2025年5月5日月曜日

月を眺めて、新鮮な読書の時間を楽しむ! ~伊与原 新『月まで三キロ』(新潮文庫、2021年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
お休み前のひとときに、本の話題でごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

新緑、春から初夏へと移行している季節ですね~
暑くもなく、寒くもなく、今頃が最も過ごしやすい季節ではないでしょうか。
ゴールデンウィークの長いお休みを満喫されている方も多いでしょう。
勿論カレンダーには関係なく、連日お仕事の方もいらっしゃいますね。
あなたはいかがお過ごしですか。

自然の四季の移ろいを慈しむ日本。
近年では風情を感じることなど、そうもいってもいられず、酷暑、酷寒と極端でもありますが……。

人生には四季の移ろいと同様に、春夏秋冬の時期が訪れるといえます。
「毎日が楽しい!」全てが順調で心地よい日々もあれば、辛い時もあるでしょう。
むしろ順調でない時にこそ、人は何か心の支えを求めるものかもしれません。
文学はこのような人々の代弁者となって、悩める読者に寄り添っている存在であり、またそう捉えていきたいと凛は大いに願います。

今回ご紹介いたします本は、人生の岐路に立ち、今後進むべき道を模索している主人公たちが、自然科学の専門的な領域に触れながら個々に光を見出していくという物語の短編集です。

伊与原 新(いよはら しん)氏の短編小説集『月まで三キロ』(新潮文庫、2021年)です。
単行本は、2018年12月に新潮社から発刊されています。

自然科学の基礎的な知識を得て、新しい読書体験が堪能できる作品群です。
難解な分野がわかりやすく描かれており、実にさりげなく自然体で受け止めることができます。
作者は、悩める主人公たちと同じ目線に立っていて、優しく読者を物語の世界に誘います。
全体に素直な文体ですので、決して難しく考えずに、気軽に読んでいただきたい作品です。

読後感は、すっきり爽やか系ですよ~!(^O^)
緑鮮やかなこの季節に合っているのではないでしょうか。
「さあ!また明日からファイト出していこう!」と意欲がわいてきます。\(^o^)/

はじめに、この文庫本の入手についてです。
この春のこと、いつもの近所の書店の文庫本の目立つコーナーで、伊与原 新氏の本が何冊も平台に何冊も並べられていたことによります。
凛が最も魅かれたのが、この本のタイトルと帯と表紙でした。

凛が持っている文庫本は、2025年3月5日付の第15刷です。
文庫本の初版が2021年7月1日付ですから、人気が根強い作品であることがわかりますね。

次に、帯や表紙についてです。
一番目は、帯について。
書店の平台で何よりも目立ったのが帯でした。
全体が黄色に赤い文字でデーン!
「第172回 直木賞受賞! 祝 〈科学の知〉が傷ついた心に響く物語。」(新潮文庫、2025年3月5日第15刷ほか)

この帯が付けられた伊与原氏の文庫本たちの存在感に圧倒された凛でした。
凛がこの文庫本を購入したのは今春でしたから、初版の本などはもう少し早い時期ですと異なった帯だったでしょう。

二番目は、表紙について。
何と言っても「月まで三キロ」というタイトルに魅かれましたねえ。
白い文字の中で「月」の漢字一字だけが黄色で、月のあかりを連想させます。

全体に紺色がベースで、道路の向こう側に橋がかかっており、そのずっと向こうには山々が見えています。
読者は手前の道路側からその景色が見える角度に立っています。

そして何よりもインパクトがあるのが、右上に見える大きな月!
月ってこんなに大きかったのかしら?
手を伸ばせは簡単につかめるのではないかと思えるほどに月が近いのです。
月が放つ光がキラキラと輝いています。
この幻想的な月の存在感に圧倒されそうです!(^O^)

カバー装画は、草野 碧(くさの みどり)氏です。
単行本の表紙も文庫本と同じデザインとなっています。

三番目は、裏表紙の説明文について。
「『この先にね、月に一番近い場所があるんですよ』。」(同文庫本)
この文章から始まる裏表紙の説明文に、ぐいぐいと魅かれた凛でした。
え?? 月って近くにあるの?
凛の頭の中は???の記号の羅列。

「死に場所を探す男とタクシー運転手の、一夜のドラマを描く表題作。」(同書)
どんなドラマが展開されているのだろう?
男とタクシー運転手さんとの物語の展開が気になるではありませんか。

それでは、内容に入ります。
目次を開きますと、文庫本ならではのお楽しみがありますね~
まず六編の短編に加えて、文庫本巻末に特別掌編として「新参者の富士」、それから逢坂 剛(おうさか ごう)氏と作者の伊与原氏との対談「馬力がある小説」が収録されています。
こちらも是非おすすめです! (^O^)

六編の短編のタイトルは以下です。
「月まで三キロ」
「星六花」
「アンモナイトの探し方」
「天王寺ハイエイタス」
「エイリアンの食堂」
「山を刻む」(以上、同書、目次より)

