2020年9月14日月曜日

仕事が単調だとお悩みのあなたへ、ミラクル・ワールド!

こんばんは。
南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださりまして、ありがとうございます。
と共にどうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

あなたはお仕事に従事されていらっしゃいますか。
毎日の労働の中で、ルーティン・ワークで繰り返される業務、職場と自宅の往復ばかりで何にも新しい感動や出会いなどないなあ、楽しいことがないなあと思われることはありませんか。
日々の仕事に対する思いが少しずつ鬱積して、思い悩まれることはありませんか。

最近は新型コロナウィルスの関係から、新しいワーキング・スタイルとしてリモート・ワークを採用している企業もあります。
しかし、職場と自宅の往復の通勤の疲れは免れていても、今度は自宅で一日を過ごすことの新たな問題も報じられています。
そのため、郊外の広い住宅が新たな不動産の市場として注目されてきています。
それに伴い、快適なリモート・ワークに適した間取りや衣類なども人気が出ています。

このような労働環境の変化が新たな時代への転換期となるのか、否か。
果たして数年後には、就労者にとってどのような形態を成しているでしょうか。

ここで少し想像してみましょう。
もし、あなたのお仕事の一日が終わるまで、ことあるごとに非日常の世界が繰り広げられるとしたら。
一日のぞれぞれの時間帯で、奇想天外でミラクルな世界があなたを待ち受けていたとしたら。
あなたは楽しめることができますか?
それとも、どんな反応を示されるでしょうか?

まさにそのようなお仕事小説があります。
お仕事小説とはいっても、具体的な業務遂行の物語ではありません。
主人公がある瞬間から全く異質な世界へと転じる物語で、それはまさに「想定外」な世界が繰り広げられます。
純粋に創作物語であるフィクションとして、あなたにミラクル・ワールドを存分に楽しみいただきたいと思います。

今回の作品は、青山七恵氏の連作短編集『踊る星座』(中公文庫、2020年)です。
2017年に中央公論新社から単行本として刊行されています。
作品は13の短編小説で連作となっています。

主人公の「わたし」はダンス用品の会社でセールスレディとして外営業を担当している女性です。
この「わたし」の子供の頃のエピソードから始まり、通勤電車の中や、社内での様子、地下鉄構内、顧客の家やダンススクール、取引先の倉庫、移動中のタクシー、会社主催の会食のレストラン、夜の公園などこれだけを挙げますと、営業職の業務として納得できる状況であると頷ける方も多いでしょう。

「わたし」は真摯に仕事に向き合う真面目な女性です。
ところが、ふとした瞬間から、日常の場面から非日常への場面へと状況がいきなり変化するのです。
それは主として、「わたし」の周囲の人々の変化にあります。
一般常識では理解不能な人たちが「わたし」に向かってきます。
瞬間的に突如眼の前の事象が想定外の事象へと変化したことに気づきながらも、「わたし」はその変化にすら真摯に向き合うのです。
つまり、「わたし」は非日常を受け入れ、咀嚼し、消化していこうとするのです。

眼の前に生じた急激な変化とは実に様々です。
不可思議だと思える人たちがいきなり目の前に現われて、「わたし」に近づいてきます。
これらの人たちの言動や行動は「わたし」及び読者がこれまで常識的だと思っていたことを悉く破壊します。
彼らは、読者や「わたし」が抱いた「え?そんなはずはないだろう?」という驚きや疑問すら簡単に打ち消されてしまうほど、強く非常識な事柄を押し通します。
言い換えれば、今「わたし」が生きている世界における非常識の価値観を、常識的な価値観へと転化していく過程が描かれているといえます。

以下で、凛が「わたし」の前に現れる不思議な人たちを少しだけご紹介しましょう。

例えば、第3章の「スーパースター」では、図書館から借りた図書を各駅停車の電車内で読んでいる「わたし」が、眼鏡の女性が隣に座っていることに気づきます。
その女性との会話が実に奇妙で、本当は本の世界を楽しみたいところだけれども、仕方なく女生徒の会話にお付き合いしなければならない「わたし」がいます。

