2021年2月11日木曜日

クローゼットの中は夢がいっぱい ~千早 茜『クローゼット』(新潮社、2018年、のち新潮文庫、2020年)~

こんばんは。
南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださりまして、ありがとうございます。
お休み前のひととき、本のお話でごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

あなたはファッションに興味がありますか。
お洋服がお好きですか。
あなたのクローゼットにはどのようなお洋服が出番を待っているでしょうか。

2月でまだまだ寒い季節ですが、ファッションの業界では早くも春物が出回っています。
冬物のセールは既に最終処分で、かなり大幅な値引きしているお店が多いので、ラッキー!とお買い得品に出合う方もいらっしゃることでしょう。
ショー・ウィンドウのマネキンが纏っている明るいパステルカラーの春服を見ると、心も軽やかになれそうな気がしてきますから、実に不思議ですよね~

凛はコロナの自粛のため、出かけることが急激に減りましたので、普段着で過ごすことが増えました。
ご近所にお買い物に行くのに、冬のコートの下はリラックスできる服のままで外出しています。
外出先でコートを脱ぐこともなく帰宅しますので、他人にはコートの中まではわからないだろうと思ってしまいます。(^-^;

このようにあまりにもだらり~んと過ごしていると、心身までビシッと引き締まることがないようにも思えてきます。
やはりファッションは気合でしょうか。
頭から足下まできちんと感があると、背筋がまっすぐに上に伸びて気持ちがシャキッとします。(^^)v
意識して適度に身体に緊張感を与えていかないといけないですね。

さて、凛が今夜ご紹介いたします本は、千早 茜(ちはや あかね)氏の小説『クローゼット』(新潮社、2018年、のち新潮文庫、2020年)です。
小説の内容は、タイトルどおりお洋服にまつわる物語です。

凛はいつもの近所の書店の文庫本新刊コーナーで、この文庫本を購入しました。
表紙は、石井理恵氏の装画で、全体が淡い水色を基調に、高貴な女性が纏ったドレスの下に付けるコルセットが真ん中に描かれています。
昔のお姫様や高貴な女性たちは、美しくふわりと裾が大きく広がったドレスの中に、このようなコルセットを付けていたのでしょう。

初版の文庫本の帯が紺色で、水色と紺色の青系の濃淡がすっきりとしています。
帯の表表紙側には、「消せない心の傷みに寄り添う、」の次に大きな文字で「再生の物語。」と描かれています。

裏表紙の説明文からは、十八世紀を中心にした約一万点を超える洋服類が収蔵されている服飾美術館で洋服補修士として働いている纏子(まきこ)と、デパートで働いている男性店員の芳(かおる)を中心とした話であることがわかります。
二人には子供の頃にそれぞれに傷ついた過去をもっていて、互いに何やら遠い記憶の中にあった過去が浮彫となります。
洋服を共通のテーマにした心温まるお話、という読後の期待感をもたらせてくれます。

物語は、母親の洋服がたくさん収納されているクローゼットの中が夢ふくらむとっておきの場所であった女の子の話から始まります。
本編からは芳と纏子の話が交互に描かれています。
各章で、芳の話はハンガーの絵から、纏子の話は人台(じんだい)の絵から始まります。
人台とは、洋服を縫製するときや販売するときに用いる人体の模型のことです。

芳は、子供の頃からデパートの婦人服売り場を母親に連れられて歩くのが好きな男の子でした。
彼は煌びやかなデパート、そして、女の子が身に纏う美しいドレスに興味を抱いていました。
実際に女の子のドレスを着て外に出たため、それがいじめられた原因となって、傷ついた過去をもっています。
今ではすっかり高身長でイケメンの青年に成長していますが、デパートのカフェの勤務でイマイチ満たされないものを感じながら働いていました。

纏子は、歴史のある夥しい洋服たちを後世に残すため、補修をする仕事に従事しています。
よく絵画や映画、舞台などで目にしたことがある方が多いかと思いますが、華やかな社交界で、男女問わず貴族たちの美への追求を最大限に活かした洋服たち。
様々な時代を反映させてきた洋服たちを、次の世代まで残すために、粛々と服と向き合って補修を続けている日々を送っています。

