2021年6月8日火曜日

やはり人が財産ですね ~山本甲士『ひなたストア』(小学館文庫、2020年)~

こんばんは。
南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

あなたにとってスーパーマーケットは身近な存在ですか。
「そんなの当たり前だ!」とは限りません。
日々の暮らし方には各々違いがありますから、一概にスーパーでお買い物される方ばかりでないでしょう。
それでも「食」は毎日のことですから、やはり生活必需品を扱うスーパーの存在は大きいですよね。

凛は生活圏にあるスーパーの話題についてはいつも気になっています。
毎日のセールだけでなく、近所に新しいスーパーが開店したとか、リニューアルしたとか、とても気になりますねえ。
A店とB店は昔からライバルだけど、A店のほうがスタッフの対応が良いとか、最近客入りが増えているのは綺麗に改装したC店だとか、或いは新規参入の薬局D店の食料品の価格が安いとか、E店は狭いけど野菜や果物が新鮮だとか、F店はセルフレジが使いにくいなどなど、、
それはもう消費者の立場で、勝手気ままに各店を客観視しながら、買い物の度に注目しています。(^-^;

経営者やスタッフの努力は大変なものであろうと思います。
特に昨年からのコロナ禍で、エッセンシャル・ワーカーと呼ばれるスタッフさんたちに、いつも「ありがとう!」と感謝の気持ちをこの場で伝えたいですね。\(^o^)/

今回の本は、山本甲士(やまもと こうし)氏の小説『ひなたストア』(小学館文庫、2020年)です。
廃業寸前の地域密着型のスーパーが、転職したサラリーマンの男性主人公らの活躍によって蘇っていく過程を愉しめる再生物語です。
再生するのはスーパーだけではありません。
転職した主人公の男性のお仕事小説でもあり、また周囲の人々との人情物語でもあり、それぞれの立場で再生します。

この作品は、2018年にハルキ文庫から『がんこスーパー』として出版されたものを改題、加筆改稿して、新たに『ひなたストア』として小学館文庫から2020年2月に刊行されたものです。
『ひなたストア』では、巻末に作者の「あとがき」が加わっています。

まず、この本の入手についてです。
凛は街の書店で見かけたものの購入はせずにメモだけとっていたのですが、後日になってからやはり読みたくなり、大手ネット書店から購入しました。
街の書店さん、今回はごめんなさい。
凛はもちろん書店巡りは大好きですし、ネットからの購入もしますよ~

次に、本の装丁などについてです。
凛が購入した文庫初版本の帯の表表紙側には、「廃業必至!店をV字回復させるには?」と赤い文字で目立つように掲載されています。
その文言の前には小さな赤い文字で「転職早々難題が!」と。
「ここでダメなら、おれもクビ!」とも小さな黒い文字で……。
「わあ、主人公は大変な状況だあ!」ということが一目瞭然です。

裏表紙には、「早期退職勧奨に応じた主人公の青葉一成。」の転職先について概略が説明されています。
ここで、主人公は自ら望んで転職したわけではなく、最初は仕方なく会社の方針に「応じ」なければならなかったことがわかります。

裏表紙側の帯とも合わせて読むと、青葉一成の転職した先の会社の事情で、閑古鳥が鳴いている廃業ぎりぎり間近かとみられる一店舗だけで営業しているスーパーで、見学に来た奥さんや中学生の娘とも絶句状態!
家族もいて、家の住宅ローンもあり、娘の進学も控えているし、中高年になっての転職は大変というのに、将来への希望も一気に瓦解してしまいました。
さて、お先真っ暗な状態から、主人公はどうやって前に進むのでしょうか、というお話です。

表紙のカバーイラストは、おとないちあき氏で、カバーデザインは、高柳雅人(たかやなぎ まさと)氏です。
表紙には、恐らく主人公と思われるエプロン姿の男性の背中が中心に配置されています。
この男性はお客さんとみられる方とお話しているようですねえ。
ここは野菜売り場で、人参やキャベツ、ピーマン、トマト、ネギなどがカゴにたくさん盛られていて、どれも新鮮で美味しそうです。
とても閑古鳥が鳴いているようなスーパーには見えません。

それでは、内容についてです。
主人公の青葉一成(あおば かずなり)は、福岡市に本社を置くサプリメント会社の営業課長職ですが、冒頭から人事部長から退職勧告を言いわたされる場面から始まります。
雇用されている者にとっては「ついに来たか!」と肩たたきを受ける恐怖の場面でしょう。
会社の都合により、業績の悪化を原因にされて、人員整理へと会社は容赦なく社員を切ります。
退職金の上乗せという条件も与えられますが、これから先を考えると、なかなか難しいところでしょう。
主人公の置かれた厳しさに身につまされる読者もいらっしゃるかもしれません。