第6章の「ハトロール」では、取引先の衣料問屋の倉庫を訪問すると、高齢の女性が倉庫番と称して登場し、何かと上から目線で「わたし」を叱りつけます。

第8章の「妖精たち」では、顧客先であるフラメンコスクールを訪問すると、いきなりダンス講師の男女の激しい恋の終焉を見せつけられる「わたし」がいます。

この章までになると、「わたし」の行く先々に「次は何が出てくるのか。どんなミラクルな世界がきても驚かないぞ!」というような期待感を読者にもたせてきます。
突如として現れる「想定外」の出来事も、またそれに瞬時に対応する「わたし」にも感心しながら、どんどん先が気になった凛でした。
凛が持っている文庫本の初版の帯には、「キレてますけど、元気です!」と紹介されています。
なるほど「わたし」は常に元気に対応しており、凛は実に誠実で爽やかなセールスレディの姿を思い浮かぶことができました。

第9章の「テルオとルイーズ」では、移動中のタクシーの車内で、時間がないと焦る「わたし」に、急にある提案を告げるタクシー運転手に驚きながらも、「わたし」の心は揺れながら、しかし運転手に素直に反応していくのです。
その時の「わたし」の思考回路が実に切なく感じてしまうのは、凛だけではないかもしれません。

「わたし」には家族がいて、仕事だけでなく、家族の悩みにも付き合わなければなりません。
それは第10章の「お姉ちゃんがんばれ」というタイトルからも想像できます。
何事も真面目で真摯に取り組む「わたし」としては、休日までも頑張らなければならないという家族構成になっています。

そして、作品の終わりに近づく第12章「ジャスミン」で、「わたし」は二体の生物と出合い、自己の運命に天を仰ぎ見ます。
圧巻は、ここで「わたし」の仕事や人生に対する本音が描かれているのだなと凛は捉えました。
凛は、作者が「わたし」の仕事や人生に対する本音を最もここで主張したいがために、これまでの奇想天外な世界を創造して、読者に突きつけていったのではあるまいかと考えました。
この章で、タイトルの『踊る星座』が理解できる構図になっているのではないでしょうか。

最終章の「いつまでもだよ」には「わたし」の子供時代が描かれており、第1章の「ちゃぼ」に戻れば、さらにこの作品のタイトルにも納得できましょう。

文庫本の巻末には、2014年、小説「穴」(『穴』〔新潮社、2014年、2016年、新潮文庫〕)で、第150回芥川龍之介賞☆彡☆彡を受賞された作家の小山田浩子氏の解説が掲載されています。
「解説 星座はどうして踊るのか」を読まれて、「わたし」たる「わたし」の存在が、あなたにはどう伝わるでしょうか。

作者の青山七恵氏は、大学在学中の2005年、小説「窓の灯」で第42回文藝賞☆彡を受賞されて作家デビューされました。
この作品は『窓の灯』(河出書房新社、2005年、河出文庫、2007年)に所収されています。

そして、2007年、小説「ひとり日和」で、第136回芥川龍之介賞☆彡☆彡を受賞されています。
この作品は、単行本として2007年、『ひとり日和』で河出書房新社から刊行され、のち2010年、河出文庫から文庫本として出版されています。

また、2009年には、小説「かけら」で第35回川端康成文学賞☆彡を受賞されています。
この作品は、単行本として2009年、『かけら』で新潮社から刊行されて、のち2012年新潮文庫から文庫本として出版されています。
他にも多数の作品が刊行されており、若くして大変ご活躍されている作家です。

青山七恵氏は、何という創造力の塊なのでしょうか!
何故に日常であるお仕事小説を、非日常なミラクル・ワールドに転換できるのでしょうか!

凛は、まるでロシア文学のミハイル・ブルガーコフ氏の長編小説『巨匠とマルガリータ』(水野忠夫訳、河出書房新社、2012年、同訳、岩波文庫〔上・下〕、2015年)を読んだときの如く、青山氏の想像力の素晴らしさに圧倒されました。
ブルガーコフ氏のこの作品は『池澤夏樹=個人編集 世界文学全集1-5』(同訳、河出書房新社、2008年)からも刊行されています。
一体次に何が出てくるのか全く想像もできないくらいに、それはそれは自由自在に作中の登場人物たちが生き生きと輝いているのです。(^o^)
ブルガーコフ氏のこの作品によって、文学とは自由な世界を創造できるものである、という体験を凛はしました。

これに匹敵できるような世界を青山七恵氏は創出されています。
青山七恵氏によるどこまでも続く奇想天外な物語は、読者の想像力の修練が求められる格調高い文学作品であると凛は考えます。

自宅と職場の往復、単調な仕事の日々だとお悩みのあなたには、ジェットコースター並みの「想定外」が繰り広げられる世界を堪能できますよ。
何も恐れることはありません。
初版の文庫本の裏表紙には「笑劇」と紹介されています。
どうぞご安心されて、青山七恵氏の傑作なる世界に身を委ねてみるのはいかがでしょう。
読後は、もしかしたらあなたのお仕事に対する気持ちに変化が生じるかもしれません。

今夜も凛からあなたにおすめの一冊でした。(^-^)

************ 
(日本語)文庫-2020/7/22青山七恵(著)
************


2 件のコメント:

Kohta さんのコメント...

