こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
お休み前のひとときに、本の話題でごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)
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春がきました!
桜前線も北上中です。
あなたは桜のお花見にお出かけされましたか。
暖かくなったとはいえ、夜には花冷えもありますが、やはりこの時期にしか見られない桜の花を愛でたいものですね~ (^O^)
日本では4月から新学期と新年度が始まります。
多くの若者たちにとっては人生の節目となる季節でもあります。
新生活に胸を躍らせる若者たち。
新卒の新社会人にとっては初任給が恵まれているとのこと。
彼らを前にして、日本では人手不足、少子高齢化、物価上昇、人・賃金・地域間の格差などの社会問題が既に厳しい局面と対峙しなければいけません。
闇バイトなど国内の犯罪だけでなく、東南アジアなどで犯罪組織に入ってしまった若者たちの報道が増えています。
若者たちは将来に対する夢や希望など消え失せてしまったのでしょうか。
それとも最初からそのようなものは抱いていなかったのでしょうか。
夢、希望、友情、労働、対価、孤独、逃避、焦り、不信、恐れ、反省、諦め、転換、目的……。
初めはほんのちょっとした軽い考えから、本人の気づかない間に深い沼にはまり込んでしままったのかもしれません。
脱出できるチャンスがあるかと思わせておき、油断をしていたら、そこには偽りの世界を突き付けられるという現実が襲ってきます。
実は最初から入念に仕組まれた罠であったとしたら……。(*_*;
今回ご紹介いたします本は、契約社員として暮らしているどこにでもいそうな日本の青年が、突然に失踪したかつて親しかった友人とその友人の姉妹を捜して欲しいと、ある人たちから依頼されて、初めて訪れた東南アジアの国に向かった先で彷徨い傷つきながら外見も内面も変貌してゆく物語です。
桐野夏生(きりの なつお)氏の長編小説『インドラネット』(角川文庫、2024年)です。
読者は、謎めいた多くの登場人物たちと主人公の青年との危険な関係にはらはらどきどきしながら、「いや、そこは止めたほうがいい」「そっちの方向に行ってはダメだ」「急いで戻って!」「ファイトを出して!」などなど青年に声援を送りますが、物語はどんどんあらぬ方向へと進んでいきます。
それから、東南アジアの国々の旅ガイドの楽しみも味わえます。
さらに、青年の変貌していく過程にも驚かされるのです。
はじめに、この文庫本の入手についてです。
凛は近所の書店の新刊コーナーで出合いました。
凛が持っている文庫本は、2024年7月25日付の初版本です。
単行本は2021年5月にKADOKAWAから出版されています。
次に、帯や表紙についてです。
一番目は、帯について。
凛が持っている文庫本の初版の帯の表表紙側には、「あいつは死んだのか。それとも俺から逃げているのか。」「見るもの、聞くこと、すべて信頼できない『人捜し』」と。
何よりも「桐野文学の到達点!」と帯に紹介されているからには、これは読まなければ!と凛は即座に思ったのでした。(^O^)
余談ですが、この帯にはちょうど角川文庫75周年で「カドイカさん」が「夏休みフェア2024プレゼントキャンペーン」が掲載されています。
「カドイカさん」のコアなファンの中には応募された方もいらっしゃるかも。(^-^)
二番目は、裏表紙の説明文について。
主人公の青年、八目晃(やつめ あきら)の紹介が「平凡な顔、運動神経は鈍く、勉強も得意ではない」から始まり、「何の取り柄もない」「非正規雇用でゲームしか夢中になれない無為な生活を送っていた」。(同書)
要するに、晃はヒーローではない、どこにでもいそうな青年、等身大のような身近な存在の主人公です。
彼にとって「唯一の誇り」があります。
「高校時代のカリスマ、「野々宮空知(ののみや そらち)とその美貌の姉妹と家族ぐるみで親しくしたこと。」
裏表紙の説明文には、気になるキーワードがいくつか出ています。
「野々宮家の父親の葬儀」
「空知はカンボジアで消息を絶った」
「空知を捜しに」
「東南アジアの混沌の中に飛び込む」
「彼らの壮絶な過去だった……。」などなど。(文庫本初版)
出版社の戦略に見事にはまっても構いません。
時間を忘れるほどに夢中になる作品が読みたいあなた、物語の先が気になります。
本作品を全部読了したくなりますよね~ (^-^)
三番目は、表紙について。
文庫本の表紙は、アジア系と思われる女性が顔は横向きで、裸体の背中を読者側に向けています。
女性は長くて緑色が混じった黒っぽい髪を結っており、赤い宝石が埋め込まれた髪飾りが印象的です。
うなじから背中、肩へと長い後ろ髪を垂らして、うなじ側を右手で押さえています。
彼女の長めに伸ばした爪が綺麗です。
薄い絹織物か、レースのような透明の生地を背中に充てています。
彼女の仕草は無造作のようですが、巧に計算されているようにも見えて、こちら側を意識しているのがわかります。
