2024年4月1日月曜日

虚と実の狭間を浮遊する ~小川哲『君が手にするはずだった黄金について』(新潮社、2023年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
お休み前のひとときに、どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

各地で桜の開花宣言が出ています。
桜の開花前線はこれからだんだんと北上していきます。
お花見で春を楽しみたいですね。(^O^)

あなたはどのような春をお過ごしになりますか。
これから温かくなりますので行楽にお出かけする方も多いことでしょう。
季節の変わり目はお天気も変わりやすいようです。
晴れた日ばかりとは限りません。
晴れたり曇ったり、時には雨や突風もある春。
凛は変わらず読書を楽しんでいきたいです。(^-^)

4月10日には2024年の本屋大賞の発表があります。
今年も10作品がノミネート☆彡されています。
どの作品が大賞を受賞されるのでしょうか。
全国の読書家が楽しみに待っていらっしゃることでしょう。
今回はノミネート作品の1冊をご紹介しますね。(^O^)

虚と実との境目が明確でない世界を体験できる小説、小川哲(おがわ さとし)氏の連作短編集『君が手にするはずだった黄金について』(新潮社、2023年)です。
2023年の10月に刊行された単行本です。
凛が持っている本は初版本です。

はじめに、凛がこの本を手にしたのは、昨秋訪れた各書店の新刊コーナーです。
その後、凛の地元のラジオ番組でこの本の紹介と、小川氏ご本人の電話出演もあったことでより強く印象に残りました。
某大手書店で小川氏のサイン本と出合ったことで即買いすることにしました。

サイン本は、凛にはまるで宝物のようにキラキラ輝いて見えてしまいます。
著者、出版社、書店との販売作戦に見事はまってしまう凛なのです。(^^;
小川哲氏のサインは可愛らしい感じで微笑んでしまいます。
作品から硬派のイメージを持っていたのですが、柔らかい印象のサインは意外でした。

次に、帯や表紙についてです。
まずは帯ですが、凛が購入した初版本では画像の帯とは異なっています。
現在は本屋大賞のノミネート作品である帯が付いている本が多いことでしょう。

凛の初版本の帯の表表紙側には、「直木賞受賞第一作」として「認められたくて必死だったあいつを、お前は笑えるの?」という文言が書かれています。
その下に小さな文字で「才能に焦がれる作家が、自身を主人公に描くのは〝承認欲求のなれの果て〟」。(同書)
帯には作家の朝井リョウ(あさい りょう)氏ほか二名の感想が読者を誘います。

初版本の帯の裏表紙側には、「いま最も注目を集める直木賞作家が成功と承認を渇望する人々の虚実を描く」と書いてあり、本のタイトルの「君が手にするはずだった黄金について」の篇のあらすじが出ています。
難しそうに感じるかもしれませんが、本を最後まで読めばこの帯の文言は秀逸であることがよくわかるように考えられているなあ、と感心した凛です。

二番目は表紙についてです。
表表紙は全体が白地の中、中心部には各色のサテンリボンで作られた花束に見える形状のものがデーンと目立っています。
授賞式に作家におくられる花束のようでもありますが、すべてをサテンリボンで覆われた人工的な花束は、何やら意味深でもありますね。
裏表紙側は花束はなく、真っ白です。

カバーは、Art works by takeru amano、あまの たける氏です。
装丁は、新潮社装幀室です。

それでは、内容に入ります。
作品は以下の6篇の連作短編です。
「プロローグ」
「三月十日」
「小説家の鏡」
「君が手にするはずだった黄金について」
「偽物」
「受賞エッセイ」

「プロローグ」では、2010年に「小川」(おがわ、同書22頁)という大学院生の青年が就職活動をするため、出版社の新潮社のエントリーシートを取り寄せた際、その中にある質問に考え込むところから始まります。
質問は「プロローグ」の冒頭に出てきますので、是非お読みいただきたいと思います。

当然ですが、小川青年は出版社を希望するからには数々の文学に触れてきています。
作中には「ジョン・アーヴィング」(7頁)や「スタインベック、ディケンズ、モーム、サリンジャー、カポーティ」(8頁)などの世界の文豪の他、「クレストブックス」(同頁)という新潮社刊行の世界文学を紹介している人気のシリーズ本も好んで読んでいます。