二人は芳の勤務先のデパートの展示会の準備で出会います。
芳は纏子が勤めている「青柳服飾美術館」(文庫版58頁)でバイトをすることになります。

服飾美術館では、様々な人たちが働いており、また古き時代のドレスたち、現代のデザイナーズブランドの服たちが彼を迎えます。
そして、彼はこれまで知らなかった服飾文化の歴史や決まりごとなどに触れることになります。
それは洋服だけでなく、靴や小物にも及びます。

「あら、昔の男性のレースって豪華だったのかあ」
「へえ、靴って昔は左右の概念がなかったんだね」
などと驚くことがたくさんあります。(^o^)

アパレル関係に従事する方々(デザイン、製糸、生地製造、縫製、流通、倉庫、販売など)や、服飾の歴史などを学んでいらっしゃる学生さん方にもおすすめしたい本です。
服飾に関するお仕事小説として学べる点が多いと思いますよ~

さて、纏子と芳の二人の再生とはどうなるでしょう。
それはあなたの読後のお楽しみとして残しておきますね。

文庫本の巻末には、文庫化記念として、作者の千早 茜氏と、公益法人 京都服飾文化研究財団(KCI)のキュレーターの筒井直子氏との対談が掲載されています。
千早氏による財団での綿密な取材がこの小説の起爆となったことがわかります。
筒井氏の説明がとても丁寧で、小説の全容が理解できます。

小説を先に読まれてもよろしいですし、小説よりも先にこちらの財団のHPを見られると、小説のイメージづくりがよりわかりやすくなるかもしれません。
あなたのお好きな順番でどうぞ。

公益財団法人 京都服飾文化研究財団(KCI)のHPはこちらです。

文庫版の解説は、作家の谷崎由依(たにざき ゆい)氏です。
洋服の歴史を知ることは、フランス革命など世界史と密接に関係していることが非常によくわかります。

谷崎由依氏は、2007年、小説「舞い落ちる村」で、第104回文學界新人賞受賞☆彡されています。
この作品は、小説「冬待ち」を併録して、2009年に『舞い落ちる村』として文藝春秋から刊行されています。
また、2019年、短編集『鏡のなかのアジア』(集英社、2018年)で、芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞☆彡されています。

作者の千早 茜氏は、幼少期をアフリカのザンビアで過ごされています。
2008年、『魚神(いおがみ)』(「魚」改題、集英社、2009年、のち集英社文庫、2012年)で、第21回小説すばる新人賞を受賞☆彡し、作家デビューされました。
翌2009年、同作で第20回泉鏡花文学賞を受賞☆彡されています。

2013年、連作短編集『あとかた』(新潮社、2013年、のち新潮文庫、2016年)で、第20回島清恋愛文学賞受賞☆彡されました。
また、同作品は第150回直木三十五賞の候補となっています。

さらに、2014年には、小説『男ともだち』(文藝春秋、2014年、のち文春文庫、2017年)で、第151回直木三十五賞の候補となり、同年に、第1回新井賞を受賞☆彡されています。
また、翌年の2015年に、同作で第36回吉川英治文学新人賞の候補にもなっています。
他、多くの作品を世に出されています。

よそゆきの一張羅、とっておきのドレスを纏って心ときめきたい!\(^o^)/
洋服は着る人の心を映すものです。
綺麗に見せてくれるものです。

あなたのクローゼットのお洋服たちもあなたを美しく見せてくれるでしょう。
インスタ映えしたら、すぐにおさらば!という方もいらっしゃるのかな。

凛は、普段のカジュアルな服もよいけれど、時には素敵なドレスでお洒落をしてみたくなりました。
しかし、繊細なドレスは丁寧に扱っていきたいものです。
その前に、凛はクローゼットの中身をもう少し整理しなくては……

今夜もあなたにおすすめの一冊でした。(^-^)

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(日本語)文庫-2020/11/30千早茜(著)
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