2023年8月30日水曜日

文房具のことが大好きになれる老舗の専門店です! ~上田健次『銀座「四宝堂」文房具店』(小学館文庫、2022年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
お休み前のひとときに、どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

日本ではまだ残暑厳しいですが、夕暮れの時間が早くなってきました。
今年の夏は全国的に灼熱列島のようでしたね。
夏バテが出やすい時期です。
あなたはいかがお過ごしですか。

子供たちの夏休みも終わって、既に二学期が始まっている小中学校がほとんどでしょう。
新学期を迎えるにあたって文房具店で学用品を購入する親子連れも多かったかと思います。

あなたは文房具並びに文房具の専門店がお好きですか。
凛は好きですねえ。 (^-^)

学習向けの文房具、シンプルな事務用品、大人向けの高級筆記具、大人の人生を満喫できそうな本革製品。
プレゼント用の可愛いキャラクター商品も多々あります。
文房具店には日常的に用いるグッズや雑貨類、珍しい商品まで多方面にわたって展示されていますね~

書籍と文房具コーナーが併設されている書店も多いので、本が好きな方は文房具も好きという方も多いでしょう。
凛にとっては書籍と同様に、文具を扱っている店内を見てまわる時間は格別です。
特に、文房具の専門店では取り扱っている専門メーカーの品揃えが豊富です。

季節を感じる便箋やカードを見つけたり、新しいデザインののし袋などを見ると、凛は大切な人のことを思います。
デジタル全盛の時代ですが、目的によって工夫されているノートや新しい筆記具を見ると、手書きもいいなと思いますね。
本にかぶせるブックカバーなどを見るとワクワクします。
凛はこのような時間を何よりも愛おしく思います。 (^O^)

さて、今回ご紹介いたします小説は、文房具専門店を訪れるお客様お一人お一人の事情や用途に応じて、専門メーカーの文房具を店主が丁寧に説明しながら紹介してくれるという物語です。
上田健次(うえだ けんじ)氏の長編小説『銀座「四宝堂」文房具店』(小学館文庫、2022年)です。
この作品は小学館文庫の書下ろしです。

はじめに、凛がこの本を知ったのは、前回(ココ)ご紹介いたしました岩井圭也(いわい けいや)氏のサイン本を購入した時に、同時に書店で見つけました。
凛が上田健次氏の小説を読むのは初めてです。

広い店内の大型書店には数えきれないほどの書籍が展示されていますが、その中で、今すぐ買って読みたいな~と思う本にどれだけ出合えるかは未知数です。
書店で一冊の本を手に取ることの確率はいかばかりか。
一瞬の邂逅が次の読書につながることも多いですね。

次に、帯や表紙についてです。
凛が購入した文庫本は、2023年5月30日付の第六刷です。
文庫本書下ろしで、初版が前年2022年10月11日ですので、わずか7か月で第六刷になるとは相当人気が高い作品であることがわかりますよね~

気になる帯です。
凛の持っている文庫本の第六刷の帯の表表紙側には、「いつまでも涙がとまらない」と書いてあります。
同じ面には「文房具に秘められた大切な人との思い出に」とも書き添えてあります。

帯の裏表紙側には、「早くも反響の声ぞくぞく!」ということで、三人の読者の方々の声が紹介されています。
長くなりますので、ここでは太字の部分だけご紹介しますね。
「文房具が好きな人にぜひ読んで欲しい」
「文房具ならではの良さ」
「誰かが大切に使うことで、かけがえのない宝物」(以上、同書)

文庫本の表表紙ですが、歴史がありそうな建物に「四宝堂」と書かれた文房具店があり、そのお店の前の道に一人のセーラー服を着た女子学生が立っています。
女子学生の右手にはメモを持っています。
彼女はこれから店内に入ろうとしているように見えます。
歴史がありそうな建物というのは、お店の入り口に四段の階段があり、建物全体にどっしりとした風格がある感じがするからです。

カバーデザインは、寺田鷹樹(てらだ たかき)氏です。
カバーイラストは、KOPAKU(こぱく)氏です。

裏表紙の説明文から、東京の銀座の路地から入ったところに佇んでいる四宝堂(しほうどう)という文房具店は天保五年の創業で、建物の地下には古い活版印刷機もあるという老舗の文房具店であることがわかります。
さぞかし頑固な店主がいるのかと思いきや、さにあらず。
四宝堂の店主は、宝田硯(たからだ けん)という若い青年で、店を一人で切り盛りしていて、少しミステリアスなところがありそうだということです。

「困りごとを抱えた人々の心が、思い出の文房具と店主の言葉でじんわり解きほぐされていく。」
「心あたたまる物語」(以上、同書)
これだけでも十分に期待できそうですね。

それでは、内容に入って、銀座の四宝堂に入店いたしましょう!\(^o^)/
表紙を見ますと、五つのCONTENTSがあります。
「万年筆」
「システム手帳」
「大学ノート」
「絵葉書」
「メモパッド」

これらはほとんどの文房具の専門店で販売していますよね~
それぞれに専門メーカーが何社もあって、拘りのある商品が店内に綺麗に並べられている光景が想像できます。
一番最初の章の「万年筆」を見てみましょう。

大学を卒業して、某企業に4月1日に就職したばかりの青年が新入社員の研修を終えて銀座を歩いています。
彼は一定期間の研修中に、初任給の使い道について、会社の先輩社員から聞いた言葉があります。
「できたら、お世話になった人に何か贈り物をすると、とっても喜んでもらえるよ。私のお勧め」(同書、6頁)と。

そこで彼は、お世話になった女性に贈り物をしようと考えます。
大切な物を添えて。

彼は地方出身で東京のことはあまり知りません。
「やっぱり東京と言えば銀座だろうか。」(同書、7頁)
ネットでいくらでも検索できる時代にありながら、彼は親切に紹介してくれた方からの手書きの地図を見ながら、漸く四宝堂にたどり着きます。

店内に入ると、お香の香りがして、優しく包んでくれるように彼は感じました。
「いらっしゃいませ」という男性の声がしました。
青年は「こんなにも気持ちの良い『いらっしゃいませ』を初めて聞いた。」(同書、9頁)と感心しました。

お客様を迎える時の「いらっしゃいませ」が非常に大切であることが書かれています。
凛も接客業をしている知人から聞いたことがありますが、「いらっしゃいませ」の声掛けは大変に難しいものだそうです。
あまりにも甲高い声は鬱陶しく感じることもありますし、不愛想な声ではもっと嫌な思いをします。
逆に声掛けがないと、このお店に入るんじゃなかったなあ、と思ってしまいます。 (-_-)

店内で四宝堂の宝田店長から便箋と封筒の説明を受けるのですが、ひとつひとつ丁寧に説明をしていただきます。
宝田店長は言葉遣いだけでなく、商品の説明が実に丁寧です。
紙の種類、和洋各種類、罫線、色、縦書き、横書き……。
さすがに専門店で、便箋とお揃いの封筒が二百種類くらいあるとは驚きです!

話はモンブランの万年筆に及びます。
宝田店長による「モンブランのマイスターシュテュック クラシック」「ル・グラン146」(同書、22頁)という商品説明を読んで、凛はネットで検索してみました。
一社の万年筆でも実に多くの商品があるものだなと感心しました。

専用のインクも「ミステリーブラック」「ミッドナイトブルー」「ロイヤルブルー」(同書、25頁)の他にもたくさんあるんですね!
メーカーの歴史から種類、使い方まで実に勉強になりました。

宝田店長が案内する四宝堂の二階の奥には机と椅子があります。
店長は来店した青年にあることを勧めます……。
こんな文房具店があったらいいなあ。\(^o^)/

青年の子供時代から大人になるまでの挿話が綴られており、読者の心に響いてやみません。
心温まる話が実に自然体で描かれています。
文章が全く技巧的ではないのです。
この後はあなたが読まれてからのお楽しみにとっておきましょう。 (^O^)

この後の物語もそれぞれに違った楽しみ方ができます。
銀座の老舗文房具店ではありますが、決して高級品の話題ばかりとは限りません。

例えば、三番目の「大学ノート」の章では、表紙の絵と思われる女子学生が登場します。
彼女は、部活で用いている大学ノートについて悩みを抱えて四宝堂を訪れました。
そして彼女は店内の大学ノートの種類の多さに驚きました。

「コクヨのキャンパスシリーズ」で「B5サイズのB罫はもちろん、罫線だけでもA、B、C、U、ULと五種類もある。その他にも方眼や縦罫、無地、それにドット入りなど。」(同書、158頁)
「こんなに種類があるんだ……」(同書、158頁)
この章の女子学生だけでなく、凛も読後に文房具の専門店に足を運びましたよ~

ところで、四宝堂の店主こと宝田硯の個人的な事柄については、ミステリアスに抑えています。
店長の時は言葉遣いが非常に丁寧で、嫌みも全くありません。

宝田店長と幼馴染の銀座の喫茶店『ほゝづゑ』の良子(りょうこ)さんとは大の仲良しで、ごく一般的な話し方をしています。
読者はこの二人の行方が気になることでしょう。 (^O^)

