2025年7月31日木曜日

本当に遺したいモノやコトは何か?と自身に問うてみる ~森永卓郎『身辺整理 死ぬまでにやること』(興陽館、2024年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
お休み前のひとときに、本の話題でごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

暑中お見舞い申し上げます。

毎日暑い日々が続いている日本の夏です。
あなたはいかがお過ごしですか。
毎年夏の暑さが厳しくなってきていますね。
凛は夏に生まれたということもあって夏は好きなのですが、こんなにも気温が上昇すると一日を無事に乗り切るだけで精一杯になりそう……。

暑さはこれからが本番。 (^^;
夏バテしないように気をつけていきたいですね。

情報が手軽に入手できる昨今。
ところが、世の中が便利になればなるほど「時間がない!」と常に何かに追われているかのような切羽詰まった感覚におののく凛です。
あなたはこのような感覚にみまわれたことはありませんか?

シンプルに暮らしたい。
モノを減らしたい。
コトも減らして「ねばならぬ」義務感から解放されたい。
幾度も繰り返して自問自答してきたことですが、一時的に整理して安心してしまいがちです。
気がつけば、モノやコトは増えている凛ですねえ。(^▽^;)

世の中には整理や片付けに関する情報や本などが多くあります。
それらは元気な方々からの発信が多いかと思います。
もちろん、体力があるうちに整えていくのが理想です。

突然病気やケガなどで時間的にも体力的にも片付けの余裕がなくなるかもしれません。
余命いくばくもない方がご執筆された本には、心から読者に伝えたい情報が詰まっているのではないか、と凛は思いました。

今回ご紹介いたします本は、森永卓郎(もりなが  たくろう)氏の『身辺整理 死ぬまでにやること』(興陽館、2024年)です。

森永卓郎氏は、2025年1月28日にご逝去されました。
心からお悔やみ申し上げます。

著者の森永卓郎氏はご自分の命と向き合い、限られた時間の中で、どのように身辺の整理に向き合えばよいのか、本当に必要なモノやコトとは何か、などとこの本で読者にわかりやすく伝えていらっしゃいます。
経済アナリストで、メディアにもよく出演されていた方です。
「モリタクさん」と呼ばれて、CMにも出演されていらっしゃたので、ご存知の方も多いでしょう。

森永氏はがんを宣告されましたが、治療と同時進行で精力的にご活動され、多くの本をご執筆されました。
YouTubeで晩年の森永氏の「伝えたい」という姿勢に驚いた凛です。
経済についての詳しいことは凛にはよくわかりませんので、ここではこの本についてのみご紹介いたしますね。

はじめに、この本の入手についてです。
限られた時間の中で、森永氏が本当に伝えたいことがこの本に込められていると思い、凛はネット書店で購入いたしました。

この本の初版は、2024年10月15日付です。
凛が持っている本は、同年10月17日付の第2刷です。
初版からわずか二日後に既に第2刷ですよ!
いかに注目された本であるかがよくわかりますね。

次に、帯や表紙についてです。
一番目の帯について。
帯の表表紙側には、「いきなり、ステージ4のがん告知を受けた、森永卓郎の『遺言』。」
「迷惑をかけずに、跡形もなく消え去りたい。」
「渾身の『死に支度』ドキュメント」(以上、第2刷帯)
ここだけでも凛のココロにずしりと響くんですよねえ。(T_T)

帯の裏表紙側には、「問題は生きているあいだをどう生きるのかなのだ。」(同帯)
モノの整理だけでなく、人の生き方について、真剣に向き合わないといけないのだ、ということが伝わりますね。

二番目の表紙について。
表表紙側には、森永氏が段ボールに本を詰めている姿が真ん中に描かれています。
左上では、氏が梱包した段ボールを積み上げている姿。
右下では、氏が壁らしきものを押している姿が描かれています。
表紙全体に白地が基調となって柔らかい印象の中、黄色い服を着た森永氏に意識の高さを感じます。

裏表紙側には、森永氏が机上で原稿をご執筆されている姿があり、左上にはたくさんの本が積み重なっている絵、右上にはロングヘアの女性のフィギュアが描かれています。

ブックデザインは、原田恵都子(はらだ えつこ)氏です。
イラストは、大嶋奈都子(おおしま なつこ)氏です。

同書には、森永氏が「モリオのペンネームで創作された童話「クラゲとペンギンが編入されています。(同書、189頁)
この童話のイラストは、前島花音(まえじま かのん)氏です。

それでは、内容に入ります。
表紙をめくると、森永氏からのメッセージが書いてあります。

「もしあなたが
いきなり余命を宣告されたら、
何をするだろうか?
限られた時間の中で
死ぬまでにやらなければならないこととは

何だろうか?」(同書、4頁)

これが本書のテーマでしょう。
高齢者の多い日本でも、明日も今日と同じで元気でいられるのか、ましてや寿命など誰にも予測できません。

序章は、「私が身辺整理を進める理由」(同書、5頁)
序章の長さからわかるように、この序章に森永氏が伝えたいことがまとめてあります。

序章の中の「いきなりの余命宣告」(同書、8頁)
森永氏は2023年11月7日に、がんステージⅣという末期がんの告知を受けたことが明記されています。
自覚症状がなかったそうで、告知を受けたご本人の内面、葛藤やご家族との関係、医療機関、仕事のことなど本音で書いてあると思います。

「あなたは明日死ぬとしたら、今日何をするだろう?」(同書、27頁)
と序章の終わりに太字で書かれています。
その後に、「本書がみなさんの悔いなき人生を実現するためのヒントになれば嬉しい。」(同書、27頁)
と序章が締めくくってあります。

内容は、帯の裏表紙側にも掲載されています。
以下は、目次です。(同書、28頁~35頁)

第1章 モノは捨てる
第2章 コレクターのケジメ
第3章 資産整理
第4章 仕事の終活
第5章 人間関係を片付ける
第6章 好きなように自由にやる
第7章 人は死んだらどうなるのか

