2020年12月11日金曜日

一歩前進したくなります! ~伊吹有喜『今はちょっと、ついてないだけ』(光文社、2016年、のち光文社文庫、2018年)~

こんばんは。
南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

今年も早いもので師走となりました。
街ではクリスマスのイルミネーションがキラキラ☆☆と輝いています。
クリスマスソングが流れて、クリスマス商戦たけなわですね~

凛は賑やかな街の様子を見て、クリスマスの楽しい気分に誘われました。
あなたはいかがですか。

凛はホッとしました。
理由は、新型コロナウィルスの影響が現在も継続中であるため、クリスマスなど例年通りに楽しんでよいものかという気分になっていました。
輝くイルミネーションの光☆☆を浴びて、心身とも明るくいきましょう。(^o^)

自粛などの影響もあり、業種にもよると思いますが、お仕事で大変な方も多くいらっしゃることでしょう。
これから経済的な面での影響が出てくるのではないかと思います。
中にはクリスマス気分どころではない方もいらっしゃるかもしれません。
元々、日本では暮れがおしせまると、どうしても気ぜわしくなりがちです。
さらに、今年は漠然とした不安感や、不透明感が伴って先が見えずにすっきりしない、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

読後に一歩前進できる小説が読みたいなあ。
ファイトが出る小説が読みたい。
明るく元気になれる物語と出合いたい。
爽やかな気分になれる小説が読みたい。

そのような作品をご希望のあなたに、凛が、主人公が厳しい現実から如何にして脱却していくのか、その過程を読ませてくれる小説をご紹介しましょう。
伊吹有喜(いぶき ゆき)氏の小説『今はちょっと、ついてないだけ』(光文社、2016年、のち光文社文庫、2018年)です。

あなたはこのタイトルに「ええっ?今がunluckyなのは嫌だなあ」と思っていらっしゃいませんか。
実は凛も最初、よく利用している近所の書店の文庫本の書架でこの本の背表紙を見たとき、すぐにそう思ったのです。
新刊本や話題の本など平積みされている目立つ棚のところではなく、出版社別に並べられている文庫本の書架の片隅にひっそりとこの本がありました。
「凛さ~ん!読んでください。手にしてください。楽しめますよ~」とこの本からビビビと熱いメッセージが伝わりました。

そっとこの文庫本を手に取ってみますと、表紙のカバーが丹地陽子氏のイラストでした。
表紙には、40代くらいの男性が野外で座って、珈琲のマグカップを持っています。
その横顔と背中に漂う空気感に、哀愁と未来が混濁した感じが含まれています。
何よりも男性の横顔に笑みが浮かんでいたので、よい未来が待っていそうな感じがしました。

文庫本の奥付を見ますと、2018年11月の初版で、2020年9月には第5刷の発行となっています。
増刷のペースが早いというのは、それだけ売れている証拠ですね!

第5刷の文庫本の帯の表表紙側には、「このコーヒーを飲んだら、もう一回、歩き出してみようか。」と。
帯の裏表紙側に記されている「人生の中間地点」にいる人たちであるからこそ「見えた」ものとは何でしょうか。

文庫本の裏表紙の解説文には、主人公の男性が「思いがけない人生の『敗者復活戦』に挑むことになる」物語であると説明されています。
なるほど、ここから市井の人々に読んで欲しい作品であることがわかりました。

目次を開きますと、7篇の物語と、文庫本の解説が文芸評論家の北上次郎(きたがみ じろう)氏ではありませんか!
これは読みごたえがありそうだなと思い、凛はすぐに書店のレジに向かいました。

物語は、立花浩樹(たちばな ひろき)という元・自然写真家の現在から始まります。
彼は華々しいメディアの世界で人気を博した「『ネイチャリング・フォトグラファーのタチバナ・コウキ』」(文庫本、20頁)という過去をもっています。
1980年代後半に彼が東京の私立大学の学生のときに出会った所属事務所の社長が、彼のプロデューサーを手掛けていました。

しかし、バブルの終焉と共に、彼は連帯保証人であったため、社長の負債を負うことになってしまったのです。
どれくらいの借金があったのかは明確にはわかりませんが、返済し終えて、他人には言えない艱難辛苦を体験した過去を背負って、心身ともぼろぼろの状態で今に至っています。
華やかなメディアからは消えて、世の中の人々からは忘れられた存在となっています。

第一篇目は、現在の立花浩樹が主人公です。
地元に戻って荒れた生活ぶりが彼の表情や身体全体に表れており、輝かしい過去と現在との比較が容赦なく描かれています。
彼の母親の息子に対するもどかしい気持ちと、母親の友人とその息子との関わり方が非常に現実的で厳しく、読者も苦しくなります。

