出した結論が見事な論理展開を示してくれ、客だけでなく、最後には必ず読者を唸らせてくれますよ。

凛は以下の四点に注目しました。

まずは、三段階のアルコール度数のビールです。
工藤は客の様子を把握して、適切な度数のビールを提供しています。
凛も工藤が選んでくれたビールをいただきたいものです!
決して酔い過ぎず、心地よくほろ酔わせてくれそうです。(#^^#)

二点目は、お料理です。
工藤が提供する料理のピリリとしたエッセンスが、謎解きの小道具のようにも思えて、実にピタリと合うのです。

例えば、合鴨の脂身でつくられたお吸い物。
白髪葱を添えているため、とてもさっぱりしているとのこと。(文庫本新装版、110頁参照)
濃い味付けだけれども、アルコールの疲れを適度に流してくれて、謎解きを巡る余地を充分に残してくれる、そんな工藤の配慮が何よりも有難いです。(*'▽')

三点目は、文化の香りです。
表題作の「花の下にて春死なむ」を例に挙げますと、この表題はある歴史上の歌人が詠んだ短歌がベースとなっています。

俳句の自由律句の同人仲間である片岡草魚(かたおか そうぎょ)の死に関しての謎解きが始まります。
身元引受人がおらずに、しかも本籍地も不明という故人をめぐり、「彼は一体何者であったのか?」という疑問に対して、フリーライターの飯島七緒が故人の過去を丹念に調べてゆきます。
故人が残した日記に綴られた俳句を基に、出身地であろう某地方の図書館での調査など実に地道に細かく調べていく過程が素晴らしいです。
この他、各篇の随所に文化の香りが込められています。

四点目は、時間の流れです。
この作品が単行本で刊行されたのが、1998年11月。
ということは、北森氏が作品をご執筆されたのは刊行年の前ですから、現在から遡って二十数年前の物語世界が展開しています。

新装版の巻末の文庫版解説で、ライターの瀧井朝世(たきい あさよ)氏が述べていらっしゃいますが、当時の「新玉川線」の呼称で、田園都市線に組み込まれる2000年以前の話です。(同書、306頁参照)

第六篇目の「魚の交わり」にも手書きのノートが重要アイテムとなっていて、緩やかな時間の推移を基軸にして推理を突き進めてゆきます。
そして、表題作である第一篇目の「花の下にて春死なむ」とリンクしていきます。

作品全体に流れる緩やかな時間は、ネットなどで直ぐに検索できる現代社会との違いを認識せざるを得ません。
これが読者には心地よく、読書の楽しみといえるでしょう。

以上、凛の四つの注目点でした。

北森 鴻氏は、1995年、小説『狂乱廿四考』(東京創元社、1995年、のち角川文庫、2001年)で、第6回鮎川哲也賞☆彡を受賞して作家デビューされました。
今回ご紹介しました『花の下にて春死なむ』で、1999年、第52回日本推理作家協会賞短編および連作短編集部門を受賞☆彡されました。
他にも多くの作品を遺していらっしゃいます。

ご存命であるならば、計り知れないほどの小説の楽しさを読者にご提供してくださっていることでしょう。
凛にはとても残念でなりません。
ご活躍当時の北森氏との時間の共有はできませんでしたが、今に至り良い出合いがあったことを節に嬉しく思います。

いつの間にか過ぎ去ってしまい、どこかに置き忘れてきたかのような時間の流れにふと気づかせてくれるビアバーの「香菜里屋」で、工藤がそっと差しだしてくれるビールとお料理と謎解きの愉楽をこの後も続けていきたいと思う凛です。
上質な大人のミステリーとして楽しめます。

ビールと料理と謎解き、人生に必要な三点セット、あなたもいかがですか。
5月までの4ヵ月連続刊行が楽しみです!

今夜も凛からのおすすめの一冊でした。(^-^)

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