「あとがき」として197頁から「遺言」の項が掲載されています。

どの章も気になるテーマばかりです。
重要なことは太字で書いてありますので、後から再読する場合も確認しやすい工夫がなされています。

全体的に文章に優しさがあり、読者に話しかけているような感覚がいたします。
文字も大きいので大変読みやすいです。(^O^)
読者を目覚めさせてくれるヒントが随所に込められています。

凛が参考にしたい具体的な例として、第1章の「モノは捨てる」
その最初の項は、「数千冊の本を処分する」(同書、38頁から)
愛読書を処分するという行為は、自身の執着心との闘いでもあるんですよね。(-_-;)

「こうしたコストを考えれば、モノはどんどん捨てるに限る。」
「もしも必要が生じれば、その時はまた買えばいいと考えるのが得策だ。」(以上、同書、49頁)
太字でしっかり目に入ってきたこの2行は当たり前のことなのですが、なかなか実行にうつすのは至難。
もし凛が命の限界を告知されたら、いえ、告知などされていなくても、命には誰にも限界がありますから、やはり実行することが賢明ですね。

凛が最も気になった頁があります。
「遺言」の1頁前、第7章の最後の頁、196頁あたる頁に太字ではないですが、他の頁よりもフォントを大きくして書いてあるメッセージです。
このメッセージは恐らく森永氏の死生観でしょう。
また、ご家族に最も伝えたいメッセージでありましょう。
是非、あなたも読まれてください。

また、写真もたくさん掲載されています。
実際にたくさんの本を片づけている写真はリアルです。

本書の最も最後に掲載されている森永氏の顔を拝見すると、とても切なくなり、こみ上げてくるものがあります。(T_T)
それと同時に、命を大切にして、モノの整理をしようと思う凛でありました。(^^)v

最後に。
誰にも命の限界は訪れます。
限られた時間の中で、人はモノやコトを整理していかなければなりません。
その行為は、どう生きていくのかにつながります。
何が大切か、何を遺したいのかが明らかに見えてくるでしょう。

森永卓郎氏によれば、家族や他人に迷惑をかけないためには、生ある今、考えて行動することが大事だということです。
頭の中で理解はしていても、いざ実践することは案外と難しいものです。
コスパ、タイパを意識するならばなおさらのこと、不要なモノや面倒なコトはさっさと片づけましょう。
後悔しないために。

凛も不要なモノから片づけていきま~す! (^-^)

今夜もあなたにおすすめの一冊でした。(^O^)/

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森永卓郎(著)興陽館(2024/10発売)
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2025年6月9日月曜日

「暮らしをととのえる」ための覚悟とは ~阿部暁子『カフネ』(講談社、2024年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
お休み前のひとときに、本の話題でごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

早くも2025年の前半期も今月で終わります。
月日が経つのは本当に早いものですね!(^-^)
梅雨の前線も北上中です。
近年は大雨になったり、いきなり真夏日になったりと激しいお天気のイメージが定着しています。
体力の維持が求められますね。 
あなたはいかがお過ごしでしょうか。

さて、今春4月9日に発表された2025年本屋大賞の作品はあなたは読まれましたか?
発表前から候補作品が書店の店頭にも並べられていたので、それぞれの本を手に取ってみられた方も多かったのでは。
本屋大賞については凛が時折聴いている地元のラジオ放送の本紹介のコーナーでも話題に上がっていて、とても気になっていたのでした。

今回ご紹介いたします作品は、今年の本屋大賞受賞で話題の阿部暁子(あべ あきこ)氏の長編小説『カフネ』(講談社、2024年)です。
この作品は、単行本のみの刊行となっています。

物語の前半と後半とでは、登場人物たちの生き様を通して、主人公の女性の世の中の見方や思考、生き方に対する価値観が大きく変わる物語です。
主人公の視点が変わっていく過程が丁寧に描かれています。
読んで良かった~~\(^o^)/と心から願いたい読者のためにおすすめしたい作品です!

また、お料理を作ったり、あるいは食べることが大好きな方、部屋の片づけやお掃除が好きな方はもちろんのこと、これらのことに興味がある方には是非おすすめです。
もちろん、お掃除や、お料理を作ることが全然得意ではない方にもおすすめですよ~ (^O^)

はじめに、この単行本の入手についてです。
凛は本屋大賞の発表後に、自宅から30分ほど歩いた大手の書店から購入しました。
凛が持っている単行本は、2024年4月3日付の第11刷発行です。
初版が2024年5月20日付ですので、多くの読者に読まれているのがわかりますね。

次に、帯や表紙についてです。
一番目は、帯について。
当然ですが、本屋大賞受賞発表後の購入なので、帯の表表紙側には、黄色い帯に赤い太文字で「本屋大賞受賞」と書かれています!
黄色と赤の組み合わせは目立ちますよね~ (^O^)
その文字の上には、「『おいしい』と泣くことから再生は始まる。」
「人生のお守りになる食が繋ぐ愛の物語」(同書、帯)

帯の裏表紙側には、「別れ、喪失、荒れた部屋。どん底でもおなかは空く。」(同書、帯)
確かに、人はどんな状況におかれていても、食べなければ生きてはいけません。
やはり食べることが最優先ですよね!

帯の裏表紙側には、最上段の白い部分に「友達でも恋人でも家族でもないけれど、ただあなたの髪を撫でたい。」と書かれています。
黄色の地の下の部分には赤い文字で「『元気をもらった』との声多数!大切な人を抱きしめたくなる物語」と。(同書、帯)

二番目は、表紙について。
全体的にチョコレートブラウンのような落ち着いた色合いで、木のテーブルの上に、白いティーポットと白いカップ、ガラスのミルク入れ、白いお皿にはチョコレートケーキのようなデザートを食べた後のお皿とフォークの写真になっています。
奥には観葉植物らしき植物が置いてあり、柔らかな光がのどかな雰囲気を包んでいるようです。
ゆったりとくつろいでいる午後のひとときといった感じでしょうか。

表紙の上のほうに金色の文字で「カフネ」と横書きのタイトルが出ています。
真ん中には白い文字で、今度は縦書きで著者の名前の「阿部暁子」の文字。

そもそもタイトルの「カフネ」とは何のこと?
という素朴な疑問がおこりますよね。
凛の持っている本の帯の表表紙側には、「カフネ──愛する人の髪に指を通す仕草」と書いてあります。