著者の上田健次氏は、2019年に第1回日本おいしい小説大賞に小説「テッパン」を投稿されています。
「テッパン」は2021年3月に小学館文庫から出版されました。

上田氏は、専業作家ではなく、某大手の衛生用品の会社の執行役員をされています。
現役バリバリのビジネスマンなのです! (^^)v
銀座四宝堂を訪れる登場人物たちの個人的な物語が秀逸なのは、上田氏個人のお人柄とお仕事の影響も大きいのでは、と凛は考えました。

最後に。
東京・銀座の老舗文房具店「四宝堂」を訪れるお客様の人生模様に丁寧に対応する宝田硯店長との触れ合いに心癒される物語です。
文房具に対する愛情が全編にわたって溢れています。
人生の様々な時点における文房具との関わりが如何に大切かが読者にジーンと伝わります。

また、文房具のメーカーについても詳細な情報や背景がよく吟味されています。
このような文房具の専門店があったらいいなあと思いますね~

読後には、文房具と文房具の専門店を愛してやまない方はもちろんのこと、これからご興味を持たれる方が増えること間違いありません!(^O^)

良いお知らせがあります!
何とこの小説の続編が出版されることがわかりました。\(^o^)/
『銀座「四宝堂」文房具店(2)』が小学館文庫から、2023年9月6日に出版予定です。
続編ではどのような文房具が紹介されているのか楽しみです!
そして宝田店長と良子さんとの今後がどうなっていくのかが気になります。

今夜もあなたにおすすめの一冊でした。(^-^)

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2023年7月27日木曜日

数学が苦手な方も一気に読めます! ~岩井圭也『永遠についての証明』(KADOKAWA、2018年、のち角川文庫、2022年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りんです。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
お休み前のひとときに、どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

日本は夏真っ盛り!\(^o^)/
いよいよ夏休みが始まりましたね~
ほとんどの地域が梅雨も明け、猛暑の日々が続いています。
暑さだけでなく、突然の大雨もありますね。
大雨で水害に遭われた地域の皆様、心よりお見舞い申し上げます。m(__)m

それにしても今年もものすごく暑いですねえ。(-_-;)
蒸し暑さもありますし、日光に当たるのが憚れらるほどの高い気温で、外を歩くのも大変です。
凛はエアコン無しでは過ごせません。
身体が冷えないように注意しながら、水分を上手にとっていかないといけませんねえ。
暑いときこそ室内でゆっくりと読書したい凛で~す。
あなたはいかがお過ごしですか。

ところで、あなたは数学はお得意ですか。
凛は文系なので、どちらかというと、うーん、どうでしょう……。
中学生の頃までは数学は得意だなと自負しておりましたが、、(^^;
気が付けば文学が最も好きになっていますね。

社会へ出ると、人は苦手な分野にまで時間を割いてはいられないものでしょう。
お仕事以外の貴重な時間をどう割り振りするかはあなた次第。
好きなことで自分の時間を有意義に過ごしたいと思う凛ですが、あなたは時間の使い方についてどのようにお考えですか。

自分の好きな分野で夢中になれること、時間を忘れて熱中できること。
あら、もうこんな時間だ!いけない!
ふと時計を見て、好きなことに集中して過ごした時間に充足感を感じながら、残りの時間に焦りつつも日常に戻っていくひとときの心地よさは格別です。

切ないほどに数学の世界に熱中してやまない若者たちの青春を描いた物語があります。
岩井圭也(いわい けいや)氏の長編小説『永遠についての証明』(KADOKAWA、2018年、のち角川文庫、2022年)です。

数学が苦手な方でも大丈夫で~す!(^^)v
この作品は数学の専門的分野の話ではありますが、数学が苦手な方にも全く問題ありません。
本当に読めるのかなあ、と読む前に不安を抱いていた凛でしたが、一旦読みだすと無我夢中で物語の世界に浸ることができて、一気に読んでしまいました!(^O^)

はじめに、凛がこの本を知ったのは、自宅から少しだけ離れた全国規模の大型書店で、岩井圭也氏のサイン本フェアが催されていたことによります。
凛はこれまで岩井氏の作品を読んだことがなく、今回のサイン本フェアにて多くの作品が出版されていることを知りました。
綺麗に展示されている本を一冊ずつ手にして帯などの説明を見ると、どれも読みたくなりましたねえ。
この作品のタイトルにひかれたことと、文庫本の帯の説明に興味をもったので、レジに直行しました。

次に、帯や表紙について述べます。
凛が購入した文庫本は、2022年11月30日の再販発行のものです。
文庫本の初版が、同年の1月25日ですから、評判が良かったのがわかりますね~

気になる帯ですが、凛が購入した再販の文庫本は、表紙が二枚に重なっています。
これは大変珍しいですねえ。
本来の表紙の上に、もう一枚別のデザインの表紙が重なっており、上になる表紙には帯が印刷されています。
ですから、上になっている表紙は全体が帯と捉えてもよろしいかと思います。

このような帯を兼ねているような表紙は以前にはほとんど見かけませんでした。
細長い帯がひらひらとせずに邪魔になりません。
それに、棚から出し入れする時に帯のしわや破れなど気にせずに済みますね。

上になっている表表紙の帯の部分には「とてつもなく面白かった!! 営業担当全レビュー!!!!」として、三つの項目に星が付いています。
「心揺さぶられ度」には星が5個。☆☆☆☆☆(同書)
「文章の美しさ」には星が6個。☆☆☆☆☆☆(同書)

そして、三つ目の項目!
多くの読者にとって最も気になるであろう「数学知識必要度」の星は1個です!!(同書)\(^o^)/
数学の専門的な知識がなくても読めるんだな、と安心の材料になりました。
この星1個が、凛にとって購入の決め手となったのは言うまでもありません。

文庫本の本来の表表紙は、薄い灰色をベースにして、数学の式が薄い白色の文字で描かれている中に、一人の青年がぽつんと立っています。
まるで彼を中心にして数式が渦巻いているかのようです。
良く見ると、冬の雪が積もっている林の間の道路の真ん中にマフラーを首に巻いた彼が立っており、その地点まで歩いてきた足跡が雪道に残っています。
彼はこれまで歩いてきた道を振り返っているように見えます。

カバー写真は、深町レミ(ふかまち れみ)氏です。
カバーデザインは、坂詰佳苗(さかづめ かなえ?)氏です。

本来の表紙の上に重なっているもう一枚の表紙の上半部分には、濃紺の夜空にたくさんの白い星々がキラキラと輝いています。
この表紙の下半分が先に説明した本来の帯の部分になります。

文庫本の裏表紙の説明文は、重なっている二枚とも同じです。
「圧倒的な『数覚』に恵まれた三ツ矢瞭司(みつや りょうじ)」(同書)は、大学の数学科に特別推薦生として入学します。
彼と同じ特別枠で入学した熊沢(くまざわ)と佐那(さな)の三人は共同研究をし、「画期的な成果を上げ」(同書)ます。

瞭司の数学に対する才能は、それまで築いた三人の関係に破壊を招きます。
熊沢は、瞭司が生前に遺したノートから「未解決問題の証明らしき記述」(同書)を発見して、物語は新たな展開を見せていきます。

それから、この作品は、第9回野生時代フロンティア文学賞を受賞☆彡されています。
冲方丁(うぶかた とう)氏、辻村深月(つじむら みづき)氏、森見登美彦(もりみ とみひこ)氏らの選考委員の大絶賛を受けていることが説明文に書かれています。

というわけで、これはすぐに読みたい!と凛が思った次第です。(^O^)

文庫版の解説は、作家の森見登美彦氏です。
「真理とのつながりと、他人とのつながり」(同書、279頁)から、瞭司が直面したとされる「二重の危機」(同書、同頁)についてご説明されています。
森見氏の解説文を是非お読みいただきたいですね。

では、内容に入ります。
目次を見ると、13の章に分かれています。

第1章目のタイトルが「コラッツ予想」、いきなり来ましたぞ!( ;∀;)
数学が得意な方にはなじみがあるでしょうが、凛には数学の専門分野の洗礼を受ける感じが否めませんでした。
しかし大丈夫、どうぞご安心ください!
どんどん読み進んでいけますからね。(^-^)

物語は、熊沢勇一(くまざわ ゆういち)がかつて学んだ大学の恩師であり、現在は「国数研(こくすうけん)」(同書、5頁)に所属している小沼(こぬま)の元を訪ねるところから始まります。
二人は数年ぶりの再会のようです。

熊沢は青春を共に過ごした同じ大学の友人で、今は亡き三ツ矢瞭司が遺した研究ノートを小沼に見せます。
6年前に亡くなった三ツ矢のノートには、びっしりと数式が書き込まれています。

