2020年8月4日火曜日

これが現実になったら

こんばんは。
南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にお越しくださり、ありがとうございます。
とともにどうぞおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

あなたが暮らしている日々は平和でしょうか。
少なくとも文学と親しんでいるのは平和な証拠だといえましょう。
誰しもが平穏に暮らしていきたいと願うのは当然のことでしょう。
しかしながら、この地球上のどこかで争いごとが起きているのが現実でしょう。

今夜も凛のりんりんらいぶらり~を楽しんでくださっているあなたのおうちの内外は静寂でしょうか。
忙しかった一日を終えて、ほっとしていたい夜、これから眠りに入り、どんな夢をみましょうか。
明日は今日よりももっと快適な一日を過ごせるようになっていこうという願いをこめて、眠りに入るのではないでしょうか。
そして、ぐっすりと眠った朝は、心地よく朝日を浴びて、これまでと同じような一日がまた始まるという期待感でいっぱいになることでしょう。

一日24時間のうちの3分の1は睡眠にあります。
凛も平和な一日を過ごしたいと思っています。
確実な明日の幸福を目指して眠りたいですね。
快適な眠りは明日への糧となり、希望をもって明日へとつないでゆきます。(^o^)

ところが、そうではない世界を描いた小説があります。
朝、目覚めたら、とんでもないことが起きていて、あなたが住んでいる国家に戦争が始まっていたというお話です。
つまり、本人が知らない間に、昨夜とは全く違う世の中になっていたのです。
もしあなたが眠っている間に、国家で戦争が始まっていたとしたら……。

今回は、そんな誰も体験したくないであろう小説をご紹介しましょう。
それは不可思議な小説ともいえましょう。

中村文則氏の小説『R帝国』(中公文庫、2020年)はまさに近未来のSF小説、そして戦争を描いた小説です。
2017年に中央公論新社から単行本で発刊されています。

この作品は、第一部と第二部から構成されています。
小説では書き出しが大切であると言われます。
第一部の冒頭は、まさに文豪、川端康成氏の『雪国』(岩波文庫、2003年、新潮文庫、2006年、角川文庫、2013年など)級のものだろうと凛は思いました。
凛は最初の一行でその世界に引き寄せられてしまいました。

R帝国という架空の島国の国家の最北端のコーマ市に住む青年の矢崎は、ある朝、目覚めたら、国民としてR帝国に戦争が始まったことを知ります。
隣国のB国に宣戦布告をしていて、彼が目覚めたときには既にB国の核兵器発射準備を察したR帝国が空爆をしていました。
HP(ヒューマン・フォーン)という、現在のスマホをもっと進化させた人工知能搭載の機械から映し出された国営放送で、彼はそのことを知ります。
"党"からの広報が真実なのか、否か。

矢崎が住むコーマ市は、あれよと言う間もなく、Y宗国からの攻撃を受けます。
コーマ市民が入り乱れ、逃げまどう姿が画面に映し出され、R帝国の国民たちを震撼させますが、国民には自分たちのために一部の国民が犠牲になるのは仕方がないという気持ちが生じます。
「抵抗」という言葉は、R帝国では既に死語と化していることを悟る場面に、矢崎は遭遇します。

かつて存在していたGY国という国家から分裂したG宗国とY宗国が戦争をしていました。
そのY宗国の女性兵士となったアルファの壮絶な過去の体験が綴られます。
YP-Dという人工知能の兵器が容赦なくコーマ市の建物や市民たちを襲います。
「抵抗」ができない状態で、矢崎はどのように動いていくのでしょうか。

もう一人、栗原という男性が"L"という地下組織のサキという女性と出会います。
彼は、R帝国でただ一人の野党議員である片岡の秘書を務めています。
栗原の周囲に不穏な動きが始まります。

第二部では、R帝国の国民の肉声に迫ります。
一般男性、兵士の男性、一般女性の各人の本音が吐き出されています。
情報、フェイクニュース、SNS、欺瞞、自己防衛、他人への攻撃、真実、虚構、複雑な人間関係、子育て……。
凛は、厳重に管理されたR帝国において、彼らの肉声のどこまでが本音なのだろうかと思いました。
そもそも肉声を誰が聞き出しているのでしょう。