この表紙を外すと、モスグリーン色の地に、調理道具のフライ返しとへららしきものが金色で描かれています。
作中で活躍するアイテムなので、読者へのメッセージがこめられています。

カバー写真は、写真家のNana*(ナナ)氏です。
装丁は、岡本歌織(next door design)(おかもと かおり)氏です。

それでは、内容に入ります。
読まれる前の読者には「覚悟」をもっていただきたいですね。
何故ならば、「食」を中心にした癒し系の物語、あるいは女性陣が大好きな甘いスウィーツの物語、または片付けなどの家事関係の話なのかな、といったイメージで読みだすと、とんでもなく遠い世界にあなたを連れていってしまうことになるからです。
他人には言えない人生の生き辛さが、これでもか、これでもかと出てきて、人によっては息苦しくなって読み辛くなるかもしれません。

あらすじです。
主人公の女性の野宮薫子(のみや かおるこ)の弟、春彦(はるひこ)が急死し、その弟からある日、薫子の元に宅配便が送ってきました。
何故に亡くなった弟から?とミステリーの要素を含んだ設定になっています。

亡き弟の遺志による遺産相続の件で、薫子は彼の元恋人の小野寺せつな(おのでら せつな)とカフェで会いますが、彼女とは初対面ではありませんでした。
初めて出会ったときから、薫子はせつなには良い印象をもっていませんでした。

常に上から目線でせつなと対峙する薫子。
負けじと無愛想な態度をとるせつな。
春彦からの遺産相続を断わるせつなに対して、薫子は態度をさらに硬くします。

カフェで薫子はせつなを前にして突然倒れてしまいます。
薫子の自宅マンションの部屋まで送り届けたせつなから、「お茶はいりません。それより、お姉さん、お昼は食べましたか?さっきのカフェでも飲み物しか頼んでませんでしたけど」(同書、28頁)と問われます。
薫子が黙っていると、せつなから「冷蔵庫、見ていいですか」(同書、同頁)と訊かれます。

薫子が返事をする前に、冷蔵庫を「遠慮なしに各段の扉を開けて、じっくり中をのぞいた」(同書、同頁)せつなは、「このへんの食材、勝手に使わせてもらっていいですか」(同書、同頁)と言って、あれよという間に豆乳とコンソメとツナ缶とトマトでスープを作って、ゆでた素麺にかけて薫子と二人でいただきました。
美味しかったのでしょうねえ。
涙であふれた薫子には「やさしい味がしみて、痛いほどしみて、もう耐えられなかった。」のです。(同書、32頁)(T_T)

せつなは『カフネ』という家事代行サービス会社に所属しており、依頼者宅に行ってお料理を作り提供しています。
薫子は供託管として、東京法務局の八王子市局に勤務している公務員です。

せつなとの関係はほぐれることのないままでしたが、薫子は休日に『カフネ』で家事代行サービスの掃除係をボランティアで手伝うことになります。
料理担当のせつなと共に、様々な家庭の事情を目にすることになった薫子でした……。

貧困家庭、格差社会、高齢者、介護、人間関係、親子関係、きょうだい、結婚、不妊、孤独、仕事、学校、離婚、再婚、単身、性差、健康、病気、難病……。
法務局では相談者からの法的な手続きを担当しており、社会的な対応をしてきたのだと自負があった薫子でした。

しかし、薫子はせつなと組むことで、『カフネ』を通して初めて知る異常に歪んだ社会の面々に触れます。
それらは、薫子が勤務している法務局や、これまで当然として捉えていたシステム化、細分化、透明化された社会とは異なる価値観が渦巻いている世界だったのです。(-_-;)

この作品には、登場するどの人物たちもそれぞれに困難な事情をもっています。
個々が抱えた事情を紐解きながら、物語は進んでゆきます。
後半になると、読者の価値観は前半とは全く異なる目線に気づくことになるのです。
亡き弟、春彦のことについても……。

後はあなたが読まれてからのお楽しみに。 (^O^)

著者の阿部暁子氏は、2008年、短編小説『陸の魚』cobalt短編小説新人賞を受賞☆彡。
同年、小説『いつまでも』第17回ロマン大賞を受賞☆彡されました。
そして、今年の本屋大賞受賞です☆彡☆彡。 \(^o^)/
今後、最も期待される小説家のお一人です!

最後に。
「暮らしをととのえる」
簡単なことのように思えますが、実は大変難しいことなのだということがよく伝わる作品です。

せつなが勤務する家事代行サービス『カフネ』で、片付け担当として、料理担当のせつなと組むことになった薫子には、さまざまに困難な事情を抱えた訪問宅の人々との交流を通して、彼女の視点に変化が訪れます。
お料理を作る、また食べることの力とはいかに偉大なのでしょう。
食材を活かすことの大切さに気づかされます。
部屋の片付けも同じことですね。
薫子とせつなとの関係性は、『カフネ』で輝いて欲しい!と凛は願うばかりです。

薫子は、後半になるにつれて心身とも力強く、頼もしく、そして、人に優しい大人の女性に成長します。
凛には、283頁で薫子が発した言葉、これにはウルウルと感動しました!(T_T)
もしも凛が薫子の立場だとしたら、相手にこの言葉が言えるかなと。

以前にも書きましたが、これまでの凛は、話題の作品はすぐには読まずにしばらく様子を見るか、または文庫本になるまで待ってから読むことが多かったです。
この頃は、話題の作品は単行本で読みたくなることもしばしば。
評価が高い作品は、文庫本になるまで待てなくなってきたんですよねえ。
「時間」と「欲」との関係でしょうか……。 (^^;

お料理に例えると、美味しいおかずから先に食べるのか、それとも美味しさは最後に味わうのか。
さて、あなたはどちらのタイプですか?