熊沢によると、「ブルビス理論によってコラッツ予想を証明できれば、数学の風景は一変するはずだ。」(同書、13頁)という私見をもっています。
熊沢はこの仮定をもとにして証明をするために、小沼に協力を要請します。

熊沢や三ツ矢と同じく学生当時の仲間であった斎藤佐那(さいとう さな)との関係も匂わせていますが、ここではまだ詳細は明らかにしていません。

「春はまだ始まったばかりだ。」(同書、14頁)で終わる第1章目。
次の章から、物語は時系列ではなく、過去と現在を行きつ戻りつ、様々な展開を読者に提供してゆきます。

第2章目では、三ツ矢、熊沢、佐那の三人が協和大学の入学式の当日に初めて出会います。
この章のタイトルの「特別推薦生」が示すように、三人は理学部の特別推薦生枠で入学しました。
熊沢と佐那の二人は、高校生の時の数学オリンピックの成績によって、協和大学の「トクスイ」(同書、17頁)に選ばれています。
三ツ矢は彼ら二人とは別口で入学をしています。

大学の先輩である田中(たなか)と木下(きのした)との出会いもこの第2章目です。
二人の先輩は一般的な学生として描かれていますが、大変フレンドリーで後輩の面倒見がよく、後輩の三人にとっては頼れる存在です。
ホッとできる二人の先輩たちがいてこそ、優秀な後輩三人が活きてきます。

とはいえ、二人の先輩も真面目に勉強しているのですよ!
先輩たちの研究テーマは「岩澤理論の一般化」(同書、39頁)で、田中先輩は「保型(ほけい)方式」(同上)、木下先輩は「楕円(だえん)曲線」(同上)を専門にしています。

二人の先輩と新入生の三人は飲み会をします。
その時でさえ三ツ矢は「ムーンシャインの一般化」(同書、31頁)について考えているような数学まっしぐらの純朴な青年です。

三ツ矢は過去からも、この後も数学の研究ひと筋で青春を過ごしてゆきます。
その数学との向き合い方が半端ではありません。
天才というのは彼のことをいうのでしょうか。
周囲との軋轢や批判など一切気にせず、ただひたすらまっすぐ答えを求めて突き進んでゆく生き方を貫きます。

とても輝いていた大学生時代!
その数年が光の世界であるならば、後半は闇へと向かうことに、第2章目で誰が予想できるでしょうか。
やがて三人はそれぞれ別々の道へと分かれることになってゆきます……。

三ツ矢はどのようにして亡くなって、彼のノートを遺したのでしょうか。
熊沢と佐那は何を思って彼の死を受け止め、遺された彼のノートとどのように向き合ったのでしょうか。
そして、彼の遺したノートから熊沢たちは真実の解明ができたのでしょうか。

あとはあなたが読まれてからのお楽しみに。(^.^)

作者の岩井圭也氏は、2017年に岩井圭吾(いわい けいご)の名義で投稿した小説うつくしい屑」第8回野生時代フロンティア文学賞奨励賞を受賞☆彡されています。

今回ご紹介しました『永遠についての証明』はその翌年に応募し、第9回野生時代フロンティア文学賞を受賞☆彡、出版の際に岩井圭也に改名されています。
他にも多くの作品で賞の候補作となっています。
大変ご活躍されており、今後目が離せない作家のお一人です。(^O^)

最後に。
数学が好きで好きでたまらない三ツ矢瞭司は、協和大学の同期生である熊沢勇一と斎藤佐那の三人で研究成果を生み出します。
青春を謳歌している三人の大学生たちは、やがてそれぞれの道に進むことになります。
時間を止めることは誰にもできず、卒業が訪れます。

研究の道を進み続けることは大変難しいことです。
数学の問題の真実の追究と解明は研究者にとって大変な労力が求められます。
現実との折り合いをつけなければならない問題が目の前に突き付けられたとき、一人の天才はどう対処したのでしょうか。
瞭司が遺したノートには、何が描かれ、何が追究されていたのでしょうか。

この作品は、数学が大好きで青春を謳歌する学生たちと、厳しい現実社会における教授たちのそれぞれの葛藤、嫉妬、軋轢、裏切り、焦燥、協力、共生など、その時々の情景から見える各人各様の様相が見事に描かれています。

また作中で、日本の研究とアメリカの研究における捉え方の違いについて、或る教授が容赦ない形をもって示しています。
このことは、現代日本における研究職を目指す学生さんたちへの警鐘とも捉えることができる、と凛は考えます。

とはいえ、作品の最後には未来への希望が見えて感動しました。
それ故に彼らの生き方が大変切なく、胸がいっぱいになりました。

人生をかけて研究の道を究めることは、実に大変なことなのですね!
作品のタイトル『永遠についての証明』が秀逸であることに凛は感服いたします。

凛は読後すぐに、岩井圭也氏のサイン本フェアに向かいました。
新たに二冊、岩井氏の別の文庫本のサイン本を購入してきました。\(^o^)/
サイン本フェアは大変好評だったようで、展示されていたサイン本がだいぶ減っていましたよ~

今夜もあなたにおすすめの一冊でした。(^-^)

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2023年6月26日月曜日

「たら」「れば」が実現したら、、 ~内館牧子『今度生まれたら』(講談社、2020年、のち講談社文庫、2023年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

日本は梅雨明けが始まり、本格的な夏を迎えようとしています。
それにしても蒸し暑い日々です。
毎年のことではありますが、今年もまた暑くなるのでしょうね……。 (^▽^;)
電気代を気にしつつも、エアコン無しではなかなか過ごすことができない凛です。

日本ではコロナが5類に移行してからは、人々の往来が盛んになっています。
各地で行われる夏のお祭りにも期待が高まっています。
凛が暮らしている街でも外国人の観光客を多く見かけますよ。

外食産業も復活して、街に賑わいを見せています。
街に活気が戻ったのは良いですね!\(^o^)/
これまで屋内で過ごしていた人たちの暮らし方も変わってきたようですね。
あなたはいかがお過ごしですか。

さて、コロナ禍の約3年間を経た現在、新しい生き方を考える方も多くいらっしゃることでしょう。
「自分はこのような生き方で良いのか」「今後どのように生きていくべきか」などと自己の意識を内的に思考しているのは、決して若者だけの領域ではないでしょう。
「もし、別の人生があるとしたら」
今を生きている現実社会とは全く異なる次元で自分の生をおくることができたら……。

いつだったか、誰から聞いたのかは定かではありませんが、人生は自動販売機と同じで、自ら選択していくものである、と凛の中に記憶されています。
炭酸が効いた清涼飲料水にするのか、苦みのあるブラックコーヒーを選ぶのか、マイルドな甘さのカフェラテにするのかはあなた次第ということですよね。(^O^)

70代に入り、人生の大半を生きてきて、残り少なくなった今後の人生をどのように生きていくのか、と立ち止まって考える時のことを描いた作品があります。

内館牧子氏(うちだて まきこ)氏の長編小説『今度生まれたら』(講談社、2020年、のち講談社文庫、2023年)です。
主人公の70歳の専業主婦、佐川夏江(さがわ なつえ)さんが、小説のタイトル通りに「今度生まれたら」今の夫ともう一度結婚生活をおくるかどうか、他の人生があったのではないか、と何かある度に深く考えてゆきます。

はじめに、凛がこの本を知ったのは、内館牧子氏長編小説『すぐ死ぬんだから』(講談社、2018年、のち講談社文庫、2021年)を読んだからなのです。
その作品の主人公の78歳の女性の生きざまが非常にアクティブで痛快だったものですから、「終活小説」としてまた楽しみたいなと思っていたところ、街の書店で『今度生まれたら』が新刊の文庫本の棚に並んでいたので購入しました。

次に、本の帯や表紙についてです。
凛が持っているのは、文庫本の2023年4月14日発刊の初版本です。

文庫本の帯は、赤ワインに近い赤色で、表表紙側には、「70代では人生やり直せない?」と大きな文字でくっきりと目立つように描かれています。
帯の右上に「人間に年齢は関係ない、なんてウソ。人生100年はキレイごと。」と。(同書)

「え?そうなの?」と凛は即座に疑問に思いました。(^^;
確かに、近年は100歳過ぎまで日本人の寿命は延びており、メディアでも元気な100歳の方々がたくさんご紹介されています。
しかし、健康で経済的にも安定していればこその100年なのですよね。
まずは、元気溌剌で過ごすことが大前提であると凛は考えます。

文庫本の表紙は、眼鏡をかけた70歳くらいの女性が薔薇の花一輪を持って立っています。
女性の背後には、夫らしき男性がベストを着て両腕を組んで立っており、女性のほうを気にしています。
女性が背後の男性の様子をうかがっていることがわかります。
二人の表情には笑みはなく、少し訝し気な感じが互いの目に表れています。
二人は一体何を思っているのでしょうか。

