2021年3月5日金曜日

奪われてしまうことの大きさに気づくか ~桐野夏生『日没』(岩波書店、2020年)~

こんばんは。
南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
本の話題でどうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

あなたは自由気ままな生き方を望んでいらっしゃいますか。
誰にも束縛されずに、誰からも咎められることもなく、我が道を思う如く生きていく。
ああ、自分の思うままに生きていけたらなあ。
などと、ロマンを感じる方も多いでしょう。

「自由」……とても深くて、簡単には説明ができないものですね。
この「自由」が、あるとき一瞬で奪われるとしたら!
あなたも日常における様々な「不自由」なことを想像してみましょう。

施設での一時滞在とはいえ、社会との接触を強制的に遮断されて、徹底的に管理された生活を強いられたとしたら、どうしましょう。

また、食事、睡眠、行動、言動など、これまでの生き方や考え方などを管理体制側の考えるうに方向転換させられるとしたら、窮屈なところではありません。
学校の部活の合宿や、新入社員の研修などとは違うのです。
そのようなディストピア的な体験を読者に知らしめてくれる小説があります。

今回、凛がご紹介いたします本は、桐野夏生(きりの なつお)氏の小説『日没』(岩波書店、2020年)です。

主人公の小説家であるマッツ夢井(ゆめい)は、ある時、国家の総務省文化局の文化文芸倫理向上委員会」(10頁)から召喚状が届き、施設に向かいます。
一時的な滞在であるということでしたが、そこは厳格な徹底管理主義の施設でした。
B98号という名前で、作家として、管理体制側の思考に合致する小説を書かされることになり、彼女は理解に苦しみながら、もがいていきます。

りんりんらいぶらり~では、前回に続き、今回も単行本のご紹介となりました。
今回もいつもの近所の書店の単行本の新刊コーナーで見つけました。
既に新刊ではなくなる時期だったようで、残り2冊が端っこにひっそりと佇んでいました。
「凛さ~ん、面白いですよ。買ってくださ~い」と本が自己主張しているのがわかりました。

手にとってみると、初版でした。
初版の帯の表表紙側には、「断崖に聳える収容所を舞台に(省略)戦慄の警世小説」と描いてあります。
ひゃああ、怖そう!でも、面白そう!( ;∀;)

裏表紙側には、「終わりの見えない軟禁の悪夢。」と描いてあります。
ますます怖そうで面白そう!!( ;∀;)

そして、裏表紙側の帯の上のほうに大きな文字で、「あなたの書いたものは、良い小説ですか、悪い小説ですか。」と目立つように描かれています。

そもそも小説の良し悪しとは、誰が判断するのでしょう。
出版社の編集者?
文学賞の審査員の先生方?
作家自身?
それとも読者?
ひとつの作品は、時代の変遷によっても評価は異なっていくものでしょう。

作家が主人公となる物語で、収容所に強制収監されて、いろいろと体験する物語です。
お気に入りの桐野夏生氏の作品でしたし、内容がとても気になり、凛はすぐに読んでみたくなりました。
文庫本になるまで待てません。
単行本でしたが、エイッ!と思い切ってレジに行きました。(^-^)

表紙は、大河原愛氏の油彩画「深窓の森」(2016年)で、白黒で表現された人の上半身の後ろ姿が描かれています。
その人物の周りを黒い墨のような絵の具で塗られているように見えます。

やはり、桐野作品は読みだしたら止まりません!
ミステリー仕立てですので、先が気になり、一気に読めますよ!
ストーリーはあなたが読まれてからのお楽しみになさってください。

この作品で、凛が気になった点を四つあげますね。

一点目は、主人公の生き抜いていく力強さと脆さが気になりました。
彼女は強く反抗したり、時には従順であったり、試行錯誤しながら時が過ぎていく間に、様々なことを発見し、理解していきます。
瞬間的な判断能力が研ぎ澄まされていく過程がよくわかります。

二点目は、主人公が収容所内で書かされる小説の内容が興味深いです。
架空の家族関係を書いていますが、内面を鋭くえぐっています。

三点目は、施設での人間関係の不気味なことです。
収容所の所長との対峙だけでなく、職員たちとの接触がピリピリとしており、一触即発で瞬間的にトラブルが起こるような緊張感があります。
また、仲間であるはずの者が敵か味方かも不明です。

四点目は、食事の大切さですね。
貧弱な食事内容に適合していく彼女の身体の変化がみられます。
食べることに対して、全神経が研ぎ澄まされていく主人公の変貌ぶりが激しいです。
やはり栄養摂取は大切だなと気づかされます。

以上の点から、突然自由を奪われ、軟禁状態に置かれた環境下にある閉塞感の中で、人の心身がどのように変化していくのかを執拗に読者に提示しているのだと凛は考えました。

「作家」という職業に籍をおく桐野夏生氏の筆力が、息苦しくなるほどの圧倒感をもって読者にぐんと迫ってきます。
そして、自由を失うことの意味や、あらゆるものを奪われることの不条理さに、凛は慄然となりました。

お休み前のひとときですが、あなた自身を別のシチュエーションに置き換えて考えてみるのも読者の「自由」ですよね。
例えば、もしも病院で一時的に入院することがあるとしたら、などと身近なことに考えてみるのもよいかもしれません。

時代はどんどん先へ進んでいきますので、いろいろなことに気づきを与えてくれる小説です。
作家だけでなく、読者に対しても、「大切なもの」を奪われてしまうことの大きさについて、桐野氏からの問いかけが込められています。
最後に、この作品のタイトルの意味について、痛烈に考えさせられた凛でした。

桐野夏生氏は、非常に多くの賞を受賞された人気作家です。
1998年、小説『OUT』(講談社、1997年、のち講談社文庫(上下巻)、2002年)で、第51回日本推理作家協会賞(長編部門)を受賞☆彡されています。
この作品は、2004年、エドガー賞最優秀賞作品賞にノミネートされています。
2002年に映画化され、平山秀幸監督、原田三枝子さん主演でご覧になられた方も多いしょう。

1999年、小説『柔らかな頬』(講談社、1999年、のち文春文庫(上下巻)、2004年)で、第121回直木三十五賞を受賞☆彡☆彡されています。

桐野氏は以上のほか、ここでは書ききれないくらい受賞歴があります。
また、2015年には紫綬褒章を受章☆彡☆彡☆彡されています。

常に時代の先端に視点を置き、鋭い感性で問題提起をされて、小説として読者に提供されている桐野氏は、女性のファンが多いです。
いつだったか忘れましたが、凛は桐野氏のサイン会で握手を求めたことがありました。
「ファンです!」とご挨拶すると、桐野氏は聞こえないくらいの小さな声で笑顔でお答えになられて、とってもシャイな方なんだなと思いました。
握手していただいた手の感触がとても柔らかでした。(^-^)

桐野氏の作家としての目線が力強く主張されている作品であると凛は捉えました。
作家・桐野夏生氏からの強力なメッセージをがっしりと受け止める体力を備えて、この本と向き合いましょう。
読み始めたら、ラストまで直行です!
あっという間に時間が経ちます。

今夜も凛からあなたにおすすめの一冊でした。(^-^)

桐野夏生氏のHPの-BUBBLONIA-は、こちらです。

岩波書店『日没』特設サイトは、こちらです。
https://www.iwanami.co.jp/sunset/

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(日本語)単行本-2020/9/30桐野夏生(著)
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