全体に気品があり、気高く、そして妖艶な様相です。
カバーイラストは、日本画家の木村 了子(きむら りょうこ)氏です。
カバーデザインは、鈴木 久美(すずき くみ)氏です。
尚、単行本の表紙は文庫本と違った作品となっています。
それでは、内容に入ります。
物語は、第六章で構成されています。
「第一章 野々宮父の死」(文庫本、5頁)は、主人公のルーティン化していた日常に、ある日突然に非日常な出来事が侵入していく重要な導入部分です。
発端は、契約社員で社会生活の一員として日々を送っている八目晃の元に、彼の実家の母親から、野々宮空知の父親の俊一(しゅんいち)の訃報を知らせるLINEがきたことによります。
晃と空知とは都立高校の同級生で、空知の実家に入り浸るほど親しくしていたこともあり、空知の父親の死は晃にとってショッキングな出来事でした。
成績抜群で美貌に恵まれた空知の存在は、晃にとって「心酔」(文庫本、6頁)するほど神々しい光でありました。
また、空知には「野々宮の美人姉妹」(同書、7頁)と誰もが認める姉の橙子(とうこ)と妹の藍(あい)がいました。
晃には空知と姉妹の三人との接点を持った青春時代が最も輝かしい過去でした。
空知の父親の通夜では、空知の母親の雅恵(まさえ)が喪主を務めており、晃と久しぶりの再会となりました。
母親の話では、空知とはホーチミンからが最後の連絡で、その後にカンボジアに行ったということを晃は知ります。
彼女の口からは「うちの子供たちの誰一人とも連絡がとれないのよ」(同書、16頁)と衝撃的な発言が。
「空知は『俺、オフクロ、苦手なんだよ』とよく言っていた」(同書、23頁)ことを晃は思い出し、空知が大好きだった父親の死を目にして、晃は過去の記憶を辿ります。
通夜の帰りに、安井(やすい)と名乗る男性が、空知がカンボジアにいたらしいという情報をもたらして、晃が空知たちを現地で捜すことを提案します。
安井のこれまでの動向がどこまで真実か否か、怪しさ満点でもあります。
さらには三輪(みわ)という男性も現れ、捜索の資金援助を晃に申し出ます。
晃は安井と三輪の言動に怪しみ、驚きながらも、もう行くしかないと諦め半分の境地に至ります。
晃は職場で置かれている自身の現状が悪化していることから、既に現実からの逃避、一時的でもよいので日本を脱出したい、とりあえず行けば何とかなるだろう、と緩い思考回路が働きます。
このように最初はホンのちょっとした現実逃避、それによって友人の居場所が見つけられたら最高。
一時的なのだから、また日本に戻ってやり直せばよい、という安直な発想から彼の物語は始まります。
読者は既に甘い考えの晃の行動に呆れながらも、彼の後を追いかけることになります。
空知と姉の燈子、妹の藍の三人の行方は果たして如何に……。
第一章には非常に大事なキーワードが散りばめられています。
凛は第二章以降に入っても、この第一章を何度も読み返しました。
読了した後、もう一度おさらいのように読み返してみると、なるほどね~と桐野ワールドに感心、納得しました。\(^o^)/
あなたにも是非この物語のスリルとサスペンスを楽しんでいただきたいですね。
後はあなたが読まれてからのお楽しみに! (^O^)/
桐野夏生氏については、2021年3月5日付の第28弾、「奪われてしまうことの大きさに気づくか」(ココ)の項で既にご紹介しています。
最後に。
置かれた現状に不満をもつ青年の八目晃が、慌てて日本を飛び出し、かつて親友だった野々宮空知と彼の姉妹を捜す東南アジアの旅の道連れに読者のあなたを誘います。
それは一時的な現実逃避のつもりでもありましたが、行く先々であらゆる危険な状況に遭い、さらなる前進となってゆきます。
真実と偽りとの境目が曖昧な境界線を行きつ戻りつしながら生き抜くにはどうしたらよいでしょうか。
いつの間にか青年自身が価値観の転換を図ることになりますが、彼は自身の内面の変化に気づいたでしょうか。
彼の生きる世界はさらなる泥沼へと化してゆくのです。
日本の若者がはるかに遠い所へと行き着いた先は……。
これは一体何の旅なのでしょうか。
果たして晃は友人と姉妹に再会できたのでしょうか。
そして、彼は無事に日本へ戻ることができるのでしょうか。
読者の中には、晃に課された旅の謎にハッと気づく方もいらっしゃることでしょう。
文庫本の最後に収められている「解説」は、ノンフィクション作家の高野秀行(たかの ひでゆき)氏です。
凛からのお願いですが、高野氏の「解説」は本作品を読了後に読んでいただきたいです!
高野氏からも指摘されていますが、ネタバレが入っていますので、ご注意お願いいたしますね。( ;∀;)
勿論、読み方は個人の自由ですので、読者のあなたに委ねます。
そう言われると「解説」を先に読みたくなるかもしれないですけれども。(^^;
桐野ワールドを堪能したいあなた、ジェットコースターのごとく上り下りに恐れながらもハラハラドキドキしたい読者におススメです。(@_@)
一気読み間違いありませんよ!
桐野氏の作品は読者の予想に反する結末が多く、その楽しみもありますね。(^^)v
今夜もあなたにおすすめの一冊でした。(^O^)/