文庫本のカバー装画は、中島陽子(なかじま ようこ)氏です。
カバーデザインは、大岡喜直(おおおか よしなお?、next door design)氏です。

裏表紙の説明文から、「今度生まれたら、この人とは結婚しない」(同書)ときっぱりと断定している主人公の佐川夏江さんは、70歳はやり直しのきかない年齢であると痛感していることがわかります。
「進学は、仕事は、結婚は。」(同書)
夏江さんは「やりたいことを始めようとあがく。」(同書)のです。

文庫版には、著者の内館牧子氏のあとがきと、作家で歴史家である井沢元彦(いざわ もとひこ)氏の解説が掲載されています。
どちらもなるほどと納得します。
是非読まれてください。

では、内容に入ります。
主人公の佐川夏江さんは、現役時代に大手家電メーカーに勤務していたご主人の和幸(かずゆき)さんの妻です。
二人は社内結婚で、ご主人は将来の出世を期待されていたエリートサラリーマンでした。
彼女は結婚と同時に寿退社をし、48年間専業主婦ひとすじで生きてきました。
都内の戸建ての持ち家で、息子二人を育て上げ、現在はご主人と二人暮らしです。
所謂団塊世代の「幸せ組」「勝ち組」として描かれています。

一方、夏江さんより1歳年上の姉の島田信子(しまだ のぶこ)さんとご主人の芳彦(よしひこ)さんとは商業高校の同級生同士で結婚し、賃貸マンション暮らしで、身近にいながら常に夏江さんと対比する存在です。
信子さんは現在も仕事をしています。
二人の姉妹は生き方も考え方も異なりますが、大変仲が良くて、結構何でも言い合える関係を保っています。

夏江さんは70歳になった時、69歳とは印象が違うことに気づきました。
彼女は「(70)という数字は老人の表情をしている」と憂い、「7という数字の重み」を感じます。(同書、12頁)

そんな折、夏江さんは弁護士の高梨公子(たかなし きみこ)さんのインタビュー記事を読んで愕然とします。
その原因は、高梨さんはメディアで大活躍中の弁護士ですが、高梨さんの出身高校が偏差値が低い高校であることによります。

夏江さんは名門と呼ばれていた難関校の進学高校を卒業しています。
夏江さんは深く考え込んでしまいます。
どうして当時偏差値が相当低い高校を卒業した人が現在は知名度の高い弁護士をしていて、「超」とつく難関校の卒業生である私は何の肩書もないただの専業主婦なのだろう……、と。

そこから夏江さんの結婚に至るまでの策略とも呼べる若かりし頃の思考と行動が細密に描かれてゆきます。
「ええ?そこまでするの?」と実に驚かされることばかりですよ。
当時持てる全ての情熱を注いで得た「結婚」という人生のカテゴリーの中で人生をいとなんできた結果が、現在の夏江さんを「葛藤」という迷路に迷い込ませるのです。

誰もが羨むほどの絵に描いたエリートサラリーマンのご主人との結婚生活も「とある時点で」事件が起きます。
そこからは想定外という人生が……。(@_@)

あとはあなたが読まれてからのお楽しみに。

この作品を読んで、凛が気づいたことが二点あります。

一点目は、夏江さんたちは団塊の世代であることです。(^O^)
第二次世界大戦の終戦直後に生まれた団塊の世代は人数が圧倒的に多いです。
常に他人と比較し、子供の頃から大人数の中で競争を強いられ、高度経済成長の中で生き方の処世術を身につけている方が多いように思います。

夏江さんも他人と比較して考えます。
彼女の思考のひとつひとつが実に詳細に描かれており、明らかに本音と建て前が異なることが特徴です。
「人は人」「私は私」ではどうも具合が悪いようです。

二点目は、夏江さんはじめ登場人物が十分に健康であることです。(^^)v
身体は正直と言いますが、確かに若い頃の健康状態とは異なるものの、夏江さんたちは自分の足で歩き、行動できています。
70代は十分に若いのです!(^O^)

既に人生100年と言われる時代に入っている日本です。
しかし、今後寝たきりになるのか、ずっと元気なままでいられるのか、その分岐点がいつ訪れるのか、それがわかれば誰も苦労しないでしょうね。

作者の内館牧子氏は、大変な著名人で、ご存じでない方のほうが少ないのではないでしょうか。
特に、大相撲の元横綱審議委員会の委員をなさっておられたので、よくテレビのインタビューなど出ておられました。
NHKの朝の連続テレビ小説『ひらり』(1992年~1993年)他テレビ脚本家としてご活躍されていらっしゃいます。

著書も多数出版されていますが、エッセイが大半で、小説は意外に少ないものの大変面白いですよ。
2019年には、旭日双光章☆彡☆彡☆彡を受賞されていらっしゃいます。\(^o^)/
内館氏の今後ますますのご活躍を期待しております!

最後に。
専業主婦として生きてきた佐川夏江さんは70代に入り、ふと現在の自分を見つめることになりました。
「今度生まれたら」今とは全く別の人生をおくり、今よりもずっと幸せに暮らしていたかもしれないのではないか、と。
これからの人生を趣味で生きるのか。
それとも誰かのためにボランティアをするのか。
やり直しがきくのかどうか。
「たら」「れば」を多く用いて、夏江さんは逡巡します。

幸せの条件とは人それぞれでしょう。
隣の芝生は青いものです。
他人が良く見えます。
人生100年時代に突入した日本ですが、まだその基盤は確立されておらず、揺らいでいるのが現状です。

人生は山あり谷ありです。
誰もが絵に描いたような幸せを求め、日々を暮らしています。
幸せの基準とは一体何なのでしょうか。
足元に幸せがあることに気づくのはその時ではなく、後になってからでしょうか。

とは言うものの、凛が70歳になった時には、夏江さんと同じように「たら」「れば」と考えるのではないか、と想像いたします。
やはりその年齢に達しないとわからないことがあるのかもしれませんね。(^-^)
あなたはいかがお考えでしょうか。

この作品はあらゆる世代の方々に読んでいただきたいですね。
何故なら、夏江さんだけでなく、二人の息子さんや姉の信子さんたちに様々な試練を与えて壁として立ちはだかりますが、彼らがどのように解決していくかという過程が描かれているからです。
決して読者を飽きさせることなく、あっという間にラストを迎えます!(^^)v

合わせて、内館牧子氏長編小説『すぐ死ぬんだから』(講談社、2018年、のち講談社文庫、2021年)のほうもおすすめです。
元気になれますよ~ (^O^)

今夜もあなたにおすすめの二冊でした。(^-^)

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2023年5月25日木曜日

いっぱい胸キュンしたいあなたへ ~山本文緒『自転しながら公転する』(新潮社、2020年、のち新潮文庫、2022年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

日本では爽やかな初夏からだんだんと夏が近づいてきています。
地域のお祭りやイベントなどが久しぶりに再開され、賑わいをみせています。
街には楽しみが待っていますねえ。\(^o^)/

ところで、5月の大型連休の後、7月17日の海の日までは祝日がありません……。(^^;
しばらくの間、大半の方々にはお仕事や学校生活など通常通りの日々が続きます。
凛には日々のルーティンが変わらないほうが読書の計画が立てやすくて良いかなあ、とポジティブに捉えています。
あなたはいかがですか。

小説には様々なジャンルがありますが、凛は恋愛小説は好きですね~
こんな恋愛をしてみたいなあ、このような出会いがあると毎日がドキドキして素敵だろうなあ、な~んてね。(^_-)-☆

「うーん、何だかねえ、他人の恋愛なんか気にしてどうするの。パートナーがくっついたり、離れたりしてさ、まどろっこしいことに時間かけていちいち付き合ってられないよぉー」
という方もいらっしゃるでしょう。
いえいえ、文学は疑似体験ができて、自分に置き換えたらどうするかなどと考えることができる最高の脳トレなんですよ~ (^^)v

今回ご紹介いたします小説は、山本文緒(やまもと ふみお)氏の長編小説『自転しながら公転する』(新潮社、2020年、のち新潮文庫、2022年)です。
読後に胸キュンしたいあなたへお贈りいたします。

恋愛小説なので、物語が終わるまでハラハラドキドキするのはもちろんのことです。
それだけでなく、「あら、それって私も同じ境遇なのよ!」と、現代の日本において家庭や職場の問題を抱えながら生きている人々に、直球で共感できることが多い小説といえます。
どなたにも楽しんでいただける小説である、と凛は考えます。

はじめに、凛がこの小説を知ることになったきっかけは、複数の文学系ユーチューバーが「この作品がベストです!」と紹介していたことから、近所の書店で購入しました。

凛はタイトルにとても興味をひかれましたね~
宇宙のお話と恋愛が関係あるのかな?と。
山本文緒氏の作品は以前はよく読んでいましたが、しばらくの間は触れていなかったので、凛には久しぶりの出合いとなりました。

山本氏は2021年10月にご病気のため亡くなられました。
あらためて山本文緒氏のご冥福をお祈りいたします。

次に、帯や表紙についてです。
凛が持っている文庫本は、2022年11月発行の初刊です。

文庫本初版の帯の表表紙側には、「恋愛、仕事、家族のこと。全部がんばるなんて、無理!」と目立つように表記されています。
それだけでも読者に共感を呼ぶ感じがします。

さらに帯には「第16回中央公論文芸賞受賞!」「第27回島清恋愛文学賞受賞!」「2021年本屋大賞ノミネート!」の三つのおめでとう☆彡☆彡☆彡が!!!(同上)\(^o^)/
これだけでものすごい情報量ですね!