栗原と矢崎の過去から、彼らの運命は如何に……。
そして、R帝国はどうなるのでしょうか。

凛は、三点について着眼しました。
第一点目は、人間が生死がかかる極限の状況におかれたとき、その人の本来もつ本性が表れることです。
エゴ、嘘偽り、裏切り、諦め、優越感、敗北感、自己陶酔など……。
上辺や綺麗ごとだけでは済まされない人間の深層の部分、中村氏はこれを見事に描き切っています。

第二点目は、技術の革新的な進歩です。
現在よりもさほど遠くかけ離れた未来の話ではないものが出てきます。
その中で、凛は三つの技術に注目しました。

一つ目は、ヒューマン・フォーンと呼ばれるHPです。
HPは所有者の性格を判断して、自ら考えます。
状況を判断して、自ら電源をオン・オフすることができます。
所有者に指示することも頻繁にあり、助ける面だけでなく、逆にやっかいな面も持ち合わせています。
必ずしも所有者に従順でないところが、人間的であるともいえます。

二つ目は、無人タクシーです。
勿論、画像で記録され、通信されています。
利用者が有人タクシーとの共用をしているところが、数年先には実現しているかもしれないと思った凛です。

三つ目は、YP-Dのような人工知能搭載の兵器です。
これに関しては、凛には小説を通して想像するしかありません。

第三点目は、個人としての幸福についてです。
国家と国民との関係において、幸福を追求していくには各人がどうしたらよいのでしょうか。
人間が生きていくためには何が必要なのでしょうか。

凛が持っている文庫本の初版の帯には、「キノベス!2018 第1位」「アメトーーク!『読書芸人』で紹介」「読売新聞、毎日新聞等で紹介」と掲載されており、太字で「各メディア大絶賛」と書いてあります。
文庫の巻末には、中村文則氏の解説「文庫解説にかえて──『R帝国』について」が掲載されており、読者に向けて、より考えさせられる内容となっています。

以上、まとめますと、さほど遠くはない近未来社会において、人間の幸福と尊厳を追求するためには、「今」をどのように考えて生きていけばよいのかということを、中村氏がこの作品を通して提案しているのではないかと、凛は考えました。

作者の中村文則氏は、2002年、小説『銃』(新潮社、2003年、新潮文庫、2006年、河出文庫、2012年)で、第34回新潮新人賞☆彡を受賞され、作家デビューされました。
2004年、小説『遮光』(新潮社、2004年、新潮文庫、2010年)で、第26回野間文芸新人賞☆彡を受賞されました。
2005年、小説『土の中の子供』(新潮社、2005年、新潮文庫、2007年)で、第133回芥川賞☆彡☆彡の受賞に輝きました。
2010年、小説『掏摸<スリ>』(河出書房新社、2009年、河出文庫、2013年)で、第4回大江健三郎賞☆彡を受賞され、英訳『The Thief』はアメリカの『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙の2012年同ベスト10小説☆彡に選ばれました。
ほか多数の受賞歴があり、また、多くの作品が翻訳されています。

今回の作品は、凛がこれまでりんりんらいぶらり~でご紹介いたしました作品とは読後感が少々異なるかもしれません。
人は誰しも幸せに生きることを願っているものと思います。
今夜もぐっすり眠れて、目覚めのよい明日を迎えるためには、毎日が幸福でないといけませんね。
幸福とは何でしょうか。
あなたも凛も、そのことをしっかりと考える必要があるのではないでしょうか。
そのようなことをこの小説を通して考えてみるのもよいのではないかと、あなたに凛からの一案です。

今夜もあなたにおすすめの一冊でした。(^-^)

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(日本語)文庫-2020/5/21中村文則(著)
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2 件のコメント:

Kohta さんのコメント...