母親の友人の写真を撮影することがきっかけとなり、彼は再び東京に出ることになります。
そのとき、母親が彼にかけたひと言、これはあなたが読まれてのお楽しみにとっておきましょう。(^_-)-☆
読者にもよい展開となる予感を抱かせます。

第二篇目からは、彼をめぐる人々が各篇で主人公となった連作長編です。
これ以降、立花浩樹が脇役となるのが、この作品の特徴です。
それぞれの登場人物の「現実の厳しさ」がこれでもかというくらいに連打されます。

目黒区の『ナカメシェアハウス』(同書、96頁)に住むことになった彼と住人たちの関わりは、必然性ともいえるでしょう。
第二篇目では、立花浩樹の母親の友人の息子のシビアな結婚生活が描かれています。
第三篇目では、美容のスペシャリストを目指している女性に、作者は容赦なく厳しい現実を突きつけます。
この二篇で、厳しい現実の中において彼らが獲得してきた職業的特性を、写真家である立花浩樹を中心にして活かされていくのです。
この過程がぐいぐいと読者を引きつけてくれます。

第四篇目は、希望する結婚を目指すために、立花浩樹から写真を撮ってもらった女性のおかれた現実と海外旅行での甘い夢が愛おしくなります。
第五篇目は、大学で立花浩樹と同じ探検部に所属していた仲間だった男性の郷愁が切なく描かれています。
第六篇目で、大学の元仲間の男性は愛犬と共に、立花浩樹と野外活動で大活躍します。
ここまでで、人生の再生には人とのつながりが必ず必要であることと、人生の折返し地点に立ってからは、激変し続けている現代において、これまで生きて来た時代の価値感の共有が特に必要なのだと作者が描いていると、凛は考えました。

そして、第七篇目は、立花浩樹が再び登場しますが、一体彼はどのような行動をとるのでしょうか。
最後に、第一篇の母親からのひと言からの呼応として、素敵な言葉が描かれています。
これもあなたが読まれてからのお楽しみにとっておきましょう。(^_-)-☆

作者の伊吹有喜氏は、2008年、永島順子の筆名で応募した小説「夏の終わりのトラヴィアータ」で第3回ポプラ社小説大賞特別賞☆彡を受賞されました。
2009年、筆名とタイトルを改めて、小説家デビューされました。
この作品は、伊吹有喜として『風待ちのひと』(ポプラ社、2009年、のちポプラ文庫、2011年)で刊行されています。

2010年、小説『四十九日のレシピ』(ポプラ社、2010年、のちポプラ文庫、2011年)では、2011年にNHKBSプレミアムでドラマ化がされています。
主演は、和久井映見さんです。
また、同作品は2013年には映画化もされて、タナダユキ監督で、主演は永作博美さんです。

伊吹氏の作品は、各文学賞の候補となっています。
2014年、小説『ミッドナイト・バス』(文藝春秋、2014年、のち文春文庫、2016年)が、第27回山本周五郎賞の候補、並びに第151回直木三十五賞の候補となっています。
そして、2018年に映画化されており、竹下昌男監督で、主演は原田泰造さんです。

2017年、小説『彼方の友へ』(実業之日本社、2017年)で、第158回直木三十五賞の候補、並びに第39回吉川英治文学新人賞の候補となっています。

2020年、小説『雲を紡ぐ』(文藝春秋、2020年)で、第163回直木三十五賞の候補となりました。

さらに、小説『カンパニー』(新潮社、2017年、のち新潮文庫、2019年)は、2018年に宝塚歌劇団月組公演で舞台化されました。
この作品は、2021年の1月から、NHKBSプレミアムドラマで、主演が井ノ原快彦主演でドラマ化される予定です。
以上のことから、伊吹氏は大変ご活躍されている実力のある作家であることがわかります。

文庫本の解説は、北上次郎氏です。
他に、目黒考二・群一郎・藤代三郎などの筆名で、私小説、文芸評論、競馬評論などで精力的にご活躍されていらっしゃいます。
2001年に、本の雑誌社を、椎名誠氏らと設立され、初期には群ようこ氏一人が社員でした。

文庫本の解説では、さすがに大御所の書評家らしく、伊吹氏の著作リストを挙げて、番号をうって整理されていらっしゃいます。
各作品をわかりやすく解説されて、最後に共通点をきちんとまとめてあるので、凛はさすがだなと感心いたしました。
北上氏の解説も是非お楽しみに~ (^o^)

バブル期を若い青年期に体験した40代の主人公はじめとする登場人物たちの現実の姿を、等身大として描いているからこそ、多くの読者に共感を得ているのだと凛は考えます。
若さもありますが、これから老いについても考えていかなければならない年代であります。
社会の現役世代として活躍を期待される彼らに、作者は寄り添っています。