表表紙は、写真ですね。
ビルの屋上でしょうか。
茶色い花柄のワンピースらしき姿の女性がフェンスに立っています。
彼女は後ろに沿って顔は空側に向けていますが、目は閉じているようです。
その表情には悩みがあるのか、疲れているように見えます。
彼女がたたずんでいる向こう側にはビルや建物が林立しています。
空には白い雲がありますが、青空も見えています。

表表紙のカバー写真は、コハラタケル氏です。
デザインは、新潮社装幀室です。

裏表紙の説明文によりますと、32歳になる都(みやこ)は母親の看病のために実家に戻り、近くのアウトレットモールでアパレルの契約社員として働いています。
職場ではスタッフとの問題を抱えています。
寿司職人の貫一(かんいち)と付き合いますが、結婚が見えません。

「母の具合は一進一退。正社員になるべき?運命の人は他にいる?」(同書)
なるほど、親の介護、契約社員と正社員、彼女自身の年齢もあり、この先、どうするのか、悩み多き主人公と等身大の方も多いかと察しがつきますね。
「ぐるぐると思い悩む都がたどりついた答えとは──。」(同書)
まだ本文を読んでいない凛も都の答えが知りたくなりました! (^▽^;)

では、内容に入ります。
物語はプロローグから始まります。
文庫本でわずか11ページで、結婚式のシーンが描かれています。(同書、5頁~15頁)

プロローグの「私」(同書、5頁以下多数)は、ベトナム人のパートナーと共に暮らしてゆくという、彼女自身の今後の人生に強い意志を表明しています。
ここでの「私」の強い表明が印象深く読者に刺さります。
これは作者の意図するところでありましょう。
凛は本文を読み進むうちに、何度もプロローグを読み返しました。

当然ですが、本文の最後にエピローグ(同書、635頁~654頁)があります。
凛は読了後にすぐにプロローグに戻り、またエピローグを読み返す行為を数回繰り返しました。
そして、そうだったのか!と大いに納得いたすことになりました。(^O^)

プロローグの後の本文ですが、裏表紙の紹介文で書かれている通り、主人公の与野都(よの みやこ)は郊外のアウトレットモールでアパレルのお店で働いています。
一人娘の都は実家を出て東京のアパレル会社で働いていましたが、母親が重い更年期障害を患ったために、父親からの要請があり、仕事を辞めて実家に戻ってきました。

ある日、同じモール店内にある回転寿司屋さんで働く羽島貫一(はしま かんいち)と出会いました。
「貫一おみやって言ったら金色夜叉じゃん」(同書、72頁)
「金色夜叉ってなんでしたっけ」(同上)
「熱海の海岸を散歩したり、ダイヤモンドに目がくらんだりするアレだよ」(同上)
この時の二人の会話には性格が非常に表れていると思いました。

一見、明治時代に人気を博した尾崎紅葉(おざき こうよう)作の読売新聞連載小説『金色夜叉』(1897年1月1日~1902年5月11日)を素材として扱っているようでもありますが、『金色夜叉』は未完に終わっていることもあり、都と貫一の二人の今後の行方が大変気になる、という伏線が張られているものと考えられます。

この小説には多くの現代の日本人が直面している問題を描いている社会小説としてとらえることができます。
都の前には様々な事柄が立ちはだかります。

第一に、都の家族です。
都は一人娘で、少子高齢化の問題に直面します。
母親の更年期障害、父親の仕事との葛藤など、都と同じ悩みを抱えていらっしゃる方も多いでしょう。
両親の高齢化による介護などの不安な要素が詰まっています。

第二に、都の仕事です。
都はファッションが好きだからこそアパレル会社に携わっています。
東京で活躍を続けていたかったけれども、実家の事情で叶わなかった思いを払拭しなければならない、という気持ちの切り替えが彼女には求められます。
同じ職場に勤務していても、スタッフ各人の立場や立ち位置が異なるため、会社や仕事に対する心構えが違います。
複雑な人間関係にもまれて綻び、彼女には疲れが生じてきます。

第三に、結婚についてです。
都は32歳になるので、自身の今後の人生設計を考えることが求められます。
結婚するのか、否か。
逡巡している彼女には、結論を出さねばならないという時間が迫ってきます。
両親や世間が求める都にふさわしい夫とはどのような男性なのでしょうか。
職業、年収、出自、家族、学歴、年齢、性格……。
貫一は都のことをどのように捉えているのか、いまいち掴めていません。

都の中でこれらの要素が同時にぐるぐると回転してしまうのです。
このような彼女の状態に共感される読者も多いでしょう。
悩める都は優先順位をどのようにつけたらよいのでしょうか。

ある日、ふっと都の前に現れるベトナム人が! 
さて、都はどうなりますか!! (@_@;)

後半は、話がめまぐるしく展開します。
後はあなたが読まれてからのお楽しみに! (^_-)-☆

作者の山本文緒氏は、1999年、小説『恋愛中毒』(角川書店、1998年、のち角川文庫、2002年)で第20回吉川英治文学新人賞を受賞☆彡されました。\(^o^)/
2000年、小説『プラナリア』(文藝春秋、2000年、のち文春文庫、2005年)で第124回直木賞を受賞☆彡☆彡されました。\(^o^)/
多くの作品を刊行されており、多くの読者ファンがいらっしゃいます。

文庫本の解説は、書評家の藤田香織(ふじた かおり)氏です。
解説の最初に書かれていた事柄から、山本文緒氏の作品が久しぶりの刊行だったことに、凛はなるほどと納得しました。
この小説の単行本が発刊されたのが2020年9月なので、前作品から実に7年ぶりの刊行だったということが書かれていました。
そのことから、凛が山本氏の作品を読むのが久しぶりだったのだ、と気づいたわけなのです。

山本氏がすい臓がんで亡くなられたことから、藤田氏山本氏の作品群に対して、冷静に、深く、濃く、見つめていらっしゃいます。
哀切を込めて……。(T_T)

最後に。
この小説は、主人公の都だけでなく、周りの登場人物たちの現実のありのままの姿を丁寧に鋭く抉り出して、臨場感をもって読者にリアル感を持たせます。
また、日本における価値観が必ずしも定位置ではないという点で、読者に向けて「俯瞰して見る」という選択を作者はプレゼントしています。
都に寄り添って読み進んでいくうちに、彼女たちと共に時間と空間を自在に飛びまわっていくことに読者は気づかされます。
読後感は、爽やかさの中に切なさもあり、柔らかく温かい気持ちになれます。

あらためて「読む」という楽しみ方を与えていただいた山本文緒氏に感謝でいっぱいになった凛でした。
もう、新作は出ないのですね。 (T_T)
凛は山本氏の作品群を是非とも再読したいと思いました。
読後の胸キュンと山本文緒氏への感謝で胸が熱くなることは言うまでもありません。

今夜も凛からあなたにおススメの一冊でした。 (^-^)

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2023年4月27日木曜日

あなたにとって新しくなった日常とは ~相原瑛人『ニューノーマル 1』(ファンギルド、2021年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

初夏の爽やかな季節ですね~
さあ!日本ではGW(ゴールデン・ウィーク)がもうすぐ訪れます。
あなたはどこかへお出かけされますか。
これまでコロナ禍で外出も控えめにされていた方も多かったことでしょう。
各地のお祭りも今年からはコロナ前に戻って開催される所が多いようです。
街が活気づくのは楽しくなりますね!\(^o^)/

現在、あなたはマスクを外していますか。
凛は臨機応変で対応しておりますよ。

日本では3月13日からマスクを外すことについては個人の判断に委ねられるようになりました。
お仕事中は職場からの指示があるため外せない方々が大半ではありますが、買い物するお店や道行く人々の中にはマスクを外している方も日々見かけるようになりました。
春の花粉症でお悩みの方々も夏に向けてだんだん減っていくかと思われます。
これから暑くなってくれば、人々のマスク姿の光景に変化が訪れていくことが予想されます。

余談ですが、凛は鏡を見て、顎がコロナ前に比べて随分丸くなってきたなあと感じる今日この頃です……。(^^;
ある程度の緊張感は大事ですね~
この3年間ほどマスクで顔を覆ってきたため、ここにきて顎の輪郭が気になってくるとは……。(T_T)

あなたにとってコロナ前と現在では何か変化が生じましたか。
例えば、凛の周辺では冠婚葬祭を家族の少人数で行うようになったことが挙げられます。
それから最近、使いかけの口紅やリップクリームの古いものを処分し、新しいもので気分一新しました。
もう一つ挙げますと、少し遠出をして温泉に入る機会がありましたねえ。