今夜もあなたにおすすめの一冊でした。(^O^)/

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阿部暁子(著)講談社(2024/05)発売
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2025年5月5日月曜日

月を眺めて、新鮮な読書の時間を楽しむ! ~伊与原 新『月まで三キロ』(新潮文庫、2021年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
お休み前のひとときに、本の話題でごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

新緑、春から初夏へと移行している季節ですね~
暑くもなく、寒くもなく、今頃が最も過ごしやすい季節ではないでしょうか。
ゴールデンウィークの長いお休みを満喫されている方も多いでしょう。
勿論カレンダーには関係なく、連日お仕事の方もいらっしゃいますね。
あなたはいかがお過ごしですか。

自然の四季の移ろいを慈しむ日本。
近年では風情を感じることなど、そうもいってもいられず、酷暑、酷寒と極端でもありますが……。

人生には四季の移ろいと同様に、春夏秋冬の時期が訪れるといえます。
「毎日が楽しい!」全てが順調で心地よい日々もあれば、辛い時もあるでしょう。
むしろ順調でない時にこそ、人は何か心の支えを求めるものかもしれません。
文学はこのような人々の代弁者となって、悩める読者に寄り添っている存在であり、またそう捉えていきたいと凛は大いに願います。

今回ご紹介いたします本は、人生の岐路に立ち、今後進むべき道を模索している主人公たちが、自然科学の専門的な領域に触れながら個々に光を見出していくという物語の短編集です。

伊与原 新(いよはら しん)氏の短編小説集『月まで三キロ』(新潮文庫、2021年)です。
単行本は、2018年12月に新潮社から発刊されています。

自然科学の基礎的な知識を得て、新しい読書体験が堪能できる作品群です。
難解な分野がわかりやすく描かれており、実にさりげなく自然体で受け止めることができます。
作者は、悩める主人公たちと同じ目線に立っていて、優しく読者を物語の世界に誘います。
全体に素直な文体ですので、決して難しく考えずに、気軽に読んでいただきたい作品です。

読後感は、すっきり爽やか系ですよ~!(^O^)
緑鮮やかなこの季節に合っているのではないでしょうか。
「さあ!また明日からファイト出していこう!」と意欲がわいてきます。\(^o^)/

はじめに、この文庫本の入手についてです。
この春のこと、いつもの近所の書店の文庫本の目立つコーナーで、伊与原 新氏の本が何冊も平台に何冊も並べられていたことによります。
凛が最も魅かれたのが、この本のタイトルと帯と表紙でした。

凛が持っている文庫本は、2025年3月5日付の第15刷です。
文庫本の初版が2021年7月1日付ですから、人気が根強い作品であることがわかりますね。

次に、帯や表紙についてです。
一番目は、帯について。
書店の平台で何よりも目立ったのが帯でした。
全体が黄色に赤い文字でデーン!
「第172回 直木賞受賞! 祝 〈科学の知〉が傷ついた心に響く物語。」(新潮文庫、2025年3月5日第15刷ほか)

この帯が付けられた伊与原氏の文庫本たちの存在感に圧倒された凛でした。
凛がこの文庫本を購入したのは今春でしたから、初版の本などはもう少し早い時期ですと異なった帯だったでしょう。

二番目は、表紙について。
何と言っても「月まで三キロ」というタイトルに魅かれましたねえ。
白い文字の中で「月」の漢字一字だけが黄色で、月のあかりを連想させます。

全体に紺色がベースで、道路の向こう側に橋がかかっており、そのずっと向こうには山々が見えています。
読者は手前の道路側からその景色が見える角度に立っています。

そして何よりもインパクトがあるのが、右上に見える大きな月!
月ってこんなに大きかったのかしら?
手を伸ばせは簡単につかめるのではないかと思えるほどに月が近いのです。
月が放つ光がキラキラと輝いています。
この幻想的な月の存在感に圧倒されそうです!(^O^)

カバー装画は、草野 碧(くさの みどり)氏です。
単行本の表紙も文庫本と同じデザインとなっています。

三番目は、裏表紙の説明文について。
「『この先にね、月に一番近い場所があるんですよ』。」(同文庫本)
この文章から始まる裏表紙の説明文に、ぐいぐいと魅かれた凛でした。
え?? 月って近くにあるの?
凛の頭の中は???の記号の羅列。

「死に場所を探す男とタクシー運転手の、一夜のドラマを描く表題作。」(同書)
どんなドラマが展開されているのだろう?
男とタクシー運転手さんとの物語の展開が気になるではありませんか。

それでは、内容に入ります。
目次を開きますと、文庫本ならではのお楽しみがありますね~
まず六編の短編に加えて、文庫本巻末に特別掌編として「新参者の富士」、それから逢坂 剛(おうさか ごう)氏と作者の伊与原氏との対談「馬力がある小説」が収録されています。
こちらも是非おすすめです! (^O^)

六編の短編のタイトルは以下です。
「月まで三キロ」
「星六花」
「アンモナイトの探し方」
「天王寺ハイエイタス」
「エイリアンの食堂」
「山を刻む」(以上、同書、目次より)

では、本のタイトルとなっている一番目の短編「月まで三キロ」について。
冒頭は「負けがこんでいる。」(同書、8頁)から始まります。
続けて二行目には「そう思ったときには、たいてい手遅れだ。ギャンブルと同じように、人生も。」(同書、同頁)

「人生も下見ができればいいのに、と思う。」(同書、同頁)
確かに、一生を通して俯瞰できれば、人は悩まなくても良いですものね。
それができないからこそ、人生とは一発勝負であり、時間との闘いでもあるのです。

この短編の主人公は、己の人生につまづいているのだなということがわかります。
いくら悔やんでも、反省しても、順調な時までの経緯はしっかりとその人の人生というステージに保存されていて、決して消去することはできません。

彼は、ある夜に初めて訪れた町でタクシーの運転手さんからすすめられたうなぎ屋に入りますが、気分が悪くなり店を出ました。
そして別の個人タクシーをつかまえて、富士山の近くの「鳴沢村(なるさわむら)」(同書、12頁)まで行きたいことを告げます。
個人タクシーの運転手さんは、この乗客の言動から「ある察し」がついて、「月ってね、いつも地球に同じ面を向けてるんですよ」(同書、19頁)と月の説明をしていきます。

運転手さんの話から、主人公の彼の脳裏にべったりと張り付いた重い来し方が次第にはがれてゆきます。
運転手さんによる月の話はだんだんと高度な専門的になり、専門用語や数字が出てきます。
主人公は自分の過去を絡めて、現状に至った辛い経緯を記憶の中で辿ります。