そこまでは順調だったものの、小川青年はある質問に辿り着き、「『怒りの葡萄』、『ガーブの世界』、『夫婦茶碗』」(8~9頁)の三冊で答えようとしますが、ここで逡巡するのです。
彼はこれまでの人生を振り返り、「人生において重要だったもの」(9頁)をあれこれと自身に問いかけてゆきます。
文豪だけでなく、哲学者の「バートランド・ラッセル」(12頁)の理論の他、様々な哲学者の名前を挙げて、小川青年の脳内はエントリーシートから広がっていくのを自認します。

小川青年は当時付き合っていた彼女「美梨」(みり、10頁)を登場させて読者をホッとさせますが、それは一瞬のことで、美梨とも哲学の会話を続けます。
その間、エントリーシートは白紙のままです……。

美梨との交際は続いていますが、果たして美梨の本心はどこにあるのでしょうか。
行間には二人の関係が安定していないことが込められているようにも見えてきます。

このように書きますと、読者には頑なである小川青年の性格についていけなくなる方もいらっしゃるかもしれません。
帯にも描かれているように「承認欲求」の強い自我を見せる小川青年ですから、読者の立ち位置としては彼から適度に距離を置きながら触れていくと全体が見えてくるのではないか、と凛は考えました。

この「プロローグ」で意識したいことは2010年であることです。
次の「三月十日」の篇では、2011年3月11日に起きた東日本大震災から3年を経た年の3月11日、その夜に彼は高校時代の同級生たち4人で飲み会をします。
彼らは「スノボ計画」(47頁)の仲間で、3年前の3月13日に行く予定でしたが、大震災のために中止となっていました。

その話題から、小川は3年前の大震災の前日は何をしていたのか、という疑問を持つことになります。
彼は疑問を解決するために、自身の記憶を頼りにしながらあらゆる手段を用いて辿り着くのです。
その執着ぶりには研究者かと思わせるほどの思考の回路を見せます。
例えば、かつて使用していた携帯に電源を入れるためにどうすべきか、などなどです。

この篇では、彼は既に作家になっています。
作家とはこのように理論が展開していくのかと感心することも多かった凛ですね~ (^.^)

6篇のタイトルを見れば、時系列に作家という職業の小川氏の手の内を見せているかのようでもあり、実は逆かもしれません。
どれが本当で、どれが嘘であるのか。
読者は虚と実との間を浮遊して読んでいるかの如く体験できます。
真偽の境目の線上で掴むことができそうでできない、という読者が体験する知的ジレンマがこの作品の魅力ではないでしょうか。

作者の小川哲氏についてです。
「哲」は「てつ」ではなく、「さとし」です。

2017年、SF小説『ゲームの王国(上・下)』(早川書房、2017年、のちハヤカワ文庫JA、2019年)第38回日本SF大賞を受賞☆彡、第31回山本周五郎賞を受賞☆彡されています。\(^o^)/

2022年、長編小説『地図と拳』(集英社、2022年)第13回山田風太郎賞を受賞☆彡、翌年には第168回直木三十五賞を受賞☆彡☆彡されています。\(^o^)/

2023年、小説『君のクイズ』(朝日新聞出版、2022年)第76回日本推理作家協会長賞長編および連作短編集部門を受賞☆彡されています。\(^o^)/

他にも多くの作品をご執筆されています。
書店では常に目立つ所にあるので、小川氏の人気の高さがわかりますね。
今後ご活躍に目が離せない作家のお一人です。

最後に。
全体に作家という内面を「小川」氏特有の複雑な理路で進んでいきます。
「小川」という作家を構成していく過程、及び彼の周辺の登場人物たちとの絶妙な距離感、それらは緻密に計算されていると思えてなりません。

読者は虚実の狭間をふわふわと浮遊するような感覚で読み解いていく知的体験ができます。
もしかしたら物質文明の地球上ではなく、全く異なる次元での話かもしれません。
まるで異次元の世界を漂っているかの如く、時間、空間、現象、事象、その他諸々のアイテムを駆使したこれらの「小川」氏からの挑戦に対峙してみてはいかがでしょう。

初版本の帯の言葉、作家の「承認欲求の成れの果て」を認めるか、認めないかは読み手であるあなた次第でしょう。(^O^)
つまりは、読者のあなたが中心になって物語は進むのです。

あまり難しく考えずに、是非気軽に読まれてくださいね。 
4月10日の本屋大賞の発表も楽しみです。\(^o^)/

今夜もあなたにおすすめの一冊でした。(^-^)

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