蒸し暑い日々が続きます。お変わりありませんか?こちらはなんとか大過なく日々を過ごしています。

私の近隣の水田では、ほとんどの稲穂が出揃い頭を垂れ始めています。水害に遭われた方々にはお見舞い申し上げますが、稲は順調に生育しており、大きな台風などが来ないことを祈るばかりです。先日農道の真ん中で、サシバ?(猛禽類であることは確かです)に出会いました。さすがに食物連鎖の頂点に位置するせいでしょうか、鷹揚なもので車が近づいても、私の進行方向の数メートル先に移動するだけです。これを何回か繰り返した後で、やっとどこかに飛び去ってくれました。博鶺鴒やトンボにも共通するのですが、私が接近すると、私の進行方向前方にまるで先導するかのように移動を繰り返すのです。ちょっと左右どちらかにそれてくれると、何の問題もないのに‥。

さて、中村文則さんの『R帝国』を読了しました。私の独断的感想は一言『隔靴掻痒』です。作者もあとがきで書かれているように、(何を風刺しているかすぐわかるもの、一見わからないもの、風刺ではなく、根源を文学として表現したものなど、様々に入っている)(現実とリンクする…リアルタイムの現代を意識した小説だった)
舞台は近未来の日本?南北K国?C国?LはLeftとLiberal?RはRightと歴史(戦争)をRepeatする国?
次の一節が気にかかりました。(自由、多様性、男女の平等、非差別。そうした概念には「正しさ」がある。‥でも私はどうしても、自分の中にある男性上位の考えを捨てられなかった。R人以外の人間を、少し下に見てしまう自分をどうすることもできなかった。海外でボランティアをする連中を見ても、まるでそれをしない自分が批判されているように感じ、見るのもの嫌だった。‥私は「正しさ」を振りかざすリベラルのインテリ達を憎悪するようになった。気に食わないのだ。彼らを攻撃する時、私は胸のつかえが取れるような解放を感じた。私達は相容れない。永遠に。)
私も右寄りの人間であるが、(自由、多様性、男女の平等:非差別)は異論の余地なく正しいと思う。人間が昔と比べて確実に進歩していると感じられるのは、(それが実現しているかどうかは別にして)これらの理念が正しいという共通認識が生まれ、それを常識として持っているからだ。私がリベラルや大部分のマスメディアに感じる違和感は、彼らが「正しさ」を振りかざすからではない。その理念が正しいことは承知している。彼らは日本国内では大いに「正しさ」をかざしておきながら、今それらを最も必要としているC国やNK国に対しては、忖度してほとんど口を閉ざし目立つ活動をしないからだ。彼らの行動はあまりにも恣意的だ。(もっとも、最近ではC国に対してはリベラルの連中もかばいきれなくなっているようだ)どのような状況にあっても「正しい」ものは正しい、そうでないものは正しくないという是々非々の態度を貫き通すべきだし、私もそのような態度でいたいと思っています。
思わず熱くなってしまいました。このへんで筆を置きます。
それにしてもいろんなことを考えさせてくれる本でした。気にかかる所には折り目をつけるのですが、折り目だらけになってしまいました。少し時間を置いて再読してみようと思います。紹介してくれて感謝しています。

最近の収穫は中川毅さんの『時を刻む湖ー七万枚の地層に挑んだ科学者たち』(岩波科学ライブラリー)です。これは福井県の水月湖のボーリングされた堆積物が五万年分の考古学の世界標準になったという画期的な事件に至る科学者たちの奮闘記です。福井県の三方湖に隣接する水月湖には様々な原因により、垂直方向に堆積物がたまりそれが年縞として約七万年分もたまっている。それを発見、細心の注意を払ってボーリングして、その年縞を読み取り、発表して、それが世界の標準時計になるまでの奮闘を描いたものです。とにかく彼らの地道な努力には無条件で頭が下がります。

では、お元気で。

南城 凛 さんのコメント...

Kohtaさん、こんばんは。(^-^)
コメントありがとうございました!

残暑お見舞い申し上げます。
お近くの稲も順調に生育しているようですね。

サシバですか!
捕獲禁止になっているそうですが、車のナビのように先導するのでしょうか。

『R帝国』読後の熱きご感想をありがとうございました!
再読されると、次はどんな印象をもたれるでしょう。

人はどの国家に生まれて、どんな環境下で育ち、どのような立場にいるのかで、考え方も価値感も異なると凛は考えます。
ちょうど終戦の日でお盆です。
凛も平和について考えたいです。

朝、目覚めたら昨日と同じく平和でありますように。
夜、明日の平和を確信して、安心して眠れますように。

Kohtaさん、いつもご教示ありがとうございます。
残暑厳しい折、くれぐれもお身体にはご自愛ください。

これからも凛のりんりんらいぶらり~をよろしくお願いいたします。(^o^)