運転手さんの月に関する話はますます高度な領域まで高まってゆきます。
この運転手さんは何者なのか?
読者も、主人公の彼と共に運転手さんのこれまでの人生も重ねて気になってしまうことになるのです。

恐らくこれまでにもこの個人タクシーには主人公の彼と同じような境遇の乗客がいたのではないでしょうか。
主人公の彼の心もだんだんと解凍していっていくような感覚……。
話し上手な運転手さんのコミュニケーション能力に敬意を払いながら、物語はタクシーと共に進みます。
読者は、主人公の彼とタクシーの運転手さんと一体となって、ああ、この物語を読んで良かった~~と心から感動がわいてきますよ。

続きは、あなたが読まれてからのお楽しみに~ (^-^)

他の短編にも自然科学に関する話題が織り込まれています。
月だけでなく、天気、石、宇宙など、作者は専門分野の基礎知識として非常にわかりやすい形で読者に説いています。
悩める登場人物たちはこれらを踏まえ、心機一転して次のステップへと進んでいこうとする再生の道のりに辿り着くのです。

それでは、作者の伊与原 新氏についてです。
伊与原氏は、東京大学大学院理学系研究科で地球惑星科学を専攻され、博士(理学)の学位を授与された研究者でした。
大学勤務を経た後に文学の執筆活動を始められました。

2010年、小説『お台場アイランドベイビー』(角川書店、2010年、のち角川文庫、2013年)で、第30回横溝正史ミステリ大賞を受賞☆彡されました。(^^)v

短編小説「月まで三キロ」は、2019年、第38回新田次郎文学賞を受賞☆彡、同年、未来屋小説大賞受賞☆彡のほかにも複数に受賞☆彡☆彡された作品です。(^O^)

そして、2025年、短編小説「藍を継ぐ海」第172回直木三十五賞を受賞☆彡☆彡されました。\(^o^)/
この作品は、2024年9月、同タイトルで新潮社から短編集の単行本として刊行されています。

他にも数々の作品で受賞されていらっしゃいます。
最もご活躍が期待される注目すべき作家のお一人です。(^-^)

最後に。
短編集『月まで三キロ』は、自然科学の分野をわかりやすく導入して、誰もが親しめる読書体験ができる短編小説集です。
読後は、主人公たちの悩める人生が浄化されたような爽快感があります。
自然科学にも触れられて、文系と理系の境界がない新しい読書の在り方が示されています。

伊与原 新氏は、人生には山あり、谷ありという苦汁があることをご存知の上で、誰もが読みやすい文章で、さりげなく自然科学に関する話題を取り入れながら、新しい文学の創作に励んでいらっしゃる作家であると凛は考えます。
研究者目線からの専門知識を素人に決して押し付けることなく、柔和に文学作品に取り入れられています。

伊与原氏の描く文学世界には新鮮な発見があります。
新しい感覚の読書の時間をあなたも是非楽しまれてくださいね~ (^O^) 

臆することは決してありませんよ。
理系なんてわからない、科学の専門的な分野なんてさっぱり、と仰る方も多いかと思います。
知らなかったことを知る。
さあ、読書を通して、知的探求の醍醐味を味わいましょう! (^^)v

今夜もあなたにおすすめの一冊でした。(^O^)/

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伊与原新(著)新潮社(2021/07発売)
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2025年3月30日日曜日

若者が堕ちてゆく、その先にあるものは…… ~桐野夏生『インドラネット』(角川文庫、2024年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
お休み前のひとときに、本の話題でごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

春がきました!
桜前線も北上中です。
あなたは桜のお花見にお出かけされましたか。
暖かくなったとはいえ、夜には花冷えもありますが、やはりこの時期にしか見られない桜の花を愛でたいものですね~ (^O^)

日本では4月から新学期と新年度が始まります。
多くの若者たちにとっては人生の節目となる季節でもあります。
新生活に胸を躍らせる若者たち。
新卒の新社会人にとっては初任給が恵まれているとのこと。

彼らを前にして、日本では人手不足、少子高齢化、物価上昇、人・賃金・地域間の格差などの社会問題が既に厳しい局面と対峙しなければいけません。
闇バイトなど国内の犯罪だけでなく、東南アジアなどで犯罪組織に入ってしまった若者たちの報道が増えています。

若者たちは将来に対する夢や希望など消え失せてしまったのでしょうか。
それとも最初からそのようなものは抱いていなかったのでしょうか。

夢、希望、友情、労働、対価、孤独、逃避、焦り、不信、恐れ、反省、諦め、転換、目的……。
初めはほんのちょっとした軽い考えから、本人の気づかない間に深い沼にはまり込んでしままったのかもしれません。
脱出できるチャンスがあるかと思わせておき、油断をしていたら、そこには偽りの世界を突き付けられるという現実が襲ってきます。
実は最初から入念に仕組まれた罠であったとしたら……。(*_*;

今回ご紹介いたします本は、契約社員として暮らしているどこにでもいそうな日本の青年が、突然に失踪したかつて親しかった友人とその友人の姉妹を捜して欲しいと、ある人たちから依頼されて、初めて訪れた東南アジアの国に向かった先で彷徨い傷つきながら外見も内面も変貌してゆく物語です。

桐野夏生(きりの なつお)氏の長編小説『インドラネット』(角川文庫、2024年)です。

読者は、謎めいた多くの登場人物たちと主人公の青年との危険な関係にはらはらどきどきしながら、「いや、そこは止めたほうがいい」「そっちの方向に行ってはダメだ」「急いで戻って!」「ファイトを出して!」などなど青年に声援を送りますが、物語はどんどんあらぬ方向へと進んでいきます。

それから、東南アジアの国々の旅ガイドの楽しみも味わえます。
さらに、青年の変貌していく過程にも驚かされるのです。

はじめに、この文庫本の入手についてです。
凛は近所の書店の新刊コーナーで出合いました。
凛が持っている文庫本は、2024年7月25日付の初版本です。
単行本は2021年5月にKADOKAWAから出版されています。