世界中を震撼させたパンデミック後の新しい世界秩序はどのような新しい価値観を生み出していくのでしょうか。
世の中はどんどん変化していきます。
その速度がどんどん加速していっているように感じるのは凛だけでしょうか。

このままマスクをしたままで生涯過ごさなければならくなったとしたら……。
自分以外の他人の顔全体を見る機会が無くなったとしたら……。

今回ご紹介いたします本は、りんりんらいぶらり~で初めてのコミックとなります。
相原瑛人(あいはら あきと)氏のコミック『ニューノーマル 1』(ファンギルド、2021年)です。

コロナとは異なりますが、よく似たウィルスのパンデミックからおよそ20年くらい先のごく近い未来の日本を舞台にして、他人とは距離を置き、自分以外の人の顔はマスク姿しか知らない高校生たちがどのような価値観の中で暮らしているのかを問うている物語です。

はじめに、凛がこの作品を知ったきっかけについてご説明いたしましょう。
コミックは好きなのに最近はあまり触れることがなかった凛が何故この作品を知ったのかといいますと、YouTubeの動画を見たことからによります。

東京都書店商業組合のYouTubeチャンネル「東京の本屋さん ~街に本屋があるということ~」(https://www.youtube.com/@tokyo-shoten)(ココ音が急激に出ることがありますのでご注意!)という動画が好きで凛は最近よく見ております。
出版不況といわれる昨今、東京で書店を営んでいる店主さんたちのインタビューと書店内を紹介している動画です。

そのYouTubeの動画の中から2022年3月5日にupされている「八王子市旭町・くまざわ書店八王子店」(https://www.youtube.com/watch?v=4AHF-iJamZs&t=3s)(ココ)(音が急激に出ることがありますのでご注意!)の書店員さんがこのコミックを紹介していました。

動画撮影の時点ではコロナ禍でしたが、早くもコロナ後の世界を描いたコミックということで、凛にはとても新鮮に思えました。
動画の中ではまだ第2巻までの刊行というお話でした。
作品は現時点では第4巻まで刊行されています。

コミックアウル(https://owl-comic.jp/book/)(ココ)は電子コミック配信の出版社ですが、凛の本は4巻とも紙の本で、街の駅ビル内の書店で購入しました。

次に、帯についてです。
凛が持っている第1巻は、2021年7月19日初版第1刷の発行になります。

帯の表表紙側では、「〈パンデミック後〉の世界を生きる若者たちを描く、最新型の‘’近未来SF青春群像劇‘’開幕──!」と描かれています。
「今、コロナ禍を生きる私たちと、未来を生きる君たちへ。」という帯のメッセージが印象深いですね。

本の裏表紙側の紹介文には、「僕たちが生まれる少し前、ひとつの感染症が世界を変えた」と描いてあります。

それでは、第1巻から帯の紹介と内容の説明に入ります。
現在から約20年後と予測される近未来、高校生たちは生まれた時からマスクで覆われた顔しか他人を見ないで育っているため、自分以外の口元に対する「見たい!」という欲求が現在を生きる我々とは計り知れなく大きな隔たりがあるものとして描かれています。

中央第二高校の女子生徒の夏木(なつき)さんと男子生徒の秦(はた)くんはクラスメートの顔だけでなく、家の中でも口元を覆うことが日常となっています。
夏木さんは自宅で両親から若かった頃の話を聞き出したり、昔の映画をこっそり見たりしています。

徹底した感染予防で管理される社会で、二人は傘に隠れてマスクを外した顔を見せ合います。
ある時、公園で二人はまたマスクを外します。
そこへ武装整備をした防疫隊が突然やって来ます……。
二人はどうなるのでしょうか!

後はあなたが読まれてからのお楽しみに!(^^)v

以下は、凛が持っている第2巻から第4巻までの発刊日と帯を裏表紙の説明文の一部を説明いたしますね。

第2巻は、2021年11月17日、初版第1刷発行です。
帯の裏表紙側には、「国内外から反響多数!!!!」
「新しい日常と変わらない、私たちの常識。」と紹介されています。
「コミックシーモア 電子コミック大賞2022エントリー作品」と紹介されています。

この巻の裏表紙側の説明文には、「僕が明日いなくなっても、世界は何事もなく続くんだろうな」と書かれています。
この巻では、防疫隊隊員の男性の過去の話が出てきて非常に興味深く読めます。

第3巻は、2022年7月19日、初版第1発行です。
帯の裏表紙側には、「第25回文化庁メディア芸術祭 審査員会推薦作品選出!!!」と紹介されています。

裏表紙側の説明文には、「今の世界はだいぶ、窮屈だ。だから、こんな場所があってもいい」という紹介文が書かれています。
この巻では、夏木さんは同じ高校の望月(もちづき)さんから誘われて某危険な集会に参加することになりますが……。

第4巻は、2023年3月17日、初版第1刷発行です。
帯の裏表紙側には、「外国語翻訳版 刊行続々!!!!」と出ています。
「フランス語、スペイン語、トルコ語、タイ語、韓国語他」と世界へ作品が紹介されているのも電子コミック配信サイトの利点でしょうか。
もしかしたら紙の本も外国で販売されているのかもしれません。

第4巻の裏表紙側の説明文では、「私たちは今、世界流行(パンデミック)の危機に再び直面している」と書いてあることから、急激な展開が予測されます。
果たして、反マスク団体‘’TEETH(ティース)‘’を取り締まる防疫隊との緊迫した世界で、夏木さんと秦くんは今後どうなっていくのでしょうか。

作者の相原瑛人氏は、2017年に講談社のモーニング・ゼロで奨励賞を受賞☆彡されています。
2018年から2019年にかけて同社のモーニングKCから『美魔女の綾乃さん』を連載、2巻に分けて2018年と2019年に発刊されました。

相原氏の作品はとても丁寧で綺麗に描かれています。(^-^)
主人公たちがのびのびとしていて動きもあり、SF的な話題で展開も早く、現代とも共通する場面も多いので、凛のようにコミックが久しぶりのに読者にも受け入れやすいのではないでしょうか。

最後に。
この『ニューノーマル』という作品は近未来の日本という設定で、現代からそう遠くはない、まさにすぐ近くに訪れる将来の物語です。
現在マスクをつけ続けて暮らしていけば、いずれはこのような未来の若者たちが出現することも想像できます。

今を生きている私たちが知らない間に、気づけば将来はこのような事態に世の中がなっているかもしれないとハラハラドキドキする場面が多い中、公園でおにぎりを一緒に食べようとマスクを外す高校生カップルの自然な姿にはとても近しい気持ちになれました。

新しくなった日常……。
現在の私たちの姿が様々な形で近未来の人々に多大な影響を及ぼしていくのかもしれません。

まだ第4巻までの刊行なので、この先がどうなっていくのか大変気になります。
コミック作者の相原瑛人氏は常に過去から未来までの地球のストーリーを俯瞰しているかの如く存在しているように感じます。
今後の展開に是非期待したいですね!(^O^)

今夜も凛からあなたにおススメの一冊でした。 (^-^)

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2023年3月29日水曜日

「夢」の旅の始まりは屋根からだった

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださり、ありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

春になりました。日本では桜前線が急上昇中です。
あなたはお花見にお出かけされますか。
陽気な春の暖かさの中、どこかへ旅に出かけて行きたくなられる方も多いのではないでしょうか。\(^o^)/

旅に関するエッセイや小説、或いは壮大な冒険の旅の物語は数多くありますが、凛が今回おススメいたします作品は少々異なります。
恋人ではなく分別ある中高年の男女の大人が、互いの夢の中で自由自在に旅を重ねてゆく物語で、純文学の旅はいかがでしょう。(^o^)
もちろんおどろおどろしい幻想小説とも異なりますので、怖い話が苦手な方も安心して楽しんでいただけますよ。

村田喜代子(むらた きよこ)氏の長編小説『屋根屋』(講談社、2014年、のち中公文庫、2022年)です。

凛からあなたへ二つの質問があります。

一つ目の質問です。
あなたのお住まいは戸建てですか。
建て主の意向によって建物の様相は各々で異なりますよね。
屋根ひとつとっても地域によっての異なりもありますし、その時々の流行であったり、業界の流れという影響もあり、また築年数によっても実に様々です。
最近では屋根にソーラーパネルを付けるなど住宅への話題は尽きません。

凛はマンションの中層階に居住しているためか、住宅の屋根に関しては日頃直接関りがなく暮らしています。
凛の親族宅は築年数の古い戸建てが多く、時折訪ねて行くと、夏は二階がものすごく暑くなったり、冬は一階の床が冷えたりします。
また風雨の音も直に気になりますね。
昨今の新しい戸建ては機能的にできているようなので、そのようなことはないかもしれませんね。(^-^)