また、作者はバブル期に流行したトレンドを上手く登場させており、その共感性がもうひとつの柱となっているとも凛は考えました。

仕事、離職、結婚、離婚、家族、介護、老後、借金、住宅、転落、恋愛、友情、そして、郷愁。
これらの問題を体験して、それぞれに過去を清算していく40代の再生の物語です。

読後感はすっきりとして、あなたも一歩前進したくなりますよ!\(^o^)/
爽快感が体験できます。
伸びしろが大いに期待できる伊吹有喜氏、これからも注目したい作家の一人です。

今夜も凛からあなたにおすすめの一冊でした。(^-^)

☆☆☆2021.1.15追加☆☆☆
追加情報で~す!
この作品は映画化されます!\(^o^)/
全国の4カ所でロケです。
監督は、柴山健次氏で、脚本も担当されます。
詳細は、こちらです!
Zipang
今年の秋以降の上映予定です。
お楽しみに~(^o^)
☆☆☆追加はここまで☆☆☆

************
************


4 件のコメント:

Kohta さんのコメント...

コロナ第3波が凄い勢いで日本中を襲っています。おかわりありませんか?こちらは風邪もひかず、何とか日々を過ごしています。一段と寒さが厳しくなったためでしょうか、白鶺鴒の動きが機敏さを欠いているように思われます。特に交通量の少ない農道では車が近づいても、逃げようとしません。それどころか、わざわざ私の目の前を横断するのです。反対側に逃げれば、数十センチですむのに。

さて、伊吹有喜さんを紹介していただきありがとうございます。全作品を読みたいと思って、本屋巡りをする作家をあなたのおかげで、米澤穂信さんと古内一絵さんに続いて3人になり増えました。早速手に入る作品を全て購入して(9冊)、『今はちょっと、ついてないだけ』と『BAR追分シリーズ』を3冊読了して、今は『風待ちのひと』に取りかかっているところです。
気に入ったところは、抑制がきいているというか程の良さです。ほのぼの系の作品は、すぐに説教臭くなったり、心情を書き込みすぎたりして、うるさいと思わせられることが多いと感じます。伊吹さんの作品は、本当にしっくりすんなり、頭の中に入り込んで来ます。良い作家を紹介していただき、本当に感謝しています。このお正月にどっぷり伊吹ワールドにはまろうと思っています。

最近の収穫は、山本幸久さんの『ふたりみち』です。67才のも元ムード歌謡歌手がドサ回りの旅に出た。途中で知り合った12才の少女と、歳の差を超え強い絆で結ばれていく。ロードノベルです。この作品もほのぼの系ですが、少し笑いと涙の要素が強い作品です。デビュー作の『笑う招き猫』もそうなのですが、作中に出てくる歌の歌詞が秀逸で、思わず笑ってしまいます。

本年も後数時間です。本当に様々な本を紹介していただき、ありがとうございました。
では、お元気で。良いお年をお迎えください。

南城 凛 さんのコメント...

明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。

Kohtaさん、コメントありがとうございました。(^-^)
寒くなりましたが、お元気とのことで何よりです。
白鶺鴒は知能が高いのでしょうね。
車の運転にはくれぐれもお気をつけくださいませ。

Kohtaさんは伊吹有喜氏の作品読破のお正月ということで、きっと充実の時間をお過ごしのことでしょう。
伊吹氏については、公式サイト「Web伊吹有喜『折々のいぶき』」(ibuki-yuki.jp)で楽しめますよ~
伊吹氏の新たな一面がみられるかもしれませんね。

今回もご教示ありがとうございます。
今年もよい年でありますように!

「南城 凛のりんりんらいぶらり~」を本年もどうぞよろしくお願いいたします。(^-^)

マーティーの工房日誌 さんのコメント...

今、絶不調なので、これ読むと元気が出るというのを思い出して
Amazonリンクから中古本を買わせていただきました。
最初の方は嫌な感じで始まるので、先を読もうかちと立ち止まりましたが
その後は一気に読めてスッキリできました。
ありがとうございます。
映画が楽しみですね~

南城 凛 さんのコメント...

マーティーさん、はじめまして。(^-^)
凛のりんりんらいぶらり~にようこそおいでくださいましてありがとうございました!

マーティーさん、お身体の調子はいかがですか。
タイトルからも、始まりからも、読みだすのに勇気がいりますね。
でも、読み進むほどに後からどんどん元気になっていきますね。
この作品がお役に立てられて良かったです。

Amazonリンクのご利用、ありがとうございました!!m(_ _)m
凛も映画が楽しみです。
これからも凛のりんりんらいぶらり~をよろしくお願いいたします。(^-^)