次に、帯や表紙についてです。
一番目は、帯について。
凛が持っている文庫本の初版の帯の表表紙側には、「あいつは死んだのか。それとも俺から逃げているのか。」「見るもの、聞くこと、すべて信頼できない『人捜し』」と。
何よりも「桐野文学の到達点!」と帯に紹介されているからには、これは読まなければ!と凛は即座に思ったのでした。(^O^)

余談ですが、この帯にはちょうど角川文庫75周年で「カドイカさん」が「夏休みフェア2024プレゼントキャンペーン」が掲載されています。
「カドイカさん」のコアなファンの中には応募された方もいらっしゃるかも。(^-^)

二番目は、裏表紙の説明文について。
主人公の青年、八目晃(やつめ あきら)の紹介が「平凡な顔、運動神経は鈍く、勉強も得意ではない」から始まり、「何の取り柄もない」「非正規雇用でゲームしか夢中になれない無為な生活を送っていた」。(同書)
要するに、晃はヒーローではない、どこにでもいそうな青年、等身大のような身近な存在の主人公です。

彼にとって「唯一の誇り」があります。
「高校時代のカリスマ、「野々宮空知(ののみや そらち)とその美貌の姉妹と家族ぐるみで親しくしたこと。」

裏表紙の説明文には、気になるキーワードがいくつか出ています。
「野々宮家の父親の葬儀」
「空知はカンボジアで消息を絶った」
「空知を捜しに」
「東南アジアの混沌の中に飛び込む」
「彼らの壮絶な過去だった……。」などなど。(文庫本初版)

出版社の戦略に見事にはまっても構いません。
時間を忘れるほどに夢中になる作品が読みたいあなた、物語の先が気になります。
本作品を全部読了したくなりますよね~ (^-^)

三番目は、表紙について。
文庫本の表紙は、アジア系と思われる女性が顔は横向きで、裸体の背中を読者側に向けています。
女性は長くて緑色が混じった黒っぽい髪を結っており、赤い宝石が埋め込まれた髪飾りが印象的です。
うなじから背中、肩へと長い後ろ髪を垂らして、うなじ側を右手で押さえています。

彼女の長めに伸ばした爪が綺麗です。
薄い絹織物か、レースのような透明の生地を背中に充てています。
彼女の仕草は無造作のようですが、巧に計算されているようにも見えて、こちら側を意識しているのがわかります。
全体に気品があり、気高く、そして妖艶な様相です。

カバーイラストは、日本画家の木村 了子(きむら りょうこ)氏です。
カバーデザインは、鈴木 久美(すずき くみ)氏です。

尚、単行本の表紙は文庫本と違った作品となっています。

それでは、内容に入ります。
物語は、第六章で構成されています。
「第一章 野々宮父の死」(文庫本、5頁)は、主人公のルーティン化していた日常に、ある日突然に非日常な出来事が侵入していく重要な導入部分です。

発端は、契約社員で社会生活の一員として日々を送っている八目晃の元に、彼の実家の母親から、野々宮空知の父親の俊一(しゅんいち)の訃報を知らせるLINEがきたことによります。
晃と空知とは都立高校の同級生で、空知の実家に入り浸るほど親しくしていたこともあり、空知の父親の死は晃にとってショッキングな出来事でした。

成績抜群で美貌に恵まれた空知の存在は、晃にとって「心酔」(文庫本、6頁)するほど神々しい光でありました。
また、空知には「野々宮の美人姉妹」(同書、7頁)と誰もが認める姉の橙子(とうこ)と妹の藍(あい)がいました。
晃には空知と姉妹の三人との接点を持った青春時代が最も輝かしい過去でした。

空知の父親の通夜では、空知の母親の雅恵(まさえ)が喪主を務めており、晃と久しぶりの再会となりました。
母親の話では、空知とはホーチミンからが最後の連絡で、その後にカンボジアに行ったということを晃は知ります。
彼女の口からは「うちの子供たちの誰一人とも連絡がとれないのよ」(同書、16頁)と衝撃的な発言が。
「空知は『俺、オフクロ、苦手なんだよ』とよく言っていた」(同書、23頁)ことを晃は思い出し、空知が大好きだった父親の死を目にして、晃は過去の記憶を辿ります。

通夜の帰りに、安井(やすい)と名乗る男性が、空知がカンボジアにいたらしいという情報をもたらして、晃が空知たちを現地で捜すことを提案します。
安井のこれまでの動向がどこまで真実か否か、怪しさ満点でもあります。

さらには三輪(みわ)という男性も現れ、捜索の資金援助を晃に申し出ます。
晃は安井と三輪の言動に怪しみ、驚きながらも、もう行くしかないと諦め半分の境地に至ります。
晃は職場で置かれている自身の現状が悪化していることから、既に現実からの逃避、一時的でもよいので日本を脱出したい、とりあえず行けば何とかなるだろう、と緩い思考回路が働きます。

このように最初はホンのちょっとした現実逃避、それによって友人の居場所が見つけられたら最高。
一時的なのだから、また日本に戻ってやり直せばよい、という安直な発想から彼の物語は始まります。

読者は既に甘い考えの晃の行動に呆れながらも、彼の後を追いかけることになります。
空知と姉の燈子、妹の藍の三人の行方は果たして如何に……。

第一章には非常に大事なキーワードが散りばめられています。
凛は第二章以降に入っても、この第一章を何度も読み返しました。
読了した後、もう一度おさらいのように読み返してみると、なるほどね~と桐野ワールドに感心、納得しました。\(^o^)/

あなたにも是非この物語のスリルとサスペンスを楽しんでいただきたいですね。
後はあなたが読まれてからのお楽しみに! (^O^)/

桐野夏生氏については、2021年3月5日付の第28弾、「奪われてしまうことの大きさに気づくか」(ココ)の項で既にご紹介しています。

最後に。
置かれた現状に不満をもつ青年の八目晃が、慌てて日本を飛び出し、かつて親友だった野々宮空知と彼の姉妹を捜す東南アジアの旅の道連れに読者のあなたを誘います。
それは一時的な現実逃避のつもりでもありましたが、行く先々であらゆる危険な状況に遭い、さらなる前進となってゆきます。