朝夕時に肌寒く感じるようになってきました。おかわりありませんか?こちらは相変わらずです。
彼岸花が律義に時を守って、茎をすっくと伸ばしています。日本ではすっかり忌まわしイメージがついてしまいましたが、やはりあの毒々しい赤色が日本の穏やかな風土にはかなり異質なのでしょう。サンスクリット語のまんじゅしゃげは、天界に咲く花で、めでたい事が起こる兆しだそうです。私は、英語のvivid scarlet spider lilies(生々しい緋色の蜘蛛の百合)の方がしっくりきます。

青山七恵さんの『踊る星座』を読了しました。青山さんは『ひとり日和』など初期の数作を読んだだけで、本当に久しぶりにお目にかかることになりました。『ジャスミン』が気になりました。プレセペ星団の生命のダム、スノーボールアース、カンブリア爆発など、宇宙や地球史、生物学に関心がおありなのだと。私も文系人間なのにこれらのことに興味があります。人間は進化のすべての段階をたどってこの世界に誕生するそうですし、作者が書いているように、(でもこうして今日を、今日起きた出来事を、今日出来事が起きたときに思い出した出来事を思い出しているかぎり、今日という一日は永遠に引き延ばされていく。終わりがない。…「帰れるわけない。いつまでも続くんだから」「いつまでもだよ」)ビッグバンから百四十億年だそうですが、人間の意識は百四十億光年先のクウェーサーまで一瞬で到達できる。改めて人間の思考力は大したものだと思います。残念ながら、宇宙を調べれば調べるほど、現時点では人類は宇宙の孤児の公算が強いそうです。

最近の収穫は、荻原浩さんの『海馬の尻尾』です。荻原さんといえば、初期の『なかよし小鳩組』や『母恋旅烏』などヤクザを主人公とした作品でも、ハートウォーミングな作家だと思ってきました。しかし、この作品は「恐怖心が欠如して、良心のない」ヤクザを主人公にハードボイルドタッチで描く脳科学サスペンスです。最終盤には、ウィリアムズ症候群の少女との触れ合いを通して少しずつ変わってきた主人公が、脳科学実験の対象となり、監禁された少女を救出に向かうという物語です。

なにかとりとめもない文になってしまいました。このへんで終わりにします。それではお元気で。

南城 凛 さんのコメント...

Kohtaさん、こんばんは。(^-^)
コメント、ありがとうございました!

涼しくなって、秋らしくなってきましたね。
油断したら風邪をひきそうな感じがします。
凛は彼岸花の赤い色は好きですよ~
最近は白いお花もありますね。
彼岸花は別名、葉見ず花見ず、マジックリリーとも言われています。

Kohtaさん、青山七恵氏の『踊る星座』(中央公論新社、2017年、中公文庫、2020年)を楽しんでいただき、ありがとうございました!
第12章の「ジャスミン」は圧巻だと凛も思います。
第1章の「ちゃぼ」には隠された謎もありそうですし、最終章の「いつまでもだよ」には深い意味が隠されているようにも思えます。
様々な解釈ができる深い作品ですね。
青山七恵氏はこれからも注目していきたい作家です。

凛も荻原浩氏の作品は好きです。
『神様からひと言』(光文社、2002年、光文社文庫、2005年)は社会人のバイブルとして多くの読者に愛されています。
2016年、『海の見える理髪店』(集英社、2016年、集英社文庫、2019年)で、第155回直木賞を受賞☆彡☆彡されました。
新しい作風に挑戦されていらっしゃるのでしょう。
最近は漫画も描かれており、新たな荻原氏の世界を展開中。
今後の作品がさらに楽しみです!

Kohtaさん、いつもご教示ありがとうございます。
これからも凛のりんりんらいぶらり~をよろしくお願いいたします。(^o^)