二つ目の質問です。
あなたは寝ている時に夢を見ますか。
凛も夢は時々見ますが、起きる時には覚えていないことが多いものです。
たまに見た夢を覚えていても、起きて活動しているうちに忘れてしまうことがほとんどです。
人生を変えるほどの夢のお告げなどは、凛にはこれまでご縁がないですね~ (^-^;

今回の小説は、これら「屋根」と「夢」の二つが重なった物語です。
戸建てに住む専業主婦が屋根の修理を依頼した個人で営んでいる業者との何気ない会話の中から、お互いに見る夢の中で待ち合わせをして共に旅を始める、というお話です。

凛が持っている文庫本は、2022年7月25日発刊の初版本です。
凛は以前から村田喜代子氏の大ファンで、今回は街の中心部の駅ビルにある書店で文庫本を購入しました。

まず、文庫本の帯と表紙からご紹介します。
凛の持っている初版本の帯は赤い地色で、表表紙側には「さあ。飛びますか」と大きな文字で書かれています。
「夢を自在に操る屋根屋の永瀬と『私』は夢の中で落ち合い、共に旅を重ねてゆくが……」(同)
なぬなぬ、これは主婦と屋根の修理業者との恋愛、不倫小説なのか?
とちょっと興味をそそられますが。(*^^*)

帯の裏表紙側には、本文からの抜粋で、「眠るということは水深の深い所へ下りていくことに似ている。」(同)
「奥さんと私と、どっちが先に着くかはわかりまっせんが、向こうの屋根で落ち合いまっしょう。」(同)
「夢のドッキングですたい」(同)と。

カバーの裏表紙の解説文には、雨漏りの修理を依頼された永瀬は妻が亡くなった後、夢日記を付け始めたことが紹介されています。
主婦である「私」は永瀬と夢の中で旅を始め、「現実とのあわいの」(同)中の「場所なき場所」(同)で二人の時間を深めていくことになってゆきます。

カバーの表表紙は、大変格調高い絵で、日本画のようです。
二人の人間が一羽の鳥になって飛んでいる姿のように見えます。
それもそのはず、カバー画が江戸末期の狩野一信(かのう かずのぶ)の「五百羅漢図」で、六道・天(部分)、増上寺蔵であると紹介されています。
ひゃあ、お宝のような表紙ですね!\(^o^)/
カバーデザインは、毛利一枝(もうり かずえ)氏です。

カバーの裏表紙には、黒い鳥の羽が1本描かれています。
何やら意味深ですね……。
読後にはその意味がわかる仕掛けになっています。
是非、あなたが読まれてからのお楽しみに。(^-^)

解説は、芥川賞作家の池澤夏樹(いけざわ なつき)氏です。
文学界の重鎮の解説もなるほどと納得できます!(^_^)v

次に、内容に入ります。
専業主婦の「私」は、築18年になる木造二階建の住宅の雨漏りの修理を専門業者「永瀬工務店」に依頼しました。
業者は数あれど、隣町に住んでいる兄の紹介なので「私」や家族には安心感があったのも当然といえます。
「永瀬屋根屋」(文庫版初版、10頁他)は、50代半ばの大柄で、実直そうな職人さんです。

「私」はご主人と長男の三人家族で戸建てに住んでいます。
ご主人は仕事で大変忙しく、ゴルフが好きな会社員で不在がち、身長が180cmに成長した長男は塾通いで部活や勉学の日々を送っています。

家事に勤しんでいる専業主婦にとって、ダイニングキッチンは日常の居場所。
突然雨が降ったので、食卓テーブルで職人さんの休憩にお茶を提供するのはよくある光景でしょう。
「私」は永瀬から専門家としての屋根の話題を提供されます。

さらに、永瀬が妻を亡くして10年経つこと、彼が心に不安を抱えたことや、独立した過去の話などを「私」は彼から聞きます。
これまでの専業主婦として生きてきた日常に対して、静寂だった池の中にピシッと小さな石ころが投げ入れられたような、ほんの少しの変化が生じたことに「私」はまだ気づいていません。
しかし、まだここまでは常識の範囲であると凛は思います。

ところが、ここからが村田氏の物語の世界へと読者を誘ってくれるのです!
永瀬は治療の一環として、医者から「夢日記」を勧められ、毎日付けていることを「私」に話し始めます。
「夢日記?」(同、29頁)と「私」が尋ねます。
「どんなことを書くんですか」(同、30頁)
永瀬の提供する話題に「私」の興味は尽きません。

「屋根の上で彼は人形(ひとがた)の影絵になって動いている。」(同、35頁)
屋根の上で働いている永瀬の姿を表していますが、この一文が物語全体を象徴するのだな、と凛は捉えました。

「私」はフランスの町の屋根に上がっていた夢を見ました。
それには「私」が心にひっかかる何かがあったのかもしれません。
そのことを「私」は永瀬に話します。
永瀬は一気に話さず、徐々に「私」が気になるように夢の旅へと誘ってゆきます……。

いよいよ屋根の修理が終わり、支払いをしますが、その時に「私」と永瀬は夢の話を続けます。
二人には名残惜しさがあったのか、夢についての話題は現実味を帯びてきます。

これは決して「同床異夢」の元の意味ではありません。
永瀬と「私」が夢を見る状態は、互いに別々の住居で眠り、夢の向こうで落ち合って共に旅をしましょう、ということなのです。

「私」と永瀬の夢の話はどんどん飛躍していきます。
日本国内の歴史的建造物の屋根の話からフランスの大聖堂まで。
屋根にまつわる話題だけでなく、とんでもない方向へ進んでゆきますが……。

村田氏の力量は素晴らしいの一言です!(^o^)
物語の面白さを読者に直球で投げてくれます。

「私」とは誰なのか。
永瀬はどうなるのか。
二人には友情が芽生えたのか、若しくは大人の恋愛の対象として意識しているのか。
謎の部分もしっかり残してあるので、読後の余韻もあります。

さらに、屋根や建造物に関する蘊蓄的な要素も網羅されていますので、老若男女どなたにも楽しめる物語です。
文庫本の本文の後に、参考資料と村田氏のメッセージが掲載されています。
そこからは、村田氏のこの作品に対する真摯さが出ていることが大変よく伝わります。

作者の村田喜代子氏は、1977年、小説「水中の声」で第7回九州芸術祭文学賞最優秀作を受賞☆彡、本格的に執筆活動に入られました。

1987年、小説「鍋の中」で第97回芥川賞を受賞☆彡☆彡されました。
この作品は、1991年に黒澤明監督、リチャード・ギア主演『八月の狂詩曲』として映画化されています。

「水中の声」と「鍋の中」は、1987年に出版された『鍋の中』(文藝春秋、1987年、のち文春文庫、1990年)に収録されています。

その後のご活躍は大変素晴らしく、女流文学賞、紫式部賞、川端康成文学賞、谷崎潤一郎賞、泉鏡花文学賞他多数の受賞歴をお持ちです。☆彡☆彡☆彡
また、2007年に紫綬褒章、そして2016年には旭日章綬章を受けていらっしゃます。☆彡☆彡☆彡

最後に。
主婦の「私」と自宅の屋根の修理を担った「永瀬屋根屋」(同)との互いの夢の中で国内外を自在に旅をしていく物語です。
二人が飛び立った空間から自在に俯瞰して見るのは、屋根だけでなく、建造物の構造にも及びます。
「私」と永瀬にあるものは大人としての友情なのでしょうか。
または、そこから二人の愛情が芽生えていくのでしょうか。
二人が同時に見る「夢」はどんどん膨らみ、進んでゆきますが……。

そもそも時間と空間が自由自在に繰り広げられる「夢」とは一体何なのでしょうか。
「夢」をずっと見続けることはできないからこそ楽しくもあり、また儚いものです。
もしかしたら、物語全体が「夢」なのかもしれません。
原点に回帰する瞬間、「夢」の余韻をあなたはどのように受けとめるでしょう。

凛は村田喜代子氏の放つ文学世界に酔いしれました。
あなたもお休み前のひととき、村田氏の「夢」の物語を堪能しませんか。(^-^)

今夜も凛からあなたにおススメの一冊でした。 (^-^)

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2023年2月28日火曜日

やはりお金のことは気になりますよねえ ~原田ひ香『三千円の使いかた』(中央公論新社、2018年、のち中公文庫、2021年)~

こんばんは。南城 凛(みじょう りん)です。
今宵も凛のりんりんらいぶらり~にようこそお越しくださりまして、ありがとうございます。
どうぞごゆっくりとおくつろぎくださいませ。(^-^)

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

早いもので2023年も6分の1を過ごしました。
まだまだ寒さがありますが、街では春色のふんわりやさしい色合いのお洋服がディスプレイされています。

日本の春は、卒業・入学・入社・転勤など異動が多い季節です。
別れと出会いを体験することで、あなたを強くさせてくれるかもしれませんね。
これから新しい世界があなたを待っていま~す!\(^o^)/

などと期待感のある中、一方では、確定申告や医療費還付申告など税務署に関わる現実の世界があります。
今年から「インボイス制度」の導入により、事業者の方々には新たな知識と対応が必要となります。
コロナ融資の返済で厳しい環境に置かれ、対策を考えていらっしゃる方々も多いのではないかとお察しいたします。