真実と偽りとの境目が曖昧な境界線を行きつ戻りつしながら生き抜くにはどうしたらよいでしょうか。
いつの間にか青年自身が価値観の転換を図ることになりますが、彼は自身の内面の変化に気づいたでしょうか。
彼の生きる世界はさらなる泥沼へと化してゆくのです。
日本の若者がはるかに遠い所へと行き着いた先は……。

これは一体何の旅なのでしょうか。
果たして晃は友人と姉妹に再会できたのでしょうか。
そして、彼は無事に日本へ戻ることができるのでしょうか。
読者の中には、晃に課された旅の謎にハッと気づく方もいらっしゃることでしょう。

文庫本の最後に収められている「解説」は、ノンフィクション作家の高野秀行(たかの ひでゆき)氏です。
凛からのお願いですが、高野氏の「解説」は本作品を読了後に読んでいただきたいです!
高野氏からも指摘されていますが、ネタバレが入っていますので、ご注意お願いいたしますね。( ;∀;)

勿論、読み方は個人の自由ですので、読者のあなたに委ねます。
そう言われると「解説」を先に読みたくなるかもしれないですけれども。(^^;

桐野ワールドを堪能したいあなた、ジェットコースターのごとく上り下りに恐れながらもハラハラドキドキしたい読者におススメです。(@_@)
一気読み間違いありませんよ! 
桐野氏の作品は読者の予想に反する結末が多く、その楽しみもありますね。(^^)v

今夜もあなたにおすすめの一冊でした。(^O^)/

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桐野夏生(著)KADOKAWA(2024/07発売)
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2025年1月31日金曜日

きらびやかな装いの影で ~黒木 亮『アパレル興亡〈上・下〉』(集英社文庫、2024年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
お休み前のひとときに、本の話題でごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

2025年も早くも一か月が過ぎます。
あっという間の12分の1ヵ月……まさしく光陰矢の如しですね。
あなたはいかがお過ごしですか。
凛は今のところ風邪もひかずに過ごしています。

日本では春夏秋冬の四季があります。
冬の真っただ中ですが、ファッションの世界では明るい色の春服が中心となっています。
ファッションは常に季節感を先取りしますね。

現実の寒さとは裏腹に、ココロは既に一歩先に向かわせてくれる──それがファッションの役割なのでしょうか。
冬のかさばる服装から装いを新たにして、気分は春!
ウキウキと楽しく軽やかに~♪ \(^o^)/

「何を着たっていいじゃない。別に裸でなければね~」
と仰る方もいらっしゃるでしょう。
或いは「ブランドの主張する考え方に共鳴して自己実現として表現したい!」
とお考えの方もいらっしゃいます。
ファッションの世界もなかなか奥が深いものですね。(^-^)

今夜ご紹介いたします本は、凛のように着て楽しむだけの消費者をはじめ、これまでの服飾や流通業界の歴史や奥を知りたい方におすすめしたい小説です。
勿論、アパレル産業や流通業界の方々には周知の事実でしょうが、ファッション雑誌やメディア、デパート、スーパー、衣料品店から得る情報だけでなく、知識の幅が広がることでしょう。

黒木 亮(くろき りょう)氏の長編小説『アパレル興亡〈上・下〉』(集英社文庫、2024年)です。
単行本は、2020年2月に岩波書店より『アパレル興亡』のタイトルで刊行されています。
上下巻として再編集、昨年、集英社より文庫化されました。

上下巻なので長い!と読むことに躊躇される方へ。
いえいえ、そのようなご心配などありませんよ~

会話文を織り交ぜながら登場人物たちがイキイキとしていて描かれています。
読者に映像が想像できるように仕立てられています。
まるで映画かドラマを観ているかのごとく大変読みやすくなっていますので、ご興味のある方には一気読み間違いありませんよ。(^O^)

はじめに、凛がこの文庫本を入手したのは、市内中心部の書店の文庫本新刊本の棚で出合ったことによります。
凛の持っている文庫本は、上下巻とも2024年5月30日付の第1刷、初版本です。

次に、帯や表紙についてです。
一番目は、帯について。
文庫本上下巻の帯の紹介がとても印象強いもので、購入する機会となりました。
凛は帯は大事な情報であると考えます。

文庫本上巻(第1刷)の帯の表紙側には、「業界騒然!日本経済の栄枯盛衰とファッション業界の裏側を活写!」と紹介されています。
その横には実在する服飾産業「ユニクロ、ZOZO、青山商事、三越……」(同帯)の実名が掲載されているではありませんか!
さらに「アパレル業界の栄枯盛衰を八十年以上にわたる長尺で描いた大作である。」と。

同じく上巻(第1刷)の帯の裏表紙側には、「私たちが毎日着ている服。その産業はどんな歴史をへて今の姿になったのか。」「どんな人間が作り上げてきたのか。」(同帯)と掲載されています。

下巻(第1刷)の帯の表表紙側には、「圧倒的なリアリティ!!」「巨大産業一大絵巻!」「一気読み必至長編小説」(同帯)の文字が目立っています。
上下巻まとめて読みたくなりますね~ (^.^)

二番目は、裏表紙の説明文について。
文庫本(第1刷)上巻の説明文では、「俺、東京に行きてえんだ!」(同書)という言葉から始まります。
昭和28年の山梨県在住の田谷穀一(たや きいち)は上京を志願します。
彼は東京・神田の婦人服メーカーのオリエント・レディに入社しますが……。

下巻(第1刷)の裏表紙側の説明文では、ファッション文化が栄えた時代の波に乗り「非凡な才能で婦人服メーカーオリエント・レディの社長に上り詰めた田谷穀一。」(同書)
ところが村上という「〝物言う株主〟」(同書)の出現により、「状況は一変」(同)してゆくのです。
そして「会社は誰のものか」(同書)と問われる時代に突入しますので、経済小説でもあることが読者には伝わります。

三番目は、表紙について。
上巻の表紙は、黒い服をまとったモデルたちが一列に並んで歩いている後ろ姿の写真になっています。
恐らくファッションショーでしょう。
彼女たちが着ている服のデザインはそれぞれ異なり、ハイヒールを履いて歩いています。