では、本のタイトルとなっている一番目の短編「月まで三キロ」について。
冒頭は「負けがこんでいる。」(同書、8頁)から始まります。
続けて二行目には「そう思ったときには、たいてい手遅れだ。ギャンブルと同じように、人生も。」(同書、同頁)

「人生も下見ができればいいのに、と思う。」(同書、同頁)
確かに、一生を通して俯瞰できれば、人は悩まなくても良いですものね。
それができないからこそ、人生とは一発勝負であり、時間との闘いでもあるのです。

この短編の主人公は、己の人生につまづいているのだなということがわかります。
いくら悔やんでも、反省しても、順調な時までの経緯はしっかりとその人の人生というステージに保存されていて、決して消去することはできません。

彼は、ある夜に初めて訪れた町でタクシーの運転手さんからすすめられたうなぎ屋に入りますが、気分が悪くなり店を出ました。
そして別の個人タクシーをつかまえて、富士山の近くの「鳴沢村(なるさわむら)」(同書、12頁)まで行きたいことを告げます。
個人タクシーの運転手さんは、この乗客の言動から「ある察し」がついて、「月ってね、いつも地球に同じ面を向けてるんですよ」(同書、19頁)と月の説明をしていきます。

運転手さんの話から、主人公の彼の脳裏にべったりと張り付いた重い来し方が次第にはがれてゆきます。
運転手さんによる月の話はだんだんと高度な専門的になり、専門用語や数字が出てきます。
主人公は自分の過去を絡めて、現状に至った辛い経緯を記憶の中で辿ります。

運転手さんの月に関する話はますます高度な領域まで高まってゆきます。
この運転手さんは何者なのか?
読者も、主人公の彼と共に運転手さんのこれまでの人生も重ねて気になってしまうことになるのです。

恐らくこれまでにもこの個人タクシーには主人公の彼と同じような境遇の乗客がいたのではないでしょうか。
主人公の彼の心もだんだんと解凍していっていくような感覚……。
話し上手な運転手さんのコミュニケーション能力に敬意を払いながら、物語はタクシーと共に進みます。
読者は、主人公の彼とタクシーの運転手さんと一体となって、ああ、この物語を読んで良かった~~と心から感動がわいてきますよ。

続きは、あなたが読まれてからのお楽しみに~ (^-^)

他の短編にも自然科学に関する話題が織り込まれています。
月だけでなく、天気、石、宇宙など、作者は専門分野の基礎知識として非常にわかりやすい形で読者に説いています。
悩める登場人物たちはこれらを踏まえ、心機一転して次のステップへと進んでいこうとする再生の道のりに辿り着くのです。

それでは、作者の伊与原 新氏についてです。
伊与原氏は、東京大学大学院理学系研究科で地球惑星科学を専攻され、博士(理学)の学位を授与された研究者でした。
大学勤務を経た後に文学の執筆活動を始められました。

2010年、小説『お台場アイランドベイビー』(角川書店、2010年、のち角川文庫、2013年)で、第30回横溝正史ミステリ大賞を受賞☆彡されました。(^^)v

短編小説「月まで三キロ」は、2019年、第38回新田次郎文学賞を受賞☆彡、同年、未来屋小説大賞受賞☆彡のほかにも複数に受賞☆彡☆彡された作品です。(^O^)

そして、2025年、短編小説「藍を継ぐ海」第172回直木三十五賞を受賞☆彡☆彡されました。\(^o^)/
この作品は、2024年9月、同タイトルで新潮社から短編集の単行本として刊行されています。

他にも数々の作品で受賞されていらっしゃいます。
最もご活躍が期待される注目すべき作家のお一人です。(^-^)

最後に。
短編集『月まで三キロ』は、自然科学の分野をわかりやすく導入して、誰もが親しめる読書体験ができる短編小説集です。
読後は、主人公たちの悩める人生が浄化されたような爽快感があります。
自然科学にも触れられて、文系と理系の境界がない新しい読書の在り方が示されています。

伊与原 新氏は、人生には山あり、谷ありという苦汁があることをご存知の上で、誰もが読みやすい文章で、さりげなく自然科学に関する話題を取り入れながら、新しい文学の創作に励んでいらっしゃる作家であると凛は考えます。
研究者目線からの専門知識を素人に決して押し付けることなく、柔和に文学作品に取り入れられています。

伊与原氏の描く文学世界には新鮮な発見があります。
新しい感覚の読書の時間をあなたも是非楽しまれてくださいね~ (^O^) 

臆することは決してありませんよ。
理系なんてわからない、科学の専門的な分野なんてさっぱり、と仰る方も多いかと思います。
知らなかったことを知る。
さあ、読書を通して、知的探求の醍醐味を味わいましょう! (^^)v

今夜もあなたにおすすめの一冊でした。(^O^)/

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伊与原新(著)新潮社(2021/07発売)
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