また、昨年からあらゆる商品の物価の値上げが実施されています。
凛もスーパーにお買い物に行く度に、あれあれ?前回と価格が違うような気がするけど底値はいくらだったかなあ、と商品棚に付いているプライスカードを前にして考えることが増えました。(-_-;)
さらに、電気代やガス代などインフラ関係の値上げにより、生活者として圧迫を受けていらっしゃる方も多い昨今です。

スーパーやコンビニではセルフレジ設置のお店も日に日に増えてきています。
支払方法も現金払いだけではなく、クレジットカード払い、「~PAY」などスマホを用いた電子決済、交通系ICカード払いなどなど、実に様々な支払いのアイテムが増えてきました。

凛はお店で支払う時、お財布から直接現金を出すことが減ってきています。
キャッシュレスの時代が当たり前になってきていることの証でしょうか。
凛は金色の貯金箱を持っていますが、最近は小銭を入れる時に鳴るチャリ~ン♪という音を聞くことが減りましたねえ……。(^-^;
それは実に心地よい音なのですが……。

あなたは日頃お金とどのように向き合っていらっしゃいますか。

今回は、ずばり!お金の使い方をテーマにした小説をご紹介いたします。
原田ひ香(はらだ ひか)氏の連作長編小説『三千円の使いかた』(中央公論新社、2018年、のち中公文庫、2021年)です。

この小説の文庫本は、街のあらゆる書店の店頭に並べられていることが多く、大ベストセラーとなっています。
小説を読みながら節約できる、とネットでも話題になっているようです。

凛は大ベストセラーの本は話題になっている時は読まずにいて、後になり少し落ち着いてから読むタイプです。
理由は、流行している時のキラキラしたフィルターを外して、本当に多くの読者に読まれる価値のある本なのかを見定めたいからです。
ですから、この本が書店で平積みされている光景を横目にして、いつも後になってから読もう、と思っておりました。

ところがある日、タイトルが気になって、やはり読んでみようかな、と街の書店で文庫本を購入しました。
読みだしたら頁をめくる手が早くなり、あっという間に読了しました。

凛が持っている文庫本は、2023年1月25日付の第22刷発行です。
文庫本の初版が2021年8月25日ですので、うひゃあ、やはりすごく売れているのがわかりますよね~ (*'▽')

まず、文庫本の帯と表紙からご紹介いたします。
凛の文庫本の第22刷では、縦に幅広い帯で、表表紙側には、「2022年 年間ベストセラー第1位 80万部突破!」と大きく目立つように紹介されています。
民放の東海テレビ・フジテレビ系列の全国ネットでドラマ化されており、主演の葵 わかな(あおい わかな)さんの写真が掲載されています。

帯の裏表紙側には、こちらも大ベストセラー作家の垣谷美雨(かきや みう)氏が「絶賛!」とお言葉を寄せていらっしゃるではありませんか。
「知識が深まり絶対『元』もとれちゃう『節約』家族小説!」と帯の表現にひかれたのか、日頃からお金のことで気になっている凛を呼び寄せたのでした。

表紙には、千円札風の三枚のお札に絵が描かれています。
一番上は、夫婦と女の子が公園で笑顔でいる姿、真ん中には、女性が自宅らしき部屋でティータイムをしている姿が描かれています。
一番下は、キッチンにエプロン姿の女性が二人立ち、高齢者の女性が一人椅子に座っており、テーブルに並べられたたくさんのお料理を前にして三人で楽しく会話をしている様子が描かれています。
このような優しいタッチの絵が描かれた千円札ですと、お財布の中がほっこりしそうな感じがしますね~

カバーイラストは、ながしま ひろみ氏です。
カバーデザインは、田中 久子(たなか ひさこ)氏です。

裏表紙の説明文では、就職して一人暮らしをしている妹の美帆(みほ)の貯金が30万円、結婚している姉・真帆(まほ)の貯金額が600万円、母の智子(ともこ)の貯金が100万円弱、祖母の琴子(ことこ)の貯金は1千万円と具体的に数字で示されており、御厨(みくりや)家の女性陣がどのように今後の人生を歩んでいくのかということが紹介されています。

「お金を貯めて、どう使うのか?」(文庫本、22刷)
この小説はお金に関する指南書なのでしょうか。
なるほど、「読みたい!」と読者の興味をひきますよね。(^○^)
第3話は、「目指せ!貯金一千万!」
第4話は、「費用対効果」
第5話は、「熟年離婚の経済学」
第6話は、「節約家の人々」(以上、同書、3頁) 
目次からも大変興味がそそられますよね。

解説は、作家の垣谷 美雨氏です。
「『他人(ひと)は他人、自分は自分』と、あなたは心の底から割り切れていますか?」(同書、339頁)というタイトルの解説です。
垣谷氏は帯にも登場されていらっしゃいますが、この解説は是非ともおすすめします!(^^)v
垣谷氏の創作に関わる意見も納得のいく文章で描かれていますよ。
垣谷氏のファン必読です! (^o^)

では、内容に入ります。
第1話は、御厨家の次女、美帆の物語です。
彼女は中学生の時に、祖母の琴子から「三千円の使い方」(同書、9頁)をどのようにするのか、それは人生を決めるほどの大きな意味を成す、というアドバイスを受け取ったことを思い出しました。
24歳の彼女は就職して念願の一人暮らしを始めたものの、職場で先輩が退職を余儀なくされる姿を目にして、先々のことを真剣に考えることになります。
ここから御厨家の人々のお金に関しての物語が始まります。

第2話は、祖母の琴子の物語です。
73歳の琴子は1千万円を貯金していますが、老いた先のことを不安に思い、仕事を探そうかと考えます。

第3話では、美帆の姉の真帆が中心となります。
真帆は結婚を機に証券会社を辞めて専業主婦となり、公務員である夫と娘の3歳になる佐帆(さほ)と三人で暮らしています。
彼女は娘の子育てをしながら節約に励み、「プチ稼ぎ」や「ポイ活」(同書、114頁)に勤しんでおりました。
短大時代の友人たちとの女子会での会話から、幸せだと思っていた結婚生活に不安がよぎりました。

第4話では、祖母の琴子と知り合った40代の男性が登場します。
彼は、定職に就かず、自由を求めてバイト生活をしています。
所謂しがらみに束縛されたくないタイプの男性ですが、交際している彼女との今後がどうなりますか……。

第5話は、母親の智子の物語になります。
智子は会社員の夫の妻として、戸建てに住み、夫と二人暮らしで専業主婦を続けていましたが、55歳で手術を終えて退院した時、目の前の家事についてあらためて見つめます。
友人が熟年離婚をすることになり、智子は今後の人生について熟慮することになりました。

最終話では、美穂と交際している男性が背負っている大学時代の奨学金返済の問題から、御厨家の人々は解決策をどのように見出すのかが描かれています。

6話を読んで良かった点として、三点あげます。
一点目は、御厨家の女性たちが主となって、人生のパートナーとの問題、結婚、仕事、暮らし、健康、住宅、老後など様々な問題を抱えて生きており、幅広い年代ですので、彼女たちが直面している問題のどこかに当てはまる点を発見し、共感を得ることです。
二点目として、家計や年金、貯蓄額など具体的な数字で表してありますので、そうなのか、と読者に直接伝わることです。
三点目は、物語に登場する専門家の助言が読者に活かされていくことです。

凛が気づいたのが、御厨家のご主人は常に脇役である、ということですね。
第4話では、祖母の琴子と知り合った男性が登場してきますが、御厨家の智子のご主人として、また真帆と美帆の父親の視点で描かれる章を読みたくなりました。
定年を前にして現役で働いている男性の意見も聞きないなあ、と素直に思った凛です。
合わせて、真帆のご主人、現役公務員としての視点で読みたいな、と思います。

家族の姿はどんどん変化していくものです。
御厨家の数年後の姿の続編も期待したいです。

男性の読者には、女性たちが暮らしそのものや暮らし方について、どのように考えているのか、彼女たちの本音が伝わってくるのではないか、と大いに期待いたします。

作者の原田ひ香氏については、「ラジオはお好き?」(ココ)の項でご紹介しています。
是非ご覧くださいね~ (^o^)

最後に。
全編にわたり、お金を背景にして、登場人物の生き方のどこかに読者の共感を得られる物語です。
お金は人生の目的か、手段なのか。
読者に、人生の主役は何なのかという大切なことをあらためてつきつけます。
「ラジオ小説」でご活躍された原田ひ香氏ならではの伝達の具体性が効果を表している小説である、と凛は考えます。
本当にそうだよね~、と多くの読者に共感を得られる作品であることに納得いたしました。

あなたは三千円をどのように使われますか。
凛は本の購入に充てるでしょうねえ。 (^_-)-☆

今夜も凛からあなたにおススメの一冊でした。 (^-^)

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