下巻の表紙は、やはりモデルたちが一列に並んで白いステージを読者側に向かって歩いている写真です。
カラフルな服を着たモデルを先頭に、次のモデルは白っぽい服を着ています。
彼女たちの顔はわかりませんが、綺麗な足元が見られます。
やはりファッションショーでしょう。

カバーデザインは、森デザイン室の森 裕昌(もり ひろまさ)氏です。
写真は、Catwalkphotos/Shutterstock.comです。

それでは、内容に入ります。
上巻では、プロローグから始まり、第五章までです。
上巻の主な登場人物が出ていますのでわかりやすいです。

プロローグでは、2010年(平成22年)の5月、中国上海でユニクロの上海南京西路店が開店する日から始まります。
中国では北京オリンピックに続いて、上海万博が二週間前に開幕した非常に華やかな時でした。
世界中のハイブランドが路面店に軒を連ねている市内随一の繁華街、南京西路に日本のユニクロが開店するということで、開店前から多くの若者たちや家族連れの行列で賑わっていました。
ユニクロの世界進出は四店舗目となり、海外市場の目標額は3兆5千億円から4兆億円を狙った戦略でした。

日本では、国内で最大といわれるアパレルの通販サイト「ZOZOTOWN」を運営する会社の会議の模様が描かれています。

他方、オリエント・レディでは、31年もの長い間、社長の座に座っていた田谷穀一の体調に異変が生じたところでプロローグは終わります。
このわずか9頁から20頁のプロローグを読んだだけでも、アパレル業界の変遷と販売形態の多様性などがわかりますね。(^O^)

第一章では、昭和5年の春に時代が戻ります。
山梨県在住の15歳の少年、池田定六(いけだ ていろく)の出自と、池田家の裏手に在住する田谷家の人たちとの関係から物語は始まります。
池田定六は後のオリエント・レディの創業者となる人物です。

戦後の時代は和装から洋装に移ります。
三越などのデパートや、洋裁学校、ファッション誌や女性誌の台頭など、ファッションをめぐる動きが活発になります。

昭和28年の3月に田谷穀一は上京してオリエント・レディに就職し、池田の部下として働きます。
後にイトーヨーカ堂の社長となる伊藤雅俊(いとう まさとし)との出会いや服地の織物会社との交渉など田谷の着眼点は鋭いものがあり、彼の実力に磨きがかかっていきます。

第二章では、「イージー・オーダー」(同書、97頁)という言葉が出てきます。
「マネキンに服を着せた服は、目立つのでよく売れる。」(同書、97頁)
夢を売るための服という概念は時代を超えて今も変わらないようですね。
マネキンと凛のスタイルは大きく隔たっておりますが……。(^^;

第三章の「百貨店黄金時代」というタイトル(同書、102頁)からもわかるように、小田急百貨店、松坂屋銀座店、伊勢丹などデパートが婦人服販売を席巻します。
時代はさらに進み、有名デザイナーたちが脚光を浴びるようになるとファッションショーも賑やかになります。
雑誌やテレビCMで次々に各メーカーが新しい提案をして消費者の購買欲を強く刺激します。

第五章のタイトル「社長交代」(同書、220頁)で漸く田谷はオリエント・レディの社長の座を射止めます。

下巻では、第六章から第十章まで物語が続きます。
上巻で大きく押し寄せた時代の波に乗って業績を伸ばしたオリエント・レディですが、下巻では一転、次々と眼下に押し迫る深刻な問題に、社長の田谷はどのような考え方や行動を周囲に示したのでしょうか。
何故に田谷は31年間も社長の座に居座ることができたのでしょうか。

そして、下巻のエピローグの305頁から316頁で、読者は何を感じることができるでしょう。
あとはあなたが読まれてからのお楽しみに!(^-^)

上巻の巻末には「アパレル用語集」(276頁~286頁)が収録されていますので、業界に詳しくない方でも大変わかりやすくなっています。

この小説にはユニクロやオンワード樫山などの会社や経営者などの実名が多く登場していますので、ルポルタージュを読んでいるような感覚の読者がいらっしゃるかもしれません。

では「オリエント・レディとは実在している会社なの?」
「田谷穀一って実在の人物?」
という疑問が生じる方も多いことでしょう。
アパレル業界に詳しい方は「この会社だ!」「この人だ!」とすぐにわかるかもしれません。

疑問の答えは、下巻の巻末の「主要参考文献」(317頁~319頁)からわかるでしょう。
また、同じく下巻の巻末、林 芳樹(はやし よしき)氏の「解説」から詳しい情報が得られますので、是非とも最後までお読みくださりますように。(^O^)

作者の紹介です。
黒木 亮氏は、都市銀行、証券会社、総合商社など海外勤務も含めたビジネスマンを経て退職されました。
2000年に長編国際経済小説『トップ・レフト ウォール街の鷲を撃て』で作家デビューされました。
この作品は、2000年に祥伝社から単行本刊行されたのち、2005年に角川文庫で刊行されています。
専業作家として多くの作品が刊行されています。
「1988年より英国在住」であると文庫本上下巻の著者紹介に掲載されています。

最後に。
アパレル業界をとりまく時代は、小説のエピローグからさらに進んでいます。
Z世代が社会人となる今から未来に向けて、新たな考え方でアパレル産業を成長させてくれることに凛は期待します。\(^o^)/

かつては季節の変わり目のセール品に群がっていた凛です。
あれもこれもと激しい物欲とのせめぎあいの結果、着られなくなった服の整理に追われることになっていました……。(-_-;)

現在では「今の凛にとって何が必要か」「それは本当に欲しいものなのか」「似合っているか」「疲れないか」「ご縁があれば」という視点で購入したいなと考える凛です。
それはファッションだけでなく、モノの購入にもあてはめているこの頃ですねえ。(^-^)

あなたにとってファッションとはどのような位置付けとなっていますか。

今夜もあなたにおすすめの一冊でした。(^O^)/

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黒木亮著(集英社文庫、2024/05発売)
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黒木亮著(集英社文庫、2024/05発売)
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