青葉一成は退職勧告を受けます。
退職の日の情景は「あばよ、会社」といった感じでしょうか。
実に潔い場面です。
彼は過去を振り返ることもなく、前に進みます。

彼の再就職先については旧友のおかげで決まっていたこともあり、新しい環境でうまくスタートができるというところで、予想が見事に外れてしまいました。
呆然とする主人公と家族。
ここからが本当の再生の物語が始まるのです。

転職先の都合で、開発課長として在籍のまま、青葉一成が配属されたのは佐賀県の某地方の廃業寸前のスーパーの「ひなたストア」で、副店長という肩書でした。
このスーパーは一店舗だけの営業で、周囲には全国展開の大手スーパーと、地方で複数店舗も展開している勢いのあるスーパーに囲まれて、ライバルにも匹敵しないという立ち位置の廃れようです。
店舗には空気というのは消費者も感じますよねえ。
つぶれる寸前のお店というのは、活気がなくて品薄で、スタッフも暗くて笑顔がなく入りづらいし、人を寄せ付けない空気感がどよ~んと漂っています。

彼はご家族とも離れ、単身赴任で、重い気持ちで会社の寮である平屋の一軒家に住みます。
そこからが人のご縁が始まります。
あれよ、あれよと、後半は一気読みでした!! (^o^)

最初の改革はスタッフの笑顔から始まります。
「がんこ野菜」(128頁)という無農薬野菜、これが後半の重要なキーワードになります。

そして、人が人を呼ぶのです。
経営者、スタッフ、お客様、野菜農家、ラーメン店、習い事のメンバーなどなど。
メディアやインターネットも活用しますが、評判の持続性には努力が必要です。

「ええーっ!こんなにうまくいくかなあ」
「現実の事業経営は甘いものではありません」
「一店舗だからできるのでしょう」
「大手スーパーにも悩みはあるのだ」
「中高年の転職は厳しいものだよ」
などと批判の視点をもたれる読者も多くいらっしゃるでしょう。
しかし、この小説の中で何かひとつでもポジティブになれるヒントが見いだされるかもしれませんよ。

合わせて、主人公の青葉一成の成長物語でもあります。
主人公の日々を懸命に生きる姿に共感し、応援したくなる小説です。
凛は、この小説は働く者たちへの応援歌でもあると考えます。(^^)v

最後には、転職先の会社から青葉一成に「ある話」がきますが、彼はどう判断し、どのような決断を下すのでしょうか。

また巻末の作者である山本甲士氏による「あとがき」が、まるでエッセイのようで、この作品について実に分かりやすく解説されています。
作者のお住まいの周辺の複数のスーパーに対して、一消費者としての厳しい視点とあたたかなまなざしがみられます。
それらが作品につながっていくことが丁寧に綴られています。

作者の山本甲士氏は、1996年、小説『ノーペイン、ノーゲイン』(角川書店、1996年)で、第16回横溝正史ミステリ大賞優秀作を受賞☆彡してデビューされています。
山本ひろしの筆名で、2004年、小説『君だけの物語』(小学館、2006年)で、第13回小川未明文学賞優秀賞を受賞☆彡されています。
他にも受賞され、多くの作品を刊行されています。

短編集『わらの人』(文藝春秋、2006年、のち文春文庫、2009年、のち改題して『かみがかり』(小学館文庫、2014年)は、2008年に『髪がかり』のタイトルで、河崎実氏監督、夏木マリさんの主演で映画化されています。
他にも映画ノベライズなどご活躍されています。

また、会社からリストラされた中高年の男性が大変に努力するお仕事小説の『ひなた弁当』(中央公論新社、2009年、のち中公文庫、2011年、のち小学館文庫、2017年)もおすすめです。

人と人とのつながりを大切にすることで、たとえどんなに些細なことでも問題解決につながっていく過程が実によく描かれています。
人が財産ですね。

「ひなたストア」はどんどん応援したくなる地域密着型スーパーですねえ。
コロナ禍で「ひなたストア」はどんな策略を練り、展開しているでしょうか。
是非とも続編が読みたくなる物語です。(^o^)

今夜も凛からあなたにおすすめの一冊でした。(^-^)

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(小学館文庫)文庫-2020/2/6山本甲士(著)
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